停電の街・札幌

暁天進太

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流れ星

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9月6日18時



隼人が通話を終えて、スマートフォンを胸ポケットへ収めた時だった。

「あの…………あの、すみません!」

不意に背後から声をかけられた。

隼人が振り返ると、夕闇でハッキリとは見えないが、若い女性が立っていた。

「はい?       何でしょうか?」

隼人が促すと

「突然、すみません!       携帯が電池切れなんです!       充電器を貸して頂けませんか!」

女性は縋るような声で告げた。それで合点がいった。

「ああ、それは大変!       分かりました。充電器をお貸ししましょう」

久し振りに有給休暇をとって北海道へ来た。時期をずらした夏休みのようなものだ。稚内を起点にフリープランの周遊の旅で、釧路、帯広、札幌と廻って来た。明日は函館で4泊5日の旅を終える筈だったのだが、昨日、台風21号に見舞われ、更に追い討ちのように今日は大地震に遭遇した。そして大規模な停電。台風と地震のダブルパンチとはいえ、札幌のような大都市が、これほど長く停電するとは思いも寄らなかった。

「すみません。さっき充電器からアイフォンを外すのを目にしたものですから。私も同じ機種なんです」

声の響きから二十代半ばと思われる。

「そうですか。それならアタッチメントを変えずに、そのまま使えますね。はい、どうぞ」

隼人はバッグから充電器を取り出して女性に手渡した。

「ありがとうございます!」

夕暮れの薄明かりを頼りに彼女は慣れた手つきでアイフォンと充電器を接続した。

「お忙しいところをすみません。15分か、20分ぐらい、いいですか?」

「ええ。いいですよ。電車が止まって、どうせ、すぐには帰れないし。ホテルもネットカフェも、どこも満室で、今日は野宿の身の上ですからね」

「まあっ!       あの……お願いついでに」

「はい?」

「あなたの携帯を貸して頂けませんか?」

「僕の携帯?       なぜです?」

「少しでも早く妹と連絡をとりたいんです。千葉市から一緒に来たのですけど、少し前に、はぐれてしまって。でも、それほど遠くへは行ってない筈なんです。今、この場所なら繋がりやすいかもと」

「ああ、そういう事なら」

隼人は、アイフォンを取り出し、ロックを解除して手渡した。

「良かった。ありがとうございます!」

彼女は安堵の表情を浮かべ、何度も頭を下げた。

「実は、僕も千葉市から来たんです。奇遇ですね」

「まあっ!        どちらですか?      あたし達は花見川区です」

「うん。近いですね。僕は稲毛区です」

彼女は、携帯を耳に当てている。数秒で一旦切り、少し間を置いて又かける。それを繰り返している。だが、繋がらないようだ。彼女の不安そうな表情で、それは分かる。

「登録されていない番号だから、用心して出ないのかも知れませんね」

隼人が慰めるように、繋がらない理由を挙げた。

「ええ。それか、私と同じように電池切れなのかも。もし、札幌市全体が停電なら充電も出来ないし」

「場所によっても繋がり具合が微妙に違うようです。もしかすると、妹さんも乾電池式の充電器を手に入れて、少しずつ移動しながら繋がり易いポイントを探しているところなのかも知れない」

「ええ。そうだといいんですけど……」

彼女は、その後も何度も試していたが、結局、繋がらなかった。

遠く近く緊急車両のサイレンがひっきりなしに聞こえる。

「ありがとうございました。これは先にお返しします。もう少し、充電しながら、妹からの連絡を待ってみます」

彼女は僕のアイフォンをハンカチで拭いて戻した。

「星がきれいですね?」

「はい?」

「街の灯りが消えると、こんなに星が見えるんだと、改めて感じ入ってしまう。普段は、あまり気にしていないんですけどね」

隼人が空を仰いで、そう言うと

「ええ。そう言えば、本当にきれい」

彼女は身体の向きを変えながら四方の夜空を見上げた。

「あっ!」彼女が声をあげた。

「なんです?」隼人が訊く。

「今、流れ星が、続けて二つ」

遥かな夜空を横断するように星が流れたのだという。

「考えてみれば……逆なのかなあ」

「えっ?       何?       今、何て言ったの?」

「夜は、活動を止めて休息する。星を仰いで憩う。流れ星に幸運の祈りを込める。これが人の暮らしの、本来の姿なのかも知れないなって」

「ええ。確かに。あの……もし良ければ」

「ん?」

「もう少し、このまま一緒に居させて貰ってもいいですか?        さっきのお話だと野宿されるような事を……出来るだけ充電しておきたいんです。私、藍沢京奈と言います。京都の京、奈良の奈で、京奈です」

「そうですか。あいざわ京奈さん。僕は城原隼人(しろはらはやと)。いいですよ。急ぐ用事もないし。少し歩きましょうか?        星明かりの夜に、そぞろ歩きも悪くない」

「まあっ!        そういう言い方って素敵!          詩人みたい。でも、そぞろ歩きって」

「当てもなく、気の向くままにぶらぶら歩き回ること。散歩と同じ意味です」

「ああ、そうなんですね。そぞろ歩きとは散歩の事。覚えました」


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