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5話 物語は変わり始める
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うるさいな。近くでかしましく響く声に俺は目を覚ます。窓辺から差し込む光がまぶしくて目を開けるのを拒ませた。ここはどこだ。鼻孔に薬品のにおいが漂ってきた。その場でもぞもぞとしていると、
「先生、動いてる」
と誰かの甲高い声が響く。この声。
「ヴェルナか」
目を開けると、そこには俺の顔を覗き込む人物が3人ばかりいた。1人は物語の主人公、アゼル・セイヤーズ、2人目はヴェルナ・スカイケア、3人目はこの魔法学校の校医を務めるイエーガーという壮年の男性だった。
「俺は――」まだこの世界にいたんだな、という台詞は飲み込んだ。
「コーラル。あのあと倒れたんだよ。一時期は危ないところだったらしい」
「ほんと、弱いくせに無理するからだよ」とヴェルナが憎まれ口を叩く。
「心配してくれてありがとな、2人とも」
「当たり前じゃないか」
「私は別に心配してないけど」
「目元赤くなってるぜ」
ヴェルナは舌打ちする。
「これは昨日夜更かししただけだから」
「俺はいったいどのぐらい寝ていたんだ」
「3日間ぐらいだよ」
「じゃあ授業開始は今日からだよな。間に合ってよかったよ」
「いやいや」とイエーガ―校医「もう1日ぐらいは経過を見よう。それで何事もなければ復帰しても構わないから」
そういうことなら休ませてもらうことにしよう。
突如。がらりと扉が開く。そこから入室してきた翡翠色のロングヘアをポニーテールにした女生徒がその場で立ち尽くす。
「若、お目覚めになったのですね」
「君は」とアゼル。それに対してその女生徒はアゼルを睨み付ける。
彼女の名前はメルリ・オルツィ。コーラル家の執事レイン・オルツィの娘であり、同じくコーラル家の従者である。
「どうやら気苦労をかけたようだな、メルリ」
「勿体ないお言葉です。ジーヴスさまが大変な事件に巻き込まれているときに、私はのほほんと料理などしておりました。不甲斐ない限りです」
「気にするな。俺が勝手に予定より早く出たんだ」
「アゼル・セイヤーズ。あなたコーラル様と一緒にいたのでしょう。コーラル様がこんな大事を負ったときにあなたは一体何をしていたんですか」
メルリがアゼルを攻め立てるように言う。メルリは夏休み前にコーラルがアゼルに手ひどく敗北して以来、アゼルを目の敵にしている、という設定だ。
「よせ、メルリ。怪我を負ったのは俺自身の不始末だ。セイヤーズは自分の役割を全うした」
「若……」
メルリは驚いたようにこちらを見る。俺――ジーヴス・コーラル――らしからぬ言動だったのだろう。
「さぁ君たちそろそろ授業が始まるよ。怪我人病人以外は行った行った」
メルリはまだここに残りたそうにしていたがやむを得ずアゼルたちとともに教室へと向かうのだった。
9
俺はベッドに寝そべりながら考える。この世界が一体なんなのかということをだ。
夢にしてはやけにリアルでやけに長い。もっとも天下統一の夢を見たら、わずか米を炊く間の話だったという逸話もあるし、夢とはそういうものなのかもしれないけど。
ひょっとして俺はこのまま元の世界には戻れないのだろうか。退屈な日常だったけれど、そう思うと流石にぞっとした。
もしこれが現実のできごとだと仮定して、俺がこの世界にいる間、向こうの世界の時間はどのように流れるのだろうか。同じように流れるのだとしたら今頃疾走扱いにでもなっているかもしれない。親や妹は、数少ない友達は心配してくれるのだろうか。
昼休みになると医務室の扉が開いて、1人の女子生徒が入室してきた。
「あの、ジーヴス・コーラルさんでしょうか」
「ああ、確かに俺がジーヴス・コーラルだが」
目の前の女子生徒に視線を向ける。背丈は女子生徒としては平均的、大人しそうな目元、ピアノブラックとでも形容したくなるような艶やかな瞳と髪が印象的だった。
「私、ソフィア・マデリンといいます。コーラル君には列車で助けていただいたようで」
確かにその少女はあのとき、スタグ・フロウメントに人質として連れて行かれた少女であった。と言っても俺は作者だからそんなことは全部知ってるんだけどね。
「あの、こんなものでお礼のつもりだなんておこがましいとは思うのですけれど、そういうつもりじゃないので、よかったら召し上がってください」
そう言ってソフィアは俺に小包のようなものを手渡す。なかにはクッキーが入っていた。大きさは不揃いで市販品ではなく、彼女が自分で焼いてきたものであることがわかった。
ジーヴスとソフィアの間にこんなイベントは用意していない。俺の行動でストーリーが変わったのか。俺はクッキーをかじりながら思案する。
「おいしいよ。ありがとう」
「こちらこそ、そんな風に言っていただけるとうれしいです。もし何か不自由なことがあったらなんでも言ってください。せめてもの恩返しがしたいんです」
俺の脳裏には2つの事柄が想起されていた。彼女が俺の初恋の元同級生をモデルに人物造形されていること、そして彼女もまたこの物語の主人公アゼル・セイヤーズのハーレムを構成するヒロインの一人であるということだ。
うるさいな。近くでかしましく響く声に俺は目を覚ます。窓辺から差し込む光がまぶしくて目を開けるのを拒ませた。ここはどこだ。鼻孔に薬品のにおいが漂ってきた。その場でもぞもぞとしていると、
「先生、動いてる」
と誰かの甲高い声が響く。この声。
「ヴェルナか」
目を開けると、そこには俺の顔を覗き込む人物が3人ばかりいた。1人は物語の主人公、アゼル・セイヤーズ、2人目はヴェルナ・スカイケア、3人目はこの魔法学校の校医を務めるイエーガーという壮年の男性だった。
「俺は――」まだこの世界にいたんだな、という台詞は飲み込んだ。
「コーラル。あのあと倒れたんだよ。一時期は危ないところだったらしい」
「ほんと、弱いくせに無理するからだよ」とヴェルナが憎まれ口を叩く。
「心配してくれてありがとな、2人とも」
「当たり前じゃないか」
「私は別に心配してないけど」
「目元赤くなってるぜ」
ヴェルナは舌打ちする。
「これは昨日夜更かししただけだから」
「俺はいったいどのぐらい寝ていたんだ」
「3日間ぐらいだよ」
「じゃあ授業開始は今日からだよな。間に合ってよかったよ」
「いやいや」とイエーガ―校医「もう1日ぐらいは経過を見よう。それで何事もなければ復帰しても構わないから」
そういうことなら休ませてもらうことにしよう。
突如。がらりと扉が開く。そこから入室してきた翡翠色のロングヘアをポニーテールにした女生徒がその場で立ち尽くす。
「若、お目覚めになったのですね」
「君は」とアゼル。それに対してその女生徒はアゼルを睨み付ける。
彼女の名前はメルリ・オルツィ。コーラル家の執事レイン・オルツィの娘であり、同じくコーラル家の従者である。
「どうやら気苦労をかけたようだな、メルリ」
「勿体ないお言葉です。ジーヴスさまが大変な事件に巻き込まれているときに、私はのほほんと料理などしておりました。不甲斐ない限りです」
「気にするな。俺が勝手に予定より早く出たんだ」
「アゼル・セイヤーズ。あなたコーラル様と一緒にいたのでしょう。コーラル様がこんな大事を負ったときにあなたは一体何をしていたんですか」
メルリがアゼルを攻め立てるように言う。メルリは夏休み前にコーラルがアゼルに手ひどく敗北して以来、アゼルを目の敵にしている、という設定だ。
「よせ、メルリ。怪我を負ったのは俺自身の不始末だ。セイヤーズは自分の役割を全うした」
「若……」
メルリは驚いたようにこちらを見る。俺――ジーヴス・コーラル――らしからぬ言動だったのだろう。
「さぁ君たちそろそろ授業が始まるよ。怪我人病人以外は行った行った」
メルリはまだここに残りたそうにしていたがやむを得ずアゼルたちとともに教室へと向かうのだった。
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俺はベッドに寝そべりながら考える。この世界が一体なんなのかということをだ。
夢にしてはやけにリアルでやけに長い。もっとも天下統一の夢を見たら、わずか米を炊く間の話だったという逸話もあるし、夢とはそういうものなのかもしれないけど。
ひょっとして俺はこのまま元の世界には戻れないのだろうか。退屈な日常だったけれど、そう思うと流石にぞっとした。
もしこれが現実のできごとだと仮定して、俺がこの世界にいる間、向こうの世界の時間はどのように流れるのだろうか。同じように流れるのだとしたら今頃疾走扱いにでもなっているかもしれない。親や妹は、数少ない友達は心配してくれるのだろうか。
昼休みになると医務室の扉が開いて、1人の女子生徒が入室してきた。
「あの、ジーヴス・コーラルさんでしょうか」
「ああ、確かに俺がジーヴス・コーラルだが」
目の前の女子生徒に視線を向ける。背丈は女子生徒としては平均的、大人しそうな目元、ピアノブラックとでも形容したくなるような艶やかな瞳と髪が印象的だった。
「私、ソフィア・マデリンといいます。コーラル君には列車で助けていただいたようで」
確かにその少女はあのとき、スタグ・フロウメントに人質として連れて行かれた少女であった。と言っても俺は作者だからそんなことは全部知ってるんだけどね。
「あの、こんなものでお礼のつもりだなんておこがましいとは思うのですけれど、そういうつもりじゃないので、よかったら召し上がってください」
そう言ってソフィアは俺に小包のようなものを手渡す。なかにはクッキーが入っていた。大きさは不揃いで市販品ではなく、彼女が自分で焼いてきたものであることがわかった。
ジーヴスとソフィアの間にこんなイベントは用意していない。俺の行動でストーリーが変わったのか。俺はクッキーをかじりながら思案する。
「おいしいよ。ありがとう」
「こちらこそ、そんな風に言っていただけるとうれしいです。もし何か不自由なことがあったらなんでも言ってください。せめてもの恩返しがしたいんです」
俺の脳裏には2つの事柄が想起されていた。彼女が俺の初恋の元同級生をモデルに人物造形されていること、そして彼女もまたこの物語の主人公アゼル・セイヤーズのハーレムを構成するヒロインの一人であるということだ。
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