停電の街・札幌

暁天進太

文字の大きさ
3 / 3

審美眼

しおりを挟む



「今、そんな人を思い出しちゃって」

「話し甲斐のない人を?」

「ええ。私の友達は自分の言いたい事だけ言って、他人の話を聞かないんです。悪気はないんですけど……話を聞いてないから、時々、ちゃんとしたキャッチボールにならなくて。この前も、同じ質問を」

「ほおっ!      例えばどんな?」

「以前に、旅行のパンフレットにあった《満天の星空》っていう表現は、オカシイよねっていう話を友達にしたんです。なぜオカシイかを説明したのですけど、ちゃんと聞いていないから、後になって《満点の星空》の何がオカシイんだっけ?      なんて訊き返したりして……あはは」

「なるほど!         正解は【満天の星】ですね。《満面の笑顔》ではなく【満面の笑み】。言葉を正しく操れないのは勉強不足で、本当は恥ずかしい事だけれども、それを自覚できないとすれば、まあ、感覚が鈍いんでしょう。だから、正月の挨拶にアケオメなんてメールして、それで、いいつもりでいる。幼稚園児じゃあるまいし」

「うぷぷっ!       私の友達は、それです。『書籍化で儲けよう!』っていう投稿サイトがあるんですけど、そこで活動しているんです。楽しそうに書いてるんですけど、私には、その面白みが良く分からなくて。そこへ投稿する人って《如何にお金を儲けるか》にしか興味がなくて、ちゃんとした小説を書こうって気がないみたいなんです」

「ははは……君も言いますね。それを見分ける力を審美眼と言いますが、これは読書を重ねる事でしか身に付かない。京奈さんは、読書家のようですね?」

「それほどでもないですけど、幼い頃から図書館には毎週のように行ってました。妹も一緒に。そこで本を読んで、何冊か借りて、翌週に返す。それの繰り返し。最初は父の誘導でした。きっと買うより安上がりだったからだと思います」

「なるほど。幼い頃からの読書の習慣が、自然に審美眼を涵養(かんよう)した。そういう事ですね?」



「お姉ちゃん!        お姉ちゃんでしょ!」

前方から声がした。

眼を凝らすと、若い女性が近づいて来る。

「ゆきちゃん!」

京奈が手を伸ばした。やがて姉妹の影が重なった。

「ゆきちゃんの携帯に繋がらなくて」

「電池切れよ。停電で充電出来ないから、どうしようもなかったの」

「やっぱり!       でも、良かった。そんなに遠くへは行ってないとは思ったんだけど」

姉妹で無事を確かめ合っている。暫く話が続いた。



「初めまして!       藍沢由貴です。臆病な姉がお世話になりまして、ありがとうございます!」

妹が近づいて来てハキハキと告げた。

「初めまして。ははは……臆病だなんて、とんでもない。こんな状況ですからね。僕も心細かった。こちらこそ話し相手が出来て、嬉しかった。城原隼人です。聡明な、お姉さんと話が出来て楽しかった」

「千葉市から来られたんですよね?」

「ええ。君達も千葉からと……こんな偶然もあるんですね」

「いいえ、これは偶然というより、きっと……あの……念の為に伺いますけど、独身ですよね?」       ショートヘアの由貴が含みを持たせて訊いた。

「はあ?        ええ。独身ですが……32歳。離婚歴もありません」

「良かった。それなら、今から3人で一緒に食事でも、いかがですか?      こんな時でも自家発電で営業しているお店を見つけたんです」

「本当に?        それは、ありがたい!      是非、食事しましょう!      僕が奢ります!」

「はい!        姉に伝えて来ますね」

由貴は、数歩行きかけ、途中で引き返し、隼人の前に回った。そうして、小声で告げた。

「姉は【運命の出会いかも】と言ってます。停電になって良かったと。私も、そう思います」


                        
                  ー了ー
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

瀬戸内 光
2018.10.19 瀬戸内 光

これはなかなか面白い。

解除

あなたにおすすめの小説

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。