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異世界編 3章
第135話 怪火その3
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「ポテト……」
為次は戦闘に参加している皆を見た。
全員ボロボロだ。
命に別状は無さそうであるが、近接戦闘が可能な貞宗とスレイブは腕が欠損している。
ニクミは怪我こそ治っている様子だが、どことなくフラフラしていた。
まともに残っているのはシャルだけである。
「ターナ…… 大丈夫なの?」
「ええ、マヨーラが持って来てくれたポーションを飲んだわ」
ターナは腹の辺りから胸にかけて大火傷をしていた。
大切なおっぱいを焼かれて為次は少々憤慨している。
「まったく持ってけしからんな」
「けしからんのは、お前だ山崎! 話はまだ終わっておらんぞ!」
まだ怒っている貞宗を為次はチラリと見る。
片手で長い刀を振り上げていた。
「んもー。分かったから、また後でね」
「なんだと!」
「それより、まだ魔法使えるのって誰?」
「こら! 無視するな!」
「多分あたしだけね」
マヨーラは何もしていないので、当然元気一杯だ。
「私は魔力切れなんだよ」
一見、元気そうに見えるシムリも魔力が回復するまで使えないらしい。
「私も先程あの人にヒールを使ったのが最後ね」
「クリス…… あなたもですの……」
「まぁ! まさかターナ様まで…… だから私に任せてくれれば……」
「いえ、あそこは私だけじゅうぶんでしたわ。クリス」
「いえいえ、私の夫ですから」
ターナとクリスが睨み合っている。
貞宗はそんな2人を見ると刀を下ろした。
「お前達…… いい加減にしないか」
「あなたは黙っていて下さい!」
「サダムネはタメツグと遊んでいればよろしくってよ」
「な…… お前ら……」
「なんか修羅場になりそうっスね、隊長さんとこ」
「うるさい! 山崎は黙ってろ!」
「はいはい」
仕方なく為次はニクミに話し掛けることにする。
「ねーねー、ニク」
「何かしら? タメツグちゃん」
「魔法は?」
「ごめんなさい、私も無理ねぇ」
「ポーションは?」
「全部使っちゃったわぁん」
「役に立たんな」
「酷いわぁん、タメツグちゃんったら」
「しっかし、また特攻するとはねぇ…… あの木造船じゃ無理でしょ」
「また? タメツグちゃん、またって言ったわよねぇ?」
「言ったよ」
「何か分かったのかしら?」
「まあ色々とね、ダラス船長」
「!? ……やっぱり(あれは本当だったのね)」
「ニクも何か知ってたんでしょ」
「ええ…… 航海日誌の写しがあったわ……」
「ああ、そういうことか」
前々からニクミが何かしら知っているだろうとは為次は思っていた。
今ようやくそれが確信となった。
ニクミも過去を知っていた分けではない。
只、昔話の書かれた本を読んでいただけなのだと。
「ま、とにかく話は後かな。アイツをなんとかしなきゃだね」
為次とニクミはイフリートを見る。
正秀は頑張ってはいるが限界も近そうだ。
「何か手はあるのかしら? タメツグちゃん」
「さーて、どうかなー」
そう言うと、近くに落ちていた石ころを拾った。
「とりゃ」
気を込めて石を投げつける為次。
ヒューンと飛んでいくと、イフリートはこちらをチラリと見て片手で受け止めた。
とても攻撃とは呼べない行為に正秀も思わず手を止めて為次を見る。
「なにやって……」
正秀が叫ぼうとしたが……
更に貞宗の怒声が聞こえてくる。
「山崎ぃ! 貴様なにやってるんだ! 真面目にやらんかぁ!!」
うるさい声に為次は片耳を人差し指で塞ぎながら、適当に返事する。
「あー、はいはい」
「まったく! お前と……!?」
貞宗は文句を言おうとしたが、その言葉は途中で途切れた。
突然イフリートが石を投げ返してきたのだ。
その先にはターナが居る!
先程まではただの石ころだったが、真っ赤に燃え盛り火球となっている。
速度も為次が投げたそれとは比較にならない程の豪速球だ!
「ターナ! 避けろ!」
咄嗟に貞宗は叫ぶも、一瞬の出来事であった。
「え!?」
ターナが気づいた時には既に、火球は目前に迫っていた。
ポーションで怪我はだいぶ癒えてはいたが、未だまともに動ける状態ではない。
目を閉じるのが精一杯だった。
ドカッ!
鈍い音が聞こえる。
だが、痛みも熱さも感じなかった。
ターナは目を開けると為次の背中が見える。
「タ、タメツグ……」
「あ、はい」
為次の右手には燃え盛る石ころが握られている。
寸前で受け止めていたのだ。
「ナイスだぞ、タメツグ君」
シャルが褒めてくれた。
だけど他の皆は少々ご立腹である。
考えも無しに敵を挑発する行為に。
「ちょっとタメツグ、何やってんのよ! 危ないでしょ!」
当然のようにマヨーラに文句を言われた。
「キャッチボールかも」
「そんなこと訊いてないわよっ!」
「そうすか」
そう言って石ころをイフリートに向かって投げ返そうとするが……
手の平の中で砕けてしまった。
「なんでまた投げ返そうとするのよ! バカなの? あ、バカだったわね」
「ぬぅ……」
マヨーラが少々ヒステリック気味になっていると、イフリートもそっちの方を見ている。
「お前の相手は俺だぜ!」
そこへ後ろから正秀は斬りかかった。
ドーン!
爆発が起こるも、まるで後ろに目が有るかのようにイフリートは炎の腕を振りかざしてあしらった。
そのまま続けざまに体勢を崩してしまった正秀を蹴り上げる。
「ぐぁ!」
咄嗟に防御をしようとするが、間に合わなかった。
長くて巨大な大剣は取り回しが悪い。
それに、気が殆ど残っていなかったのだ。
右腕の上から体ごと蹴り飛ばされてしまう正秀。
「うっ! ガハッ!」
かろうじて残り気で炎のダメージは軽減できたものの、腕と肋の骨を折られ地面に叩き付けられてしまった。
そこへイフリートは更に追い討ちをかけようと近づく。
「マサヒデ!」
マヨーラは叫びながら正秀に駆け寄ろうとした。
しかし……
誰かに腕を掴まれ引き戻されてしまう。
振り向くと為次がニヤけた顔で直ぐ後ろに立っている。
「離しなさいよ、タメツグ!」
「まあ、餅付けマヨ」
「うるさい! バカ!」
「俺が行く」
そう言いながら、為次はマヨーラをスレイブへと振り払った。
「きゃぁ」
「スレイブ、マヨ押さえといて」
「はぁ? 俺はまだ腕が一本しかないぞ!」
と、スレイブが言うよりも早く為次はイフリートの懐へと潜り込んでいた。
足元でしゃがみ込んだかと思えば、次の瞬間……
「とりゃ」
飛び上がりながら縦回転蹴りを繰り出した。
いわゆるサマーソルトキックである。
吹っ飛ぶイフリートは数メートルも打ち上げられてしまった。
すかさず追撃に移る為次。
空を蹴ると飛び蹴りをかます。
「うりゃ」
が、今度はガードされしまった。
先程とは違い不意を付けなかった。
両者は、そのまま地面へと着地し相対する。
「おい山崎、殴り合いでは倒せんぞ! これを使え!」
貞宗は自前の刀を差し出そうとした。
だが、為次はそれを拒む。
「長すぎるっスよっ」
「ふざけてる場合か! 言うことを聞け!」
「いいから、もっと離れてよ」
「山崎っ!」
為次は貞宗の呼び掛けを無視してポケットから小瓶を取り出した。
「マサっ」
正秀に向かって放り投げる。
「お? ポーションか。サンキューな為次」
キャッチしてゴクゴクと一気に飲む。
急いで飲んだので口に入れるまで気が付かなかった。
激臭と強烈な苦味が口の中を襲う。
「ゲハッ、ごほっ…… ごほっ…… うぎゃぁ! なんだコレ!?」
それはニクミ特製のヒールポーションであった。
宇宙へと飛び立つ時に、こっそりと渡された物である。
「どう? 美味しいでしょ」
「何、飲ませんだよ! 腐ってるぞ、大丈夫なのか?」
「さあ?」
「さあ…… って! ヤベーだろ!」
正秀は怒って為次に詰め寄る。
「どう? 動けるでしょ?」
「は……?」
言われて気がついた。
結構なダメージを喰らい、気も残り僅かだというのに確かに体の調子は悪くない。
「まだやれそう?」
「おおっ! スゲーぜ。これなら、まだ戦えるぜ」
「よしゃ、次で終わらそう」
「……作戦でもあるのか?」
「まあね。マサは、もう一度アイツを打ち上げてちょ」
「おう、それくらいなら任せな」
「じゃ、よろ」
「行くぜ!」
再びイフリートへと突撃する正秀。
その間に為次は持って来ていた無線機を取り出すとコールボタンを押す。
と、スイの声が聞こえてくる……
「スイなのです」
「もしもしぃ、聞こえるー?」
「聞こえますです」
「もしもしぃ、次にマサが飛ばした時によろ」
「はいです」
無線を切ると距離を取って正秀の戦いを眺める。
気力も少しだが、ニクミポーションで回復している様子だ。
中々に健闘している。
「はりゃぁ」
大剣を銃剣の構えで持ち、チマチマと突きを交えた攻撃を繰り出す。
ダメージこそ期待できないものの、意外と鬱陶しい。
「オラ、オラ、オラ、どうだっ!」
そうこうしている内にイフリートもイライラしてきたのだろう、「ウォォォ!」と叫び声を上げると灼熱の蹴りを出した。
正秀はそれを大剣の平で受け止める。
と、同時に気を一気に流し込む。
ドーン!
爆発と炎が混じり合い、爆炎が辺りを灼熱の地獄へと変える。
お互いに弾き飛ばされ距離が離れた。
すかさず正秀は煙の中へと突っ込み、一気に距離を縮めると同時に鋭い突きを放った…… かに思われた。
イフリートは突きに合わせてカウンターで殴りかかる。
だが、突きではなかった。
剣先かと思われたのは柄の方であったのだ。
パンチを屈んで避ける正秀は、後方へ向けていた大剣を思いっ切り下から上へとフルスイングだ!
「どりゃぁぁぁぁぁ!!」
カウンターパンチへ更にカウンター斬りが炸裂だ。
避けることができないイフリートに大剣の斬り上げが華麗に決まった。
ドッゴォォォッン!!
巨大な爆発。
それは残りの気をすべての使った全身全霊の最後の一撃であった。
それでもイフリートへのダメージは微々たるものだ。
炎の鎧が殆どの爆発を防いでしまう。
「いっけぇぇぇっ!」
ダメージは期待できない。
が、空中へと舞い上がるイフリート。
為次のサマーソルトより数倍高く舞い上がった。
その光景を皆は、声も出さずに唖然と見上げるのであった……
※ ※ ※ ※ ※
その頃スイは……
「そこなのですっ!」
射撃サイトを必死に覗き込み、発射ボタンを押していた。
為次は戦闘に参加している皆を見た。
全員ボロボロだ。
命に別状は無さそうであるが、近接戦闘が可能な貞宗とスレイブは腕が欠損している。
ニクミは怪我こそ治っている様子だが、どことなくフラフラしていた。
まともに残っているのはシャルだけである。
「ターナ…… 大丈夫なの?」
「ええ、マヨーラが持って来てくれたポーションを飲んだわ」
ターナは腹の辺りから胸にかけて大火傷をしていた。
大切なおっぱいを焼かれて為次は少々憤慨している。
「まったく持ってけしからんな」
「けしからんのは、お前だ山崎! 話はまだ終わっておらんぞ!」
まだ怒っている貞宗を為次はチラリと見る。
片手で長い刀を振り上げていた。
「んもー。分かったから、また後でね」
「なんだと!」
「それより、まだ魔法使えるのって誰?」
「こら! 無視するな!」
「多分あたしだけね」
マヨーラは何もしていないので、当然元気一杯だ。
「私は魔力切れなんだよ」
一見、元気そうに見えるシムリも魔力が回復するまで使えないらしい。
「私も先程あの人にヒールを使ったのが最後ね」
「クリス…… あなたもですの……」
「まぁ! まさかターナ様まで…… だから私に任せてくれれば……」
「いえ、あそこは私だけじゅうぶんでしたわ。クリス」
「いえいえ、私の夫ですから」
ターナとクリスが睨み合っている。
貞宗はそんな2人を見ると刀を下ろした。
「お前達…… いい加減にしないか」
「あなたは黙っていて下さい!」
「サダムネはタメツグと遊んでいればよろしくってよ」
「な…… お前ら……」
「なんか修羅場になりそうっスね、隊長さんとこ」
「うるさい! 山崎は黙ってろ!」
「はいはい」
仕方なく為次はニクミに話し掛けることにする。
「ねーねー、ニク」
「何かしら? タメツグちゃん」
「魔法は?」
「ごめんなさい、私も無理ねぇ」
「ポーションは?」
「全部使っちゃったわぁん」
「役に立たんな」
「酷いわぁん、タメツグちゃんったら」
「しっかし、また特攻するとはねぇ…… あの木造船じゃ無理でしょ」
「また? タメツグちゃん、またって言ったわよねぇ?」
「言ったよ」
「何か分かったのかしら?」
「まあ色々とね、ダラス船長」
「!? ……やっぱり(あれは本当だったのね)」
「ニクも何か知ってたんでしょ」
「ええ…… 航海日誌の写しがあったわ……」
「ああ、そういうことか」
前々からニクミが何かしら知っているだろうとは為次は思っていた。
今ようやくそれが確信となった。
ニクミも過去を知っていた分けではない。
只、昔話の書かれた本を読んでいただけなのだと。
「ま、とにかく話は後かな。アイツをなんとかしなきゃだね」
為次とニクミはイフリートを見る。
正秀は頑張ってはいるが限界も近そうだ。
「何か手はあるのかしら? タメツグちゃん」
「さーて、どうかなー」
そう言うと、近くに落ちていた石ころを拾った。
「とりゃ」
気を込めて石を投げつける為次。
ヒューンと飛んでいくと、イフリートはこちらをチラリと見て片手で受け止めた。
とても攻撃とは呼べない行為に正秀も思わず手を止めて為次を見る。
「なにやって……」
正秀が叫ぼうとしたが……
更に貞宗の怒声が聞こえてくる。
「山崎ぃ! 貴様なにやってるんだ! 真面目にやらんかぁ!!」
うるさい声に為次は片耳を人差し指で塞ぎながら、適当に返事する。
「あー、はいはい」
「まったく! お前と……!?」
貞宗は文句を言おうとしたが、その言葉は途中で途切れた。
突然イフリートが石を投げ返してきたのだ。
その先にはターナが居る!
先程まではただの石ころだったが、真っ赤に燃え盛り火球となっている。
速度も為次が投げたそれとは比較にならない程の豪速球だ!
「ターナ! 避けろ!」
咄嗟に貞宗は叫ぶも、一瞬の出来事であった。
「え!?」
ターナが気づいた時には既に、火球は目前に迫っていた。
ポーションで怪我はだいぶ癒えてはいたが、未だまともに動ける状態ではない。
目を閉じるのが精一杯だった。
ドカッ!
鈍い音が聞こえる。
だが、痛みも熱さも感じなかった。
ターナは目を開けると為次の背中が見える。
「タ、タメツグ……」
「あ、はい」
為次の右手には燃え盛る石ころが握られている。
寸前で受け止めていたのだ。
「ナイスだぞ、タメツグ君」
シャルが褒めてくれた。
だけど他の皆は少々ご立腹である。
考えも無しに敵を挑発する行為に。
「ちょっとタメツグ、何やってんのよ! 危ないでしょ!」
当然のようにマヨーラに文句を言われた。
「キャッチボールかも」
「そんなこと訊いてないわよっ!」
「そうすか」
そう言って石ころをイフリートに向かって投げ返そうとするが……
手の平の中で砕けてしまった。
「なんでまた投げ返そうとするのよ! バカなの? あ、バカだったわね」
「ぬぅ……」
マヨーラが少々ヒステリック気味になっていると、イフリートもそっちの方を見ている。
「お前の相手は俺だぜ!」
そこへ後ろから正秀は斬りかかった。
ドーン!
爆発が起こるも、まるで後ろに目が有るかのようにイフリートは炎の腕を振りかざしてあしらった。
そのまま続けざまに体勢を崩してしまった正秀を蹴り上げる。
「ぐぁ!」
咄嗟に防御をしようとするが、間に合わなかった。
長くて巨大な大剣は取り回しが悪い。
それに、気が殆ど残っていなかったのだ。
右腕の上から体ごと蹴り飛ばされてしまう正秀。
「うっ! ガハッ!」
かろうじて残り気で炎のダメージは軽減できたものの、腕と肋の骨を折られ地面に叩き付けられてしまった。
そこへイフリートは更に追い討ちをかけようと近づく。
「マサヒデ!」
マヨーラは叫びながら正秀に駆け寄ろうとした。
しかし……
誰かに腕を掴まれ引き戻されてしまう。
振り向くと為次がニヤけた顔で直ぐ後ろに立っている。
「離しなさいよ、タメツグ!」
「まあ、餅付けマヨ」
「うるさい! バカ!」
「俺が行く」
そう言いながら、為次はマヨーラをスレイブへと振り払った。
「きゃぁ」
「スレイブ、マヨ押さえといて」
「はぁ? 俺はまだ腕が一本しかないぞ!」
と、スレイブが言うよりも早く為次はイフリートの懐へと潜り込んでいた。
足元でしゃがみ込んだかと思えば、次の瞬間……
「とりゃ」
飛び上がりながら縦回転蹴りを繰り出した。
いわゆるサマーソルトキックである。
吹っ飛ぶイフリートは数メートルも打ち上げられてしまった。
すかさず追撃に移る為次。
空を蹴ると飛び蹴りをかます。
「うりゃ」
が、今度はガードされしまった。
先程とは違い不意を付けなかった。
両者は、そのまま地面へと着地し相対する。
「おい山崎、殴り合いでは倒せんぞ! これを使え!」
貞宗は自前の刀を差し出そうとした。
だが、為次はそれを拒む。
「長すぎるっスよっ」
「ふざけてる場合か! 言うことを聞け!」
「いいから、もっと離れてよ」
「山崎っ!」
為次は貞宗の呼び掛けを無視してポケットから小瓶を取り出した。
「マサっ」
正秀に向かって放り投げる。
「お? ポーションか。サンキューな為次」
キャッチしてゴクゴクと一気に飲む。
急いで飲んだので口に入れるまで気が付かなかった。
激臭と強烈な苦味が口の中を襲う。
「ゲハッ、ごほっ…… ごほっ…… うぎゃぁ! なんだコレ!?」
それはニクミ特製のヒールポーションであった。
宇宙へと飛び立つ時に、こっそりと渡された物である。
「どう? 美味しいでしょ」
「何、飲ませんだよ! 腐ってるぞ、大丈夫なのか?」
「さあ?」
「さあ…… って! ヤベーだろ!」
正秀は怒って為次に詰め寄る。
「どう? 動けるでしょ?」
「は……?」
言われて気がついた。
結構なダメージを喰らい、気も残り僅かだというのに確かに体の調子は悪くない。
「まだやれそう?」
「おおっ! スゲーぜ。これなら、まだ戦えるぜ」
「よしゃ、次で終わらそう」
「……作戦でもあるのか?」
「まあね。マサは、もう一度アイツを打ち上げてちょ」
「おう、それくらいなら任せな」
「じゃ、よろ」
「行くぜ!」
再びイフリートへと突撃する正秀。
その間に為次は持って来ていた無線機を取り出すとコールボタンを押す。
と、スイの声が聞こえてくる……
「スイなのです」
「もしもしぃ、聞こえるー?」
「聞こえますです」
「もしもしぃ、次にマサが飛ばした時によろ」
「はいです」
無線を切ると距離を取って正秀の戦いを眺める。
気力も少しだが、ニクミポーションで回復している様子だ。
中々に健闘している。
「はりゃぁ」
大剣を銃剣の構えで持ち、チマチマと突きを交えた攻撃を繰り出す。
ダメージこそ期待できないものの、意外と鬱陶しい。
「オラ、オラ、オラ、どうだっ!」
そうこうしている内にイフリートもイライラしてきたのだろう、「ウォォォ!」と叫び声を上げると灼熱の蹴りを出した。
正秀はそれを大剣の平で受け止める。
と、同時に気を一気に流し込む。
ドーン!
爆発と炎が混じり合い、爆炎が辺りを灼熱の地獄へと変える。
お互いに弾き飛ばされ距離が離れた。
すかさず正秀は煙の中へと突っ込み、一気に距離を縮めると同時に鋭い突きを放った…… かに思われた。
イフリートは突きに合わせてカウンターで殴りかかる。
だが、突きではなかった。
剣先かと思われたのは柄の方であったのだ。
パンチを屈んで避ける正秀は、後方へ向けていた大剣を思いっ切り下から上へとフルスイングだ!
「どりゃぁぁぁぁぁ!!」
カウンターパンチへ更にカウンター斬りが炸裂だ。
避けることができないイフリートに大剣の斬り上げが華麗に決まった。
ドッゴォォォッン!!
巨大な爆発。
それは残りの気をすべての使った全身全霊の最後の一撃であった。
それでもイフリートへのダメージは微々たるものだ。
炎の鎧が殆どの爆発を防いでしまう。
「いっけぇぇぇっ!」
ダメージは期待できない。
が、空中へと舞い上がるイフリート。
為次のサマーソルトより数倍高く舞い上がった。
その光景を皆は、声も出さずに唖然と見上げるのであった……
※ ※ ※ ※ ※
その頃スイは……
「そこなのですっ!」
射撃サイトを必死に覗き込み、発射ボタンを押していた。
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