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2ndSEASON
永い夜でも
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(1)
「じゃあ、責任持ってお預かりしますね」
「ご迷惑をおかけします、うちとしても助かります」
母さんが瞳子のお母さんと話をしている。
瞳子が車に乗り込むと車は走り出す。
行先は「酒井リゾートフォレスト」
県内に出来た新しいテーマパーク。
テーマパークだけじゃない宿泊施設、オートキャンプ場、レーシングカートの練習コース、オールシーズン用のフィギュアスケート練習用のスケートリンク。
神はこの県にフィギュアスケート選手でも作るおつもりなのだろうか?
「神様だって自棄になることがあるんだよ」
父さんはそう言って笑っていた。
行くのは僕達と中山家だけじゃない。
誠司と誠司の彼女赤西冴、あとは冬莉の彼氏の高久隼人、あとこの前キャンプに行ったメンバーで行くそうだ。
山のふもとのコンビニに集まる。
皆揃うと出発する。
誠司の父さんの運転は上手い。
滅茶苦茶飛ばす。
その後に続々と父さんの車を追い越して誠司のお父さんの車を追いかけていく。
「誠司のお父さんってレーサーでもやっていけるんじゃないかな」
僕は父さんに聞いてみた。
こんな狭い山道をあんなスピードで駆け抜けるんだからきっと広いレース場ならもっと早いはず。
「冬吾君、ただスピードを出せばいいってものじゃないんだよ」
瞳子が言った。
スピードを出すだけならアクセルを踏んでカーブでブレーキをかければいい。誰でも出来る事だ。
でも父さんはしない。
それは度胸がないだけじゃないの?
そう言うと父さんはただ笑っていた。
「冬吾、もしあなたが免許を取ってもあんな危険な運転はしてはいけません。挑発されても乗らない勇気も時として必要です」
母さんが言った。
「冬吾はサッカー選手になるのが夢なんだよね?」
「うん!」
父さんの質問に僕は答えた。
サッカーで世界で活躍する。
僕の夢。
「だったら事故をして怪我をするなんてリスクを背負ったらだめだ。サッカー選手は身体が資本なんだから」
「事故らなかったらいいの?」
「冬吾。あのくらいのスピードになるとね、反射神経の問題じゃなくなるんだ」
例えば時速50キロで走った場合危険を察知して静止するまでに15メートルの距離が必要らしい。
倍の時速100キロで走った場合60メートル以上必要とする。
それもすぐに危険を悟った場合での話だ。
そこから先はもう予測するして走るしかない。だけど人間が集中し続けていられるのは2時間が限界らしい。
それも一切おしゃべりも音楽も聴かずにただ2時間運転に集中する。
「そんなデート楽しい?」
父さんが聞いてきた。
ちなみに時速50キロで走っていて歩行者に当たった場合歩行者の致死率は80%あるらしい。
時速50キロと言えば今父さんが走っている速度。
十分法定速度以下の速度だ。
それでも車は他人を殺める兵器となる。
「父さんは平気なの?」
「まあ、経験と勘かな」
伊達に20年近く運転してないからね。
結局は経験と勘だけを頼りに走るしかないという。
父さんは車のエンジンをかけただけで車の運動性能を把握する能力を持っているらしい。
多分空兄さんや僕も持っているだろうという。
でもそれは暴走行為を肯定する為のものじゃない。
その能力を持っているから父さんの言う事が理解できるはずだよと父さんは言う。
チートみたいな能力を持っていても危険が付きまとう運転。
それは才能や努力で覆されるものじゃない。
物理的データが証明している。
「じゃあ、なんで誠司の父さんは飛ばすの?」
「それはあとで分かるよ」
父さんと母さんはそう言って笑っていた。
目的地に着くと駐車場で誠司の父さんをはじめとして何人かのお父さんがお母さんに怒られた。
「子供が乗ってる時くらい自重しろといつも言ってるだろ!」
「遊がカッコいいから僕も将来父さんみたいになるとか言い出してるぞ!どうするつもりだお前は!」
「隆司さんもです。そんなに一家心中させたいんですか!」
「娘にカッコいい所見せようとしてるんでしょうけど逆効果です!輝夜はかずさんを軽蔑してますよ!」
瞳子が僕の腕を引っ張る。
「父さんの運転もああなの。街中で飛ばしてすごく怖い。冬吾君はああならないでね」
スピードを出しても何の得もならないらしい。
スピード出した方がカッコいいかなって思ったけどそうでもないらしい。
(2)
テーマパークについた僕達は善明君のお母さんからチケットを渡された。
特別優待券。
全てのアトラクションで使えるフリーパス。
昼食もただ。
施設はすべて自由に使える。
さすがオーナー。
チケットを受け取ると水奈と一緒に入場ゲートをくぐり抜ける。
案内マップを渡される。
数多くのアトラクションとお店。
今日だけで全部回るのはちょっと無理かな?
「またくればいいよ」
水奈が言う。
「そうだね。とりあえずどれに乗りたい?」
「これかな」
園内1の人気アトラクション。
絶叫系の奴だ。
まずは絶叫系から攻めていった。
昼食の休憩を挟みながら色々なアトラクションに乗る。
ただ1時間は余裕を見て置いた。
水奈とショッピングを楽しむため。
色々な雑貨やおもちゃがおいてある。
さすがに玩具を買って喜ぶ歳じゃないけど。
と、思ったら歳は関係ないらしい。
学の父さんが物色してた。
「いい歳して何してんだおまえは!」
奥さんと口論になってた。
水奈は一組のマグカップを見ていた。
欲しいのかな?
「どうしたの?」
「いや、前に愛莉が言ってたことを思い出してさ」
2人で揃ってモーニングコーヒーを飲むって習慣。
そういう事か。
「買ってあげようか?」
「いつかそういう日が来るときまで楽しみにとっておくよ」
「そっか、じゃあ良い事教えてあげる」
「どうしたの?」
「実はこの前父さんと話をしたんだ」
8月に入ってすぐの頃だったかな。
「父さん、僕大学に行ったら1人で生活しようと思うんだ。もちろん生活費はバイトしてなんとかするから」
「そうなんだ」
「寂しくなりますね」
父さんと母さんが言う。
「愛莉もその覚悟はできてたんだろ?あんな提案をしてきたんだし」
「ええ、それが私達に出来る最後の贈り物だと思うから」
贈り物?
「空がちゃんと高校を卒業したら卒業祝いをプレゼントしてあげる。それは同時に試験だ」
「どういう意味?」
「その時までのお楽しみ。その試験に合格したら僕達から空達への最後の贈り物をしてあげる」
「最後?」
「ああ、そこからはもう一人前の大人だ」
父さんと母さんは笑っていた。
「そんな話してたんだ」
水奈が小物を物色しながら言った。
「うん、2人とも何か企んでるみたい」
「楽しみだね」
「うん」
一時間ちょっとの買い物を済ませると集合場所に向かう。
テーマパークからオートキャンプ場までは少し距離があるので車で移動する。
見渡す限りの平原。
芝生の上にテントを設置する。
冬吾と誠司と隼人は父さん達とサッカーボールで遊んでいる。
瞳子たちはそれを見てる。
冬莉は一人で景色をスケッチしている。
他の皆もそれぞれの時間を過ごしている。
「う~ん、何も無いってのも自然でいいと思ったけど退屈ね。せめて湖くらい作ろうかしら」
昔のゲームで町を作っていくゲームがあった。
本当の地形データをもとに海抜とかを決められていたんだけど無視してまっ平の平地にして海や湖を作り、そして町を作っていく。
箱庭ゲームというやつだ。
本当は税収や借金をして町を運営していくんだけど、modと呼ばれるパッチファイルがあってそれを使って資金難が解消される。
ほかにも有志が作った建物データなどを作って綺麗な街を作っていくことから箱庭ゲームとして長年に渡って人気を博したシリーズ最高傑作。
善明君のお母さんにとって街づくりはゲーム感覚なんだろうなと思った。
でもこれだけ広い空なんだ。
大阪に比べて地元は空が広いと思ったけど、此処は文字通り360度パノラマだ。
きっと今夜は綺麗な星空が見れるに違いない。
望遠鏡なんて必要ない。
天文学の知識なんて必要ない。
ただ星が綺麗だ。
それだけでいい。
春は夜桜、夏には星、秋は満月、冬には雪。それだけで十分酒は上手い。
お酒はまだ早いけど僕には水奈がいる。
それだけで十分だ。
それでも不味いのであれば、それは自分自身の何かが病んでる証だ。
そんな事も言っていたな。
「何考えてるの?」
水奈が隣に座った。
「空が綺麗だからさ、星空も綺麗なんだろうなって眺めていた」
「空って天体ヲタクだった?」
「違うけど、でもそのくらい思ったって罰あたらないだろ?」
「そうだね、じゃあ今夜二人で天体観測しようよ」
「いいよ」
「じゃ、そろそろ夕飯の支度するらしいから空も火おこしくらい手伝えよ」
「分かった」
水奈は立ち上がると炊事場へと向かう。
僕はテントへ向かった。
(3)
「じゃ、今日も乾杯」
渡辺さんが言うと宴の始まり。
僕はひたすら食べる。
天音も普段あるパーティとは違う身内のBBQだ。
遠慮なく食べる。
そして大地に大量の肉を勧める。
「大地も食え!普段からってスタミナつけろ!だから本番になって醜態をさらすんだぞ!」
大地が何をやったのかは男性陣はあえて触れないようにした。
きっと傷口に塩を塗る行為だと思ったから。
しかし急に食えと言われて食えるはずがない。
「しょうがないな。はい、あーん」
「ま、まってちょっと飲み物飲ませて」
「情けない事言ってるんじゃねえ!それとも何か彼女のあーんがお気に召さないというのか!?」
そんな事を言うと大地のお母さんが黙っていない。
「大地。あなたやはり夏休みの残り期間合宿したほうがいいんじゃないの?」
合宿の二文字を聞くと大地君は無理でも食べた。
合宿ってなにがあるんだろう?
「空君も大学生になったら分かりますよ」
大地のお父さんがそう言った。
食べ終わると女性陣が炊事場に洗い物に行く。
僕も手伝った方がいいかな?
ついて行こうとしたら水奈の父さんに止められた。
「お前は残れ。大事な話がある」
僕達は学の父さんと誠司の父さんの前に座らせられている。
「いいか、これから教えるのは男として生きていく上で大切な事だ」
学の父さんが言った。
「多分ここにいるやつらの大半が女の尻に敷かれて困っているだろう」
別に困ってはないけどな。
「いいか、何でもはいはい言いなりになってるだけじゃダメだ。黙って俺についてこいくらいは言えないと男じゃない!」
誠司のお父さんが言う。
父さん達は何も言わない。
ただ笑顔をを作っている。
「堂々としてればいいんだ!お前たちはまだ中学生と思ってるかもしれないがもう中学生だ。この先では手遅れだ!」
冬吾と誠司と隼人は寝てる。
冬吾は夜食のラーメンを食べたがっていたけど、眠気には勝てなかったみたいだ。
「女って生き物はつけあがらせるとどこまでもつけあがる。最初が肝心だ」
「空、他人事だと思って聞いていたら大間違いだぞ!一番危険なのはお前だ」
「確かに水奈は神奈さんに似てそうだな!」
「空はもう水奈とやったのか!?水奈はどうだった!?神奈に似て床上手だったか!?」
どう返事すればいいんだろう?
反応せずにただ笑っていた。
心は読めないけど気配くらいは読める。
そして今全力でやばいと全神経が継げている。
「誠、今夜はここまでにしよう」
「冬夜、父親のお前がそんなんだから空の威厳ってものが無くなるんだろうが!」
「いや、そうじゃなくて……」
「冬夜、お前が率先して父親の威厳を見せてやるべきだろうが!」
「もはや使い道のない嫁に何びびってんだよ」
水奈の父さんと学の父さんは気づいてないらしい。
「父親の威厳か、そんな立派なものがお前にあったとは初耳だぞ」
「使い道のない嫁?随分言いたい放題言ってくれるわね……」
水奈と学のお母さんが二人を睨みつける。
「あ、ああ。神奈戻ってきてたのか」
「亜依……お疲れ様」
さっき言ってた威厳ってのが全く見えないんだけど?
「空、約束。天体観測しよう?」
「ああ、そうだね」
水奈に言われると父さんを見る。
早くこの場から逃げるようにと手を振っている。
「この馬鹿は子供に何を吹き込んでるんだ!」
「遊が影響すぐ受けるから止めろと言っただろうが!」
「でも男のプライドって大事じゃないか?」
「早々、ちょっとくらいやんちゃな方が男らしいって!」
「じゃあ、私達が聞いていても問題ないな?」
「い、いや。そろそろ男同士の話って重要じゃね?俺達は人生の先輩として……」
「お前みたいなのを反面教師っていうんだ!」
「空はいい子に育ってるの、変な知識入れ知恵するのはやめて!」
夜食の時間まで口論は続いたと後で父さんから聞いた。
(4)
テントから少し離れたところで水奈と芝生に寝そべって星空を見ていた。
どれが天の川でどれが夏の大三角なのかさっぱりわからない。
ただ無数の星の光が煌めいているというだけだった。
「水奈、観て。あれが水奈が生まれた年の光だよ」
そんなセリフが言えたらどれだけかっこいいだろう?
カッコいいと思った。
ただの天体ヲタクだけど。
「綺麗だな」
水奈が言う。
水奈も星に見とれているようだ。
もっとも「やっぱり夜は冷えるね」ってくっついて来るけど。
パーカーくらいは羽織ってるよ。
お互いあまりしゃべらなかった。
見て感じたことを想ってそれを言葉にするだけで十分だったから。
二人しかいない星空の下で芝生に寝転んで星空を眺めている。
自然のプラネタリウムでのデート。
中学生には豪華なデートだ。
「で、私の父さん達から何聞いてたんだ?」
水奈が聞いてきた。
「大したことじゃないよ……多分」
男の威厳がだとかプライドがどうとかそんな話。
「空は私の事口うるさい女だと思ってる?」
そんな質問をされて「うん」と言える猛者が居たら見てみたい。
「水奈は僕の意見を尊重してくれてると思うよ」
「うん」
水奈の機嫌を損ねずにすんだようだ。
こんなエピソードがあった。
男のプライドだとか威厳だとかみっともないとか。
そんなものは妻の為、子供の為なら喜んでくれてやると言った父親がいるんだそうだ。
僕も同じことを今思っている。
水奈の為ならそんなものその辺の石ころのような物だ。
そんなものより大切な時間が人が場所がある。
だから僕は平気。
「ねえ、空」
「どうした?」
「私も同じだよ」
「え?」
「空の為なら何でもする」
「それは考えるだけ無駄だよ」
「どうして?」
「だって、僕はそんなことさせないように全力で水奈を守って見せるから」
「そっか……そうだよね!」
水奈は笑ってた。
「空と水奈。夜食出来ましたよ」
母さんが呼んでる。
「今行く」
「待って空」
水奈が後ろから抱き着いてくる。
しばらくじっとそのまま立っていた。
やがて水奈が離れると手を繋いでテントに戻る
「空があるから翼を羽ばたかせる場所があるんだよ」
「……翼が飛ぶ場所は僕が用意してあげる」
「うん」
そんな話を翼としたことがある。
翼は今悠々と大空を飛んでいる事だろう。
僕がしてやれることはあの時全部したはずだ。
次に僕がすることは水奈の目指す空に導いてやる事。
僕達はテントに戻って夜食を食べると飲み物を飲みながら眠りについた。
花が風に揺れおどるように、雨が大地を潤すように、この世界は寄り添い合い生きてる。
例え翼が遠くに行ってもまだいつもこの心の真ん中にある。
優しい笑顔で埋め尽くされたまま、抱きしめる君の欠片。
痛みを感じてもまだリンク出来てるから信じてる。
君の孤独を分けて欲しい。
光でも闇でも二人だから信じあえるから離れないで。
世界の果てを誰がみたのだろう?
旅の終わりを誰が告げるのだろう?
今は答えが見えなくて永い夜でも信じた道を進んで行こう。
その先に在るのは光だから。
翼が教えてくれた唄は今もこの心の中にある。
あの優しい声と共に響いてくる溢れる気持ちの雫が溢れる。
強くなるから。
信じてるから。
繋がっているから、君の孤独を分けて欲しい。
光でも闇でも、悲しみでも喜びでも君の全てを守りたい。
どんなに道に迷っても僕はそばにいるから。
二人だから信じあえる。
僕達二人はどんなことがあっても離れない。
「じゃあ、責任持ってお預かりしますね」
「ご迷惑をおかけします、うちとしても助かります」
母さんが瞳子のお母さんと話をしている。
瞳子が車に乗り込むと車は走り出す。
行先は「酒井リゾートフォレスト」
県内に出来た新しいテーマパーク。
テーマパークだけじゃない宿泊施設、オートキャンプ場、レーシングカートの練習コース、オールシーズン用のフィギュアスケート練習用のスケートリンク。
神はこの県にフィギュアスケート選手でも作るおつもりなのだろうか?
「神様だって自棄になることがあるんだよ」
父さんはそう言って笑っていた。
行くのは僕達と中山家だけじゃない。
誠司と誠司の彼女赤西冴、あとは冬莉の彼氏の高久隼人、あとこの前キャンプに行ったメンバーで行くそうだ。
山のふもとのコンビニに集まる。
皆揃うと出発する。
誠司の父さんの運転は上手い。
滅茶苦茶飛ばす。
その後に続々と父さんの車を追い越して誠司のお父さんの車を追いかけていく。
「誠司のお父さんってレーサーでもやっていけるんじゃないかな」
僕は父さんに聞いてみた。
こんな狭い山道をあんなスピードで駆け抜けるんだからきっと広いレース場ならもっと早いはず。
「冬吾君、ただスピードを出せばいいってものじゃないんだよ」
瞳子が言った。
スピードを出すだけならアクセルを踏んでカーブでブレーキをかければいい。誰でも出来る事だ。
でも父さんはしない。
それは度胸がないだけじゃないの?
そう言うと父さんはただ笑っていた。
「冬吾、もしあなたが免許を取ってもあんな危険な運転はしてはいけません。挑発されても乗らない勇気も時として必要です」
母さんが言った。
「冬吾はサッカー選手になるのが夢なんだよね?」
「うん!」
父さんの質問に僕は答えた。
サッカーで世界で活躍する。
僕の夢。
「だったら事故をして怪我をするなんてリスクを背負ったらだめだ。サッカー選手は身体が資本なんだから」
「事故らなかったらいいの?」
「冬吾。あのくらいのスピードになるとね、反射神経の問題じゃなくなるんだ」
例えば時速50キロで走った場合危険を察知して静止するまでに15メートルの距離が必要らしい。
倍の時速100キロで走った場合60メートル以上必要とする。
それもすぐに危険を悟った場合での話だ。
そこから先はもう予測するして走るしかない。だけど人間が集中し続けていられるのは2時間が限界らしい。
それも一切おしゃべりも音楽も聴かずにただ2時間運転に集中する。
「そんなデート楽しい?」
父さんが聞いてきた。
ちなみに時速50キロで走っていて歩行者に当たった場合歩行者の致死率は80%あるらしい。
時速50キロと言えば今父さんが走っている速度。
十分法定速度以下の速度だ。
それでも車は他人を殺める兵器となる。
「父さんは平気なの?」
「まあ、経験と勘かな」
伊達に20年近く運転してないからね。
結局は経験と勘だけを頼りに走るしかないという。
父さんは車のエンジンをかけただけで車の運動性能を把握する能力を持っているらしい。
多分空兄さんや僕も持っているだろうという。
でもそれは暴走行為を肯定する為のものじゃない。
その能力を持っているから父さんの言う事が理解できるはずだよと父さんは言う。
チートみたいな能力を持っていても危険が付きまとう運転。
それは才能や努力で覆されるものじゃない。
物理的データが証明している。
「じゃあ、なんで誠司の父さんは飛ばすの?」
「それはあとで分かるよ」
父さんと母さんはそう言って笑っていた。
目的地に着くと駐車場で誠司の父さんをはじめとして何人かのお父さんがお母さんに怒られた。
「子供が乗ってる時くらい自重しろといつも言ってるだろ!」
「遊がカッコいいから僕も将来父さんみたいになるとか言い出してるぞ!どうするつもりだお前は!」
「隆司さんもです。そんなに一家心中させたいんですか!」
「娘にカッコいい所見せようとしてるんでしょうけど逆効果です!輝夜はかずさんを軽蔑してますよ!」
瞳子が僕の腕を引っ張る。
「父さんの運転もああなの。街中で飛ばしてすごく怖い。冬吾君はああならないでね」
スピードを出しても何の得もならないらしい。
スピード出した方がカッコいいかなって思ったけどそうでもないらしい。
(2)
テーマパークについた僕達は善明君のお母さんからチケットを渡された。
特別優待券。
全てのアトラクションで使えるフリーパス。
昼食もただ。
施設はすべて自由に使える。
さすがオーナー。
チケットを受け取ると水奈と一緒に入場ゲートをくぐり抜ける。
案内マップを渡される。
数多くのアトラクションとお店。
今日だけで全部回るのはちょっと無理かな?
「またくればいいよ」
水奈が言う。
「そうだね。とりあえずどれに乗りたい?」
「これかな」
園内1の人気アトラクション。
絶叫系の奴だ。
まずは絶叫系から攻めていった。
昼食の休憩を挟みながら色々なアトラクションに乗る。
ただ1時間は余裕を見て置いた。
水奈とショッピングを楽しむため。
色々な雑貨やおもちゃがおいてある。
さすがに玩具を買って喜ぶ歳じゃないけど。
と、思ったら歳は関係ないらしい。
学の父さんが物色してた。
「いい歳して何してんだおまえは!」
奥さんと口論になってた。
水奈は一組のマグカップを見ていた。
欲しいのかな?
「どうしたの?」
「いや、前に愛莉が言ってたことを思い出してさ」
2人で揃ってモーニングコーヒーを飲むって習慣。
そういう事か。
「買ってあげようか?」
「いつかそういう日が来るときまで楽しみにとっておくよ」
「そっか、じゃあ良い事教えてあげる」
「どうしたの?」
「実はこの前父さんと話をしたんだ」
8月に入ってすぐの頃だったかな。
「父さん、僕大学に行ったら1人で生活しようと思うんだ。もちろん生活費はバイトしてなんとかするから」
「そうなんだ」
「寂しくなりますね」
父さんと母さんが言う。
「愛莉もその覚悟はできてたんだろ?あんな提案をしてきたんだし」
「ええ、それが私達に出来る最後の贈り物だと思うから」
贈り物?
「空がちゃんと高校を卒業したら卒業祝いをプレゼントしてあげる。それは同時に試験だ」
「どういう意味?」
「その時までのお楽しみ。その試験に合格したら僕達から空達への最後の贈り物をしてあげる」
「最後?」
「ああ、そこからはもう一人前の大人だ」
父さんと母さんは笑っていた。
「そんな話してたんだ」
水奈が小物を物色しながら言った。
「うん、2人とも何か企んでるみたい」
「楽しみだね」
「うん」
一時間ちょっとの買い物を済ませると集合場所に向かう。
テーマパークからオートキャンプ場までは少し距離があるので車で移動する。
見渡す限りの平原。
芝生の上にテントを設置する。
冬吾と誠司と隼人は父さん達とサッカーボールで遊んでいる。
瞳子たちはそれを見てる。
冬莉は一人で景色をスケッチしている。
他の皆もそれぞれの時間を過ごしている。
「う~ん、何も無いってのも自然でいいと思ったけど退屈ね。せめて湖くらい作ろうかしら」
昔のゲームで町を作っていくゲームがあった。
本当の地形データをもとに海抜とかを決められていたんだけど無視してまっ平の平地にして海や湖を作り、そして町を作っていく。
箱庭ゲームというやつだ。
本当は税収や借金をして町を運営していくんだけど、modと呼ばれるパッチファイルがあってそれを使って資金難が解消される。
ほかにも有志が作った建物データなどを作って綺麗な街を作っていくことから箱庭ゲームとして長年に渡って人気を博したシリーズ最高傑作。
善明君のお母さんにとって街づくりはゲーム感覚なんだろうなと思った。
でもこれだけ広い空なんだ。
大阪に比べて地元は空が広いと思ったけど、此処は文字通り360度パノラマだ。
きっと今夜は綺麗な星空が見れるに違いない。
望遠鏡なんて必要ない。
天文学の知識なんて必要ない。
ただ星が綺麗だ。
それだけでいい。
春は夜桜、夏には星、秋は満月、冬には雪。それだけで十分酒は上手い。
お酒はまだ早いけど僕には水奈がいる。
それだけで十分だ。
それでも不味いのであれば、それは自分自身の何かが病んでる証だ。
そんな事も言っていたな。
「何考えてるの?」
水奈が隣に座った。
「空が綺麗だからさ、星空も綺麗なんだろうなって眺めていた」
「空って天体ヲタクだった?」
「違うけど、でもそのくらい思ったって罰あたらないだろ?」
「そうだね、じゃあ今夜二人で天体観測しようよ」
「いいよ」
「じゃ、そろそろ夕飯の支度するらしいから空も火おこしくらい手伝えよ」
「分かった」
水奈は立ち上がると炊事場へと向かう。
僕はテントへ向かった。
(3)
「じゃ、今日も乾杯」
渡辺さんが言うと宴の始まり。
僕はひたすら食べる。
天音も普段あるパーティとは違う身内のBBQだ。
遠慮なく食べる。
そして大地に大量の肉を勧める。
「大地も食え!普段からってスタミナつけろ!だから本番になって醜態をさらすんだぞ!」
大地が何をやったのかは男性陣はあえて触れないようにした。
きっと傷口に塩を塗る行為だと思ったから。
しかし急に食えと言われて食えるはずがない。
「しょうがないな。はい、あーん」
「ま、まってちょっと飲み物飲ませて」
「情けない事言ってるんじゃねえ!それとも何か彼女のあーんがお気に召さないというのか!?」
そんな事を言うと大地のお母さんが黙っていない。
「大地。あなたやはり夏休みの残り期間合宿したほうがいいんじゃないの?」
合宿の二文字を聞くと大地君は無理でも食べた。
合宿ってなにがあるんだろう?
「空君も大学生になったら分かりますよ」
大地のお父さんがそう言った。
食べ終わると女性陣が炊事場に洗い物に行く。
僕も手伝った方がいいかな?
ついて行こうとしたら水奈の父さんに止められた。
「お前は残れ。大事な話がある」
僕達は学の父さんと誠司の父さんの前に座らせられている。
「いいか、これから教えるのは男として生きていく上で大切な事だ」
学の父さんが言った。
「多分ここにいるやつらの大半が女の尻に敷かれて困っているだろう」
別に困ってはないけどな。
「いいか、何でもはいはい言いなりになってるだけじゃダメだ。黙って俺についてこいくらいは言えないと男じゃない!」
誠司のお父さんが言う。
父さん達は何も言わない。
ただ笑顔をを作っている。
「堂々としてればいいんだ!お前たちはまだ中学生と思ってるかもしれないがもう中学生だ。この先では手遅れだ!」
冬吾と誠司と隼人は寝てる。
冬吾は夜食のラーメンを食べたがっていたけど、眠気には勝てなかったみたいだ。
「女って生き物はつけあがらせるとどこまでもつけあがる。最初が肝心だ」
「空、他人事だと思って聞いていたら大間違いだぞ!一番危険なのはお前だ」
「確かに水奈は神奈さんに似てそうだな!」
「空はもう水奈とやったのか!?水奈はどうだった!?神奈に似て床上手だったか!?」
どう返事すればいいんだろう?
反応せずにただ笑っていた。
心は読めないけど気配くらいは読める。
そして今全力でやばいと全神経が継げている。
「誠、今夜はここまでにしよう」
「冬夜、父親のお前がそんなんだから空の威厳ってものが無くなるんだろうが!」
「いや、そうじゃなくて……」
「冬夜、お前が率先して父親の威厳を見せてやるべきだろうが!」
「もはや使い道のない嫁に何びびってんだよ」
水奈の父さんと学の父さんは気づいてないらしい。
「父親の威厳か、そんな立派なものがお前にあったとは初耳だぞ」
「使い道のない嫁?随分言いたい放題言ってくれるわね……」
水奈と学のお母さんが二人を睨みつける。
「あ、ああ。神奈戻ってきてたのか」
「亜依……お疲れ様」
さっき言ってた威厳ってのが全く見えないんだけど?
「空、約束。天体観測しよう?」
「ああ、そうだね」
水奈に言われると父さんを見る。
早くこの場から逃げるようにと手を振っている。
「この馬鹿は子供に何を吹き込んでるんだ!」
「遊が影響すぐ受けるから止めろと言っただろうが!」
「でも男のプライドって大事じゃないか?」
「早々、ちょっとくらいやんちゃな方が男らしいって!」
「じゃあ、私達が聞いていても問題ないな?」
「い、いや。そろそろ男同士の話って重要じゃね?俺達は人生の先輩として……」
「お前みたいなのを反面教師っていうんだ!」
「空はいい子に育ってるの、変な知識入れ知恵するのはやめて!」
夜食の時間まで口論は続いたと後で父さんから聞いた。
(4)
テントから少し離れたところで水奈と芝生に寝そべって星空を見ていた。
どれが天の川でどれが夏の大三角なのかさっぱりわからない。
ただ無数の星の光が煌めいているというだけだった。
「水奈、観て。あれが水奈が生まれた年の光だよ」
そんなセリフが言えたらどれだけかっこいいだろう?
カッコいいと思った。
ただの天体ヲタクだけど。
「綺麗だな」
水奈が言う。
水奈も星に見とれているようだ。
もっとも「やっぱり夜は冷えるね」ってくっついて来るけど。
パーカーくらいは羽織ってるよ。
お互いあまりしゃべらなかった。
見て感じたことを想ってそれを言葉にするだけで十分だったから。
二人しかいない星空の下で芝生に寝転んで星空を眺めている。
自然のプラネタリウムでのデート。
中学生には豪華なデートだ。
「で、私の父さん達から何聞いてたんだ?」
水奈が聞いてきた。
「大したことじゃないよ……多分」
男の威厳がだとかプライドがどうとかそんな話。
「空は私の事口うるさい女だと思ってる?」
そんな質問をされて「うん」と言える猛者が居たら見てみたい。
「水奈は僕の意見を尊重してくれてると思うよ」
「うん」
水奈の機嫌を損ねずにすんだようだ。
こんなエピソードがあった。
男のプライドだとか威厳だとかみっともないとか。
そんなものは妻の為、子供の為なら喜んでくれてやると言った父親がいるんだそうだ。
僕も同じことを今思っている。
水奈の為ならそんなものその辺の石ころのような物だ。
そんなものより大切な時間が人が場所がある。
だから僕は平気。
「ねえ、空」
「どうした?」
「私も同じだよ」
「え?」
「空の為なら何でもする」
「それは考えるだけ無駄だよ」
「どうして?」
「だって、僕はそんなことさせないように全力で水奈を守って見せるから」
「そっか……そうだよね!」
水奈は笑ってた。
「空と水奈。夜食出来ましたよ」
母さんが呼んでる。
「今行く」
「待って空」
水奈が後ろから抱き着いてくる。
しばらくじっとそのまま立っていた。
やがて水奈が離れると手を繋いでテントに戻る
「空があるから翼を羽ばたかせる場所があるんだよ」
「……翼が飛ぶ場所は僕が用意してあげる」
「うん」
そんな話を翼としたことがある。
翼は今悠々と大空を飛んでいる事だろう。
僕がしてやれることはあの時全部したはずだ。
次に僕がすることは水奈の目指す空に導いてやる事。
僕達はテントに戻って夜食を食べると飲み物を飲みながら眠りについた。
花が風に揺れおどるように、雨が大地を潤すように、この世界は寄り添い合い生きてる。
例え翼が遠くに行ってもまだいつもこの心の真ん中にある。
優しい笑顔で埋め尽くされたまま、抱きしめる君の欠片。
痛みを感じてもまだリンク出来てるから信じてる。
君の孤独を分けて欲しい。
光でも闇でも二人だから信じあえるから離れないで。
世界の果てを誰がみたのだろう?
旅の終わりを誰が告げるのだろう?
今は答えが見えなくて永い夜でも信じた道を進んで行こう。
その先に在るのは光だから。
翼が教えてくれた唄は今もこの心の中にある。
あの優しい声と共に響いてくる溢れる気持ちの雫が溢れる。
強くなるから。
信じてるから。
繋がっているから、君の孤独を分けて欲しい。
光でも闇でも、悲しみでも喜びでも君の全てを守りたい。
どんなに道に迷っても僕はそばにいるから。
二人だから信じあえる。
僕達二人はどんなことがあっても離れない。
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