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『俺には分かりません、師匠』
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俺は今、多摩の村の屋敷にいる。
良く言えば静養だが、事実通り述べれば――監禁だった。
亀若丸と離されて一人、部屋の中に閉じ込められていた。
幸い、刀は携えている。預ける謂れがないからだ。
一見、自由に思えるが外に出ようとすれば番をしている者に取り押さえられるだろう。
先行き見えない状態が三日と続いている。
その間に右腕の傷はだいぶ癒された。万全とは言えないが普通に振るうことは可能だ。
これまで通り、亀若丸を守ることができるだろう。
三左衛門の奴に「ここでおとなしくしてください」と言われてここにいるものの、いくら何でも音沙汰が無さすぎる。
亀若丸は無事なのか。
周助と久次郎たちは何をしているのか。
そして俺はこれからどうなるのか……
「三左衛門め。何を企んでいやがる……」
幕府の役人に囲まれていたので素直に言うことを聞くしかなかった。
怪我を負っていたことや亀若丸に危害を加えないことは自明の通りだ。
しかしその後はいただけない。
「花房の野郎、藩の家老と言っていた。ならば幕府の天領である多摩であのような狼藉を犯すのはご法度なはずだ」
口に出してみると疑問が増す。
幕府の役人を連れていたのであれば藩の家老とはいえ捕縛できるだろう。
いくらなんでも旗本八万騎を有数する徳川家を敵に回せない。
それどころか幕敵になる。
「幕府が見逃すほどの雄藩なのか、はたまた御三家、御三卿……」
御三家は尾張徳川家、紀州徳川家、水戸徳川家。
御三卿は田安徳川家、一橋徳川家、清水徳川家だ。
しかし御三卿は藩ではないので除外する。
力のある雄藩だとしても特別扱いはされないだろう。
考えられるとすれば、御三家だが……
「徳川家の隠し子だとしても……武士や浪人を使って殺す……あまりいい方法とは言えないな」
公儀なら徒に市井を騒がせることはしない。
もっと静かに死なせるなりするだろう。
「それに亀若丸が徳川家に連なる人間だとして、亀若丸は百姓として暮らしていた。本人すら己の素性を知らないのに、襲う理由がない」
たとえば亀若丸が己の素性を知り、それにかこつけて誰かを脅したのなら、襲われる理由となる――だが何も知らない子供だ。
「まさか、将軍家か?」
それこそまさかだ。将軍家の跡継ぎはきちんといるし、それこそ御三家や御三卿は血筋を絶やさないために存在している。亀若丸が入り込む余地などない。
ならば何故、亀若丸は狙われている――
「三左衛門の奴から聞き出すしかないな」
そう結論付けて俺は横になった。
部屋の隅に畳んだ布団があるがわざわざ敷くのも面倒だ。
頭を使い疲れた俺はそのまま目を閉じた。
◆◇◆◇
『人が人を裁くなどおこがましい。元来、そのような資格などありはしないのだ』
……これは夢だ。
師匠が多摩にいるはずがない。
昔の記憶が抽出され、結合し、追体験している。
『ならば私たちが行なう介錯には正統性がない。人が作り出した不完全な法度に基づき、罪を犯したであろう者の首を刎ねる。僅かな痛みや苦しみを与えずにな。それがどれだけの技術がいるのか。どれだけの覚悟がいるのか。お前には分かるか――源八郎』
山田朝右衛門の門人になる前、師匠に説かれた話だ。
はっきり言えば自分なりに覚悟を決めていたのに、挫けるような話をしないでほしいと思ってしまった。
門人になったのは三輪家の養子入りして数年後だった。
まだ分別の付いていない若造だったけど、何故かいたく師匠に気に入られた。
まだ介錯人の務めの重大さが分かっていない頃なのに、どうしてだろうと思っていた。
特別、腕が立ったわけではない。
心構えなど定まっていたわけでもない。
素直どころかひねくれ者だったと言える。
それでも何故か、師匠は俺を気にかけてくれた。
『俺には分かりません、師匠』
そのとき俺は生意気にも口答えした。
師匠が説いてくれているのに、今なら引き返せると暗に示しているのに、それを踏みにじって反発した。
『人に裁く資格が無くとも、切腹をする人間は誰が見ても明らかに罪人であり悪人です。それを介錯するのに技術は必要でも覚悟は必要なのでしょうか?』
本当に愚かしい男だ。
斬る覚悟ではなく、斬った後の覚悟を師匠は問いているのに。
気づかないとは……我ながら恥ずかしくなる。
『罪人であり悪人であるから斬っていいと、お前はそう思うのか?』
『ええ。そのとおりです』
『ならば罪人とはなんだ? 法度を破った者か? ならば悪人とはなんだ? 人の道に外れた者か?』
それ以外にないだろうと俺は頷いた。
師匠は無表情のまま『では訊ねるが』と俺に問う。
『人を助けるために誤って殺してしまった者は罪人か、悪人か?』
『法度を犯したので罪人ですが、悪人ではありません』
『行き倒れた旅人を助けずに見捨てた者は罪人か、悪人か?』
『法度に背いていませんが、悪人でしょう』
『ならば――介錯人は罪人か、悪人か?』
その問いに俺は――答えられなかった。
『私は法度に従い、介錯を行なう。しかし見方を変えれば罪人よりも罪深く、悪人よりも悪いのだろう。源八郎、お前は賢い若者だ。これで一概に罪悪は決められないと分かったであろう』
己が選んだではないにしろ、歩もうとする道を汚された気分だった。
だから俺は『ならば山田朝右衛門は何故に名跡となっているのですか?』と訊ねた。
『死が関わる以上、人に疎まれるのは分かります。しかし何代も続いた務めを卑下するのは――』
『私は卑下などしておらん。敬意こそあれ、己の務めを穢れたものとは思わない』
師匠は穏やかな顔になった。
厳しい人であり険しい顔をしている師匠がそんな表情をするなんて――
『源八郎。聡明なお前なら分かるだろう。この世に完全な罪などない。完全な法度などないように。そして完全な悪もない。それゆえ人は犯罪をして悪事を働く。だが決して、私たちは人を裁くために介錯をしているわけではない』
俺は師匠の言葉を待った。
『先ほども言ったが僅かな痛みや苦しみを与えずに、安らかに逝けるように努めるのだ。それは慈悲の心もあるが、ひとえに罪悪を超えた――介錯人の安定でもある』
介錯人の安定の意味は当時分からなかった。
だけど介錯を行なうことで――少しずつ理解した。
罪人であり悪人だから斬る。
それだけの浅い理由だといずれ押し潰される。
人を斬ったという罪悪感に殺されてしまうだろう。
だからこそ、安らかに逝けるよう努めるのは切腹した者のためだけではない。
己自身の気の在り方のためだ。
この者のために苦痛なく腕を振るったと思えれば続けられるのだ。
『いずれ、お前にも分かるようになるよ』
若い時分には理解できない話だが、四十の身になってようやく分かった。
山田朝右衛門を継ぐということは罪悪を超えた、己に科した覚悟を持ち続けることだと。
それゆえ覚悟とは、単なる務めではなく、武士の責務でもない。
己を律する指針である――
◆◇◆◇
「源八郎さん、入ってもよろしいでしょうか?」
懐かしい気持ちで目覚めると、部屋の外から三左衛門の声がした。
俺は瞼をこすりながら「入っていいぞ」と告げる。
「失礼します……おや、寝ていたんですか?」
「寝るしかやることがないんでな。それでようやく済んだのか?」
三左衛門は「済んだとはどういう意味でしょう?」と首を傾げた。
とぼけているのだろう。俺は「亀若丸のことだ」と睨んでやる。
「あいつの素性、調べが済んだんだろ」
「ええまあ……やっぱり聞きますか?」
「聞かないわけがない。そしてお前が言わないのはなしだ」
言いづらそうにしているが、そんなの構うものか。
三左衛門は「仕方ないですね」と面倒そうに言う。
「これ聞いたら源八郎さん暴れそうで嫌なんですけど」
「暴れるだと? ……どういう意味だ?」
まさかと思った瞬間、部屋のふすまが一斉に開き、幕府の役人たちが俺を囲む。
三左衛門は立ち上がって「下手なことはしないでください」と忠告してきた。
「亀若丸は花房殿に引き渡します。これは私の決断ではありません。幕府上層部の決定事項です」
良く言えば静養だが、事実通り述べれば――監禁だった。
亀若丸と離されて一人、部屋の中に閉じ込められていた。
幸い、刀は携えている。預ける謂れがないからだ。
一見、自由に思えるが外に出ようとすれば番をしている者に取り押さえられるだろう。
先行き見えない状態が三日と続いている。
その間に右腕の傷はだいぶ癒された。万全とは言えないが普通に振るうことは可能だ。
これまで通り、亀若丸を守ることができるだろう。
三左衛門の奴に「ここでおとなしくしてください」と言われてここにいるものの、いくら何でも音沙汰が無さすぎる。
亀若丸は無事なのか。
周助と久次郎たちは何をしているのか。
そして俺はこれからどうなるのか……
「三左衛門め。何を企んでいやがる……」
幕府の役人に囲まれていたので素直に言うことを聞くしかなかった。
怪我を負っていたことや亀若丸に危害を加えないことは自明の通りだ。
しかしその後はいただけない。
「花房の野郎、藩の家老と言っていた。ならば幕府の天領である多摩であのような狼藉を犯すのはご法度なはずだ」
口に出してみると疑問が増す。
幕府の役人を連れていたのであれば藩の家老とはいえ捕縛できるだろう。
いくらなんでも旗本八万騎を有数する徳川家を敵に回せない。
それどころか幕敵になる。
「幕府が見逃すほどの雄藩なのか、はたまた御三家、御三卿……」
御三家は尾張徳川家、紀州徳川家、水戸徳川家。
御三卿は田安徳川家、一橋徳川家、清水徳川家だ。
しかし御三卿は藩ではないので除外する。
力のある雄藩だとしても特別扱いはされないだろう。
考えられるとすれば、御三家だが……
「徳川家の隠し子だとしても……武士や浪人を使って殺す……あまりいい方法とは言えないな」
公儀なら徒に市井を騒がせることはしない。
もっと静かに死なせるなりするだろう。
「それに亀若丸が徳川家に連なる人間だとして、亀若丸は百姓として暮らしていた。本人すら己の素性を知らないのに、襲う理由がない」
たとえば亀若丸が己の素性を知り、それにかこつけて誰かを脅したのなら、襲われる理由となる――だが何も知らない子供だ。
「まさか、将軍家か?」
それこそまさかだ。将軍家の跡継ぎはきちんといるし、それこそ御三家や御三卿は血筋を絶やさないために存在している。亀若丸が入り込む余地などない。
ならば何故、亀若丸は狙われている――
「三左衛門の奴から聞き出すしかないな」
そう結論付けて俺は横になった。
部屋の隅に畳んだ布団があるがわざわざ敷くのも面倒だ。
頭を使い疲れた俺はそのまま目を閉じた。
◆◇◆◇
『人が人を裁くなどおこがましい。元来、そのような資格などありはしないのだ』
……これは夢だ。
師匠が多摩にいるはずがない。
昔の記憶が抽出され、結合し、追体験している。
『ならば私たちが行なう介錯には正統性がない。人が作り出した不完全な法度に基づき、罪を犯したであろう者の首を刎ねる。僅かな痛みや苦しみを与えずにな。それがどれだけの技術がいるのか。どれだけの覚悟がいるのか。お前には分かるか――源八郎』
山田朝右衛門の門人になる前、師匠に説かれた話だ。
はっきり言えば自分なりに覚悟を決めていたのに、挫けるような話をしないでほしいと思ってしまった。
門人になったのは三輪家の養子入りして数年後だった。
まだ分別の付いていない若造だったけど、何故かいたく師匠に気に入られた。
まだ介錯人の務めの重大さが分かっていない頃なのに、どうしてだろうと思っていた。
特別、腕が立ったわけではない。
心構えなど定まっていたわけでもない。
素直どころかひねくれ者だったと言える。
それでも何故か、師匠は俺を気にかけてくれた。
『俺には分かりません、師匠』
そのとき俺は生意気にも口答えした。
師匠が説いてくれているのに、今なら引き返せると暗に示しているのに、それを踏みにじって反発した。
『人に裁く資格が無くとも、切腹をする人間は誰が見ても明らかに罪人であり悪人です。それを介錯するのに技術は必要でも覚悟は必要なのでしょうか?』
本当に愚かしい男だ。
斬る覚悟ではなく、斬った後の覚悟を師匠は問いているのに。
気づかないとは……我ながら恥ずかしくなる。
『罪人であり悪人であるから斬っていいと、お前はそう思うのか?』
『ええ。そのとおりです』
『ならば罪人とはなんだ? 法度を破った者か? ならば悪人とはなんだ? 人の道に外れた者か?』
それ以外にないだろうと俺は頷いた。
師匠は無表情のまま『では訊ねるが』と俺に問う。
『人を助けるために誤って殺してしまった者は罪人か、悪人か?』
『法度を犯したので罪人ですが、悪人ではありません』
『行き倒れた旅人を助けずに見捨てた者は罪人か、悪人か?』
『法度に背いていませんが、悪人でしょう』
『ならば――介錯人は罪人か、悪人か?』
その問いに俺は――答えられなかった。
『私は法度に従い、介錯を行なう。しかし見方を変えれば罪人よりも罪深く、悪人よりも悪いのだろう。源八郎、お前は賢い若者だ。これで一概に罪悪は決められないと分かったであろう』
己が選んだではないにしろ、歩もうとする道を汚された気分だった。
だから俺は『ならば山田朝右衛門は何故に名跡となっているのですか?』と訊ねた。
『死が関わる以上、人に疎まれるのは分かります。しかし何代も続いた務めを卑下するのは――』
『私は卑下などしておらん。敬意こそあれ、己の務めを穢れたものとは思わない』
師匠は穏やかな顔になった。
厳しい人であり険しい顔をしている師匠がそんな表情をするなんて――
『源八郎。聡明なお前なら分かるだろう。この世に完全な罪などない。完全な法度などないように。そして完全な悪もない。それゆえ人は犯罪をして悪事を働く。だが決して、私たちは人を裁くために介錯をしているわけではない』
俺は師匠の言葉を待った。
『先ほども言ったが僅かな痛みや苦しみを与えずに、安らかに逝けるように努めるのだ。それは慈悲の心もあるが、ひとえに罪悪を超えた――介錯人の安定でもある』
介錯人の安定の意味は当時分からなかった。
だけど介錯を行なうことで――少しずつ理解した。
罪人であり悪人だから斬る。
それだけの浅い理由だといずれ押し潰される。
人を斬ったという罪悪感に殺されてしまうだろう。
だからこそ、安らかに逝けるよう努めるのは切腹した者のためだけではない。
己自身の気の在り方のためだ。
この者のために苦痛なく腕を振るったと思えれば続けられるのだ。
『いずれ、お前にも分かるようになるよ』
若い時分には理解できない話だが、四十の身になってようやく分かった。
山田朝右衛門を継ぐということは罪悪を超えた、己に科した覚悟を持ち続けることだと。
それゆえ覚悟とは、単なる務めではなく、武士の責務でもない。
己を律する指針である――
◆◇◆◇
「源八郎さん、入ってもよろしいでしょうか?」
懐かしい気持ちで目覚めると、部屋の外から三左衛門の声がした。
俺は瞼をこすりながら「入っていいぞ」と告げる。
「失礼します……おや、寝ていたんですか?」
「寝るしかやることがないんでな。それでようやく済んだのか?」
三左衛門は「済んだとはどういう意味でしょう?」と首を傾げた。
とぼけているのだろう。俺は「亀若丸のことだ」と睨んでやる。
「あいつの素性、調べが済んだんだろ」
「ええまあ……やっぱり聞きますか?」
「聞かないわけがない。そしてお前が言わないのはなしだ」
言いづらそうにしているが、そんなの構うものか。
三左衛門は「仕方ないですね」と面倒そうに言う。
「これ聞いたら源八郎さん暴れそうで嫌なんですけど」
「暴れるだと? ……どういう意味だ?」
まさかと思った瞬間、部屋のふすまが一斉に開き、幕府の役人たちが俺を囲む。
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