女剣士(ヒロイン)拾っただけなのに ~なんで俺がラブコメの主人公にならなきゃならねえんだよ~

犬上義彦

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 背中のクローレは首にはまっていた腕をようやくゆるめてくれたが、相変わらず胸を押しつけながら寝言をつぶやいている。

「うふふ、やだぁ、キージェ、おひげカワイイ……」

 はあ?

 鼻血を止めたいのに心臓がバクバクと暴れだす。

 カワイイって、どこがだよ!

 おっさんだぞ、俺は。

 いっそのこと不潔とか罵れ。

 クローレの手がキージェの顎をジョリジョリと撫でる。

 いて、いてて……。

 地味な拷問だぜ。

 いや、ご褒美なのか!?

 ていうか、この目の前にいる女の子は誰なんだよ。

 薄い下着のような服だけをまとった目の前の少女は体が白く、透明に近い金色の髪の毛が朝日を浴びてキラキラと音が聞こえそうなほど輝いている。

 と、そのときだった。

 少女が目を覚ましたかと思うと、ムクムクと体が膨れ始め、あっという間に雪狼の姿に変化した。

 なんだ、おまえ、ミュリアだったのか。

 ハーフエルフの正体ってことか?

 むくりと首を起こした雪狼は下半身を膨らませたキージェを見下ろし、一言つぶやいた。

 ――最低。

 ちげえよ、そういうんじゃねえって。

 それより、おまえさん、なんでこっち側に寝てんだよ。

 しかも逆さまによ。

 俺とクローレの間に挟まってたはずじゃねえかよ。

 もしかして寝相が悪いのか。

 ミュリアは返事をせずにキージェの頭の方へ回り込む。

 まあ、あれか、十歳の子どもって、こんなもんなのかな。

 って、納得してる場合じゃねえよ。

 頼むから、クローレが目を覚ます前に元の位置に入って寝たふりしてくれ。

 キージェはもぞもぞと体を動かし、ミュリアを間に入れた。

 と、そこでようやくクローレが目を覚まし、爽やかな笑顔を振りまきながら体を起こした。

「わあ、ミュリアおはよう。私、ずっと抱っこしてた? おかげですんごくよく眠れたよ」

 そいつはよかったな。

 こっちは朝から疲れちまったぜ。

「どうしたの、キージェ。クマができてる。眠れなかったの?」

「昨日の疲れがとれないだけだろ。おっさんになると、こんなもんだよ」

「ベッドが硬かったかな?」

「そんなことねえよ。野営にしちゃあ、むしろ快適だったろ」

「もしかして、キージェ、寝相が悪いの?」

 おまえらだろ!

「変な夢でも見ちゃったとか?」

 だから、おまえだ。

 反論する気も失せてキージェは湖に顔を洗いに行った。

 鏡のような水面に映る自分の顔を眺めてつい無精ひげを撫でてしまう。

 ――カワイイって、なんだ?

 クローレが隣に並んで体をかがめて手に水をすくう。

「冷たくて気持ちいいね。頭がすっきりするよ」

 貫頭衣の首元から中身が丸見えで、キージェは思わず尻餅をつきそうになりながら視線をそらした。

 まったく、勘弁してくれ。

 気持ちよくてすっきりどころか、また鼻血が噴き出しそうだぜ。

 せっかくおさまったのによと、下半身を引っ込めながら立ち上がろうとすると、二人の間にぬうっと首を突っ込んできたミュリアが湖に飛び込んだ。

「おいっ、こら」

 盛大な水しぶきに襲われ、朝からずぶ濡れだ。

「おい、クローレ、たき火だ。風邪ひいちまう」

「ほいほい、寒っ」

 寝台に使っていた木材をばらしてフレイムクロウで火をつける。

 歯をガチガチと鳴らしながら二人でたき火に当たっていると、ミュリアが魚をくわえてもどってきた。

「わぁい、朝もお魚だね」と、クローレは素直に喜んでいた。

 夜と同じく三匹捕まえに飛び込んでずぶ濡れになった雪狼の毛は、串に刺して魚を焼いている間に、さらりと乾いていた。

 水に濡れてもすぐに乾くんだな。

 俺とクローレは体が温まらなくてまだ歯をカタカタ鳴らしてるのによ。

 ――人間、不便。

 キージェの皮肉も気にせず魚の頭にかじりついている野獣の姿からは、さっき見た十歳の女の子の姿は想像もつかなかった。

 説明してもクローレは信用しないだろうな。

 キージェは説明するのを諦めて、自分の魚にかじりついていた。

 しかし、毎晩あれだと、こっちの身が持たないな。

 ――ご褒美?

 どこがだよ。

 心の中で毒づきながら残った魚の頭をミュリアに放ってやると、キージェは立ち上がって手をはたいた。

「よし、じゃあ、行くか」

「ちょっと、リーダーは私ですぅ」と、クローレが顔を突き出してくる。

 はいはい、朝から拗ねるんじゃねえよ。

「それでは、あらためてしゅっぱぁーつ!」

 クローレはミュリアの背中を撫でて一緒に走り出す。

 やれやれ。

 またおいていかれちまったよ。

 若いっていうのはうらやましいねえ。

 元気で何よりだよ。

 キージェは無精ひげを撫でながら、すっかり穏やかになった下半身の位置を直すと、のんびりと歩いてついていった。

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