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5話 vs知能持ち
しおりを挟む先輩のナビのおかげで、すぐに五化駅に着いた。
すぐに、バイクを駐め、ヘルメットを脱ぎ捨てて駅のホームに走った。駅に入ると駅員の異形発生の緊急アナウンスが耳に入る。
「駅のホームに異形が発生しました!!お客様はただちに駅から離れて避難してください!!」
駅から出ようと走って逃げる人達十数人ほどとすれ違い、俺だけ一方通行の道を逆走している気分だ。とにかく駅の改札に向かう。
改札付近では、駅員さんとすれ違った。俺に気が付き、ハッと振り返る。
「……君!今は……」
「わかってます。俺、こういうものなんで!駅員さんも早く避難を」
自己紹介する時間が惜しいので、スーツの胸ポケットから手帳を駅員さんに投げ渡した。後で返してもらわなければならなくなったが、背に腹はかえられない。
『敬君、2番ホーム』
「了解」
先輩に言われた通りに2番ホームの改札口を飛び越えて、階段を下っていく。ホームまで降りると、俺は腰に着けたホルスターから銃を抜き、銃のスライドの部分を引き、銃本体に弾を装填する。
横には電車が止まっていた。全車両のドアが開きっぱなしの状態になっている。
見たところ、ホーム内には異形はいない。だとしたら……。
ドォォォン。
突如、俺から2つほど離れた車両の一つが爆発した。咄嗟に腕で顔を覆う。その重低音だけで自分の心臓がはねたのがわかる。
『だ、大丈夫?』
「はい、とりあえずは」
衝撃で、電車の破片のような物が、四方八方に飛散しており、俺は腕の隙間から様子をうかがった。かなり大きな爆発で、黒煙と炎が混ざり合うように空へと上っており、隣の車両の窓も今の衝撃で割れて粉々になっている。
そんな、炎と黒煙が踊り狂う車両の中から、一つの影が姿を現した。
すぐに銃を向ける。
黒煙から出てきた一つの影。それはあまりにも人間とはかけ離れてた物だった。
身長2メートル30センチほど、体中まんべんなく覆われた鱗、トカゲのような顔に鋭利な爪と牙、ネコ科動物のように縦に長い鋭い目。ファンタジーゲームに出てくるリザードマンと言うキャラクターで、こんなのがいた気がする。
共通点を上げるとしたなら、二足歩行と、四肢があることくらいか。
「……先輩、目標を補足しました」
『了解、むこうから攻撃して来ない限りは、こちらも攻撃はしないで。まだ異形が出てそんなに時間がたってないから、今戦闘すると、まだ避難できてない人達をまきこみかねない!』
「了解です」
先輩の忠告を耳に残し、銃を握る手に力を込める。こちらからは動かない、だが、相手が攻撃のモーションを見せたら、被害拡大を防ぐために、すぐに目標の鎮圧にかかる。
そんな中、トカゲ人間がのっしのっしと煙が充満する車内から、ホーム内に出てくる。すると、のびをするように両手を広げた。
「ふゥぅ、外に出たラ動きヤすくなっタな」
「…………マジでか」
『……』
驚いた。
いや、別に相手が外に出て動きやすくなった事に驚いているわけではない。
俺が驚いたのは、今目の前にいる異形がしゃべったという事実。
「先輩、18番隊に要請お願いします。相手“知能持ち”です。多分俺一人じゃ厳しい」
『うん、聞こえてた。今やってる』
スピーカーのからは緊張感に満ちた先輩の声と、カタカタとタイピングの音が聞こえてくる。すると、突如先輩が声を張り上げた。
『うそっ!!敬君、電車の中から生体反応!!』
「!!」
俺は電車の中に眼をやる。……見えた!!二人いる。
異形の存在に気が付いて身を潜めていたのだろうか。体を小さくして、椅子の影に隠れている。
一人は女子高生。ここらでは見たことのない制服を着ている。そして、その女子高生がランドセルを背負った小学生の女の子を抱えていた。
しかし、なぜか二人のいる車両には、煙や炎が入っておらず、回りの窓ガラスが割れているだけという状況だった。あれだけの爆発なら、車両間のドアなんて吹き飛びそうだが……。
『敬君!!』
「うおっ!」
視線を電車に移していたら、異形ことトカゲ人間に距離を詰められていた。俺は、ほぼ反射でバックステップをとり、距離をとろうとするが、相手の爪リーチが長く回避が間に合わないと踏んだ。なので、
「くっしャぁア」
「……くぅッ」
奇声を上げながら突っ込んでくる相手の爪攻撃を、即座に腰から抜いたサバイバルナイフで受ける。若干青い色を光らせるナイフの刃と、異形の爪の間で火花が散り、ナイフでガードした俺の事などお構いなしと、力任せにそのまま吹っ飛ばした。
俺はそのまま受け身をとり、二回三回ほどコンクリートの上を転がりながら、すぐに立ち上がる。
気が付けば、先程降りてきた階段のところまで押し戻されていた。
「ヘェ。普通の獲物ナら輪切りにさレてルぞ。お前、普通ジャないナ」
異形が考え深そうに、こちらに話しかけてきた。
俺はできるだけ小声で話す。
「……気を引くために接近戦に切り替えます」
『了解、あの二人以外周りに生存反応はないよ。とにかく、そっちに攻撃が向かないように電車とは逆に回り込みながら戦うこと。』
俺は一瞬だけ視線を電車の方に向ける。
小学生の方は、恐怖で身を小さくしていたが、女子高生の方と目が合った。
「わかりました」
「おいおイ、独り言ジャなくて、俺と話してクれよ」
すぐに視線を戻して、対峙する異形に眼光を飛ばす。
「……異形なのに、結構流ちょうに話すんだな」
「そウか?それよりお前、獲物を知らナいか?あ、獲物って言うノは、お前ノ同類のこと
なンだが……俺今腹減ってるンだ」
"知能持ち"。
異形という存在は、ほとんど知能を持たない。こちらに姿を現したら、持ち前の人間離れした身体能力を用いて、近くにいる人間を襲うか食い散らかすか。また、目の前の敵の方が自分より強いと判断すると、逃走を図ろうとする。つい先日の異形が良い例だ。
そんな本能に任せている異形に、稀に知能を持つ個体がいる。それが“知能持ち”。
他の異形との簡単な見分け方は、しゃべる、ということである。一体何処で人間の言葉を覚えたのか。一説によれば、こちらに姿を現す際に、周りの霊的な物や、思想的な物が大きく奴らの言語能力に関わってくるらしい。
個体数は80体に一体はいるんだとか。嬉しくない情報だ。80分の1の確立で貧乏くじを引いたことになる。
「……ここらには人間がいないからな、他を当たることを進めるけど」
「あァ、……でもそれはお前を殺しても、遅クはなさそうダ。もとヨり、お前が俺を逃がそうとはしないダろ?」
「……よくわかってるな。さすが“知能持ち”」
俺は、先輩に締められたネクタイを掴み、適度に間隔が出来るくらいに緩めた。
左手のサバイバルナイフは逆手持ちで、右手のハンドガンの銃口はしっかりと相手に向ける。
「俺の役目は、お前をここに “釘付け”にすることだからな!精々時間稼いでやるよ!」
これで “伝わる”と良いんだけど……。
「……いイぜ、獲物を食う前の準備運動ダ!!」
異形はそう言うと、すぐにこちらに突っ込んで来たが、今度はしっかり反応する。相手がこちらに踏み込んでくるタイミングに似合わせて、俺はできるだけ前傾姿勢で前に出る。
異形は先端がアイスピックのように尖った爪をこっちに向けて、槍のように突き出してきた。今度はそれをナイフで受けはせず、直前で体をひねって躱す。
俺は、そのまま相手の左脇腹にナイフを滑り込ませる。そして、そのままの勢いで相手の後ろに抜けた。
すぐに振り返り、バックステップで下りながらハンドガンの引き金を間髪入れずに引く。計五発の銃声が駅のホームに響いた。薬莢が落ち、それを証明するように、異形の背中にはひびが入った五つの鱗が出来上がっている。
「……速ぇナ、……動きその物ジャなく、動きの切り替えガ。」
異形はこちらにゆっくり振り返ると、観察でもするかのごとく、じっくりと俺を睨みつけてきた。あのように言ってはいるが、とても賞賛している様には見えない。
(……ナイフの効きがイマイチだな)
先程、奴の左脇から後ろに抜けた時、ナイフであいつの脇腹の筋肉を削ぐつもりだった。が、堅かった。手応えでは鉄にナイフを当てたような感じ、と言えばわかりやすいだろうか。成果は鱗に一本の線が彫れた。ナイフが刃こぼれしてないか心配になったが、大丈夫そうだ。変わらず青い刃がそこにあった。
見たところ、この相手にはナイフより銃が有効になりそうだ。一発でひびが入るなら、何発も同じ場所に集中して撃ち込めばいい。
つまり、俺は適度な距離を保って戦う方が良いと言うことになる。
…………っていうことに、相手が気づいてくれれば良いんだが…………。
「なるホど、二つの武器のウち、右の飛び道具の方が威力ガ高い…………なら、使わせナいように距離を詰めればイい!!」
そう言うとまたすぐに、俺との距離を詰めようと前に出てきた。
よし。
内心そう思いながら、ナイフと銃の握る手、そして眼と脳に意識を集中させる。
出し惜しみはなしだ。
今、俺の思惑どおり、俺が不利な近距離戦闘が始まった。
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