上 下
7 / 18

貴方のとなりに

しおりを挟む



あれから柳瀬の私に対する態度が変わって初めは戸惑ったけど、揶揄われないで済むなら別にいいかと気にしないことにした。


私は今、律に会う為に学校に向かっている。
律と一緒にいるとあったかい気持ちになれるし、なんか不思議な感覚。
これが好きって気持ちなのかもしれないけど、もっと律の事を知っていかなきゃ。

早く会いたくて、校舎裏へと急ぐ。

今日は土曜日だから学校は休みだけど、部活動のために夕方までは学校も開いてる。それまではゆっくり出来そうだ。

ちなみに私は帰宅部!部活入らなくて良かったぁ。…なんてね。勉強と部活を両立なんて私には難しいし。


「えっと、確かここ辺りだったよね?」

トンネルのようになっている茂みをくぐる。

草木を掻き分けて少し進むと、あの場所に出た。
あの時の神社だ。


「っ来れた!」

よかったぁ、これでまた会える!
律はいるかな?

キョロキョロと周りを伺っていると、



「…なんだ、お前本当に来たのか。」


突然上から聞こえたあの声に見上げると、
律と出会ったあの大木の最頂部の枝に座っていた。


「律!」

また会えた。嬉しい!


「どうしたんだ?」

律はあの高さを物ともせず飛び降り、私の前まで歩いてくる。

「だって、来ていいって言ってくれたでしょ?」


「…。」


「もしかして今日は何か予定とかあった?」

それなら残念だけど出直した方がいいかな。


「いや、別に何も無いが。」


「そうなの?じゃあさ、お話しよ!」
律の事全然知らないもん。たくさん聞きたいことあるし!


「お話…随分と子供染みた…」


「何?」


「いや……こっちだ。」

そんな事言いながらもちゃんと案内してくれる律。
そして案内されたのは社の中だった。

「へぇ。意外と綺麗にしてるのね。」


「まぁな。」


昔ながらの小さな神社。畳張りのその本殿には祭壇があるだけ。

私達は適当な所に向かい合って座った。


「律はさ、この神社の神使しんしなんでしょ?仕事ってどんな事するの?やっぱり神様のお使いとか?」

あれからちょっと調べてみたんだよね。仙狐って狐の妖の中では白狐とも言われてて、神通力を持ってる。それがよく聞くお稲荷様の使いなんだって。


「俺は神使じゃねぇ。まぁ、確かに仙狐は一般的には神使をする奴が多いがな。俺はただ住みやすいからここにいるだけだ。仕えたい神もいなかったし。」


へぇ、自分の意思で仕えるかどうか決められるのね。それにしても、

「つまりニートって事ね。」


「おい、知ってるぞ。それは不名誉な呼び名だろ!」


「だってそうじゃない。働かないで衣食住の面倒見てもらってるんでしょ?」


「別に面倒なんて見てもらってない。ここには俺1人だ。」


「1人?妖がってこと?じゃあさ、この神社の神様とかに会える?神使とか!」

神様ってどんな感じなんだろう。人型なのかな?それともお稲荷様だから、狐?


「会えねぇな。」


「なんだぁ、残念。あ、…そもそもこの神社ってなんて神社なの?」

こんな神社があるなんて知らなかったし、
そもそもここってどこなんだろう。学校の近くかな?

「お前…知らずに神に会いたいなんて言ってたのか。バチ当たるぞ。」

何よ、そんなに呆れなくてもいいじゃない。

「だって教えてもらって無かったもん。
ねぇ、なんて神社?」


むすび稲荷神社だ。」


「むすび?…!それってもしかして!?」


「男女の間をとりもって赤い糸を結んでくれるお稲荷様だよ。」


「やっぱり!」

ここでお祈りしたら、律ともいい感じになれるかも⁈


「まぁ、今は廃れて神も神使もいなくなったがな。」


「えぇ⁈何それ!じゃあ誰が私のお願い聞いてくれるのよ!」


「知るか!」


「なぁーんだ。神様いないんだ。
じゃあこの神社には本当に律だけって事?」


「そうなるな。」

そんなの、

「…寂しく無いの?」


「別に。もうこの生活も長いし。寂しいなんて思った事無いな。」


「そっか。ねぇ、もっと律の事を教えてよ。」

やっぱり私、律といるとなんか落ち着く。こんなに男の人と話した事なんて無いし、もっと話してみたい。


「俺の事って…、そんなの聞いて楽しいか?」


「楽しいし、知りたいの!例えばー、好きな女の子のタイプとか!」

私、律の事好きかもしれないもん。
だから相手の事をちゃんと調査しとかなきゃ!


「なんでそんなのが聞きたいんだよ。なんでもいいだろ?」


「いいから、ね、お願い!」


「…前に言ったろ、明るいやつだよ。」


「それは性格でしょ?」

ふふ、それはもうクリアしてるのよ!


「ほら、体型とか、髪型とか色々あるじゃん!好きな仕草とかさ!」


「体型ってそりゃ太ったやつより痩せてる方がいいだろ。でも抱き心地いいくらいには肉あった方がいいか。」


抱き心地うんぬんは置いといて。
体型もおそらくクリア。

「ふんふん。で、髪型は?」


「…長い方。」


「ほほーぅ。」

ちょっと、私結構イケてるんじゃない⁈


「…お前おかしいぞ?」


「おかしくないです。これは乙女心なのです!」


「乙女心ねぇ…。」


「じゃあさ、ここに来るまでは何してたの?」


「何って、仲間と過ごしたり、ただのんびりぶらついてたよ。
暇な時は化けて人間脅かしたり?」


「そんな事してたの?っていうか、化けられるの⁈」


「狐だぞ。当たり前だろ。動物にでも人間にでもな。」


「すごーい!じゃあ、何かに化けて見せてよ!」


「何で。面倒だから嫌だ。」


「いいじゃん、お願い。ね?見てみたいの。」

秘技、上目遣い…!クリクリのぱちぱちっ!


「…はぁ、分かったよ。」


「やったぁ!」

私でも効くのねこれ!
お母さんに教えてもらった技、役に立ったよっ、ありがとうお母さん!


「…お前確信犯だな?」


「えへへー。バレた?でも初めて通用したよー。」


「俺で試すな。お前意外と打算的なんだな。」

「もー、いいから早く。」


「…何に化けて欲しいんだ?」


「えっと、じゃあカッコいい男の人!あ、人間ね!」


「何だそのアバウトなリクエストは。それにイイ男ならもう目の前にいるだろ。」


「そうだけど、違うバージョンのも見てみたいの!」


「…(こいつ、しれっと肯定したの気づいてるか?)」

それから律はなんだかんだで応じてくれた。
そしてポンと音を立てると煙に包まれた。

その煙が晴れると、そこにはーー


胡座あぐらに肘を突いて頬杖しながら私を見上げる、カッコいい律がいた。

しかしその姿は普段の律とは全く違っていた。


「っぎゃーー!!なんてもの見せるのよ!」


その男は床に流れる程の長い銀髪を持ち、それは模様を描いているよう。そして切れ長の流し目がエロく、着物は肌蹴て片方の肩は思いっきり出てしまっていた。

エロい!!

思わず両手で目を覆ってしまう。


「はっ。やっぱりガキだな、このくらいでなんだ?つーか、品の無ぇ声。」

おいそこ!呆れるな!


「ガキじゃない!なんであんたの思うかっこいいが、着物を肌蹴させたエロい男なのよ!」


「何でって、人間の女はこんなのが好きなんだろ?もっとよく見てもいいんだぜ?」

ちょ、近寄るな!!

「どこで得た情報よそれ⁈さっさと着物ちゃんと着て!顔が見れないじゃない!」


「…全く。イイ男に化けろやら、しっかり着ろやら注文の多い。面倒なやつだな。」

何で私が悪い事になってんの!


そうブツブツ言いながらも、律は着物をしっかりと着てくれた。


「ふぅ、もー焦ったぁ。」

男に慣れてない私には刺激が強すぎるのよ。
…これは決してガキだからじゃ無い。心がピュアだからよ!


「焦るほどのものだったか?」


「もう黙ってて。

…ほほぅ、ちゃんとしたらカッコいいじゃん。」

律の化けた姿は、短髪だった銀色の髪は腰まで伸びて、耳と尻尾は消えてる。顔も少し変えたのか、切れ長の目に、瞳は青かった。こう見るととてつもなくイケメンな人間にしか見えない。ここまで髪の長い人間の男もそういないんだけど。


「だろ?まぁ、元がいいからな。」

…胸を張っているけど、化けたら元の顔なんて関係ないんじゃ無いの?

なんて思ったけど言わないでおく事にした。


「ん?あれ、身長低くなった?」

少し目線が近いような…
170㎝くらい?


「人間の男はチビだろ。俺は忠実に再現してんだ。」

それ、世の男達に言ったら袋叩きだからね。


「じゃあ元の身長はいくつあるの?」

私がだいぶ見上げるくらいだから、結構ありそうだったけど。

「そんなの測った事無いから分からん。」


「えー、じゃあさ、今度私が測ってあげるから。元の姿になってこっち来てよ。」

私は一本の柱の前に律を連れて行く。


「ねぇ、この社ってもう律の持ち物なの?」


「まぁ、そうだな。」

あ、元の姿に戻った。おぉ、やっぱり大きい。

「じゃあさ、柱に傷とか付けても大丈夫?」


「傷…?問題無いが、お前考えることバチ当たりだな。」


「普通だったらしないし!
だって神様いなくて、もう律の物なんでしょ?それにこの社も寂しいかもしれないし。」


「?で、何するんだ?」


「えっとね、律は柱に背を向けて背中をつけてて?」


「…こうか?」

私の言う通り素直に応じる律。
背筋伸びててなんか可愛い。

「そう。それで後は頭の上で印を……って届かないじゃん!」


「何してる?」

柱に印をつけようと手を伸ばすが、律の頭にも手が届かない。その状況を見て律は心底不思議そうに見下ろしてくる。


「くっ、身長を測る時にね、柱に毎年身長の印をつけるの!
これで、柱を見る度にその子の成長が分かるんだよ?そうやって家も子供達の成長を見守ってくれるの。」

だめだ、全然届かない…!
 

「へぇ。人間はそんなことをしてるのか。」


「うん。成長を共に見守っていけるなら、この社も寂しくないんじゃ?って思ったんだけど。」


「…俺はもう伸びんぞ。」


「じゃあ私も一緒に付けるから!私はまだまだ伸びるはず!」


「そこまでしなくても別にいいだろ。身長なんて適度でいい。」


「ダメよ。私が知りたいの!」

身長差カップルも素敵よね!何㎝あるんだろう?

「でも届かない事には何も始まらないのよね。うーん、どうしようかな。」

踏み台探すか。


「それなら俺が自分でつけたらいい話だろ。」

そう言うと自分で頭の上に手をやる律。


「ダメ!正確に測るの。
ちょっと踏み台になりそうなの探してくるね。」


「待て。それならこれでいい。」

そう言うと律は突然私の脇に手を入れ、律の目線の高さまで持ち上げた。


「っ!何、してるの⁈」

私、軽いけど重いかもなのに!!
律には重いなんて思われたくないって思ったら、よく分からないことを考えてしまった。


「ほら、早くしろ。」

律は何でもないように平然と言ってくる。


「…私、重くない?」


「これで重かったらどんだけペラペラになる気だよ。いいから早くしろ。」


…ちょっと嬉しかった。

思わず顔が赤くなったのが分かったけど、とりあえず、律の身長の所で柱に印をつけた。


「…いいよ。」

もうちょっとこのままでいたかったなぁ。
……律の腕がもたないか。


「よし。どれどれ…ん?これでどう分かるんだ?」

首を傾げる律。


「それは後日メジャーを持ってきて測ってから。」


「?そうか。じゃあ次はお前の番だな。」


「え?」


「…お前もすると言ったろ。」


「あー、そうだったね。はい、お願いします!」
そう言って私は柱に背をつけた。
身長伸びてるといいなぁ。去年は160㎝だったよね。


そして正面に律が立ち、少し屈んで私の頭に触れる。

そこで、私は思った。


ちょ、これ!
壁ドンみたい…っ!!

しまったぁ!!何これ恥ずかしいー!!

すぐ目の前にある律の胸元は広く、細身ながらも男らしさを感じる。それになんかいい香りするし!
私はこの状況に目を泳がせるしか無かった。


「…ちぃさっ。」


「何⁈」


「お前チビだな。見ろよ、俺との差。」

私は振り返って柱を見ると、律の印とは30㎝程の差があった。
こうしてみると、もしかして律って190㎝くらい⁈

デカっ!!


「私これでも、人間の女の子の中では平均以上なんだから!」


「ふーん。人間は本当にチビだよな。」


「ちょっと!」



そして後日メジャーを持ってきて測ってみたところ、

律は190㎝。私はなんと、159㎝…

…っなんで縮んでるのよ!



という訳で最近分かった事。

・律は明るい性格で髪の長くて痩せてる女の子が好き。
→私に当てはまってる!

・どんな姿にも化ける事ができる。
→どちらにしろ私好み!

・私達は身長31㎝差だった。
→でこぼこコンビだね!


これから、律のことをもっともっと知っていきたい!
これからは律に私の事を好きになってもらう為に、律好みの女の子でいる努力をしなきゃ。

そして、いつか私の事を名前で呼んでくれたら、嬉しいな。


しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄された令嬢は森で静かに暮らしたい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:7,018

洪鐘祭でキス

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:3

スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:7,076

処理中です...