1人じゃないから

月樹《つき》

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一話完結

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「あ~あ、また失恋しちゃったな…」

 高野たかの紗里さりは教室の窓から見えるカップルを見て、思わず呟いた…。
 紗里は、ここのところサッカー部の朝練を見るために、いつも朝早く教室に来ていた。

 カップルの男子は同じクラスの松田まつだ貴大たかひろくん。サッカー部のエースだ。
 一緒にいる女子は、サッカー部のマネージャーで隣のクラスの野々村ののむら麗奈れなさん。

 (美男美女でお似合いだな…)

 走り込みをした後、爽やかに汗をかく松田君に、笑顔でタオルを差し出す彼女の野々村さん…。
 仲の良さそうな二人を見て、思わずため息をついていたら…


    ~ガラッ~


 紗里1人しかいなかった教室の扉が、突然音を立てて開いた。

「な~に?外見てため息なんかついちゃって…辛気臭~い」

 いつも元気印の親友、伊藤いとうなぎさがからかいながら近づいて来た。

 そして、渚も私が見ていた方向に視線を向けると、気がついたようだ…。

「あっ…松田君と麗奈じゃない。あの2人、とうとう付き合うことにしたんだ…」

 陽キャの渚は、同じく陽キャの野々村さんと仲が良い。
 私はどちらかというと陰キャ寄りの一般生徒なので、野々村さんのようなクラスの中心人物的美少女には気後れして、遠くから見るので精一杯だ。

 じゃあ、そんな私がどうして渚と仲良くなったかというと…

 単に同じマンションに住んでいて、小さい頃からよく一緒に遊んだ幼馴染だからだ。
 そのままの流れで、小中高と一緒だったので、気負うことなく渚には自然体で接することができた。

 たぶん、それは渚が誰に対しても裏表のない性格なので、『笑顔の裏で、本当はどう思われているのか?』なんて心配をしなくていい良い子だからなのもあると思う…。

 そんな渚が相手だから…

「私も…ずっと好きだったのにな…」

 思わず、心にわだかまっていた気持ちがこぼれ出た…。

「ずっと…???」
 渚がじっと私の目を見る。



「夏休み入る前に聞いた時には、野球部のエースの里中君が好きって言ってたよね…?」

「うん…でも、夏休みに里中君が彼女とデートしてるのを見ちゃって…失恋したの…」
 里中君の彼女も、同じ野球部のマネージャーの西田さんだった…。
 ちなみに今は10月半ば…。

「里中君の前は…確か2年に進級した直後だったよね…?クラス一番のイケメンで生徒会長の浅野君…。彼も副会長の今井さんと付き合ってることが分かって、失恋したって言ってたっけ…?」
「……」


 渚の言いたいことは分かる…。


 ちなみに浅野君、里中君、松田君はクラスのイケメンランキング1.2.3だ。

「紗里って…自分から告白したことある?」
 渚の質問に、私は首を思い切り横に振った…。

「紗里が好きになる人って…みんな人気者という以外は、全然タイプの異なる人達だよね…彼らのどこに惹かれたの?」
 そう言う渚には、1年から付き合っている彼がいる。

 渚と彼、あずま清史郎せいしろう君は入学して最初の席が、アイウエオ順で前後になったのが出会いの切っ掛けだった。
 六月に開かれた体育祭を機に更に絆が深まり、その後すぐに付き合い始めて、今に至る。
 可愛くて明るい渚と、大人しくて目立つタイプではない東君が付き合うと聞いた時は、すごく驚いた。
 でも渚いわく、すごく優しくて博識な彼に渚の方が惚れて、押しに押して付き合うことになったそうだ。

 そんな渚からしたら、全く共通点がない人達を3ヶ月ペースでコロコロ変わって好きになる私の気持ちが分からないらしい…。

 しかもクラスの人気者ばかり…。
 
 もちろん私もそれが分不相応なのは、分かっている。だから、自分から告白なんて…とても出来ない…。
 当然、人気者がずっとフリーでいるなんてことはなく、すぐにお似合いの素敵な彼女が出来て…私は告白することもなく失恋する。

 いつもそれの繰り返し…。

 でも…いつか私のことを見てくれる誰かが現れるのでは…?そんな希望を諦めることが出来ない…



「紗里…普通の女の子が、ただ待っているだけで、王子様が迎えに来るなんてことはないんだよ。
 そんなことが起こるのは、国宝級美少女だけ…」


     ~ガラッ~


 そんな話をしている最中に、また新たなクラスメイトが教室に入ってきた。


「今、私の話をしていた?」

 そう言って自分の席にカバンを置き、こちらに近づいて来たのは…

 サラサラの長い黒髪に、透きとおるように白い肌、長い睫毛が影を差すパッチリ二重の青い瞳、薔薇色の頬、芸能人のような小顔に、均整のとれたプロポーション…。

 確かに国宝級美少女だ…。

「何の話をしていたの…?」

 にこやかな笑顔でこちらの会話に入ってくる彼女、奥海印寺おくかいいんじ櫻子さくらこが、学園一番の美少女であることには変わりないけれど…

「国宝級美少女ぐらいじゃないと、何もしないのに白馬に乗った王子様が現れることはないよね…って話」
 奥海印寺さんがあまりにもグイグイ聞いてくるので、渚が適当に答えると…

「確かに、私くらいの美少女だと何もしなくても勝手に寄ってくる人はいるけれど…興味もない人に告白されても面倒なだけよ」
 彼女は別にマウントを取っているわけでもなく、素でそう言っている。

 奥海印寺櫻子とは、そういう人だった…。

「櫻子にしか言えないセリフね」
 渚が少し呆れながらも、肯定する。

「渚にはすでに王子様がいるから…白馬の王子様を待っているのは、高野さん?」
 
 奥海印寺さんの青い瞳が、まっすぐこちらを見る。

 彼女の青い瞳はアメリカ人のお母さん譲りだそうだ。お父さんは大きなお寺の住職をされていると聞く。

「みんな素敵な彼氏がいるから…羨ましいなと思って…。
 私はずっと一人だし…」
 私がボソボソと答えると…

「あらっ?高野さんは一人じゃないわよ」
 奥海印寺さんは誰もいないはずの私の隣を見ながら、そう言った。


「えっ!?誰がの?」
 渚が少し焦ってそう尋ねる。

「う~ん、イケメンの彼氏が欲しい♡と願いながら、こころざし半ばで若くして亡くなったオネエさん…?」


 そう…奥海印寺さんは単なる美少女ではなく、美少女なのだ。


「じゃあ、紗里が次から次にイケメンにばかり一目惚れするのは、その霊のせいなの?」
 私が衝撃的な真実に呆然として、何も返せないでいる間に、渚が質問してくれた。

「う~ん、どちらかと言うと願望が一緒だったから、高野さんに憑いた…的な?」
 私の人気者にばかり惚れっぽい、身の程知らずに軽い性質が、霊のせいではなく自分本来のものと言い当てられて恥ずかしくなる…。

 どうせなら、霊のせいなら良かったのに…。



『ちょっと私のせいにしないでよ!!
 イケメンが好きで、どこが悪いのよ~!!』



 教室には私達三人しかいないはずなのに…何故か急に野太い声が聞こえた。

「あっ、さっきからずっと文句言っていて煩いから、二人にも分かるようにしたの。
 こちら高野さんに憑いている霊のマリリンさん」
 奥海印寺さんが紹介すると…

『マリリンよ。よろしくね』

 私と渚の間で…派手な赤いドレスを来た大男がウィンクしていた…。


 ~・~・~・~・~


 それからは、私にもマリリンが見えるようになったのだけれど…

 マリリンと私は、実に男性の好みが合った。


『わかる~、筋張った男の人の手って萌えポイントよね。腕まくりしている良い男って素敵…♡』

「マリリンもそう思う?あと指の綺麗な人も良いよね♡」

『そうそう、だから私、スポーツマンも好きだけれど、ピアノが弾ける男の子もかっこいいと思うの♡』

「うんうん分かる。この前テレビで見た将棋をやってるイケメンとかも、真剣な眼差しがかっこいいの♡」


 そうやって話をしているうちに、好みの男性の幅が広がり、気がつけば私にも彼氏が出来ていた…。

 すごくイケメンなわけではないけれど…お菓子作りの趣味があったスイーツ王子様の波多野はたの恵瑠めぐる君。
 マリリンも彼のことは気に入っている。


 ~・~・~・~・~


「まあ、何だかんだで高野さんにも彼氏が出来たし、良かったんじゃない?」
 櫻子は誰もいない中庭でお弁当を広げながら、そう呟いた。

『櫻子も人間の彼氏が欲しいのか…?』
 誰もいないはずなのに、その櫻子の呟きに答える者がいた。
 ちょっと拗ねたように横を向く犬丸だ…。

「う~ん…寺の一人娘だから、いずれは一緒に跡を継いでくれる伴侶は必要だけれど… 
 人間といるよりも、あなた達といる方が癒されるしな…」

『あなた達って…俺一人じゃないのかよ…』
 耳をペタっと下げて、しょげる犬丸。 

『当たり前でしょ?櫻子は犬丸一人のものじゃないんだから…』
 そう言ってミケが櫻子の足に二本の尻尾を絡めてくる。

『そうそう、櫻子は我らの姫じゃからのう』
 いつの間にか、櫻子の膝の上にトグロを巻き、ちゃっかりお弁当の中のウズラ玉子をいただく白銀しらがね


「私は当分彼氏はいらないかな…」


 そう語った櫻子に、彼女のごと引き受けてくれる有能な伴侶が見つかるのは、それから数年先の…また別のお話…。
 

 ■□■□■□■□

 お読みいただきありがとうございます。
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