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4話 車両の中で…
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警報が鳴る5分前
この時間帯は電車を使う人達が少ない。
なので、電車の席はかなり空いており、座ろうと思えばすぐに座れる。
そんな中、彼女は吊革につかまり、立ったまま電車に揺られていた。
それはなぜか。
別に座ったところで何も問題はないはずなのに、彼女はどうしても座る気になれない。
電車が線路を走る音だけが響き渡る車内で、彼女は確かに緊張を感じていた。
訓練隊員から、やっと正隊員になれたのだ。
噛みしめるように、もう何度目かわからないが、携帯に届いた本部からの通達に目を通す。彼女は今日から配属される隊の番号を確認した。
“対異形組織 クリア 第17番隊”
話によるとその隊は、今まで、サポーターと戦闘員の二人だけでやって来たらしい。それを聞いて、少数精鋭でかっこいいとも思い、また、自分が入って足手まといにならないかな……という不安も憧れと同量出てくる。
しかし、彼女のこれから始まる新しい生活には、17番隊の立地が最も都合が良かった。
満を持して所属希望に17番隊を書いて提出したのは記憶に新しい。
そして現在、その隊の人間に会いに、彼女は電車に乗っている。
電車が止まり、ドアが開く。
たしか隊の基地までは、この次の駅で降りるはず。開いたドアから、ランドセルを背負った小学生の女の子が乗って来る。学校指定の制服を着て帽子を被っていた。
その小学生が入ると、ドアが閉まり、また電車が動き出す。
そう言えば、と彼女は思い出した。
今日の服装は特に指定されなかったので、今着ている服装は制服だ。新しい制服もあったけど、そっちは明日着ることにしようと考えていた。
どんな人達がいるのだろう。自分と同世代の人達らしいし、仲良くなれるかな。怖い人じゃないと良いな……。
そんな期待と一抹の不安を胸に、肩に掛けた鞄を掛け直す。
その時、
「きゃぁ、」
「な、なんだ!?」
「お、おいあれ!」
後方の車両の方が騒がしくなっている。何かあったのかな?と、彼女は車両間の通路にあるスライドドアに顔を近づけて、向こう側の車両の様子をのぞいた。
彼女の目に映った景色、それは、車両の中央で“黒い霧のような物が渦を巻いている”という何とも奇妙な状況だった。
「…………う、うそ」
それを見た瞬間、体中の汗腺が開いたような感覚に襲われた。先程の緊張とは全く違う種類の緊張が自分の中に生まれる。心臓の鼓動が早くなり、その音が鼓膜まで届き警報を鳴らす。
なぜなら彼女は知っているのだから。
彼女は訓練生時代、耳にたこができるくらい教官から聞かされていたのだ。
神出鬼没。
奴らが恐れられる理由の一つだ。何処に現れるか予測できれば、発生と同時に対処出来るけど、奴らは何処から発生するか全くわからない。
発生条件などは謎に包まれている。けど、必ず、ある物と共に現れる。
奴らと共に現れる物。……それは渦巻く黒い霧。
これは全ての奴らに共通することで、確認したのならすぐに周りの人達の避難を最優先しなければならない。
すぐにスライドドアを開けて、彼女はその車両に叫んだ。
「その黒い霧から離れてください!!はやく!!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。大声に気が付くと、その車両内にいる人間は、こっちの車両に駆け込んでくる人と、奥の後方車両に逃げる人の二手に分かれる。黒い渦が車両の中にあるという状況からいち早く離脱するためか、全員の行動が迅速だった。
結果すぐにその車両からは人がいなくなる。あるのは、怪しげにコゥゥと音を立てる黒い渦だけ。
しかし、人がいなくなった直後、それを合図にするかのよう霧が拡大していく。最初は1メートルくらいの大きさだった物が、つり革、そして天井に届いた。
直後、霧の中から何かが出てくる。
腕だった。かなり太い。筋肉がかなりついていて、こう言ったら変だけど、たくましい物だと彼女は思った。でも、人間のような肌が露出したようなものではなく、毛に覆われた動物のような物でもない。腕にはびっしりと、くすんだ緑色の鱗が張り付いていた。
指は四本、その先には包丁のように鋭利な爪が生えている。
その明らかに人間離れしている腕に彼女は息をのんだ。
「……何か……あったのかい?」
後ろから向こうの車両をのぞき込んでいた老人が様子を訪ねてきた。
そうだ。息をのんでいる場合じゃない。今、自分に出来ることをやらなきゃ、と自身を叱咤する。
「皆さん落ちついて、とにかくこの車両から距離をとってくだs」
ドシンッ、と私の言葉を遮るように、電車が揺れた。
「うおっ!」
「きゃあぁ!」
彼女は今の揺れの根源の方に向き直る。
先程の腕に続き、今度は脚が出てきていた。どうやら一歩踏み出した衝撃がこちらに揺れとなって伝わったらしい。その脚にも、びっしりと鎧になるように鱗が張り付いている。それを皮切りに霧が晴れ始めた。
徐々に、見たくもない現実が露わになっていく。腕や足だけではなかった。
2メートルより高い、その体全てが汚れたような緑色の鱗で覆われていた。顔は例えるならトカゲの様に鼻の部分が突き出ている。口は裂けるように大きい。そこからカッターナイフのような牙が見え隠れしていた。
スライドドア越しに現れた異形は、猫の様に細い眼を開けると、車両内を窮屈そうにしている。
「アァ、狭いナ」
「…………え?」
{次は五化駅―、五化駅―。}
……い、いま、しゃべった?
彼女は、目の前の異形がしゃべったという事実に、目的の駅に着いたと言う車掌さんの放送が至極どうでもいいように感じてしまった。
異形がしゃべるのは、それほどの事態である。
“知能持ち”。
電車が止まりドアが開くと同時、頭の中でその単語が浮かんだ。
「邪魔ダ、動きニくい。」
「……っ!!」
この時間帯は電車を使う人達が少ない。
なので、電車の席はかなり空いており、座ろうと思えばすぐに座れる。
そんな中、彼女は吊革につかまり、立ったまま電車に揺られていた。
それはなぜか。
別に座ったところで何も問題はないはずなのに、彼女はどうしても座る気になれない。
電車が線路を走る音だけが響き渡る車内で、彼女は確かに緊張を感じていた。
訓練隊員から、やっと正隊員になれたのだ。
噛みしめるように、もう何度目かわからないが、携帯に届いた本部からの通達に目を通す。彼女は今日から配属される隊の番号を確認した。
“対異形組織 クリア 第17番隊”
話によるとその隊は、今まで、サポーターと戦闘員の二人だけでやって来たらしい。それを聞いて、少数精鋭でかっこいいとも思い、また、自分が入って足手まといにならないかな……という不安も憧れと同量出てくる。
しかし、彼女のこれから始まる新しい生活には、17番隊の立地が最も都合が良かった。
満を持して所属希望に17番隊を書いて提出したのは記憶に新しい。
そして現在、その隊の人間に会いに、彼女は電車に乗っている。
電車が止まり、ドアが開く。
たしか隊の基地までは、この次の駅で降りるはず。開いたドアから、ランドセルを背負った小学生の女の子が乗って来る。学校指定の制服を着て帽子を被っていた。
その小学生が入ると、ドアが閉まり、また電車が動き出す。
そう言えば、と彼女は思い出した。
今日の服装は特に指定されなかったので、今着ている服装は制服だ。新しい制服もあったけど、そっちは明日着ることにしようと考えていた。
どんな人達がいるのだろう。自分と同世代の人達らしいし、仲良くなれるかな。怖い人じゃないと良いな……。
そんな期待と一抹の不安を胸に、肩に掛けた鞄を掛け直す。
その時、
「きゃぁ、」
「な、なんだ!?」
「お、おいあれ!」
後方の車両の方が騒がしくなっている。何かあったのかな?と、彼女は車両間の通路にあるスライドドアに顔を近づけて、向こう側の車両の様子をのぞいた。
彼女の目に映った景色、それは、車両の中央で“黒い霧のような物が渦を巻いている”という何とも奇妙な状況だった。
「…………う、うそ」
それを見た瞬間、体中の汗腺が開いたような感覚に襲われた。先程の緊張とは全く違う種類の緊張が自分の中に生まれる。心臓の鼓動が早くなり、その音が鼓膜まで届き警報を鳴らす。
なぜなら彼女は知っているのだから。
彼女は訓練生時代、耳にたこができるくらい教官から聞かされていたのだ。
神出鬼没。
奴らが恐れられる理由の一つだ。何処に現れるか予測できれば、発生と同時に対処出来るけど、奴らは何処から発生するか全くわからない。
発生条件などは謎に包まれている。けど、必ず、ある物と共に現れる。
奴らと共に現れる物。……それは渦巻く黒い霧。
これは全ての奴らに共通することで、確認したのならすぐに周りの人達の避難を最優先しなければならない。
すぐにスライドドアを開けて、彼女はその車両に叫んだ。
「その黒い霧から離れてください!!はやく!!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。大声に気が付くと、その車両内にいる人間は、こっちの車両に駆け込んでくる人と、奥の後方車両に逃げる人の二手に分かれる。黒い渦が車両の中にあるという状況からいち早く離脱するためか、全員の行動が迅速だった。
結果すぐにその車両からは人がいなくなる。あるのは、怪しげにコゥゥと音を立てる黒い渦だけ。
しかし、人がいなくなった直後、それを合図にするかのよう霧が拡大していく。最初は1メートルくらいの大きさだった物が、つり革、そして天井に届いた。
直後、霧の中から何かが出てくる。
腕だった。かなり太い。筋肉がかなりついていて、こう言ったら変だけど、たくましい物だと彼女は思った。でも、人間のような肌が露出したようなものではなく、毛に覆われた動物のような物でもない。腕にはびっしりと、くすんだ緑色の鱗が張り付いていた。
指は四本、その先には包丁のように鋭利な爪が生えている。
その明らかに人間離れしている腕に彼女は息をのんだ。
「……何か……あったのかい?」
後ろから向こうの車両をのぞき込んでいた老人が様子を訪ねてきた。
そうだ。息をのんでいる場合じゃない。今、自分に出来ることをやらなきゃ、と自身を叱咤する。
「皆さん落ちついて、とにかくこの車両から距離をとってくだs」
ドシンッ、と私の言葉を遮るように、電車が揺れた。
「うおっ!」
「きゃあぁ!」
彼女は今の揺れの根源の方に向き直る。
先程の腕に続き、今度は脚が出てきていた。どうやら一歩踏み出した衝撃がこちらに揺れとなって伝わったらしい。その脚にも、びっしりと鎧になるように鱗が張り付いている。それを皮切りに霧が晴れ始めた。
徐々に、見たくもない現実が露わになっていく。腕や足だけではなかった。
2メートルより高い、その体全てが汚れたような緑色の鱗で覆われていた。顔は例えるならトカゲの様に鼻の部分が突き出ている。口は裂けるように大きい。そこからカッターナイフのような牙が見え隠れしていた。
スライドドア越しに現れた異形は、猫の様に細い眼を開けると、車両内を窮屈そうにしている。
「アァ、狭いナ」
「…………え?」
{次は五化駅―、五化駅―。}
……い、いま、しゃべった?
彼女は、目の前の異形がしゃべったという事実に、目的の駅に着いたと言う車掌さんの放送が至極どうでもいいように感じてしまった。
異形がしゃべるのは、それほどの事態である。
“知能持ち”。
電車が止まりドアが開くと同時、頭の中でその単語が浮かんだ。
「邪魔ダ、動きニくい。」
「……っ!!」
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