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呪い呪われた未来
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(1)
2月に入ると俺は地元に呼ばれていた。
全力で嫌な予感がする。
朝一で飛行機で地元に帰る。
地元駅に着くとタクシーでUSEの事務所に行く。
「あら?めずらしいわね。東京はどうですか?中村さん。」
「偶に雪も降って大変だよ」
事務員と話をしている。
すると次々と親が子供を連れてやってくる。
子供のレッスンの日らしい。
子供と言っても本当にまだ子供だ。
言葉も喋れない赤ちゃんがほとんどだった。
将来の夢もない赤ちゃんが親のエゴで将来を決められていく。
ある意味哀れだ。
途中で脱落したい者もいるだろう。
他の道を夢見る子供もいるだろう。
人気が左右するこの世界で生き残れるのか不安な子もいるかもしれない。
しかし良くも悪くもそういうことをまだ感じない赤ちゃんだった。
自分が何をやっているのかもわからない赤ちゃんだった。
どんな性格に育つのかも見当すらつかない。
笑顔が落ち着いていてぐずらない。
痩せてもなく太りすぎず、人見知りをせず良く笑う。
それだけで親は事務所に売り込みに来る。
事務所もそれを見極めて契約する。
USEはその子供の将来を文字通り買う。
良くも悪くもその子の将来は保証される。
USEではその子供の移動費から学費まですべて保障するのだから。
良くも悪くもUSEに所属した子供は将来が約束される。
モデルになりたいならモデルに、役者になると決めたなら役者になれるだろう。
将来の活躍も間違いない。
そうしないと俺達スタッフが責任を問われる。
しかし苦労するのは子供だけじゃない。
いわゆる赤ちゃんタレントは仕事には親の同伴も求められる。
子供一人で仕事をこなすなんてことはまずない。
どの撮影の現場でも親の同伴が必須条件となる。
なぜかうちの事務所に所属する子供の親は双子やら年子やらが多い。
そしてなぜか保育園に預けたがらない。
もちろん母親と子供の移動日も事務所が負担する。
そうするように社長の意向があるからだ。
これからも増え続けるのだろうか?
良くも悪くもUSEが地元の子供の芸能界への道を作っている。
その道は約束される。
親が願えば必ず叶う。
赤ちゃんタレントから子役、そして俳優女優へと道は準備されているだろう。
そういう運命と言う名の鎖が子供たちを引きずっていく。
そんな事を考えながらまだ自分の名前も言えない子供を見ていると社長夫人が来た。
この会社の専務だ。代表取締役はETCと言う別の会社の経営も携わっておりUSEの経営は専務に任されていた。
もちろん重要な事は社長の意向を確認するが。
専務は子連れの母親を連れていた。
それを見て俺はすぐに悟った。
またか……。
俺は応接室で説明を受ける。
専務が作った主婦のグループ「アムール」の会合で知り合ったそうだ。
そして専務はその女の子宇佐見宇佐子を一目見てスカウトした。
前にも同じケースがあった。
前原歩美と言う子が来た時と同じケース。
他の事はちょっと違うケースだ。
中学を卒業したら本気で仕事をさせるケース。
もちろん中卒なんて無責任な学歴にはさせない。
高校、大学までしっかり事務所で面倒を見る。学費は全て事務所が負担する。
専務がそこまで言うんだ。
必ずそれ以上の稼ぎをするだろう。
それは心配してない。
俺達は仕事とマネージャー、そして上京した後の住む場所等を確保をするだけ。
「この子は必ず売れる」
社長の発言は間違いないだろう。そういう物語なのだから。
本当は小学校から東京に住ませたいところだが、他の子供の面倒もある。
いっその事一家まとめて東京に引っ越せばいいのにどういうわけか育児は地元でという意思が固い。
地元に何かこだわりがあるのだろうか?
せめて福岡に。
そうも打診してみたがダメらしい。
地元の現在の人口は110万人らしいが、市内だけでどれだけの人数が専務の関係者なのか興味が少しあった。
とりあえず俺が呼び出されたのは前原歩美と同様宇佐見宇佐子は東京支社に所属する事になったから。
まあ、それはそれでやりやすい。小学校~高校までの間はどうするつもりなのか聞いてないけど。
実例がないわけじゃないから多分大丈夫だろう。
問題は移動距離だけだ。
勉強も多分高校に受かるくらいのレベルは保っていることだろう。
そういう風に物語が出来ているのだから。
東京での今日の仕事は営業に任せてる。
俺はゆっくり休んで。故郷の同期の友達と飲んで。そして次の日の朝に帰った。
(2)
今日は朝から忙しかった。
なんでこの時期に。
僕にも分からなかった。
僕が経営を任せれてる会社、江口トレーディングカンパニー。通称ETC
その会社になぜかこの年度末の忙しい時に大量の中途採用者を雇うことになった。
そして今日から出社するらしい。
社長として一応見ておいた方がいいと言われた
早来月には新卒者がくる。
この時期にわざわざ雇う理由が分からない。
当然、人事部のものは恵美に怒られていた。
危うく配置換えさせられるところだったらしい。
瀬戸作、岩崎洋二、宇佐美直太朗。
たった3人というものの、2月に中途採用者を3名も緊急でいれなければいけないほどの会社ではないよ。
年齢を見るとまだ若い。
経歴は全員大卒だった。
「3年ちょっとで辞めてしまうような根性無しをどうして雇ったの!?」
恵美の言う通りだと思った。
どうせ続かないんじゃないか?
そんな感じもした。
まあ、3か月の試用期間で様子を見るという事で妥協した。
朝社長室に訪れ挨拶をして帰る。
特に特徴は無かった。
採用担当が何を感じて採用したのかわからない。
害はなさそうだしいいか。
USEもの方も大変らしい。
子役の応募者が殺到している。
右も左もわからない赤ちゃんに親のエゴを押し付けていいのだろうか?
今年度はどうかしている。
近所に大量に親戚だの友達だのが引っ越してくる。
江口家も酒井家も白鳥家も同じそうだ。
市役所の職員もたいへんだろうな。
今年度で何十人の住所変更の手続きが行われたのだろう?
今日も朝から大忙しだった。
一々新人に付き合ってる暇もないくらいに客が押し寄せてくる。
山のように決裁書が届けられる。
時間の合間を縫ってそれに目を通さなければならない。
当然のように会議もある。
あっという間に仕事が終わった。
家に帰ると恵美はまだ帰ってない。
恵美も忙しいのだろう。
新條さんが夕食を用意してくれていた。
遅れて恵美が帰ってくる。
中村さんと説得に時間がかかったらしい。
今後を考えたら早めに東京に引っ越した方がいい。
だけど皆頑なに拒んだそうだ。
地元に残ると言い張る。
地元にどんな魅力があるというのだろう?
それは策者にもわからないらしい。
多分一番困っているのは策者なんだろうな。
夕食を終わると一番最後に風呂に入って恵美とリビングでくつろぐ。
そして次の日に備えて早めに寝る。
砂時計はあっという間に時間を刻んでいく。
(3)
「空、朝だよ」
「おはよう、翼」
翼に起こされると、制服に着替えてダイニングに向かう、
「はい、冬夜さん」
「ありがとう、愛莉」
父さんが母さんからチョコレートを受け取っていた。
今日はバレンタインだったか。
美希も準備してくれてるんだろうな。
時間になると僕達は純也達を迎えにいって学校に向かう。
水奈はチョコを渡しに学の家に寄るから来ない。
小学校前で天音達と別れると僕と翼は中学校へ向かう。
教室では女子が騒いでいた。
すると美希が来た。
「はい、空。これあげる」
「ありがとう」
美希からチョコを受け取ると、鞄の中にしまっておいた。
他のクラスメイトもチョコを受け取って喜んでいた。
学校が終ると部活をする人と帰宅部の者に別れる。
僕の周りで部活をする人はいなかった。
家に帰るとすぐに着替えてチョコを食べる。
「美味しいよ」
美希にメッセージを送っておいた。
美希は喜んでいるようだ。
宿題を済ませてゲームを始める。
父さんが帰ってくると夕食に呼ばれる。
夕食を食べると風呂に入ってゲームをする。
そして時間になるとベッドに入る。
時間はあっという間に経って行く。
平和な日々を過ごしていた。
(4)
3月、卒業シーズン。
卒業式の練習が始まる。
隣の学校に移るだけだろ?
めんどくさい真似させるな。
天音と一緒に貧血を装ってサボろうとしたけどすぐにバレた。
遊と粋も真似したから。
「楽しかった~」
何が楽しかったのか分からない。
少なくとも今の私は苦痛でしかない。
普通に授業してた方が遥に楽だ。
だって、寝てればいいんだし。
練習が終わると掃除をして終礼をする。
終礼が終ると女子の求愛行動の結果が出る。
その結果また新たなカップルが誕生した。
江口亨と川崎優皐。
今さら新しいカップルが出来たところで特別誰も気にも留めない。
この学校で異性と付き合っているのは当たり前。
むしろなぜ自分に恋人がいないんだと悩む者が多いらしい。
学校はそれを「不純異性交遊禁止」と称して阻止しようとしたらしいが無駄だ。
一体どこが不純なのか教えてほしいくらいだ。
そんな感じでお返しを受け取る皆を見てると天音も大地からお返しを受け取ったらしい。
タオルとマグカップをもらったそうだ。
相場では小学校高学年だと文房具が良いらしいのだが、勉強が嫌いな天音には嫌味に受け取られるんじゃないかと大地なりに気づかったらしい。
天音と家に帰る。
家に帰ると、父さんからぬいぐるみをプレゼントしてもらえた。
「ありがとう」と一言言ってぬいぐるみを持って部屋に戻るとゲームを始める。
「水奈!お客さんだぞ」
母さんが呼んでいる。
1階に降りて玄関に行くと学が待っていた。
「生徒会が遅くなってな。すまん」
「気にするな」
学は鞄から可愛らしいラッピングの袋を取り出す。
「こう見えて自信作なんだ」
「ありがとう」
「学、どうせなら夕食家で食っていってもいいぜ」
母さんが言う。
「弟たちのご飯作ってやらないといけないんで」
学は断った。
「じゃあ、また夜メッセージする」
「わかった、わざわざありがとな」
私が言うと学は帰って行った。
私はもらった袋の中身を確かめる。
チーズケーキだった。
一生懸命お菓子を作ってる学を想像するとやっぱり笑える。
それを冷蔵庫に保存すると夕食を食べる。
夕食のデザートにチーズケーキを食べた。
風呂に入って部屋に戻る。
22時を過ぎた頃メッセージが来る。
「ケーキ美味しかったよ、ありがとう」
そう返す。
「それはよかった」
メッセージが終ると私はベッドに寝る。
時間が経つのが早すぎるように感じた。
(5)
準備は出来た。
今日は息子の桐翔の卒業式もある。
そっちは佐に任せて小学校に向かった。
今日で天音達ともお別れ。
6年間見守ってきた。
色々手を焼かされたけど、今となっては良い思い出。
胸をなでおろす教師もたくさんいる。
学校に着くと職員室に行く。
そして準備をして朝礼の時間になると教室に向かう。
教室には今日の日の為に着飾った子供たちがいた。
そして今日の説明をする。
時間になると体育館に向かう。
子供たちが会場に入っていくのを見守る。
拍手に包まれながら入っていく。
式が始まった。
そしていよいよ卒業証書授与が始まる。
私のクラスの番になると私は一人ずつ名前を読み上げる。
「片桐天音」
「はい」
天音はこういう場に慣れているのだろうか。
緊張することなく壇上に上がっていく。
そして卒業証書が授与される。
最後に在校生とコールをして合唱をする。
その後に最後の校歌斉唱。
卒業式が終ると卒業生は教室に戻る。
最後の終礼が始まる。
親御さんも一緒にいる。
私は壇上に立つ。
「皆さん誰一人欠けることなくよく6年間頑張ってきました」
私の彼等に送る最後の言葉。
足下を見てください。
これがあなたの歩む道です。
前を見てください。
あれがあなたの未来です。
両親にもらった沢山の優しさ。
愛を抱いて歩めと繰り返してくれます。
まだあなた達は幼くて意味などわからないでしょう。
でもそんなあなた達の手を握り一緒に歩いてくれます。
夢はいつも空高くにあるから届かなくて怖いね。
だけど追い続けてください。
あなたの物語だから諦めないで。
不安になった時、あなた達の手を握り一緒に歩んできた両親を振り返ってください。
その優しさが時には嫌になり、やがて離れる両親に素直になれないかもしれないけど。
でも、それでも両親は見守ってくれています。
前を見てください。
あれがあなた達の未来です。
未来へ向かってゆっくりと歩いてください。
私達も応援しています。
がんばれ。
それが私が子供たちに贈る最後の言葉。
子供たちは黙って聞いてた。
そして一人ずつ最後の通知票を渡す。
最後の終礼が終わった。
私の彼等に対する最後の授業が終わった。
終礼が終ると親と一緒に教室を出ていく。
私の仕事はまだ終わってない。
私も教室を出ると校門に向かった。
(6)
「天音、水奈が来ましたよ」
愛莉の声が聞こえる。
私は今日着ていく服を悩んでいた。
中学生は良いよな。
制服で済むんだから。
さすがにドレスは気合入れすぎか。
無難な服を選ぶと翼から借りたコサージュをつけて部屋を出る。
「お前も気合入れてるな」
それが水奈の感想だった。
そういう水奈もいつもはミニスカートなのに今日は清楚な服装にしている。
「お互い様だろ」
そう言って笑った。
私達は学校に向かう。
大地も粋も遊も皆お洒落していた。
「おはよう」
挨拶をする。
話をしていると桜子が教室に入ってくる。
桜子も今日はびしっとスーツ姿を決めていた。
朝礼が終ると体育館に移動する。
私達が入場すると拍手が起こる。
静かに着席する。
この学校に国歌斉唱で起立しないとかいう面倒な教諭はいない。
そして卒業式が始まる。
祝辞が長い。
暗記できないような長い文章一々考えてこなくていい。
そんなもん一々説明してたら策者の迷惑だ。
「卒業おめでとう」
それだけで十分だろうが。
長々とくどい挨拶が終ると卒業証書授与の時が来る。
私達のクラスの番が来た。
桜子がマイクの前に立って名前を読み上げる。
「石原大地」
「はい」
大地が立ち上がって壇上に向かう。
そして私の番が回って来た。
「片桐天音」
「はい」
私も返事をして壇上に向かう。
こういう場所での振舞い方は大地のパーティで散々慣れてる。
校長の前に立ち卒業証書を受けとる。ヅラだからか?
今日の校長は眩しく見えた。
卒業証書を受け取ると礼をして壇上から降りる。
全員卒業証書を受け取ると在校生とコールをする。
そして互いに合唱をして卒業式が終る。
私達は教室に向かう。
教室で最後の通知票をもらう。
大変良く頑張りました。
そう桜子のメッセージが書かれてあった。
そのあと桜子の挨拶がある。
女子の何人かは泣いていた。
やばい!
私は必死にこらえる。
終礼が終るとみんな校門に集まる。
最後は花のアーチを通って校門を抜ける。
それが最後の下校だ。
桜子は愛莉と水奈の母さん達と話をしていた。
「桜子、6年間苦労を掛けたな」
「最後はいい子になってくれましたから」
桜子は私を見て言う。
「中学生になっても元気に明るく頑張りなさい」
私は我慢の限界だった。
泣くもんかって誓ったのに目からこぼれる涙を止めることはできなかった。
「らしくないぞ。折角のお祝いなんだからいつもみたいに笑って」
桜子は凄く優しかった。
「ださっ、何泣いてるの?」
折角の余韻を台無しにする馬鹿が喜一だ。
今日は大人しくしてようと思ったのに、こいつは最後に私を怒らせた。
お前の送り先は中学校じゃない。墓場だ。
そんな私を祈達が止める。
「言ったろ?お前には大地がいるって」
祈が言う。
そして私の代わりに大地が喜一の胸ぐらを掴む。
「感涙に浸っている彼女を馬鹿にされて黙っているほど僕もまだ大人じゃないんだ」
私は初めてこんな場所で泣いていた。
大地は初めて怒りを露にした。
大地は喜一を睨みつける。
「……失せろ」
大地が一言言うと、喜一は立ち去った。
この分だと中学入学早々喜一の死刑は確定しそうだな。
「ほら、せっかくだから天音も一緒に先生たちと写真とろう!天音、笑顔だよ」
なずなが言う。
先生達とひとりずつ写真を撮る。
それが終る頃時間が来た。
私達は在校生が作る花のアーチをくぐって校門を出る。
もう二度と戻ることのない学び舎。
さよなら小学校時代。
私達は新しい道を歩みます。
私は振り返ることなくパパ達と家に帰った。
部屋に帰り着替えると昼間から寿司を頼んで宴会だった。
私達も来月からは中学生になる。
これまで色々な事があった。
退屈だと思ってた日常が懐かしい。
これからも色々な事があるだろう。
3年後にまた同じ気分になれるようにまた頑張ろう。
私はそう未来に誓った。
2月に入ると俺は地元に呼ばれていた。
全力で嫌な予感がする。
朝一で飛行機で地元に帰る。
地元駅に着くとタクシーでUSEの事務所に行く。
「あら?めずらしいわね。東京はどうですか?中村さん。」
「偶に雪も降って大変だよ」
事務員と話をしている。
すると次々と親が子供を連れてやってくる。
子供のレッスンの日らしい。
子供と言っても本当にまだ子供だ。
言葉も喋れない赤ちゃんがほとんどだった。
将来の夢もない赤ちゃんが親のエゴで将来を決められていく。
ある意味哀れだ。
途中で脱落したい者もいるだろう。
他の道を夢見る子供もいるだろう。
人気が左右するこの世界で生き残れるのか不安な子もいるかもしれない。
しかし良くも悪くもそういうことをまだ感じない赤ちゃんだった。
自分が何をやっているのかもわからない赤ちゃんだった。
どんな性格に育つのかも見当すらつかない。
笑顔が落ち着いていてぐずらない。
痩せてもなく太りすぎず、人見知りをせず良く笑う。
それだけで親は事務所に売り込みに来る。
事務所もそれを見極めて契約する。
USEはその子供の将来を文字通り買う。
良くも悪くもその子の将来は保証される。
USEではその子供の移動費から学費まですべて保障するのだから。
良くも悪くもUSEに所属した子供は将来が約束される。
モデルになりたいならモデルに、役者になると決めたなら役者になれるだろう。
将来の活躍も間違いない。
そうしないと俺達スタッフが責任を問われる。
しかし苦労するのは子供だけじゃない。
いわゆる赤ちゃんタレントは仕事には親の同伴も求められる。
子供一人で仕事をこなすなんてことはまずない。
どの撮影の現場でも親の同伴が必須条件となる。
なぜかうちの事務所に所属する子供の親は双子やら年子やらが多い。
そしてなぜか保育園に預けたがらない。
もちろん母親と子供の移動日も事務所が負担する。
そうするように社長の意向があるからだ。
これからも増え続けるのだろうか?
良くも悪くもUSEが地元の子供の芸能界への道を作っている。
その道は約束される。
親が願えば必ず叶う。
赤ちゃんタレントから子役、そして俳優女優へと道は準備されているだろう。
そういう運命と言う名の鎖が子供たちを引きずっていく。
そんな事を考えながらまだ自分の名前も言えない子供を見ていると社長夫人が来た。
この会社の専務だ。代表取締役はETCと言う別の会社の経営も携わっておりUSEの経営は専務に任されていた。
もちろん重要な事は社長の意向を確認するが。
専務は子連れの母親を連れていた。
それを見て俺はすぐに悟った。
またか……。
俺は応接室で説明を受ける。
専務が作った主婦のグループ「アムール」の会合で知り合ったそうだ。
そして専務はその女の子宇佐見宇佐子を一目見てスカウトした。
前にも同じケースがあった。
前原歩美と言う子が来た時と同じケース。
他の事はちょっと違うケースだ。
中学を卒業したら本気で仕事をさせるケース。
もちろん中卒なんて無責任な学歴にはさせない。
高校、大学までしっかり事務所で面倒を見る。学費は全て事務所が負担する。
専務がそこまで言うんだ。
必ずそれ以上の稼ぎをするだろう。
それは心配してない。
俺達は仕事とマネージャー、そして上京した後の住む場所等を確保をするだけ。
「この子は必ず売れる」
社長の発言は間違いないだろう。そういう物語なのだから。
本当は小学校から東京に住ませたいところだが、他の子供の面倒もある。
いっその事一家まとめて東京に引っ越せばいいのにどういうわけか育児は地元でという意思が固い。
地元に何かこだわりがあるのだろうか?
せめて福岡に。
そうも打診してみたがダメらしい。
地元の現在の人口は110万人らしいが、市内だけでどれだけの人数が専務の関係者なのか興味が少しあった。
とりあえず俺が呼び出されたのは前原歩美と同様宇佐見宇佐子は東京支社に所属する事になったから。
まあ、それはそれでやりやすい。小学校~高校までの間はどうするつもりなのか聞いてないけど。
実例がないわけじゃないから多分大丈夫だろう。
問題は移動距離だけだ。
勉強も多分高校に受かるくらいのレベルは保っていることだろう。
そういう風に物語が出来ているのだから。
東京での今日の仕事は営業に任せてる。
俺はゆっくり休んで。故郷の同期の友達と飲んで。そして次の日の朝に帰った。
(2)
今日は朝から忙しかった。
なんでこの時期に。
僕にも分からなかった。
僕が経営を任せれてる会社、江口トレーディングカンパニー。通称ETC
その会社になぜかこの年度末の忙しい時に大量の中途採用者を雇うことになった。
そして今日から出社するらしい。
社長として一応見ておいた方がいいと言われた
早来月には新卒者がくる。
この時期にわざわざ雇う理由が分からない。
当然、人事部のものは恵美に怒られていた。
危うく配置換えさせられるところだったらしい。
瀬戸作、岩崎洋二、宇佐美直太朗。
たった3人というものの、2月に中途採用者を3名も緊急でいれなければいけないほどの会社ではないよ。
年齢を見るとまだ若い。
経歴は全員大卒だった。
「3年ちょっとで辞めてしまうような根性無しをどうして雇ったの!?」
恵美の言う通りだと思った。
どうせ続かないんじゃないか?
そんな感じもした。
まあ、3か月の試用期間で様子を見るという事で妥協した。
朝社長室に訪れ挨拶をして帰る。
特に特徴は無かった。
採用担当が何を感じて採用したのかわからない。
害はなさそうだしいいか。
USEもの方も大変らしい。
子役の応募者が殺到している。
右も左もわからない赤ちゃんに親のエゴを押し付けていいのだろうか?
今年度はどうかしている。
近所に大量に親戚だの友達だのが引っ越してくる。
江口家も酒井家も白鳥家も同じそうだ。
市役所の職員もたいへんだろうな。
今年度で何十人の住所変更の手続きが行われたのだろう?
今日も朝から大忙しだった。
一々新人に付き合ってる暇もないくらいに客が押し寄せてくる。
山のように決裁書が届けられる。
時間の合間を縫ってそれに目を通さなければならない。
当然のように会議もある。
あっという間に仕事が終わった。
家に帰ると恵美はまだ帰ってない。
恵美も忙しいのだろう。
新條さんが夕食を用意してくれていた。
遅れて恵美が帰ってくる。
中村さんと説得に時間がかかったらしい。
今後を考えたら早めに東京に引っ越した方がいい。
だけど皆頑なに拒んだそうだ。
地元に残ると言い張る。
地元にどんな魅力があるというのだろう?
それは策者にもわからないらしい。
多分一番困っているのは策者なんだろうな。
夕食を終わると一番最後に風呂に入って恵美とリビングでくつろぐ。
そして次の日に備えて早めに寝る。
砂時計はあっという間に時間を刻んでいく。
(3)
「空、朝だよ」
「おはよう、翼」
翼に起こされると、制服に着替えてダイニングに向かう、
「はい、冬夜さん」
「ありがとう、愛莉」
父さんが母さんからチョコレートを受け取っていた。
今日はバレンタインだったか。
美希も準備してくれてるんだろうな。
時間になると僕達は純也達を迎えにいって学校に向かう。
水奈はチョコを渡しに学の家に寄るから来ない。
小学校前で天音達と別れると僕と翼は中学校へ向かう。
教室では女子が騒いでいた。
すると美希が来た。
「はい、空。これあげる」
「ありがとう」
美希からチョコを受け取ると、鞄の中にしまっておいた。
他のクラスメイトもチョコを受け取って喜んでいた。
学校が終ると部活をする人と帰宅部の者に別れる。
僕の周りで部活をする人はいなかった。
家に帰るとすぐに着替えてチョコを食べる。
「美味しいよ」
美希にメッセージを送っておいた。
美希は喜んでいるようだ。
宿題を済ませてゲームを始める。
父さんが帰ってくると夕食に呼ばれる。
夕食を食べると風呂に入ってゲームをする。
そして時間になるとベッドに入る。
時間はあっという間に経って行く。
平和な日々を過ごしていた。
(4)
3月、卒業シーズン。
卒業式の練習が始まる。
隣の学校に移るだけだろ?
めんどくさい真似させるな。
天音と一緒に貧血を装ってサボろうとしたけどすぐにバレた。
遊と粋も真似したから。
「楽しかった~」
何が楽しかったのか分からない。
少なくとも今の私は苦痛でしかない。
普通に授業してた方が遥に楽だ。
だって、寝てればいいんだし。
練習が終わると掃除をして終礼をする。
終礼が終ると女子の求愛行動の結果が出る。
その結果また新たなカップルが誕生した。
江口亨と川崎優皐。
今さら新しいカップルが出来たところで特別誰も気にも留めない。
この学校で異性と付き合っているのは当たり前。
むしろなぜ自分に恋人がいないんだと悩む者が多いらしい。
学校はそれを「不純異性交遊禁止」と称して阻止しようとしたらしいが無駄だ。
一体どこが不純なのか教えてほしいくらいだ。
そんな感じでお返しを受け取る皆を見てると天音も大地からお返しを受け取ったらしい。
タオルとマグカップをもらったそうだ。
相場では小学校高学年だと文房具が良いらしいのだが、勉強が嫌いな天音には嫌味に受け取られるんじゃないかと大地なりに気づかったらしい。
天音と家に帰る。
家に帰ると、父さんからぬいぐるみをプレゼントしてもらえた。
「ありがとう」と一言言ってぬいぐるみを持って部屋に戻るとゲームを始める。
「水奈!お客さんだぞ」
母さんが呼んでいる。
1階に降りて玄関に行くと学が待っていた。
「生徒会が遅くなってな。すまん」
「気にするな」
学は鞄から可愛らしいラッピングの袋を取り出す。
「こう見えて自信作なんだ」
「ありがとう」
「学、どうせなら夕食家で食っていってもいいぜ」
母さんが言う。
「弟たちのご飯作ってやらないといけないんで」
学は断った。
「じゃあ、また夜メッセージする」
「わかった、わざわざありがとな」
私が言うと学は帰って行った。
私はもらった袋の中身を確かめる。
チーズケーキだった。
一生懸命お菓子を作ってる学を想像するとやっぱり笑える。
それを冷蔵庫に保存すると夕食を食べる。
夕食のデザートにチーズケーキを食べた。
風呂に入って部屋に戻る。
22時を過ぎた頃メッセージが来る。
「ケーキ美味しかったよ、ありがとう」
そう返す。
「それはよかった」
メッセージが終ると私はベッドに寝る。
時間が経つのが早すぎるように感じた。
(5)
準備は出来た。
今日は息子の桐翔の卒業式もある。
そっちは佐に任せて小学校に向かった。
今日で天音達ともお別れ。
6年間見守ってきた。
色々手を焼かされたけど、今となっては良い思い出。
胸をなでおろす教師もたくさんいる。
学校に着くと職員室に行く。
そして準備をして朝礼の時間になると教室に向かう。
教室には今日の日の為に着飾った子供たちがいた。
そして今日の説明をする。
時間になると体育館に向かう。
子供たちが会場に入っていくのを見守る。
拍手に包まれながら入っていく。
式が始まった。
そしていよいよ卒業証書授与が始まる。
私のクラスの番になると私は一人ずつ名前を読み上げる。
「片桐天音」
「はい」
天音はこういう場に慣れているのだろうか。
緊張することなく壇上に上がっていく。
そして卒業証書が授与される。
最後に在校生とコールをして合唱をする。
その後に最後の校歌斉唱。
卒業式が終ると卒業生は教室に戻る。
最後の終礼が始まる。
親御さんも一緒にいる。
私は壇上に立つ。
「皆さん誰一人欠けることなくよく6年間頑張ってきました」
私の彼等に送る最後の言葉。
足下を見てください。
これがあなたの歩む道です。
前を見てください。
あれがあなたの未来です。
両親にもらった沢山の優しさ。
愛を抱いて歩めと繰り返してくれます。
まだあなた達は幼くて意味などわからないでしょう。
でもそんなあなた達の手を握り一緒に歩いてくれます。
夢はいつも空高くにあるから届かなくて怖いね。
だけど追い続けてください。
あなたの物語だから諦めないで。
不安になった時、あなた達の手を握り一緒に歩んできた両親を振り返ってください。
その優しさが時には嫌になり、やがて離れる両親に素直になれないかもしれないけど。
でも、それでも両親は見守ってくれています。
前を見てください。
あれがあなた達の未来です。
未来へ向かってゆっくりと歩いてください。
私達も応援しています。
がんばれ。
それが私が子供たちに贈る最後の言葉。
子供たちは黙って聞いてた。
そして一人ずつ最後の通知票を渡す。
最後の終礼が終わった。
私の彼等に対する最後の授業が終わった。
終礼が終ると親と一緒に教室を出ていく。
私の仕事はまだ終わってない。
私も教室を出ると校門に向かった。
(6)
「天音、水奈が来ましたよ」
愛莉の声が聞こえる。
私は今日着ていく服を悩んでいた。
中学生は良いよな。
制服で済むんだから。
さすがにドレスは気合入れすぎか。
無難な服を選ぶと翼から借りたコサージュをつけて部屋を出る。
「お前も気合入れてるな」
それが水奈の感想だった。
そういう水奈もいつもはミニスカートなのに今日は清楚な服装にしている。
「お互い様だろ」
そう言って笑った。
私達は学校に向かう。
大地も粋も遊も皆お洒落していた。
「おはよう」
挨拶をする。
話をしていると桜子が教室に入ってくる。
桜子も今日はびしっとスーツ姿を決めていた。
朝礼が終ると体育館に移動する。
私達が入場すると拍手が起こる。
静かに着席する。
この学校に国歌斉唱で起立しないとかいう面倒な教諭はいない。
そして卒業式が始まる。
祝辞が長い。
暗記できないような長い文章一々考えてこなくていい。
そんなもん一々説明してたら策者の迷惑だ。
「卒業おめでとう」
それだけで十分だろうが。
長々とくどい挨拶が終ると卒業証書授与の時が来る。
私達のクラスの番が来た。
桜子がマイクの前に立って名前を読み上げる。
「石原大地」
「はい」
大地が立ち上がって壇上に向かう。
そして私の番が回って来た。
「片桐天音」
「はい」
私も返事をして壇上に向かう。
こういう場所での振舞い方は大地のパーティで散々慣れてる。
校長の前に立ち卒業証書を受けとる。ヅラだからか?
今日の校長は眩しく見えた。
卒業証書を受け取ると礼をして壇上から降りる。
全員卒業証書を受け取ると在校生とコールをする。
そして互いに合唱をして卒業式が終る。
私達は教室に向かう。
教室で最後の通知票をもらう。
大変良く頑張りました。
そう桜子のメッセージが書かれてあった。
そのあと桜子の挨拶がある。
女子の何人かは泣いていた。
やばい!
私は必死にこらえる。
終礼が終るとみんな校門に集まる。
最後は花のアーチを通って校門を抜ける。
それが最後の下校だ。
桜子は愛莉と水奈の母さん達と話をしていた。
「桜子、6年間苦労を掛けたな」
「最後はいい子になってくれましたから」
桜子は私を見て言う。
「中学生になっても元気に明るく頑張りなさい」
私は我慢の限界だった。
泣くもんかって誓ったのに目からこぼれる涙を止めることはできなかった。
「らしくないぞ。折角のお祝いなんだからいつもみたいに笑って」
桜子は凄く優しかった。
「ださっ、何泣いてるの?」
折角の余韻を台無しにする馬鹿が喜一だ。
今日は大人しくしてようと思ったのに、こいつは最後に私を怒らせた。
お前の送り先は中学校じゃない。墓場だ。
そんな私を祈達が止める。
「言ったろ?お前には大地がいるって」
祈が言う。
そして私の代わりに大地が喜一の胸ぐらを掴む。
「感涙に浸っている彼女を馬鹿にされて黙っているほど僕もまだ大人じゃないんだ」
私は初めてこんな場所で泣いていた。
大地は初めて怒りを露にした。
大地は喜一を睨みつける。
「……失せろ」
大地が一言言うと、喜一は立ち去った。
この分だと中学入学早々喜一の死刑は確定しそうだな。
「ほら、せっかくだから天音も一緒に先生たちと写真とろう!天音、笑顔だよ」
なずなが言う。
先生達とひとりずつ写真を撮る。
それが終る頃時間が来た。
私達は在校生が作る花のアーチをくぐって校門を出る。
もう二度と戻ることのない学び舎。
さよなら小学校時代。
私達は新しい道を歩みます。
私は振り返ることなくパパ達と家に帰った。
部屋に帰り着替えると昼間から寿司を頼んで宴会だった。
私達も来月からは中学生になる。
これまで色々な事があった。
退屈だと思ってた日常が懐かしい。
これからも色々な事があるだろう。
3年後にまた同じ気分になれるようにまた頑張ろう。
私はそう未来に誓った。
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