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青い空の下
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「それで、小太刀の謎はなんだったのだ?」
「簡単に解けたよ。まあ俺は聞いてなかったけどさ。武士だったら分かることだった」
ここは忍びの本拠地。ドク・クレイムと忍びの頭領のハンゾウが、以前二人が対面した部屋で、今回の騒動を話し合っていた。ドクはある程度ラットやスフィアから話を聞いていた。だから彼本来の軽妙な語り口で顛末を語れた。ハンゾウは「私は武士ではないが、思い当たるところがある」とあっさりと言った。
「へえ。流石、忍びの頭領だねえ」
「武士だから分かるという文言で分かった。湿らすものを取り除く。つまり――目釘を取れと私の娘は言い残したのだな」
目釘というのは刀身と柄をつなぐ、竹や銅でできた釘を指す。一般的に目釘穴と呼ばれる穴に通すもので、それを引き抜くことで刀身と柄を分離させられる。
「目釘を舐めるという言葉がある。舐めて湿らすことで目釘を膨脹させ、抜けにくくさせる。実力が同等か上の者に行なう、一種の儀礼だな」
「まあね。実際、抜けにくくなるかは分からないね」
「それから目釘を抜いた後、どうなった?」
続きを促したハンゾウ。ドクは肩を竦めながら「銘に開け方が書かれていたよ」と答えた。そのとき、スフィアは五年間携えていた小太刀にそんな秘密があるとは夢にも思わず、言葉にならなかったと本人が語っていたのをドクは聞いた。
「ちなみに、その銘には四代目の名前も刻まれていたんだ。まったくあの悪将軍。死んでからも人に迷惑ばかりかけて。本当にどうしようもないよね」
「中に埋蔵金があるとは思えん。おそらく地図が入っていたんだな」
「わあお。正解だよ。やっぱり頭領ともあろう人は頭の回転が速いね」
褒めているのか皮肉を言っているのか分からないドク。そんな彼を追及せずに「それで、埋蔵金を手に入れたんだな?」とハンゾウは言った。ドクが素直に埋蔵金の半分を持ってくるとは思わなかったが、ここに来たのはそういう意味だろうと考えた。
「ああ。手に入れたよ。でも全部使っちゃった」
「……なんだと?」
「おっと。怖い顔しないでよ。そもそも、埋蔵金を手に入れたのは俺じゃないし、使っちゃったのも俺じゃない」
思わず腰を上げかけたハンゾウにドクは落ち着いて事実を述べた。ハンゾウは険しい顔のまま「では誰が?」と問う。
「誰が手に入れた? そして使い切ってしまったのだ?」
「ああ。スフィアちゃんだよ」
ハンゾウは顔をしかめて「スパイディ家の姫が?」と疑問に思いつつ訊ね返した。ドクはのん気に「そうだよん」と話を続けた。
「ホークがね。スフィアちゃんが貰うべきだって話したんだ。だって小太刀の謎を教えてくれたのは、あんたの娘でありスパイディ家の女中――ルビィなんだから」
「…………」
「これで、聞きたかった謎が一つ解消されたんじゃないの?」
ハンゾウは努めて冷静に「だから、スフィア姫がなったのか」と言う。
「七代目将軍に、スフィア・スパイディがなった。その情報は掴んでいる」
「そうだよ。従属大名に見つけた埋蔵金ばら撒いて、アイラの殿様とオウルを討ち取った実力で、七代目の席を掻っ攫っちゃった」
今、メニシンシティでは大変な騒ぎになっている。将軍候補の従属大名である二人の死、そして前代未聞の女将軍。これからどうなるのかという不安が街全体を包んでいた。
「しかし、巷では噂になっていないが――」
「ありゃ。そこも知っているの? そうだね、今やっている最中だよ」
スフィアの就任披露日は今日行なわれる。しかしアイラの死で従属大名に格上げしたドクがこの場にいることはどこか不自然であるハンゾウは思った。
「…………」
「何怖い顔になって。仕方ないでしょ。契約はこうだった。『もしも俺やホークが死んだりして、埋蔵金が俺たち二人の手に入らなかったら、対価は取らない』そのとおり、俺とホークの手には入らなかった」
「ゆえに対価は支払わぬと?」
「実を言えば、ホークから預かっているものがある」
懐からドクは袋を取り出した。ちゃりちゃり鳴るその袋をハンゾウに向かって投げて渡した。彼が中を確認すると――金が入っていた。
「百ゴールド。ルビィのお墓代に宛ててほしいって」
「……立派な墓を作らせてもらう」
「うん。ならオーケーだね。それじゃあ俺は帰るよ。用事も話も済んだし」
そう言って椅子から立ち上がろうとして「あ、そうだ」と興味無さそうにドクはハンゾウに訊ねた。
「あのさ。忍びって情報だけではなく、諜報や流言、暗殺もやる集団だよね」
「ああ。そうだ。仕事の依頼でもするのか?」
「違うよ。これは俺の推測だし、本当はどうでもいいと思っていて、言葉にすると気にしているようだから嫌だけど、好奇心で訊くよ」
ドクは椅子に座り直してハンゾウを見つめながら、笑顔で訊ねた。
「六代目将軍殺したの――あんたら忍びだよね?」
ハンゾウは「どうしてそう思う?」と肯定とも否定ともつかない、曖昧な言い方をした。ドクは「勘だけどさ」と説明し出した。
「スパイディ家の女中がハンゾウの配下の者だってことが気にかかってさ。偶然じゃないよね? ということはいろんな武家に潜入させている可能性があるんだよ。だからこそ、情報が集まるのは分かる」
「……それで?」
「でもさ、忍びたちが将軍殺しの情報を武家に売らないわけがないんだよね。金になるし。知りたがっている人も大勢いる。需要があるのに、オウルが殺したっていう噂だけが広がっている」
「…………」
「流言でオウルがやったと誘導させて、本当は自分たちがやったんじゃないのかな?」
ハンゾウはドクの推測を聞いて「将軍を殺す理由はない」と短く答えた。
「動機がそもそもない」
「流石にアイラの殿様も依頼したりしないと思うから、埋蔵金狙いかもしくは別の意図があったのか……ま、どうでもいいや」
途中で話を打ち切ってドクは立ち上がって「それじゃあ、またね」と言う。
「……私を斬りに来たのではないのか?」
「言ったでしょ? ただの好奇心で訊いたって。それにホークが隻腕になっちゃったから、生きがい無くしたんだよ。今の俺にはやる気なんてありませーん」
くるくるとその場で二周した後、ドクは「でもまあ、一応言っておくね」と一変して真剣な表情になった。凄みを利かせた目をハンゾウに向ける。
「あんまり武士のこと舐めると――痛い目見るぜ?」
ハンゾウは自分の首筋に冷や汗を感じた。
「……ああ。肝に銘じておこう」
「……うん。さようなら」
ドクは悠々と部屋を出た。すぐさま護衛の忍びたちがハンゾウに駆け寄る。
「頭領。あのドクを生かして帰していいのですか?」
「……あいつを殺そうとすれば、逆に根絶やしにされる」
忍びたちは顔を見合わせてハンゾウの言葉を噛み締めた。
ハンゾウは静かに笑う。
「いつか……必ず、表に出てやる……」
「サウスのこと、頼んだわよ――プルート」
「はい。任せてください。七代目」
ドクとハンゾウの会話から数日経った。サウスとセントラルの国境にて、スフィアとプルートは別れの挨拶をしていた。傍らにはダニエルと数十名の武士がいた。
「しかしあなたも予想外のことをする。まさか襲名した翌日に、引退をするなんて」
プルートは苦笑いしてスフィアをまじまじと見る。彼女は「経験のない私じゃサウスはまとまらないわよ」とけらけら笑っていた。
「それにね。私よりあなたのほうが上手くやってくれると思うわ」
「……荷が重いですよ」
「重ねて言えば、私、探さないといけない人がいるのよ」
プルートは一瞬、淋しげな表情をしたスフィアに「あの人のことですね」と言う。彼女はにっこりと笑って頷いた。
「ええ。ラットを探しにね。あいつ、お礼も聞かずにどっかいっちゃったんだもの」
「再会したら、まずありがとうって言うんですか?」
「まさか。思いっきりビンタするわよ!」
空中で殴る仕草をしたスフィアを面白そうに笑いながら「いつでも戻ってきてください」とプルートは頭を下げた。
「強大な従属大名が二家無くなりましたけど、ドクさんがいてくれますし、ダニエルさんもスパード家として従属大名になってくれます」
「……妻と物凄く揉めましたけどね」
ダニエルが困ったように言うものだから、スフィアとプルートは吹き出してしまった。明るい若者の笑い声が青空に響く。
「あー、笑った笑った。さてと、そろそろ行くわね」
「お元気で、七代目」
「ええ、あなたもね――八代目」
スフィアは用意された馬にまたがって、セントラルへと駆け出した。まず、エンドタウンに戻ってジークとセリアに今までのことを報告して、それからゆっくり探そうと考えた。
彼女は思う。青い空の下、生きていれば必ず巡り合う。再会したらまずは殴って。それから――たくさんのありがとうを言うのだ。
「待ってなさいね――ラット」
誰に言うでもなく呟いた言葉は空へと昇って溶けて行った――
セントラルの小さな村。大名家の管理が行き届かない田舎で、数人のごろつきが騒ぎを起こしていた。
「へへへ。田舎娘にしては上物じゃねえか」
「お兄さんと一緒に遊ぼうぜえ」
男に手を掴まれた娘は泣きながら「誰か助けて!」と叫ぶ。
しかし、村人たちは手も足も出ない。既に若者が何人も暴行を受けてその場に臥している。
「誰も助けにこねえよ。さっさと諦めて――」
「――やめろ」
ごろつきたちが振り向いた先には、一人の男がいた。
見たところ、三十過ぎ。着流しと呼ばれる、珍しい和服。白地に黒の模様――おそらく竹だ――が描かれている。短い黒髪に鋭い目。無精ひげは汚らしい印象ではなく、彼の逞しさを表している。背が高くそれでいて細身の体型をしている。下駄をからんころんと鳴らしながら、ごろつきに歩み寄る姿はさまになっていた。
しかし彼の特筆すべきところは左腕がないところだ。それを見てごろつきたちは笑う。
「はっはー、なんだてめえは! 何の用だ!」
「ただの通りすがりだよ。恥知らずたちがくだらねえ真似してるから、声をかけたんだ」
そう言って腰に差した赤鞘の刀を抜く。
そして薄い笑みを消して、見得を切る。
「殺す覚悟のある奴だけ――かかってこい!」
「簡単に解けたよ。まあ俺は聞いてなかったけどさ。武士だったら分かることだった」
ここは忍びの本拠地。ドク・クレイムと忍びの頭領のハンゾウが、以前二人が対面した部屋で、今回の騒動を話し合っていた。ドクはある程度ラットやスフィアから話を聞いていた。だから彼本来の軽妙な語り口で顛末を語れた。ハンゾウは「私は武士ではないが、思い当たるところがある」とあっさりと言った。
「へえ。流石、忍びの頭領だねえ」
「武士だから分かるという文言で分かった。湿らすものを取り除く。つまり――目釘を取れと私の娘は言い残したのだな」
目釘というのは刀身と柄をつなぐ、竹や銅でできた釘を指す。一般的に目釘穴と呼ばれる穴に通すもので、それを引き抜くことで刀身と柄を分離させられる。
「目釘を舐めるという言葉がある。舐めて湿らすことで目釘を膨脹させ、抜けにくくさせる。実力が同等か上の者に行なう、一種の儀礼だな」
「まあね。実際、抜けにくくなるかは分からないね」
「それから目釘を抜いた後、どうなった?」
続きを促したハンゾウ。ドクは肩を竦めながら「銘に開け方が書かれていたよ」と答えた。そのとき、スフィアは五年間携えていた小太刀にそんな秘密があるとは夢にも思わず、言葉にならなかったと本人が語っていたのをドクは聞いた。
「ちなみに、その銘には四代目の名前も刻まれていたんだ。まったくあの悪将軍。死んでからも人に迷惑ばかりかけて。本当にどうしようもないよね」
「中に埋蔵金があるとは思えん。おそらく地図が入っていたんだな」
「わあお。正解だよ。やっぱり頭領ともあろう人は頭の回転が速いね」
褒めているのか皮肉を言っているのか分からないドク。そんな彼を追及せずに「それで、埋蔵金を手に入れたんだな?」とハンゾウは言った。ドクが素直に埋蔵金の半分を持ってくるとは思わなかったが、ここに来たのはそういう意味だろうと考えた。
「ああ。手に入れたよ。でも全部使っちゃった」
「……なんだと?」
「おっと。怖い顔しないでよ。そもそも、埋蔵金を手に入れたのは俺じゃないし、使っちゃったのも俺じゃない」
思わず腰を上げかけたハンゾウにドクは落ち着いて事実を述べた。ハンゾウは険しい顔のまま「では誰が?」と問う。
「誰が手に入れた? そして使い切ってしまったのだ?」
「ああ。スフィアちゃんだよ」
ハンゾウは顔をしかめて「スパイディ家の姫が?」と疑問に思いつつ訊ね返した。ドクはのん気に「そうだよん」と話を続けた。
「ホークがね。スフィアちゃんが貰うべきだって話したんだ。だって小太刀の謎を教えてくれたのは、あんたの娘でありスパイディ家の女中――ルビィなんだから」
「…………」
「これで、聞きたかった謎が一つ解消されたんじゃないの?」
ハンゾウは努めて冷静に「だから、スフィア姫がなったのか」と言う。
「七代目将軍に、スフィア・スパイディがなった。その情報は掴んでいる」
「そうだよ。従属大名に見つけた埋蔵金ばら撒いて、アイラの殿様とオウルを討ち取った実力で、七代目の席を掻っ攫っちゃった」
今、メニシンシティでは大変な騒ぎになっている。将軍候補の従属大名である二人の死、そして前代未聞の女将軍。これからどうなるのかという不安が街全体を包んでいた。
「しかし、巷では噂になっていないが――」
「ありゃ。そこも知っているの? そうだね、今やっている最中だよ」
スフィアの就任披露日は今日行なわれる。しかしアイラの死で従属大名に格上げしたドクがこの場にいることはどこか不自然であるハンゾウは思った。
「…………」
「何怖い顔になって。仕方ないでしょ。契約はこうだった。『もしも俺やホークが死んだりして、埋蔵金が俺たち二人の手に入らなかったら、対価は取らない』そのとおり、俺とホークの手には入らなかった」
「ゆえに対価は支払わぬと?」
「実を言えば、ホークから預かっているものがある」
懐からドクは袋を取り出した。ちゃりちゃり鳴るその袋をハンゾウに向かって投げて渡した。彼が中を確認すると――金が入っていた。
「百ゴールド。ルビィのお墓代に宛ててほしいって」
「……立派な墓を作らせてもらう」
「うん。ならオーケーだね。それじゃあ俺は帰るよ。用事も話も済んだし」
そう言って椅子から立ち上がろうとして「あ、そうだ」と興味無さそうにドクはハンゾウに訊ねた。
「あのさ。忍びって情報だけではなく、諜報や流言、暗殺もやる集団だよね」
「ああ。そうだ。仕事の依頼でもするのか?」
「違うよ。これは俺の推測だし、本当はどうでもいいと思っていて、言葉にすると気にしているようだから嫌だけど、好奇心で訊くよ」
ドクは椅子に座り直してハンゾウを見つめながら、笑顔で訊ねた。
「六代目将軍殺したの――あんたら忍びだよね?」
ハンゾウは「どうしてそう思う?」と肯定とも否定ともつかない、曖昧な言い方をした。ドクは「勘だけどさ」と説明し出した。
「スパイディ家の女中がハンゾウの配下の者だってことが気にかかってさ。偶然じゃないよね? ということはいろんな武家に潜入させている可能性があるんだよ。だからこそ、情報が集まるのは分かる」
「……それで?」
「でもさ、忍びたちが将軍殺しの情報を武家に売らないわけがないんだよね。金になるし。知りたがっている人も大勢いる。需要があるのに、オウルが殺したっていう噂だけが広がっている」
「…………」
「流言でオウルがやったと誘導させて、本当は自分たちがやったんじゃないのかな?」
ハンゾウはドクの推測を聞いて「将軍を殺す理由はない」と短く答えた。
「動機がそもそもない」
「流石にアイラの殿様も依頼したりしないと思うから、埋蔵金狙いかもしくは別の意図があったのか……ま、どうでもいいや」
途中で話を打ち切ってドクは立ち上がって「それじゃあ、またね」と言う。
「……私を斬りに来たのではないのか?」
「言ったでしょ? ただの好奇心で訊いたって。それにホークが隻腕になっちゃったから、生きがい無くしたんだよ。今の俺にはやる気なんてありませーん」
くるくるとその場で二周した後、ドクは「でもまあ、一応言っておくね」と一変して真剣な表情になった。凄みを利かせた目をハンゾウに向ける。
「あんまり武士のこと舐めると――痛い目見るぜ?」
ハンゾウは自分の首筋に冷や汗を感じた。
「……ああ。肝に銘じておこう」
「……うん。さようなら」
ドクは悠々と部屋を出た。すぐさま護衛の忍びたちがハンゾウに駆け寄る。
「頭領。あのドクを生かして帰していいのですか?」
「……あいつを殺そうとすれば、逆に根絶やしにされる」
忍びたちは顔を見合わせてハンゾウの言葉を噛み締めた。
ハンゾウは静かに笑う。
「いつか……必ず、表に出てやる……」
「サウスのこと、頼んだわよ――プルート」
「はい。任せてください。七代目」
ドクとハンゾウの会話から数日経った。サウスとセントラルの国境にて、スフィアとプルートは別れの挨拶をしていた。傍らにはダニエルと数十名の武士がいた。
「しかしあなたも予想外のことをする。まさか襲名した翌日に、引退をするなんて」
プルートは苦笑いしてスフィアをまじまじと見る。彼女は「経験のない私じゃサウスはまとまらないわよ」とけらけら笑っていた。
「それにね。私よりあなたのほうが上手くやってくれると思うわ」
「……荷が重いですよ」
「重ねて言えば、私、探さないといけない人がいるのよ」
プルートは一瞬、淋しげな表情をしたスフィアに「あの人のことですね」と言う。彼女はにっこりと笑って頷いた。
「ええ。ラットを探しにね。あいつ、お礼も聞かずにどっかいっちゃったんだもの」
「再会したら、まずありがとうって言うんですか?」
「まさか。思いっきりビンタするわよ!」
空中で殴る仕草をしたスフィアを面白そうに笑いながら「いつでも戻ってきてください」とプルートは頭を下げた。
「強大な従属大名が二家無くなりましたけど、ドクさんがいてくれますし、ダニエルさんもスパード家として従属大名になってくれます」
「……妻と物凄く揉めましたけどね」
ダニエルが困ったように言うものだから、スフィアとプルートは吹き出してしまった。明るい若者の笑い声が青空に響く。
「あー、笑った笑った。さてと、そろそろ行くわね」
「お元気で、七代目」
「ええ、あなたもね――八代目」
スフィアは用意された馬にまたがって、セントラルへと駆け出した。まず、エンドタウンに戻ってジークとセリアに今までのことを報告して、それからゆっくり探そうと考えた。
彼女は思う。青い空の下、生きていれば必ず巡り合う。再会したらまずは殴って。それから――たくさんのありがとうを言うのだ。
「待ってなさいね――ラット」
誰に言うでもなく呟いた言葉は空へと昇って溶けて行った――
セントラルの小さな村。大名家の管理が行き届かない田舎で、数人のごろつきが騒ぎを起こしていた。
「へへへ。田舎娘にしては上物じゃねえか」
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男に手を掴まれた娘は泣きながら「誰か助けて!」と叫ぶ。
しかし、村人たちは手も足も出ない。既に若者が何人も暴行を受けてその場に臥している。
「誰も助けにこねえよ。さっさと諦めて――」
「――やめろ」
ごろつきたちが振り向いた先には、一人の男がいた。
見たところ、三十過ぎ。着流しと呼ばれる、珍しい和服。白地に黒の模様――おそらく竹だ――が描かれている。短い黒髪に鋭い目。無精ひげは汚らしい印象ではなく、彼の逞しさを表している。背が高くそれでいて細身の体型をしている。下駄をからんころんと鳴らしながら、ごろつきに歩み寄る姿はさまになっていた。
しかし彼の特筆すべきところは左腕がないところだ。それを見てごろつきたちは笑う。
「はっはー、なんだてめえは! 何の用だ!」
「ただの通りすがりだよ。恥知らずたちがくだらねえ真似してるから、声をかけたんだ」
そう言って腰に差した赤鞘の刀を抜く。
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