寡黙な騎士団長は花嫁を溺愛する 番外編

水無瀬雨音

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 ルーカスは自他ともに認める女好きだ。「モラル? 倫理? 貞操観念? 何それ美味しいの?」が基本的な考えなので、時には抵抗なく既婚者や彼氏のいる女性も誘う。相手にバレたとしても「あー、ルーカスかぁ」で済まされ、いさかいになったりしないのは彼の人柄だと思われる。
 仕事がひと段落したルーカスは、親友のアーノルドの元を訪ねた。
 騎士団長であるアーノルドの部屋は、眺めのいい最上階にある。
 騎士団長室の扉をノックして、返事を待たずに開いて中をのぞく。

「失礼します。団長、昼まだでしたらご一緒しませんかー?」

 親友とはいえ一応アーノルドは上司なので、仕事中はおざなりでも敬語を使うようにしている。

「ルーカス様。ご無沙汰しております」

 だが、中にいたのはアーノルドではなく、その妻のヴィオレットだった。ソファーに腰かけて読書していたようだ。しおりをはさんで本を閉じる。

「忘れものでも届けに来たのー?」

 すかさず隣を陣取ると、すっとヴィオレットがさりげなく距離を取って座り直した。

「はい。今日は早めに終わりそうだから、待っててほしいって」
「へー。留守番か。ヴィー、アルが仕事終わるまで暇だろ? おにーさんとデートしない? なんでも買ってあげるよー。アルほどじゃないけど稼いでるから」
「え、私とルーカス様二人だけでですか? 嫌ですけど。それにルーカス様お仕事中ですよね。私の相手でお手間をかけていただくわけには」

 ルーカスの誘いに、ヴィオレットはものすごく嫌そうに顔をしかめた。
 ぷっとルーカスが吹き出す。女性をデートに誘ってこんな表情をされたことなどない。口調も表情もいっさいオブラートに包まれていない。むき出しだ。「私なんかでよろしいのですか!?」と驚かれることなら多々あるが。

「女の子誘ってこんな顔されたの、初めてなんだけど。笑えるー」
「いえ、だって私既婚者ですし。そもそもルーカス様本気で誘ってませんよね? アルに怒られますもの」
「まあねー。あいつ怒らせると怖いから。食堂でお茶だけでもいいよ?」

 城下町に出かけるのは無理でも、食堂なら同じ敷地内で、他の団員の目もあるのでかまわないのではと考えたのだけれど、

「お茶ですか……。 嫌です」

 迷いすらなく一刀両断、すぱっと断られた。ここまでザクザク切られると、もはや気持ちがいい次元だ。笑いが止まらない。

「食堂でお茶すら!? どんだけガード固いんだよ! オレが男だからダメなの? ヴィーが既婚者だから?」
「両方です。それにルーカス様はアルのお友だちで、私は友だちではありませんから。私もともと男性が苦手なので。ルーカス様も以前ほどではないけど、二人きりでお話するのは緊張するんです。申し訳ありません」

 眉を下げたヴィオレットが、深々と頭を下げる。
 出会ってしばらくたつが、いまだに感じていた距離を縮めたかったのに、彼女にはそのつもりはないらしい。

「ヴィー、男友だちいねーの?」
「ひとりだけいますよ」
 
 意外だ。
 男嫌いなのに唯一の男友だちの座に納まるなど、一体どのような男なのだろう。
 ともあれ一人でもいるのなら、ルーカスにもチャンスはあるはず。
 アーノルドの妻であるヴィオレットを狙う気などさらさらないが、可愛い女の子のお友だちは何人でも欲しい。
 
「じゃー、俺もヴィーのお友だちに入れてよ」
「えー。ルーカス様はちょっと……。女性関係が派手なんですよね? アルに聞きました」

 余計なことを、と心の中で突っ込んだ。
 身から出た錆だけれど。

「あー、アルより先にヴィーと会ってればなー。もうオレ絶対遊ばないのに」

 額に手をあてて、おおげさに天井を仰ぐと、

「ふふ。ルーカス様は本当に、女性をいい気持ちにするのがお上手ですね。独身だったら本気にしたかもしれません。既婚女性にそんなことを言うのは、お控えになったほうがよろしいですよ」

 本を口元にあててヴィオレットはくすくす笑った。
 本気なんだけどなあと心の中でつぶやく。
 ヴィオレットは可愛い。今まで会った女性の中でダントツで可愛い。そしてこれからもこんなに美しい女性には出会わないだろう。大事な親友が旦那でなければ、奪いはしなくてもアバンチュールくらいはしたかもしれない。もちろん合意のない相手としようとは思わないが、断られた経験はない。最初はちゅうちょされても、最後はいつも押しきっていたから。

「オレのこと嫌いー?」
「嫌いではありませんよ。ただ色んな女性の方とお付き合いされてるのがまったく理解できません」
「みんな納得して遊んでるんだけどなー」
「それでも、です! 不誠実だと思います」

 こういう潔癖そうな子を落とすのが一番楽しいんだよなー、とは口が裂けても絶対に言わない。口すら聞いてくれなくなるだろうし、ヴィオレットは告げ口などしそうにないが、万一アーノルドの耳に入ったらシュヴァルツの剣の錆にされるだろう。
 まだまだ話したいところだが、ルーカスはソファーから腰を上げた。

「ま、そろそろ戻るわー。今度は屋敷にでも遊びにいくねー」
「はい。ルーカス様。いつでもいらしてください」

 立ち上がったルーカスは、ひらひら手を振ると大人しく退散した。
 あまり長居するとヴィオレットが苦痛だろうとのルーカスなりの気づかいだ。
 ルーカスは長い廊下を歩きながら、口笛を吹く。誰にも聞こえないくらいに、小さくつぶやいた。

「オレもそろそろ落ちつこっかなー」

 魅力の違う女の子と遊ぶのは、違った種類のお菓子がつまったギフトボックスを開けたときのようで。それでも親友とその妻の関係がうらやましく思えたのだ。
 一生それだけを食べ続けると決心できる、最上級のお菓子と出会えれば、だが。



「そういえばヴィオレット様、私にはごく普通に接してくださいますよね?」
「コンラッド様はどちらかというと家族なので大丈夫なんだと思います! お兄さんとかお父さまみたいな」
「兄はともかく父、ですか……」
(若作りしよう……)



 ★★★

 ヴィオレットはルーカスの雄味全開でぐいぐい来るところが苦手です。
 コンラッドは若いですが、家族認識になっているので大丈夫。物腰柔らかいし。
 ルーカスの視点で、かつ二人でしゃべっているところあまりないなーと思って書いてみました。
 いつか落ち着く日が来るといいのですが。
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