優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》

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✿〜プロローグ〜パトリシアの初恋〜✿

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 私が婚約者であるラファエル様に初めてお会いしたのは、お膳立てされた堅苦しいお見合いの席などではなく、色とりどりの可憐な花が咲き誇る花畑でのことでした…。
 花に囲まれて座り込む白金色の髪に空色の瞳をした男の子は、本当に現実にいる存在なのかしら?と思うほど幻想的で美しくて…それこそどうして今、スマホを持っていなかったのかと後悔したくらい…

(ううん…?スマホ…?スマホって何…?)

 そこからは怒涛のように前世の記憶が頭の中に流れ込んできて…私はパニックで気を失いました。


「パトリシア様~!!」

「えっ、パトリシア?」
 

 侍女のメイサの叫び声と、ラファエル様の慌てた声が聞こえたのを最後に…。



 ラファエル様は婚約者になる私のために花冠を作ろうと花畑に来ていました。
 けれど、花冠づくりに夢中になりすぎて、時が過ぎるのを忘れていたようです。
 そこで私達がラファエル様を迎えに行き…今度は私が気を失ってしまったので、初めての対談はベッドの上でとなりました…。

「パトリシア、大丈夫?体調が良くないのに無理に来てくれたのかな?ごめんね…」

 繊細に作られた花冠を渡してくれながら、ラファエル様はとても申し訳なさそうな顔をされました。

(あ~っ、そんな顔のも可愛い!!しかも幼少期のラファエル様、マジ天使!!)

 私の脳内では、喧しく騒ぎながらも、表面上は高位貴族の娘らしく、澄ました顔で取り繕って会話を続けます。

「いいえ、ラファエル様にお目通りかなう喜びで緊張しすぎてしまい…ご迷惑お掛けいたしました」

 最初こそハプニングがありましたが、私達は順調に交流を深め、仲の良い婚約者となりました。 

 けれど…私は知っているのです。
 こんな仲の良い私達に、いずれ別れがくることを…。

 ラファエル様は、この国の危機を救うため異世界から召喚された聖女アリスに心を奪われ、彼女に嫉妬する私を疎ましく思うようになります。
 そして嫉妬にかられた私は、聖女である彼女を傷つけ、その罪で国外追放に…。

 なぜそんな未来を知っているのか…?というと、ここは前世日本人だった私が大好きだった小説『光溢れる国であなたと…』に酷似した世界だったからです。



 ✦『光溢れる国であなたと…』✦

 妖精の国ルミナスはエルフが暮らす王国。国民は皆とても美しく長生きで、国は自然豊かな土地に恵まれ、神々に愛された国と言われていた。
 でもそんな恵まれた国を妬む者が現れる。それは美しいエルフの王ガブリエルに一目惚れして告白し、振られたダークエルフの女王ナレッサ。
 ガブリエル王にはアフロディテという美しい妻もラファエルという可愛い王子もいたので、当然のことだったが、プライドを傷つけられ逆恨みした彼女は、仕返しに国に呪いを掛ける。
 純粋なエルフ同士の間に、子供が生まれなくなるという呪いを…。
 エルフは寿命が一千年と長く、すぐには困らないが、やがて子孫が1人も生まれなくなれば、国は滅びる。
 そこで王達は様々な書物を読み、その呪いを解呪するための方法を探し、異世界から召喚された聖女なら解呪できることを知る。
 そして呼ばれたのが日本から来た少女アリス。純真で親身にルミナスの人達のことを考えてくれる愛らしいアリスに、次第にみんな心惹かれていく。
 初めはいきなり知らない世界に連れて来られ、戸惑いを覚えた彼女も、ルミナスの人達と接するうちに次第に絆され…そして恋をする…。

 アリスを取り巻く人々は、まず国の王太子ラファエル。白金色の長い髪に空色の瞳をした、綺麗で優しい王子様。
 突然異世界に召喚され、右も左も分からないアリスに優しく寄り添い、恋に落ちる。
 次に王弟公爵ウリエルの息子で、ラファエルの従兄弟のアレクサンダー。彼にはアレクシアという双子の姉がいる。
 このアレクシアは密かに従兄弟のラファエルに恋心を抱いているので、アリスとラファエルの恋を邪魔してくる。
 実は双子の母は、国に呪いを掛けたナレッサで、王弟ウリエルはエルフに姿を変えたナレッサに騙され、魅了で操られ結婚していた。
 アリスに恋するアレクサンダー、ラファエルに恋するアレクシア。この二人が最後、ラスボス化しラファエルとアリスの前に立ちはだかる。
 これに母親のナレッサも協力し、熾烈な戦いとなるけれど…最後は二人の愛の力でナレッサ親子を倒し、国の呪いも解け、ラファエルとアリスは幸せな結婚を迎える。

 ~・~・~・~・~

 どこにパトリシア出てきたの?と思うでしょ。
 実はラファエル王太子、婚約者持ちで、その婚約者が私ことパトリシア公爵令嬢です。

 幼い頃からの政略的な婚約者で、普通に婚約者として尊重するけれど、特に思い入れはない…という感じ?

 アリスが現れたことに勝手に嫉妬して、国家プロジェクトとして召喚された聖女に悪質な嫌がらせをして、断罪されて国外追放になる噛ませ犬…。
 ちょっとアリスがその婚約者という存在に戸惑って、ラファエルに対する恋心に気がつくためのアクセント的な…。

 ~・~・~・~・~

 前世の記憶を取り戻してからは、いつ国外追放になっても大丈夫なようお金を貯め、知識をつけ、魔法の腕も磨いた。
 今ではS級冒険者にもなり、いつ国を出ても問題はないけれど…。

 この国は物語と違い、とっくに他の種族との交流が進み、今では純粋なエルフは王族しかいないし、王弟の妻であり公爵夫人のナレッサ様も初めからダークエルフの女王として受け入れられている…。
 というか、セクシーで強い女王様気質なナレッサ様にウリエル様がベタ惚れして、何度も求婚して、ガブリエル王とアフロディテ様が出会うよりもずっと前に結婚してアレクサンダー様アレクシア様姉弟も生まれていた。
 そもそもこの国にダークエルフに対しても獣人に対しても差別意識は存在しない。

 幼少期はそのことを知らなくて、小説の知識だけで、
『ダークエルフのアレクサンダー様はラスボスになるから信用しちゃ駄目!!』
 とラファエル様に言って…
『アレクは良い子なんだよ。大好きなパティにはアレクのことも好きになってほしいのに…』
 と泣かせてしまった…。
 ポロポロ涙を零しながら一生懸命、
『どっちのことも好き!!喧嘩しないで!!』って叫ぶラファエル様…本当に可愛かったな…。
 アレクサンダー様は、それ以来ラファエル様を泣かす私を敵視していたけれど…。

 それでも私達は何とか仲良くやっていて…好きにならないように気をつけても、前世から推しのラファエル様はとても愛しくて…このまま聖女なんて召喚されることがなければ良いのに…そうすれば婚約者として、ゆくゆくは王太子妃として一緒に暮らしていけるのに…と思っていた。

 けれど、あの日…森に流れ星のような光が落ちて来て…
 召喚もしていないのに現れてしまった。

 異世界からの聖女アリスが…


 ■□■□■□■□

 お読みいただきありがとうございます。

 BL要素は次回からになります。

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