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ヴィオレットの二回目の社交界デビュー2
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テーブルに並んだ料理や菓子を見て、ヴィオレットが目を輝かせるが、すぐに表情を曇らせる。
「でも、バルコニーで食べるのはお行儀が悪いよね……」
「……大丈夫だよ。テーブルとソファーが置いてあるから」
「本当?じゃあ取ってくるね!」
アーノルドが口添えすると、ヴィオレットはいそいそと皿を手に取って料理を選び始めた。嬉しそうに選んでいるヴィオレットをほほえましく見ていると、いかにも声をかけたそうに男が近寄ってくるのが見えた。
アーノルドは大股でヴィオレットのもとに向かった。
「ヴィオ欲しいもの、あった?」
(……図々しいやつめ)
アーノルドは牽制するためにヴィオレットの肩を抱き寄せて、囁いた。目は不埒な男を睨みつけている。
「……!」
アーノルドの視線に男はすぐに息を飲んで、その場から逃げるように立ち去った。
ヴィオレットは自分が男たちの視線を一心に浴びているなど、気づいてもいないだろう。ヴィオレットは自分に向けられる好意に無頓着だ。
「もう、こんなところで、恥ずかしいよ。アル」
ヴィオレットは顔を赤らめて、唇を尖らせた。それでも拒まないのだから、抱き寄せたままでいいのかもしれないと思ったが、ヴィオレットが動きにくそうにしているので、手を繋ぐだけにとどめた。
「……」
それすらヴィオレットは恥ずかしそうにしていたが、振り払うことはしなかった。
「とりあえずこれだけでいいかな」
「……分かった」
ヴィオレットの選んだものをのせた皿と飲み物をトレーにのせる。
バルコニーの屋外用のソファーに座って、トレーはテーブルに置く。
夜会の開始直後なので、バルコニーには誰もいなかった。皆まずはダンスを踊ったり、目当ての相手を探したりするのだ。
夜空は満開の星空だった。並んで星空を見上げると、二人で行った海辺のカントリーハウスを思い出す。ヴィオレットもそうだったようだ。
アーノルドの肩口に頭をもたれかけながら、
「海で見た星、綺麗だったね?」
「……うん。また行こう」
夏と冬の二回行ったのだが、夏に行ったときはヴィオレットがボヤ騒ぎを起こしたり、と色々と大変だったなぁとぼんやり思い出に浸っていると、
「アルはやっぱりモテるんだね。背が高いし、カッコいいから」
ぽつりとヴィオレットがしょんぼりした様子で呟いた。
「……ん?」
一応仕事柄周囲には気を配るようにしているので、自分が令嬢の視線を集めやすいことは自覚がある。アーノルドに声をかけようとして、ヴィオレットがいることに気づいて令嬢たちが諦めていることも。
だが、それ以上にヴィオレットの方がほぼ会場にいる男の視線を集めていると言ってもいい。ヴィオレットは全く気づいていないが。
他の令嬢たちには気の毒だが、それも詮無いことだ。ヴィオレットは飛びぬけて美しい。その辺の美人を集めたって、到底かなわない。顔も、物腰も。
「……ヴィオに言われたくない。もっと自覚して」
ヴィオレットはまだ完全に男嫌いが直っているわけではないので、怖がらせないようにそれだけ言った。
「で、でも騎士団の詰め所ならまだわかるけど、ここにはほかに綺麗な人たくさんいるし。私なんか胸も……ないし、背も低いし……」
「……そんなの、ヴィオの魅力からしたら欠点にすらならない。むしろ、それすら美徳だ」
「それは、アルが私の夫だから……。でもありがとう」
ヴィオレットは顔を赤らめて微笑んだ。
「……」
今すぐここで抱きしめてキスしたい衝動に駆られたが、人の出入りがあるかもしれないここでは、ヴィオレットが嫌がるだろうと騎士団で鍛えた鋼の精神で堪える。いつ誰が来るか分からない状況で、ヴィオレットが恥ずかしがる姿も見てみたいが……。
(……最近おかしいな)
むしろアーノルドは様々な欲求に関して淡白だったはずなのに、ヴィオレットと結婚してからあらぬ妄想をするようになってしまった。もちろんそれをヴィオレットにぶつけると嫌われそうなので、なんとかこらえている。
「……ヴィオがとんでもなく魅力的なのは、もうそろそろ自覚して。この前城下町に行ったときも、ちょっとオレからはぐれたすきに、男に声かけられてたよね?とにかく、今日はオレから離れないでね?」
「うーん……。アルから離れないようにするね?」
ヴィオレットは納得しきれないような顔をしていたが、一応アーノルドから離れないようには約束してくれたのに良しとしよう。
(……それにしても)
こんなに毎日、傍にいるときはそれこそ四六時中ヴィオレットに「可愛い」と言っているのに、外を歩けば他の男に声をかけられたりしているのに、なぜいまだにここまで自分の魅力に無頓着なのだろう。
(……ヴィオの受けた傷は、相当根深いのかもしれないな)
もっともっと甘やかして、癒してあげたい。
アーノルドは先ほどまでの決意はどこへやら、思わずヴィオレットを抱きしめた。
「ア、アル……!人が、人が来るかもしれないから」
案の定ヴィオレットは恥ずかしがったが、嬉しくもあるのか拒まなかった。アーノルドの耳元で囁く。
「アルも、私を離さないでね?」
「……あー、可愛い……」
アーノルドはヴィオレットの顔を両手で挟んだ。
「……今のは、ヴィオが悪いよ?」
「え?私何か悪いこと言った?
んっ……」
唇を塞ぐと、ヴィオレットがアーノルドの胸を叩いて抗議してきたが、それには応えられそうになかった。
「……大丈夫だよ。キスで、我慢するから」
「そんなの……!大丈夫じゃ、んん……!」
アーノルドが満足するまで、ひとしきりキスは続いた。
「でも、バルコニーで食べるのはお行儀が悪いよね……」
「……大丈夫だよ。テーブルとソファーが置いてあるから」
「本当?じゃあ取ってくるね!」
アーノルドが口添えすると、ヴィオレットはいそいそと皿を手に取って料理を選び始めた。嬉しそうに選んでいるヴィオレットをほほえましく見ていると、いかにも声をかけたそうに男が近寄ってくるのが見えた。
アーノルドは大股でヴィオレットのもとに向かった。
「ヴィオ欲しいもの、あった?」
(……図々しいやつめ)
アーノルドは牽制するためにヴィオレットの肩を抱き寄せて、囁いた。目は不埒な男を睨みつけている。
「……!」
アーノルドの視線に男はすぐに息を飲んで、その場から逃げるように立ち去った。
ヴィオレットは自分が男たちの視線を一心に浴びているなど、気づいてもいないだろう。ヴィオレットは自分に向けられる好意に無頓着だ。
「もう、こんなところで、恥ずかしいよ。アル」
ヴィオレットは顔を赤らめて、唇を尖らせた。それでも拒まないのだから、抱き寄せたままでいいのかもしれないと思ったが、ヴィオレットが動きにくそうにしているので、手を繋ぐだけにとどめた。
「……」
それすらヴィオレットは恥ずかしそうにしていたが、振り払うことはしなかった。
「とりあえずこれだけでいいかな」
「……分かった」
ヴィオレットの選んだものをのせた皿と飲み物をトレーにのせる。
バルコニーの屋外用のソファーに座って、トレーはテーブルに置く。
夜会の開始直後なので、バルコニーには誰もいなかった。皆まずはダンスを踊ったり、目当ての相手を探したりするのだ。
夜空は満開の星空だった。並んで星空を見上げると、二人で行った海辺のカントリーハウスを思い出す。ヴィオレットもそうだったようだ。
アーノルドの肩口に頭をもたれかけながら、
「海で見た星、綺麗だったね?」
「……うん。また行こう」
夏と冬の二回行ったのだが、夏に行ったときはヴィオレットがボヤ騒ぎを起こしたり、と色々と大変だったなぁとぼんやり思い出に浸っていると、
「アルはやっぱりモテるんだね。背が高いし、カッコいいから」
ぽつりとヴィオレットがしょんぼりした様子で呟いた。
「……ん?」
一応仕事柄周囲には気を配るようにしているので、自分が令嬢の視線を集めやすいことは自覚がある。アーノルドに声をかけようとして、ヴィオレットがいることに気づいて令嬢たちが諦めていることも。
だが、それ以上にヴィオレットの方がほぼ会場にいる男の視線を集めていると言ってもいい。ヴィオレットは全く気づいていないが。
他の令嬢たちには気の毒だが、それも詮無いことだ。ヴィオレットは飛びぬけて美しい。その辺の美人を集めたって、到底かなわない。顔も、物腰も。
「……ヴィオに言われたくない。もっと自覚して」
ヴィオレットはまだ完全に男嫌いが直っているわけではないので、怖がらせないようにそれだけ言った。
「で、でも騎士団の詰め所ならまだわかるけど、ここにはほかに綺麗な人たくさんいるし。私なんか胸も……ないし、背も低いし……」
「……そんなの、ヴィオの魅力からしたら欠点にすらならない。むしろ、それすら美徳だ」
「それは、アルが私の夫だから……。でもありがとう」
ヴィオレットは顔を赤らめて微笑んだ。
「……」
今すぐここで抱きしめてキスしたい衝動に駆られたが、人の出入りがあるかもしれないここでは、ヴィオレットが嫌がるだろうと騎士団で鍛えた鋼の精神で堪える。いつ誰が来るか分からない状況で、ヴィオレットが恥ずかしがる姿も見てみたいが……。
(……最近おかしいな)
むしろアーノルドは様々な欲求に関して淡白だったはずなのに、ヴィオレットと結婚してからあらぬ妄想をするようになってしまった。もちろんそれをヴィオレットにぶつけると嫌われそうなので、なんとかこらえている。
「……ヴィオがとんでもなく魅力的なのは、もうそろそろ自覚して。この前城下町に行ったときも、ちょっとオレからはぐれたすきに、男に声かけられてたよね?とにかく、今日はオレから離れないでね?」
「うーん……。アルから離れないようにするね?」
ヴィオレットは納得しきれないような顔をしていたが、一応アーノルドから離れないようには約束してくれたのに良しとしよう。
(……それにしても)
こんなに毎日、傍にいるときはそれこそ四六時中ヴィオレットに「可愛い」と言っているのに、外を歩けば他の男に声をかけられたりしているのに、なぜいまだにここまで自分の魅力に無頓着なのだろう。
(……ヴィオの受けた傷は、相当根深いのかもしれないな)
もっともっと甘やかして、癒してあげたい。
アーノルドは先ほどまでの決意はどこへやら、思わずヴィオレットを抱きしめた。
「ア、アル……!人が、人が来るかもしれないから」
案の定ヴィオレットは恥ずかしがったが、嬉しくもあるのか拒まなかった。アーノルドの耳元で囁く。
「アルも、私を離さないでね?」
「……あー、可愛い……」
アーノルドはヴィオレットの顔を両手で挟んだ。
「……今のは、ヴィオが悪いよ?」
「え?私何か悪いこと言った?
んっ……」
唇を塞ぐと、ヴィオレットがアーノルドの胸を叩いて抗議してきたが、それには応えられそうになかった。
「……大丈夫だよ。キスで、我慢するから」
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アーノルドが満足するまで、ひとしきりキスは続いた。
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