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1stSEASON
遠いあの声、蒼いあの空
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(1)
「サヨナラは悲しい言葉じゃないよ」
そんな唄を歌いながら。僕達は卒業生を送り出していた。
今日は卒業式。
別れの歌と言っても徒歩5分もあれば校舎が見える中学校に移るだけだけど。
私立中学に行くと言った話は聞いてない。
多分みんな同じ中学なのだろう?
一年もすればまた同じ校舎で学ぶことになる。
それでも女子と言う生き物はそう言う生き物なんだろうか?
卒業生はハンカチで目頭を押さえていた。
先生と抱き合う卒業生を僕達は見ていた。
「私達も来年はああなるのかな?」
翼が言う。
「きっとそうなんだろうな」
学が返事した。
ペーパーフラワーで作ったアーチを持って卒業生を校門まで送り出す。
卒業生は親と一緒に卒業証書を手に校門を出ていく。
もう二度と戻ることは無いはずのこの学校を去っていく。
卒業生を送り出すと僕達は会場の片づけを手伝う。
片づけが終ると教室に戻って下校となる。
僕達もいずれは飛び立つときがくる。
どの雲を目指せばいい?
あの声はどこから聞こえてくる?
空を見上げてふと思う時が来るのだろう?
ただ、一度飛び出したら二度と戻れない。
墜ちていくとしても光を追い続ける。
僕と翼の光はどこまで続いていくのだろう。
家に帰ると天音は出かけて言ったらしい。
下級生は休みだ。
水奈達と遊びに出かけたんだろう。
天音には悪いけどそれは嬉しかった。
部屋に戻れば翼と二人っきりの時間できるのだから
心を通わせながら僕はゲームをして翼は僕の部屋にある漫画を読んでる。
僕の部屋にある漫画の半分は父さんが集めた物。
「邪魔だから捨てよう」
父さんが学生時代そう言う母さんから必死に守った宝だという。
普通に少年漫画もあったけど父さんはラブコメにも興味があったらしい。
翼が読んでいるのはそれだった。
芸大に通う学生の物語。
冴えない主人公が一つの恋をきっかけに成長していく物語。
最後の台詞だけは覚えてる。
「君を好きになってよかった……」
僕達もそんなときが来るのだろうか?
今この瞬間が奇跡のような日々で
時が過ぎて何もかもが思い出になる日がいつか来るのだろうか?
最近は翼に上手く甘えられるようになれた。
翼を抱きしめ唇を重ね。甘い想いに身を委ねる。
ある漫画で「精神と時の部屋」と言うものがある。
部屋の外では1日だけどその部屋の中では1年経っているのだという。
そんな時間の中でこの感情に浸っていたかった。
しかし一日どころか4時間も待ってくれなかった。
「ただいま~」
天音の声がすると僕達は咄嗟に離れる。
天音が階段を駆け上がって部屋に入ってくる。
「お前ら悪さしてねーだろうな!」
「何もしてないよね。空」
「うん、何もしてないよ」
「なんだよ空!お前それでも男か!?晩飯抜きくらい覚悟で翼を押し倒せよ」
それやったら晩飯抜きどころの話じゃないぞ天音。
「それもいいアイデアかもね」
そう言って笑う翼。
だけど少し寂し気に思えたのは気のせいだろうか?
最近翼は心に蓋をしている時がある。
ホワイトデーの後くらいからだろうか?
そんな事を考えているうちに夕食の時間になる。
夕食を食べると3人でお風呂に入る。
翼のおっぱいはハッキリと膨らみが分かるようになった。
天音も少しずつ膨らんできているのが分かる。
そんな天音に見とれていると翼にお湯をかけられる。
そんな僕を見て天音が僕の異変に気付く。
「ああ、空の奴私をみて反応したぞ!」
天音が叫ぶ。
「違うよ。その前に空は私を見てた」
翼が言う。
しかし天音は風呂を出た後母さんに告げ口する。
「愛莉!私もついに女になれたぞ!」
「なにがあったの?」
「空の奴私を見て……」
「あら、空も男の子だったのね」
母さんその反応でいいのか?
父さんは苦笑いしている。
「空、ちょっと残りなさい」
母さんに呼び止められる。
僕はリビングのソファに腰掛ける。
「空、約束です。絶対に中学生になるまでは許しませんからね」
「愛莉、その約束なんだが親の意見としてどうなんだと思うんだけど」
父さんが言う。
「りえちゃんは私が中学になったら『避妊だけはちゃんとしなさいね~』とだけ言ってました。むしろ私に魅力がないのかと心配されてました」
りえちゃんとは母さんの方のお婆さんの事。
片桐家の女性陣は母さんの方の血が濃いらしい。
「冬夜、私も愛莉ちゃんに賛成よ。あんたの時みたいに翼を困らせてはいけないわ」
お婆さんが言う。
どっちも同じか。
そういや父さん言ってたな。
「片桐家も遠坂家も女性には逆らえない」って
現に今父さんは何も言えなくなってしまっている。
「空、分かりましたね??卒業するまで我慢しなさい」
だけどいつもなら飛び出してきそうな翼が今日は大人しく部屋に籠っていた。
父さんはただ笑っていた。
次の日休みだったというのもあったのだろう。
お爺さんと遅くまで飲んでいたらしい。
朝起きてこなかった。
(2)
「おりゃあ!」
天音が雄たけびを上げながらボウルを放る。
高速で真っ直ぐにボウルは転がりピンを全て弾き飛ばす。
「っしゃあ!」
皆とハイタッチする天音。
5年生組が卒業式に出席しているころ私達4年生組はアミューズメント施設に遊びに来てた。
ボウリングは私と天音がトップを競う展開。
他の皆を突き放してた。
3ゲームもするとさすがに疲れてくる。
天音は疲労をしらない。
だけど天音に付き合っていたら次の日腕が死んでる。
軽食を食べてカラオケに行く。
カラオケでも食い物を注文する天音。
チキンスティックたこ焼きから揚げ餃子ピザパスタチャーハンラーメン。
ありとあらゆるものを食らいつくしていく。
天音はカラオケに行くと女性ロック歌手の歌を歌う。
私と似たような選曲をするから先に入れた者勝ちになる。
ちなみに翼はジャンルは問わず幅広く歌う。
何でもありの状態だ。
空はカラオケが好きじゃないんだろうか?
履歴を見て適当に選ぶらしい。
選曲のセンスは父親譲りだと聞いた。
他の皆は人気曲を歌う。
天音は歌うより食う方が優先だったが。
他人が歌っている間歌を聴いてる人間は少ない。
大体他の人と喋っているか自分の選曲に必死かどっちかだ。
祈も歌っていた。
ヘヴィメタルを好むらしい。他にもゴシック系とか。
その祈のそばいべったりくっついてたのは江口陸。
「あんまり歌わないね。なんか悩み事?」
「いや、こういうのに慣れてないだけ」
「じゃあ、慣れようよ」
陸はそう言って端末を受け取ると祈に渡す。
「祈は歌上手なんだしさ。もっとアピールしていいと思うよ」
陸は祈に興味があるようだ。
「何で私に構うんだ?」
祈が陸に聞いていた。
陸は少し考えていた。
そして端末を受け取ると曲を入れる。
マイクを祈に渡す。
「良かったら一緒に歌ってくれないかな?」
「いいけど」
祈が言う。
デュエット曲のようだった。
「私は今でもあなたのことを思い続けているよ」
歌い終えると陸は言った。
「俺はここにいるよ、どこにもいかずに待ってる。だからこそ心配しなくていいんだ。言いたい事分かる?祈の事待ってる」
「私は別に待ってないぞ」
「……どんなに遠くても俺の心は変わらない。今なら素直に言えるよ。……祈の事が好きだ」
「おい陸!お前何どさくさに紛れて告ってくるんだよ!」
粋が茶化す。
「……何が言いたいんだ?」
祈が聞いていた。
「気丈にふるまってるお前に気が付いたら恋してた。友達からでもいいから付き合って欲しい」
いつもの軽いノリの陸はいなかった。
真剣に告白をしている陸。
「私といてもつまらないぞ……」
「そんなことないさ、今まで楽しかったんだ。付き合えたらもっと楽しくなると思ったから今気持ちを打ち明けてる」
「お前が言っても説得力ないんだよ。……まあ、こんな場所で告白するのがお前らしいけどな」
「……だめ?」
「ずるいぞお前は。この空気の中で告白されてダメと言える女子がどれだけいるんだよ……どうせ好きな人もいないしいいよ。ただし私意外と重いからな」
「ありがとう、よろしく」
陸が言うと皆が拍手する。
「他には告白する奴いねーか?」
遊が言う。
その後は恋バナを咲かせながら歌い続ける。
私達には一足早く春が訪れていた。
(3)
SHとFGの抗争はもはや抗争になってなかった。
SHの一方的な蹂躙。
それは4年生を中心に起きていた。。
逆らうとどうなるか十分に思い知ったFGは弱体化していた。
SHに逆らうことなくただ学級崩壊を起こす為の小者達の集団になっていた。
来年度から5年生が6年生になる為その構図は確かなものになる。
誰もSHに逆らえない。
そうなると私の立場は悪化する。
私はSHのメンバー。
だけど、FGのリーダー山本喜一の妹。
兄が怖いから、兄がいないから、FGに対する不満は私に向けられる。
誹謗中傷の的になり、クラスの中では仲間外れにされ、そして陰湿ないじめが続く。
終業式の日。
黒板に書かれた落書きを一人泣きながら消していた。
転校したい。
でも転校してもきっと同じことの繰り返し。
自分の血を呪った。
SHのメンバーは私を庇ってくれるけど、彼等は私が一人のときを狙ってくる。
油性マジックで書かれた落書きは簡単には落ちない。
消しゴムで地道に消すしかない。
ひたすらこすっていると教室に男子が現れた。
小泉優・SHのメンバー。
小泉君は私を見ると手に持った瓶を見せた。
「エタノール。保健室に行って借りてきた」
小泉君はそう言うと雑巾にエタノールを染みこませて机を拭く。
「女子の悪戯って違う意味で過激だよな」
小泉君が言う。
「でもさ、紗奈も天音達に言えばいいじゃん。困ってるの仲間は助けるだろ?普通」
「天音達と離れてる時を狙ってくるから」
「一言言ってくれればいいじゃん」
「報復が怖くて……」
いつも一緒だとは限らないから。
机の落書きを綺麗に消しおえる。
「ちょっと保健室までつきあってくれない?エタノール返しに行かなきゃ」
私は小泉君と一緒に保健室に行く。
そしてエタノールを返すと保健室を出る。
教室に荷物を取りに行く。
教室に入るとそれまで黙っていた小泉君が話をした。
「紗奈はさ、一人の時が怖いって言ったよな?」
「うん」
「じゃあ、いい方法があるんだけど」
「何?」
「これからは俺が一緒にいてやる。誰にも紗奈に手出しさせない」
私は胸がどきっとした。
それって……。
小泉君は頭を掻きむしる。
「こんな言い方ずるいよな。ちゃんと言わなきゃだめだよな」
独り言だろうか?
小泉君は言う。
「俺なんかじゃ力不足だろうけど、紗奈の力になりたい。紗奈を守りたい。できることならずっと守りたい」
「小泉君にも迷惑かけちゃうかもだよ?」
「それでもかまわない。目の前の紗奈が明日を生きれるくらいには……まどろっこしい言い方はずるいよな。紗奈が好きだ。付き合って欲しい」
終業式の突然の告白。
クラス替えが怖かったのだろうか?
多分大丈夫だと思うけど。
「FGに目をつけられるかもよ?」
「2人ならどうにかなるよきっと」
小泉君の目には明るい明日しか見えていないのだろう。
「迷惑じゃないなら、よろしくお願いします」
「よっしゃあ!」
小泉君は喜んでいた。
「こっちこそよろしくな!」
小泉君は手を差し出す。
私はその手を握る。
「じゃ、帰ろうか?」
廊下を歩きながらこれからのことを話しあった。
毎日メッセージ送るね。
毎晩電話しようね。
また同じクラスだといいね。
違うクラスでも気持ちはずっと一緒だよ。
私と小泉君は帰り道が違う。
昇降口で別れる。
春休みの間は会えない。
家に帰ると早速メッセージが届いていた。
メッセージのやり取りをしながら私は春休みが早く終わればいいのに。
そう願っていた。
(4)
忘れ物をしたので教室に取りに戻った。
春休みが明けたら教室が違う。
教室に取りに戻ると彼はいた。
一ノ瀬律。
彼は一人で掃除をしていた。
去年も同じ事をしていた。
不思議に思った。
そんな事をしても何の得にもならないのに。
今日はどうかしてた。
だから彼に尋ねてみた。
「どうせ教室変わるのにどうしてそんなことするの?」
彼は答えた。
「だからするんだよ。『一年間お世話になりました』って」
「馬鹿じゃないの?」
「自分でもそう思う。でもやらずにいられないんだ。他に感謝を示す方法を知らない」
そう言って彼は再び黙々と掃除をする。
必死にしている。
私はどうかしてた。
だから一緒になって机を磨いていた。
来年になったら二度と会う事がないかもしれない彼と一緒に二度と戻ることのない教室を掃除してた。
私の肩には黒い頭巾が巻かれている。
二度と消える事のない落胤。
フォーリンググレイスであることの証。
セイクリッドハートが勢力を増すと私達の立場は逆転した。
でも消し去ることが出来ない傷。
みんな私に近寄らなくなった。
下心を見せて寄ってくる男子はいるけど。
そんな私が久しぶりに聞いた言葉。
「ありがとう、助かったよ。お蔭で早く済んだ」
彼は笑って言った。
感謝の言葉。
人は優しさに触れると、滲むような弱さを知る。
「川島さんどうしたの?」
彼は私の頬を伝う一滴の涙を見て慌てていた。
「もう、用は済んだでしょ?先生に叱られる。帰ろう?」
「あ、ああ。そうだね」
彼と昇降口まで一緒に歩いた。
何も言葉を交わすことのないまま。
「じゃ、川島さん。またね」
「ええ、また」
その「また」が本当に来るのかどうか知らないけど。
私はその「また」が来ることを無意識に願っていた。
季節の終わりは新しい季節の始まり。
私は新しい季節に小さな希望を抱いていた。
「サヨナラは悲しい言葉じゃないよ」
そんな唄を歌いながら。僕達は卒業生を送り出していた。
今日は卒業式。
別れの歌と言っても徒歩5分もあれば校舎が見える中学校に移るだけだけど。
私立中学に行くと言った話は聞いてない。
多分みんな同じ中学なのだろう?
一年もすればまた同じ校舎で学ぶことになる。
それでも女子と言う生き物はそう言う生き物なんだろうか?
卒業生はハンカチで目頭を押さえていた。
先生と抱き合う卒業生を僕達は見ていた。
「私達も来年はああなるのかな?」
翼が言う。
「きっとそうなんだろうな」
学が返事した。
ペーパーフラワーで作ったアーチを持って卒業生を校門まで送り出す。
卒業生は親と一緒に卒業証書を手に校門を出ていく。
もう二度と戻ることは無いはずのこの学校を去っていく。
卒業生を送り出すと僕達は会場の片づけを手伝う。
片づけが終ると教室に戻って下校となる。
僕達もいずれは飛び立つときがくる。
どの雲を目指せばいい?
あの声はどこから聞こえてくる?
空を見上げてふと思う時が来るのだろう?
ただ、一度飛び出したら二度と戻れない。
墜ちていくとしても光を追い続ける。
僕と翼の光はどこまで続いていくのだろう。
家に帰ると天音は出かけて言ったらしい。
下級生は休みだ。
水奈達と遊びに出かけたんだろう。
天音には悪いけどそれは嬉しかった。
部屋に戻れば翼と二人っきりの時間できるのだから
心を通わせながら僕はゲームをして翼は僕の部屋にある漫画を読んでる。
僕の部屋にある漫画の半分は父さんが集めた物。
「邪魔だから捨てよう」
父さんが学生時代そう言う母さんから必死に守った宝だという。
普通に少年漫画もあったけど父さんはラブコメにも興味があったらしい。
翼が読んでいるのはそれだった。
芸大に通う学生の物語。
冴えない主人公が一つの恋をきっかけに成長していく物語。
最後の台詞だけは覚えてる。
「君を好きになってよかった……」
僕達もそんなときが来るのだろうか?
今この瞬間が奇跡のような日々で
時が過ぎて何もかもが思い出になる日がいつか来るのだろうか?
最近は翼に上手く甘えられるようになれた。
翼を抱きしめ唇を重ね。甘い想いに身を委ねる。
ある漫画で「精神と時の部屋」と言うものがある。
部屋の外では1日だけどその部屋の中では1年経っているのだという。
そんな時間の中でこの感情に浸っていたかった。
しかし一日どころか4時間も待ってくれなかった。
「ただいま~」
天音の声がすると僕達は咄嗟に離れる。
天音が階段を駆け上がって部屋に入ってくる。
「お前ら悪さしてねーだろうな!」
「何もしてないよね。空」
「うん、何もしてないよ」
「なんだよ空!お前それでも男か!?晩飯抜きくらい覚悟で翼を押し倒せよ」
それやったら晩飯抜きどころの話じゃないぞ天音。
「それもいいアイデアかもね」
そう言って笑う翼。
だけど少し寂し気に思えたのは気のせいだろうか?
最近翼は心に蓋をしている時がある。
ホワイトデーの後くらいからだろうか?
そんな事を考えているうちに夕食の時間になる。
夕食を食べると3人でお風呂に入る。
翼のおっぱいはハッキリと膨らみが分かるようになった。
天音も少しずつ膨らんできているのが分かる。
そんな天音に見とれていると翼にお湯をかけられる。
そんな僕を見て天音が僕の異変に気付く。
「ああ、空の奴私をみて反応したぞ!」
天音が叫ぶ。
「違うよ。その前に空は私を見てた」
翼が言う。
しかし天音は風呂を出た後母さんに告げ口する。
「愛莉!私もついに女になれたぞ!」
「なにがあったの?」
「空の奴私を見て……」
「あら、空も男の子だったのね」
母さんその反応でいいのか?
父さんは苦笑いしている。
「空、ちょっと残りなさい」
母さんに呼び止められる。
僕はリビングのソファに腰掛ける。
「空、約束です。絶対に中学生になるまでは許しませんからね」
「愛莉、その約束なんだが親の意見としてどうなんだと思うんだけど」
父さんが言う。
「りえちゃんは私が中学になったら『避妊だけはちゃんとしなさいね~』とだけ言ってました。むしろ私に魅力がないのかと心配されてました」
りえちゃんとは母さんの方のお婆さんの事。
片桐家の女性陣は母さんの方の血が濃いらしい。
「冬夜、私も愛莉ちゃんに賛成よ。あんたの時みたいに翼を困らせてはいけないわ」
お婆さんが言う。
どっちも同じか。
そういや父さん言ってたな。
「片桐家も遠坂家も女性には逆らえない」って
現に今父さんは何も言えなくなってしまっている。
「空、分かりましたね??卒業するまで我慢しなさい」
だけどいつもなら飛び出してきそうな翼が今日は大人しく部屋に籠っていた。
父さんはただ笑っていた。
次の日休みだったというのもあったのだろう。
お爺さんと遅くまで飲んでいたらしい。
朝起きてこなかった。
(2)
「おりゃあ!」
天音が雄たけびを上げながらボウルを放る。
高速で真っ直ぐにボウルは転がりピンを全て弾き飛ばす。
「っしゃあ!」
皆とハイタッチする天音。
5年生組が卒業式に出席しているころ私達4年生組はアミューズメント施設に遊びに来てた。
ボウリングは私と天音がトップを競う展開。
他の皆を突き放してた。
3ゲームもするとさすがに疲れてくる。
天音は疲労をしらない。
だけど天音に付き合っていたら次の日腕が死んでる。
軽食を食べてカラオケに行く。
カラオケでも食い物を注文する天音。
チキンスティックたこ焼きから揚げ餃子ピザパスタチャーハンラーメン。
ありとあらゆるものを食らいつくしていく。
天音はカラオケに行くと女性ロック歌手の歌を歌う。
私と似たような選曲をするから先に入れた者勝ちになる。
ちなみに翼はジャンルは問わず幅広く歌う。
何でもありの状態だ。
空はカラオケが好きじゃないんだろうか?
履歴を見て適当に選ぶらしい。
選曲のセンスは父親譲りだと聞いた。
他の皆は人気曲を歌う。
天音は歌うより食う方が優先だったが。
他人が歌っている間歌を聴いてる人間は少ない。
大体他の人と喋っているか自分の選曲に必死かどっちかだ。
祈も歌っていた。
ヘヴィメタルを好むらしい。他にもゴシック系とか。
その祈のそばいべったりくっついてたのは江口陸。
「あんまり歌わないね。なんか悩み事?」
「いや、こういうのに慣れてないだけ」
「じゃあ、慣れようよ」
陸はそう言って端末を受け取ると祈に渡す。
「祈は歌上手なんだしさ。もっとアピールしていいと思うよ」
陸は祈に興味があるようだ。
「何で私に構うんだ?」
祈が陸に聞いていた。
陸は少し考えていた。
そして端末を受け取ると曲を入れる。
マイクを祈に渡す。
「良かったら一緒に歌ってくれないかな?」
「いいけど」
祈が言う。
デュエット曲のようだった。
「私は今でもあなたのことを思い続けているよ」
歌い終えると陸は言った。
「俺はここにいるよ、どこにもいかずに待ってる。だからこそ心配しなくていいんだ。言いたい事分かる?祈の事待ってる」
「私は別に待ってないぞ」
「……どんなに遠くても俺の心は変わらない。今なら素直に言えるよ。……祈の事が好きだ」
「おい陸!お前何どさくさに紛れて告ってくるんだよ!」
粋が茶化す。
「……何が言いたいんだ?」
祈が聞いていた。
「気丈にふるまってるお前に気が付いたら恋してた。友達からでもいいから付き合って欲しい」
いつもの軽いノリの陸はいなかった。
真剣に告白をしている陸。
「私といてもつまらないぞ……」
「そんなことないさ、今まで楽しかったんだ。付き合えたらもっと楽しくなると思ったから今気持ちを打ち明けてる」
「お前が言っても説得力ないんだよ。……まあ、こんな場所で告白するのがお前らしいけどな」
「……だめ?」
「ずるいぞお前は。この空気の中で告白されてダメと言える女子がどれだけいるんだよ……どうせ好きな人もいないしいいよ。ただし私意外と重いからな」
「ありがとう、よろしく」
陸が言うと皆が拍手する。
「他には告白する奴いねーか?」
遊が言う。
その後は恋バナを咲かせながら歌い続ける。
私達には一足早く春が訪れていた。
(3)
SHとFGの抗争はもはや抗争になってなかった。
SHの一方的な蹂躙。
それは4年生を中心に起きていた。。
逆らうとどうなるか十分に思い知ったFGは弱体化していた。
SHに逆らうことなくただ学級崩壊を起こす為の小者達の集団になっていた。
来年度から5年生が6年生になる為その構図は確かなものになる。
誰もSHに逆らえない。
そうなると私の立場は悪化する。
私はSHのメンバー。
だけど、FGのリーダー山本喜一の妹。
兄が怖いから、兄がいないから、FGに対する不満は私に向けられる。
誹謗中傷の的になり、クラスの中では仲間外れにされ、そして陰湿ないじめが続く。
終業式の日。
黒板に書かれた落書きを一人泣きながら消していた。
転校したい。
でも転校してもきっと同じことの繰り返し。
自分の血を呪った。
SHのメンバーは私を庇ってくれるけど、彼等は私が一人のときを狙ってくる。
油性マジックで書かれた落書きは簡単には落ちない。
消しゴムで地道に消すしかない。
ひたすらこすっていると教室に男子が現れた。
小泉優・SHのメンバー。
小泉君は私を見ると手に持った瓶を見せた。
「エタノール。保健室に行って借りてきた」
小泉君はそう言うと雑巾にエタノールを染みこませて机を拭く。
「女子の悪戯って違う意味で過激だよな」
小泉君が言う。
「でもさ、紗奈も天音達に言えばいいじゃん。困ってるの仲間は助けるだろ?普通」
「天音達と離れてる時を狙ってくるから」
「一言言ってくれればいいじゃん」
「報復が怖くて……」
いつも一緒だとは限らないから。
机の落書きを綺麗に消しおえる。
「ちょっと保健室までつきあってくれない?エタノール返しに行かなきゃ」
私は小泉君と一緒に保健室に行く。
そしてエタノールを返すと保健室を出る。
教室に荷物を取りに行く。
教室に入るとそれまで黙っていた小泉君が話をした。
「紗奈はさ、一人の時が怖いって言ったよな?」
「うん」
「じゃあ、いい方法があるんだけど」
「何?」
「これからは俺が一緒にいてやる。誰にも紗奈に手出しさせない」
私は胸がどきっとした。
それって……。
小泉君は頭を掻きむしる。
「こんな言い方ずるいよな。ちゃんと言わなきゃだめだよな」
独り言だろうか?
小泉君は言う。
「俺なんかじゃ力不足だろうけど、紗奈の力になりたい。紗奈を守りたい。できることならずっと守りたい」
「小泉君にも迷惑かけちゃうかもだよ?」
「それでもかまわない。目の前の紗奈が明日を生きれるくらいには……まどろっこしい言い方はずるいよな。紗奈が好きだ。付き合って欲しい」
終業式の突然の告白。
クラス替えが怖かったのだろうか?
多分大丈夫だと思うけど。
「FGに目をつけられるかもよ?」
「2人ならどうにかなるよきっと」
小泉君の目には明るい明日しか見えていないのだろう。
「迷惑じゃないなら、よろしくお願いします」
「よっしゃあ!」
小泉君は喜んでいた。
「こっちこそよろしくな!」
小泉君は手を差し出す。
私はその手を握る。
「じゃ、帰ろうか?」
廊下を歩きながらこれからのことを話しあった。
毎日メッセージ送るね。
毎晩電話しようね。
また同じクラスだといいね。
違うクラスでも気持ちはずっと一緒だよ。
私と小泉君は帰り道が違う。
昇降口で別れる。
春休みの間は会えない。
家に帰ると早速メッセージが届いていた。
メッセージのやり取りをしながら私は春休みが早く終わればいいのに。
そう願っていた。
(4)
忘れ物をしたので教室に取りに戻った。
春休みが明けたら教室が違う。
教室に取りに戻ると彼はいた。
一ノ瀬律。
彼は一人で掃除をしていた。
去年も同じ事をしていた。
不思議に思った。
そんな事をしても何の得にもならないのに。
今日はどうかしてた。
だから彼に尋ねてみた。
「どうせ教室変わるのにどうしてそんなことするの?」
彼は答えた。
「だからするんだよ。『一年間お世話になりました』って」
「馬鹿じゃないの?」
「自分でもそう思う。でもやらずにいられないんだ。他に感謝を示す方法を知らない」
そう言って彼は再び黙々と掃除をする。
必死にしている。
私はどうかしてた。
だから一緒になって机を磨いていた。
来年になったら二度と会う事がないかもしれない彼と一緒に二度と戻ることのない教室を掃除してた。
私の肩には黒い頭巾が巻かれている。
二度と消える事のない落胤。
フォーリンググレイスであることの証。
セイクリッドハートが勢力を増すと私達の立場は逆転した。
でも消し去ることが出来ない傷。
みんな私に近寄らなくなった。
下心を見せて寄ってくる男子はいるけど。
そんな私が久しぶりに聞いた言葉。
「ありがとう、助かったよ。お蔭で早く済んだ」
彼は笑って言った。
感謝の言葉。
人は優しさに触れると、滲むような弱さを知る。
「川島さんどうしたの?」
彼は私の頬を伝う一滴の涙を見て慌てていた。
「もう、用は済んだでしょ?先生に叱られる。帰ろう?」
「あ、ああ。そうだね」
彼と昇降口まで一緒に歩いた。
何も言葉を交わすことのないまま。
「じゃ、川島さん。またね」
「ええ、また」
その「また」が本当に来るのかどうか知らないけど。
私はその「また」が来ることを無意識に願っていた。
季節の終わりは新しい季節の始まり。
私は新しい季節に小さな希望を抱いていた。
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* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
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