私、「自然」に愛されて育ちました!

つきの

文字の大きさ
4 / 23
春の章

喚ばれました。

しおりを挟む



獣人の国。魔物の国。精霊の国ーー

そんな様々な種族の国がある中で、
ここは唯一の人間の国、ルーテニア王国。


季節は春。色とりどりの草花が蕾をつけ、動物達が活発になる頃だが…。


この国は今、ある危機におちいっていた。

それは千年に一度、必ずやってくる大干ばつ。


作物や水資源は枯れつつあり、民の生活は困窮こんきゅうしていた。野生の動植物の生きる場所もどんどん失われている。

森からは湖が消え、草花が枯れていった。





しかし、この状況を打開できるかもしれない方法がただ一つだけあった…。



それは、自然に愛されているという異世界の人間、
ーー伝説の愛し子を召喚するということであった。

そして、これは初めての試み。
時代は進み、愛し子を召喚できる可能性が見えてきたのだ。




ルーテニア王国   儀式の間ーー



国王と王の側近、そして召喚魔術師が重々しい表情で佇んでいた。



「…どうだ?成功したのか⁈」

沈黙を破ったのは、この国の王、アリオス。



「陛下…。
おそらくこの国への召喚には成功しているようです。しかし、場所の特定が未だ出来ず…。申し訳ありません。」

そう謝るのは、召喚魔術師、ルベリアだ。



「っ何だと⁈そもそも、何故この場に召喚出来ていないのだ!?」



怒鳴る国王に側近のジークが答える。

「陛下。もともとこの案件は性急でした。
準備が完全には整っていなかったのです。
しかし、この国の何処かにいると言うのであれば、探し出して迎えに行けば宜しいかと。」




「っ…一刻も早く、この状況を打破しなければならないのだ。このままだとこの国は終わる。民は今も苦しんでおるのだ。
…急いで探せ!愛し子を無傷で保護するんだ!」



「「はっ。」」





そんな事態に巻き込まれているとは露ほども知らない千春はーー



呑気のんきに果物を食べていた。


「この、りんごみたいな果物、すごく美味しいわ!見つけてきてくれて、ありがとうフィン!」


『そう、よかった。なんだか、この国に果物は少ないみたいね。それだけしか見つからなかったわ。』
そう千春の周りから声がしたと思うと、金髪に緑のグラデーションが美しい衣装を纏った女性が現れた。


「そっかぁ。ねぇ、ここってどこなのかしら?
さっきまで夜だったのに、今は昼よね?それになんか、とっても暑いわ!森の中なのに、酷く乾いていてちっとも居心地良くない。」


『ここは、地球とは違う異世界。千春はこの国の人間に喚ばれたみたいね。
でも私達は千春がどこにいても、貴女を見失うことは無いわ。これからどうしたいの?』


「異世界?それは随分と突拍子ね…。

…何で連れて来られたのかは分からないけど、来ちゃったものは仕方ないもの。
(向こう地球に家族を残してきた訳でもないし…)

とりあえず、まずは人に会わなきゃ!
自分の状況も知りたいし、
これから何日も野宿になるのは辛いわ。」


『そう。私達が必要になった時は呼んで。
私達はいつでも貴女の傍にいるわ。』

そう言ってフィンは消えていった。



「えぇ!ありがとう、フィン
…さて、そうとなれば、森の探索へと行きましょうか!」


こうして、あっという間にこの状況に順応した千春は、森の探索へと乗り出したのだった。




ーーしばらく歩いていると、木々がカラカラに乾き、森が悲鳴を上げていることに気がついた。

「…どうして、こんなに乾いているのかしら。雨が降っていないにしろ、何ヶ月も降らない状況じゃなければ、こんな事にはならないはずよね。
…もしかして、干ばつとかかしら?」

カラカラな空気に、喉が乾く。心なしか髪もキシキシだ。そして暑い。
千春は髪を結いあげながら歩いた。


そしてある拓けた場所に出る。

そこには、直径20m程の大きな窪みがあり、中心部がやや湿っているようだった。


「あ。ここって、もしかして湖があったのかも。

っ…!大変っ!」


千春が見渡したその湖跡地の近くには、水を求めて来たのだろう、多くの動物が倒れていた。

水を求めてハクハクと口を動かしている。



千春は動物達に駆け寄った。


「っ可哀想に。水が欲しいのね。

…待っててね。今すぐに雨を降らしてあげるわ!」

そう言うと、千春は空を仰いだ。


シエロー!今いいかしら?
雨を降らして欲しいの!とびっきりたくさんの雨よ!」


すると、
カラカラに晴れた空から低くも落ち着いた声がした。
そして、銀髪の長い髪に白い衣装を纏った男が姿を現した。


『…あぁ。分かった。千春は濡れてもいいのか?』



「全然構わないわ!とっても乾いてて私も暑いもの!」


『ーー了解した。』



そしてーー


その森に、約半年ぶりの雨が大量に降りそそいだのだった。


動物達は突然の雨に驚きながらも、とても喜んだ。
みるみるうちに溜まっていく湖の水を、我先にと飲み、喉を潤している。


「ふふ、よかった。あぁ、やっぱりたまには雨もいいわね!気持ちいいわ!」


千春はその場でくるくると回りながら、雨粒をその身に受ける。


たまには、か。まぁいい。また必要になれば呼べ。』


「えぇ!ありがとう、シエロ!」



雨はまだまだ降り続いている。
動物達も喉を潤せたのか、各々の住処すみかへと戻っていった。


「さて、そろそろ雨宿りしなきゃ、さすがに風邪引くかな?」

千春は雨宿りできそうな場所を探す。


すると、とても大きな木に、千春が立ってもすっぽり入るくらいの大きなウロを見つけた。

「ここ、ちょうどいいわ!ここで、雨宿りしましょう。
フィンファイ、お願いがあるんだけど、この木を燃やさないように、私を乾かしてくれる?」


千春は、パーティバッグにぶら下げていた、小さなキャンドルに灯っていたファイフィンへ声をかけた。この火は、特殊なキャンドルのおかげで消える事は無い。

千春の目の前に、赤髪に黄色の衣装を纏った青年が現れた。

『はいよー。髪と服を乾かせばいいんだよな?よし、やるぜ、フィン。』

『えぇ。』

キャンドルの火はそう言うと、そこから火を大きくして熱を発した。


それをフィンが仰ぎ、熱風にする。
所謂いわゆるドライヤー状態だ。



そうして、暖かなファイと、優しいフィンによって、千春はすっかり乾いたのだった。


「ありがとう、2人とも!
…そろそろ、日が暮れちゃうわね。
あーぁ、今日はここで野宿かぁ。仕方ない、防寒できるもの探さなきゃ。」

千春は、パーティドレスのままこちらの世界へと来た為、春とはいえど夜は冷えてしまうだろう。


焚火たきび、するか?』


「うーん、この木が燃えちゃったら大変だから、大丈夫よ。」


『そんくらいの調整、問題ないぜ?』


「でも、大丈夫!ありがとう、ファイ!」


『別に。じゃあまた呼べな。』
そう言うとキャンドルの中へと入り、ただの火へと戻った。




千春はそれから寝床集めに再び森の中を歩く。

ちなみに、千春にだけ雨が当たらないようにまたシエロにお願いしたのだった。





ーー翌朝。




昨日頑張って探した雨に濡れずにあったフワフワの藁や、草の上で千春はぐっすりと眠っていた。

今は雨も止んでおり、朝露が降りている。

鳥達はチュンチュン、と久しぶりの雨に喜び、唄っていた。



そして鳥達の声に目を覚ます。

「っうーん、もう朝かぁ…。

今日はこの国の人と会えたらいいなぁ。」






その頃、ルーテニア王国ではーー


「陛下、大変です!
国境の森に、突然雨が降りだしたと情報が!」

側近のジークが王の間へと飛び込んで来た。


「何、それは本当か!?だが、何故森だけに…?この干ばつの中、限定して降るなどおかしな話だな。」


「それは分かりません。見た者の証言によると、森のみに降っていたと。そして、干からびていた湖が潤っていたそうです。これは、もしかすると…。」


「ふむ。愛し子か。
ーー急ぎ騎士団を向かわせろ、愛し子の可能性が高い。必ず保護するのだ。」


「承知致しました。」





騎士団控え室にてーー



「聞いたか?この大干ばつを救う愛し子って奴を今から迎えに行くんだろ?どんな人かなー?男か女か。女の子だといいなぁー。」

そうのんびりとした口調で話すのは金髪金眼の青年。


「おい、トニー。喋っていないで手を動かせ。もうすぐ出立だ。」


そういさめたのは銀髪赤目の青年トレイン、トニーの昔ながらの友人だ。


「へいへい。とにかく、早くこの干ばつをどうにかしてもらわないと、もうすぐ水の蓄えも底を尽きる。そうなれば俺達は終わりだ。カラッカラに干からびちまう。」


「あぁ。だから、今から愛し子様を迎えに行くんだ。聞いた話だと、早速森を蘇らせたそうじゃないか。」


「え、あの突然の雨ってそう言うこと⁈
…すげー、雨とか降らせるなら、そりゃ干ばつも救えるかもだよな。愛し子っていっても、何するんだろって思ってたからさ。」


「…愛し子についてはよく分かっていないしな。何しろ、今回が初めてなんだろ。
俺たちは幸運なのかもな。まぁ、干ばつは大迷惑だが。」


「そうだよなぁ。…っと。準備完了!
団長ー!皆準備オッケーですよ!」


「…全く、お前の準備を待っていたというのに、何を言うか。」

そう呆れたように話すのはこの国の騎士団、団長アクラス。金髪青目の美青年だ。


「ぅえ、そうだったんすか?それは…すんません!あはは!」
トニーは笑って誤魔化した。


「…。それでは皆、これから国境の森へと向かう。捜索対象は愛し子。女とも男とも分からんが、とにかく異世界の者ならば黒髪に黒い瞳。そして変わった衣服を着ているという情報だ。皆、頼むぞ。」


「「はい!」」


この国へは、ごく稀に異世界から訪れる人間がいた。その者達は皆、黒髪に黒目だったのだ。
前回の来訪者は何百年も前だが、騎士団達は僅かな情報を元に捜索に乗り出したのだった。


そうして約十数騎の騎士が森へ向けて出発した。







その頃の千春はーー


二度寝していた…。


何せ、早朝にしては暖かな空気に眠気が襲う。
この国の人間を探すという大事な目的はあるが、何も朝早くから行動しないといけない訳でもなく、時間に追われている訳でも無いのだ。

そうと決まれば、二度寝を…という事に至ったのだ。



ーーーー

騎士団が出立して数十分後。森が見えてきた。



「あの森に愛し子様が…。」
騎士団長アクラスは1人呟く。



そして、森の入り口へとたどり着いた。


「皆、ここからは三手に分かれる。見つけた部隊は、狼煙のろしを上げて知らせるように。」


「「はい!」」



アクラス達はしばらく捜索を続けた。

情報にあった通り、湖は綺麗な水が満たっており、草花もどこか生き生きとしている。


「…本当だったか。こんなに青々としている森を見るのは久しぶりだ。愛し子様か…。(どんな方なのだろう。)」
アクラスは愛し子を想いながら捜索を続ける。



「ぅわー、色んな花が咲いてるぜ。朝露なんて久しぶりだよ俺。綺麗だよなー持って帰りてー。」

周囲の草花を見回しながら感嘆したのはトニーだ。



「…お前にも癒しなどが必要なのか?いつも能天気にしてるだろ。それにお前が花に対して「綺麗」だなんて、そんな心持ち合わせていたんだな。」


「おいおい、トレイン。そりゃ無いだろー。こんなに綺麗な花々だぜ?
しばらく女の子達に贈れていなかったからなぁ。」


「女の為かよっ。」


「逆に他に何があるんだ?俺が花を愛でてて、俺の部屋に大事に飾ってあったりとかしたら怖いだろ。」


「あぁ。それは怖いな。気持ち悪い。」


「きっ…⁈それは酷く無いか!?」



「おい、お前ら!真面目に捜索しろ!!」
そんなやりとりに団長の叱咤が飛んだ。


「「す、すみません!」」



そして、

アクラス達一行の先に、ある1本の大きな木が見えてきた。
遠目から見ても相当な大きさだ。


「大きいな…。」


「うわー、でけぇ。こんな木あったんだなぁ。」


「本当だ。俺も初めて見たよ。なんか神々しさまで感じる…。」




その木には大きなウロがポッカリと口を開けており、アクラス達は誘われるように近づいた。

そして見つけたのだ。


ーー気持ちよさそうに丸まって眠る、とても美しい少女を。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

処理中です...