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1stSEASON
5月のクローバー
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(1)
「空、朝だよ」
「おはよう翼」
連休が明けた。
今年の連休は遊びに行かなかった。
と、言うより遊びに行けなかった。
翼のレッスンがあるから、翼一人残すわけにもいかない。
また、冬吾と冬莉も小さいから遠出は出来ない。
精々部屋でゲームしてるか、ショッピングモールに遊びに行くのが関の山。
変ったことと言えば水奈が個別チャットを送るようになってきたくらいか。
その事に対して翼は何も言わなくなった。
天音にも言ってない。
翼がモデルになると言ってから、翼は徐々に僕を遠ざけるようになった。
それが何となく寂しい。
翼は僕に飽きたのだろうか?
心に訴えてみたけど反応は無かった。
今日から学校だ。
僕の隣には翼ではなく水奈がいる。
その水奈も何か戸惑いがあるみたいだ。
それは天音も同じだった。
翼は何も考えているのだろう。
教室に入ると光太達がやってきた。
「連休なにしてた?」
普通の会話だ。
「特に何もしてないよ」
そう答えた。
翼がキッズ服のモデルを始めた事は皆知ってる。
SHのメンバーが集まってきた。
皆気付いていたらしい。
FGのトレードマークを身に着けた人間が全くいないことに。
原因はわからない。。
話題は次に移っていた。
今月末にある修学旅行。
一泊二日の旅行。
皆とお泊りするのは初めてだ。
「一緒の部屋になると良いね」
そんな話題がする。
多分一緒の部屋になると思うよ。
そのくらい、父さんでなくても分かる。
授業を受けて、昼休みにまた話をしてそして午後の授業を受けて。
何もない平和な日々をすごしていた。
少なくとも僕たちのクラスはそうだった。
他のクラスでは細々とFGが活動しているらしい。
諦めない心は大事だと思うけど、もっと別の方向に活かした方がいいんじゃないか?
そんな事を考えていた。
学校が終わって帰りに他のクラスを見て立ち止まる。
隅っこにたむろしている連中を見る。
彼等は僕達に気が付くと解散していく。
どうやらこの学校での主導権はSHが支配しているようだった。
家に帰ると部屋に戻る。
そして今日の授業の内容を思い出しながら宿題を解いていく。
そんなに難しい宿題はない。
漢字を書いてこいとか算数を解いてこいとか。
それが終る頃翼も終えたらしくて部屋に来る。
夕食の時間まで翼と過ごす。
夕食を終えると風呂に入る。
そして就寝時間まで翼と二人で過ごす。
翼は真面目だ。
ちゃんと母さんとの約束を守っている。
最近は立場が逆転している。
翼は必要以上に僕にスキンシップを求めて来なくなった。
毎日のレッスンで疲れているのだろう。
僕を拒む翼に僕が寂しいと思うくらいだ。
キスすらしなくなった。
そして自分の部屋へ帰って行く。
「おやすみ」
翼のメッセージを見ると僕は眠りについた。
(2)
ぶひっ。
桜子が椅子に座ると音が鳴る。
古典的ないたずら。
いつしかいたずらもネタ切れを起こしてつまらなくなっていた。
つまらないから授業は寝てる。
FAも活動休止してるのか?
だが、他のクラスを見てるとそうでもないらしい。
ただ私達を見ると大人しくなる。
黒頭巾の連中もいなくなっていた。
私達の的になるのを恐れているのだろう。
つまんない。
学校ってこんなに面白くないところだったのか?
合法的に虐める方法を考えた。
一年の連中がドッジボールをやっている。
6年生相手に奮闘している。
これだ!
「私達も混ぜろよ!」
1年に言うと一年の味方に加わる。
そして6年を袋叩きにする。
ちゃんとスポーツをやってるつもりだ。
ただ顔とかに思いっきりぶつけてうずくまったところにボールを投げつけているだけ。
でも昼休みが終ると同時に飽きた。
つまんない。
FGも以前のような威勢はどこにもなく、私達に怯えている。
授業中も私達のクラスは大人しい。
メッセージで知った事。
SHのメンバーの居るクラスは皆大人しいらしい。
目をつけられるのを恐れているそうだ。
つまんない、退屈な一日を終えて家に帰る。
翼と空は一緒に過ごしている。
私は大地とメッセージを交わしてる。
それは夕食を食べて風呂に入った後も続いた。
肩透かしを食らった一日はそうやって終わった。
(3)
給食の時間。
僕達のクラスは班ごとにテーブルを並べて食べる。
1人ぼっちが出ないようにするための工夫らしい。
僕達の班は4人。
僕・片桐純也と茜、石原梨々香と佐原壱郎、小泉秀史と大原紫の6人だった。
秀史と紫は2人で仲良く話しながら食べてる。
「2人とも本当に仲が良いね」
茜が言った。
2人とも照れ笑いをしていた。
「いつも一緒なの?」
茜がさらに聞いていた。
「学校の間だけかな」
紫が答えていた。
「ふーん……なるほどね」
そんな話を聞きながら僕は給食を食べていた。
「茜ちゃんはどんな人が好きなの?」
紫が聞いていた。
「月並みだけど明るくて優しい人かな」
「うーん、壱郎君とかちょうどいいんじゃない?」
紫がそう言った。
「確かに壱郎ならうってつけかもこう見えて頼りになるし」
秀史まで話に乗る。
「ええ、でも。壱郎君の気持ち聞いてみないとだめだよ」
茜が答える。
「じゃあ、今聞いてみたら?」
紫が言う。
「どうだ?茜って結構可愛いし良い子だと僕は思うんだけど」
秀史の言う通り悪くはない。
成績は良い、見た目も良い、人当たりも悪くない。
しかし、こんな馴れ初めでいいの?
まあ、茜に恋愛と言うのに興味があったのかは知らないけど。
「茜が良いなら僕はかまわないけど」
「本当!?嬉しいな~」
「良かったね茜ちゃん」
別に小学生が付き合うからといって特別な仲になるわけじゃない。
そんな感じで壱郎と茜は付き合うことになった。
それから壱郎が家に茜を迎えに来るようになった。
登校してから下校するまでずっと一緒の時間をすごす。
それだけ一緒にいたら当然回りも気づく。
「佐原!お前片桐と出来てるのか?」
そんなどうでもいいようなことを聞いてくる輩も出てくる。
「そうだけどそれがどうかしたの?」
それから秀史や紫だけだった冷やかしの的は茜達にもむけられるようになった。
手をつないで歩いているだけで揶揄われ、目と目が合っただけで揶揄われ。
給食の時間は「おみあいか?」と揶揄される。
さすがに担任が注意をする。
恋愛に夢中になって学業を疎かにするな!
それは言わせなかった。
常に学年の上位にいたのだから。
ただ、親には伝えられたらしい。
だけどりえちゃんはそんな密告相手にしなかった。
休みの日に「デートくらいして来たらどうなの~?」と言ってるくらいだ。
だけど小学校3年生じゃそんなに遠くに移動できるわけもなく、学校の中でデートをしているのが精いっぱいだった。
けれど、数日たつと茜の様子が変わる。
壱郎と一緒にいるのを避けるようになった。
揶揄われるのがいやになったのか、単純に壱郎を嫌いになったのか?
特別気にもとめなかった。
2人は秀史と紫のようにはなれなかった。
それだけの話だ。
そう思っていた。
梨々香と日直の日。
誰も残ってないはずの教室に戻ろうとすると、茜と壱郎が教室を覗いていた
「何やってるの?」
僕がそういうと茜が人差し指を口に当てて静かにしてるように言った。
気づかれないように教室を覗くと秀史と紫がいる。
2人抱き合っていた。
そして僕は生まれて初めて生のキスシーンに遭遇した。
じっと見ている。
そんな時茜がぼそりと呟いた。
「私達もあんな風になりたかった」
直感した。
これが神様のくれた最後の機会だぞ、壱郎。
「茜」
壱郎が茜を呼ぶと茜がが振り向く。
壱郎は茜の唇に自分の唇を重ねていた。
初めての妹のキスを目の当たりにしてしまった。
苺の味がするとかレモンの味がするとか言われてるけど、どんな味がしたのだろう?
茜は怒り出すのだろうか?
そんな事も考えていた。
でもどうせ最後になるなら……と、思ったのだろうか?
壱郎は思いっきり茜を抱きしめる。
時間が止まったかのように茜達はずっと口づけをしていた。
僕達も周りの事なんて気にも留め図ただ二人を見守っていた
だけど終わりは突然来る。
「茜ちゃん達何してるの?」
紫の声が時間を元に戻した。
慌てて壱郎から離れる紫。
思った以上に動揺していた。
どう弁明するのだろうか?
悪い事をしたとは思わないけど、茜はどう思っているのだろう?
黙り込んでいる2人。
「紫ちゃんだってしてたじゃない。私達見ちゃったよ」
茜は笑って言った。
気にも留めてないようだ。
ただ、茜の小さな手が壱郎の手を握っていた。
「あちゃあ、観られちゃったか。お互い様だね」
そう言って2人は笑う。
6人で昇降口に向かう。
「じゃあ、また明日」
そう言っていつも通り帰った。
あの時、2人は終わりが来たと思ったけどそれは間違いだった。
だって始まってすらいなかったのだから。
時計が止まったと思ったあの瞬間から茜達の時計は動き始める。
キスは始まりの風の音だったんだ。
次の日の朝、壱郎と会う。
「おはよう」
「おはよう」
茜は壱郎と挨拶する。
いつもの笑顔だった。
だけどそれはかけがえのない大切な物。
冷やかされても揶揄われても。
2人一緒なら笑っていられる。
それって秀史と紫のあの一場面なんじゃないか?
そうか、やっと辿り着いたんだな。
朝と夜の狭間、恋の炎は揺らめき。
かけがえのない宝石のような想いを手にしようと腕を伸ばし
運命の風車が回れば星屑は煌めいて
天使が笑う、美しき幻想の葡萄酒の様な苦い夢に、賢者も忌避する伝言の真意を僕達は識る。
右手は茜、左手は壱郎。
傾かざる茜達の想いの天秤。
茜達の恋物語は今始まった。
(4)
新学期が始まって私は空の隣にいる事を許されるようになった。
帰りも空を待って一緒に帰るようになった。
翼は翼の父さんが迎えに来て事務所に通っている。
天音も何かを察していたのか大地と2人で帰るようになった。
空の気分が沈んでいるのは、心を読めない私でも見てわかる。
やっぱり私じゃダメなんじゃないのか?
でも、諦めるわけにはいかない。
これが最後のチャンスなのだから。
精一杯空の気分を盛り上げようとした。
でも空は全く話を聞いてくれようとしない。
私は嫌われている?
そんな不安が今日ついに爆発した。
「空は私といるのがいや?」
「そう言うわけじゃないんだけど……」
「だったらもっと明るく笑えよ。翼といる時はいつも笑顔だったじゃないか!」
余計な事を言ってしまったかもしれない。
「僕は翼に嫌われてしまったのだろうか?」
空の本音が聞けた。
「……それはねーよ」
「どうして水奈にわかるんだ?」
翼と空の事は2人にしか分からないと思っていたらしい。
だけどそれは大きな間違いだ。
「……野生ではな、子供が大人になると敢えて突き離すそうだ」
「え?」
空は私の顔を見た。
私は話をつづけた。
「翼は今でも空の事が好きだよ。私が保証する」
「じゃあ、どうして?」
「翼は今モデル業で忙しいから。翼は空に構ってやれないから。空が寂しがってるんじゃないか?そう思ってるらしい」
「なんで水奈が知ってるの?」
「……どうして私が空と一緒にいると思う?」
「え?」
空には翼との約束の話は秘密という約束だ。
「空が寂しくないように、傷つかないように、私に出来るのは空の隣にいるって伝える事だけだ」
「……僕がそばにいて欲しいのは翼だ」
「そんな事分かってる!」
私は思わず叫んでいた。
そんな私に空は驚いていた。
「でもそれで本当にいいのか?翼にいつまでも空の心配をさせて、翼の足を引っ張って良いのか?」
「それは……」
「翼は自分の道を見つけたんだ。だったらそれを見守ってやるのが空の役目じゃないのか?」
空はもう1人でも大丈夫って伝えてやる事じゃないのか?
空は黙って私の話を聞いていた。
「空を独りぼっちになんてさせない。だけどまず翼に甘えるのをやめるべきだ。翼を安心させてやれ」
その為なら私はどんなことだってしてやる。
空が寂しくないように、傷つかないようにいつだってここにいてやる。
「翼とはもう終わりなんだろうか?」
空はそんなことをぼそりと呟いていた。
「まだ終わってねーよ。多分一生終わらない。だってお前達は双子の姉弟なんだろ?」
どんな時だって一緒に響き合えるじゃないか。
「まずはそのしけた面やめろ。翼の前では笑ってやれ。悩みがあるなら私が聞いてやる」
「水奈はどうして僕にそこまでこだわるの?」
好きだからに決まってるだろ?
でも、まだその事を伝えるべきじゃない。
これじゃ弱ってる空をしとめようとしているだけだ。
そんなやり方私は嫌だ。
ちゃんと空が翼の手から離れたらきちんと伝えよう。
「友達の心配して悪いか?」
それがギリギリのライン。
「ありがとう、水奈にも心配かけたみたいだね。僕も努力するよ」
空はそう言って笑った。
それが作り笑いでもいい。
いつかちゃんと心から笑えるようにしてやるから。
空の家の前に着くと私は自分の家に帰ろうとした。
すると空が私を呼び止めた。
「また、水奈に相談してもいいかな?」
「いつでも待ってる」
空は私の気持ちに気付く余裕なんてないのだろう?
だけどそれでいい。
今はまだ空が巣立つのをただ待ってるだけだ。
(5)
今日もレッスンを終えたのは21時過ぎだった。
「毎日大丈夫?勉強疎かにしたらだめよ?」
美希の母さん、石原恵美はそう言った。
勉強は大丈夫、授業を聞くまでもなく理解できるから。
それよりモデルの仕事の方が大事だった。
歩き方ひとつとっても意識しないとすぐにスタイルや表情が崩れてしまう。
ランウェイで目立つのはモデルじゃない。衣裳だ。
衣裳を目立たせる歩き方を学んでいた。
ようやくそれが体に馴染んで来ようとしていた。
レッスンを終えると家に帰る。
パパが迎えに来てくれる。
なんとなく空の様子を聞いていた。
気にしてる場合じゃないのに。
仕事に専念すると覚悟したときから、水奈と約束した時から私は空から手を引くと決めていた。
案の定空は不安でいっぱいだったらしい。
でも振り返ったらだめだ。
敢えて突き放さないとだめだ。
どうせ、一緒に入られないのだから。
「翼なら今まで通りでもやっていけると思ったんだけどね」
パパがそう言った。
そうかもしれないけど私は夢に向かって全力をだしたい。
「……パパはバスケをしていた時はどうだった?」
「夢中だったよ。ただ終着点は決めていた。愛莉がいたから」
世界の頂点に立つという目的があったのは聞いていた。
その為に全力を注いで、結果愛莉と喧嘩して、それでも愛莉はパパを支えた。
愛莉だけじゃない、仲間が支えてくれたと聞いている。
でも私は違う。
私が目指すのはモデルなんかじゃない。
もっとその先の未来。
それは林田さんから話を聞いた時から考えていた。
その為には空の事を気にかけている余裕はない。
今はそれでもいいかもしれない。
でもいずれは空を残して私は旅立つ。
その時に空に挫けない強さを最後に残してあげたい。
そんな私の主張をパパに話していた。
「翼は空の事が本当に好きなんだね」
「……うん」
「父さんは翼の意思を尊重するよ。空もそろそろ自分を持つ時がきたのかもしれないね」
そう言ってパパは黙ってしまった。
家に帰ると夕飯を食べて風呂に入る。
空は一人で何かをしているようだ。
もう22時は過ぎている。
大人しく自分の部屋に戻る。
私が空にしてやれる最後の贈り物……か。
考えると泣きたくなる。
「大丈夫だ、空の事は私が守るから」
天音が言う。
「ごめん、よろしく頼む」
「任せとけ」
天音はそうは言うけど天音だっていつかは家を出るんだ。
その代わりを用意してやる必要があった。
本当は空自身が自分で探せばいいのだけど不安だった。
だから水奈と約束した。
水奈に任せるしかない。
水奈ならきっと大丈夫。
すると空からメッセージが届いた。
「ごめん、僕は1人でも歩けるように頑張るから。翼は仕事に専念して」
何があったのか知らないけど空の心境が変わったのだろうか?
水奈に聞いてみた。
「約束は守るよ」
ただ一言そう返ってきた。
嬉しくもあり寂しくもある。
愛莉やパパも同じ目線で私たちを見守っていてくれるのだろうか?
ならば、私に出来る事はただ一つ。
安心させてやれることだけ。
1人でも大丈夫だからと伝える事だけ。
あとは空の心次第。
私に残された期限はそんなに残っていなかった。
「空、朝だよ」
「おはよう翼」
連休が明けた。
今年の連休は遊びに行かなかった。
と、言うより遊びに行けなかった。
翼のレッスンがあるから、翼一人残すわけにもいかない。
また、冬吾と冬莉も小さいから遠出は出来ない。
精々部屋でゲームしてるか、ショッピングモールに遊びに行くのが関の山。
変ったことと言えば水奈が個別チャットを送るようになってきたくらいか。
その事に対して翼は何も言わなくなった。
天音にも言ってない。
翼がモデルになると言ってから、翼は徐々に僕を遠ざけるようになった。
それが何となく寂しい。
翼は僕に飽きたのだろうか?
心に訴えてみたけど反応は無かった。
今日から学校だ。
僕の隣には翼ではなく水奈がいる。
その水奈も何か戸惑いがあるみたいだ。
それは天音も同じだった。
翼は何も考えているのだろう。
教室に入ると光太達がやってきた。
「連休なにしてた?」
普通の会話だ。
「特に何もしてないよ」
そう答えた。
翼がキッズ服のモデルを始めた事は皆知ってる。
SHのメンバーが集まってきた。
皆気付いていたらしい。
FGのトレードマークを身に着けた人間が全くいないことに。
原因はわからない。。
話題は次に移っていた。
今月末にある修学旅行。
一泊二日の旅行。
皆とお泊りするのは初めてだ。
「一緒の部屋になると良いね」
そんな話題がする。
多分一緒の部屋になると思うよ。
そのくらい、父さんでなくても分かる。
授業を受けて、昼休みにまた話をしてそして午後の授業を受けて。
何もない平和な日々をすごしていた。
少なくとも僕たちのクラスはそうだった。
他のクラスでは細々とFGが活動しているらしい。
諦めない心は大事だと思うけど、もっと別の方向に活かした方がいいんじゃないか?
そんな事を考えていた。
学校が終わって帰りに他のクラスを見て立ち止まる。
隅っこにたむろしている連中を見る。
彼等は僕達に気が付くと解散していく。
どうやらこの学校での主導権はSHが支配しているようだった。
家に帰ると部屋に戻る。
そして今日の授業の内容を思い出しながら宿題を解いていく。
そんなに難しい宿題はない。
漢字を書いてこいとか算数を解いてこいとか。
それが終る頃翼も終えたらしくて部屋に来る。
夕食の時間まで翼と過ごす。
夕食を終えると風呂に入る。
そして就寝時間まで翼と二人で過ごす。
翼は真面目だ。
ちゃんと母さんとの約束を守っている。
最近は立場が逆転している。
翼は必要以上に僕にスキンシップを求めて来なくなった。
毎日のレッスンで疲れているのだろう。
僕を拒む翼に僕が寂しいと思うくらいだ。
キスすらしなくなった。
そして自分の部屋へ帰って行く。
「おやすみ」
翼のメッセージを見ると僕は眠りについた。
(2)
ぶひっ。
桜子が椅子に座ると音が鳴る。
古典的ないたずら。
いつしかいたずらもネタ切れを起こしてつまらなくなっていた。
つまらないから授業は寝てる。
FAも活動休止してるのか?
だが、他のクラスを見てるとそうでもないらしい。
ただ私達を見ると大人しくなる。
黒頭巾の連中もいなくなっていた。
私達の的になるのを恐れているのだろう。
つまんない。
学校ってこんなに面白くないところだったのか?
合法的に虐める方法を考えた。
一年の連中がドッジボールをやっている。
6年生相手に奮闘している。
これだ!
「私達も混ぜろよ!」
1年に言うと一年の味方に加わる。
そして6年を袋叩きにする。
ちゃんとスポーツをやってるつもりだ。
ただ顔とかに思いっきりぶつけてうずくまったところにボールを投げつけているだけ。
でも昼休みが終ると同時に飽きた。
つまんない。
FGも以前のような威勢はどこにもなく、私達に怯えている。
授業中も私達のクラスは大人しい。
メッセージで知った事。
SHのメンバーの居るクラスは皆大人しいらしい。
目をつけられるのを恐れているそうだ。
つまんない、退屈な一日を終えて家に帰る。
翼と空は一緒に過ごしている。
私は大地とメッセージを交わしてる。
それは夕食を食べて風呂に入った後も続いた。
肩透かしを食らった一日はそうやって終わった。
(3)
給食の時間。
僕達のクラスは班ごとにテーブルを並べて食べる。
1人ぼっちが出ないようにするための工夫らしい。
僕達の班は4人。
僕・片桐純也と茜、石原梨々香と佐原壱郎、小泉秀史と大原紫の6人だった。
秀史と紫は2人で仲良く話しながら食べてる。
「2人とも本当に仲が良いね」
茜が言った。
2人とも照れ笑いをしていた。
「いつも一緒なの?」
茜がさらに聞いていた。
「学校の間だけかな」
紫が答えていた。
「ふーん……なるほどね」
そんな話を聞きながら僕は給食を食べていた。
「茜ちゃんはどんな人が好きなの?」
紫が聞いていた。
「月並みだけど明るくて優しい人かな」
「うーん、壱郎君とかちょうどいいんじゃない?」
紫がそう言った。
「確かに壱郎ならうってつけかもこう見えて頼りになるし」
秀史まで話に乗る。
「ええ、でも。壱郎君の気持ち聞いてみないとだめだよ」
茜が答える。
「じゃあ、今聞いてみたら?」
紫が言う。
「どうだ?茜って結構可愛いし良い子だと僕は思うんだけど」
秀史の言う通り悪くはない。
成績は良い、見た目も良い、人当たりも悪くない。
しかし、こんな馴れ初めでいいの?
まあ、茜に恋愛と言うのに興味があったのかは知らないけど。
「茜が良いなら僕はかまわないけど」
「本当!?嬉しいな~」
「良かったね茜ちゃん」
別に小学生が付き合うからといって特別な仲になるわけじゃない。
そんな感じで壱郎と茜は付き合うことになった。
それから壱郎が家に茜を迎えに来るようになった。
登校してから下校するまでずっと一緒の時間をすごす。
それだけ一緒にいたら当然回りも気づく。
「佐原!お前片桐と出来てるのか?」
そんなどうでもいいようなことを聞いてくる輩も出てくる。
「そうだけどそれがどうかしたの?」
それから秀史や紫だけだった冷やかしの的は茜達にもむけられるようになった。
手をつないで歩いているだけで揶揄われ、目と目が合っただけで揶揄われ。
給食の時間は「おみあいか?」と揶揄される。
さすがに担任が注意をする。
恋愛に夢中になって学業を疎かにするな!
それは言わせなかった。
常に学年の上位にいたのだから。
ただ、親には伝えられたらしい。
だけどりえちゃんはそんな密告相手にしなかった。
休みの日に「デートくらいして来たらどうなの~?」と言ってるくらいだ。
だけど小学校3年生じゃそんなに遠くに移動できるわけもなく、学校の中でデートをしているのが精いっぱいだった。
けれど、数日たつと茜の様子が変わる。
壱郎と一緒にいるのを避けるようになった。
揶揄われるのがいやになったのか、単純に壱郎を嫌いになったのか?
特別気にもとめなかった。
2人は秀史と紫のようにはなれなかった。
それだけの話だ。
そう思っていた。
梨々香と日直の日。
誰も残ってないはずの教室に戻ろうとすると、茜と壱郎が教室を覗いていた
「何やってるの?」
僕がそういうと茜が人差し指を口に当てて静かにしてるように言った。
気づかれないように教室を覗くと秀史と紫がいる。
2人抱き合っていた。
そして僕は生まれて初めて生のキスシーンに遭遇した。
じっと見ている。
そんな時茜がぼそりと呟いた。
「私達もあんな風になりたかった」
直感した。
これが神様のくれた最後の機会だぞ、壱郎。
「茜」
壱郎が茜を呼ぶと茜がが振り向く。
壱郎は茜の唇に自分の唇を重ねていた。
初めての妹のキスを目の当たりにしてしまった。
苺の味がするとかレモンの味がするとか言われてるけど、どんな味がしたのだろう?
茜は怒り出すのだろうか?
そんな事も考えていた。
でもどうせ最後になるなら……と、思ったのだろうか?
壱郎は思いっきり茜を抱きしめる。
時間が止まったかのように茜達はずっと口づけをしていた。
僕達も周りの事なんて気にも留め図ただ二人を見守っていた
だけど終わりは突然来る。
「茜ちゃん達何してるの?」
紫の声が時間を元に戻した。
慌てて壱郎から離れる紫。
思った以上に動揺していた。
どう弁明するのだろうか?
悪い事をしたとは思わないけど、茜はどう思っているのだろう?
黙り込んでいる2人。
「紫ちゃんだってしてたじゃない。私達見ちゃったよ」
茜は笑って言った。
気にも留めてないようだ。
ただ、茜の小さな手が壱郎の手を握っていた。
「あちゃあ、観られちゃったか。お互い様だね」
そう言って2人は笑う。
6人で昇降口に向かう。
「じゃあ、また明日」
そう言っていつも通り帰った。
あの時、2人は終わりが来たと思ったけどそれは間違いだった。
だって始まってすらいなかったのだから。
時計が止まったと思ったあの瞬間から茜達の時計は動き始める。
キスは始まりの風の音だったんだ。
次の日の朝、壱郎と会う。
「おはよう」
「おはよう」
茜は壱郎と挨拶する。
いつもの笑顔だった。
だけどそれはかけがえのない大切な物。
冷やかされても揶揄われても。
2人一緒なら笑っていられる。
それって秀史と紫のあの一場面なんじゃないか?
そうか、やっと辿り着いたんだな。
朝と夜の狭間、恋の炎は揺らめき。
かけがえのない宝石のような想いを手にしようと腕を伸ばし
運命の風車が回れば星屑は煌めいて
天使が笑う、美しき幻想の葡萄酒の様な苦い夢に、賢者も忌避する伝言の真意を僕達は識る。
右手は茜、左手は壱郎。
傾かざる茜達の想いの天秤。
茜達の恋物語は今始まった。
(4)
新学期が始まって私は空の隣にいる事を許されるようになった。
帰りも空を待って一緒に帰るようになった。
翼は翼の父さんが迎えに来て事務所に通っている。
天音も何かを察していたのか大地と2人で帰るようになった。
空の気分が沈んでいるのは、心を読めない私でも見てわかる。
やっぱり私じゃダメなんじゃないのか?
でも、諦めるわけにはいかない。
これが最後のチャンスなのだから。
精一杯空の気分を盛り上げようとした。
でも空は全く話を聞いてくれようとしない。
私は嫌われている?
そんな不安が今日ついに爆発した。
「空は私といるのがいや?」
「そう言うわけじゃないんだけど……」
「だったらもっと明るく笑えよ。翼といる時はいつも笑顔だったじゃないか!」
余計な事を言ってしまったかもしれない。
「僕は翼に嫌われてしまったのだろうか?」
空の本音が聞けた。
「……それはねーよ」
「どうして水奈にわかるんだ?」
翼と空の事は2人にしか分からないと思っていたらしい。
だけどそれは大きな間違いだ。
「……野生ではな、子供が大人になると敢えて突き離すそうだ」
「え?」
空は私の顔を見た。
私は話をつづけた。
「翼は今でも空の事が好きだよ。私が保証する」
「じゃあ、どうして?」
「翼は今モデル業で忙しいから。翼は空に構ってやれないから。空が寂しがってるんじゃないか?そう思ってるらしい」
「なんで水奈が知ってるの?」
「……どうして私が空と一緒にいると思う?」
「え?」
空には翼との約束の話は秘密という約束だ。
「空が寂しくないように、傷つかないように、私に出来るのは空の隣にいるって伝える事だけだ」
「……僕がそばにいて欲しいのは翼だ」
「そんな事分かってる!」
私は思わず叫んでいた。
そんな私に空は驚いていた。
「でもそれで本当にいいのか?翼にいつまでも空の心配をさせて、翼の足を引っ張って良いのか?」
「それは……」
「翼は自分の道を見つけたんだ。だったらそれを見守ってやるのが空の役目じゃないのか?」
空はもう1人でも大丈夫って伝えてやる事じゃないのか?
空は黙って私の話を聞いていた。
「空を独りぼっちになんてさせない。だけどまず翼に甘えるのをやめるべきだ。翼を安心させてやれ」
その為なら私はどんなことだってしてやる。
空が寂しくないように、傷つかないようにいつだってここにいてやる。
「翼とはもう終わりなんだろうか?」
空はそんなことをぼそりと呟いていた。
「まだ終わってねーよ。多分一生終わらない。だってお前達は双子の姉弟なんだろ?」
どんな時だって一緒に響き合えるじゃないか。
「まずはそのしけた面やめろ。翼の前では笑ってやれ。悩みがあるなら私が聞いてやる」
「水奈はどうして僕にそこまでこだわるの?」
好きだからに決まってるだろ?
でも、まだその事を伝えるべきじゃない。
これじゃ弱ってる空をしとめようとしているだけだ。
そんなやり方私は嫌だ。
ちゃんと空が翼の手から離れたらきちんと伝えよう。
「友達の心配して悪いか?」
それがギリギリのライン。
「ありがとう、水奈にも心配かけたみたいだね。僕も努力するよ」
空はそう言って笑った。
それが作り笑いでもいい。
いつかちゃんと心から笑えるようにしてやるから。
空の家の前に着くと私は自分の家に帰ろうとした。
すると空が私を呼び止めた。
「また、水奈に相談してもいいかな?」
「いつでも待ってる」
空は私の気持ちに気付く余裕なんてないのだろう?
だけどそれでいい。
今はまだ空が巣立つのをただ待ってるだけだ。
(5)
今日もレッスンを終えたのは21時過ぎだった。
「毎日大丈夫?勉強疎かにしたらだめよ?」
美希の母さん、石原恵美はそう言った。
勉強は大丈夫、授業を聞くまでもなく理解できるから。
それよりモデルの仕事の方が大事だった。
歩き方ひとつとっても意識しないとすぐにスタイルや表情が崩れてしまう。
ランウェイで目立つのはモデルじゃない。衣裳だ。
衣裳を目立たせる歩き方を学んでいた。
ようやくそれが体に馴染んで来ようとしていた。
レッスンを終えると家に帰る。
パパが迎えに来てくれる。
なんとなく空の様子を聞いていた。
気にしてる場合じゃないのに。
仕事に専念すると覚悟したときから、水奈と約束した時から私は空から手を引くと決めていた。
案の定空は不安でいっぱいだったらしい。
でも振り返ったらだめだ。
敢えて突き放さないとだめだ。
どうせ、一緒に入られないのだから。
「翼なら今まで通りでもやっていけると思ったんだけどね」
パパがそう言った。
そうかもしれないけど私は夢に向かって全力をだしたい。
「……パパはバスケをしていた時はどうだった?」
「夢中だったよ。ただ終着点は決めていた。愛莉がいたから」
世界の頂点に立つという目的があったのは聞いていた。
その為に全力を注いで、結果愛莉と喧嘩して、それでも愛莉はパパを支えた。
愛莉だけじゃない、仲間が支えてくれたと聞いている。
でも私は違う。
私が目指すのはモデルなんかじゃない。
もっとその先の未来。
それは林田さんから話を聞いた時から考えていた。
その為には空の事を気にかけている余裕はない。
今はそれでもいいかもしれない。
でもいずれは空を残して私は旅立つ。
その時に空に挫けない強さを最後に残してあげたい。
そんな私の主張をパパに話していた。
「翼は空の事が本当に好きなんだね」
「……うん」
「父さんは翼の意思を尊重するよ。空もそろそろ自分を持つ時がきたのかもしれないね」
そう言ってパパは黙ってしまった。
家に帰ると夕飯を食べて風呂に入る。
空は一人で何かをしているようだ。
もう22時は過ぎている。
大人しく自分の部屋に戻る。
私が空にしてやれる最後の贈り物……か。
考えると泣きたくなる。
「大丈夫だ、空の事は私が守るから」
天音が言う。
「ごめん、よろしく頼む」
「任せとけ」
天音はそうは言うけど天音だっていつかは家を出るんだ。
その代わりを用意してやる必要があった。
本当は空自身が自分で探せばいいのだけど不安だった。
だから水奈と約束した。
水奈に任せるしかない。
水奈ならきっと大丈夫。
すると空からメッセージが届いた。
「ごめん、僕は1人でも歩けるように頑張るから。翼は仕事に専念して」
何があったのか知らないけど空の心境が変わったのだろうか?
水奈に聞いてみた。
「約束は守るよ」
ただ一言そう返ってきた。
嬉しくもあり寂しくもある。
愛莉やパパも同じ目線で私たちを見守っていてくれるのだろうか?
ならば、私に出来る事はただ一つ。
安心させてやれることだけ。
1人でも大丈夫だからと伝える事だけ。
あとは空の心次第。
私に残された期限はそんなに残っていなかった。
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