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貴方のとなりに
しおりを挟むあれから柳瀬の私に対する態度が変わって初めは戸惑ったけど、揶揄われないで済むなら別にいいかと気にしないことにした。
私は今、律に会う為に学校に向かっている。
律と一緒にいるとあったかい気持ちになれるし、なんか不思議な感覚。
これが好きって気持ちなのかもしれないけど、もっと律の事を知っていかなきゃ。
早く会いたくて、校舎裏へと急ぐ。
今日は土曜日だから学校は休みだけど、部活動のために夕方までは学校も開いてる。それまではゆっくり出来そうだ。
ちなみに私は帰宅部!部活入らなくて良かったぁ。…なんてね。勉強と部活を両立なんて私には難しいし。
「えっと、確かここ辺りだったよね?」
トンネルのようになっている茂みを潜る。
草木を掻き分けて少し進むと、あの場所に出た。
あの時の神社だ。
「っ来れた!」
よかったぁ、これでまた会える!
律はいるかな?
キョロキョロと周りを伺っていると、
「…なんだ、お前本当に来たのか。」
突然上から聞こえたあの声に見上げると、
律と出会ったあの大木の最頂部の枝に座っていた。
「律!」
また会えた。嬉しい!
「どうしたんだ?」
律はあの高さを物ともせず飛び降り、私の前まで歩いてくる。
「だって、来ていいって言ってくれたでしょ?」
「…。」
「もしかして今日は何か予定とかあった?」
それなら残念だけど出直した方がいいかな。
「いや、別に何も無いが。」
「そうなの?じゃあさ、お話しよ!」
律の事全然知らないもん。たくさん聞きたいことあるし!
「お話…随分と子供染みた…」
「何?」
「いや……こっちだ。」
そんな事言いながらもちゃんと案内してくれる律。
そして案内されたのは社の中だった。
「へぇ。意外と綺麗にしてるのね。」
「まぁな。」
昔ながらの小さな神社。畳張りのその本殿には祭壇があるだけ。
私達は適当な所に向かい合って座った。
「律はさ、この神社の神使なんでしょ?仕事ってどんな事するの?やっぱり神様のお使いとか?」
あれからちょっと調べてみたんだよね。仙狐って狐の妖の中では白狐とも言われてて、神通力を持ってる。それがよく聞くお稲荷様の使いなんだって。
「俺は神使じゃねぇ。まぁ、確かに仙狐は一般的には神使をする奴が多いがな。俺はただ住みやすいからここにいるだけだ。仕えたい神もいなかったし。」
へぇ、自分の意思で仕えるかどうか決められるのね。それにしても、
「つまりニートって事ね。」
「おい、知ってるぞ。それは不名誉な呼び名だろ!」
「だってそうじゃない。働かないで衣食住の面倒見てもらってるんでしょ?」
「別に面倒なんて見てもらってない。ここには俺1人だ。」
「1人?妖がってこと?じゃあさ、この神社の神様とかに会える?神使とか!」
神様ってどんな感じなんだろう。人型なのかな?それともお稲荷様だから、狐?
「会えねぇな。」
「なんだぁ、残念。あ、…そもそもこの神社ってなんて神社なの?」
こんな神社があるなんて知らなかったし、
そもそもここってどこなんだろう。学校の近くかな?
「お前…知らずに神に会いたいなんて言ってたのか。バチ当たるぞ。」
何よ、そんなに呆れなくてもいいじゃない。
「だって教えてもらって無かったもん。
ねぇ、なんて神社?」
「結間稲荷神社だ。」
「むすび?…!それってもしかして!?」
「男女の間をとりもって赤い糸を結んでくれるお稲荷様だよ。」
「やっぱり!」
ここでお祈りしたら、律ともいい感じになれるかも⁈
「まぁ、今は廃れて神も神使もいなくなったがな。」
「えぇ⁈何それ!じゃあ誰が私のお願い聞いてくれるのよ!」
「知るか!」
「なぁーんだ。神様いないんだ。
じゃあこの神社には本当に律だけって事?」
「そうなるな。」
そんなの、
「…寂しく無いの?」
「別に。もうこの生活も長いし。寂しいなんて思った事無いな。」
「そっか。ねぇ、もっと律の事を教えてよ。」
やっぱり私、律といるとなんか落ち着く。こんなに男の人と話した事なんて無いし、もっと話してみたい。
「俺の事って…、そんなの聞いて楽しいか?」
「楽しいし、知りたいの!例えばー、好きな女の子のタイプとか!」
私、律の事好きかもしれないもん。
だから相手の事をちゃんと調査しとかなきゃ!
「なんでそんなのが聞きたいんだよ。なんでもいいだろ?」
「いいから、ね、お願い!」
「…前に言ったろ、明るいやつだよ。」
「それは性格でしょ?」
ふふ、それはもうクリアしてるのよ!
「ほら、体型とか、髪型とか色々あるじゃん!好きな仕草とかさ!」
「体型ってそりゃ太ったやつより痩せてる方がいいだろ。でも抱き心地いいくらいには肉あった方がいいか。」
抱き心地うんぬんは置いといて。
体型もおそらくクリア。
「ふんふん。で、髪型は?」
「…長い方。」
「ほほーぅ。」
ちょっと、私結構イケてるんじゃない⁈
「…お前おかしいぞ?」
「おかしくないです。これは乙女心なのです!」
「乙女心ねぇ…。」
「じゃあさ、ここに来るまでは何してたの?」
「何って、仲間と過ごしたり、ただのんびりぶらついてたよ。
暇な時は化けて人間脅かしたり?」
「そんな事してたの?っていうか、化けられるの⁈」
「狐だぞ。当たり前だろ。動物にでも人間にでもな。」
「すごーい!じゃあ、何かに化けて見せてよ!」
「何で。面倒だから嫌だ。」
「いいじゃん、お願い。ね?見てみたいの。」
秘技、上目遣い…!クリクリのぱちぱちっ!
「…はぁ、分かったよ。」
「やったぁ!」
私でも効くのねこれ!
お母さんに教えてもらった技、役に立ったよっ、ありがとうお母さん!
「…お前確信犯だな?」
「えへへー。バレた?でも初めて通用したよー。」
「俺で試すな。お前意外と打算的なんだな。」
「もー、いいから早く。」
「…何に化けて欲しいんだ?」
「えっと、じゃあカッコいい男の人!あ、人間ね!」
「何だそのアバウトなリクエストは。それにイイ男ならもう目の前にいるだろ。」
「そうだけど、違うバージョンのも見てみたいの!」
「…(こいつ、しれっと肯定したの気づいてるか?)」
それから律はなんだかんだで応じてくれた。
そしてポンと音を立てると煙に包まれた。
その煙が晴れると、そこにはーー
胡座に肘を突いて頬杖しながら私を見上げる、カッコいい律がいた。
しかしその姿は普段の律とは全く違っていた。
「っぎゃーー!!なんてもの見せるのよ!」
その男は床に流れる程の長い銀髪を持ち、それは模様を描いているよう。そして切れ長の流し目がエロく、着物は肌蹴て片方の肩は思いっきり出てしまっていた。
エロい!!
思わず両手で目を覆ってしまう。
「はっ。やっぱりガキだな、このくらいでなんだ?つーか、品の無ぇ声。」
おいそこ!呆れるな!
「ガキじゃない!なんであんたの思うかっこいいが、着物を肌蹴させたエロい男なのよ!」
「何でって、人間の女はこんなのが好きなんだろ?もっとよく見てもいいんだぜ?」
ちょ、近寄るな!!
「どこで得た情報よそれ⁈さっさと着物ちゃんと着て!顔が見れないじゃない!」
「…全く。イイ男に化けろやら、しっかり着ろやら注文の多い。面倒なやつだな。」
何で私が悪い事になってんの!
そうブツブツ言いながらも、律は着物をしっかりと着てくれた。
「ふぅ、もー焦ったぁ。」
男に慣れてない私には刺激が強すぎるのよ。
…これは決してガキだからじゃ無い。心がピュアだからよ!
「焦るほどのものだったか?」
「もう黙ってて。
…ほほぅ、ちゃんとしたらカッコいいじゃん。」
律の化けた姿は、短髪だった銀色の髪は腰まで伸びて、耳と尻尾は消えてる。顔も少し変えたのか、切れ長の目に、瞳は青かった。こう見るととてつもなくイケメンな人間にしか見えない。ここまで髪の長い人間の男もそういないんだけど。
「だろ?まぁ、元がいいからな。」
…胸を張っているけど、化けたら元の顔なんて関係ないんじゃ無いの?
なんて思ったけど言わないでおく事にした。
「ん?あれ、身長低くなった?」
少し目線が近いような…
170㎝くらい?
「人間の男はチビだろ。俺は忠実に再現してんだ。」
それ、世の男達に言ったら袋叩きだからね。
「じゃあ元の身長はいくつあるの?」
私がだいぶ見上げるくらいだから、結構ありそうだったけど。
「そんなの測った事無いから分からん。」
「えー、じゃあさ、今度私が測ってあげるから。元の姿になってこっち来てよ。」
私は一本の柱の前に律を連れて行く。
「ねぇ、この社ってもう律の持ち物なの?」
「まぁ、そうだな。」
あ、元の姿に戻った。おぉ、やっぱり大きい。
「じゃあさ、柱に傷とか付けても大丈夫?」
「傷…?問題無いが、お前考えることバチ当たりだな。」
「普通だったらしないし!
だって神様いなくて、もう律の物なんでしょ?それにこの社も寂しいかもしれないし。」
「?で、何するんだ?」
「えっとね、律は柱に背を向けて背中をつけてて?」
「…こうか?」
私の言う通り素直に応じる律。
背筋伸びててなんか可愛い。
「そう。それで後は頭の上で印を……って届かないじゃん!」
「何してる?」
柱に印をつけようと手を伸ばすが、律の頭にも手が届かない。その状況を見て律は心底不思議そうに見下ろしてくる。
「くっ、身長を測る時にね、柱に毎年身長の印をつけるの!
これで、柱を見る度にその子の成長が分かるんだよ?そうやって家も子供達の成長を見守ってくれるの。」
だめだ、全然届かない…!
「へぇ。人間はそんなことをしてるのか。」
「うん。成長を共に見守っていけるなら、この社も寂しくないんじゃ?って思ったんだけど。」
「…俺はもう伸びんぞ。」
「じゃあ私も一緒に付けるから!私はまだまだ伸びるはず!」
「そこまでしなくても別にいいだろ。身長なんて適度でいい。」
「ダメよ。私が知りたいの!」
身長差カップルも素敵よね!何㎝あるんだろう?
「でも届かない事には何も始まらないのよね。うーん、どうしようかな。」
踏み台探すか。
「それなら俺が自分でつけたらいい話だろ。」
そう言うと自分で頭の上に手をやる律。
「ダメ!正確に測るの。
ちょっと踏み台になりそうなの探してくるね。」
「待て。それならこれでいい。」
そう言うと律は突然私の脇に手を入れ、律の目線の高さまで持ち上げた。
「っ!何、してるの⁈」
私、軽いけど重いかもなのに!!
律には重いなんて思われたくないって思ったら、よく分からないことを考えてしまった。
「ほら、早くしろ。」
律は何でもないように平然と言ってくる。
「…私、重くない?」
「これで重かったらどんだけペラペラになる気だよ。いいから早くしろ。」
…ちょっと嬉しかった。
思わず顔が赤くなったのが分かったけど、とりあえず、律の身長の所で柱に印をつけた。
「…いいよ。」
もうちょっとこのままでいたかったなぁ。
……律の腕がもたないか。
「よし。どれどれ…ん?これでどう分かるんだ?」
首を傾げる律。
「それは後日メジャーを持ってきて測ってから。」
「?そうか。じゃあ次はお前の番だな。」
「え?」
「…お前もすると言ったろ。」
「あー、そうだったね。はい、お願いします!」
そう言って私は柱に背をつけた。
身長伸びてるといいなぁ。去年は160㎝だったよね。
そして正面に律が立ち、少し屈んで私の頭に触れる。
そこで、私は思った。
ちょ、これ!
壁ドンみたい…っ!!
しまったぁ!!何これ恥ずかしいー!!
すぐ目の前にある律の胸元は広く、細身ながらも男らしさを感じる。それになんかいい香りするし!
私はこの状況に目を泳がせるしか無かった。
「…ちぃさっ。」
「何⁈」
「お前チビだな。見ろよ、俺との差。」
私は振り返って柱を見ると、律の印とは30㎝程の差があった。
こうしてみると、もしかして律って190㎝くらい⁈
デカっ!!
「私これでも、人間の女の子の中では平均以上なんだから!」
「ふーん。人間は本当にチビだよな。」
「ちょっと!」
そして後日メジャーを持ってきて測ってみたところ、
律は190㎝。私はなんと、159㎝…
…っなんで縮んでるのよ!
という訳で最近分かった事。
・律は明るい性格で髪の長くて痩せてる女の子が好き。
→私に当てはまってる!
・どんな姿にも化ける事ができる。
→どちらにしろ私好み!
・私達は身長31㎝差だった。
→でこぼこコンビだね!
これから、律のことをもっともっと知っていきたい!
これからは律に私の事を好きになってもらう為に、律好みの女の子でいる努力をしなきゃ。
そして、いつか私の事を名前で呼んでくれたら、嬉しいな。
応援ありがとうございます!
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