異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが

おっぱいもみもみ怪人

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異世界編 2章

第96話 銘刀

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 今朝はどんよりと黒い雲が空を覆っている。
 今にも雨が降り出しそうだ。
 しかし、黒く不気味な雲は、まだ地面には落ちまいと空に留まっていた。

 「なーんか、雨、降りそうだねぇ」

 「降れば、為次が起きた日以来だな」

 「うん」

 正秀と為次は、ポンタの街の裏口付近で貞宗が来るのを待っていた。
 貞宗邸は正門から、かなり奥の方に位置する。
 街から出るだけでも結構な距離を移動しなければならない。
 だから、不便にならないようにと、数か所だが正門以外の出入り口も設けられている。
 但し、防衛の観点から人が1人通れる程度の小さく頑丈な扉のみとなっている。

 「隊長、ここで待っとけって言っといて、遅いなもー」

 「何してるんだろうな?」

 貞宗に「後で行くから裏口で待っておけ」と、言われた。
 今日から特訓を開始するからだ。
 それでも、かれこれ10分くらいは待ったであろう。

 何もせずに、待つだけの10分は意外と長かった……

 「なあ、待ってる間に少し相談があるんだが、いいか?」

 「めんどくさいことじゃなければ、いいよ」

 「おう、大したことじゃないぜ」

 「何?」

 「お前のさ、ミドルネームあるだろ?」

 「は? みど? ええ?」

 「ほらアレだよ、正義の王子様だろ?」

 「別にそれは……」

 「ジャスティスプリンス、カッコいい響きだぜ」

 「ちょっと何言ってるか……」

 「頼む為次! その名前をくれないか? 俺の大剣の名前にしたいんだ!」

 為次は意味が分からなかった。

 「えっと……(何を言ってるんだコイツは?)」

 「ダメか?」

 「うん…… いいよ、確かにマサの方が似合ってる気がするかも」

 「本当か!? 本当にいいのか?」

 為次は違う意味で面倒臭そうなので、さっさと意味不明な称号を正秀に与えることにした。

 「も、もちろんだよ。マサの背負せおってる大剣にピッタリな名前だよ」

 「うぉぉぉ! やったぜ! 今日からコイツはジャスティスプリンスだっ!」

 正秀は歓喜のあまり、背負っている大剣を掴むと天高く掲げる。

 が……

 ゴロゴロゴロ ビッシャーン!

 「ぎぃやぁぁぁぁぁ……!!」

 「うおっ!?」

 掲げた大剣に雷が落ちてしまった。
 感電する正秀。
 だが、彼の顔は苦痛に歪みながらも、笑っていた。

 「うぉぉぉ、痺れるような名前だぜ」

 「つか、実際に痺れてるような気が……」

 「おおっ、まだビリビリ来るぜ」

 「マサ…… 大丈夫なの?」

 「これくらい平気だぜ。それより為次の刀にも名前を付けようぜ」

 「俺は別に……」

 「だよな、やっぱりカッコいい名前を考えるのは悩むよな」

 「そうじゃないんだけど」

 「良かったら、俺が考えてやろうか?」

 「いっ!? いやいや。いいよ、いいよ」

 「遠慮しなくていいんだぜ」

 為次は焦った。
 このままでは、正秀の訳の分からない美学に付き合わされる。
 それは、面倒臭い。
 否、既に面倒臭い状況だ。

 「ぬぅ(なんとかせねば……)」

 悩む為次は、咄嗟に刀を買った時のことを思い浮かべる。
 確か何かが書いてあったはずだ。

 「あっ、そうだ思い出した。この刀って最初から名前が付いてたわ」

 「何? そうなのか?」

 「そうそう、札に名前が書いてあった」

 「なんてだ?」

 「特売品」

 「と…… とく……?」

 正秀は、それは名前ではないと突っ込みたかった。

 「うん、いい名前だよね」

 「それって……(何を言ってるんだコイツは?)」

 「特売品」

 「いや、2度も言わなくても分かったぜ」

 「うん、特売品」

 「おう、特売品な」

 もっとカッコいい名前にしろと、正秀は言いたい。
 だが、目の前に居る頭のおかしい持ち主は、それで納得している様子だ。
 だから我慢した。

 「「…………」」

 二人は何を話せば良いのか分からなくなってしまった……

 「あーアレだ、えっと…… 隊長まだかな?」

 とりあえず話題を振る正秀。

 「遅いね」

 「早くジャスティスプリンスを振り回したいぜ」

 「そう」

 「為次のそれも……」

 「特売品」

 「おう、特売品」

 「「…………」」

 二人は、もうしばらくのあいだ、その場で貞宗の到来を待つのであった……

 ……………
 ………
 …

 それから更に待つと、ようやく貞宗がやって来た。

 「よう、待たせたな」

 結局、30分は待ったであろうか。
 別段やることも無く暇だったので、正秀は大剣で地面に穴を掘っていた。
 一方、為次はその辺に転がっていた石を積み上げていた。
 まったく意味の無い行為である。

 そんな、子供が入れる程の穴と絶妙なバランスで組上がる石組が完成しようとした時だった……

 「あ、隊長さん来た」

 「隊長、待ちましたよ」

 二人はようやくかと、無駄な作業をやめる。
 と、その拍子にせっかく積み上げた、石のタワーが崩れてしまった!

 ガラ ガラ ガラ

 「あっ! 俺のテレビ塔がぁ!」

 崩れた石が、正秀の掘った穴に転がり込む。

 「ああっ! 俺の栄バスターミナルがっ!」

 どうやら彼らは、栄オアシス21と名古屋テレビ塔を造っていたつもりらしい。
 
 尚、栄オアシス21とは、地下バスターミナルを含めた施設である。
 中心部分は楕円形の吹き抜けになっており、その上に水の張ってある変な天井が被せてある為に、異様な外観をかもし出している。
 基本はバスターミナルだが、幾つかの店舗も地下部分に並ぶ。
 真ん中の吹き抜け部分にはチンケなイベントスペースもあるのだ。
 それと、名前に栄とあるが、実際には東桜に所在しており、訪れる者を惑わすのだ。

 その栄オアシス21だが、戦争が始まってからは、分厚い鉄板で蓋をされてしまい、自衛隊中区・・駐屯地として使われている。
 但し、東桜は東区だ。

 それと、為次の造っていた名古屋テレビ塔であるが。
 これは名古屋のシンボルの一つであり、テレビ塔と言われつつもテレビの電波は送信しない。
 つまり、只の展望タワーであり、繁華街の中心付近ある邪魔くさい鉄塔だ。
 もっとも、昔はテレビ塔として活躍していたのだが、地デジ化と共にその役目を終えた。
 現在、テレビの送信塔は瀬戸に新しく建てられた物を使用しており、瀬戸タワーと呼ばれている。
 ところが、この瀬戸タワーは、これまたへんぴな場所に建てられたせいで、港区の電波が結構悪いと約立たずである。
 
 この名古屋テレビ塔だが、戦争が始まり新型EMP兵器が実用化され電波が使用できなくなると、再び利用されるようになった。
 中区駐屯地の直ぐ近くに建っており、意外と高さもあるのでレーザー通信中継器に改造されてしまった。
 展望台にレーザー発振器を詰め込んだせいで、戦争開始後は観光目的では登ることができない。

 「お前達は、何をやってるんだ?」

 貞宗は二人の謎過ぎる行為のせいで、思わず訊いてしまった。

 「隊長! 聞いてくださいよ、為次の奴が俺のバスターミナルを破壊するんです」

 「はぁ? 何を言っている、水谷よ」

 「違うよ! 隊長さんのせいで、テレビ塔が倒壊したんじゃないっスか」

 「俺がか?」

 「為次がもう少し離れて建設しないからだろっ」

 「はっ、何それ? 俺が最初にここを選んだんでしょ!」

 「造り始めたのは、俺が先だろ!」

 「「ぬぬぬぬぬぅ……」」

 両者は超絶に下らないことで、睨み合う。
 はたから見れば、ガキのケンカにしか見えない愚かな行為である。
 貞宗は呆れていた。

 ……と、そこへ1人の女性が声を掛けてくる。

 「どうしたと言うのだ? 君達はいったい」

 シャルであった。

 「おっ、シャルか」

 「シャル、来てたの?」

 すると、シムリも姉の背中から顔をヒョッコリと出す。

 「へへっ、私も居るんだよ」

 「なんだ、シムリちゃんまで、どうしたんだ?」

 シャルとシムリは昨晩、ご飯食べ終わると帰って行った。
 今日は特に用事がある分けではないが……

 「ふふっ、特訓のお手伝いだ」

 「俺が呼んできたんだ」

 「隊長がですか?」

 「ああ、水谷の剣術指南役としてだ」

 「うむ」

 シャルはかたわらで頷いていた。

 「それで呼びに行っていったら遅くなった、すまなかったな」

 「それは構いませんが、剣術は隊長が教えてくれるのでは?」

 「お前は戦士だ、俺はどうにも大剣が苦手でなぁ」

 「確かに隊長の武器は日本刀ですものね」

 「そうだ、それにシャルの剣捌きの腕前はかなりのものだぞ」

 「ああ、鍛錬は毎日欠かさないからな」

 「なるほど、それじゃあシャル宜しく頼むぜ」

 「うむ、覚悟しておきたまえ、容赦はしないぞ」

 「おう! 遠慮なく頼むぜ」

 「良し決まりだな、では行くぞ」

 「行くって何処にっスか?」

 「街の裏だ。森になっているが、少し行けば開けた場所がある。そこならば、少々暴れても問題は無い」

 「そうスか」

 「よし、では付いて来い」

 貞宗は皆を連れて颯爽と歩きだす。
 が、正秀と為次が付いて来ない。

 「どうかしたのかな? 二人とも」

 二人はシムリを見ていた……

 「おい、何をしている? 行くぞ!」

 「いや…… シムリちゃんは誰の相手をするんだ?」

 「それは、もちろんタメツグさんなんだよ」

 「え? 俺はシムリに教えてもらうの?」

 「……シムリは付いて来ただけだ、山崎の相手は俺だ」

 「どうしても、一緒に行くと聞かなかったものでな。すまない」

 「だって私の王子様の特訓なんだよ、誠心誠意お世話してあげないと」

 「いや…… 大丈夫なんだけど」

 「シムリちゃん…… 悪いがその王子様なんだが……」

 「ん? どうしたのかな、マサヒデさん」

 「正義の王子様、ジャスティスプリンスはこの大剣の名前になったんだぁっ!」

 そう言いながら、正秀は大剣を大空へと再び掲げる!

 「……変な名前なんだね」

 ゴロゴロゴロ ビッシャーン!

 「ぎぃやぁぁぁぁぁ……!!」

 「うおっ!?」

 「ぴぎゃ!?」

 近くに居た為次とシムリは驚いた。
 そんな、またまた落雷で痺れる正秀は思う……

 カッコイイだろ!

 と……

 そんなこんなで、穴と崩れた石は最早もはやどうでもいい正秀と為次であった……
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