異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが

おっぱいもみもみ怪人

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異世界編 3章

第140話 別れ

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 ―― サイクス上空

 ポンタの街を出発し王都サイクスへは1時間もかからずに到着した。
 行きの陸路とは違い、一直線に飛行して来たからだ。

 「では、わたくし達は駐機場へ向かうので、ここでお別れですわ。神殿には案内の者を用意していますので」

 「分かったわターナ、あたしも後でギルドに行くから」

 「ええ、では後ほど」

 上空で鏡を使いマヨーラとターナが通信をしていた。
 ターナ達は連絡艇が駐機場に降りたらギルドへ向うと言っていた。

 一方のレオパルト2は王宮が目的地である。
 直接、神殿前に降りることにしたのだった。

 ……………
 ………
 …

 「着いた」

 神殿の近くで高度を下げると、下には人影が見える。
 それは見知った人物であった。
 金髪の超絶美青年ガザフである。

 神殿前の広場に着陸するとタンククルーの皆は、ぞろぞろと降車を始めた。
 今回は入場証を持っていないが、空を飛んで来たので門兵とのゴタゴタは無かった。
 もっとも、今の正秀と為次ならば力技でゴリ押しも用意であろう。

 「やあ、皆さん。おはよう」

 「おう、おはようだぜ」

 「案内人ってガザフなの?」

 「そうだよタメツグ君。ターナに頼まれてね」

 元主が目の前に居るので、スイは思わず為次の背中に隠れてしまう。

 「あ…… ガザフ様…… おはようございます」

 「やあ、スイも元気そうだね」

 「は、はい……」

 「ねぇちょっと」

 「なんだい?」

 「今度はあたしも一緒に行くわよ」

 マヨーラは正秀と為次が加護を受けた帰りに、追い返されたのを思い出して言った。

 「ははっ、大丈夫だよマヨーラ。君も今ではタメツグ君達の仲間のようだしね」

 「ならいいけど……」

 「サーサラに会いに行くんだよね。では、早速行こうか」

 「おう、頼んだぜ」

 「よろ」

 皆はガザフに連れられて、神殿の中へと入って行く。

 「どっから行けるの?」

 為次は訊いた。

 「神の箱で上へあがれるよ」

 「やっぱそうなるか」

 この施設がサテライトアンカーと分かった時点で予想は付いていた。
 一階部分だけ神殿風にリフォームしたのであろう。
 もっとも今の入り口は実際には12階である。
 なので神の箱に入ると、12のボタンが光っていた。

 箱の中へ入ると、ガザフは23のボタンを押した。
 どうやら一番上から1つ下の23階へ向かうらしい。

 ウィィィン……

 微かな作動音が聞こえると、僅かに体が床へと押し付けられる。

 プシュー

 扉が開くと白く殺風景な細長い通路があった。
 為次は奥まで見渡してみる。

 「ここ?」

 左右には幾つもの扉が並んでいる。
 まるでホテルの客室通路のようだった。

 「そうだよ、この奥にサーサラは居るよ」

 「サーサラさん、元気だといいんだがな」

 「マサヒデ君…… むしろ元気過ぎて困るくらいだよ」

 「へー、そうなのか」

 ドン! ドン! ドン!

 「うお!? なんの音だ?」

 部屋の中から時折何かを激しく叩く音が聞こえて来る。
 正秀はちょっと驚いた。

 「ここは多分、居住区なんだろうね」

 「流石タメツグ君、その通りのだよ。各部屋にバーサーカーを閉じ込めてある」

 扉には小窓が付いていた。
 正秀と為次は部屋の1つを覗いてみる。

 「なんだこりゃ……」

 「完全に理性を失ってるね」

 中では半裸になった男性が狂ったように暴れているのが見える。
 狂気に満ちた瞳は、とても人間とは思えない。

 と…… その時、目が合ってしまった……

 意味不明な叫びを上げながら、扉へと四つん這いになって跳ねて来た!

 「うわっ!」

 咄嗟に扉から離れる為次。

 ドン! ドン! ドン!!

 扉を叩きながら小窓を覗いてくる人間の姿した何か……
 正秀はジッと見つめていた。

 「なあ…… コイツ本当に人間だったのか?」

 「そうだよ、転生を受けなければいずれ君達もこうなる。もっとも、まだまだ先のことだろうけどね」

 小窓から目を離しガザフを見る正秀。

 「お前はもうすぐ、こうなるんだろ?」

 「……そうかもね、転生をしなければ」

 「んじゃ、行こうぜ。サーサラさんのとこに」

 歩き出そうとした時だった。
 後ろからマヨーラが小さな声で訊いてくる。

 「本当に行くの……? こんな姿のサーサラなんて……」

 「マヨーラ……」

 正秀はなんと答えていいのか分からなかった。
 あまり話し相手の居なかったマヨーラにとって、サーサラは数少ない自分の相手をしてくれる人だったのであろう。
 大切な人の無残な姿を見るのは辛いだろうと思った。

 「……待っててくれていいんだぜ」

 「…………」

 黙って首を振るだけであった。

 「マヨ。お別れに行くんじゃないよ。ちょっと挨拶しとくだけだから」

 「うん…… そうね……」

 「では、行こうか。この奥だよ」

 「ええ」

 時折、激しい音や武器みな叫びが左右の部屋から聞こえてくる。
 そんな不快な通路をガザフに連れられて進んで行くのであった。

 暫く進むと途中に扉の無い部屋があった。
 水道のような物がある。

 「あら? 何かしらこの部屋」

 足を止めて部屋を除き込むマヨーラ。

 「台所みたいなのです」

 「そうね、これは何かしら?」

 マヨーラは水道の蛇口みたいなのに触れてみた。

 ジャー……

 水が出てきた。
 どうやら本当に水道らしい。

 「水が出てきたわ」

 「給湯室でしょ」

 「だよな」

 「居住区だからね、多分その通りだと思うよ」

 「なんだガザフも知らなかったのか?」

 正秀は訊いた。

 「ここには、あまり用が無いからね」

 「へー、そうかい」

 「しっかしこれが王宮の正体とはねぇ……」

 為次は少し呆れ気味に言った。

 「そうだよ、王族なんて名ばかりの存在。実際は只の牢屋さ」

 「神官が事実上のトップで、国民は皆マインドコントロール状態。意味も無く魔獣を作るだけが目的の世界か……」

 「分かってもらえたかな……」

 「まあ…… ね……」

 ようやく実感できた。
 以前、ガザフが言っていた『壊れた世界』の意味を……

 たった1人の女性の歪んだ望み。
 只、それだけを目的に破滅の道を進むだけの世界。

 「あら、これって」

 マヨーラはふと脇を見ると雑巾を見つけた。

 「モノポールリングにあったのと同じやつみたいだぜ」

 「そうね、こんな所にもあるのね……」

 「わざわぜ持って帰る必要も無かったのです」

 「そうだねー」

 「あれはアレ、これはコレよ。だからこれも持って帰るわ。いいわね? ガザフ」

 「ああ、別に構わないよ」

 為次はスーパー雑巾を1枚手にしてみる。
 これも千年前の遺産なのかと思った。

 「これだけで、なんでも何処でもピカピカか……」

 「だな」

 尋常ではない。
 超科学を失った人々の末路とは……

 そっとスーパー雑巾を1枚だけポケットにしまうのだった。

 ……………
 ………
 …

 それから更に進むと、ガザフは1つの扉の前で足を止めた。

 「ここだよ」

 奥から3番目にある左手の部屋だった。

 「そうすか」

 早速、正秀と為次はお互いの頬をひっ付けるように、小さな窓を覗いた。

 「あ、あっちの隅っこに居るね」

 「だな」

 サーサラは部屋の片隅で膝を抱えながら静かに座っていた。
 服は着替えさせてもらえなかったらしく、あの日に捕獲した時のままだ。

 「んー、気が付いてないね」

 「だな」

 バン! バン! バン!

 なんだかツマラナイので為次は扉を手の平で叩いてみた。

 「お、おい、為次」

 「おーい、こっちだよ」

 バン! バン! バン!

 「やめなさいよ、タメツグ」

 「そうだぜ、せっかく大人しくしてるのに」

 マヨーラと正秀はやめさせようとするが、遅かった。
 音に気が付いたサーサラは顔を上げこちらを見る。
 次の瞬間、物凄い勢いで扉に向かって来るとそのままぶつかってしまった。

 バーンッ!!

 そして扉をガリガリと引っ掻きながら、意味不明なことを叫び始めた。

 「サーサラさん、こんにちは」

 「まだ、おはようだぜ」

 聞こえていないのだろうか、不気味に喚き散らかすだけだ。
 それでも、為次はお構いなしに話しかける。

 「ねぇサーサラさん。可能性は限りなく低いけどさ、元に戻れるかもよ。なんとかしてマインドジェネレーターってのを持って来たいんだけどね。やれるだけのことは、やってみるつもりのだから……」

 「為次……」

 「期待はしない方がいいけどね」

 「おう、大船に乗ったつもりで待っててくれ、サーサラさん」

 「いやいや……」

 「俺達ならやれるさ」

 「その自信はいったい何処から……」

 その後も暫く話しかけていた。
 次第にサーサラは叫ぶのをやめ、大人しくなっていた。

 こちらの言葉を理解しているのだろうか?
 その狂気に満ちた瞳にからは涙が流れていた。

 「じゃあ行って来るね」

 「すぐに戻って来るぜ」

 二人が小窓から顔を離した時だった……
 微かに聞こえた。
 それは聞き違いかも知れない。

 だが皆には片言の言葉でそう聞こえたのだ。

 「ワスレタクナイ……」

 と……

 挨拶を終えた皆は、王宮を後にするのだった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 「じゃあ、あたしは家に帰るわね」

 「送って行ってやるよ。遠慮しなくてもいいんだぜマヨーラ」

 「ううん、大丈夫よ」

 と、マヨーラは首を横に振った。

 「……そうか」

 あの後、皆は神殿前に駐車してあるレオパルト2まで戻って来た。
 マヨーラはここでお別れするらしい。
 暫く家を空けっ放しにしていので、掃除もしたいと言っていた。
 スーパー雑巾も手に入れたのではかどることだろう。

 「すぐに戻って来るんでしょ……?」

 「お、おう…… なるべく早く戻るぜ」

 「マサ、ほんとにいいの?」

 「なにがだよ……」

 「いや…… 別に……」

 「マヨ姉様は一緒に来ないですか」

 「ええ、いつまでもフラフラしてる分けにはいかないもの」

 「はうー」

 てっきりマヨーラも付いて来ると言うだろうと為次は思っていた。
 ここまで、あっさり別れるとは思いも寄らなかった。
 多分、モノポールリングに居た時にしっかりと話し合ったのであろう。
 寂しそうな表情の中にも、心を決めた感情も見受けられた。

 「じゃあ、ターナとスレイブにも宜しくな」

 「あんまり急ぐなって言っといて」

 「ええ、分かったわ」

 「行こうぜ為次」

 「うい」

 1人の少女とお別れを済ませ三人はレオパルト2へと搭乗する。
 そこへガザフが近づいて来た。
 楔形装甲の下に頭を入れて、為次に話しかける。

 「タメツグ君。頼んだよ、君達だけが頼りなんだ」

 「どうだかね、上手く行けばいいけど」

 「期待しているよ、帰って来た頃には僕はもう記憶を失ってると思うけど」

 「王族の仲間入りよりはマシでしょ」

 「ははっ、そうだね」

 「もう行くから」

 「ああ」

 ガザフが離れるとエンジンを始動させた。
 サスペンションが浮き、水素パルスエンジンが騒音を掻き立てると車体は宙へと浮かび上がる。

 一路進路は再びポンタの街へ。

 もう一人の少女を降ろす為に……
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