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6話 彼の言葉
しおりを挟むすぐそこで、異形と人が対峙している。
そんな状況が車両内から見えた。
すぐ側には、ランドセルを背負って震える女の子が、すすり泣く声を押し殺して、震えていた。ここで声を上げて泣いたらまずいってことを理解している賢い子だ。
どうにか落ち着かせようと、女の子の頭を被っている帽子の上から優しく撫でることしか出来なかった。
なんとかこの状況を打破しなければ……。このままじゃ、自分もこの子も見つかって終わりだ。
自分の肩に掛けていた鞄の中から、長方形のケースを取り出す。ケースの蓋をパカッと開くと、中には五芒星が書かれた白い札が入っていた。
(……全部で7枚……戦闘になったら絶望的)
手持ちの札の枚数に、心配を覚えていると、異形と対峙しているスーツ姿の男子と目が合ったような気がした。いや、一瞬だけど確かに合った。
きっと彼はクリアの隊員だろう。
彼が今自分たちの生命線とも言える一筋の光だからか、緊張感の中、彼女にはとても鮮明に写った。
黒髪短髪、自分と同じくらいの年齢だろうか。ネクタイを緩めた彼はナイフと銃を両手に構えた。
しかし、とても安心は出来ない。
知能持ち相手に一人はさすがに無謀すぎる。知能持ちは他の異形とは違い、考える力、学習能力を持って生まれてくる。クリア隊員との戦いの中で学習する個体もいるらしい。
そして、奴らは単純に強い。知能がない一般の異形に比べて、知能持ちの実力は一線を画す。
普通、知能持ちと戦闘を行う場合は、最低でも10人ほどの隊員が必要になると、彼女は訓練生時代に教わった。
もし、人数が足りないと思ったら、他の隊員がくるまで、避難誘導に努めるべきだと。
そんな圧倒的に不利な状況の中、スーツの彼は異形と対話していた。
その中、今までの対話より少しボリュームを上げて彼が言った言葉を私は聞き逃さなかった。
「俺の役目は、お前をここに “釘付け”にすることだからな!精々時間稼いでやるよ!」
そこから早かった。異形と彼は双方ほぼ同時に地面を蹴ると、一瞬で彼がすり抜け、異形の後ろに回った。そして、五発の大きな破裂音が鳴る。
「……ぃッ!!」
銃声に驚いて女の子が小さく悲鳴を上げそうになった。
「大丈夫、大丈夫だよ……落ち着いて……」
女の子を優しく撫でながら、おびえを解き、外の様子をうかがうと、異形が何やら叫びながら、彼に襲いかかっていた。
危ない!!
そう心の中で叫んだが、彼女のそれは杞憂に終わる。
異形の鋭い爪が彼の顔面を確実に捉えたように見えた。けど、彼は体をひねって躱す。次の右からの攻撃は、持っていたナイフで上手く敵の攻撃を反らしていた。
それでも異形の攻撃は止まることはなく、何回も何回も彼に向けて、太い腕を振るけど、彼はそれを全て、躱し、捌き、反らし、流している。
並の反射神経ではあんなこと出来るはずがない。
しかし、彼の勇姿に驚いてはいたが、防戦一方になっていることに変わりはなく、じりじりと彼が後退し始めるのが見えた。
このままではホームの端まで後退せざる終えなくなるので、完全にじり貧に思えた。
何で彼は自分から攻撃しようとしないんだう……?
そんな疑問が頭の中で過ぎったとき、さっきの彼の言葉を思い出した。
「………………!!」
(私に言ってたんだ。)
すぐに女の子に声をかける。
「……大丈夫?立てる?」
「……うん」
静かに立ち上がり、女の子に手を貸すと、女の子は私の手をぎゅっと掴み、ゆっくりと立ち上がった。
中腰になって、女の子とできるだけ目線を合わせるようにする。
「……今からここを出て、安全なところまで避難するの。異形に見つからないように、できるだけ速く歩くけど……できる?」
女の子は溜めていた涙を袖で拭うと、コクンと頷いた。
「うん、えらい子だね。……大丈夫だよ、私が守るから」
そのまま女の子の手を握り、ドアの近くに移動して外の様子がうかがう。さっきより、かなり異形との距離が出来ていた。
彼の言葉。もし自分に言っているんだったら、
【俺の役目は、お前をここに “釘付け”にすることだからな!精々時間稼いでやるよ!】
は、きっと
【俺がこいつを“釘付け”にして時間を稼ぐから、その内に……】
ってことになる……と思う。確信は持てないし、解釈違いかも知れない。でも、現に今彼が異形を引きつけてくれていることは確かなんだ。
彼女は女の子の手を引いて、電車を出た。
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