30歳魔法使いが新卒の女の子に恋される話

和希

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新入社員

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「おい、宮成!昨日の検討図シリンダー間違えてるじゃないか!」

夜遅くまで作業していて、疲れと焦りで品番チェックを忘れていたらしい。
設計は段階がある。
まず客先が仕様とフロー図を提供する。
それを元に設定された仕様に添うように検討図を作る。
それを組立図と部品図等に起こしていく。
検討図は大体の場合元の製品の図面がある。
その図面を要求された仕様に合わせていく検討。
大体サイズアップかコンパクト化に分けられる。
サイズアップはまだ楽な方だ。
余分なスペースが出来るから。
もちろん配管のサイズやフレームが大きくなったりするんだけど。
しかし、コンパクトになるとスペースが無くなってしまう。
その分無理矢理部品を詰め込んだり部品の形状を変えなければならない。
規制のシリンダーやモーターなんかも品番が変わる。
しかも、要求されたストロークや回転数なんかも合わせなければならない。
俺は機械・プラント設計の会社に再就職した。
面接の際、CADに映されたプラントのアイソメ図を見て「これ描ける?」と言われたから「大丈夫です」と答えた。
元々配管工の仕事をしていたし、工業化学の出身だったから自信はあった。
ところが入社したら。自動車のエンジンの気密検査のシール部分を検討しろと言われた。
当然意味が分からない。

「この隙間を埋めるシリコンを描いてくれたらいいから」

言ってる意味が全然分からない。
とりあえず参考図を元に作成していく。
当然でたらめな図面になっていた。
大阪から担当者が来て叱られている俺の担当。
俺には「絶対に名乗るな!」と言われたくらいだ。

「これを描いた人は経験者ですか?どの人ですか?」
「今少し客先に出かけてまして……」

そんな話を俺の目の前で聞いていた。

「サイズを小さくしてもらうようにお願いしたのに、どうしてフレームのサイズが大きくなってるんですか!?」

担当自体もメカトロに「触ったことがある」程度の経験でベテランというわけじゃない。
しかしとにかく口が上手い。
何とかして誤魔化していた。
客先が帰ると入れ違いに税理士の片桐空が入ってきた。
まだ若い女性が一緒について来ている。
スーツ姿だ、面接にでも来たのか?

「ああ、片桐さん。お待ちしてました」

社長が応対する。

「紹介します、妹の片桐冬莉です」

空さんが挨拶すると冬莉さんが頭を下げる。
礼儀正しそうな女性だ。
地元大学の理工学部を卒業したらしい。
しかし就職を嫌ってふらふらした生活を送っていた。
それを見かねてうちの会社に紹介したそうだ。
職歴は在学中に知り合いの設計会社の手伝いをしたくらい。
そこで正社員採用の話があったらしいけど断ったそうだ。
申し分ない経歴に社長も正社員を進めたが「派遣でいいです」との一点張り。

「いつから働けばいいですか?」
「準備が出来たらいつでも来て欲しい」
「じゃあ、明日から来ます」
「通勤はどうやってくる?」
「自動車で」

と、いうわけで明日から働く事になった。
次の日冬莉さんは時間通りに来ていた。

「今日から働く事になった片桐冬莉です。よろしくお願いします」

冬莉さんはそう言って頭を下げる。

「じゃあ、とりあえずは宮成の補佐をしてあげて」

俺も新人なんだけど、結構無茶な事いうよなぁ。

「先輩、何をしたらいいですか?」

何を指示したらいいですか?

「宮成君、昨日出来た検討図バラしてもらったら?」

担当の大島さんが言うのでそうすることにした。
バラすとは検討図で作った部品を一つ一つ部品図に起こしてもらう事。
それを最終的には組み立てて組立図に。
更に組み合わせて全体組立図に直していく。
冬莉さんは優秀だった。
そう、優秀過ぎるほどだった。

「先輩、これボルト穴とねじ穴のサイズ違います」
「位置決めのピンの位置がずれてます」
「ここの位置決めピンの公差はどうしたらいいですか?」
「この部品シリンダーに干渉してますよ」

次々と検討図の間違いを指摘する冬莉さん。
その都度書き直さなければならない。
そして検討図を書き直すと当然部品図も書き直しになる。
その日は検討図の修正で手一杯になっていた。
しかし当然今日やらなければいけない図面もある。
残業確定だった。
初日だから仕方ないのだろう。
異常なまでに気を張っている冬莉さんに「飴でも食べなよ」と渡してみる。

「結構です」

そして定時になると冬莉さんはそそくさと片付けて帰っていった。

「なんか感じ悪い子だね」

パートの宮田さんと渡瀬さんが話していた、

「宮成もしっかりしないと追い越されるぞ」

社長に言われる。
確かに手ごわい相手だった。
そんな彼女を俺の下につけた社長を恨んだ。
次の日また同じように指摘をされながら作業を続ける。
彼女が働いている間、社内は常にピリピリしていた。
喫煙者の喫煙の回数が増える。
社長は嫌煙家だ。
喫煙に行く社員を嫌っている。
それでも吸いに行くのが喫煙者。
こういう時喫煙者はいい。
一服してくるといって気分転換に行くことが出来る。
しかしそうじゃない者は気を紛らわす事が出来ない。
そう言う時の為に各々飴やガムを持っている。
やめろと言っても大島さんはお菓子を食ったり、昼休みにアニメを見ている。
たまに画面を見るとゲームをしていることもある。
まあ、PCで仕事をする人ならだれもがやる事だ。
噂では社内のPCをつかってP2Pのソフトを使っていてクビになった社員もいるほど。
なんとなく場を和ませようと「飴でも舐めて」とみんなに配る。
とうぜん冬莉さんにも配る。
断られると思っていたけど「ありがとうございます」と受け取ってくれた。
どういう心情の変化だ?
昨日捗らなかった分、今日の作業も遅れていた。
冬莉さんは自分の仕事を終わらせていた。
定時で上がると思っていた。
しかし……。

「まだ部品図に出来る分ありますか?」
「でも、もう定時だし……」
「構いません手伝います」
「そんなに急いでないから」
「先輩の図面チェックも兼ねてるから」

結構グサッと来ること言うな。

「じゃあ、これお願いしようかな」
「わかりました」

そういってファイルの名前を教えると彼女は作業にかかる。
あまり彼女の残業させたくない理由があった。
新卒だから残業が多いと辞めてしまうんじゃないかという不安もあるけど、彼女が部品図を描いたらそれを検討図に重ねて間違いがないかチェックするという作業が発生する。
もちろん実際に受け取った図面を見て寸法等に間違いがないかを確認しなければならない。
簡単に言うと「仕事が増える」という事だ。
今日はプラント図面組は先に終わったらしくて残っているのは俺と冬莉さんと大島さんだけになった。
事務所を出る際にはセキュリティをかける必要があるので大島さんが帰る頃には帰らないといけない。

「そろそろを今日は終わりにしようか」

大島さんが言うと俺と冬莉さんは片付ける。

「お疲れ様でした」

そう言って俺達は自分の車に向かう。

「待ってください」

冬莉さんが俺を呼び止めた。
手には何か持ってる。

「これ、あげます」

へ?

「何これ?」
「社長に聞きました。宮成さんはメカトロは未経験者って」

メカトロというか機械自体が専門外なんだけどね。

「だからそれで勉強してください」

そう言って彼女は車に乗り込んで帰っていった。
俺も車に乗って中身を確認すると機械の辞典だった。
分かりやすく言うとボルト穴のサイズや寸法公差、表面仕上げの精度などが書かれてある機械設計者なら誰もがもっている物。
結構な値段がする。
プラントの仕事というからプラントのは持っていたけど……。
なんでわざわざ俺に?
まだ単純に「余程俺の図面に不満があったんだろう」程度にしか考えてなかった。
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