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安土城の衝撃
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天下無双と評すべき名城――安土城に秀吉と長政、そして僕が招かれた。
何でも石山本願寺の降伏と関東の北条家の従属を受けて、上様が今後の方針を話すらしい。
主だった重臣が一堂に会するみたいで、城へ向かう際、秀吉は感慨深そうに笑った。
「農民の子がまさかここまで出世するとはなあ」
日の本に名を轟かす大大名、織田家の重臣となれる者なんて限られている。
僕だって洞窟で出会った猿みたいな男が、ここまで昇り詰めるとは思わなかった。
安土城に着くと、完成した荘厳かつ豪華な佇まいに圧倒される。
「義兄上は、物凄い城を作られたな……!」
長政が驚くのも無理はない。
熱田の宮大工、岡部又右衛門が精魂懸けて作り上げた芸術品であり、秀吉を始めとする名将が意見を出し合って練り上げた究極の城なのだから。
天守は高さが十六半間あり、外観は五層で、内部は地下が存在し全部で七層だ。
さらに唐風に装飾されて、上から金、青、赤、白、黒と層ごとに色づけされている。
屋根には堅牢で華美な金箔の瓦で覆われていた。
中に入ると、これまた信じられないほどの豪華な作りとなっている。
座敷は金で装飾されており、格部屋ごとに高名な絵師、狩野永徳の絵が描かれていた。
絵の内容は各地の光景である。山あり谷あり、田園だったり村里だったりして、言葉で表現できないほど愉快なものばかりだった。
「ここを作るときにな。蛇石と呼ばれる大きな岩をどう運ぶか、丹羽さまと滝川さまとで話し合った。結局、一万人総勢で運んだのだ」
自慢げに話す秀吉だったけど、周りが凄すぎて耳に入らない。
なんというか、今までにないくらいに楽しい!
「殿。その蛇石なる岩は何に使われたのですか?」
長政の問いに「總見寺の御神体だ」と秀吉は答える。
「何でも上様自身が一柱の神となって祀られるそうだ」
「なるほど。義兄上らしいですね」
外から見る景色も素晴らしかった。どこまでも広がる空が近くに思えた。
「こら。浮き足立つのは分かるが、上様の御前に参るのだから、しっかりせんか」
「あ、ごめん。秀吉」
しっかりしないと駄目だなと思い、顔を叩いた。
安土城の大広間にて、重臣たちが集まっていた。
柴田勝家さま、丹羽長秀さま、明智光秀さま、滝川一益さま――その家臣も含めると結構な人数だ。
僕たち三人は末席に座った。
まだ来てない重臣も居るが、直に来るだろう――そう思っていると上座に上様が現れた。
「うむ。忙しい中、よくぞ来てくれた。では今後の方針を話すとしよう」
前置きも無く話し始める上様。
すると丹羽さまが「恐れながら上様」と言う。
「筆頭家老の佐久間殿と林殿が居られませぬが、よろしいのですか?」
そういえば見えなかったな。
まったく、遅参するなんてどれだけ――
「あの者たちは、追放した」
……えっ?
「い、今なんと……?」
「勝家。何度も言わせるな。追放処分とした」
上様があまりに静かに、それでいてあっさりと言うものだから、誰も何も言えなかった。
「う、上様、何ゆえに――」
「佐久間は石山本願寺攻めの不手際。林は家老でありながら何の働きもしなかったからだ」
明智さまの問いにも何の感情を込めなかった。
「また安藤守就と丹羽氏勝も同様に追放処分とする。理由は俺に叛こうとしていたからだ」
あまりに苛烈な処分。
当然抗議するべきだろうけど、恐ろしくてできなかった。
上様が恐ろしすぎて――怖かった。
「勝家。貴様を織田家の筆頭家老とする。さっさと上杉を片付けろ。それと東北との交渉も任せる」
「ぎょ、御意にございます!」
柴田さまは大量の汗をかいている。
「長秀。貴様は信孝と共に四国を攻めろ。失敗は許さん」
「は、ははっ!」
丹羽さまは平伏して応じた――
「す、少しお待ちくだされ! 四国は私の差配では――」
明智さまがうろたえる。土佐国の大名、長宗我部家との折衝役を任されていたのだから当然だろう。
「光秀。貴様には丹波国と丹後国の差配を任す。さらに畿内の平定も主命に加える。良いな?」
「しかし――」
「――良いな?」
上様の圧力に明智さまは「分かりました……」と頷くしかなかった。
「猿。中国を平らげよ。兵や兵糧が足りなければ早めに言え」
「は、ははっ!」
流石の秀吉も焦りを感じているのだろう。
追従の言葉など言えなかった。
他の武将たちにも指示が行く。
もしも失敗してしまったのなら、今度はこちらが追放の憂き目に遭うのかもしれない。
武将たちはそれを恐れていた――
「それでは解散とする! 今後も貴様たちの健闘と努力を祈る!」
上様の言葉で武将たちはすぐさま大広間を後にした。
緩慢な動きだと叱られると誰もが思ったからだ。
大広間に残ったのは、秀吉と長政、そして僕だけだった。
「なんだ猿。解散と言っただろう」
「上様。どうかこの猿めに教えてくだされ」
秀吉は平伏して、上様の思惑を探ろうとする。
いや、真意を知ろうとする――
「……佐久間を追放したのは、派閥が大きすぎたからだ」
上様は長い沈黙の後、そう答えた。
「派閥が大きければ、家中の意見をまとめ出し、当主に口出ししてくる。我が息子、信忠が中心となって織田家は動かなければならぬ。早めに膿を取り除いただけよ」
「では、林さまは――」
「あやつは信孝を抱きこんで派閥を作ろうとした。保身のためだろうが、それは許されぬ行ないだ。当主は信忠のみ。他は許さぬ」
なんという苛烈さだろう。
でもこれは――上様なりの解決なのだろう。
自身も弟の行雲さまと争っていたからこその解決策だ。
「し、しかし、あまりにも――」
「猿。貴様、俺に意見でもあるのか?」
冷えた声音で問われた秀吉は真夏の炎天下のように汗を噴出す。
「な、何もございませぬ……!」
「そうか……俺は貴様の働きに満足している」
一転して秀吉を褒める上様。
「中国の平定を貴様なら成し遂げられるだろう。期待しておるぞ」
上様に他意はあるのかないのか。
まったくの不明だけど、秀吉は心底恐怖したことだろう。
それっきり何も言わなかった。
「上様は――織田家が大事なのですか?」
だから――僕が言う。
「僕たちに織田家を頼むとおっしゃりましたが、それは偽りだったのですか?」
「雲之介! やめろ!」
長政が止めるけど、僕は止まらなかった。
「家臣を切り捨てて、織田家の安寧を守るのが、上様の太平の世ですか!」
「…………」
「頑張っても、秀吉が、羽柴家が滅んでいくのなら、僕たちは何のために、戦うのですか!」
「…………」
「お答えください! 上様!」
上様は厳しい顔つきで――僕に言う。
「前年、言ったことに偽りはない」
「…………」
「羽柴秀吉。浅井長政。雨竜秀昭。貴様らを決して捨てたりしない」
上様は――そのまま僕たちに言う。
「太平の世になれば、俺は一線から退く。後は信忠に任せる。そのための追放処分だ」
そして最後に上様は僕たちに告げる。
「もう親兄弟が争う戦など起こしたくない。頼む。ここは従ってくれ」
上様の言葉がどこまで真実なのか。
凡人である僕には判断できなかった。
でも従うしかないんだ。
それが僕の選んだ道であり、武士の道なのだから。
「ひひひ。すげえ面倒なことになったなあ」
改修の終わった姫路城で、官兵衛はにやにや笑う。
「笑い事ではない……わしは上様のことが分からなくなった……」
秀吉は目に見えて落ち込んだ。
僕はなんと言って元気付けようか悩む。
評定の間で羽柴家は次なる攻略目標を考えていた。
「そんで、次はどこを狙うんだ? 軍師さまよ」
「えへへ。蜂須賀殿。決まっているだろ。因幡国を狙うんだよ」
官兵衛は下に置かれた地図、因幡国を指差した。
「鳥取城を落とす! ここが落ちれば因幡国は俺たちのもんだ!」
何でも石山本願寺の降伏と関東の北条家の従属を受けて、上様が今後の方針を話すらしい。
主だった重臣が一堂に会するみたいで、城へ向かう際、秀吉は感慨深そうに笑った。
「農民の子がまさかここまで出世するとはなあ」
日の本に名を轟かす大大名、織田家の重臣となれる者なんて限られている。
僕だって洞窟で出会った猿みたいな男が、ここまで昇り詰めるとは思わなかった。
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自慢げに話す秀吉だったけど、周りが凄すぎて耳に入らない。
なんというか、今までにないくらいに楽しい!
「殿。その蛇石なる岩は何に使われたのですか?」
長政の問いに「總見寺の御神体だ」と秀吉は答える。
「何でも上様自身が一柱の神となって祀られるそうだ」
「なるほど。義兄上らしいですね」
外から見る景色も素晴らしかった。どこまでも広がる空が近くに思えた。
「こら。浮き足立つのは分かるが、上様の御前に参るのだから、しっかりせんか」
「あ、ごめん。秀吉」
しっかりしないと駄目だなと思い、顔を叩いた。
安土城の大広間にて、重臣たちが集まっていた。
柴田勝家さま、丹羽長秀さま、明智光秀さま、滝川一益さま――その家臣も含めると結構な人数だ。
僕たち三人は末席に座った。
まだ来てない重臣も居るが、直に来るだろう――そう思っていると上座に上様が現れた。
「うむ。忙しい中、よくぞ来てくれた。では今後の方針を話すとしよう」
前置きも無く話し始める上様。
すると丹羽さまが「恐れながら上様」と言う。
「筆頭家老の佐久間殿と林殿が居られませぬが、よろしいのですか?」
そういえば見えなかったな。
まったく、遅参するなんてどれだけ――
「あの者たちは、追放した」
……えっ?
「い、今なんと……?」
「勝家。何度も言わせるな。追放処分とした」
上様があまりに静かに、それでいてあっさりと言うものだから、誰も何も言えなかった。
「う、上様、何ゆえに――」
「佐久間は石山本願寺攻めの不手際。林は家老でありながら何の働きもしなかったからだ」
明智さまの問いにも何の感情を込めなかった。
「また安藤守就と丹羽氏勝も同様に追放処分とする。理由は俺に叛こうとしていたからだ」
あまりに苛烈な処分。
当然抗議するべきだろうけど、恐ろしくてできなかった。
上様が恐ろしすぎて――怖かった。
「勝家。貴様を織田家の筆頭家老とする。さっさと上杉を片付けろ。それと東北との交渉も任せる」
「ぎょ、御意にございます!」
柴田さまは大量の汗をかいている。
「長秀。貴様は信孝と共に四国を攻めろ。失敗は許さん」
「は、ははっ!」
丹羽さまは平伏して応じた――
「す、少しお待ちくだされ! 四国は私の差配では――」
明智さまがうろたえる。土佐国の大名、長宗我部家との折衝役を任されていたのだから当然だろう。
「光秀。貴様には丹波国と丹後国の差配を任す。さらに畿内の平定も主命に加える。良いな?」
「しかし――」
「――良いな?」
上様の圧力に明智さまは「分かりました……」と頷くしかなかった。
「猿。中国を平らげよ。兵や兵糧が足りなければ早めに言え」
「は、ははっ!」
流石の秀吉も焦りを感じているのだろう。
追従の言葉など言えなかった。
他の武将たちにも指示が行く。
もしも失敗してしまったのなら、今度はこちらが追放の憂き目に遭うのかもしれない。
武将たちはそれを恐れていた――
「それでは解散とする! 今後も貴様たちの健闘と努力を祈る!」
上様の言葉で武将たちはすぐさま大広間を後にした。
緩慢な動きだと叱られると誰もが思ったからだ。
大広間に残ったのは、秀吉と長政、そして僕だけだった。
「なんだ猿。解散と言っただろう」
「上様。どうかこの猿めに教えてくだされ」
秀吉は平伏して、上様の思惑を探ろうとする。
いや、真意を知ろうとする――
「……佐久間を追放したのは、派閥が大きすぎたからだ」
上様は長い沈黙の後、そう答えた。
「派閥が大きければ、家中の意見をまとめ出し、当主に口出ししてくる。我が息子、信忠が中心となって織田家は動かなければならぬ。早めに膿を取り除いただけよ」
「では、林さまは――」
「あやつは信孝を抱きこんで派閥を作ろうとした。保身のためだろうが、それは許されぬ行ないだ。当主は信忠のみ。他は許さぬ」
なんという苛烈さだろう。
でもこれは――上様なりの解決なのだろう。
自身も弟の行雲さまと争っていたからこその解決策だ。
「し、しかし、あまりにも――」
「猿。貴様、俺に意見でもあるのか?」
冷えた声音で問われた秀吉は真夏の炎天下のように汗を噴出す。
「な、何もございませぬ……!」
「そうか……俺は貴様の働きに満足している」
一転して秀吉を褒める上様。
「中国の平定を貴様なら成し遂げられるだろう。期待しておるぞ」
上様に他意はあるのかないのか。
まったくの不明だけど、秀吉は心底恐怖したことだろう。
それっきり何も言わなかった。
「上様は――織田家が大事なのですか?」
だから――僕が言う。
「僕たちに織田家を頼むとおっしゃりましたが、それは偽りだったのですか?」
「雲之介! やめろ!」
長政が止めるけど、僕は止まらなかった。
「家臣を切り捨てて、織田家の安寧を守るのが、上様の太平の世ですか!」
「…………」
「頑張っても、秀吉が、羽柴家が滅んでいくのなら、僕たちは何のために、戦うのですか!」
「…………」
「お答えください! 上様!」
上様は厳しい顔つきで――僕に言う。
「前年、言ったことに偽りはない」
「…………」
「羽柴秀吉。浅井長政。雨竜秀昭。貴様らを決して捨てたりしない」
上様は――そのまま僕たちに言う。
「太平の世になれば、俺は一線から退く。後は信忠に任せる。そのための追放処分だ」
そして最後に上様は僕たちに告げる。
「もう親兄弟が争う戦など起こしたくない。頼む。ここは従ってくれ」
上様の言葉がどこまで真実なのか。
凡人である僕には判断できなかった。
でも従うしかないんだ。
それが僕の選んだ道であり、武士の道なのだから。
「ひひひ。すげえ面倒なことになったなあ」
改修の終わった姫路城で、官兵衛はにやにや笑う。
「笑い事ではない……わしは上様のことが分からなくなった……」
秀吉は目に見えて落ち込んだ。
僕はなんと言って元気付けようか悩む。
評定の間で羽柴家は次なる攻略目標を考えていた。
「そんで、次はどこを狙うんだ? 軍師さまよ」
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