銃とナイフとストレンジ

和谷ノア

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1話 真夜中の鬼ごっこ

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3月27日
 真夜中、二つの影が町中を駆けていた。

 一つは頭部に三本の角を生やしていた。身の丈は二メートル程、でビリビリに破れた白装束を着ている。異形である。

 それを追う者が一つ。黒いスーツを着た少年で、腰には銃が入ったホルスターを下げていた。俺である。

「くっそ……こっちバイク乗ってんのに、全然追いつけてない……。異形の基本性能イカれてるだろ!」

 そう。俺は今、白いボディに青のラインが入った大型二輪にまたがり、走って逃げている前方の標的を追っていた。
 
 時速は70キロオーバー。一向に縮まらないお互いの距離に、俺が半分苛立ちながら訴えると、ヘルメットの内側から声が聞こえる。

『異形の身体能力はすごいからねぇ、気持ちはわかるけど戦闘中に苛立ちは厳禁だよ、敬くん。……あ、そこ左に曲がって!』

「っと、了解!」

 どこか柔らかい女性の声が、俺をなだめる。
 それと同時、言われたとおりに、俺は左に曲がった。そしてそのまま『左』『右』『斜め右』と、女性のナビゲーションに頼っていると、いつの間にか正面から先程の異形が現れたのだ。

 向こうもこっちに気が付いたらしく、方向転換して逃げようとするが、この距離ならば俺の射程内である。

 すぐにホルスターからハンドガンを抜き、引き金を引いた。

 銃声が鳴り響き、やや青みがある弾丸が標的の眉間を捉えていた。異形は振り返った状態でバタリと倒れ、絶命を証明するように体の先から異形が崩れていく。最終的に異形の体は黒い灰のような物になり、その原型はなくなった。
 
 任務完了。

 心なしか、その場の空気が軽くなったような気がする。近くにバイクを駐めて、俺はヘルメットを脱いだ。

「……ふぅ、先輩、目標鎮圧しました」

 変に固まった自分の短めの髪を片手でワシャワシャとほぐしながら、任務完了の報告をする。

『うん、お疲れさま』

と耳につけた小型スピーカーから女性、もとい先輩の声が聞こえてくる。

 少し疲れたので、そこにあった段差に腰をかけ、なんとなしに先程発砲した自分の銃を眺める。銃口の部分はまだ少し熱を持っているのがわかった。

 さっきはバイクに乗りながらだったので、片手で発砲することになった。
 なので、一回ちゃんと両手で銃を構えてみる。右手でしっかりとグリップを握り、それを包むように左手を添える。右腕をまっすぐ伸ばして標準を合わせた。

『……あ、敬君聞いた?』

 グリップの握り心地を確認していると、スピーカーから再び先輩の声がした。やけに上機嫌である。

「ん?何がです?」

『新しい子がうちの隊に入ってくるって言う話!』

「あぁ、はい、聞きましたよ……先輩からね」

『あれ?そうだっけ?』

 賑やかな先輩の声を聞きながら、俺と先輩の二人だけだった班に、一人新人が入ってくるという報告に少し胸躍るのだった。
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