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異世界編 3章
第134話 怪火その2
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あまりの突然の攻撃に、シムリはマジックシールドを展開する暇がなかった。
目の前には禍々しい炎の腕が襲い来る。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「シムリっ!」
咄嗟に庇ったのはスレイブであった。
大剣を手放しシムリを突き飛ばす。
「きゃっ!?」
スレイブは振り向くと、目の前に炎が迫ったいた。
成す術がなかった。
左腕で顔を庇うのがやっとだった。
「ぐぁぁぁぁぁっ!」
「スレイブさんっ!」
灼熱に焼かれるスレイブ。
シムリはその光景を恐怖のまなざしで眺めることしかできなかった。
「お姉ちゃんっ、スレイブさんがっ! スレイブさんがぁっ!」
「今行くぞ! シムリっ魔法をっ」
ロングソードで斬りかかるも、魔法の支援はなかった。
マジックシールドに斬撃が阻まれてしまう。
「シムリっ、何をしている!」
シムリは恐怖に怯え、スレイブを見ていた。
左腕が焼け落ち左脇まで焼かれ肋まで見えている。
「スレイブ。直ぐにヒールをかけますわ」
そこへターナは駆け寄り魔法を唱えようとする。
しかし……
「オマエカ……」
「え?」
ターナは不気味な声の主を振り返る。
すぐ後ろには笑った顔で自分を見るイフリートが立っていた。
「あ……」
イフリートはターナに手を伸ばすと、体を握り締め持ち上げる。
逃げる間もなかった、灼熱の腕に体が焼けそうだ。
実際、胸元から腹部にかけて焼けただれている。
「いぎゃぁぁぁ! ひぃぃぃ…… あっあっあがぁ!?」
ターナ悲痛な叫びが響き渡る。
貞宗は助けに行こうとしたが、イフリートは炎の腕を払うと火炎が飛んできた。
防御するのが精一杯であった。
「くぁっ、ターナぁぁぁ!」
「あっ、熱い…… だ、誰か…… ひぎぃぃぃ!」
ターナが焼かれていく……
と、その時だった!
ジャジャーン!!
「ダイナマイツ! どどーんだぜぇぇぇ!」
上空から謎の掛け声が聞こえて来た。
同時に……
ドドドドーン!!
巨大な爆発が発生した。
イフリート諸とも周囲の皆は吹っ飛ぶ!
拍子にターナも掴まれていた腕から離れ、吹っ飛ぶ。
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
「くそっ、今度はなんだ!?」
貞宗も爆風に煽られながらもなんとか堪えた。
土埃によって視界が悪いも、人影が見える。
大剣を片手に持ち、もう片方は少女を脇に抱えながら変なポーズ取っている。
紛れもない……
彼こそが正義の味方、大剣マスター水谷マン!
僕らを助けに颯爽と現れたヒーローなのだ!
などと正秀は悦に浸っていた。
「マサヒデ、もう降ろしてもいいわよ」
「おう」
抱っこされているのも悪くないと思うマヨーラだが、そういう分けにも行かない。
スイから預かったヒールポーションを皆に配らないとだから。
「みんなー、ポーションよー」
正秀は空中走行中の戦車から飛び降りた。
マヨーラを抱えながら。
上空からみると、ちょうどイフリートに皆がボコスカにやられている最中であった。
為次に降りろと言うも、レオパルト2が壊されるとヤダからと拒否されてしまった。
仕方ないので、一緒に行くと駄々をこねるマヨーラを連れて降下したのであった。
「水谷! やっと戻って来やがったか」
貰ったポーションをゴクゴクと飲みながら貞宗は言った。
先程、2人同時にヒールをかけてもらったから、腕が生えかけているだけであまり効果はないが……
「隊長、遅くなってすいません」
「山崎はどうした?」
「為次なら向こうにレオを駐車して来ると言ってましたよ」
「なんだと…… ったく、何やってんだ」
「へへっ、俺に任せて下さいよ」
「頼んだわよ、マサヒデ。ほらスレイブも早く飲みなさい」
マヨーラはスレイブにポーションを飲ませながら応援していた。
傍らにはシムリが涙を流しながら寄り添っている。
「うぅ…… スレイブさん、私のせいで……」
「だ、大丈夫だ。いちいちそんな顔するんじゃねぇ」
「あらスレイブ、思ったより元気そうじゃない」
「うるせー、早く寄こせ」
「分かってるわよ……」
スレイブはポーションを奪うようにマヨーラから取り上げると一気に飲み干す」
「ゴクゴク…… ぷはー!」
「さ、後はマサヒデに任せて、あたし達は見学してましょ」
「バカ野郎、マサヒデだけに任せておけるかっ」
ポーションを飲んでも腕が直ぐに生えてくる分けでもない。
激痛に耐えながらもスレイブは立ち上がろうとする。
「駄目なんだよスレイブさん! 怪我が酷すぎるんだよ」
シムリは抱き付き、スレイブを必死に静止した。
怪我も体力も回復していないので、華奢な少女にすら抵抗できない。
立ち上がれずに地面へと座り込んだ。
「はなせっ! シムリっ!」
「絶対に放さないんだよ! それに、ほらっ」
ドドーン!
爆音が聞こえる。
見ると正秀はイフリートと互角に戦っていた。
大剣を華麗に操り、一振りごとに爆発を発生させている。
もう、人間技とは思えない戦いっぷりだ。
「ちきしょう……」
それを見たスレイブは、悔しそうに歯ぎしりをするしかなかった……
……………
………
…
しばらくして……
正秀とイフリートの戦いは進展していなかった。
共に有効打を与えられていなかったから。
「くっそ、硬い奴なんだぜ! っと、うりゃ!」
ドーン!
爆発が火炎に遮られる。
イフリートに纏わり付く炎がスラットアーマーの役目を果たしていた。
尚、スラットアーマーとは戦車などに付ける網状の装甲である。
対戦車ミサイルなど科学エネルギー弾を着弾前に爆発させてしまい、無力化する装甲だ。
「ハァ…… ハァ…… 流石に着かれてきたぜ……」
「マサヒデー、頑張ってちょうだぁい! そんな奴はさっさと倒すのよー」
マヨーラの声援が聞こえるも、少々ヤバくなってきた。
気力による攻撃と防御の繰り返しで、そう長くは保たないと本人も分かっていたから。
それでも、元気いっぱいで応える。
「おう! 任せときな!」
ドーン! ドドーン!
爆発攻撃が続く……
と、そこへ一人の男が向こうから走って来た。
本人は走っているつもりだろうが、既にヘロヘロで歩いている速度と変わりがない。
「ぜぇ…… ぜぇ…… つ、疲れた……」
立ち止まると両膝に手を付き、時折戻しそうになっている。
「うぉぇっぷ……… ハァ…… ハァ……」
為次だった。
「あらタメツグちゃん。来てくれたのねぇん」
ニクミが嬉しそうに近づいてきた。
貞宗も待ちわびたといった様子である。
「山崎! 今頃来たのか? 遅いぞっ」
「あ、隊長さん…… はぁ、はぁ……」
「何をしてたんだ?」
「あっちに…… レオを駐車して来たっス」
「なんだと! なぜ持ってこない?」
「壊れるとやだから」
「バカ野郎! それに奴隷の娘はどうした?」
「レオの見張り番っス」
「ぐっ…… 貴様は……」
戦力になりそうな戦車と戦魔道士を置いてきた為次に、貞宗は今にも怒りが爆発しそうだった。
しかし、ここで怒鳴って為次が機嫌を損ねても困る。
属性が炎である為に、炎耐性も持っているのでイフリート戦にはもってこいの人物だから。
仕方ないので必死に我慢する。
「ま、まあ…… いい。それより刀はどうした?」
「走って来るのに重いでしょ」
ブチッ
「サダムネさんブチって言ったんだよ」
「あなた…… 落ち着いて下さい……」
「あーあ、タメツグったら、またサダムネを怒らせて……」
「ふふっ、困った子ね」
ターナは困ったと言いながらも笑っていた。
何故か分からないが、タメツグを見て安心していた。
彼なら現状を、どうにかしてくれると思えたから。
「ヤァァァマァァァザキィィィ!! 俺は今、片腕だ。だがなぁっ! 貴様の首を刎ねるなんぞこれでじゅうぶんだぁ!」
そう言いながら貞宗は鞘を口で咥え刀を抜き取った。
「あ、ちょ、待って隊長さん…… 少し冷静に……」
「安心しろ、俺はいつだって冷静だ。お前の首を斬り落としてから繋げ直せば、きっと真人間になるずだ。ありがたく思え」
「いやいや…… 死んじゃうって」
「それはやってみないと分からないだろ?」
貞宗の目がマジになっている。
このままでは本当に目の前に居る少年姿のおっさんに殺されると為次は思った。
なんとか話題を変えなくてはならない。
「あ…… えっと…… ほらあれ。向こうにいっぱい居る冒険者は? 戦わないの?」
遠目に冒険者集団が居るのが確認できた。
かなりの数が一塊になってこちらを見ている。
「タメツグちゃん…… あの子達はもう駄目なのよぉ」
「あの腑抜け連中め……」
スレイブは悔しそうに遠くの冒険者達を見ていた。
戦う気はあるのに体が思うように動かない。
せめて誰か1人でもやって来てサポートしてくれれば思っていた。
「どうかしたの?」
為次は訊いた。
「周りを見てみろ」
貞宗は長い刀で近くにあった黒い塊を指した。
「なんだこれ?」
よく見ると、その塊は人の形をしていた。
辺りを見渡すと同じような黒い塊が幾つも落ちている。
「まさか……」
「そのまさかだ……」
どうやらイフリートに殺られた冒険者らしい。
数百はあるだろうか? とてもすぐには数えられない程の真っ黒な消し炭と化した物があちこちにある。
それを見た瞬間に理解できた。
生き残った冒険者達は既に戦意を喪失していることを……
「なんだこりゃ……」
為次は死体を見たのが初めてという分けではない。
戦争をしていたので当然だ。
むしろ毎日と言っていいほど見ていた。
だけど、ここまで見事にまっ黒焦げなのは珍しい。
焼死体といえども焼けているのは表面だけで、どれもが生焼けなのだ。
車両火災などは放水で消化後に死体を救出すれば全身肌色である。
すべての衣類と毛が焼け落ちてツルツルの綺麗な人だった物が出てくる。
「分かるだろ? 山崎。ヤツの相手はお前にしかできねぇ」
「こりゃ、相当な火力っスねぇ……」
完全に炭化した死体に為次は驚くのであった……
目の前には禍々しい炎の腕が襲い来る。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「シムリっ!」
咄嗟に庇ったのはスレイブであった。
大剣を手放しシムリを突き飛ばす。
「きゃっ!?」
スレイブは振り向くと、目の前に炎が迫ったいた。
成す術がなかった。
左腕で顔を庇うのがやっとだった。
「ぐぁぁぁぁぁっ!」
「スレイブさんっ!」
灼熱に焼かれるスレイブ。
シムリはその光景を恐怖のまなざしで眺めることしかできなかった。
「お姉ちゃんっ、スレイブさんがっ! スレイブさんがぁっ!」
「今行くぞ! シムリっ魔法をっ」
ロングソードで斬りかかるも、魔法の支援はなかった。
マジックシールドに斬撃が阻まれてしまう。
「シムリっ、何をしている!」
シムリは恐怖に怯え、スレイブを見ていた。
左腕が焼け落ち左脇まで焼かれ肋まで見えている。
「スレイブ。直ぐにヒールをかけますわ」
そこへターナは駆け寄り魔法を唱えようとする。
しかし……
「オマエカ……」
「え?」
ターナは不気味な声の主を振り返る。
すぐ後ろには笑った顔で自分を見るイフリートが立っていた。
「あ……」
イフリートはターナに手を伸ばすと、体を握り締め持ち上げる。
逃げる間もなかった、灼熱の腕に体が焼けそうだ。
実際、胸元から腹部にかけて焼けただれている。
「いぎゃぁぁぁ! ひぃぃぃ…… あっあっあがぁ!?」
ターナ悲痛な叫びが響き渡る。
貞宗は助けに行こうとしたが、イフリートは炎の腕を払うと火炎が飛んできた。
防御するのが精一杯であった。
「くぁっ、ターナぁぁぁ!」
「あっ、熱い…… だ、誰か…… ひぎぃぃぃ!」
ターナが焼かれていく……
と、その時だった!
ジャジャーン!!
「ダイナマイツ! どどーんだぜぇぇぇ!」
上空から謎の掛け声が聞こえて来た。
同時に……
ドドドドーン!!
巨大な爆発が発生した。
イフリート諸とも周囲の皆は吹っ飛ぶ!
拍子にターナも掴まれていた腕から離れ、吹っ飛ぶ。
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
「くそっ、今度はなんだ!?」
貞宗も爆風に煽られながらもなんとか堪えた。
土埃によって視界が悪いも、人影が見える。
大剣を片手に持ち、もう片方は少女を脇に抱えながら変なポーズ取っている。
紛れもない……
彼こそが正義の味方、大剣マスター水谷マン!
僕らを助けに颯爽と現れたヒーローなのだ!
などと正秀は悦に浸っていた。
「マサヒデ、もう降ろしてもいいわよ」
「おう」
抱っこされているのも悪くないと思うマヨーラだが、そういう分けにも行かない。
スイから預かったヒールポーションを皆に配らないとだから。
「みんなー、ポーションよー」
正秀は空中走行中の戦車から飛び降りた。
マヨーラを抱えながら。
上空からみると、ちょうどイフリートに皆がボコスカにやられている最中であった。
為次に降りろと言うも、レオパルト2が壊されるとヤダからと拒否されてしまった。
仕方ないので、一緒に行くと駄々をこねるマヨーラを連れて降下したのであった。
「水谷! やっと戻って来やがったか」
貰ったポーションをゴクゴクと飲みながら貞宗は言った。
先程、2人同時にヒールをかけてもらったから、腕が生えかけているだけであまり効果はないが……
「隊長、遅くなってすいません」
「山崎はどうした?」
「為次なら向こうにレオを駐車して来ると言ってましたよ」
「なんだと…… ったく、何やってんだ」
「へへっ、俺に任せて下さいよ」
「頼んだわよ、マサヒデ。ほらスレイブも早く飲みなさい」
マヨーラはスレイブにポーションを飲ませながら応援していた。
傍らにはシムリが涙を流しながら寄り添っている。
「うぅ…… スレイブさん、私のせいで……」
「だ、大丈夫だ。いちいちそんな顔するんじゃねぇ」
「あらスレイブ、思ったより元気そうじゃない」
「うるせー、早く寄こせ」
「分かってるわよ……」
スレイブはポーションを奪うようにマヨーラから取り上げると一気に飲み干す」
「ゴクゴク…… ぷはー!」
「さ、後はマサヒデに任せて、あたし達は見学してましょ」
「バカ野郎、マサヒデだけに任せておけるかっ」
ポーションを飲んでも腕が直ぐに生えてくる分けでもない。
激痛に耐えながらもスレイブは立ち上がろうとする。
「駄目なんだよスレイブさん! 怪我が酷すぎるんだよ」
シムリは抱き付き、スレイブを必死に静止した。
怪我も体力も回復していないので、華奢な少女にすら抵抗できない。
立ち上がれずに地面へと座り込んだ。
「はなせっ! シムリっ!」
「絶対に放さないんだよ! それに、ほらっ」
ドドーン!
爆音が聞こえる。
見ると正秀はイフリートと互角に戦っていた。
大剣を華麗に操り、一振りごとに爆発を発生させている。
もう、人間技とは思えない戦いっぷりだ。
「ちきしょう……」
それを見たスレイブは、悔しそうに歯ぎしりをするしかなかった……
……………
………
…
しばらくして……
正秀とイフリートの戦いは進展していなかった。
共に有効打を与えられていなかったから。
「くっそ、硬い奴なんだぜ! っと、うりゃ!」
ドーン!
爆発が火炎に遮られる。
イフリートに纏わり付く炎がスラットアーマーの役目を果たしていた。
尚、スラットアーマーとは戦車などに付ける網状の装甲である。
対戦車ミサイルなど科学エネルギー弾を着弾前に爆発させてしまい、無力化する装甲だ。
「ハァ…… ハァ…… 流石に着かれてきたぜ……」
「マサヒデー、頑張ってちょうだぁい! そんな奴はさっさと倒すのよー」
マヨーラの声援が聞こえるも、少々ヤバくなってきた。
気力による攻撃と防御の繰り返しで、そう長くは保たないと本人も分かっていたから。
それでも、元気いっぱいで応える。
「おう! 任せときな!」
ドーン! ドドーン!
爆発攻撃が続く……
と、そこへ一人の男が向こうから走って来た。
本人は走っているつもりだろうが、既にヘロヘロで歩いている速度と変わりがない。
「ぜぇ…… ぜぇ…… つ、疲れた……」
立ち止まると両膝に手を付き、時折戻しそうになっている。
「うぉぇっぷ……… ハァ…… ハァ……」
為次だった。
「あらタメツグちゃん。来てくれたのねぇん」
ニクミが嬉しそうに近づいてきた。
貞宗も待ちわびたといった様子である。
「山崎! 今頃来たのか? 遅いぞっ」
「あ、隊長さん…… はぁ、はぁ……」
「何をしてたんだ?」
「あっちに…… レオを駐車して来たっス」
「なんだと! なぜ持ってこない?」
「壊れるとやだから」
「バカ野郎! それに奴隷の娘はどうした?」
「レオの見張り番っス」
「ぐっ…… 貴様は……」
戦力になりそうな戦車と戦魔道士を置いてきた為次に、貞宗は今にも怒りが爆発しそうだった。
しかし、ここで怒鳴って為次が機嫌を損ねても困る。
属性が炎である為に、炎耐性も持っているのでイフリート戦にはもってこいの人物だから。
仕方ないので必死に我慢する。
「ま、まあ…… いい。それより刀はどうした?」
「走って来るのに重いでしょ」
ブチッ
「サダムネさんブチって言ったんだよ」
「あなた…… 落ち着いて下さい……」
「あーあ、タメツグったら、またサダムネを怒らせて……」
「ふふっ、困った子ね」
ターナは困ったと言いながらも笑っていた。
何故か分からないが、タメツグを見て安心していた。
彼なら現状を、どうにかしてくれると思えたから。
「ヤァァァマァァァザキィィィ!! 俺は今、片腕だ。だがなぁっ! 貴様の首を刎ねるなんぞこれでじゅうぶんだぁ!」
そう言いながら貞宗は鞘を口で咥え刀を抜き取った。
「あ、ちょ、待って隊長さん…… 少し冷静に……」
「安心しろ、俺はいつだって冷静だ。お前の首を斬り落としてから繋げ直せば、きっと真人間になるずだ。ありがたく思え」
「いやいや…… 死んじゃうって」
「それはやってみないと分からないだろ?」
貞宗の目がマジになっている。
このままでは本当に目の前に居る少年姿のおっさんに殺されると為次は思った。
なんとか話題を変えなくてはならない。
「あ…… えっと…… ほらあれ。向こうにいっぱい居る冒険者は? 戦わないの?」
遠目に冒険者集団が居るのが確認できた。
かなりの数が一塊になってこちらを見ている。
「タメツグちゃん…… あの子達はもう駄目なのよぉ」
「あの腑抜け連中め……」
スレイブは悔しそうに遠くの冒険者達を見ていた。
戦う気はあるのに体が思うように動かない。
せめて誰か1人でもやって来てサポートしてくれれば思っていた。
「どうかしたの?」
為次は訊いた。
「周りを見てみろ」
貞宗は長い刀で近くにあった黒い塊を指した。
「なんだこれ?」
よく見ると、その塊は人の形をしていた。
辺りを見渡すと同じような黒い塊が幾つも落ちている。
「まさか……」
「そのまさかだ……」
どうやらイフリートに殺られた冒険者らしい。
数百はあるだろうか? とてもすぐには数えられない程の真っ黒な消し炭と化した物があちこちにある。
それを見た瞬間に理解できた。
生き残った冒険者達は既に戦意を喪失していることを……
「なんだこりゃ……」
為次は死体を見たのが初めてという分けではない。
戦争をしていたので当然だ。
むしろ毎日と言っていいほど見ていた。
だけど、ここまで見事にまっ黒焦げなのは珍しい。
焼死体といえども焼けているのは表面だけで、どれもが生焼けなのだ。
車両火災などは放水で消化後に死体を救出すれば全身肌色である。
すべての衣類と毛が焼け落ちてツルツルの綺麗な人だった物が出てくる。
「分かるだろ? 山崎。ヤツの相手はお前にしかできねぇ」
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