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白珪学園編
第十九話 肝試し大会④
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何故かそこだけ明かりのついた音楽室からは、ピアノの美しい調べが響いてきます。
そこに最初にたどり着いたのは…何故か一番最後に出発したはずの千明でした。
初めて訪れたはずの校舎の中を、火の玉と懐中電灯の薄暗い明かりだけで、千明は迷うことなく真っ直ぐ音楽室へと向かいます。
ガラッと音楽室の扉を開けると…そこには…
白珪学園の昔の制服であるセーラー服を着た女生徒が、ピアノを弾いていました。
ピアノの方を向いているため、暗がりの中で顔はよく見えませんが…
その姿は彼女が演奏するベートーヴェンの『月光』と相まって、とても幻想的で美しく見えます。
窓から差す月の光に照らされた髪の毛は、ほんのり淡いピンク色で…まるで月から降りてきた妖精のよう…
けれど千明は、ここでもゆっくりピアノ鑑賞することもなく先を急ぎ、次の目的地を確認することにしました。
ここでは先程のように黒板に行き先が書かれていないので、ピアノを弾く彼女に尋ねるしかありません…。
「すみません、次の目的地はどこですか?」
そう声を掛けられ、振り向いた彼女の顔は…
「「・・・・」」
しばらくお互い無言で向かい合った後、何も言わない女生徒にしびれを切らした千明が、今度はちょっとイラッとした感じで尋ねました。
「次の行き先、知ってるんでしょ?」
「り…理科室です…」
小学六年女児のカツアゲするヤンキーのような眼差しに、思わずどもってしまいました…。
「ありがとう、のっぺらぼうのお姉さん。とても演奏素敵でしたよ」
ヤンキーから美少女の微笑みに変わると、ペコリ頭を下げ、軽やかな足取りで教室を出ていきました。
「小学生女子の迫力に負けた…」
驚かすつもりが、ちっとも驚かないどころか…こちらが脅されたことにショックを受けたのっぺらぼう…もとい宝は、そのくすぶった思いをぶつけるように、『月光』の続きを第3楽章まで感情を込めて演奏しきりました。
肝試し中だったことも忘れて…
宝の演奏が終わった途端、ガラッと音楽室の扉が開き…場違いな拍手が鳴り響きました。
「ブラボー。とても心揺さぶられる素晴らしい演奏だったね」
拍手と共に入って来たのは、生徒会長の来栖尚明でした。
実は千明が出てすぐくらいに、彼は音楽室にたどり着いていたのですが…あまりに見事な演奏だったので、最後まで鑑賞してから現れたのです。
「特に第3楽章のほとばしるパッションが溢れた演奏はとても素晴らしかった…。
でも…今の君にはもっと相応しい曲があるんじゃないのかい?
そう…例えば、ここまで僕を案内してくれた鬼火なんて…どうかな?」
やはり、彼は爽やかに見えて、いい性格をしてました。
彼がさり気なくリクエストした曲…
それは、プロのピアニストでも弾くのが難しいと言われる…
世界最高難易度ピアノ曲 リストの超絶技巧練習曲第5番『鬼火』でした。
(この私にケンカを売るとは…良い度胸ですわね…)
思わず闘争心に火がついた宝は、またまた肝試し大会の最中ということを忘れ、一音の狂いもなく、指がもつれそうな高速スピードの曲を、最後まで見事弾き切りました。
それに対し、惜しみない拍手を送った尚明は
「すごい…確かに先程の『月光』も素晴らしかったけれど…まさかこの難易度曲を完璧に弾けるなんて思わなかったよ。
君…さすが今年度イチの才能の持ち主と言われているだけあるね…。
噂には聞いていたのだけれど、誇張しすぎだと思っていたので…まさか、ここまでだとは思わなかった…。
白珪学園は退屈だと思っていたけれど…考えを改めないといけないね…」
つい、いつもの負けず嫌いでやり過ぎてしまった…と宝が反省していますと、何やら生徒会長が勝手にペラペラと話しております。
「本当はもっと君のピアノを聞いていたいけれど…肝試し大会の途中だから、先に進むね。次はどこに行けば良いのかな?」
肝試し大会なのに…せっかくのっぺらぼうに仮装したのに…
ちっともそこに反応してくれない出場者たちにヤル気をなくした宝は…
「理科室…」
無気力に進む方向を指差した。
「ありがとう。じゃあまた新学期にね、皆野さん」
またしてものっぺらぼうの正体を見破った尚明は、爽やかに挨拶をして次の目的地へと向かった…。
「悔しい…。せっかく頑張って日本の古典的なお化けに幻影魔法で変身しましたのに…誰も怖がらないなんて…。
こんなことなら、もっと怖ろしい姿に化けましたのに…」
誰もいなくなった音楽室では、月の光が照らすなかピンク髪の美少女が、1人嘆いておりました…。
敗北者達のリベンジをするかのように…もちろん、真っ直ぐ理科室には行かせません。
理科室へ向かう道中には、千明と尚明の行く手を阻む、次の刺客が…
■□■□■□■□
お読みいただきありがとうございます。
9月に入ってしまい、少し季節外れになりましたが、もう少し肝試しにお付き合いください。
そこに最初にたどり着いたのは…何故か一番最後に出発したはずの千明でした。
初めて訪れたはずの校舎の中を、火の玉と懐中電灯の薄暗い明かりだけで、千明は迷うことなく真っ直ぐ音楽室へと向かいます。
ガラッと音楽室の扉を開けると…そこには…
白珪学園の昔の制服であるセーラー服を着た女生徒が、ピアノを弾いていました。
ピアノの方を向いているため、暗がりの中で顔はよく見えませんが…
その姿は彼女が演奏するベートーヴェンの『月光』と相まって、とても幻想的で美しく見えます。
窓から差す月の光に照らされた髪の毛は、ほんのり淡いピンク色で…まるで月から降りてきた妖精のよう…
けれど千明は、ここでもゆっくりピアノ鑑賞することもなく先を急ぎ、次の目的地を確認することにしました。
ここでは先程のように黒板に行き先が書かれていないので、ピアノを弾く彼女に尋ねるしかありません…。
「すみません、次の目的地はどこですか?」
そう声を掛けられ、振り向いた彼女の顔は…
「「・・・・」」
しばらくお互い無言で向かい合った後、何も言わない女生徒にしびれを切らした千明が、今度はちょっとイラッとした感じで尋ねました。
「次の行き先、知ってるんでしょ?」
「り…理科室です…」
小学六年女児のカツアゲするヤンキーのような眼差しに、思わずどもってしまいました…。
「ありがとう、のっぺらぼうのお姉さん。とても演奏素敵でしたよ」
ヤンキーから美少女の微笑みに変わると、ペコリ頭を下げ、軽やかな足取りで教室を出ていきました。
「小学生女子の迫力に負けた…」
驚かすつもりが、ちっとも驚かないどころか…こちらが脅されたことにショックを受けたのっぺらぼう…もとい宝は、そのくすぶった思いをぶつけるように、『月光』の続きを第3楽章まで感情を込めて演奏しきりました。
肝試し中だったことも忘れて…
宝の演奏が終わった途端、ガラッと音楽室の扉が開き…場違いな拍手が鳴り響きました。
「ブラボー。とても心揺さぶられる素晴らしい演奏だったね」
拍手と共に入って来たのは、生徒会長の来栖尚明でした。
実は千明が出てすぐくらいに、彼は音楽室にたどり着いていたのですが…あまりに見事な演奏だったので、最後まで鑑賞してから現れたのです。
「特に第3楽章のほとばしるパッションが溢れた演奏はとても素晴らしかった…。
でも…今の君にはもっと相応しい曲があるんじゃないのかい?
そう…例えば、ここまで僕を案内してくれた鬼火なんて…どうかな?」
やはり、彼は爽やかに見えて、いい性格をしてました。
彼がさり気なくリクエストした曲…
それは、プロのピアニストでも弾くのが難しいと言われる…
世界最高難易度ピアノ曲 リストの超絶技巧練習曲第5番『鬼火』でした。
(この私にケンカを売るとは…良い度胸ですわね…)
思わず闘争心に火がついた宝は、またまた肝試し大会の最中ということを忘れ、一音の狂いもなく、指がもつれそうな高速スピードの曲を、最後まで見事弾き切りました。
それに対し、惜しみない拍手を送った尚明は
「すごい…確かに先程の『月光』も素晴らしかったけれど…まさかこの難易度曲を完璧に弾けるなんて思わなかったよ。
君…さすが今年度イチの才能の持ち主と言われているだけあるね…。
噂には聞いていたのだけれど、誇張しすぎだと思っていたので…まさか、ここまでだとは思わなかった…。
白珪学園は退屈だと思っていたけれど…考えを改めないといけないね…」
つい、いつもの負けず嫌いでやり過ぎてしまった…と宝が反省していますと、何やら生徒会長が勝手にペラペラと話しております。
「本当はもっと君のピアノを聞いていたいけれど…肝試し大会の途中だから、先に進むね。次はどこに行けば良いのかな?」
肝試し大会なのに…せっかくのっぺらぼうに仮装したのに…
ちっともそこに反応してくれない出場者たちにヤル気をなくした宝は…
「理科室…」
無気力に進む方向を指差した。
「ありがとう。じゃあまた新学期にね、皆野さん」
またしてものっぺらぼうの正体を見破った尚明は、爽やかに挨拶をして次の目的地へと向かった…。
「悔しい…。せっかく頑張って日本の古典的なお化けに幻影魔法で変身しましたのに…誰も怖がらないなんて…。
こんなことなら、もっと怖ろしい姿に化けましたのに…」
誰もいなくなった音楽室では、月の光が照らすなかピンク髪の美少女が、1人嘆いておりました…。
敗北者達のリベンジをするかのように…もちろん、真っ直ぐ理科室には行かせません。
理科室へ向かう道中には、千明と尚明の行く手を阻む、次の刺客が…
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お読みいただきありがとうございます。
9月に入ってしまい、少し季節外れになりましたが、もう少し肝試しにお付き合いください。
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