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迷いは悲しみの海に
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(1)
「うわあ、真っ赤だ」
渡辺班毎年恒例の行事、紅葉狩り。
今年もまたキャラを増やしてやってきた。
今年は誠司の父さんは飛ばさなかった。
誠司と崇博と歩美。
3人の宝を乗せて無謀な事は出来ないと決めたそうだ。
走りの楽しみは子供が体験することになるから余計な感覚を体験させたくないと思ったらしい。
他の人は飛ばしてたけどね。
今年は瞳子と冴も参加してた。
搭乗員数とか頭を悩ませたらしいけどある、魔法の言葉が浮かんだらしい。
細かい事はどうでもいい!!
集合すると九重インターそばのコンビニまで行く。
そこでいったん集合して九酔渓を登っていく。
茜姉さんは写真を撮っていた。
「毎年同じのを撮って楽しいの?」
すると茜姉さんや翼姉さんが教えてくれる。
「美しい四季を楽しむのは日本人の特権だよ」
特権なら利用しない手はないかな。
ちなみに冬眞と莉子は寝ている。
子供が寝ていても平気な運転をするのが父さんだ。
車は夢釣り大橋につくと皆集まる。
「じゃあ、自由時間にしようか?」
渡辺さんが言う。
自由と言っても本当に自由になるのは中学生組だけだけど。
中学生組も皆橋を渡って戻ってきてハンバーガーを食べてソフトクリームを食べるだけだ。
冬眞と莉子は父さんと母さんが抱っこしてる。
誠司の下の子の崇博と歩美も同様に抱っこされている。
天音姉さんが言っていた。
「将来ここで喜一を紐無しバンジーさせるのも面白いかもな」
紐無しバンジーってバンジージャンプじゃない気がしたけど、まあいいや。
橋を渡り終えて戻ってくると片桐家はまっすぐ売店に向かう。
ハンバーガーを食べてソフトクリームを食う。
食べないのは冬眞と莉子と母さんくらいだ。
そんな冬眞と莉子も昼食の時は大人しくしてる。
落ち着きが無いのは誠司くらいだ。
昼食も終わると車は地元に向かって帰る。
地元に帰るとファミレスに寄る。
ファミレスに着くと僕達が起こされる。
そして夕食を食べて家に帰る。
順番に風呂に入って寝る。
秋半ば。
葉も紅色に染まって見頃となった時期だった。
(2)
「てめえ!もう一度言ってみろ」
男は俺の胸ぐらを掴む。
何度でも行ってやる。
「物乞いなんかて見っともないと思わないの?」
俺は男に殴り飛ばされ吹き飛んだ。
受け身くらい取れる。
目を赤くした茜が駆け寄る。
「殴られて何も出来ないお前たちの方が余程かっこ悪いぜ!それともお姉さんたちに言いつけるっていうのか?」
FGに手を出すな。
俺達SHはそう言われている。
でも我慢の限界だった。
片桐家の男子を怒らせたらどうなるか分からせてやる必要があるらしい。
相手が同学年だろうと上級生だろうと何人いようが関係ない。
俺は起き上がって男に殴りかかる
だがその拳を大原要の掌が受け止めた。
「止めとけ、先生に目をつけられるのはお前だぞ。純也」
要はそういう。
「子分の躾も出来ないのか?負け犬のSHは」
男たちはそう言って笑ってる。
たかだか運動会で勝ったからって調子に乗りやがって。
「しかけたのはFGだ!だから俺達だって反撃する理由がある!違うか!?」
「お、やろうというのか?いいぜ?二度と逆らえないようにしてやる」
男が挑発する。
「ここは俺達に任せてくれないか?」
要が言う。
どうしようって言うんだ?
要は男たちに向かっていった。
「さっきからキャンキャンと言っているがみっともないのはどっちの方だ?」
群れて下級生からお菓子を巻き上げる男たちと俺達、みっともないのはどっちだ?
要はそういう。
「要の言う通りですね。それに少しは捻ってきたようだけど言ってる内容は”このことはお姉様たちには言わないでね”情けないにも程があります」
酒井繭が言った。
「つ、告げ口する方がダサいじゃねーか?」
「私達がどうしようが私達の勝手。あなた達が勝手に愚かな行動をとるなら私達はルールに従って行動するだけ」
「もっともらしい理由をつけてるけど”お母さんに言いつけるぞ”といっしょじゃないか」
「そうよ?それがどうかしたの?私達は言いつけを守ってるに過ぎない。何かあったら報告しろ。その時点で約束は破棄だ。自由に暴れて良い。そう言われてるだけ」
天音も言ってたな。「戸籍の無い人間が1人出来上がるだけだ」と。
「それってダサくないか?なんでも年上の人間を傘にして威張りやがって」
「怖いから言わないでね。そんな事を吠えてる人間が言っても説得力がありませんね。せめて年上に反抗くらいする度胸を覚えてからいいなさい」
それに、さっきから告げ口されてる事を恐れているけど本当は手を出すなときつく言われてるんじゃないの?
繭が言う。
「ださいから告げ口するな」
「告げ口するなと言ってるお前らよりはましだ」
話は平行線のままだ。
そんな話し合いにうんざりしたらしい。
「あなた達と話をしても埒が開かない。勝次を連れてきなさい」
「そうなるだろうと思って連れて来た」
如月天が山本勝次を連れて来た。
繭は勝次に言う。
「あなたはどう手下に指導しているの?正直に答えなさい。あなたの回答次第で行方不明者が1人出来るわよ?」
「お、お前らSHには手を出すなって言っただろう!」
兄の命運がかかっている勝次は男たちを叱りつける。
「私達は私たちなりにルールがあるから守ってる。FGの行動には不干渉。その代わり少しでも気に入らないことがあったらまず報告しろ。その後どうするかは亀梨光太が判断する」
ルールを反故にするというなら、私達だってそれなりの対応をする。
決して抗争が終ったわけじゃない。
ただ不毛だから休戦しましょうという約束を交わしただけ。
それを破るんだったらこっちだって理屈に則って行動に移るだけ。
世の中にはルールがある。
どんな些細な事でも約束事がある。
それはカッコ悪いとか自分勝手な価値観じゃない。
私達は冷静に手続きをとっているだけだ。
「忘れないで。SHだってみんな戦いを嫌ってるわけじゃない。なかにはめんどくさいからこの際皆殺しにしてしまえという人間だっている。その人たちは口実さえあればすぐに動くという事をお忘れなきよう」
繭がそう言うとFGの連中は解散していった。
次に注意されたのは俺だった。
「勇敢なのはいいけど、世の中には理由がいる。向こうが破ったからと言って私達が破って良い理由はない。何を言われようと組織に属するならそれに従うのも社会に出る上で必要な訓練ですよ」
繭はそう言って笑った。
「純也君大丈夫?口から血が出てる」
梨々香がハンカチを傷口に当てる。
ちょっと痛かった。
そして痛感した。
俺が暴れるのは自由だ。
だけど、それをして被害を受けるのは俺だけじゃない。梨々香や茜にも迷惑がかかる。
茜はきっと壱郎が守ってくれる。俺も梨々香を守る。
だけど同じように俺達SHはたった一つのルールに守られている。
だからルールを破ったらいけない。
繭達も今年度で卒業する。
そしたらその事を俺達が下級生に徹底させる立場にある。
FGが手を出さない限りSHは手を出さない。
それはこれからも続いていく絶対のルール。
帰り道FGに虐められてる子を見つけた。
「純也君。ダメだよ?」
梨々香が言う。
「大丈夫、ちょっとまってて」
そう言うと俺はそいつらの下に行く。
「止めた方がいいんじゃない?」
「誰に物を言ってるんだ?」
そいつらは俺に標的を変える。
だけど俺はそいつらに言う。
「黒いリストバンドをしたダサい連中に言ってる。俺達は理由を欲してる。人を助けるのに理由はいらないけど。そういうルールに従って生きてる。お前たちが目障りな行動をとっている。俺達が動くには十分な理由だけど?」
そう言うと男たちは止めた。
「黒いリストバンドを見つけたら袋叩きにしてやれ!」
天音達の主張だ。
それを光太達が抑えている。
それで天音達が我慢しているなら俺達も我慢しよう。
それはきっと一つの印を共有することでしか仲間意識を保てない連中には永遠に理解できないルール。
しかしそれはいつまで続くのだろう?
SHとFGの戦いは終結という言葉に辿り着けずにいた。
(3)
その日光太たちと共に体育館裏に喜一を呼び出した。
喜一は相変わらず沢山の部下を従えている。
多勢に無勢だった。
そんな事はお構いなしに光太は話を始める。
「約束はお前が中学に入ってきたときに確認したはずなんだが?」
光太がそう言った。
「お前達から粉かけてきたときいてるんだけど?」
喜一が言う。
私達が話してるのは小学校で会った努力遠足で起きた一件についてだ。
運動会で勝って調子づいてる。今目の前にいるこの馬鹿のように。
「調子に乗ってやりたい放題のFGが気に入らない。俺達が動くには十分な理由だと俺は判断するが喜一はどう思ってるんだ?」
光太がそう言うと緊張感が漂う。
面白い、ここに喜一を埋めて全部終わりにしてやる。
「僕達のやる事に、因縁つけてきて好き勝手やってるのはSHの方じゃないの?」
「喜一は何か勘違いしてないか?」
光太が言った。
「俺達の中にはお前を極寒の異国に放り込んで面倒事をさっさと片付けたいという意見が少なからずあるんだ。それをお前たちが”休戦してください”というから停めてるだけだ。理由があるならいつ約束を破棄してもいいんだぞ?」
こっちはいつでも殺る気ですよ。
光太はそう主張する。
「僕もその意見には賛成だね。お前の意志なんて知った事じゃない。さっさと壊滅させた方が面倒事も全て解決する」
「空の言う通りかもね。存在するから気に入らないことが出来る。なら、とっとと存在を消滅させた方が早い」
空と翼が言う。
喜一の顔が青ざめていく。
今どれだけ人数差があろうがこの2人にはそんな事は関係ない。
祈や粋、遊達の顔を見る。
「雑魚は私達に任せて天音は喜一の息の根を止めてやれ」
大地も言う。
「天音には指一本触れさせない」
私達SHは今日決着をつける為に集まった。
今日が終戦記念日だ。
臨戦態勢に入る私達。
だが、この期に及んで喜一は交渉を試みる。
「そ、それでは約束が違うじゃないか!」
「あんたももう中学生でしょ?いい加減理解しな。確かに約束は交わした。でもそっちが鬱陶しい真似をするなら律義に約束を守る必要は私達には無いと言ってるの」
翼が言う。
「それは下級生が勝手にやったことだ」
「へえ?自分の手下に責任に擦り付けて逃げようっていうんだ?」
翼はにやりと笑う。
「手下の管理の満足に出来ないやつと約束したところで猶更時間の無駄じゃない。私達も勝手にやるよ」
「今後はこのような事の無いように徹底する。改めて約束しよう」
「約束しようって私達にそのつもりは無いっていうのが理解できないの?今日全部終わらせるつもりできたんだよ?あんたもそのつもりで頭数そろえてきたんじゃないの?」
兵隊を後ろに揃えて休戦しましょうなんて戦後の日本じゃあるまいし通用しないぞ。
「お互い楽しく学校生活を送る為にもここは……」
「不快にさせてるのはお前たちなんだけどな?」
光太も取り付く島もない。
「大体さっきからあんたの態度が気に入らない。いつまで対等の立場でいるつもりなの?自分の立場くらい弁えな」
翼が言うと、喜一は土下座する。
「申し訳ありませんでした!以後はこのような事の無いように徹底します。どうか今回だけは……」
その様子を遊達は面白がって写真を撮っている。
これで許してもらえる。
少なくとも喜一はそう思っていた。
しかし今日の光太は機嫌が悪かったらしい。
「いいか?約束は存在する。だがそれを守る義理も道理も反故にしたのはおまえらFGだ。今後何があろうと保証はしない。SHには穏健派ばかりじゃない、好戦的な連中の方が多いんだ。お前の身の安全は保障しない。精々毎日を無事に過ごせることを神にでも感謝して生きろ」
光太がそういうと「行くぞ」と私達と一緒に体育館裏を後にする。
「いいの?やってしまったほうがあと腐れなかったんじゃない?」
翼が光太に聞いていた。
「あれだけ心理的恐怖を植え付けたら次はないだろう」
俺達も受験生、内申点に傷つくようなことは避けたいしなと光太は言う。
「それなら私達二年だけで全員ぶちのめす事も出来たぞ」
私が言うと大地たちもうなずく。
その回答は空がした
「この問題は僕達がいる学校は問題ない、今回は小学校、次は中学校、その次は高校と常に付きまとう問題だ」
だから、二度とふざけた真似をしないように恐怖心を植え付ける必要があった。
次私達のまえで気に入らない真似をしたら真っ先に喜一を処刑する。
約束じゃない、ただの脅迫。
虫の居所の悪い所にうじゃうじゃと鬱陶しい真似をしたら叩きのめしていい。
ただの死刑宣告。
あとは処刑される日を震えながら待つだけ。
その事はすぐにSHのメンバー全員に広まった。
きっと喜一もすぐにメンバー全員に周知させることに努力しただろう。
自分の運命がかかっているのだから。
そして夜が明けた。
(4)
変化はすぐに起こった。
茜の作ったポスターは朝のうちに昇降口に張られた。
FGのリーダー山本喜一が土下座している写真。
中学生のメンバーがすぐに写真をグルチャにアップロードしたらしい。
それを保存して加工してプリントアウトされた。
子供の発想力は時として大人を驚かす。
茜の最高傑作は全校生徒が目にした。
その後職員の手によって破り捨てられたが。
「こんなのを貼った人に心当たりはありませんか?正直に手をあげなさい」
「は~い、私です」
茜は悪びれもせず手をあげる。
「どうしてこんな真似をしたの!?」
「面白いと思ったからです」
「……あとで職員室に来なさい!」
その日午前中は自習時間になった。
家に帰ってから知ったことだが愛莉も呼び出されたらしい。
もっとも「茜こんな才能があったんですね」と感心してたらしいが。
「いや、お母さん。そうじゃなくてですね」
「先生は何か気になる点があるんですか?」
「こんな写真をばらまかれた子供さんの気持ちを考えたことありますか?」
「ポスターに理由も書いてるじゃないですか”悪いことをしたら頭を下げて誠心誠意をもって謝罪する”本来は大人が子供に躾けなければならない事だと思いますよ?」
「愛莉先輩。そうじゃなくてですね……」
茜の説教というより愛莉の説得に労力を割いたらしい。
だがそれも無駄に終わる。
「……お願いですからこれ以上問題を増やさないでください」
「何が問題なの?」
「……今日はわざわざすいませんでした」
「はい、瞳美もご苦労様です」
自習時間もみんなのびのびと遊んでいた。
恐怖の対象だった黒いリストバンドをした連中は教室の隅に固まっている。
天音が言ったらしい。
「お前らの存在自体がイライラするんだよ!」
時期的に幸いだったのだろう。
長袖にリストバンドを隠す者もいた。
外すことは許されない。
組抜けをした者には制裁を。
FGにもFGのルールがあったらしい。
だが、要領の良い連中はいる。
「俺をSHに入れてくれ!」
そう嘆願する者もいたという。
随分と虫のいい話だが、光太と相談した結果受け入れることにした。
決して助けてあげようという良い話ではない。
それで手を出してくるなら口実が出来る。
それだけの理由。
誰かを袋叩きにするのに理由がいるかい?
これからは容赦なく処分しますよ。
光太はそう宣言したらしい。
だからFGの連中は恐怖に慄いている。
運動会で勝った時が嘘のようだ。
それからFGの連中の活動は嘘のように沈黙した。
SHのいないクラスでもだ。
もう、SHの好戦派を縛る理由は無かった。
きっかけさえあればやってもいいよ。
そう言われたのだから。
そして一度事が起これば喜一はシベリアにバカンスだ。
もう僕達も迷わせるものはなかった。
「うわあ、真っ赤だ」
渡辺班毎年恒例の行事、紅葉狩り。
今年もまたキャラを増やしてやってきた。
今年は誠司の父さんは飛ばさなかった。
誠司と崇博と歩美。
3人の宝を乗せて無謀な事は出来ないと決めたそうだ。
走りの楽しみは子供が体験することになるから余計な感覚を体験させたくないと思ったらしい。
他の人は飛ばしてたけどね。
今年は瞳子と冴も参加してた。
搭乗員数とか頭を悩ませたらしいけどある、魔法の言葉が浮かんだらしい。
細かい事はどうでもいい!!
集合すると九重インターそばのコンビニまで行く。
そこでいったん集合して九酔渓を登っていく。
茜姉さんは写真を撮っていた。
「毎年同じのを撮って楽しいの?」
すると茜姉さんや翼姉さんが教えてくれる。
「美しい四季を楽しむのは日本人の特権だよ」
特権なら利用しない手はないかな。
ちなみに冬眞と莉子は寝ている。
子供が寝ていても平気な運転をするのが父さんだ。
車は夢釣り大橋につくと皆集まる。
「じゃあ、自由時間にしようか?」
渡辺さんが言う。
自由と言っても本当に自由になるのは中学生組だけだけど。
中学生組も皆橋を渡って戻ってきてハンバーガーを食べてソフトクリームを食べるだけだ。
冬眞と莉子は父さんと母さんが抱っこしてる。
誠司の下の子の崇博と歩美も同様に抱っこされている。
天音姉さんが言っていた。
「将来ここで喜一を紐無しバンジーさせるのも面白いかもな」
紐無しバンジーってバンジージャンプじゃない気がしたけど、まあいいや。
橋を渡り終えて戻ってくると片桐家はまっすぐ売店に向かう。
ハンバーガーを食べてソフトクリームを食う。
食べないのは冬眞と莉子と母さんくらいだ。
そんな冬眞と莉子も昼食の時は大人しくしてる。
落ち着きが無いのは誠司くらいだ。
昼食も終わると車は地元に向かって帰る。
地元に帰るとファミレスに寄る。
ファミレスに着くと僕達が起こされる。
そして夕食を食べて家に帰る。
順番に風呂に入って寝る。
秋半ば。
葉も紅色に染まって見頃となった時期だった。
(2)
「てめえ!もう一度言ってみろ」
男は俺の胸ぐらを掴む。
何度でも行ってやる。
「物乞いなんかて見っともないと思わないの?」
俺は男に殴り飛ばされ吹き飛んだ。
受け身くらい取れる。
目を赤くした茜が駆け寄る。
「殴られて何も出来ないお前たちの方が余程かっこ悪いぜ!それともお姉さんたちに言いつけるっていうのか?」
FGに手を出すな。
俺達SHはそう言われている。
でも我慢の限界だった。
片桐家の男子を怒らせたらどうなるか分からせてやる必要があるらしい。
相手が同学年だろうと上級生だろうと何人いようが関係ない。
俺は起き上がって男に殴りかかる
だがその拳を大原要の掌が受け止めた。
「止めとけ、先生に目をつけられるのはお前だぞ。純也」
要はそういう。
「子分の躾も出来ないのか?負け犬のSHは」
男たちはそう言って笑ってる。
たかだか運動会で勝ったからって調子に乗りやがって。
「しかけたのはFGだ!だから俺達だって反撃する理由がある!違うか!?」
「お、やろうというのか?いいぜ?二度と逆らえないようにしてやる」
男が挑発する。
「ここは俺達に任せてくれないか?」
要が言う。
どうしようって言うんだ?
要は男たちに向かっていった。
「さっきからキャンキャンと言っているがみっともないのはどっちの方だ?」
群れて下級生からお菓子を巻き上げる男たちと俺達、みっともないのはどっちだ?
要はそういう。
「要の言う通りですね。それに少しは捻ってきたようだけど言ってる内容は”このことはお姉様たちには言わないでね”情けないにも程があります」
酒井繭が言った。
「つ、告げ口する方がダサいじゃねーか?」
「私達がどうしようが私達の勝手。あなた達が勝手に愚かな行動をとるなら私達はルールに従って行動するだけ」
「もっともらしい理由をつけてるけど”お母さんに言いつけるぞ”といっしょじゃないか」
「そうよ?それがどうかしたの?私達は言いつけを守ってるに過ぎない。何かあったら報告しろ。その時点で約束は破棄だ。自由に暴れて良い。そう言われてるだけ」
天音も言ってたな。「戸籍の無い人間が1人出来上がるだけだ」と。
「それってダサくないか?なんでも年上の人間を傘にして威張りやがって」
「怖いから言わないでね。そんな事を吠えてる人間が言っても説得力がありませんね。せめて年上に反抗くらいする度胸を覚えてからいいなさい」
それに、さっきから告げ口されてる事を恐れているけど本当は手を出すなときつく言われてるんじゃないの?
繭が言う。
「ださいから告げ口するな」
「告げ口するなと言ってるお前らよりはましだ」
話は平行線のままだ。
そんな話し合いにうんざりしたらしい。
「あなた達と話をしても埒が開かない。勝次を連れてきなさい」
「そうなるだろうと思って連れて来た」
如月天が山本勝次を連れて来た。
繭は勝次に言う。
「あなたはどう手下に指導しているの?正直に答えなさい。あなたの回答次第で行方不明者が1人出来るわよ?」
「お、お前らSHには手を出すなって言っただろう!」
兄の命運がかかっている勝次は男たちを叱りつける。
「私達は私たちなりにルールがあるから守ってる。FGの行動には不干渉。その代わり少しでも気に入らないことがあったらまず報告しろ。その後どうするかは亀梨光太が判断する」
ルールを反故にするというなら、私達だってそれなりの対応をする。
決して抗争が終ったわけじゃない。
ただ不毛だから休戦しましょうという約束を交わしただけ。
それを破るんだったらこっちだって理屈に則って行動に移るだけ。
世の中にはルールがある。
どんな些細な事でも約束事がある。
それはカッコ悪いとか自分勝手な価値観じゃない。
私達は冷静に手続きをとっているだけだ。
「忘れないで。SHだってみんな戦いを嫌ってるわけじゃない。なかにはめんどくさいからこの際皆殺しにしてしまえという人間だっている。その人たちは口実さえあればすぐに動くという事をお忘れなきよう」
繭がそう言うとFGの連中は解散していった。
次に注意されたのは俺だった。
「勇敢なのはいいけど、世の中には理由がいる。向こうが破ったからと言って私達が破って良い理由はない。何を言われようと組織に属するならそれに従うのも社会に出る上で必要な訓練ですよ」
繭はそう言って笑った。
「純也君大丈夫?口から血が出てる」
梨々香がハンカチを傷口に当てる。
ちょっと痛かった。
そして痛感した。
俺が暴れるのは自由だ。
だけど、それをして被害を受けるのは俺だけじゃない。梨々香や茜にも迷惑がかかる。
茜はきっと壱郎が守ってくれる。俺も梨々香を守る。
だけど同じように俺達SHはたった一つのルールに守られている。
だからルールを破ったらいけない。
繭達も今年度で卒業する。
そしたらその事を俺達が下級生に徹底させる立場にある。
FGが手を出さない限りSHは手を出さない。
それはこれからも続いていく絶対のルール。
帰り道FGに虐められてる子を見つけた。
「純也君。ダメだよ?」
梨々香が言う。
「大丈夫、ちょっとまってて」
そう言うと俺はそいつらの下に行く。
「止めた方がいいんじゃない?」
「誰に物を言ってるんだ?」
そいつらは俺に標的を変える。
だけど俺はそいつらに言う。
「黒いリストバンドをしたダサい連中に言ってる。俺達は理由を欲してる。人を助けるのに理由はいらないけど。そういうルールに従って生きてる。お前たちが目障りな行動をとっている。俺達が動くには十分な理由だけど?」
そう言うと男たちは止めた。
「黒いリストバンドを見つけたら袋叩きにしてやれ!」
天音達の主張だ。
それを光太達が抑えている。
それで天音達が我慢しているなら俺達も我慢しよう。
それはきっと一つの印を共有することでしか仲間意識を保てない連中には永遠に理解できないルール。
しかしそれはいつまで続くのだろう?
SHとFGの戦いは終結という言葉に辿り着けずにいた。
(3)
その日光太たちと共に体育館裏に喜一を呼び出した。
喜一は相変わらず沢山の部下を従えている。
多勢に無勢だった。
そんな事はお構いなしに光太は話を始める。
「約束はお前が中学に入ってきたときに確認したはずなんだが?」
光太がそう言った。
「お前達から粉かけてきたときいてるんだけど?」
喜一が言う。
私達が話してるのは小学校で会った努力遠足で起きた一件についてだ。
運動会で勝って調子づいてる。今目の前にいるこの馬鹿のように。
「調子に乗ってやりたい放題のFGが気に入らない。俺達が動くには十分な理由だと俺は判断するが喜一はどう思ってるんだ?」
光太がそう言うと緊張感が漂う。
面白い、ここに喜一を埋めて全部終わりにしてやる。
「僕達のやる事に、因縁つけてきて好き勝手やってるのはSHの方じゃないの?」
「喜一は何か勘違いしてないか?」
光太が言った。
「俺達の中にはお前を極寒の異国に放り込んで面倒事をさっさと片付けたいという意見が少なからずあるんだ。それをお前たちが”休戦してください”というから停めてるだけだ。理由があるならいつ約束を破棄してもいいんだぞ?」
こっちはいつでも殺る気ですよ。
光太はそう主張する。
「僕もその意見には賛成だね。お前の意志なんて知った事じゃない。さっさと壊滅させた方が面倒事も全て解決する」
「空の言う通りかもね。存在するから気に入らないことが出来る。なら、とっとと存在を消滅させた方が早い」
空と翼が言う。
喜一の顔が青ざめていく。
今どれだけ人数差があろうがこの2人にはそんな事は関係ない。
祈や粋、遊達の顔を見る。
「雑魚は私達に任せて天音は喜一の息の根を止めてやれ」
大地も言う。
「天音には指一本触れさせない」
私達SHは今日決着をつける為に集まった。
今日が終戦記念日だ。
臨戦態勢に入る私達。
だが、この期に及んで喜一は交渉を試みる。
「そ、それでは約束が違うじゃないか!」
「あんたももう中学生でしょ?いい加減理解しな。確かに約束は交わした。でもそっちが鬱陶しい真似をするなら律義に約束を守る必要は私達には無いと言ってるの」
翼が言う。
「それは下級生が勝手にやったことだ」
「へえ?自分の手下に責任に擦り付けて逃げようっていうんだ?」
翼はにやりと笑う。
「手下の管理の満足に出来ないやつと約束したところで猶更時間の無駄じゃない。私達も勝手にやるよ」
「今後はこのような事の無いように徹底する。改めて約束しよう」
「約束しようって私達にそのつもりは無いっていうのが理解できないの?今日全部終わらせるつもりできたんだよ?あんたもそのつもりで頭数そろえてきたんじゃないの?」
兵隊を後ろに揃えて休戦しましょうなんて戦後の日本じゃあるまいし通用しないぞ。
「お互い楽しく学校生活を送る為にもここは……」
「不快にさせてるのはお前たちなんだけどな?」
光太も取り付く島もない。
「大体さっきからあんたの態度が気に入らない。いつまで対等の立場でいるつもりなの?自分の立場くらい弁えな」
翼が言うと、喜一は土下座する。
「申し訳ありませんでした!以後はこのような事の無いように徹底します。どうか今回だけは……」
その様子を遊達は面白がって写真を撮っている。
これで許してもらえる。
少なくとも喜一はそう思っていた。
しかし今日の光太は機嫌が悪かったらしい。
「いいか?約束は存在する。だがそれを守る義理も道理も反故にしたのはおまえらFGだ。今後何があろうと保証はしない。SHには穏健派ばかりじゃない、好戦的な連中の方が多いんだ。お前の身の安全は保障しない。精々毎日を無事に過ごせることを神にでも感謝して生きろ」
光太がそういうと「行くぞ」と私達と一緒に体育館裏を後にする。
「いいの?やってしまったほうがあと腐れなかったんじゃない?」
翼が光太に聞いていた。
「あれだけ心理的恐怖を植え付けたら次はないだろう」
俺達も受験生、内申点に傷つくようなことは避けたいしなと光太は言う。
「それなら私達二年だけで全員ぶちのめす事も出来たぞ」
私が言うと大地たちもうなずく。
その回答は空がした
「この問題は僕達がいる学校は問題ない、今回は小学校、次は中学校、その次は高校と常に付きまとう問題だ」
だから、二度とふざけた真似をしないように恐怖心を植え付ける必要があった。
次私達のまえで気に入らない真似をしたら真っ先に喜一を処刑する。
約束じゃない、ただの脅迫。
虫の居所の悪い所にうじゃうじゃと鬱陶しい真似をしたら叩きのめしていい。
ただの死刑宣告。
あとは処刑される日を震えながら待つだけ。
その事はすぐにSHのメンバー全員に広まった。
きっと喜一もすぐにメンバー全員に周知させることに努力しただろう。
自分の運命がかかっているのだから。
そして夜が明けた。
(4)
変化はすぐに起こった。
茜の作ったポスターは朝のうちに昇降口に張られた。
FGのリーダー山本喜一が土下座している写真。
中学生のメンバーがすぐに写真をグルチャにアップロードしたらしい。
それを保存して加工してプリントアウトされた。
子供の発想力は時として大人を驚かす。
茜の最高傑作は全校生徒が目にした。
その後職員の手によって破り捨てられたが。
「こんなのを貼った人に心当たりはありませんか?正直に手をあげなさい」
「は~い、私です」
茜は悪びれもせず手をあげる。
「どうしてこんな真似をしたの!?」
「面白いと思ったからです」
「……あとで職員室に来なさい!」
その日午前中は自習時間になった。
家に帰ってから知ったことだが愛莉も呼び出されたらしい。
もっとも「茜こんな才能があったんですね」と感心してたらしいが。
「いや、お母さん。そうじゃなくてですね」
「先生は何か気になる点があるんですか?」
「こんな写真をばらまかれた子供さんの気持ちを考えたことありますか?」
「ポスターに理由も書いてるじゃないですか”悪いことをしたら頭を下げて誠心誠意をもって謝罪する”本来は大人が子供に躾けなければならない事だと思いますよ?」
「愛莉先輩。そうじゃなくてですね……」
茜の説教というより愛莉の説得に労力を割いたらしい。
だがそれも無駄に終わる。
「……お願いですからこれ以上問題を増やさないでください」
「何が問題なの?」
「……今日はわざわざすいませんでした」
「はい、瞳美もご苦労様です」
自習時間もみんなのびのびと遊んでいた。
恐怖の対象だった黒いリストバンドをした連中は教室の隅に固まっている。
天音が言ったらしい。
「お前らの存在自体がイライラするんだよ!」
時期的に幸いだったのだろう。
長袖にリストバンドを隠す者もいた。
外すことは許されない。
組抜けをした者には制裁を。
FGにもFGのルールがあったらしい。
だが、要領の良い連中はいる。
「俺をSHに入れてくれ!」
そう嘆願する者もいたという。
随分と虫のいい話だが、光太と相談した結果受け入れることにした。
決して助けてあげようという良い話ではない。
それで手を出してくるなら口実が出来る。
それだけの理由。
誰かを袋叩きにするのに理由がいるかい?
これからは容赦なく処分しますよ。
光太はそう宣言したらしい。
だからFGの連中は恐怖に慄いている。
運動会で勝った時が嘘のようだ。
それからFGの連中の活動は嘘のように沈黙した。
SHのいないクラスでもだ。
もう、SHの好戦派を縛る理由は無かった。
きっかけさえあればやってもいいよ。
そう言われたのだから。
そして一度事が起これば喜一はシベリアにバカンスだ。
もう僕達も迷わせるものはなかった。
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