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世界で一番甘い日 1

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「何か考えていらっしゃいますか?」

 帰宅したアーノルドのカバンを持ってついてきたコンラッドは、部屋に着くなり開口一番そう言った。
 主語がないのでまったく意味が分からず、アーノルドは眉をひそめた。クラヴァットを引き抜きながら、

「……は? 何のこと」

 アーノルドの返答に、コンラッドはあきれ顔でため息をつく。
 カバンをクローゼットにしまい、上着をハンガーにかけながら、

「もうすぐバレンタインでしょう? 結婚して初めての」
「……ああ」
 
 言われて初めて、バレンタインが近いことを思い出した。
 マルス王国では、バレンタインは恋人同士で過ごし、男性が女性に贈り物をするのが一般的だ。

「やっぱりアーノルド様は! 去年までは色々なイベントごとに無関係ですが、これからは大事にしなくてはいけませんよ。一つ一つのイベントをきちんとしなければ、ヴィオレット様に愛想をつかされることになります。私もいつまでもアーノルド様と一緒にいられるわけではありませんからね。おひとりでもきちんとしていただかないと。聞いていらっしゃいますか?」

 一日の終わりで疲れているだろうに、くどくどと元気なことだ。
 アーノルドは顔をしかめながらうなづいた。

「……聞いてる」

 うるさいなと思うことが多いが、アーノルドに至らない部分をこの小うるさい執事がカバーしてくれることもまた事実で。

「休暇を取って旅行に行かれてもいいですし、店に注文することを考えると、そろそろプレゼントも候補を決めないと」
「……コンラッド」
「はい?」

 名前を呼ぶと、人が話しているのに割り込むなんて何事だ、というようにコンラッドは怪訝な顔をする。

「……長生きしろよ。コンラッドがいないと困る。感謝してる」
「ア、アーノルド様……!」


 「年寄り扱いするな!」と怒るかと思ったが、コンラッドの目がみるみる潤んできた。ポケットから出したハンカチで目元をしきりに拭っているが、すぐにびしょびしょになってしまった。

「あの小さかったアーノルド様が……! 私の後をいつまでもついてきて、『今日は嫌いなピーマンを少し食べた』とかあれこれ報告してくれたアーノルド様が……! 私に感謝を……! きっと、長生きします!」

「……食堂に行っているぞ」

 今日も執事は元気だ。


  ★★★

 ちょっとずれてますが、久しぶりにアーノルドとヴィオレットに会いたくなったのでバレンタインネタです。
 ヴィオレットまだ出てきてませんが……。
 ほかにもネタがありますが、パロ的な感じなのでまた後日。
 
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