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テラ宙域編 4章
第8話 ドキッ! 女だらげはぁっ!
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皆は呆然としていた……
グリーンドラゴンは下顎を残し頭部が消滅していた。
胴体も半部くらい上側が削げている。
翼安定徹甲弾の弾心が鼻に刺さっていた鉄屑付近に命中し、そのまま貫通して二枚卸にしてしまったのだった。
※ ※ ブリッジ ※ ※
「ターゲット沈黙、活動停止を確認」
セリナはターゲット情報を確認し報告した。
「核をやったのか?」
「はい。シグナル消失しました」
魔獣の討伐を確認すると、ブリッジは安堵に包まれた。
そこへ、鬱陶しい為次の声が聞こえてくる。
『こらー! アイちゃん、レオを弁償しろよ。ふざけやがって、まったくもー』
「アーシャは無事か?」
『人の話し聞けよっ…… って、うぉい。どこ行くんだぁ』
『きゃぁぁぁっ、どこさわってんのよ!』
バチンッ
『痛ってぇぇぇ』
『為次、何やってんだよ……』
『はわわわ…… タメツグ様、お尻ならスイのを使って下さい』
「何をやっている……?」
『タメツグがアーシャのお尻に抱きついてる』
艦長に聞かれて、ユーナは壊れた装填手ハッチから中を覗いて報告した。
実際にはアーシャが車外へ出ようとするので、必死に引き止めているだけなのだが……
『違うわっ! この馬鹿が出ようとするからでしょっ』
『馬鹿じゃないわよ、失礼ね。っていい加減放しなさいよっ』
ゲシッ
『うぎゃ』
どうやらアーシャに蹴りを入れられたらしい。
鈍い音と共に為次の呻き声が聞こえた。
『んも! お前が出たら車内が真空になるだろ!』
『え? まさか、ノーマルシールドすら無いの?』
「その通りだアーシャ。今はお前のを展開して使っている」
『艦長……? そうなんですか……』
「分かったらなら、しばらく大人しくしていろ」
『はい』
「他のエンジェルは速やかに帰還だ。戦車はトラクタービームで回収する」
「了解。位置に着けます」
ティアラは操艦し、エクステンペスト下部のハッチを動けなくなった戦車へと移動させる。
大まかな位置で相対速度を合わせると、黄色いレーザーのような光が照射された。
『うわぁ、何この光は?』
また壊されるのではないかと、少々不安になった為次。
「心配するな、トラクタービームだ。こちらに引き込んでやるから大人しくしていろ」
『後で修理もしてよー、アイちゃーん』
「分かったから、アイちゃん言うな」
『はいはい』
こうして初の戦車による宇宙戦闘は終わった。
レオパルト2の戦闘能力も当初は、まったく当てにしていなかった。
それでも今回の戦闘を通して対魔獣戦における有効性は認めざるを得ない。
しかも、高性能治療薬の効能、更には人力で投げた物が敵のシールドを貫通する力。
遥かに技術力の劣る連中なのは間違いないが、ソーラ連合軍にとって喉から手が出る程に欲しい存在となった。
※ ※ 休憩室 ※ ※
「ご苦労だったな」
なんだか艦長は機嫌が良さそうだ。
戦車クルーを休憩室に呼び、お茶とお菓子を出していた。
「へへっ。俺達にかかれば、ざっとこんなもんだぜ」
「ざっとじゃないよっ。またレオ壊しちゃって、もうアクアに帰れなくなっちゃったし」
「すまねぇ、為次」
「つばい様は、またお怪我をされたですか」
「……うん」
「安心しろ、今以上に高性能にしてやる。約束だからな」
「ホントかなぁ…… それより、なんでコイツらまでいんの?」
為次は向かいに座っていた、アーシャとユーナを指して言った。
「仕方ないでしょ! その…… 助けてもらったお礼も言わないとだし……」
「私からもお礼を言う」
「礼には及ばないぜ。ヒーローとして当然のことをしたまでさ!」
糞寒いセリフを吐く正秀だが、アーシャは頬を赤らめながら聞いている。
「そ、そうなんだ。マサヒデさんは…… その…… 素敵な人ね」
「マサヒデ素敵」
「あの、そっちに座ってもいいかな?」
と、アーシャは正秀に訊いた。
「お? おう。構わないぜ」
「じゃあ」
そう言いながら立ち上がると隣に座るアーシャ。
それを見たユーナも何故か正秀の隣に行こうとするが、反対隣には為次が座っている。
「タメツグ邪魔」
「ええ!? もー、なんで……」
渋々、為次は空いた艦長の隣に移動した。
一方の正秀は両手に花でご満悦である。
ニヤニヤしながらカップを手にしお茶をすする表情は、とてもヒーローには見えない。
「マサヒデさん、良かったら今夜一緒に寝ませんか?」
「ぶっはーっ!!」
あまりにも唐突なお誘いである。
思わず含んだお茶を吹き出してしまった。
「ア、アーシャちゃん? 急に何を言ってるんだ?」
「マサヒデ。私も一緒に寝る」
「いいっ!? ユーナちゃんまで、いったい何をっ!」
それを見た為次はジト目で見ながら、棒読みで言う。
「はー、良かったねー。マサ、モテモテでぇ……」
「マサヒデ様はモチモチなのです」
「お前達…… 気持ちは分かるが、後にしておけ」
「でも、艦長。男の人の体って…… なんだかいいですね」
正秀のお腹の辺りをぺたぺたと撫でまわすアーシャ。
ユーナも負けじと、服の下まで手を入れてきた。
「おっふ。2人とも、ちょ、ちょっと待ってくれ…… あふぅん」
「待てないわ。だって、マサヒデさんは命の恩人だもの。お礼をしないと」
「マサヒデがアーシャを助けてくれた。わたしもお礼する」
「くぅ…… マサばっかり何故だ……」
「タメツグは助けようとしなかったであろうが」
艦長は呆れ気味に言った。
「そりゃそうしょ、宇宙でハッチ開けようなんておかしいって」
「それ以前に地上用ビーグルで宇宙に出るのが、おかしいとは考えなかったのか?」
「いやまあ…… そうれは、そうだけど……」
「そうやって、女々しいことばかり言うのでモテないのでは?」
「女々しいって…… だいたい、なんで女ばっかりなんだよ。ブリッジも女だらけだし、戦闘なんて野郎にさせとけばいいでしょうが」
「ふむ、そういえば説明してなかったな」
「何を?」
「男性は皆、母星に居る。少し話してやろう」
怪訝そうな顔で艦長を見る為次。
確かに女性ばかりなのはおかしいと思う。
ミストラルの船長は変態ではあるが、ダラスという男であるのは間違いなかった。
男性が全員母星に居るのとは話が違ってくるはずだが……
そう為次は思いながら艦長の話を聞く。
「我々の星、テラはな……」
話の内容によると、現在テラにおける男性の数は概ね全体の3パーセントくらいらしい。
圧倒的に女性の方が多い。
その理由は女性ばかりを生産してきたからであるそうだ。
これは千年前…… 戦争が終わり宇宙魔獣が発生するようになってからのことだ。
対策として特殊能力者の実験が切欠となる。
能力者の発見は偶然であった。
魔獣との戦闘中に攻撃を受けた艦から投げ出された者が居た。
そこへ補食しようと襲い来る魔獣だが、その者は咄嗟に近くに漂っていた棒で立ち向かった。
それは誰が見ても無駄な最後の足掻きでしかない。
しかし、予想外なことになんと棒きれで魔獣の目玉を刺し撃退してしまったのだ。
本来、シールドによって阻まれてしまう攻撃を生身で貫通させてしまう。
これは魔獣対策に使えるのではないかと考えた軍は、当然の如く研究を開始した。
研究の結果、分かったのは特殊な脳波を持った人間であること。
それと、若干の遺伝情報の違いである。
只、それだけであった。
それでも実戦で使えないかと考えた軍は、能力者による近接戦闘部隊を発案した。
魔獣の攻撃力は極めて高い。
ならば、当たらなければ良い、避ければ問題ない……
安易な考えによってパワードスーツを最軽量化、超高機動化した装備を作った。
それこそがアクティブアーマースーツである。
後は能力者を探し出し戦わせる、それだけだ。
だが、そう簡単には見つからない。
そこで作ることにしたのだ。
能力者を……
遺伝情報は解っているので生産そのものは可能であった。
問題点といえば、能力者の産まれてくる確率が、300人に1人程度。
それと女性しが産まれてこないことであった。
「それでも能力者を増やし戦闘部隊を作った。それが今のエンジェル隊となる」
「へー……」
「当然だが無闇に人を増やす分けにはゆかない。星に住めるにも限りがあるからな」
「確かに」
「だが、失ったエンジェルの補充もしなければならない。作るには300人に1人だ…… 後は分かるな?」
「なるほどね、女性ばかり作る羽目になった…… か。そして、魔獣に翻弄され続けた千年……」
「その通りだ、タメツグ。そして御覧の通り皆は男に飢えている。当初は慰安夫も乗艦させていたが、さすがに問題になってな……」
「へぇ…… 良かったね、マサ」
「な、何がだよっ!」
「んま、それはさて置き。もしかしたらターナは……」
艦長は微笑みながら為次を見て言う。
「そうだ、ターナ博士の率いるグリース研究機関は、軍の提案したこの魔獣対策をよろしくな思わなかった」
「グリース研究機関か…… 研究は失敗に終わったけど、なんとかなりそうで良かったじゃない」
「なんとかとは?」
「アクアには魔獣を倒す術がある。それを取りに行けばエンジェル隊も死なずに済むってね」
「ふむ…… しかし、タメツグ達はよく記憶を失わずにいられたものだな」
「あれ? 話してなかったけ?」
「ん?」
「俺達はアクアの人間じゃないよ。太陽系の地球から来たって言ったと思うけど」
「では、どうやって?」
「変な爆弾で次元の狭間に飛ばされたの」
「それで、アクアに流されてしまったんだぜ。な、為次」
「ですな」
「ほぅ、興味深い話ではあるな」
「本当は地球に帰りたいんだけどねぇ……」
と、為次はアクアに吹っ飛ばされてしまった過程を少々話した。
ついでにガザフが使ったという次元を裂く装置のことも。
「なるほど、そんなことが…… お前達も色々と苦労したようだな」
「まあね。ところでアイちゃんは次元を裂く装置に心当たりってある?」
「インとアウトが書いてある箱か。それは多分、次元潜行時の緊急脱出装置だな」
「次元潜行? ナニソレ?」
「ふむ…… そこから説明が必要か。亜空間移動の概念も分からないだろうし、それはまた詳しい者から聞いてくれ」
「そうすか」
「今、話しても長くなるしな」
「分かったよ。んま、なんにせよマインドジェネレーターを持っていかないと始まらない。頼んだよアイちゃん」
「アイちゃん言うな。とりあえずマインドジェネレーターは後だ。まずはタメツグ達の戦車を強化する」
「お、マジで」
「ああ、本部にも通達してある。とは言え、向こうにも懐疑的な奴も居るからな。今回の戦闘で君達が特殊シールド対策を持っていることは分かったであろうが、戦闘結果は芳しくないなかった。そこで強化した戦車による有効性をアピールしたい」
「為次、良かったじゃないか。修理も強化もしてもらえそうで」
「うん。で、いつ?」
「ふふっ、今向かっているところだ。兵器の改修、生産が可能なドック艦ヒマワリにな。明日には着くぞ」
それを聞いた為次は大歓喜である。
なにしろ、他の何を差し置いてレオパルト2を強化してくれるのである。
これには堪らない。
思わず艦長に抱き付いてしまう。
「いやったぁぁぁー!! アイちゃん、ありがとー! 大好きー」
「ひゃぁぁぁ、タ、タ、タメツグ!? そんな出会ったばかりで! いや、しかしタメツグがどうしても言うなら私もっ」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる艦長。
主の唐突な行動にスイは慌てふためく。
「ひぎゃぁ!? タメツグ様は何やってるんですかっ!!」
為次に飛び掛かり必死に引き離そうと頑張る。
「俺の戦車が宇宙仕様になるのだぁぁぁ!」
「うにゃぁぁぁ! は・な・れ・る・のですー!」
「タメツグよ、今夜は私の部屋でいいかにゃん」
「アイちゃん艦長…… 語尾がおかしくなってるぜ……」
「ダメー、絶対にダメですー!」
……………
………
…
そんなこんなで、見知らぬ世界の見知らぬ宇宙で1日が過ぎ去ろうとしている。
当初の不安はよそに、一筋の希望が見え始めるのであった……
グリーンドラゴンは下顎を残し頭部が消滅していた。
胴体も半部くらい上側が削げている。
翼安定徹甲弾の弾心が鼻に刺さっていた鉄屑付近に命中し、そのまま貫通して二枚卸にしてしまったのだった。
※ ※ ブリッジ ※ ※
「ターゲット沈黙、活動停止を確認」
セリナはターゲット情報を確認し報告した。
「核をやったのか?」
「はい。シグナル消失しました」
魔獣の討伐を確認すると、ブリッジは安堵に包まれた。
そこへ、鬱陶しい為次の声が聞こえてくる。
『こらー! アイちゃん、レオを弁償しろよ。ふざけやがって、まったくもー』
「アーシャは無事か?」
『人の話し聞けよっ…… って、うぉい。どこ行くんだぁ』
『きゃぁぁぁっ、どこさわってんのよ!』
バチンッ
『痛ってぇぇぇ』
『為次、何やってんだよ……』
『はわわわ…… タメツグ様、お尻ならスイのを使って下さい』
「何をやっている……?」
『タメツグがアーシャのお尻に抱きついてる』
艦長に聞かれて、ユーナは壊れた装填手ハッチから中を覗いて報告した。
実際にはアーシャが車外へ出ようとするので、必死に引き止めているだけなのだが……
『違うわっ! この馬鹿が出ようとするからでしょっ』
『馬鹿じゃないわよ、失礼ね。っていい加減放しなさいよっ』
ゲシッ
『うぎゃ』
どうやらアーシャに蹴りを入れられたらしい。
鈍い音と共に為次の呻き声が聞こえた。
『んも! お前が出たら車内が真空になるだろ!』
『え? まさか、ノーマルシールドすら無いの?』
「その通りだアーシャ。今はお前のを展開して使っている」
『艦長……? そうなんですか……』
「分かったらなら、しばらく大人しくしていろ」
『はい』
「他のエンジェルは速やかに帰還だ。戦車はトラクタービームで回収する」
「了解。位置に着けます」
ティアラは操艦し、エクステンペスト下部のハッチを動けなくなった戦車へと移動させる。
大まかな位置で相対速度を合わせると、黄色いレーザーのような光が照射された。
『うわぁ、何この光は?』
また壊されるのではないかと、少々不安になった為次。
「心配するな、トラクタービームだ。こちらに引き込んでやるから大人しくしていろ」
『後で修理もしてよー、アイちゃーん』
「分かったから、アイちゃん言うな」
『はいはい』
こうして初の戦車による宇宙戦闘は終わった。
レオパルト2の戦闘能力も当初は、まったく当てにしていなかった。
それでも今回の戦闘を通して対魔獣戦における有効性は認めざるを得ない。
しかも、高性能治療薬の効能、更には人力で投げた物が敵のシールドを貫通する力。
遥かに技術力の劣る連中なのは間違いないが、ソーラ連合軍にとって喉から手が出る程に欲しい存在となった。
※ ※ 休憩室 ※ ※
「ご苦労だったな」
なんだか艦長は機嫌が良さそうだ。
戦車クルーを休憩室に呼び、お茶とお菓子を出していた。
「へへっ。俺達にかかれば、ざっとこんなもんだぜ」
「ざっとじゃないよっ。またレオ壊しちゃって、もうアクアに帰れなくなっちゃったし」
「すまねぇ、為次」
「つばい様は、またお怪我をされたですか」
「……うん」
「安心しろ、今以上に高性能にしてやる。約束だからな」
「ホントかなぁ…… それより、なんでコイツらまでいんの?」
為次は向かいに座っていた、アーシャとユーナを指して言った。
「仕方ないでしょ! その…… 助けてもらったお礼も言わないとだし……」
「私からもお礼を言う」
「礼には及ばないぜ。ヒーローとして当然のことをしたまでさ!」
糞寒いセリフを吐く正秀だが、アーシャは頬を赤らめながら聞いている。
「そ、そうなんだ。マサヒデさんは…… その…… 素敵な人ね」
「マサヒデ素敵」
「あの、そっちに座ってもいいかな?」
と、アーシャは正秀に訊いた。
「お? おう。構わないぜ」
「じゃあ」
そう言いながら立ち上がると隣に座るアーシャ。
それを見たユーナも何故か正秀の隣に行こうとするが、反対隣には為次が座っている。
「タメツグ邪魔」
「ええ!? もー、なんで……」
渋々、為次は空いた艦長の隣に移動した。
一方の正秀は両手に花でご満悦である。
ニヤニヤしながらカップを手にしお茶をすする表情は、とてもヒーローには見えない。
「マサヒデさん、良かったら今夜一緒に寝ませんか?」
「ぶっはーっ!!」
あまりにも唐突なお誘いである。
思わず含んだお茶を吹き出してしまった。
「ア、アーシャちゃん? 急に何を言ってるんだ?」
「マサヒデ。私も一緒に寝る」
「いいっ!? ユーナちゃんまで、いったい何をっ!」
それを見た為次はジト目で見ながら、棒読みで言う。
「はー、良かったねー。マサ、モテモテでぇ……」
「マサヒデ様はモチモチなのです」
「お前達…… 気持ちは分かるが、後にしておけ」
「でも、艦長。男の人の体って…… なんだかいいですね」
正秀のお腹の辺りをぺたぺたと撫でまわすアーシャ。
ユーナも負けじと、服の下まで手を入れてきた。
「おっふ。2人とも、ちょ、ちょっと待ってくれ…… あふぅん」
「待てないわ。だって、マサヒデさんは命の恩人だもの。お礼をしないと」
「マサヒデがアーシャを助けてくれた。わたしもお礼する」
「くぅ…… マサばっかり何故だ……」
「タメツグは助けようとしなかったであろうが」
艦長は呆れ気味に言った。
「そりゃそうしょ、宇宙でハッチ開けようなんておかしいって」
「それ以前に地上用ビーグルで宇宙に出るのが、おかしいとは考えなかったのか?」
「いやまあ…… そうれは、そうだけど……」
「そうやって、女々しいことばかり言うのでモテないのでは?」
「女々しいって…… だいたい、なんで女ばっかりなんだよ。ブリッジも女だらけだし、戦闘なんて野郎にさせとけばいいでしょうが」
「ふむ、そういえば説明してなかったな」
「何を?」
「男性は皆、母星に居る。少し話してやろう」
怪訝そうな顔で艦長を見る為次。
確かに女性ばかりなのはおかしいと思う。
ミストラルの船長は変態ではあるが、ダラスという男であるのは間違いなかった。
男性が全員母星に居るのとは話が違ってくるはずだが……
そう為次は思いながら艦長の話を聞く。
「我々の星、テラはな……」
話の内容によると、現在テラにおける男性の数は概ね全体の3パーセントくらいらしい。
圧倒的に女性の方が多い。
その理由は女性ばかりを生産してきたからであるそうだ。
これは千年前…… 戦争が終わり宇宙魔獣が発生するようになってからのことだ。
対策として特殊能力者の実験が切欠となる。
能力者の発見は偶然であった。
魔獣との戦闘中に攻撃を受けた艦から投げ出された者が居た。
そこへ補食しようと襲い来る魔獣だが、その者は咄嗟に近くに漂っていた棒で立ち向かった。
それは誰が見ても無駄な最後の足掻きでしかない。
しかし、予想外なことになんと棒きれで魔獣の目玉を刺し撃退してしまったのだ。
本来、シールドによって阻まれてしまう攻撃を生身で貫通させてしまう。
これは魔獣対策に使えるのではないかと考えた軍は、当然の如く研究を開始した。
研究の結果、分かったのは特殊な脳波を持った人間であること。
それと、若干の遺伝情報の違いである。
只、それだけであった。
それでも実戦で使えないかと考えた軍は、能力者による近接戦闘部隊を発案した。
魔獣の攻撃力は極めて高い。
ならば、当たらなければ良い、避ければ問題ない……
安易な考えによってパワードスーツを最軽量化、超高機動化した装備を作った。
それこそがアクティブアーマースーツである。
後は能力者を探し出し戦わせる、それだけだ。
だが、そう簡単には見つからない。
そこで作ることにしたのだ。
能力者を……
遺伝情報は解っているので生産そのものは可能であった。
問題点といえば、能力者の産まれてくる確率が、300人に1人程度。
それと女性しが産まれてこないことであった。
「それでも能力者を増やし戦闘部隊を作った。それが今のエンジェル隊となる」
「へー……」
「当然だが無闇に人を増やす分けにはゆかない。星に住めるにも限りがあるからな」
「確かに」
「だが、失ったエンジェルの補充もしなければならない。作るには300人に1人だ…… 後は分かるな?」
「なるほどね、女性ばかり作る羽目になった…… か。そして、魔獣に翻弄され続けた千年……」
「その通りだ、タメツグ。そして御覧の通り皆は男に飢えている。当初は慰安夫も乗艦させていたが、さすがに問題になってな……」
「へぇ…… 良かったね、マサ」
「な、何がだよっ!」
「んま、それはさて置き。もしかしたらターナは……」
艦長は微笑みながら為次を見て言う。
「そうだ、ターナ博士の率いるグリース研究機関は、軍の提案したこの魔獣対策をよろしくな思わなかった」
「グリース研究機関か…… 研究は失敗に終わったけど、なんとかなりそうで良かったじゃない」
「なんとかとは?」
「アクアには魔獣を倒す術がある。それを取りに行けばエンジェル隊も死なずに済むってね」
「ふむ…… しかし、タメツグ達はよく記憶を失わずにいられたものだな」
「あれ? 話してなかったけ?」
「ん?」
「俺達はアクアの人間じゃないよ。太陽系の地球から来たって言ったと思うけど」
「では、どうやって?」
「変な爆弾で次元の狭間に飛ばされたの」
「それで、アクアに流されてしまったんだぜ。な、為次」
「ですな」
「ほぅ、興味深い話ではあるな」
「本当は地球に帰りたいんだけどねぇ……」
と、為次はアクアに吹っ飛ばされてしまった過程を少々話した。
ついでにガザフが使ったという次元を裂く装置のことも。
「なるほど、そんなことが…… お前達も色々と苦労したようだな」
「まあね。ところでアイちゃんは次元を裂く装置に心当たりってある?」
「インとアウトが書いてある箱か。それは多分、次元潜行時の緊急脱出装置だな」
「次元潜行? ナニソレ?」
「ふむ…… そこから説明が必要か。亜空間移動の概念も分からないだろうし、それはまた詳しい者から聞いてくれ」
「そうすか」
「今、話しても長くなるしな」
「分かったよ。んま、なんにせよマインドジェネレーターを持っていかないと始まらない。頼んだよアイちゃん」
「アイちゃん言うな。とりあえずマインドジェネレーターは後だ。まずはタメツグ達の戦車を強化する」
「お、マジで」
「ああ、本部にも通達してある。とは言え、向こうにも懐疑的な奴も居るからな。今回の戦闘で君達が特殊シールド対策を持っていることは分かったであろうが、戦闘結果は芳しくないなかった。そこで強化した戦車による有効性をアピールしたい」
「為次、良かったじゃないか。修理も強化もしてもらえそうで」
「うん。で、いつ?」
「ふふっ、今向かっているところだ。兵器の改修、生産が可能なドック艦ヒマワリにな。明日には着くぞ」
それを聞いた為次は大歓喜である。
なにしろ、他の何を差し置いてレオパルト2を強化してくれるのである。
これには堪らない。
思わず艦長に抱き付いてしまう。
「いやったぁぁぁー!! アイちゃん、ありがとー! 大好きー」
「ひゃぁぁぁ、タ、タ、タメツグ!? そんな出会ったばかりで! いや、しかしタメツグがどうしても言うなら私もっ」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる艦長。
主の唐突な行動にスイは慌てふためく。
「ひぎゃぁ!? タメツグ様は何やってるんですかっ!!」
為次に飛び掛かり必死に引き離そうと頑張る。
「俺の戦車が宇宙仕様になるのだぁぁぁ!」
「うにゃぁぁぁ! は・な・れ・る・のですー!」
「タメツグよ、今夜は私の部屋でいいかにゃん」
「アイちゃん艦長…… 語尾がおかしくなってるぜ……」
「ダメー、絶対にダメですー!」
……………
………
…
そんなこんなで、見知らぬ世界の見知らぬ宇宙で1日が過ぎ去ろうとしている。
当初の不安はよそに、一筋の希望が見え始めるのであった……
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異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
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