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中編
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今まで誰にも…家族にさえ話したことがなかったけれど…
マナには生まれた時から前世の記憶があった…。
前世のマナは、日本という今世よりもずっと科学が進歩した国で暮らしていた。
そこでは仲の良い両親と弟に囲まれて育ち、大人しい気質は昔も変わらないためクラスの中心にいるような人物ではなかったけれど気心の知れた友達もいて…
どこにでもいる普通の女の子として育った。
今世の家族も優しい人達ではあるのだけれど…
前世の記憶を持ったまま生まれたマナには、どうしても馴染むことが出来なかった…。
セイは前世の幼馴染で、高校に上がってからはお付き合いもしていた。
二人が二十代後半となり、そろそろ結婚しようかと式場や新しい住まいについて具体的に考え始めた頃に、私は仕事を通じてある最悪な男に出会ってしまった…。
それが今世のセイと同じ顔をした男、リュウだ…。
マナが勤める地元の銀行に、新しく作る会社への融資を求めてやって来た花柳龍は、銀行に入って来た途端みんなの目を引くような美しい男性だった。
もちろんまだまだ若手のマナが融資の担当をするなんてことはなかったけれど、最初の案内をしたのがマナだった。
それからも度々リュウは銀行に足を運び、そのたびに爽やかな笑顔で挨拶をしてくれた。
偶然、昼休み定食屋に出掛けた時に一緒になり、リュウから話し掛けられたのが二人が個人的に話すようになった切っ掛けだった。
それからも度々定食屋やカフェなどで昼食がかぶり一緒にご飯を食べるうちに、芸能人のような外見なのに気さくで話しやすいリュウにマナはどんどん惹かれていき…気がつけば恋をしていた。
今思えばあれは偶然なんかじゃなく、リュウはマナが一人で昼食に行くのを狙って声を掛けてきたのだろう…。
二人がとうとう一線を越えたあたりで、リュウは新しく立ち上げた会社のことを相談し始めた。
「実は会社の運営が上手くいってないんだ…あともう少しで軌道に乗るところまでは漕ぎつけたんだけれど…資金が少し足りなくてね…。
会社の方が落ち着いてからマナとの結婚を考えたいと思っていたのに…。
だから…新しく始めた今の事業からは撤退しようと思う…。このまま、ずっとマナを待たせてしまうのは嫌だから…」
そう言ってマナを見つめる瞳は、弱々しく微笑んでいた。
(いつも自信に満ちた彼の…
あんなに自分が手掛ける仕事について情熱的に語っていた彼の…
そんな弱った姿を見ていられなくて…)
「いくら必要なの…」
思わずそう尋ねてしまった…。
それからマナは、セイとの結婚のために貯めていたお金を全て渡した。
それでも足りなくて、親に結婚のために必要なお金を貸して欲しいと頼んで借りたお金を渡し…
嘘に嘘を重ねたマナは…とうとう会社のお金にまで手を付けてしまった。
それがバレて警察に捕まり、取り調べを受けるうちに、花柳龍なんて人物はこの世に存在しないことを知った。
それから…リュウがマナと付き合う前にも、数人の女の人からお金を騙し取って指名手配中の結婚詐欺犯だったこと…
銀行には最初の融資の相談の段階で断られ、その後はただ騙しやすそうなカモを見つけるためだけに通っていたことも知った…。
逃亡しそうにはないと判断され、事情聴取の後、一旦帰宅の許可が下りたマナは…
そんな最低な男のために、大切な人達を傷つけ失ってしまったのか…
とショックで何もかも嫌になった。
そして…ふと目に入った鉄橋に自然と足は向かった…。
『みんな…迷惑ばかり掛けてごめんなさい。
何の償いもせずに逃げる弱い私で、本当にごめんなさい。
碧天様、こんなどうしようもない私にはあつかましいお願いですが、もし叶うならば…
次は絶対に見た目なんかに騙されない世界に生まれ変わらせてください…』
そう心のなかで唱えた後、私の前世は終わりを告げた。
■□■□■□■□
お読みいただきありがとうございます。
マナには生まれた時から前世の記憶があった…。
前世のマナは、日本という今世よりもずっと科学が進歩した国で暮らしていた。
そこでは仲の良い両親と弟に囲まれて育ち、大人しい気質は昔も変わらないためクラスの中心にいるような人物ではなかったけれど気心の知れた友達もいて…
どこにでもいる普通の女の子として育った。
今世の家族も優しい人達ではあるのだけれど…
前世の記憶を持ったまま生まれたマナには、どうしても馴染むことが出来なかった…。
セイは前世の幼馴染で、高校に上がってからはお付き合いもしていた。
二人が二十代後半となり、そろそろ結婚しようかと式場や新しい住まいについて具体的に考え始めた頃に、私は仕事を通じてある最悪な男に出会ってしまった…。
それが今世のセイと同じ顔をした男、リュウだ…。
マナが勤める地元の銀行に、新しく作る会社への融資を求めてやって来た花柳龍は、銀行に入って来た途端みんなの目を引くような美しい男性だった。
もちろんまだまだ若手のマナが融資の担当をするなんてことはなかったけれど、最初の案内をしたのがマナだった。
それからも度々リュウは銀行に足を運び、そのたびに爽やかな笑顔で挨拶をしてくれた。
偶然、昼休み定食屋に出掛けた時に一緒になり、リュウから話し掛けられたのが二人が個人的に話すようになった切っ掛けだった。
それからも度々定食屋やカフェなどで昼食がかぶり一緒にご飯を食べるうちに、芸能人のような外見なのに気さくで話しやすいリュウにマナはどんどん惹かれていき…気がつけば恋をしていた。
今思えばあれは偶然なんかじゃなく、リュウはマナが一人で昼食に行くのを狙って声を掛けてきたのだろう…。
二人がとうとう一線を越えたあたりで、リュウは新しく立ち上げた会社のことを相談し始めた。
「実は会社の運営が上手くいってないんだ…あともう少しで軌道に乗るところまでは漕ぎつけたんだけれど…資金が少し足りなくてね…。
会社の方が落ち着いてからマナとの結婚を考えたいと思っていたのに…。
だから…新しく始めた今の事業からは撤退しようと思う…。このまま、ずっとマナを待たせてしまうのは嫌だから…」
そう言ってマナを見つめる瞳は、弱々しく微笑んでいた。
(いつも自信に満ちた彼の…
あんなに自分が手掛ける仕事について情熱的に語っていた彼の…
そんな弱った姿を見ていられなくて…)
「いくら必要なの…」
思わずそう尋ねてしまった…。
それからマナは、セイとの結婚のために貯めていたお金を全て渡した。
それでも足りなくて、親に結婚のために必要なお金を貸して欲しいと頼んで借りたお金を渡し…
嘘に嘘を重ねたマナは…とうとう会社のお金にまで手を付けてしまった。
それがバレて警察に捕まり、取り調べを受けるうちに、花柳龍なんて人物はこの世に存在しないことを知った。
それから…リュウがマナと付き合う前にも、数人の女の人からお金を騙し取って指名手配中の結婚詐欺犯だったこと…
銀行には最初の融資の相談の段階で断られ、その後はただ騙しやすそうなカモを見つけるためだけに通っていたことも知った…。
逃亡しそうにはないと判断され、事情聴取の後、一旦帰宅の許可が下りたマナは…
そんな最低な男のために、大切な人達を傷つけ失ってしまったのか…
とショックで何もかも嫌になった。
そして…ふと目に入った鉄橋に自然と足は向かった…。
『みんな…迷惑ばかり掛けてごめんなさい。
何の償いもせずに逃げる弱い私で、本当にごめんなさい。
碧天様、こんなどうしようもない私にはあつかましいお願いですが、もし叶うならば…
次は絶対に見た目なんかに騙されない世界に生まれ変わらせてください…』
そう心のなかで唱えた後、私の前世は終わりを告げた。
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