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昼の王と夜の王、そして民の王 ~夜の王~
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夜。太陽が沈み暗闇が広がる。月は輝き星が瞬く。そこは静かな世界であった。綺麗で少し冷たい寂しい世界、そこで一人、静かな優しさを纏った者が月を眺めていた。
暗闇の世界で月の光を受けて淡く白く光っている宮殿。昼の世界ではその厳かで圧倒的なたたずまいから多くの者がその宮殿に入ることができなかった。多くの者は遠くから宮殿を眺め、太陽に焦がれるように宮殿の中の世界に焦がれそして己と比べ、誰に言われずとも踵を返すのだ。だが、少数の勇気ある者、又は無謀な者は宮殿の中の世界に自らもと足を踏み出す。そして昼の王に認められれば民の王に、認められなければその身を焦がして死んで行く。
しかし夜の宮殿は少し昼の宮殿とは様子が違う。同じ建物であるはずなのに他者が威圧感を感じるほどではなく、ふらっと入り込んでしまいそうなほど魅惑的であった。
そんな夜の宮殿の中、月に照らされた豪華なソファーの上で寛ぎ、ぼーっと月を見上げる者がいた。その者は、ゆったりとした質の良い深い藍色の羽織を着た男であった。羽織には銀をベースに銀糸と金糸で刺繍が入っていた。大抵の者ならば釣り合わないだろう立派な服も、その男にはおとなしく着られている。男が羽織っている服の刺繍は月明かりでキラキラと反射していた。その日の月は満月であった。
カタッ
っと音がして扉が開かれる。扉は綺麗な彫刻がされた木製のものだ。そこから何者かがその男がいる部屋に入ってきた。何者かはどこにでもいそうな平凡な男であった。
平凡な男は、月明かりに照らされた宮殿につられて入ってきてしまったのだろう。この世界で夜に出歩くものはほとんどいないがたまにこうして生き物が迷いこむ。
藍色の羽織を着た男が平凡な男に視線を向ける。姿勢はほとんど変わらず彼が動かしたのはほとんど目だけであった。
男が見た彼は美しかった。色白の肌に艶やかな黒髪。長い睫毛が守る瞳は深い藍色で夜内包しているように思えた。微笑むことも眉をひそめることもせず気だるげな表情であった。
だが何故であろうか、男はここに居ることを彼に許されたと感じた。
彼の瞳の奥には夜があった。彼が瞬けば星がちり、その視線はまるで月のように男を見下ろした。月からすれば人など等しく皆同じ。恐らく彼にとっては忠誠を誓う臣下や彼を称える民達と犯罪者とて等しく人なのであろう。そして人と動物、虫であっても等しく命ある者なのであろう。
彼は夜の王。
全てを等しく照らす夜の預かり人なのである。
暗闇の世界で月の光を受けて淡く白く光っている宮殿。昼の世界ではその厳かで圧倒的なたたずまいから多くの者がその宮殿に入ることができなかった。多くの者は遠くから宮殿を眺め、太陽に焦がれるように宮殿の中の世界に焦がれそして己と比べ、誰に言われずとも踵を返すのだ。だが、少数の勇気ある者、又は無謀な者は宮殿の中の世界に自らもと足を踏み出す。そして昼の王に認められれば民の王に、認められなければその身を焦がして死んで行く。
しかし夜の宮殿は少し昼の宮殿とは様子が違う。同じ建物であるはずなのに他者が威圧感を感じるほどではなく、ふらっと入り込んでしまいそうなほど魅惑的であった。
そんな夜の宮殿の中、月に照らされた豪華なソファーの上で寛ぎ、ぼーっと月を見上げる者がいた。その者は、ゆったりとした質の良い深い藍色の羽織を着た男であった。羽織には銀をベースに銀糸と金糸で刺繍が入っていた。大抵の者ならば釣り合わないだろう立派な服も、その男にはおとなしく着られている。男が羽織っている服の刺繍は月明かりでキラキラと反射していた。その日の月は満月であった。
カタッ
っと音がして扉が開かれる。扉は綺麗な彫刻がされた木製のものだ。そこから何者かがその男がいる部屋に入ってきた。何者かはどこにでもいそうな平凡な男であった。
平凡な男は、月明かりに照らされた宮殿につられて入ってきてしまったのだろう。この世界で夜に出歩くものはほとんどいないがたまにこうして生き物が迷いこむ。
藍色の羽織を着た男が平凡な男に視線を向ける。姿勢はほとんど変わらず彼が動かしたのはほとんど目だけであった。
男が見た彼は美しかった。色白の肌に艶やかな黒髪。長い睫毛が守る瞳は深い藍色で夜内包しているように思えた。微笑むことも眉をひそめることもせず気だるげな表情であった。
だが何故であろうか、男はここに居ることを彼に許されたと感じた。
彼の瞳の奥には夜があった。彼が瞬けば星がちり、その視線はまるで月のように男を見下ろした。月からすれば人など等しく皆同じ。恐らく彼にとっては忠誠を誓う臣下や彼を称える民達と犯罪者とて等しく人なのであろう。そして人と動物、虫であっても等しく命ある者なのであろう。
彼は夜の王。
全てを等しく照らす夜の預かり人なのである。
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