寡黙な騎士団長は花嫁を溺愛する 番外編

水無瀬雨音

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ヴィオレットのダイエット作戦 2

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「お帰りなさいませ、アーノルド様」
「ああ」

 帰宅したアーノルドは、出迎えに出たコンラッドにカバンとジャケットを預けた。アーノルドの少し後ろをコンラッドがついて歩く。
 もう時間が遅いため、ヴィオレットはすでに休んでいる。
 自室に着くと、アーノルドはクラヴァットを引き抜きながら、ここ最近の気がかりを問いただすことにした。
 本人に聞いた方が手っ取り早いのは承知の上。だがさりげなく聞いてもはぐらかされるし、しつこく問いただして嫌われたくないのだ。

「ここ最近ヴィオの様子が違うことについて、お前は本当に何も知らないのか? 側仕えのノアも? 食事はちゃんと摂っている、なんでもないっておかしいだろう。何か重大な心配事でもあるのか。お前が気がついていないはずはないだろ」

 ここ一週間様子が変わらず気が立っていたため、ついとがめるような口調になってしまった。すぐに謝罪する。

「……言い方がよくなかったな。悪い」

 彼女の前では平静を装っているものの、最愛の妻に元気がないというのは心配だ。長年一緒にいる執事頭には、つい態度が悪くなってしまう。

「いえ、気にしておりませんよ」

 長い付き合いで、何より使用人であるコンラッドはこの程度まったく意に介していなかった。慣れた手つきでアーノルドの脱いだ服をクロゼットにかけると、部屋着になった主人をソファーに促す。

「ですが、アーノルド様に素直に謝られると大人になったんだなあとこのコンラッド、感激いたしました。嬉しくもあり悲しくもあり」
「……うるさい。やっぱり謝らなければよかった。訂正する」
「私たちもアーノルド様にそろそろお伝えしなければと思っていたところですから。ヴィオレット様に固く口止めされていましたので、黙っていて申し訳ございません」
「前置きはいい。早く」

 やはり何か隠していたのか、とアーノルドはイライラとした表情になりながらも、責めずに理由をせかした。ヴィオレットに口止めされていたのならやむを得ない面もあるだろう。
 よほど言いづらいのか、コンラッドは珍しく歯切れが悪かった。

「あの、なんと言いますか……。やはり私も心配だったので、ヴィオレット様にお叱りを受けてでもアーノルド様にお伝えした方がいいと思った次第なのですが。ヴィオレット様はアーノルド様を大変お好きでいらっしゃるのだなと、嬉しくもありまして」
「何だコンラッド。今夜は特に気持ち悪いな。というかだから御託はいいから」

 家族に近い執事に、改めてこのようなことを言われるとむずがゆい。袖をまくりあげるとぶわっと鳥肌がたっていた。気持ち悪さに腕をさする。
 それよりもヴィオレットだ。明らかに体調が悪そうになっている理由をアーノルドに伏せるなんて……。
 伝えると自分が心配するからかもしれない。まさか重い病気か、見えている範囲では分からないようなケガだろうか?
 どんな理由であろうと、アーノルドの持っているコネや財産すべてを使ってヴィオレットを助けるだけだ。
 覚悟を決めたアーノルドは固唾をのんで、コンラッドの次の言葉を待った。

「どのようにお伝えすればいいか。残念ながら私では婉曲表現が思いつきませんので、はっきり申し上げますが……。ヴィオレット様はダイエットをされているのです」
「……ダイエットって言ったか?」

 想像していなかった言葉に、アーノルドはぽかんと口を開いた。
 覚悟していたものとまったく違っていた。
 自分の聞き間違いかと思ったが、正解だったらしい。コンラッドははっきり認めた。

「ダイエット、と申し上げました」
「あのヴィオが?」
「あのヴィオレット様が、です」
「ダイエットってあの?」
「そのダイエットです」
「いらないだろ」

 エルフの先祖返りであるヴィオレットは、どちらかといえばというか明らかに痩せている。むしろ痩せすぎなくらいだ。
 食事を制限しているわけではなく、食べすぎなくらい食べている。アーノルドと同じくらいの食事を平気で食べるし、アフタヌーンティーを楽しむことを考えると、なんなら彼以上に食べていると思われる。
 病気になりやすいわけでもないので、彼女以外のエルフに会ったことがないので推測でしかないが、エルフとしては標準的な体形なのだろうと思っていたが……。

「私をはじめすべての使用人がそう存じております」

 コンラッドも重々しくうなづいた。
 もっと深刻な事態を想定していたので、よかったといえばよかったのかもしれないが。

「最近少しふっくらされたのを気にされたそうで。アーノルド様のためにきれいになりたいなんて、いじらしいではありませんか」
「……元からずっときれいだし可愛いだろ。なあ?」
「はい。ヴィオレット様がおきれいなのは同意いたしますが、よりきれいになりたいのでしょうね」
「お前がヴィオのこときれいだの可愛いだの言うな。オレの妻だぞ」
「……ええー。アーノルド様がお聞きになったんじゃないですか」

 自分から同意を求めてきたにも関わらず、いら立ったアーノルドにコンラッドの顔が引きつる。あまりにも横暴だが、いつものことだ。

「標準的な女性と同じくらいのお食事は召し上がられていますが、普段が普段なのでやはり足りないのかもしれませんね」

 つらつらとコンラッドが今日のヴィオレットの食事をあげたが、確かに一般的な女性なら十分だろう量だ。

「ダイエット……。ダイエットね」

 アーノルドは髪をかきむしると、ソファーから立ち上がった。

「寝室に行ってくる」
「ヴィオレット様はもうお休みですよ」
「……分かってる。起こさないようにする」
「お食事は」
「あとで食べる。ここに運んでおくように」

 コンラッドに指示すると、アーノルドは続き間になっている寝室に向かった。
 ヴィオレットはベッドの中で上掛けにくるまって、すやすやと眠っている。
 近くで見ていたつもりだったのに、ヴィオレットの気持ちになぜ気がつくことができなかったのか。そのままでいいのだと、ヴィオレットであればそれだけで好きなのだと伝えていたつもりが、言葉足らずだったのかもしれない。
 アーノルドはベッドの脇にある椅子に腰かけると、優しくヴィオレットの頭をなでた。
 
「気がつかなくてごめんね」


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