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異世界編 2章
第72話 紹介
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貞宗があの時……
異世界に飛ばされてから30年経ったことを聞いた正秀はショックを受けていた。
その、衝撃はどのくらいかと言えば、床でガックリするほどなのです。
もっと具体的に説明すると、つまり100メガショックなのだ!
「説明が全然わからないが、そう落ち込むな、水谷よ」
「隊長は…… 隊長は何も思わなかったんですか? 隊長にも家族が居たじゃないですか」
「ふむ…… 確かに俺も最初は戸惑ったな……」
「…………」
「もう帰ることができない。家族に会えないのかと…… 辛くはあったな」
「それが今じゃ、異世界の勇者っスか」
「なんだ山崎、お前は能天気だな」
「為次はいいさっ。帰っても何も無いし誰もが居ないからな!」
「……う、うん」
「ちょっとマサヒデ、その言い方は無いんじゃないの? いくらタメツグがバカでアホでどうしようもない奴だからって」
「ちょ、マヨ……」
「……すまない。……そんなつもりじゃないんだ」
「まあ…… 俺のことは本当だから別にいいけど」
「…………」
「ふう…… ちと辛気臭くなっちまったな、とにかく久しぶりの再会だ。家に入って何か食べるか?」
「賛成」
「はい……」
「そうしましょ」
そうして、皆は貞宗に連れられ倉庫の隣にくっ付いている母屋へと行こうとする。
しかし、マヨーラは忘れ者に気が付いた。
「ねぇ、スイはどうするの?」
「あ、忘れてた、荷物も忘れてた」
「スイちゃん……」
「おお、装填手の娘か」
為次は装填手ハッチを覗き込むとスイはまだ寝ていた。
気持ち良さそう寝ているので、起こすのは少し可哀想かなとも思う。
でも、置いて行くと後でまたうるさそうなので、起こして一緒に連れて行くのであった。
※ ※ ※ ※ ※
倉庫と母屋は中で繋がっていた。
イチイチ外から周る必要がないので便利である。
家の中に入ると、そこは広いリビングであった。
隅々まで清掃が行き届いており、とても綺麗にしてあるのだが何処となく殺風景な感じもする。
中央にソファーとテーブルが置いてあり、食器など入っているが棚が2つ置いてあるだけだ。
「まあ、適当に座ってくれ」
「はいはい」
皆がソファーに座ると、貞宗は辺りをキョロキョロしている。
「何処に行ったかな」
「何が?」
為次は訊いた。
「ああ、紹介したい人が居てな」
「紹介したい人って?」
「少し待ってくれ」
貞宗はそう言うとリビングから出て行ってしまった。
「誰だろ?」
「多分、奥さんじゃないの?」
正秀は日本に居た時のことを思い出す。
「奥さん? 隊長の奥さんは日本に居るはずじゃ……」
「前に言わなかったかしら? 結婚してるって」
「そうだっけな?」
「そうよ…… マサヒデ」
しばらく待っていると、貞宗は1人の女性を連れて戻って来た。
それは、黒髪ロングで美しい大人のお姉さんと言った感じであった。
「待たせたな。紹介するぞ、俺の妻のだ」
その紹介された女性と中身はおっさんだが幼なさの残る貞宗とでは、とても夫婦には見えない。
どちらかと言えば、年上のお姉さんだ。
「皆さん初めまして、妻のクリスです」
クリスはペコリとお辞儀をした。
それを見た正秀は、貞宗に「元の世界の奥さんは、どうしたんだ?」と言いたかった。
だが、流石の空気が読めない正秀でも、その言葉は飲み込んだ。
2人の幸せそうな姿を見ると言えなかったのだ。
「どうも、初めまして。正秀と言います」
「あ、どうも」
「あんたも自己紹介しなさいよ…… このバカがタメツグで、あたしがマヨーラよ」
マヨーラは為次の頭をペシペシ叩きながら言った。
「よろしくね、お噂は色々と聞いてますよ」
「私はスイです、タメツグ様の奴隷なのです」
「なんだと!? 山崎、お前が買ったのか?」
「あわわわ。ち、違うよっ」
「違わないです、タメツグ様に買ってもらったです」
「ちょ、スイ」
「ほんとのことだろ……」
「ま、色々と事情はあったみたいだけどね。色々とね、ふふっ」
マヨーラは横目で為次を見ながらニヤニヤして言った。
あからさまにターナのおっぱいで泣き叫んだ時のこと言っている。
「ガザフにせいだよ…… もー」
「ふむ、まあいい。話は順番に聞くとしよう」
「では、自己紹介も終わったことですし、少し早いですがお昼にでもしましょうかね」
「ああ、頼むよクリス」
「はい」
クリスは返事をすると、また奥の部屋へと行ってしまった。
「どっこいしょ」
そう言いながら座る貞宗は、やはり中身はおっさんなのだ。
「どうだ水谷? 少しは落ち着いたか?」
「はい…… 先程は…… すいませんでした……」
「そう気にするな、俺だって驚いてるからな」
「はい……」
「そんじゃ、自己紹介がオワタとこで、これハイ」
為次は持ってきた箱をテーブルの上にポンと置いた。
「わざわざ、ご苦労だったな」
「意外と大変でした」
「そ、そうね……」
「骨がバラバラになったのです」
「スイちゃん、そんなことになってたのか?」
正秀もダイコン戦については詳しく聞いてなかった。
「うん」
「なんでまた……」
貞宗は訊いた。
「ダイコンにちょっとね……」
と、マヨーラ。
「ふむ、それでは苦労して運んでくれた中身を確認しとくか」
貞宗は置かれた箱を開けると、中を確認してみる。
中には青色に輝くエレメンタルストーンと一枚の手紙が入っていた。
だが、そのどちらにも手を付けず、そっと箱を閉じるのだ。
「確かに受け取ったぞ」
「あ、はい」
「しかし、山崎はまったく変わらんな」
「へ? 何がっスか?」
「いや、お前らがこの異世界に来て十二、三日だったか? その間に30年の月日が過ぎたことを今知ったんだろう?」
「あ、はい」
「普通なら水谷みたいに、動揺するものではないのか?」
「んー、それはさっきマサが言ったように元の世界には何も無いし……」
「すまない為次、本当にそんなつもりじゃなかったんだ」
「いやまあ、それはどうでもいいけど、マサは向こうに家族や友達、それに婚約者もねぇ」
「何!? 水谷は婚約者が居たのか?」
「ええ…… はい」
「そうか…… それは確かに辛いだろうな」
「……はぃ」
「ま、そんな分けで俺達わぁ、婚約指輪を渡しに日本に帰るんすよ。でも、帰った頃には、おばちゃんになってるねー」
「バカタメツグ! そんなこと言わないの!」
「あ、スマソ」
「おばちゃんでも、もう一度あえればいいんだが……」
「マサ……」
なんだか、辛気臭い感じなってきてしまった。
久しぶりの再会ではあるが、30年間も取り残された事実を知った正秀と為次にとっては、無理もないことなのかも知れない。
そんな白けた空気がしばらく続いたのだが、ようやくクリスがご飯を持ってやって来た。
その料理を見ると、この世界では見たことはない肉じゃがやすき焼きがある。
どれも、日本では馴染み深い料理が並んでいるのあった。
「お待たせしました、お口に合えば良いのですが」
「おお、これは凄いですね。なんだか懐かしいか気分になるぜ」
見慣れた美味しそうな料理を見た正秀は、少し元気が出て来た様子であった。
「やたー、すき焼きだお」
「なにこれ? 見たことのない料理ばかりね」
「和食かもだよ。マヨ」
「俺が教えたんだ、今では俺よりも上手に作れるようになってくれたぞ」
「ご主人様は、このようなご飯が好きですか?」
「まあそうかも」
「では、スイにも教えて欲しいのです」
「ふふっ、タメツグさんに作ってあげるのね」
「はいです」
「それでは、また後で教えてあげるわ」
「やりました」
それを聞いたマヨーラも横から言う。
「あの、あたしにも……」
「はいはい、では今夜の晩御飯はみんなで作りましょう」
「む、今夜が楽しみだな」
貞宗は言った。
「楽しみなのはいいけど、やっぱ刺身は無いんすか?」
為次はこの世界に魚が居ないのを思い出して訊いてみた。
「その通りだ山崎、この異世界には魚はもちろん海にも川にも生物は居ない」
「生物が居ない? そんなバカな」
正秀も驚いた。
そこへ為次が訊いてみる。
「なんでっスか?」
「さあな、俺にも分からん」
「魚って、為次が食物プラントで出した、アノ気持ちの悪いのでしょ?」
「そうだよ」
「あんなの食べるなんて、信じられないわ」
「魚を出したのか? 山崎」
「あー、うん。おっきい鯛みたいなやつを」
「生臭かったわね」
「削除してあったから、復元してみたっス」
「ふむ……」
「魚もっスけど、他にも色々と隊長さんに聞きたいんですけど」
「そうだな、飯でも食いながら話すとするか。俺も、お前達のことを聞きたいからな」
「俺達はこっちに来てから、別に何もしてませんよ」
「そうか? 炎龍を倒したって聞いたぞ、水谷」
「あれは…… こっちに来て間もない時でしたから、何も知らずに……」
「そう謙遜するな、武勇伝を話してくれてもいいだろ?」
「武勇伝だなんて……」
「まー、なんでもいいから早く食べようよ」
「温かいうちに召し上がって下さいね」
「うい」
「ええ」
「はいです」
「頂きます」
そして、皆は少し早めの昼食を食べ始める。
クリスの作ってくれた和食は、どれも日本で食べたモノと遜色ないか、それ以上であった。
「もぐもぐ…… ところで隊長さん」
「ん?」
「隊長さんって、日本に奥さんも子供も居るんじゃないんすか?」
「ぶはっ」
思わず貞宗が吹き出してしまった。
「為次……(うわ…… 為次のヤロー、クリスさんの前でそれ聞いちゃうか。俺ですら我慢したってのに)」
なんとなく咳払いをしてみる正秀……
「んっ、んん……」
「こっちじゃ、一夫多妻制がデフォとか?」
「いや、そんなことはないが、まあなんだ……」
「ちょっとバカツグ、あんたデリカシーってものは無いの? しかも、クリスさんの前で」
「大丈夫よ、夫から聞いてますから。それも、知ったうえで一緒になったのよ」
「へー」
「誰だって、30年も居れば仕方ないだろう……」
「まあ、そんなもんか」
「……隊長」
「どうした? 水谷」
「隊長は帰ろうとは、思わなかったんですか?」
「……そうだな、初めは俺も帰ろうと思ったさ」
「初めは……」
正秀が少し暗い顔になった。
一方の為次少し真面目に訊く。
「じゃあ、帰れなかったと?」
「ふむ…… では、俺がこの異世界に来てからのことを話そう」
「少し長くなるが、いいか?」
「はい」
「うい」
そして、貞宗は静かに語りだす。
30年も前に、異世界に飛ばされてからのことを……
正秀と為次は、興味深そうに耳を傾けるのであった……
そんな正秀を見ながらマヨーラは思うのだ。
サダムネが元の世界に奥さんが居ても、こっちで結婚したなら、あたしにもチャンスあるわね。うふふ
と……
異世界に飛ばされてから30年経ったことを聞いた正秀はショックを受けていた。
その、衝撃はどのくらいかと言えば、床でガックリするほどなのです。
もっと具体的に説明すると、つまり100メガショックなのだ!
「説明が全然わからないが、そう落ち込むな、水谷よ」
「隊長は…… 隊長は何も思わなかったんですか? 隊長にも家族が居たじゃないですか」
「ふむ…… 確かに俺も最初は戸惑ったな……」
「…………」
「もう帰ることができない。家族に会えないのかと…… 辛くはあったな」
「それが今じゃ、異世界の勇者っスか」
「なんだ山崎、お前は能天気だな」
「為次はいいさっ。帰っても何も無いし誰もが居ないからな!」
「……う、うん」
「ちょっとマサヒデ、その言い方は無いんじゃないの? いくらタメツグがバカでアホでどうしようもない奴だからって」
「ちょ、マヨ……」
「……すまない。……そんなつもりじゃないんだ」
「まあ…… 俺のことは本当だから別にいいけど」
「…………」
「ふう…… ちと辛気臭くなっちまったな、とにかく久しぶりの再会だ。家に入って何か食べるか?」
「賛成」
「はい……」
「そうしましょ」
そうして、皆は貞宗に連れられ倉庫の隣にくっ付いている母屋へと行こうとする。
しかし、マヨーラは忘れ者に気が付いた。
「ねぇ、スイはどうするの?」
「あ、忘れてた、荷物も忘れてた」
「スイちゃん……」
「おお、装填手の娘か」
為次は装填手ハッチを覗き込むとスイはまだ寝ていた。
気持ち良さそう寝ているので、起こすのは少し可哀想かなとも思う。
でも、置いて行くと後でまたうるさそうなので、起こして一緒に連れて行くのであった。
※ ※ ※ ※ ※
倉庫と母屋は中で繋がっていた。
イチイチ外から周る必要がないので便利である。
家の中に入ると、そこは広いリビングであった。
隅々まで清掃が行き届いており、とても綺麗にしてあるのだが何処となく殺風景な感じもする。
中央にソファーとテーブルが置いてあり、食器など入っているが棚が2つ置いてあるだけだ。
「まあ、適当に座ってくれ」
「はいはい」
皆がソファーに座ると、貞宗は辺りをキョロキョロしている。
「何処に行ったかな」
「何が?」
為次は訊いた。
「ああ、紹介したい人が居てな」
「紹介したい人って?」
「少し待ってくれ」
貞宗はそう言うとリビングから出て行ってしまった。
「誰だろ?」
「多分、奥さんじゃないの?」
正秀は日本に居た時のことを思い出す。
「奥さん? 隊長の奥さんは日本に居るはずじゃ……」
「前に言わなかったかしら? 結婚してるって」
「そうだっけな?」
「そうよ…… マサヒデ」
しばらく待っていると、貞宗は1人の女性を連れて戻って来た。
それは、黒髪ロングで美しい大人のお姉さんと言った感じであった。
「待たせたな。紹介するぞ、俺の妻のだ」
その紹介された女性と中身はおっさんだが幼なさの残る貞宗とでは、とても夫婦には見えない。
どちらかと言えば、年上のお姉さんだ。
「皆さん初めまして、妻のクリスです」
クリスはペコリとお辞儀をした。
それを見た正秀は、貞宗に「元の世界の奥さんは、どうしたんだ?」と言いたかった。
だが、流石の空気が読めない正秀でも、その言葉は飲み込んだ。
2人の幸せそうな姿を見ると言えなかったのだ。
「どうも、初めまして。正秀と言います」
「あ、どうも」
「あんたも自己紹介しなさいよ…… このバカがタメツグで、あたしがマヨーラよ」
マヨーラは為次の頭をペシペシ叩きながら言った。
「よろしくね、お噂は色々と聞いてますよ」
「私はスイです、タメツグ様の奴隷なのです」
「なんだと!? 山崎、お前が買ったのか?」
「あわわわ。ち、違うよっ」
「違わないです、タメツグ様に買ってもらったです」
「ちょ、スイ」
「ほんとのことだろ……」
「ま、色々と事情はあったみたいだけどね。色々とね、ふふっ」
マヨーラは横目で為次を見ながらニヤニヤして言った。
あからさまにターナのおっぱいで泣き叫んだ時のこと言っている。
「ガザフにせいだよ…… もー」
「ふむ、まあいい。話は順番に聞くとしよう」
「では、自己紹介も終わったことですし、少し早いですがお昼にでもしましょうかね」
「ああ、頼むよクリス」
「はい」
クリスは返事をすると、また奥の部屋へと行ってしまった。
「どっこいしょ」
そう言いながら座る貞宗は、やはり中身はおっさんなのだ。
「どうだ水谷? 少しは落ち着いたか?」
「はい…… 先程は…… すいませんでした……」
「そう気にするな、俺だって驚いてるからな」
「はい……」
「そんじゃ、自己紹介がオワタとこで、これハイ」
為次は持ってきた箱をテーブルの上にポンと置いた。
「わざわざ、ご苦労だったな」
「意外と大変でした」
「そ、そうね……」
「骨がバラバラになったのです」
「スイちゃん、そんなことになってたのか?」
正秀もダイコン戦については詳しく聞いてなかった。
「うん」
「なんでまた……」
貞宗は訊いた。
「ダイコンにちょっとね……」
と、マヨーラ。
「ふむ、それでは苦労して運んでくれた中身を確認しとくか」
貞宗は置かれた箱を開けると、中を確認してみる。
中には青色に輝くエレメンタルストーンと一枚の手紙が入っていた。
だが、そのどちらにも手を付けず、そっと箱を閉じるのだ。
「確かに受け取ったぞ」
「あ、はい」
「しかし、山崎はまったく変わらんな」
「へ? 何がっスか?」
「いや、お前らがこの異世界に来て十二、三日だったか? その間に30年の月日が過ぎたことを今知ったんだろう?」
「あ、はい」
「普通なら水谷みたいに、動揺するものではないのか?」
「んー、それはさっきマサが言ったように元の世界には何も無いし……」
「すまない為次、本当にそんなつもりじゃなかったんだ」
「いやまあ、それはどうでもいいけど、マサは向こうに家族や友達、それに婚約者もねぇ」
「何!? 水谷は婚約者が居たのか?」
「ええ…… はい」
「そうか…… それは確かに辛いだろうな」
「……はぃ」
「ま、そんな分けで俺達わぁ、婚約指輪を渡しに日本に帰るんすよ。でも、帰った頃には、おばちゃんになってるねー」
「バカタメツグ! そんなこと言わないの!」
「あ、スマソ」
「おばちゃんでも、もう一度あえればいいんだが……」
「マサ……」
なんだか、辛気臭い感じなってきてしまった。
久しぶりの再会ではあるが、30年間も取り残された事実を知った正秀と為次にとっては、無理もないことなのかも知れない。
そんな白けた空気がしばらく続いたのだが、ようやくクリスがご飯を持ってやって来た。
その料理を見ると、この世界では見たことはない肉じゃがやすき焼きがある。
どれも、日本では馴染み深い料理が並んでいるのあった。
「お待たせしました、お口に合えば良いのですが」
「おお、これは凄いですね。なんだか懐かしいか気分になるぜ」
見慣れた美味しそうな料理を見た正秀は、少し元気が出て来た様子であった。
「やたー、すき焼きだお」
「なにこれ? 見たことのない料理ばかりね」
「和食かもだよ。マヨ」
「俺が教えたんだ、今では俺よりも上手に作れるようになってくれたぞ」
「ご主人様は、このようなご飯が好きですか?」
「まあそうかも」
「では、スイにも教えて欲しいのです」
「ふふっ、タメツグさんに作ってあげるのね」
「はいです」
「それでは、また後で教えてあげるわ」
「やりました」
それを聞いたマヨーラも横から言う。
「あの、あたしにも……」
「はいはい、では今夜の晩御飯はみんなで作りましょう」
「む、今夜が楽しみだな」
貞宗は言った。
「楽しみなのはいいけど、やっぱ刺身は無いんすか?」
為次はこの世界に魚が居ないのを思い出して訊いてみた。
「その通りだ山崎、この異世界には魚はもちろん海にも川にも生物は居ない」
「生物が居ない? そんなバカな」
正秀も驚いた。
そこへ為次が訊いてみる。
「なんでっスか?」
「さあな、俺にも分からん」
「魚って、為次が食物プラントで出した、アノ気持ちの悪いのでしょ?」
「そうだよ」
「あんなの食べるなんて、信じられないわ」
「魚を出したのか? 山崎」
「あー、うん。おっきい鯛みたいなやつを」
「生臭かったわね」
「削除してあったから、復元してみたっス」
「ふむ……」
「魚もっスけど、他にも色々と隊長さんに聞きたいんですけど」
「そうだな、飯でも食いながら話すとするか。俺も、お前達のことを聞きたいからな」
「俺達はこっちに来てから、別に何もしてませんよ」
「そうか? 炎龍を倒したって聞いたぞ、水谷」
「あれは…… こっちに来て間もない時でしたから、何も知らずに……」
「そう謙遜するな、武勇伝を話してくれてもいいだろ?」
「武勇伝だなんて……」
「まー、なんでもいいから早く食べようよ」
「温かいうちに召し上がって下さいね」
「うい」
「ええ」
「はいです」
「頂きます」
そして、皆は少し早めの昼食を食べ始める。
クリスの作ってくれた和食は、どれも日本で食べたモノと遜色ないか、それ以上であった。
「もぐもぐ…… ところで隊長さん」
「ん?」
「隊長さんって、日本に奥さんも子供も居るんじゃないんすか?」
「ぶはっ」
思わず貞宗が吹き出してしまった。
「為次……(うわ…… 為次のヤロー、クリスさんの前でそれ聞いちゃうか。俺ですら我慢したってのに)」
なんとなく咳払いをしてみる正秀……
「んっ、んん……」
「こっちじゃ、一夫多妻制がデフォとか?」
「いや、そんなことはないが、まあなんだ……」
「ちょっとバカツグ、あんたデリカシーってものは無いの? しかも、クリスさんの前で」
「大丈夫よ、夫から聞いてますから。それも、知ったうえで一緒になったのよ」
「へー」
「誰だって、30年も居れば仕方ないだろう……」
「まあ、そんなもんか」
「……隊長」
「どうした? 水谷」
「隊長は帰ろうとは、思わなかったんですか?」
「……そうだな、初めは俺も帰ろうと思ったさ」
「初めは……」
正秀が少し暗い顔になった。
一方の為次少し真面目に訊く。
「じゃあ、帰れなかったと?」
「ふむ…… では、俺がこの異世界に来てからのことを話そう」
「少し長くなるが、いいか?」
「はい」
「うい」
そして、貞宗は静かに語りだす。
30年も前に、異世界に飛ばされてからのことを……
正秀と為次は、興味深そうに耳を傾けるのであった……
そんな正秀を見ながらマヨーラは思うのだ。
サダムネが元の世界に奥さんが居ても、こっちで結婚したなら、あたしにもチャンスあるわね。うふふ
と……
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