銃とナイフとストレンジ

和谷ノア

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8話 新戦力

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「良いゾ、来い。さっキみたいニ躱されちゃやりにクいからナ!」
 
 異形はというと、待ってましたと言わんばかりに、大きな口の端をつり上げた。そして俺を捕まえようと、ハグするように腕を広げる。捕まったが最後、そのまま背骨を砕かれて終わりになりそうだ。
 
 それはさすがにごめんなので、相手の間合いの3歩手前で真横に飛ぶ。相手から見て左側。ここなら捕まえられないだろうし、もし踏み込んできたとしても届かない。何より相手からは俺が見えない
 
 俺はそのままハンドガンを異形に向けた。

「……!」

 引き金を引こうとした次の瞬間……なんと相手がこちらに背中を向けたのだ。
 俺はその時、後ろに向いた敵の顔がまだ笑っていることに気が付かなかった。

 その直後、俺の脇腹に強烈な鈍い痛みが走る。

「カハッ!」

 思わず体中の酸素を口から吐き出した。例えるなら金属バットのフルスイングを腹で食らった感じ。
 
 俺はそのままの勢いで、横っ飛びした方向と真逆の方向に吹っ飛ばされた。地面を転がり、ホームから線路に落ちそうになるが、ギリギリで止まる。吐き出した息を取り戻すように肺が激しく動く中、意地で立ち上がり、今の衝撃の正体に目を向けた。

「……尻尾だと?」

 それは先程まではなかった丸太のような尻尾が異形の腰の後ろから生えていた。先の近接戦闘では、そんなものは見られなかった。あれだけ近くにいたのだ。気が付かないわけがない。

「どうイうことダ……って言イたげだナ?」

 と嬉しそうに、こちらを見る異形は、……気づカないのモ無理ハない、と続けた。

「なンせ、さっキは体内に隠していたカらなぁ。能あル俺は尾を隠すンだよ!」
 
 つまりは、今まで全力じゃない状態で戦っていたということになる。嘗められてるってわけではなさそうだが、まんまと相手の作戦にはまったとなると、なかなか悔しい。

「初見殺しか……これだから知能持ちは……!」

 悪態をついていると、俺は自分の脇腹辺りがぬれていることに気が付いた。まさかと思い触って確認してみる。

(……水?)
 派手に出血でもしているのではないかと心配したが、付着していたのは水だった。

 新人の方に目を移すと、新人の手の中で一枚の札が粉々になっていくのが見えた。

『大丈夫!?』

「…………はい、新人隊員に助けられました」

 おそらく、俺が相手の尻尾に吹っ飛ばされる瞬間、俺と尻尾との間に水の塊を作り、水の抵抗によって、その威力を弱めたのだろう。

 あのままもろに食らっていたら、いくらクリアのスーツを着ている俺でも、肋骨折コースのはずだ。
 
 異形もそれに気が付いたらしく、濡れている自分の尻尾を不思議そうに眺めた後、新人の方に向き直った。

「なぁるホど、どおりでコいつガすぐに立ち上がレる訳ダ」

「水は発動が速いの。空気中の水蒸気を集めるだけで壁に出来るから」

 そう言うと、彼女はケースからもう一枚五芒星の札を取り出した。

「……雌の方ガ面倒くさそウだなァ……先に潰スか」
 
 異形は地面を思いっきり蹴ると、そのまま新人の目の前に来ると、爪を大きく振り上げる。それを見てすぐに俺も脚を動かした。対する新人は、さがりながら叫ぶ。

「水よ!!貫きたまえ!!」
 
 新人の前に、矛先を異形に向けた水の槍が発生する。

 爪か、水の槍か、どちらが先に相手に届くか。

 その時、発砲音が耳を刺した。
 いくら堅い鱗があると言っても、関節の節々には、動きを阻害しないように鱗が少ない。そのため隙間から肉体が見えている。

 俺が撃った二発の銃弾は狙ったとおり、相手の両膝の裏側に直撃し、体内にめり込んだ。同時に異形の顔がゆがみ、ふっと力が抜けたように両膝をつく。

 否。

 両膝が地面につきそうになる直前、水の槍が異形の鳩尾をとらえた。

「ごガっ……!」

 異形の体に衝撃が走った。あの装甲のような堅い鱗を持つ異形に、はじめて手応えのある攻撃が直撃する。水の槍は敵を貫通することはなかったものの、当たった部分の鱗をもれなく破壊し、周囲の鱗にもひびを入れる。

 しかし、異形の振りかぶった腕は一旦止まったものの、そのまま振り下ろされた。
 そこに、俺がもう一発弾丸をおみまいする。弾丸は振り下ろされる腕に当たり、新人に当たるはずの爪の軌道をずらし、新人の目の前を通過。結果空振りに終わった。

 俺は走ってきた勢いをそのまま乗せるように、ナイフを思いっきり異形の唯一の視界、右眼向けて振り抜く。が、俺の攻撃も空振りする。異形は尻尾で地面を叩き、後方へ緊急回避した。
お互いが元の位置に戻り、静寂が訪れる。

「……さっきはありがとうな。水でカバーされてなかったら、危なかった。」

 見くびっていたと言うのが本音だ。俺は隣にいる彼女のことを守る対象としか見ていなかったらしい。その彼女に守られた言う事実に、不甲斐なさと恥ずかしさを感じた。

「あ、いえ……私こそ今守ってもらったばっかりで……」

「俺が吹っ飛ばされなかったら君は狙われなかった……俺のミスだよ」

「……」

 新人が返事に戸惑う中、俺は腰からマガジンを取り出し、銃をリロードする。
 相手を見ると、なんとか立ち上がっていた。それでも両足にしっかりと力が入っているようには見えず、尾を支えにし、三点を軸に立っている。

「……ついさっき出会ったばかりで、コンビネーションとか出来るわけないと思ってた。でも、君はすごい人だから……たぶん出来る。少なくとも俺はそう思ってる。……頼っていいか?」

「……はいっ!」

 まっすぐこっちを見る彼女から、気持ちの良い返事が返ってきた。

『おっけい!それなら作戦は、さっきとは逆でいいかな?』

「はい、俺が援護で」

「私が決めます」
 
 真逆の方針。少なくとも一撃の破壊力なら俺のナイフや銃より、彼女の方がはるかに上だ。故にそちらの方が理にかなっている。

「いイぜ、早ク来いよ!てめエらは、ぜッてぇ潰ス!」

 向こうの方では憤慨する異形が、こちらを片目で睨みつけていた。

『敬君、行ける?』

「はい、問題ありません…………頼んだ」
 新人の方に向き直りながらそう言うと、彼女は無言で頷く。

 それを合図に俺はもう一回駆けだした。
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