2 / 11
1話 真夜中の鬼ごっこ
しおりを挟む
3月27日
真夜中、二つの影が町中を駆けていた。
一つは頭部に三本の角を生やしていた。身の丈は二メートル程、でビリビリに破れた白装束を着ている。異形である。
それを追う者が一つ。黒いスーツを着た少年で、腰には銃が入ったホルスターを下げていた。俺である。
「くっそ……こっちバイク乗ってんのに、全然追いつけてない……。異形の基本性能イカれてるだろ!」
そう。俺は今、白いボディに青のラインが入った大型二輪にまたがり、走って逃げている前方の標的を追っていた。
時速は70キロオーバー。一向に縮まらないお互いの距離に、俺が半分苛立ちながら訴えると、ヘルメットの内側から声が聞こえる。
『異形の身体能力はすごいからねぇ、気持ちはわかるけど戦闘中に苛立ちは厳禁だよ、敬くん。……あ、そこ左に曲がって!』
「っと、了解!」
どこか柔らかい女性の声が、俺をなだめる。
それと同時、言われたとおりに、俺は左に曲がった。そしてそのまま『左』『右』『斜め右』と、女性のナビゲーションに頼っていると、いつの間にか正面から先程の異形が現れたのだ。
向こうもこっちに気が付いたらしく、方向転換して逃げようとするが、この距離ならば俺の射程内である。
すぐにホルスターからハンドガンを抜き、引き金を引いた。
銃声が鳴り響き、やや青みがある弾丸が標的の眉間を捉えていた。異形は振り返った状態でバタリと倒れ、絶命を証明するように体の先から異形が崩れていく。最終的に異形の体は黒い灰のような物になり、その原型はなくなった。
任務完了。
心なしか、その場の空気が軽くなったような気がする。近くにバイクを駐めて、俺はヘルメットを脱いだ。
「……ふぅ、先輩、目標鎮圧しました」
変に固まった自分の短めの髪を片手でワシャワシャとほぐしながら、任務完了の報告をする。
『うん、お疲れさま』
と耳につけた小型スピーカーから女性、もとい先輩の声が聞こえてくる。
少し疲れたので、そこにあった段差に腰をかけ、なんとなしに先程発砲した自分の銃を眺める。銃口の部分はまだ少し熱を持っているのがわかった。
さっきはバイクに乗りながらだったので、片手で発砲することになった。
なので、一回ちゃんと両手で銃を構えてみる。右手でしっかりとグリップを握り、それを包むように左手を添える。右腕をまっすぐ伸ばして標準を合わせた。
『……あ、敬君聞いた?』
グリップの握り心地を確認していると、スピーカーから再び先輩の声がした。やけに上機嫌である。
「ん?何がです?」
『新しい子がうちの隊に入ってくるって言う話!』
「あぁ、はい、聞きましたよ……先輩からね」
『あれ?そうだっけ?』
賑やかな先輩の声を聞きながら、俺と先輩の二人だけだった班に、一人新人が入ってくるという報告に少し胸躍るのだった。
真夜中、二つの影が町中を駆けていた。
一つは頭部に三本の角を生やしていた。身の丈は二メートル程、でビリビリに破れた白装束を着ている。異形である。
それを追う者が一つ。黒いスーツを着た少年で、腰には銃が入ったホルスターを下げていた。俺である。
「くっそ……こっちバイク乗ってんのに、全然追いつけてない……。異形の基本性能イカれてるだろ!」
そう。俺は今、白いボディに青のラインが入った大型二輪にまたがり、走って逃げている前方の標的を追っていた。
時速は70キロオーバー。一向に縮まらないお互いの距離に、俺が半分苛立ちながら訴えると、ヘルメットの内側から声が聞こえる。
『異形の身体能力はすごいからねぇ、気持ちはわかるけど戦闘中に苛立ちは厳禁だよ、敬くん。……あ、そこ左に曲がって!』
「っと、了解!」
どこか柔らかい女性の声が、俺をなだめる。
それと同時、言われたとおりに、俺は左に曲がった。そしてそのまま『左』『右』『斜め右』と、女性のナビゲーションに頼っていると、いつの間にか正面から先程の異形が現れたのだ。
向こうもこっちに気が付いたらしく、方向転換して逃げようとするが、この距離ならば俺の射程内である。
すぐにホルスターからハンドガンを抜き、引き金を引いた。
銃声が鳴り響き、やや青みがある弾丸が標的の眉間を捉えていた。異形は振り返った状態でバタリと倒れ、絶命を証明するように体の先から異形が崩れていく。最終的に異形の体は黒い灰のような物になり、その原型はなくなった。
任務完了。
心なしか、その場の空気が軽くなったような気がする。近くにバイクを駐めて、俺はヘルメットを脱いだ。
「……ふぅ、先輩、目標鎮圧しました」
変に固まった自分の短めの髪を片手でワシャワシャとほぐしながら、任務完了の報告をする。
『うん、お疲れさま』
と耳につけた小型スピーカーから女性、もとい先輩の声が聞こえてくる。
少し疲れたので、そこにあった段差に腰をかけ、なんとなしに先程発砲した自分の銃を眺める。銃口の部分はまだ少し熱を持っているのがわかった。
さっきはバイクに乗りながらだったので、片手で発砲することになった。
なので、一回ちゃんと両手で銃を構えてみる。右手でしっかりとグリップを握り、それを包むように左手を添える。右腕をまっすぐ伸ばして標準を合わせた。
『……あ、敬君聞いた?』
グリップの握り心地を確認していると、スピーカーから再び先輩の声がした。やけに上機嫌である。
「ん?何がです?」
『新しい子がうちの隊に入ってくるって言う話!』
「あぁ、はい、聞きましたよ……先輩からね」
『あれ?そうだっけ?』
賑やかな先輩の声を聞きながら、俺と先輩の二人だけだった班に、一人新人が入ってくるという報告に少し胸躍るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる