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こっくりさん その弐
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「被害にあったのは白岡美優さん。二年四組の女子生徒で今も……とり憑かれてる」
菊子が説明し出すとひかげはタブレットでメモを取っていく。オカ研のくせに文明的だなと従吾は内心小馬鹿にした。別に機械を使わないのがオカルトではないが。
「まるで人が変わったようだと、一緒にこっくりさんをやった雨沢みどりさんは言っていた。私は同じクラスではないし、親しい間柄でもないけれど……確かに人が変わったわ」
「ほう。岩崎会長から見てどう変わりましたかな?」
「外見というよりは内面ね。なんというか――余裕が出てきた。そう表現するしかないのよ」
話を聞いていた従吾は「余裕? なんだそりゃ?」と首を傾げた。番長ではあるものの、中学一年生の彼には分かりにくいのだろう。
「そうね。以前はダイエットや美容に熱心だった。流石に学校では化粧しなかったけど、よくクラスメイトにこういうメイクをしたほうがいいってアドバイスしていたと聞くわ」
「なるほど。美に執着していたと。しかしそれは高校生にはありがちなことではありませんか?」
「景川くんの意見には賛成だけど、今回ばかりは違うのよ。白岡さんはとても美人な女の子なの。それでも綺麗になりたいってずっと言っていた。さっきとり憑かれてると言ったけど、傍目から見れば――美にとり憑かれていた」
なんだかさっきの病院の湯舟の話を思い出すなあと従吾は思いつつ「今は違うのか?」と質問した。
「ええ。まるで人が変わったように美容関係のことを言わなくなった。それどころか丸くなったと友達の雨沢さんは怯えていたわ」
「なんでだ? 丸くなれば角は立たねえだろ」
「友達の性格が変わったら普通不気味に思うわよ……ああ。あなた友達いなかったわね。ごめんなさい」
「この野郎……」
従吾の怒りをスルーして「その変化がこっくりさん以降のことなんですか?」とひかげは確認する。
菊子は髪をかき上げて頷いた。
「そのこっくりさんで使った道具は今もありますか?」
「ええまあ。雨沢さんが持っているわ。捨てたり燃やしたりしたら呪われそうで処分できないって」
「逆に持ってたら呪われそうだけどな」
「持っているだけで呪いの効力があるのはよほど強力なものだけですぞ。それらを貸してもらえることはできますか? 見るだけでいいので」
菊子はスマホを取り出して「見るだけなら写真がある」と画面を見せた。
それにはこっくりさんで使ったであろう五十音表があり、素人の従吾が見ても本格的な代物だと分かる。印刷ではなく、しかも筆で書かれている。鳥居のマークもわざわざ朱墨を使っていた。
「これは白岡さんと雨沢さん、どちらが作ったものですか?」
「白岡さんよ」
「なるほど。ではとり憑かれたときの状況を詳しく教えてください」
すると菊子は「三日前の放課後のことよ」と続けた。
「白岡さんと雨沢さんは二人でこっくりさんを始めたの」
「かなり危険ですな。本来ならば三人以上で行なうべきです。そのやり方はタブーですぞ」
「専門家はそう考えるのね。それで、白岡さんは真っ先にこう訊いたそうよ――『身も心も綺麗になるにはどうしたらいいんですか』ってね」
美を追求している白岡らしい質問である。
「しばらくして、持っていた十円玉が激しく円を描いた……それからいきなり放電して二人とも後ろに倒れたの。雨沢さんは気絶して目が覚めたら――白岡さんの性格が変わっていた。まるで狐にとり憑かれたように」
あるいは狐に化かされたように。
背筋に寒いものを感じた従吾だが、ここでようやく思いついたように言う。
「なら話は簡単じゃねえか。白岡をどうにか元の性格に戻せばいい」
「そうね。問題はその方法が分からないことなのだけど」
「ひかげさんなら分かるんじゃねえか? 狐を祓う方法くらい楽勝なんだろ」
ひかげはタブレットを操作していた手を止めて「簡単に言いますなあ望月氏」と困った顔になった。
「今回の件は一筋縄ではいきませんぞ。まずはこじれた糸を解きほぐすのが肝要です」
「断ち切ればいいじゃねえか」
「ちょっと。乱暴なことはやめてよね」
菊子はじろりと従吾を睨みつける。
ひかげはすっと立ち上がって自分の机に向かい、引き出しをごそごそと探る。
「これは貴重なので使いたくなかったのですが、岩崎会長の依頼となれば仕方がありませんね」
そう言って取り出したのは赤黒い勾玉だった。それも二個ある。
「お守りといい藁人形といい、変なもん持っているな。なんだそりゃ」
「いにしえの日本では古墳が作られていました。いわゆるお墓ですな」
「この前授業で習ったよ。ていうか関係あんのか?」
「人の代わりに埴輪が埋められたこともご存じですかな?」
「ああ。それも習ったよ」
「では、埴輪が埋められる前は生贄が埋められたことも習いましたか?」
「…………」
従吾が思わず沈黙してしまうと、ひかげは「これは古墳から出土されたものです」とにこりともせずに言う。
「生贄が衣服に付けていたものでしょう。遺体は腐って土と化したのに、この勾玉だけは残っています……」
それを普通に持っているひかげを不気味に思いながら、従吾は「それ、どんな効果があるんだ?」と問う。
「霊を静める力があります。これならば白岡さんにとり憑いた霊も祓えるでしょう」
そう言ってひかげは従吾に勾玉を差し出す。
正直、生理的に触りたくないが、受け取らないと負けた気分になるので、仕方なく手に取る。
ひんやりと冷たい。氷のようだ。先ほどの話を聞いて血液が凍ったとも従吾は思えてきた。
「ねえ景川くん。これどうやって手に入れたの? まさか法を犯していないでしょうね?」
「ふひひひ。犯罪などしておりませんぞ! これは譲ってもらいました」
「ふうん。それで使い方は?」
「いたって簡単です。とり憑かれた人の前で勾玉を叩いて鳴らすのです。さすれば霊は引きずり出されます」
それならできるなと従吾は「それじゃ、さっそく白岡って奴と会おうぜ」と菊子を促した。
「もう帰ったわよ。だから明日ね」
「あっそ。じゃあセッティングしといてくれよ。俺も行くからさ」
「連絡先を交換しましょう。スマホ、持っているでしょ?」
二人が交換し終えたタイミングで「望月氏に任せれば安心ですぞ」とひかげは太鼓判を押した。なぜそこまで信頼を置けるのか、従吾はよく分からなかった。
「実際にどうなるか分からないけど、期待はしているわ。それじゃ、私帰るね」
「もっとゆっくりしてもいいのですぞ」
「倉庫に籠るのは嫌いなの。あなたと違ってね」
菊子が去ると「よくあんな女に従えるな」と従吾は呆れた。
「岩崎会長は学園の平和を守るために一生懸命です。見習うべき姿勢ですぞ」
「おいおい。俺は不良だぜ? 見習っても仕方ねえよ」
せせら笑う従吾だったが、ひかげは急に真面目な顔になり「望月氏。君は目的や目標はありますか?」と問う。
「そんなもんねえよ。あったらここで暇してねえし」
「ならば持つべきですぞ。そうすれば名実ともに番長の名に相応しい人になります」
「なんだなんだ。俺に説教してんのか?」
説教がこの世で一番嫌いな従吾は途端に不機嫌になる。
「説教ではありません。アドバイスと捉えていただきたい。そもそも、オカ研に入り浸る理由は何ですか? 本を読みに来ただけではないでしょう?」
「…………」
沈黙してしまったのは言いたくないからではない。
自分でも上手く言語化できないからだ。
ただ三つ子池の事件と対峙したとき――心がわくわくしたのを覚えている。
不可思議な事件と遭遇して、怖いというより楽しいと思ってしまった。
退屈だった世界が一変したのだ。
だけど従吾の貧弱な語彙では表現できなかった。
「……うるせえ。俺ぁ本を読みに来たんだよ」
「そうですか。ならば真実を教えましょうか」
ひかげは真面目な表情を崩さなかった。
「真実? 今回の事件のか?」
「ええ。僕にはすぐに分かりました。これはこっくりさんの仕業ではありません」
前提を崩すようなことを言われた従吾は「じゃあ誰の仕業なんだよ?」と問う。
「僕は白岡さんを知りませんが、雨沢さんのことは知っております。彼女は優しい人です」
「それがどう関係しているんだ?」
「どうして二人だけで行なったのか。そこを考えれば――」
ひかげは真実を話し始めた。
そして対処法も説明する――
菊子が説明し出すとひかげはタブレットでメモを取っていく。オカ研のくせに文明的だなと従吾は内心小馬鹿にした。別に機械を使わないのがオカルトではないが。
「まるで人が変わったようだと、一緒にこっくりさんをやった雨沢みどりさんは言っていた。私は同じクラスではないし、親しい間柄でもないけれど……確かに人が変わったわ」
「ほう。岩崎会長から見てどう変わりましたかな?」
「外見というよりは内面ね。なんというか――余裕が出てきた。そう表現するしかないのよ」
話を聞いていた従吾は「余裕? なんだそりゃ?」と首を傾げた。番長ではあるものの、中学一年生の彼には分かりにくいのだろう。
「そうね。以前はダイエットや美容に熱心だった。流石に学校では化粧しなかったけど、よくクラスメイトにこういうメイクをしたほうがいいってアドバイスしていたと聞くわ」
「なるほど。美に執着していたと。しかしそれは高校生にはありがちなことではありませんか?」
「景川くんの意見には賛成だけど、今回ばかりは違うのよ。白岡さんはとても美人な女の子なの。それでも綺麗になりたいってずっと言っていた。さっきとり憑かれてると言ったけど、傍目から見れば――美にとり憑かれていた」
なんだかさっきの病院の湯舟の話を思い出すなあと従吾は思いつつ「今は違うのか?」と質問した。
「ええ。まるで人が変わったように美容関係のことを言わなくなった。それどころか丸くなったと友達の雨沢さんは怯えていたわ」
「なんでだ? 丸くなれば角は立たねえだろ」
「友達の性格が変わったら普通不気味に思うわよ……ああ。あなた友達いなかったわね。ごめんなさい」
「この野郎……」
従吾の怒りをスルーして「その変化がこっくりさん以降のことなんですか?」とひかげは確認する。
菊子は髪をかき上げて頷いた。
「そのこっくりさんで使った道具は今もありますか?」
「ええまあ。雨沢さんが持っているわ。捨てたり燃やしたりしたら呪われそうで処分できないって」
「逆に持ってたら呪われそうだけどな」
「持っているだけで呪いの効力があるのはよほど強力なものだけですぞ。それらを貸してもらえることはできますか? 見るだけでいいので」
菊子はスマホを取り出して「見るだけなら写真がある」と画面を見せた。
それにはこっくりさんで使ったであろう五十音表があり、素人の従吾が見ても本格的な代物だと分かる。印刷ではなく、しかも筆で書かれている。鳥居のマークもわざわざ朱墨を使っていた。
「これは白岡さんと雨沢さん、どちらが作ったものですか?」
「白岡さんよ」
「なるほど。ではとり憑かれたときの状況を詳しく教えてください」
すると菊子は「三日前の放課後のことよ」と続けた。
「白岡さんと雨沢さんは二人でこっくりさんを始めたの」
「かなり危険ですな。本来ならば三人以上で行なうべきです。そのやり方はタブーですぞ」
「専門家はそう考えるのね。それで、白岡さんは真っ先にこう訊いたそうよ――『身も心も綺麗になるにはどうしたらいいんですか』ってね」
美を追求している白岡らしい質問である。
「しばらくして、持っていた十円玉が激しく円を描いた……それからいきなり放電して二人とも後ろに倒れたの。雨沢さんは気絶して目が覚めたら――白岡さんの性格が変わっていた。まるで狐にとり憑かれたように」
あるいは狐に化かされたように。
背筋に寒いものを感じた従吾だが、ここでようやく思いついたように言う。
「なら話は簡単じゃねえか。白岡をどうにか元の性格に戻せばいい」
「そうね。問題はその方法が分からないことなのだけど」
「ひかげさんなら分かるんじゃねえか? 狐を祓う方法くらい楽勝なんだろ」
ひかげはタブレットを操作していた手を止めて「簡単に言いますなあ望月氏」と困った顔になった。
「今回の件は一筋縄ではいきませんぞ。まずはこじれた糸を解きほぐすのが肝要です」
「断ち切ればいいじゃねえか」
「ちょっと。乱暴なことはやめてよね」
菊子はじろりと従吾を睨みつける。
ひかげはすっと立ち上がって自分の机に向かい、引き出しをごそごそと探る。
「これは貴重なので使いたくなかったのですが、岩崎会長の依頼となれば仕方がありませんね」
そう言って取り出したのは赤黒い勾玉だった。それも二個ある。
「お守りといい藁人形といい、変なもん持っているな。なんだそりゃ」
「いにしえの日本では古墳が作られていました。いわゆるお墓ですな」
「この前授業で習ったよ。ていうか関係あんのか?」
「人の代わりに埴輪が埋められたこともご存じですかな?」
「ああ。それも習ったよ」
「では、埴輪が埋められる前は生贄が埋められたことも習いましたか?」
「…………」
従吾が思わず沈黙してしまうと、ひかげは「これは古墳から出土されたものです」とにこりともせずに言う。
「生贄が衣服に付けていたものでしょう。遺体は腐って土と化したのに、この勾玉だけは残っています……」
それを普通に持っているひかげを不気味に思いながら、従吾は「それ、どんな効果があるんだ?」と問う。
「霊を静める力があります。これならば白岡さんにとり憑いた霊も祓えるでしょう」
そう言ってひかげは従吾に勾玉を差し出す。
正直、生理的に触りたくないが、受け取らないと負けた気分になるので、仕方なく手に取る。
ひんやりと冷たい。氷のようだ。先ほどの話を聞いて血液が凍ったとも従吾は思えてきた。
「ねえ景川くん。これどうやって手に入れたの? まさか法を犯していないでしょうね?」
「ふひひひ。犯罪などしておりませんぞ! これは譲ってもらいました」
「ふうん。それで使い方は?」
「いたって簡単です。とり憑かれた人の前で勾玉を叩いて鳴らすのです。さすれば霊は引きずり出されます」
それならできるなと従吾は「それじゃ、さっそく白岡って奴と会おうぜ」と菊子を促した。
「もう帰ったわよ。だから明日ね」
「あっそ。じゃあセッティングしといてくれよ。俺も行くからさ」
「連絡先を交換しましょう。スマホ、持っているでしょ?」
二人が交換し終えたタイミングで「望月氏に任せれば安心ですぞ」とひかげは太鼓判を押した。なぜそこまで信頼を置けるのか、従吾はよく分からなかった。
「実際にどうなるか分からないけど、期待はしているわ。それじゃ、私帰るね」
「もっとゆっくりしてもいいのですぞ」
「倉庫に籠るのは嫌いなの。あなたと違ってね」
菊子が去ると「よくあんな女に従えるな」と従吾は呆れた。
「岩崎会長は学園の平和を守るために一生懸命です。見習うべき姿勢ですぞ」
「おいおい。俺は不良だぜ? 見習っても仕方ねえよ」
せせら笑う従吾だったが、ひかげは急に真面目な顔になり「望月氏。君は目的や目標はありますか?」と問う。
「そんなもんねえよ。あったらここで暇してねえし」
「ならば持つべきですぞ。そうすれば名実ともに番長の名に相応しい人になります」
「なんだなんだ。俺に説教してんのか?」
説教がこの世で一番嫌いな従吾は途端に不機嫌になる。
「説教ではありません。アドバイスと捉えていただきたい。そもそも、オカ研に入り浸る理由は何ですか? 本を読みに来ただけではないでしょう?」
「…………」
沈黙してしまったのは言いたくないからではない。
自分でも上手く言語化できないからだ。
ただ三つ子池の事件と対峙したとき――心がわくわくしたのを覚えている。
不可思議な事件と遭遇して、怖いというより楽しいと思ってしまった。
退屈だった世界が一変したのだ。
だけど従吾の貧弱な語彙では表現できなかった。
「……うるせえ。俺ぁ本を読みに来たんだよ」
「そうですか。ならば真実を教えましょうか」
ひかげは真面目な表情を崩さなかった。
「真実? 今回の事件のか?」
「ええ。僕にはすぐに分かりました。これはこっくりさんの仕業ではありません」
前提を崩すようなことを言われた従吾は「じゃあ誰の仕業なんだよ?」と問う。
「僕は白岡さんを知りませんが、雨沢さんのことは知っております。彼女は優しい人です」
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