銃とナイフとストレンジ

和谷ノア

文字の大きさ
7 / 11

6話 彼の言葉

しおりを挟む
 
 すぐそこで、異形と人が対峙している。
 そんな状況が車両内から見えた。
 すぐ側には、ランドセルを背負って震える女の子が、すすり泣く声を押し殺して、震えていた。ここで声を上げて泣いたらまずいってことを理解している賢い子だ。
 
 どうにか落ち着かせようと、女の子の頭を被っている帽子の上から優しく撫でることしか出来なかった。

 なんとかこの状況を打破しなければ……。このままじゃ、自分もこの子も見つかって終わりだ。

 自分の肩に掛けていた鞄の中から、長方形のケースを取り出す。ケースの蓋をパカッと開くと、中には五芒星が書かれた白い札が入っていた。

(……全部で7枚……戦闘になったら絶望的)

 手持ちの札の枚数に、心配を覚えていると、異形と対峙しているスーツ姿の男子と目が合ったような気がした。いや、一瞬だけど確かに合った。
 
 きっと彼はクリアの隊員だろう。

 彼が今自分たちの生命線とも言える一筋の光だからか、緊張感の中、彼女にはとても鮮明に写った。
 黒髪短髪、自分と同じくらいの年齢だろうか。ネクタイを緩めた彼はナイフと銃を両手に構えた。

 しかし、とても安心は出来ない。
 
 知能持ち相手に一人はさすがに無謀すぎる。知能持ちは他の異形とは違い、考える力、学習能力を持って生まれてくる。クリア隊員との戦いの中で学習する個体もいるらしい。
 
 そして、奴らは単純に強い。知能がない一般の異形に比べて、知能持ちの実力は一線を画す。

 普通、知能持ちと戦闘を行う場合は、最低でも10人ほどの隊員が必要になると、彼女は訓練生時代に教わった。
 もし、人数が足りないと思ったら、他の隊員がくるまで、避難誘導に努めるべきだと。

 そんな圧倒的に不利な状況の中、スーツの彼は異形と対話していた。
 
 その中、今までの対話より少しボリュームを上げて彼が言った言葉を私は聞き逃さなかった。

「俺の役目は、お前をここに “釘付け”にすることだからな!精々時間稼いでやるよ!」
 
 そこから早かった。異形と彼は双方ほぼ同時に地面を蹴ると、一瞬で彼がすり抜け、異形の後ろに回った。そして、五発の大きな破裂音が鳴る。

「……ぃッ!!」

 銃声に驚いて女の子が小さく悲鳴を上げそうになった。

「大丈夫、大丈夫だよ……落ち着いて……」

 女の子を優しく撫でながら、おびえを解き、外の様子をうかがうと、異形が何やら叫びながら、彼に襲いかかっていた。
 
 危ない!!

 そう心の中で叫んだが、彼女のそれは杞憂に終わる。

 異形の鋭い爪が彼の顔面を確実に捉えたように見えた。けど、彼は体をひねって躱す。次の右からの攻撃は、持っていたナイフで上手く敵の攻撃を反らしていた。

 それでも異形の攻撃は止まることはなく、何回も何回も彼に向けて、太い腕を振るけど、彼はそれを全て、躱し、捌き、反らし、流している。

 並の反射神経ではあんなこと出来るはずがない。

 しかし、彼の勇姿に驚いてはいたが、防戦一方になっていることに変わりはなく、じりじりと彼が後退し始めるのが見えた。

 このままではホームの端まで後退せざる終えなくなるので、完全にじり貧に思えた。


 何で彼は自分から攻撃しようとしないんだう……?
 
 そんな疑問が頭の中で過ぎったとき、さっきの彼の言葉を思い出した。

「………………!!」
 
 (私に言ってたんだ。)
 すぐに女の子に声をかける。

「……大丈夫?立てる?」

「……うん」

 静かに立ち上がり、女の子に手を貸すと、女の子は私の手をぎゅっと掴み、ゆっくりと立ち上がった。
 
 中腰になって、女の子とできるだけ目線を合わせるようにする。

「……今からここを出て、安全なところまで避難するの。異形に見つからないように、できるだけ速く歩くけど……できる?」

 女の子は溜めていた涙を袖で拭うと、コクンと頷いた。

「うん、えらい子だね。……大丈夫だよ、私が守るから」

 そのまま女の子の手を握り、ドアの近くに移動して外の様子がうかがう。さっきより、かなり異形との距離が出来ていた。

 彼の言葉。もし自分に言っているんだったら、 

【俺の役目は、お前をここに “釘付け”にすることだからな!精々時間稼いでやるよ!】

は、きっと

【俺がこいつを“釘付け”にして時間を稼ぐから、その内に……】

 ってことになる……と思う。確信は持てないし、解釈違いかも知れない。でも、現に今彼が異形を引きつけてくれていることは確かなんだ。

 彼女は女の子の手を引いて、電車を出た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...