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テラ宙域編 4章

第10話 新しい武器は使ってみたくなるのです

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 スイがプンスカと怒っている。

 全速力で壁にぶつけられたから当然だが……

 「酷いのですー! ぷんぷん」

 「怪我が大したことなくて良かったじゃない」

 「ありましたー! 足の骨が全部、砕けてましたよ」

 スイは気が付くと、自分の足があらぬ方へ向き、所々骨が飛び出しているのが見えた。
 同時に激痛が襲ってきたので、必死にヒールポーションを飲んで事無きを得たのだった。

 「んー…… 装甲があるとこは大丈夫だったでしょ」

 「変な所から骨が出てたのですぅ…… うぅぅぇ……」

 「じゃあ、ナデナデしてあげるから機嫌直してよ」

 そう言いながら為次はスイを抱き寄せると、頭にそっと手を置いた。

 「いいこ、いいこ」

 「はうぅぅ……」

 「それにしても、あの怪我が一瞬で治るなんて…… アーシャを助けた治療薬の噂は本当だったのね」

 「ミーチェ様も欲しいならあげるです」

 と、小瓶を差し出すスイだが、為次が止める。

 「待つんだ、それはこっちのカードの1つだからねん、おいそれとやる分けには行かぬ」

 「そうケチケチすんなよ、為次。この変身スーツを作ってもらったお礼もしないとだぜ」

 「いやまあ、そうだけど……」

 「なんにしてもスイちゃん様々だぜ、魔獣を倒せたのも怪我を治せたのもな」

 「まあ、そうだけど……」

 「誰だったけなぁ? スイちゃんを置いて行くって言ってた奴は」

 そう言いながら、正秀はチラリと為次を見た。

 「ぐぬぬぬ」

 何も言い返せない為次は、悔しそうにスイの頭をワシャワシャしていた。

 「タメツグ様ぁ、頭がクシャクシャになるです……」

 「あ、うん。ごめ」

 「いえ……」

 「ま、まあ、ポーションはあげてもいいとしてだね、マサとスイはいつまでその格好でいるのさ」

 「急に誤魔化すなよ……」

 「うぐっ……」

 「と。為次はさて置き。確かにどうやって元に戻るんだ? 変身したら腕輪がどっかに行ったぜ」

 「スイのペンダントも無くなったです」

 「それなら、視界の中に薄っすらと情報が表示されてるの見えないかしら? ここよ、ここ」

 そう言いながらが、ミーチェは正秀の目の前で手を振った。

 「おおっ!? なんだこりゃ? いきなり文字が出て来たぜ」

 ミーチェの手を見るように視界を手前にすると、文字やグラフが鮮明に浮かび上がった。

 「脳波と視点で操作できるはずよ。メニューから解除を選択すれば元の姿に戻れるわ。メニューを注視して、それを押すように考えるの」

 教えてもらった二人は、メニューに視点を合わせると項目がハイライトされる。
 更に押すように念じると同時に映像もボタンが押されたグラフィックに変わり、ズラズラと項目が表示された。
 その中にある解除を注視して同じ操作をすると、変身時と同じく光に包まれ普段の姿に戻った。

 「おう、戻れたぜ」

 「はわわわ、私だけ遅いのですっ」

 何故かスイだけ変身動作が異様に遅い。
 素っ裸になっていたので、恥ずかしそうに胸を抑えていた。

 「はうー、恥ずかしいのです」

 「なんでスイだけ遅いのん?」

 「なんだ為次。わざとじゃないのか」

 「当たり前でしょ!」

 「ふふっ、それはね……」

 ミーチェの説明によると、原因は装備が多過ぎるからだそうだ。

 このシステムはアクセサリーを身に着けることによって、A.A.S.を常に装着している状態となっている。
 正確には量子コンバーターと呼ばれる装置によって、装着状態と非装着状態を同時に存在させているのだ。
 その状態でコンバーターが片方だけを観測することによって、どちらかの状態を具現可させる。

 変身の際に量子転換を行うが、情報量が非常に多い為、転換物質が多いほど動作は遅くなってしまう。
 あまり大きな物になるとエラーが出てしまい、サイズにも限度がある
 そんな訳でスイの変身は遅なってしまうらしい。

 また、システムそのもはアクセサリーに収納されており、一定以上の距離を取ってしまうとスーツの装着が不能なる。
 これは、アクセサリーにも同様の現象を発生させており、人間への装着状態とアクセサリーへの収納状態が同時に存在している。
 手放すことによってスーツの収納状態が確定するのだ。

 その他にも、生体認証なので本人しか使用不可とのことである。

 「……と言う分けね。分かったかしら?」

 「よく分かんねーが、とにかく俺の方が早いんだな」

 「凄い科学力だね……」

 「早くはならないですか?」

 「装備を減らせば早くなるわ」

 「はうー」

 変身が恥ずかしいスイではあるが、せっかく主に作ってもらっA.A.S.だ。
 直すのも忍びないので、このままで使うことにするのであった。

 ……………
 ………
 …

 あれからしばらくの時間、ミーチェにA.A.S.の講義を受けた。
 基本的に脳波コントロールなので、装備の多いスイは慣れるまで大変であろうとのことであった。
 それでも、未知の技術による新装備だ。
 二人は使ってみたくて、うずうずしていた。

 「どっかに魔獣は居ないのか? 水谷マンの活躍を早くお披露目したいんだぜ」

 「スーツがあっても魔獣は能力を持ってないと倒せないわよ?」

 「へへっ、ジャスプリがあれば余裕だぜ」

 「ですです」

 「二人とも、いきなり実戦やんの?」

 「おう」

 「ですです」

 「うーん…… 確かに実戦で慣れるのが手っ取り早いか……」

 「だろ」

 「ですです」

 「よっしゃ、アイちゃんに聞いてみよう。そうしよう」

 「おう」

 「ですです」

 「あまり無茶をしては駄目よ……」

 「平気だって、魔獣はこの俺が一網打尽だぜ」

 こうして三人は魔獣を求めてブリッジへと向かうことにした。
 ラボから出て行く彼らを、ミーチェは心配そうに見送るのであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 ―― ブリッジ

 「なー、頼むよアイちゃん艦長ぉ」

 「マサヒデ、きみの実力がどれ程かは知らないが危険すぎるぞ?」

 何処かに魔獣が居るならば、戦闘に参加させて欲しいと艦長の元へ頼みに来ていた。
 間もなく魔獣討伐戦を行う艦が近くに居るとのことだが……

 「危険は承知の上だぜ。こう見えても激戦を生き抜いて来たんだ」

 「ふー…… 我々の戦闘は君達のとは違い過ぎると思うが? レオパルト2の対魔獣戦の有効性は見せてもらったが…… 失礼だとは思うが車体そのものはあまりにもお粗末過ぎる」

 「確かにレオの性能は、あんた達から見れば足元にも及ばないかも知れない。だけど違うぜ」

 「何が違うと?」

 「俺達には俺達しか持っていない能力がある」

 「ほう」

 と、そこへ為次がしゃしゃり出て来る。

 「そうなんだよねー、マサの言う通り。見たくないかな? アイちゃん」

 「タ、タメツグ…… ん、確かにその能力とやらは気になるが…… それより、そんな所に立っていないで、ここに座ったらどうだ」

 艦長は艦長席の隣に備わっている補助席を開くと、為次に座るようにすすめた。
 その様子を見たブリッジのクルーは驚いた表情である。
 名前で呼ばれても怒らないし、自分の横の席によそ者を座らせるなどありえない。
 しかも、顔をちょっと赤らめちゃってる。

 「えっと……(なんか、みんなこっち見てるしっ)」

 「遠慮するな」

 「う、うん……」

 なんだか微妙な雰囲気になったブリッジ。
 為次が座ると、そんなことにはお構いなく艦長はご機嫌であった。

 「それで、能力とは?」

 「あ、えっと……(ちょ、近い)」

 話し掛けてくる艦長の顔が異様に近い。
 そんな2人を見てスイはあるじが盗られないかとソワソワしていた。

 「はうぅ……」

 「ん? どうした?」

 「いや、その…… 説明するより見た方が早いかなって」

 「なるほど、なるほど」

 「俺達の実力を見れば、嫌でも欲しくなるはずなんすよ。そして、手に入れるにはアクアへ行く必要がある」

 「うむ、タメツグはアクアへマインドジェネレーターを持って行きたいのであったな」

 「まあ、そうね」

 「それを説得させる為のパフォーマンスがしたい分けだな?」

 「あ、はい」

 「分かった。タメツグがそこまで言うなら仕方がない」

 艦長は正面を向いて支持を出す。

 「セリナ!」

 「はいっ」

 セリナを除いてブリッジクルーは一斉に艦長から目を反らし、明後日の方向を向いた。

 「タイフーンの状況はどうなっている?」

 「あと13分で交戦予定です。ターゲットはサラマンダー、Aクラス」

 「ふむ、ここからだと30分程度か……」

 テンペスト級3番艦タイフーンはエクステンペストの応援へと向かっていが、到着前に魔獣討伐完了の知らせを受けた。
 損耗も無く、現時点では補給の必要も無いので、別途任務が与えられていたのだ。
 付近に発生していたサラマンダーの討伐である。

 「よし! 本部へ連絡後、本艦はタイフーンの援護を行う。ティアラっ」

 「はい。アルファ宙域、第二戦闘予定区域に進路変更します」

 エクステンペストは進路を変える為に1度ワープ航法を終了した。
 通常空間に戻ると再度、前方に亜空間サークを展開し再突入となる。

 「本部からも任務変更許可を受けました。タイフーンにも通達済みです。協力感謝とのことです」

 と、メイは報告した。

 「当然だ、アルファ宙域は最優先だからな」

 「なんで最優先なの?」

 為次が訊くとメイが答える。

 「アルファ宙域はテラから一番近い宙域なんですよ」

 「ああ、なるへそ。ついでに、も1つ聞きたいけど任務って勝手に決めちゃうの?」

 「それは状況次第ですね。基本的に私達は本部から魔獣の発生場所をすべて受け取り、マップ上で確認しています」

 その先は艦長が話し出す。

 「優先目標を人工知能にピックアップさせ、艦長である私がターゲットを決める分けだ。緊急の発生源があれば本部からの指示もあるが…… 同じ人工知能による判定だ、わざわざ本部より司令を受けるなど無駄なだけだ」

 「へー」

 「ところで艦長、よろしいのですか?」

 「なんだ? メイ」

 「あと27分で到着ですが……」

 「!? わ、分かっている! マサヒデは11番機、スイは12番機とする。出撃準備をしたまへ」

 「了解、アイちゃん艦長」

 「了解なのです」

 「メイ、エンジェル隊に……」

 エンジェル隊にも出撃をさせようとしたが、途中で為次は命令をさえぎる。

 「あー、ちぃっと待って、エンジェル隊は待機でいいよ」

 「なんだと…… しかし、それでは……」

 「言ったでしょ、俺達の実力を見せるって」

 「……分かった。だが、出撃はさせる。後方待機だ。危険だと判断したら即座に攻撃に移るからな」

 「おけおけ」

 「じゃ、行ってくるぜ」

 「です」

 ブリッジから駆け出す二人。
 
 正秀は水谷マンのお披露目だと、わくわくランド状態であった。

 ……………
 ………
 …

 出撃準備は整った。
 昨日は戦車による初の宇宙戦闘。

 そして今まさに変身ヒーロー誕生の瞬間である。
 きっとこの戦闘は後世にまで語り継がれるであろう……

 などと、正秀は意味不明なことを考えるのであった。
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