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1stSEASON
絆
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(1)
「空、おはよう」
「おはよう、翼」
翼に起こされると僕は着替える。
着替えて鞄を手にダイニングに向かう。
朝食を食べると支度をして。リビングで翼たちの準備を待つ。
冬吾と冬莉も生後3か月が経ち表情豊かになってきた。
母さんが家事をしている間父さんと僕とで遊んでやる。
天音も混ざって冬吾達の取り合いになる。
父さんは赤ちゃんの抱っこに慣れてないらしい。
5人目だというのに未だぎこちない。
僕達の時はどうだったんだろうか?
「生きた心地がしなかった」
父さんの感想だったという。
翼が仕度を終えて来る頃水奈が来る。
冬吾と冬莉を父さんとお婆さんに預けて僕達は玄関に行く。
「いってきま~す」
天音の声と共に僕たちは学校に向かう。
天音と水奈は話をしながら先を行く。
僕達は後ろをついて行く。
学校に着くと昇降口で天音と水奈と別れ教室に向かう。
教室に戻ると友達が待ている。
光太、僕、翼、美希、酒井君、麗華、学さんがSH5年生のメンバー。
1年の間にずいぶん増えたものだ。
最近はFGの連中も手出ししてこなくなった。
高槻先生が来ると、朝礼が始まる。
そして授業になるのだが、最近は授業の中味が変わってきた。
この時期になると教科書の内容も粗方終わり適当に解説するだけになる。
その分無駄にテストが増えるけど。
そして卒業式の練習が始まる。
卒業生を送る歌を練習したリ、コールを練習したり本番さながらの練習を繰り返す。
終礼が終ると今日は翼に「僕は学達と寄るところがあるから」と言う。
「どうしたの?」
翼が聞いてくる。
「ごめん、ちょっと言えない」
しかしお構いなしに翼は僕の心を覗いてくる。
そしてくすりと笑う。
「分かった。遅くならないようにね」
あまり高いものはいらないよ。
そう翼は心に語りかけてくる。
今日は男子はホワイトデーのお返しの買い物に行くことになっていた。
ショッピングモールに行く。
ホワイトデーのコーナーが設けられている。
適当に物色していく。
ハンカチが良さそうだ。
翼の好みは大体わかる。
ハンカチを買った。
皆もそれぞれ買ったみたいだ。
帰りにコーヒーショップに寄った。
「女子はいいよな。チョコレートって決まってるんだから。お返しは大変だぜ」
光太が言う。
悩むってことはそれだけ相手の事を考えてる証拠なんだろう。
「空は一つだけしか買ってなかったが大丈夫なのか?沢山もらってたろ?」
学が聞いてきた。
「うん、お返しできない人もいるし。それなら本命だけでいいやって思って」
僕が言うと「なるほど」って皆納得していた。
その後家に帰ると翼が部屋に入ってきた。
「どこ行ってきたの?」
「ショッピングモール」
「何買ったの?」
「……当日までのお楽しみ」
「ってことはやっぱりお返し買って来たんだ」
嵌められた。
「そんなに大したもの買ってないよ?」
「荷物の量からして本当に私だけに買って来たみたいだね」
「うん」
「……もうすぐ夕食だって」
「わかった」
そう言うと翼は部屋を出る。
それ自体が僕の翼への気持ちのお返し。
その日が来るまでそっと机の引き出しにしまっておく。
そのあと夕食までゲームをしている。
夕食を食べて、3人でお風呂に入って僕の部屋で遊んでそして寝る。
あの日から増えていく僕の気持ち。
2人で歩いたら、翼の歩幅がやけに小さすぎて、置き去りにしないように、初めてその手に触れて下を向いたら、2人の影が並んでいた。
翼に逢うためこの瞬間に生まれた僕らならば、日々も歩んでいけるだろう。
少し真面目に書いたラブレターも一緒に渡そう。何年先も一緒にいようって。
あれからずっと優しい気持ちで溢れた僕と翼だから人生も楽しんでいけるだろう。
こんな言葉笑われるかな君へのラブレター。
僕のこれまでとこれからは君との幸せ。
世界に1人のあなたへ。
世界で1番素敵な明日を。
手をつなぎいくつもの日々を重ね想いを語る。そんな風に翼といられたら。
ありったけの気持ちを伝えきれなくて「大好き」から書けないまま、終わらないラブレター。
(2)
「お前には関係ないだろ引っ込んでろ!」
「嫌がってる奴をしつこく勧誘するなんてどこのねずみ講だ!?」
花山鈴が黒頭巾の連中とやりあってる。
どうやらFGにしつこく勧誘しているのを鈴が見つけて絡んだらしい。
ちょうど退屈しのぎはないかと考えていたところだ。
「とりあえず、あれ止めた方がいいんじゃね?」
遊が言う。
やれやれ。
私は席を立つと黒頭巾の連中に近づいた。
「な、なんだ?お前らには関係ないぞ?」
連中は言った。
「お前ら殺すのに一々理由がいるのか?」
鬱陶しいから殺す。
そういう意味を込めて言った。
「私は、休憩時間と言う貴重な時間を割いてここに来た。これ以上面倒な真似させるな」
連中は何も言わずに解散した。
桜子が来た。
授業が始まると私は寝る。
授業が終わると給食の時間。
SHのメンバーが集まって給食を食っていた。
「で、水奈達は何か策あるの?FG揶揄う方法」
私は質問した。
「うーん、ただ袋にするだけじゃ面白くねーよな」
水奈たちも悩んでいる。
人助けなんて面倒な真似もしたくない。
「FGっていえば川島君が水島先生に告ったって聞いた」
鈴が言う。
その話は聞いていた。
「それって喜一の仕掛けたどっきりだったんだろ?」
遊が言う。
「山本君はそのつもりだったらしいんだけど川島君は本気だったみたいだよ」
「なんでそう言い切れるんだ?」
私が鈴に聞いていた。
「だって日頃の川島君見てたら普通そう思わない?」
鈴が言う。
つまり鈴は川島の事をずっと見ていたわけだ。
パパ達が作ったグループ・渡辺班は縁結びの神様だと言われていたらしいな。
ちょっとは楽しめるか?
「おい、蓮太!ちょっと来いよ!」
私は川島を呼び出した。
川島はすぐに来る。
その動向をFGの連中は見てた。
「何の用だ?片桐」
「お前今日放課後教室に残れ。命令だ」
「なんでだよ?」
「うだうだ言わずに残れ」
それ以上の反論は許さなかった。
「わかったよ」
川島はそう言うと席に戻る。
その川島にFGの連中が群がってる。
大方脅してるんだろう。
「天音、お前まさか川島の事……」
粋が何か言おうとしてた。
「んなわけねーだろ!こう見えて大地の事大切にしてるつもりだぞ」
「じゃあなんで川島を呼び出したんだ?」
粋が言うと私は鈴を見てにやりと笑った。
「鈴が蓮太と話しがしたいそうだから」
私が言うと鈴が驚いていた。
「わ、私そんな事一言も……」
鈴は動揺している。
「別に付き合えって言ってるわけじゃない。ただ言いたい事はちゃんと言った方がいい。思ったら吉日だ」
私は鈴にそう言う。
「……わかった」
「じゃ、決まりだ。今日の放課後な」
放課後になると普段は教室にはそんなに人は残っていないに今日はやけに多かった。
SHのメンバーとFGのメンバーが残っているのだから。
二組のメンバーが見守る中話は行われた。
「川島君、水島先生の事諦めた方がいいよ」
鈴が言う。
「べ、べつにあんなおばさん趣味じゃねーし!話ってその事?」
川島が言う。
だけど鈴は続ける。
「そうやってずっと自分の気持ち誤魔化し続けるの?それって楽だと思ってるかもしれないけど、ずっと辛い思いを続けてるんだよ」
「だからどうしてそうなるんだよ?」
「どうしてもこうしても見てたらわかるじゃん!」
「お前の勘違いだって。そんな話なら俺は帰るぜ」
そう言って帰ろうとする川島の手を掴んだ。
「何の真似だ?片桐」
「人の色恋沙汰にとやかく言うつもりはねーが、鈴の話はまだ済んでない。逃げるな!」
「まだ話あるのかよ。水島の事ならさっき言った通り別に何とも思ってねーよ」
「そんな事言ったら水島先生可哀そうだよ!」
鈴が叫んだ。
「水島先生だって大人だよ。川島君の本音くらい気づいてる!川島君はそんな風に誤魔化してるから気づいてないかもしれないけど、水島先生川島君のいたずらに対する対応が変わったよ。凄く優しくなってる」
それはまるで自分の子供をかわいがるように。傷ついた羽を癒して再び飛び立つのを見守る様に。
鈴がそう言った。
「……どうしようもないだろ?好きなんだから。歳の差。生徒と先生の身分差。何より旦那さんがいる。そのくらい分かってる。だけどどうしようもないんだよ!」
川島が言った。
「何?お前本気で好きだったわけ?水島の事」
黒頭巾の男が言うとFGのメンバーは笑い出した。
「何マジになってんの?馬鹿じゃねーのお前」
喜一が言うと粋が椅子を蹴飛ばす。
「マジになって何が悪いの?そうやって茶化す事しか出来ないやつの方が余程ダサいと思うんだけど?」
粋が言うとFG全員が黙り込む。
「蓮太。お前告ったの本気だったんだな?」
私が川島に聞いていた。
川島はうなずく。
「で、桜子はなんて言ったんだ?」
「……気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう。頑張ったねって」
「でも先生結婚してるし、その気持ちを受け入れることは出来ない。ごめんなさいね」と断られたらしい。
なんだ、桜子はちゃんと返事してるじゃねーか。
「お前それで悪戯続けてるのか?」
「そうだけど」
「……蓮太、やっぱりお前が逃げてるだけじゃないか」
「どうしようもないだろ、諦めきれないんだから」
「誰も好きだった気持ちを捨てろって言ってるわけじゃねーよ。ただ自分の気持ちにケジメつけたんだったらいい加減独り立ちしろ!今のお前は桜子に甘えてるだけだ!」
「どうしろって言うんだよ?」
「うちの愛莉が言ってた『親は子供が巣立つのを見守るだけだ』って一人で生きていけるって確認するまで見守るんだって」
「言ってる意味がわからねーよ」
「もう川島君に水島先生は必要ない。自分ひとりでやっていけるって水島先生に伝えなきゃ!」
鈴が言った。
「出来ないからこうしてるんだろ!」
すると鈴が川島の手を握る。
「私達はまだ子供。1人立ちなんて無理。でも二人ならなんとか行ける気がする」
「どういう意味だ」
「川島君が勇気を出したから私も勇気を出す。私は川島蓮太君が好きです。ずっと見てました。一途なあなたを見てたら恋に落ちてました」
鈴が告白すると大声で笑うFGのメンバーたち。
「なんだよ結局花山が川島が好きだから私と付き合ってってだけじゃねーか。マジで草生えるわ」
私は喜一の胸ぐらを掴み持ち上げる。
「いい加減黙っててくんねーかな?クソガキ!」
すると川島が言った。
「……ごめん。今は無理。自分の気持ちに整理つかないまま付き合うのはよくない事だと言う事くらい俺にもわかる」
「……うん」
「でも、ありがとう。歩き出せる気がする。その時が来たら俺から鈴に伝えるよ」
「わかった」
話はついたようだ。
「川島分かってるのか!?そいつはSHのメンバーだ!そいつと付き合うって事は……」
「喜一こそ自分の立場わかってるのか?」
「お前らから粉かけて来てんじゃねーか!?」
「そうだよ、悪いか?私達から手を出さないとは一言も言ってない。ムカついたらぶん殴る。文句があるなら今相手してやるぞ」
「天音、それは面白い考えだな。最近こいつらがちょろちょろ鬱陶しくてムカついてたんだよ」
「今日からお前らは私達の標的だ!塵になるまで相手してやるぞ!」
祈と遊が言う。
喜一は川島を連れて去って行った。
「じゃ、私達も帰ろうぜ鈴」
私は鈴の肩を叩く。
「うん」
鈴の頬には涙が伝っていたが晴れ晴れとした爽やかな笑顔だった。
そこには何の迷いもなかった。
(3)
「今日ちょっと愛莉の家に行ってもいいかな?愛莉は出かけられないだろうし」
恵美からのメッセージだ。
どうしたんだろう?
「いいよ」
そう返信すると30分ほどしてから恵美が家に尋ねてきた。
「忙しい所ごめんなさいね」
「大丈夫。今は2人とも寝てるし、麻耶さんたちが見てくれるから」
私は恵美をリビングに案内して紅茶をだした。
「子供5人は流石に大変でしょう」
「翼たちはもうそんなに手がかからないから……」
手がかかるのは天音だけだ。
「その翼の事なんだけど、翼から何か話を聞いてない?」
「え?」
私の反応を見て恵美はため息を吐いた。
「その様子だとやっぱり話してないのね」
「翼がどうかしたの?」
「実は去年のクリスマスパーティの時なんだけど……」
そう言って恵美は話を切り出した。
恵美の従姉の林田英恵が翼を気に入ったらしい。
林田さんのファッションブランドの専属モデルに抜擢したい。
その話はもちろんすぐに翼に話した。
だけど翼は「親と相談するから待って欲しい」と言った。
私は初耳だった。
「その気になったらって言ったんだけど、やっぱり英恵も焦ってるみたいで」
他のファッションブランドにスカウトされるかもしれない。
もちろん、キッズのブランドだけじゃなくてゆくゆくはレディースの担当になってもらうつもりらしい。
翼の身長ならまず問題ないと恵美は話す。
仲介役はもちろん恵美の会社USEがするらしい。
しかし翼が躊躇う理由は恐らく空だろう。
空と一緒にいられる時間が少なくなるのを恐れているのだろう。
冬夜さんが私と一緒にいられる時間が無くなるのを嫌がってバスケを引退したように。
「空との話も美希から聞いてる。だけどスケジュール調整は私たちがしっかりする。学業に差し支えないようにするし、オフの時間もちゃんと確保する」
USEはタレントを大事に扱う事務所。
その辺は心配しなくてもいい。
あとは翼の気持ち。
「分かった。今晩、翼に話をしてみる」
「そうしてくれると助かるわ。前向きに検討してもらえるとありがたい」
「説得はしてみるけど、期待はしないで。頑固なのは冬夜さん譲りだから」
「わかってる」
そう言って恵美は帰っていった。
私は冬夜さんが帰ってくるとその事を相談した。
「どうもこうもまず翼の意思確認が大事じゃないのか?」
冬夜さんはそう言う。
その晩お風呂を済ませると翼をリビングに呼び出した。
恵美から聞いた話を翼に話す。
「どうして今まで黙っていたの?」
私はなるだけやさしく翼に聞いてみた。
「……ごめんなさい。自分でもまだどうしたらいいか分からなくて」
「空と離れるのが嫌なの?それなら恵美に任せておけばちゃんと時間を作ってくれるから……」
それにそんなに容易く切れる絆じゃないでしょ?
だけど冬夜さんは違う事を考えていたようだ。
翼の心を覗いたのだろうか?
「本当に結論が出てないの?」
冬夜さんはにこりと笑ってそう言った。
冬夜さんの意外な反応に驚いている翼。
「翼、本当はもう答えをだしているんじゃないの?父さん達が出来るのはその背中を押してやる事だけだ」
「パパ……」
「翼が思うようにやってみなさい。空だってきっと分かってくれるよ」
「……うん。分かった。私、この話受ける事にする」
意外だった。
空と離れるのが怖くないのだろうか?
「じゃあ、愛莉。明日恵美さんにそう返事してあげて」
「それは良いんですけど、本当にいいの?翼」
「私も私なりに将来の事考えているつもり」
こんなチャンス逃す手はない。
翼はそう言った。
「じゃあ、夜遅くにごめんね。もう部屋で休んでなさい」
冬夜さんがそう言うと翼は2階に上がっていった。
「翼は空と離れても平気だと思ってるのですか?」
私は冬夜さんに聞いていた。
「そうじゃないよ、翼なりに自分の気持ちに決着をつける方法を考えていただけだよ」
決着?
それは翼にとって重大な決断だったと後で知る。
(4)
私はとんでも無い事を聞いてしまったのかもしれない。
翼がモデル!?
そんな話が飛び込んでいたのか?
パパの話からして翼はこの話を受けるつもりらしい。
じゃあ、空はどうするんだよ!?
パパたちの話が終って翼がソファから立ち上がると慌てて部屋に戻る。
そして翼が部屋に戻ってくると、私は翼に聞いていた。
「モデルの話ってまじか!?」
「……やっぱり盗み聞きしてたんだね」
そう言って翼は笑みをこぼす。
それから翼の口から愛莉が言ってた事を繰り返し説明された。
翼は芸能界とかそういうのに興味あったのか?
そんなの一度も……。
「やめとけって!翼はパパの会社継ぐんだろ!?空と一緒に継ぐんだろ!」
そんな中途半端な気持ちじゃモデルも続かねーぞ!
「天音の言う通りだよ。中途半端な気持ちじゃモデルなんてやっていけない事くらい分かってる」
「だったら……」
「だから私自身の問題。私なりに自分の気持ちを整理する。それと……」
それと……?
「空の今後も考えてあげないといけない」
「……空と一緒にはいないってことか?」
「中途半端な気持ちじゃ出来ないでしょ?」
そんな事を考えていたのか。
「だったらどうして今まで黙ってたんだ!?相談くらいしてくれてもいいじゃないか?」
「空のことを考えていたら、もう少し時間が必要だと思ったから。ちゃんと準備が出来たら話すつもりだった」
結果、言うのが遅れただけだと翼は話す。
「翼の考えてる将来って何だよ?」
空を見捨ててまでもしたいことなのか?
「チャンスがあったら飛び出せ!パパが言ってた事。私なりに自分の可能性を信じてみたい」
「可能性?」
「モデルの話が舞い込んでた時から考えていたことがあるの」
そして翼は自分の夢を語ってくれた。
翼は小学生にしてそんな先の事まで考えていたのか。
私は諦めた。
翼の覚悟は本気だ。
翼もパパの娘。
一度決めたら容易く曲げたりしない。
「天音、この話空には黙っててくれないかな?」
「なんで?」
「空が1人でも泣かないように準備が出来るまでは秘密にしておきたい」
「私が黙ってても美希や愛莉が言うかもしれないぞ?」
「そんなに時間をかけるつもりはない。美希の母さんにはお願いしてる。愛莉やパパも多分言わない」
翼の気持ちは多分パパが一番理解してるから。
「……わかった」
「こんな事なら最初に天音に空を譲っておけばよかったね」
「馬鹿言うな」
「ごめん」
「2人ともいい加減に寝なさい」
愛莉の声が部屋の外から聞こえてきた。
私たちはベッドに入って寝る。
だけど、翼の事ばかり考えて眠れなかった。
翼は空に最後に何をプレゼントするつもりなんだろう?
それだけはいくら考えても分からなかった。
「空、おはよう」
「おはよう、翼」
翼に起こされると僕は着替える。
着替えて鞄を手にダイニングに向かう。
朝食を食べると支度をして。リビングで翼たちの準備を待つ。
冬吾と冬莉も生後3か月が経ち表情豊かになってきた。
母さんが家事をしている間父さんと僕とで遊んでやる。
天音も混ざって冬吾達の取り合いになる。
父さんは赤ちゃんの抱っこに慣れてないらしい。
5人目だというのに未だぎこちない。
僕達の時はどうだったんだろうか?
「生きた心地がしなかった」
父さんの感想だったという。
翼が仕度を終えて来る頃水奈が来る。
冬吾と冬莉を父さんとお婆さんに預けて僕達は玄関に行く。
「いってきま~す」
天音の声と共に僕たちは学校に向かう。
天音と水奈は話をしながら先を行く。
僕達は後ろをついて行く。
学校に着くと昇降口で天音と水奈と別れ教室に向かう。
教室に戻ると友達が待ている。
光太、僕、翼、美希、酒井君、麗華、学さんがSH5年生のメンバー。
1年の間にずいぶん増えたものだ。
最近はFGの連中も手出ししてこなくなった。
高槻先生が来ると、朝礼が始まる。
そして授業になるのだが、最近は授業の中味が変わってきた。
この時期になると教科書の内容も粗方終わり適当に解説するだけになる。
その分無駄にテストが増えるけど。
そして卒業式の練習が始まる。
卒業生を送る歌を練習したリ、コールを練習したり本番さながらの練習を繰り返す。
終礼が終ると今日は翼に「僕は学達と寄るところがあるから」と言う。
「どうしたの?」
翼が聞いてくる。
「ごめん、ちょっと言えない」
しかしお構いなしに翼は僕の心を覗いてくる。
そしてくすりと笑う。
「分かった。遅くならないようにね」
あまり高いものはいらないよ。
そう翼は心に語りかけてくる。
今日は男子はホワイトデーのお返しの買い物に行くことになっていた。
ショッピングモールに行く。
ホワイトデーのコーナーが設けられている。
適当に物色していく。
ハンカチが良さそうだ。
翼の好みは大体わかる。
ハンカチを買った。
皆もそれぞれ買ったみたいだ。
帰りにコーヒーショップに寄った。
「女子はいいよな。チョコレートって決まってるんだから。お返しは大変だぜ」
光太が言う。
悩むってことはそれだけ相手の事を考えてる証拠なんだろう。
「空は一つだけしか買ってなかったが大丈夫なのか?沢山もらってたろ?」
学が聞いてきた。
「うん、お返しできない人もいるし。それなら本命だけでいいやって思って」
僕が言うと「なるほど」って皆納得していた。
その後家に帰ると翼が部屋に入ってきた。
「どこ行ってきたの?」
「ショッピングモール」
「何買ったの?」
「……当日までのお楽しみ」
「ってことはやっぱりお返し買って来たんだ」
嵌められた。
「そんなに大したもの買ってないよ?」
「荷物の量からして本当に私だけに買って来たみたいだね」
「うん」
「……もうすぐ夕食だって」
「わかった」
そう言うと翼は部屋を出る。
それ自体が僕の翼への気持ちのお返し。
その日が来るまでそっと机の引き出しにしまっておく。
そのあと夕食までゲームをしている。
夕食を食べて、3人でお風呂に入って僕の部屋で遊んでそして寝る。
あの日から増えていく僕の気持ち。
2人で歩いたら、翼の歩幅がやけに小さすぎて、置き去りにしないように、初めてその手に触れて下を向いたら、2人の影が並んでいた。
翼に逢うためこの瞬間に生まれた僕らならば、日々も歩んでいけるだろう。
少し真面目に書いたラブレターも一緒に渡そう。何年先も一緒にいようって。
あれからずっと優しい気持ちで溢れた僕と翼だから人生も楽しんでいけるだろう。
こんな言葉笑われるかな君へのラブレター。
僕のこれまでとこれからは君との幸せ。
世界に1人のあなたへ。
世界で1番素敵な明日を。
手をつなぎいくつもの日々を重ね想いを語る。そんな風に翼といられたら。
ありったけの気持ちを伝えきれなくて「大好き」から書けないまま、終わらないラブレター。
(2)
「お前には関係ないだろ引っ込んでろ!」
「嫌がってる奴をしつこく勧誘するなんてどこのねずみ講だ!?」
花山鈴が黒頭巾の連中とやりあってる。
どうやらFGにしつこく勧誘しているのを鈴が見つけて絡んだらしい。
ちょうど退屈しのぎはないかと考えていたところだ。
「とりあえず、あれ止めた方がいいんじゃね?」
遊が言う。
やれやれ。
私は席を立つと黒頭巾の連中に近づいた。
「な、なんだ?お前らには関係ないぞ?」
連中は言った。
「お前ら殺すのに一々理由がいるのか?」
鬱陶しいから殺す。
そういう意味を込めて言った。
「私は、休憩時間と言う貴重な時間を割いてここに来た。これ以上面倒な真似させるな」
連中は何も言わずに解散した。
桜子が来た。
授業が始まると私は寝る。
授業が終わると給食の時間。
SHのメンバーが集まって給食を食っていた。
「で、水奈達は何か策あるの?FG揶揄う方法」
私は質問した。
「うーん、ただ袋にするだけじゃ面白くねーよな」
水奈たちも悩んでいる。
人助けなんて面倒な真似もしたくない。
「FGっていえば川島君が水島先生に告ったって聞いた」
鈴が言う。
その話は聞いていた。
「それって喜一の仕掛けたどっきりだったんだろ?」
遊が言う。
「山本君はそのつもりだったらしいんだけど川島君は本気だったみたいだよ」
「なんでそう言い切れるんだ?」
私が鈴に聞いていた。
「だって日頃の川島君見てたら普通そう思わない?」
鈴が言う。
つまり鈴は川島の事をずっと見ていたわけだ。
パパ達が作ったグループ・渡辺班は縁結びの神様だと言われていたらしいな。
ちょっとは楽しめるか?
「おい、蓮太!ちょっと来いよ!」
私は川島を呼び出した。
川島はすぐに来る。
その動向をFGの連中は見てた。
「何の用だ?片桐」
「お前今日放課後教室に残れ。命令だ」
「なんでだよ?」
「うだうだ言わずに残れ」
それ以上の反論は許さなかった。
「わかったよ」
川島はそう言うと席に戻る。
その川島にFGの連中が群がってる。
大方脅してるんだろう。
「天音、お前まさか川島の事……」
粋が何か言おうとしてた。
「んなわけねーだろ!こう見えて大地の事大切にしてるつもりだぞ」
「じゃあなんで川島を呼び出したんだ?」
粋が言うと私は鈴を見てにやりと笑った。
「鈴が蓮太と話しがしたいそうだから」
私が言うと鈴が驚いていた。
「わ、私そんな事一言も……」
鈴は動揺している。
「別に付き合えって言ってるわけじゃない。ただ言いたい事はちゃんと言った方がいい。思ったら吉日だ」
私は鈴にそう言う。
「……わかった」
「じゃ、決まりだ。今日の放課後な」
放課後になると普段は教室にはそんなに人は残っていないに今日はやけに多かった。
SHのメンバーとFGのメンバーが残っているのだから。
二組のメンバーが見守る中話は行われた。
「川島君、水島先生の事諦めた方がいいよ」
鈴が言う。
「べ、べつにあんなおばさん趣味じゃねーし!話ってその事?」
川島が言う。
だけど鈴は続ける。
「そうやってずっと自分の気持ち誤魔化し続けるの?それって楽だと思ってるかもしれないけど、ずっと辛い思いを続けてるんだよ」
「だからどうしてそうなるんだよ?」
「どうしてもこうしても見てたらわかるじゃん!」
「お前の勘違いだって。そんな話なら俺は帰るぜ」
そう言って帰ろうとする川島の手を掴んだ。
「何の真似だ?片桐」
「人の色恋沙汰にとやかく言うつもりはねーが、鈴の話はまだ済んでない。逃げるな!」
「まだ話あるのかよ。水島の事ならさっき言った通り別に何とも思ってねーよ」
「そんな事言ったら水島先生可哀そうだよ!」
鈴が叫んだ。
「水島先生だって大人だよ。川島君の本音くらい気づいてる!川島君はそんな風に誤魔化してるから気づいてないかもしれないけど、水島先生川島君のいたずらに対する対応が変わったよ。凄く優しくなってる」
それはまるで自分の子供をかわいがるように。傷ついた羽を癒して再び飛び立つのを見守る様に。
鈴がそう言った。
「……どうしようもないだろ?好きなんだから。歳の差。生徒と先生の身分差。何より旦那さんがいる。そのくらい分かってる。だけどどうしようもないんだよ!」
川島が言った。
「何?お前本気で好きだったわけ?水島の事」
黒頭巾の男が言うとFGのメンバーは笑い出した。
「何マジになってんの?馬鹿じゃねーのお前」
喜一が言うと粋が椅子を蹴飛ばす。
「マジになって何が悪いの?そうやって茶化す事しか出来ないやつの方が余程ダサいと思うんだけど?」
粋が言うとFG全員が黙り込む。
「蓮太。お前告ったの本気だったんだな?」
私が川島に聞いていた。
川島はうなずく。
「で、桜子はなんて言ったんだ?」
「……気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう。頑張ったねって」
「でも先生結婚してるし、その気持ちを受け入れることは出来ない。ごめんなさいね」と断られたらしい。
なんだ、桜子はちゃんと返事してるじゃねーか。
「お前それで悪戯続けてるのか?」
「そうだけど」
「……蓮太、やっぱりお前が逃げてるだけじゃないか」
「どうしようもないだろ、諦めきれないんだから」
「誰も好きだった気持ちを捨てろって言ってるわけじゃねーよ。ただ自分の気持ちにケジメつけたんだったらいい加減独り立ちしろ!今のお前は桜子に甘えてるだけだ!」
「どうしろって言うんだよ?」
「うちの愛莉が言ってた『親は子供が巣立つのを見守るだけだ』って一人で生きていけるって確認するまで見守るんだって」
「言ってる意味がわからねーよ」
「もう川島君に水島先生は必要ない。自分ひとりでやっていけるって水島先生に伝えなきゃ!」
鈴が言った。
「出来ないからこうしてるんだろ!」
すると鈴が川島の手を握る。
「私達はまだ子供。1人立ちなんて無理。でも二人ならなんとか行ける気がする」
「どういう意味だ」
「川島君が勇気を出したから私も勇気を出す。私は川島蓮太君が好きです。ずっと見てました。一途なあなたを見てたら恋に落ちてました」
鈴が告白すると大声で笑うFGのメンバーたち。
「なんだよ結局花山が川島が好きだから私と付き合ってってだけじゃねーか。マジで草生えるわ」
私は喜一の胸ぐらを掴み持ち上げる。
「いい加減黙っててくんねーかな?クソガキ!」
すると川島が言った。
「……ごめん。今は無理。自分の気持ちに整理つかないまま付き合うのはよくない事だと言う事くらい俺にもわかる」
「……うん」
「でも、ありがとう。歩き出せる気がする。その時が来たら俺から鈴に伝えるよ」
「わかった」
話はついたようだ。
「川島分かってるのか!?そいつはSHのメンバーだ!そいつと付き合うって事は……」
「喜一こそ自分の立場わかってるのか?」
「お前らから粉かけて来てんじゃねーか!?」
「そうだよ、悪いか?私達から手を出さないとは一言も言ってない。ムカついたらぶん殴る。文句があるなら今相手してやるぞ」
「天音、それは面白い考えだな。最近こいつらがちょろちょろ鬱陶しくてムカついてたんだよ」
「今日からお前らは私達の標的だ!塵になるまで相手してやるぞ!」
祈と遊が言う。
喜一は川島を連れて去って行った。
「じゃ、私達も帰ろうぜ鈴」
私は鈴の肩を叩く。
「うん」
鈴の頬には涙が伝っていたが晴れ晴れとした爽やかな笑顔だった。
そこには何の迷いもなかった。
(3)
「今日ちょっと愛莉の家に行ってもいいかな?愛莉は出かけられないだろうし」
恵美からのメッセージだ。
どうしたんだろう?
「いいよ」
そう返信すると30分ほどしてから恵美が家に尋ねてきた。
「忙しい所ごめんなさいね」
「大丈夫。今は2人とも寝てるし、麻耶さんたちが見てくれるから」
私は恵美をリビングに案内して紅茶をだした。
「子供5人は流石に大変でしょう」
「翼たちはもうそんなに手がかからないから……」
手がかかるのは天音だけだ。
「その翼の事なんだけど、翼から何か話を聞いてない?」
「え?」
私の反応を見て恵美はため息を吐いた。
「その様子だとやっぱり話してないのね」
「翼がどうかしたの?」
「実は去年のクリスマスパーティの時なんだけど……」
そう言って恵美は話を切り出した。
恵美の従姉の林田英恵が翼を気に入ったらしい。
林田さんのファッションブランドの専属モデルに抜擢したい。
その話はもちろんすぐに翼に話した。
だけど翼は「親と相談するから待って欲しい」と言った。
私は初耳だった。
「その気になったらって言ったんだけど、やっぱり英恵も焦ってるみたいで」
他のファッションブランドにスカウトされるかもしれない。
もちろん、キッズのブランドだけじゃなくてゆくゆくはレディースの担当になってもらうつもりらしい。
翼の身長ならまず問題ないと恵美は話す。
仲介役はもちろん恵美の会社USEがするらしい。
しかし翼が躊躇う理由は恐らく空だろう。
空と一緒にいられる時間が少なくなるのを恐れているのだろう。
冬夜さんが私と一緒にいられる時間が無くなるのを嫌がってバスケを引退したように。
「空との話も美希から聞いてる。だけどスケジュール調整は私たちがしっかりする。学業に差し支えないようにするし、オフの時間もちゃんと確保する」
USEはタレントを大事に扱う事務所。
その辺は心配しなくてもいい。
あとは翼の気持ち。
「分かった。今晩、翼に話をしてみる」
「そうしてくれると助かるわ。前向きに検討してもらえるとありがたい」
「説得はしてみるけど、期待はしないで。頑固なのは冬夜さん譲りだから」
「わかってる」
そう言って恵美は帰っていった。
私は冬夜さんが帰ってくるとその事を相談した。
「どうもこうもまず翼の意思確認が大事じゃないのか?」
冬夜さんはそう言う。
その晩お風呂を済ませると翼をリビングに呼び出した。
恵美から聞いた話を翼に話す。
「どうして今まで黙っていたの?」
私はなるだけやさしく翼に聞いてみた。
「……ごめんなさい。自分でもまだどうしたらいいか分からなくて」
「空と離れるのが嫌なの?それなら恵美に任せておけばちゃんと時間を作ってくれるから……」
それにそんなに容易く切れる絆じゃないでしょ?
だけど冬夜さんは違う事を考えていたようだ。
翼の心を覗いたのだろうか?
「本当に結論が出てないの?」
冬夜さんはにこりと笑ってそう言った。
冬夜さんの意外な反応に驚いている翼。
「翼、本当はもう答えをだしているんじゃないの?父さん達が出来るのはその背中を押してやる事だけだ」
「パパ……」
「翼が思うようにやってみなさい。空だってきっと分かってくれるよ」
「……うん。分かった。私、この話受ける事にする」
意外だった。
空と離れるのが怖くないのだろうか?
「じゃあ、愛莉。明日恵美さんにそう返事してあげて」
「それは良いんですけど、本当にいいの?翼」
「私も私なりに将来の事考えているつもり」
こんなチャンス逃す手はない。
翼はそう言った。
「じゃあ、夜遅くにごめんね。もう部屋で休んでなさい」
冬夜さんがそう言うと翼は2階に上がっていった。
「翼は空と離れても平気だと思ってるのですか?」
私は冬夜さんに聞いていた。
「そうじゃないよ、翼なりに自分の気持ちに決着をつける方法を考えていただけだよ」
決着?
それは翼にとって重大な決断だったと後で知る。
(4)
私はとんでも無い事を聞いてしまったのかもしれない。
翼がモデル!?
そんな話が飛び込んでいたのか?
パパの話からして翼はこの話を受けるつもりらしい。
じゃあ、空はどうするんだよ!?
パパたちの話が終って翼がソファから立ち上がると慌てて部屋に戻る。
そして翼が部屋に戻ってくると、私は翼に聞いていた。
「モデルの話ってまじか!?」
「……やっぱり盗み聞きしてたんだね」
そう言って翼は笑みをこぼす。
それから翼の口から愛莉が言ってた事を繰り返し説明された。
翼は芸能界とかそういうのに興味あったのか?
そんなの一度も……。
「やめとけって!翼はパパの会社継ぐんだろ!?空と一緒に継ぐんだろ!」
そんな中途半端な気持ちじゃモデルも続かねーぞ!
「天音の言う通りだよ。中途半端な気持ちじゃモデルなんてやっていけない事くらい分かってる」
「だったら……」
「だから私自身の問題。私なりに自分の気持ちを整理する。それと……」
それと……?
「空の今後も考えてあげないといけない」
「……空と一緒にはいないってことか?」
「中途半端な気持ちじゃ出来ないでしょ?」
そんな事を考えていたのか。
「だったらどうして今まで黙ってたんだ!?相談くらいしてくれてもいいじゃないか?」
「空のことを考えていたら、もう少し時間が必要だと思ったから。ちゃんと準備が出来たら話すつもりだった」
結果、言うのが遅れただけだと翼は話す。
「翼の考えてる将来って何だよ?」
空を見捨ててまでもしたいことなのか?
「チャンスがあったら飛び出せ!パパが言ってた事。私なりに自分の可能性を信じてみたい」
「可能性?」
「モデルの話が舞い込んでた時から考えていたことがあるの」
そして翼は自分の夢を語ってくれた。
翼は小学生にしてそんな先の事まで考えていたのか。
私は諦めた。
翼の覚悟は本気だ。
翼もパパの娘。
一度決めたら容易く曲げたりしない。
「天音、この話空には黙っててくれないかな?」
「なんで?」
「空が1人でも泣かないように準備が出来るまでは秘密にしておきたい」
「私が黙ってても美希や愛莉が言うかもしれないぞ?」
「そんなに時間をかけるつもりはない。美希の母さんにはお願いしてる。愛莉やパパも多分言わない」
翼の気持ちは多分パパが一番理解してるから。
「……わかった」
「こんな事なら最初に天音に空を譲っておけばよかったね」
「馬鹿言うな」
「ごめん」
「2人ともいい加減に寝なさい」
愛莉の声が部屋の外から聞こえてきた。
私たちはベッドに入って寝る。
だけど、翼の事ばかり考えて眠れなかった。
翼は空に最後に何をプレゼントするつもりなんだろう?
それだけはいくら考えても分からなかった。
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