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三話 約束
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子供の頃、父方の祖父母がいるこの三重の実家には、遠いので毎年は行けなかった。
そのため、行く時は長期で泊まるのが常だった。
3年前に祖父が亡くなってからは、1年に1回は帰るようにしていたけれど…。
ニューヨークに行ったら、またしばらく会いに行くのは難しくなるので、その前におばあちゃんとの時間が持てたのは良かったと思う。
ちなみに母方の祖父母は、近くに住んでいるため、お盆に限らず、頻繁に行き来していた。
こちらもニューヨークに行ったら会えなくなるけれど、二人とも元気なので、ニューヨークに遊びに来ると言っていたな…。
あの当時、祖父は農作業に、母と祖母は夕食の買い物に出掛けていて、父はリモートで仕事をしていた。
1人退屈していた私は、放置されて不貞腐れた気持ちもあり、大人達が行くなと言う森に足を向けたのだ。
都会の、近所に木の生い茂る場所など無い環境で育ったので、虫取りとか出来そうで何となく楽しそうと思えたのもある。
鎮守の森には、神社はないけれど入り口に杉の木で出来た、大きな鳥居があった。
そこを潜ると、急に温度が下がったような気がした。
けれど、真夏のうだるような暑さの中、歩いてきた私には、それも心地よく感じられ、どんどん奥へと入っていた。
奥に進むに連れて、水の音が近づいてくる。
気になって更に進むと、急に目の前が開け、迫力のある滝が見えてきた。
その滝は、こんな誰も知らない所にある無名の滝なのが信じられないくらい、落差があり迫力があって、しかも優美に感じられる不思議な滝だった。
気持ちよさそう…。
私は水に手を浸そうと、滝壺に近づいた。
そこは小さい子供が近づくには危険な程、水深の深い滝壺だった。大人達が森に入るのを禁じていたのは、そのためもあったのかもしれない。
けれど、水がとても澄んでいて底が見えていたので、幼い私には、そんな危ない場所には思えなかった。
しばらく水に手を浸して、水底を見ていると、何かキラッと光る物が見えた。
何なのだろう?とよく見ようと覗きこんだ時
ドッボーン!!
滝壺の中に頭から落ちてしまった。
幼児の体のバランスは、頭の方が重く出来ている。
だから、深く頭を下げて覗き込む体勢になると、頭が重くて落ちたのだ…。
まだ幼かった私は、泳ぎ方を知らなかった。
そして、頭を下にしたまま、どんどん水底へと沈んでいった。
『く、苦しい…』
鼻や口に水が入ってきて、もう駄目だ~っと思った時、何か…さっき見えたキラッと光る紫色の何かが見えて…そこで意識が途切れた。
「大丈夫かえ?」
目を覚ますと、目の前には紫色の着物を着た、真っ白な肌に長く綺麗な紫がかった黒髪の女の人がいた。
「私、死んじゃって…天国にいるの?」
こんな綺麗な人間がいるはずない。
きっと天使様だ。日本だと天使様も着物着ているのかな?
「死んではおらぬ。ここはそなたが落ちた滝の裏側ぞ。
それにしても、ほんに爺がくれたセルロイドのように愛いのう。
滝壺で見つけた時、キラキラ光る黄金色の髪が綺麗だったから拾ったが、瞳は瑠璃色で更に美しい。これは良い拾いものをした」
綺麗な女の人は愛しそうに、私の頬を撫ぜた。
「そなた、名は何と言う?」
「かおる」
「薫か…良い名じゃ。
そなた、妾とここで暮らさぬか?最近退屈しておったところじゃ」
本当に嬉しそうに話す綺麗な人に、申し訳ないと思ったけれど、施設から私を引き取り、大切に育ててくれたお父さんお母さんを悲しませることだけは、絶対に出来ない…。
「ごめんなさい。お父さんとお母さんが心配しているから、帰らないと…」
「そうか…残念じゃが、無理強いは出来ぬのう。
ここに人間が立ち入ることは禁じておるが、薫だけは特別じゃ。また来てたもれ」
私は女性にお礼を言って、真っ直ぐ家に帰ることにした。
「あっ、薫…。ここに来たことは、誰にも言ってはならぬぞ…もちろん父母にも。
妾のことも話してはならぬ。
それはそなたの家族のためでもあるゆえ…わかったのう?」
「わかった」
今まで優しかった女の人が、その時だけは少し怖く思えた。
約束したので、その日あったことは、今だに誰にも告げたことはない。
私自身、時間が経つにつれて、あれは子供の時に見た夢だったのではないか?と思うようになっていた。
でも、今あの時の滝を見て、あれはやっぱり実際に体験したことなのだと思った。
あの女の人…何か紫ちゃんに似ていたな…。
もしかして、紫ちゃんのお母さんだったのかも?
しかも話し方までそっくりだった気がする…。
あの時のことを懐かしく思いながら滝壺を見ていると、森の入り口の方から、何だか言い争うような声が聞こえてきた…。
『だから~、私は今人気のオカルト系女子高生ユーチューバーなの!!知らない?
決して怪しい者じゃないって!!』
『ユーチューバーか何か知らないが、ここは私有地だ。
余所者が勝手に入って良い場所ではない』
『お兄さん、すごいイケメンだけれど頭硬いな~。
私が配信して取り上げたら、この辺鄙な場所も、一躍有名スポットになって観光客も増えるんだよ。
お兄さんも自分の村が有名になったら嬉しいでしょ?』
『いいや、この村はこのままで良いんだ。要らないことをするな』
『私もこんな所までわざわざ来たのに何も撮らずに帰れないよ~』
『そんな事は俺の知ったことじゃない。とりあえず、これ以上踏み入るようなら、不法侵入で警察に突き出すぞ』
長谷川君…ブレないな…。
相手の子も、全然引いてないけど…。
「せっかく薫が遊びに来てくれたのに、騒々しいのう」
「…っ!!」
ビックリした~!!
また無音で、紫ちゃんが横に立っていた…。
「紫ちゃん、いつの間に…どこから来たの?」
紫ちゃんは滝壺の方を指差す。
「…またまた。そんな所から来たら濡れてるはずでしょ?
冗談はさておき、ここの滝壺はすごく深くて危険だから、紫ちゃんはあまり近づいたら駄目だよ」
「…ここは、妾の寝床なのだがな…」
『もう!!分かったわよ。とりあえず今回は帰るわ。でも、また来るから。
その時はお兄さんとも仲良くなりたいな…。お兄さん、名前教えてよ』
『赤の他人に教える名前はない。さっさと帰れ』
また入り口の方が煩くなって、紫ちゃんの言葉を聞き逃してしまった。
「ごめん、紫ちゃん。なんて言ったの?」
視線を紫ちゃんに合わせ、聞きなおすと、緩く首を振って答えてくれた。
「大したことではない…ここは妾の土地ゆえ人が入ることは禁じられておるのに、煩いと思っただけじゃ」
「あっ、紫ちゃんのところの私有地だったんだ。
ごめんなさい、じゃあ私こそ入ったら駄目だったね」
「薫は構わぬ。妾が許可しておるから、いつでも遊びに来るがよい」
このセリフも、前に聞いたことががあるような…。
「そう言えば、紫ちゃん、私がセルロイドみたいと言ったけれど、それはセルロイド人形のこと?」
「そうじゃ。昔、爺が妾にくれたお人形に良く似ておる。
でも、黄金色の髪も、瑠璃色の目も、人形より薫の方が柔らかくて、キラキラして綺麗。薔薇色の頬も人形にはなかった。
セルロイドも気に入っておったが、今では薫の方がお気に入りじゃ」
人形と比べられるのは微妙だけれど、まあ、嫌われるよりは、好かれる方がいいか…。
「それは、長谷川君のお爺さんにもらったの?」
「さあ…何代目の爺にもらったのかは、覚えていない」
何代目って…やっぱり、紫ちゃんは見た目通りの年齢ではないんだ…。
「表も静かになったようじゃ。薫も変なのに絡まれる前に帰るが良い。
またいつでも遊びに来てたもれ」
「紫ちゃんは帰らないの?」
「妾の住処はここじゃ」
まあ、確かに鬼龍院家の私有地と言ってたものね。
「じゃあ、また明日ね」
紫ちゃんは笑顔で手を振ってくれた。
そのため、行く時は長期で泊まるのが常だった。
3年前に祖父が亡くなってからは、1年に1回は帰るようにしていたけれど…。
ニューヨークに行ったら、またしばらく会いに行くのは難しくなるので、その前におばあちゃんとの時間が持てたのは良かったと思う。
ちなみに母方の祖父母は、近くに住んでいるため、お盆に限らず、頻繁に行き来していた。
こちらもニューヨークに行ったら会えなくなるけれど、二人とも元気なので、ニューヨークに遊びに来ると言っていたな…。
あの当時、祖父は農作業に、母と祖母は夕食の買い物に出掛けていて、父はリモートで仕事をしていた。
1人退屈していた私は、放置されて不貞腐れた気持ちもあり、大人達が行くなと言う森に足を向けたのだ。
都会の、近所に木の生い茂る場所など無い環境で育ったので、虫取りとか出来そうで何となく楽しそうと思えたのもある。
鎮守の森には、神社はないけれど入り口に杉の木で出来た、大きな鳥居があった。
そこを潜ると、急に温度が下がったような気がした。
けれど、真夏のうだるような暑さの中、歩いてきた私には、それも心地よく感じられ、どんどん奥へと入っていた。
奥に進むに連れて、水の音が近づいてくる。
気になって更に進むと、急に目の前が開け、迫力のある滝が見えてきた。
その滝は、こんな誰も知らない所にある無名の滝なのが信じられないくらい、落差があり迫力があって、しかも優美に感じられる不思議な滝だった。
気持ちよさそう…。
私は水に手を浸そうと、滝壺に近づいた。
そこは小さい子供が近づくには危険な程、水深の深い滝壺だった。大人達が森に入るのを禁じていたのは、そのためもあったのかもしれない。
けれど、水がとても澄んでいて底が見えていたので、幼い私には、そんな危ない場所には思えなかった。
しばらく水に手を浸して、水底を見ていると、何かキラッと光る物が見えた。
何なのだろう?とよく見ようと覗きこんだ時
ドッボーン!!
滝壺の中に頭から落ちてしまった。
幼児の体のバランスは、頭の方が重く出来ている。
だから、深く頭を下げて覗き込む体勢になると、頭が重くて落ちたのだ…。
まだ幼かった私は、泳ぎ方を知らなかった。
そして、頭を下にしたまま、どんどん水底へと沈んでいった。
『く、苦しい…』
鼻や口に水が入ってきて、もう駄目だ~っと思った時、何か…さっき見えたキラッと光る紫色の何かが見えて…そこで意識が途切れた。
「大丈夫かえ?」
目を覚ますと、目の前には紫色の着物を着た、真っ白な肌に長く綺麗な紫がかった黒髪の女の人がいた。
「私、死んじゃって…天国にいるの?」
こんな綺麗な人間がいるはずない。
きっと天使様だ。日本だと天使様も着物着ているのかな?
「死んではおらぬ。ここはそなたが落ちた滝の裏側ぞ。
それにしても、ほんに爺がくれたセルロイドのように愛いのう。
滝壺で見つけた時、キラキラ光る黄金色の髪が綺麗だったから拾ったが、瞳は瑠璃色で更に美しい。これは良い拾いものをした」
綺麗な女の人は愛しそうに、私の頬を撫ぜた。
「そなた、名は何と言う?」
「かおる」
「薫か…良い名じゃ。
そなた、妾とここで暮らさぬか?最近退屈しておったところじゃ」
本当に嬉しそうに話す綺麗な人に、申し訳ないと思ったけれど、施設から私を引き取り、大切に育ててくれたお父さんお母さんを悲しませることだけは、絶対に出来ない…。
「ごめんなさい。お父さんとお母さんが心配しているから、帰らないと…」
「そうか…残念じゃが、無理強いは出来ぬのう。
ここに人間が立ち入ることは禁じておるが、薫だけは特別じゃ。また来てたもれ」
私は女性にお礼を言って、真っ直ぐ家に帰ることにした。
「あっ、薫…。ここに来たことは、誰にも言ってはならぬぞ…もちろん父母にも。
妾のことも話してはならぬ。
それはそなたの家族のためでもあるゆえ…わかったのう?」
「わかった」
今まで優しかった女の人が、その時だけは少し怖く思えた。
約束したので、その日あったことは、今だに誰にも告げたことはない。
私自身、時間が経つにつれて、あれは子供の時に見た夢だったのではないか?と思うようになっていた。
でも、今あの時の滝を見て、あれはやっぱり実際に体験したことなのだと思った。
あの女の人…何か紫ちゃんに似ていたな…。
もしかして、紫ちゃんのお母さんだったのかも?
しかも話し方までそっくりだった気がする…。
あの時のことを懐かしく思いながら滝壺を見ていると、森の入り口の方から、何だか言い争うような声が聞こえてきた…。
『だから~、私は今人気のオカルト系女子高生ユーチューバーなの!!知らない?
決して怪しい者じゃないって!!』
『ユーチューバーか何か知らないが、ここは私有地だ。
余所者が勝手に入って良い場所ではない』
『お兄さん、すごいイケメンだけれど頭硬いな~。
私が配信して取り上げたら、この辺鄙な場所も、一躍有名スポットになって観光客も増えるんだよ。
お兄さんも自分の村が有名になったら嬉しいでしょ?』
『いいや、この村はこのままで良いんだ。要らないことをするな』
『私もこんな所までわざわざ来たのに何も撮らずに帰れないよ~』
『そんな事は俺の知ったことじゃない。とりあえず、これ以上踏み入るようなら、不法侵入で警察に突き出すぞ』
長谷川君…ブレないな…。
相手の子も、全然引いてないけど…。
「せっかく薫が遊びに来てくれたのに、騒々しいのう」
「…っ!!」
ビックリした~!!
また無音で、紫ちゃんが横に立っていた…。
「紫ちゃん、いつの間に…どこから来たの?」
紫ちゃんは滝壺の方を指差す。
「…またまた。そんな所から来たら濡れてるはずでしょ?
冗談はさておき、ここの滝壺はすごく深くて危険だから、紫ちゃんはあまり近づいたら駄目だよ」
「…ここは、妾の寝床なのだがな…」
『もう!!分かったわよ。とりあえず今回は帰るわ。でも、また来るから。
その時はお兄さんとも仲良くなりたいな…。お兄さん、名前教えてよ』
『赤の他人に教える名前はない。さっさと帰れ』
また入り口の方が煩くなって、紫ちゃんの言葉を聞き逃してしまった。
「ごめん、紫ちゃん。なんて言ったの?」
視線を紫ちゃんに合わせ、聞きなおすと、緩く首を振って答えてくれた。
「大したことではない…ここは妾の土地ゆえ人が入ることは禁じられておるのに、煩いと思っただけじゃ」
「あっ、紫ちゃんのところの私有地だったんだ。
ごめんなさい、じゃあ私こそ入ったら駄目だったね」
「薫は構わぬ。妾が許可しておるから、いつでも遊びに来るがよい」
このセリフも、前に聞いたことががあるような…。
「そう言えば、紫ちゃん、私がセルロイドみたいと言ったけれど、それはセルロイド人形のこと?」
「そうじゃ。昔、爺が妾にくれたお人形に良く似ておる。
でも、黄金色の髪も、瑠璃色の目も、人形より薫の方が柔らかくて、キラキラして綺麗。薔薇色の頬も人形にはなかった。
セルロイドも気に入っておったが、今では薫の方がお気に入りじゃ」
人形と比べられるのは微妙だけれど、まあ、嫌われるよりは、好かれる方がいいか…。
「それは、長谷川君のお爺さんにもらったの?」
「さあ…何代目の爺にもらったのかは、覚えていない」
何代目って…やっぱり、紫ちゃんは見た目通りの年齢ではないんだ…。
「表も静かになったようじゃ。薫も変なのに絡まれる前に帰るが良い。
またいつでも遊びに来てたもれ」
「紫ちゃんは帰らないの?」
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まあ、確かに鬼龍院家の私有地と言ってたものね。
「じゃあ、また明日ね」
紫ちゃんは笑顔で手を振ってくれた。
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