異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが

おっぱいもみもみ怪人

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テラ宙域編 4章

第7話 壊すんじゃないよ!

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 ぐるぐる回る車体はようやく止まった。
 エンジェル隊が6人がかりで止めてくれたから……

 「「「ゲロ ゲロ ゲロ ゲロ ゲロ……」」」

 有無を言わず、三人はさっき食べたばかりの弁当を吐き出してしまった。

 「し、死ぬかと思ったぜ……」

 「うわぁ…… 臭い……」

 「まだ、目がグルグルするのですぅ……」

 目の前を嘔吐物が漂い、異臭を放つ。
 最悪な状況だ。

 「なんか拭く物は…… あっ」

 為次はポケットをまさぐると、王宮で手に入れたスーパー雑巾を見つけた。

 「とりあえず、これで……」

 雑巾に触れた瞬間、アッという間に吸着してくれた。
 とても素晴らしい雑巾であるが、さすがに隙間へ入り込んだのはどうしようもない。
 それでも、だいぶマシである。
 あの時、マヨーラが見つけてくれたことを為次は少しだけ感謝した。

 「マサとスイもこれで拭いてよ」

 そう言いながら、スーパー雑巾を正秀に渡した。

 「お、サンキュー」

 「スイもお掃除したいです」

 「ちょっと待ってくれ」

 車内清掃が始まると、為次はヤレヤレと思いながら外を見た。
 周りにはエンジェル達がウロウロしているのが見える。
 その中には、大きなお椀のような物を持っているのも確認できた。

 「え……?(あれって確か……)」

 見覚えのあるお椀だ。
 いや、見間違える筈もない。

 「あああああっ!!」

 ゴチンッ

 「痛った」

 驚き過ぎて、思わず頭を打ってしまった。
 それもそのはずである。
 そのお椀こそ水素パルスエンジンに必要な反射パネルだ!
 しかも、1つではなく3人がそれぞれに持っている。
 どうやら、回転を止めるのに掴んで壊してしまったらしい。

 「どうかしたのか? 為次」

 「あいつら反射パネルもぎ取りやがった! ふざけんなっ! ボケー」

 と、そこへ艦長の声が聞こえてくる。

 『そんなゴミはどうでもいい! さっさと魔獣をなんとかしろっ!』

 「ゴミじゃないし! あれが無いと動けんってば」

 『つべこべ言うな、こちらの牽制も長くは保たんぞ!』

 「あああ、もぅ…… レオがぁ……」

 そんな戦車ばかり気にする為次をよそに、正秀はアーシャが気になった。

 「それよりアーシャちゃんは無事なのか?」

 パノラマサイトを回しながら探すと、近くをユーナが引っ張りながら母艦へと向かうのが見えた。
 お腹の辺りから紐みたいなのがプラプラしている。
 ズームしてみると、それはハミ出た腸であった。
 アクティブアーマーの損傷も酷い。

 「ヤバイな。スイちゃん、ヒールポーションだ」

 「はいです。エンチャントヒール。できたですが?」

 「よし。ユーナちゃん、アーシャちゃんをこっちに連れて来るんだ」

 『どうして? そんな余裕は無い』

 「ちょ、マサ。まさかポーション渡すんじゃないよね?」

 「渡すに決まってるだろ。ユーナちゃん早くしろっ」

 「いやいや、ハッチが開けれんて」

 「開けるんだよっ」

 「んな、無茶な……」

 『安心して、そんなポンコツには行かない』

 「ポンコツ言うな!」

 『待てユーナ。アーシャはレオに収容しろ』

 『……艦長まで何を言ってるの?』

 ユーナも分かっていた。

 既に助からない……

 アクティブスーツが常に身体の状態を把握し、生体データをブリッジでモニタリングしている。
 もちろん仲間同士でも個々のステータスを参照できる。

 アーシャの様態はナノマシンが止血したものの、出血は多く身体からだの損傷も激しい。
 本来は身体の修復をするはずだが、緊急モードに移行し脳だけをかろうじて維持している。

 その状態が何を意味するのか……
 皆は理解していた。

 『早くしろっ! これは命令だっ!!』

 『……分かった』

 ユーナは不満そうだが、艦長の命令に従い戦車へと向かう。

 「え、マジでハッチ開けんの!?」

 艦長は僅かな望みに賭けていた。
 否、それは賭けなどと言えるものではない。
 もしかすれば、単なるヤケクソかも知れない。

 だが……

 戦車を回収した時に、為次は大怪我をしている様子だった。
 それなのに怪我は治ったと言っていたし、凄い治療薬もあるとも言っていた。

 可能性は否定できない。

 『上部の丸い蓋だ。どちらでもいい、そこから入れる』

 「なんでアイちゃんが知ってんのっ」

 『アイちゃん言うな!』

 ユーナはレオパルト2に取り付くと、装填手ハッチに手を掛ける。

 『ここ』

 『ノーマルシールドを展開させろ、ポンコツには無いからな』

 「ポンコツ言うな!」

 バキッ ボキッ ゴキッ

 いやな音が聞こえる……

 バキャーン!!

 「はうっ!?」

 「うおっ!?」

 「何やっとんじゃー!」

 ヤバそうな音に為次は慌てて正秀の居る車長席へと移動した。

 「た、為次…… 見るんじゃねぇ……」

 正秀は見るなと言うも、既に遅かった。
 なんと装填手ハッチが無くなっている。
 支柱の部分からもぎ取れていたのだ。

 「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 大切な戦車を壊されて卒倒しそうな為次。
 そんなことはお構い無しにアーシャが放り込まれて来た。
 ユーナも入ろうとするが狭くて無理なので、頭だけを覗かせてきた。

 「スイちゃん、早く飲ませるんだ!」

 「は、はいです」

 正秀は為次を足げにしながら、砲手席へと追いやると、飛び出している臓物や腸をお腹の中へ押し込む。
 スイもヒールポーションを飲ませるが、中々飲んではくれない。
 仕方なく瓶を喉の奥まで突っ込んで、無理矢理に飲ませた。
 それでも足りないようだ。

 「水筒だ、弾薬庫の水筒でポーションを作るんだ!」

 と正秀は叫んだ。

 「何やってるの?」

 「ユーナちゃんはどいてろっ、邪魔だ!」

 即用弾薬庫入れておいた水筒を引っ張り出すスイ。

 ゴチン

 「痛い」

 ユーナの頭にぶつけてしまうも、それどころではなくヒールを付与する。

 「エンチャント、すっごいヒール! できたです」

 「よし、そのままぶっかけるんだっ」

 水筒の蓋を開けて逆さまにするが出てこない。
 無重力なので当然である。

 「うんしょ、うんしょ」

 腕を水筒の奥までいれて掻き出すと、ビチャビチャと水の玉がアーシャへ纏わり付く。

 その時だった……

 「ガハッ、ガハッ、ゲホッ。う…… あぁ……?」

 「アーシャ!」

 意識を取り戻したアーシャに飛びつこうとするユーナ。
 狭くて入れないので頭を寄せ合うだけだ。
 その瞳からは大粒の涙が飛び散っていた。

 「ユー…… ナ……? どうかしたの?」

 「良かった…… 良かった…… うわぁぁぁん……」

 「治ったです」

 「もう大丈夫だぜ、ユーナちゃん」

 「何を泣いてるのよ?」

 アーシャは状況が飲み込めていない様子だ。

 「艦長、アーシャが無事です」

 『ああ、こちらでも確認している。それより、これ以上は魔獣を抑えられないぞ!』

 「はい、今行きます」

 「待てーいっ!」

 再び顔を出す為次だが、また卒倒しそうになる。

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 水浸しじゃねーか!!」

 無重力での液体ヤバイ。
 電子機器の隙間に入り込もうならショートしてしまう可能性もある。

 「拭けばいいだろ」

 「はよ拭け」

 「タメツグ、頭おかしくなった?」

 「おかしいのはお前だ! 蓋を返せっ」

 そう言いながら、車長ハッチを開けて身を乗り出す為次。
 もう、真空がどうのこうのうは頭には無かった。
 ユーナが手に持っていた壊れたハッチを奪い取る。

 「ゴミが欲しかったの?」

 「ゴミじゃねーよ! どーすんだよ、これ壊しちゃってっ! バカなの、アホなの!?」

 「バカはタメツグ」

 「うがぁぁぁ!」

 「タメツグ様はご立腹なのです」

 「だな……」

 『お前ら! いつまで遊んでいる。上だ! 来るぞっ』

 艦長に言われ、見上げるとグリーンドラゴンが迫って来ていた。
 周囲のエンジェル達が迎撃に向かう。

 「私も行く」

 そう言ってユーナが戦車から離れようとした時だった。

 為次は叫ぶ。

 「お前かぁぁぁ! ふざきんにゃー!!」

 手に持っていたハッチに気合を入れて、グリーンドラゴン目掛け投げつけた。

 ドスッ!

 顔面にヒットした。

 口を開き吠えるグリーンドラゴンだが、真空なので聞こえない。
 頭を振り、体をクネらせている様子から痛がっているのだろう。
 見ると突き出た口の鼻先にハッチが刺さっていたのだ!

 「嘘……」

 『バカな…… あり得ん……』

 信じられない光景であった。
 人の投げた鉄屑が魔獣に刺さるなどあり得ない。

 「スイ! はよ装填して」

 「は、は、はい。何にしますか?」

 「なんでもいいよっ」

 「ではこれで」

 と、適当に引っこ抜いたのは翼安定徹甲弾であった。

 「エンチャント アンチマジックシールド! 装填… 装填…… はうぅ?」

 「どうしたの?」

 「砲尾が閉まらないです」

 「ええ!? もー、手動でやって」

 「はい」

 ガコン

 何か壊れてるみたいだが、砲撃準備はできた。
 後は正秀が撃つだけだが、また回転してしまうのではないかと心配そうな顔をしている。

 「う、撃っていいのか?」

 「ちょっと待って」

 「おう」

 「おーい、変なかっこの女ども」

 「変じゃない」

 「なんでもいいから、車体を抑えて。それと、前にはでないで」

 『おい、タメツグ。何をする気だ』

 「アイちゃん、もう後にして。また来たし」

 尻尾を粉砕され、鼻に鉄屑をぶっ刺された龍は激怒していた。
 何か吠えまくってはいるが、聞こえないので少々間抜けでもある。
 もっとも、そんなことはお構い無しに突進して来る。

 『くそっ、エンジェル隊はタメツグの指示に従え』

 『了解』

 「私も出るわ」

 回復したアーシャはそう言うが、まだフラフラしていた。

 「大丈夫、このポンコツを押さえるだけだから」

 「ポンコツ言うなってば。それよりスイ。そこのくたばり損ないに食いもんやって」

 「はいです。スイのお弁当をどうぞです」

 と、何か良く分からない物が詰まった洗面器を差し出す。

 「……要らないわ」

 「なんですと!?」

 「無理矢理食わせろって」

 「はいです。どりゃー!」

 「ひぃっ!? もがー、もがー!」

 「アーシャちゃん……」

 洗面器の中身。
 数日前にモノポールリングで詰め込んだサンドイッチだった。

 「アーシャ楽しそう。行ってくるね、ノーマルシールドはアーシャのを展開しておく」

 「もがー!!」

 エンジェル隊が戦車に取り付くと、ユーナも後部に周り込み車体を押さえる。

 『準備できた』

 「よしゃ、マサ!」

 「おう! ギリギリまで引き付けるぜ」

 「りょかーい」

 「……まだまだ ……今だ! 喰らえ!」

 ドコーン!!

 車内にだけ発射音が響く。

 砲身から爆炎を吐き出し、砲弾が撃ち出されるのであった。
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