可愛いビッチな幼なじみを調教したい

水無瀬雨音

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 藤馬と映画に行くことになった。当然待ち合わせはせず、家を出るところから一緒ではあるが、デートのようだ。気は進まなかったが、誘われた時ちょうど見に行きたい映画をやっていたので、行くことにした。というか藤馬からすれば、雅の好みの映画が上映されたのを見計らって誘ったのだろう。
 二人で出掛けることは今までもあったが、デートのようだ、と思ってしまうのは、多分藤馬の気持ちを知ってしまったからだろう。
 映画館につくなり、「ちょっと待ってて」と言い残されたので、雅は上映予定のチラシを見て待つことにした。

(なんだかんだ言って、あれから何回もヤッてるんだよな。不本意ながら、藤馬以外のやつとはやってないし……)
「あ、これ面白そう」

 気になったチラシを何枚か手に取ったところで、藤馬が戻ってきた。手にはジュースや軽食ののったトレーを持っている。

「ポップコーンとジュース買っておいた。行こう」
「あ、ああ。サンキュー」

 スクリーンに入って座席につくと、藤馬は二人の座席の間にトレーを置いた。まだ照明の落としていない場内では、広告が流れていた。

「いくら? 半分出すよ」
「僕が勝手に買ってきたんだからいいよ。誘ったのも僕だし」

 雅は財布から千円札を一枚抜き出すと、無理やり藤馬の手に握らせる。

「明らかオレのほうが稼いでんだから受け取っとけ。つーかオレ男だから、女の子みたく優しくしてくれなくていいんだけど?」
「僕が優しくしたいんだよ」
「……あっそ。勝手にしろ」

 重い物をさっと持ってくれたり、さりげなく道路側を歩いてくれたり。おしつけのないさりげないやさしさ。藤馬は理想的な彼氏だった。
 もし雅が女だったら、だが。

 場内の照明が落ちる。藤馬が耳元でこそっと囁いてきた。

「始まるね」
「うん」

 雅はスクリーンを眺めながら、ジュースをストローで吸い上げる。

(不毛だな。こいつも)

 もし雅が女だったら。こいつの恋は上手くいったかもしれないのに。

(まあどっちにしてもだめか。オレどうせビッチだもん)

 一人の相手と付き合う、なんて真似、自分が女であってもできそうにない。ましてや専業主婦なんて絶対無理だ。

(結婚なんて一人の相手としかやれない地獄みたいな契約だよなー)

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