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艮の空に
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(1)
今日は瑛大の実家に親戚が集まっていた。
宴とは程遠い世界。
「恋は千帆ちゃんと姫乃ちゃんの面倒見ててくれないかな」
「分かった」
恋はそう言って千帆ちゃんと姫乃ちゃんと遊んでいる。
あの子にとって妹という存在は初めてなんだろう。
嬉しそうに話していた。
千帆ちゃん達の寂しさを紛らわす相手としても最適だったんだろう。
「千帆ちゃん達向こうにいってよ?」
恋が部屋の外に連れ出す。
今大人が話していることは千帆に聞かせることじゃない。
恋なりの配慮だろ。
あの子もそう言う気配りが出来るようになったんだな。
我が子ながら立派に育った。
学といい、私は子供にめぐまれているのかもしれない。
3人が出ていくのを見届けると私は大人の輪の中に入る。
みんな私より年上だ。
それなりに役職のある年配。
そんな立派な大人が口をそろえて言う。
「うちにそんな余裕はない!」
瑛大は無関心なのか一言も喋らないままただ酒を飲んでいる。
この馬鹿は……
話題はさっき部屋を出て行った千帆達についてだった。
彼女の後見人に誰がなるか?
誰も血のつながっていない子供の世話などしたがらない。
たまに遊びに来る程度と面倒を見るのは別の話だ。
やっと自分の子供が独り立ちしてほっとしてるときに手のかかる2歳児の面倒なんて見たくない。
私だって同じだ。
学がいたから奇跡的に恋が育った。
それでもこれから3人の子供の学費を考えるととてもじゃないけど専業主婦なんて無理だ。
しかし悩んでいた。
しかしこのまま行けば彼女達は施設送り。
ちなみに2人の両親は飛行機の墜落事故で亡くなった。
多額の賠償金が入ってくる。
4人失ったのだから億を超える額が入ってくる。
子供の養育費としては十分すぎる額だ。
だから余裕はないというのは金銭的余裕じゃない。
単純に面倒だなだけだ。
それだけじゃない。
良くも悪くも彼女達には億を超える付加価値がついてくる。
下手に面倒を見るといえば「どうせ財産目当てだろ」とめんどくさい言いがかりをつけられる。
大人の価値観なんてそんなもんだ。
子供に見せられる程立派なものなんてない。
「子供を返せ!」
医療ミスで子供を失うと親はそう泣き叫ぶ。
大抵の親は多額の賠償金を払うと訴えを取り下げる。
「それじゃまだ足りない」とごねる親もいるが。
「しょうがない、施設に入れるか……」
「待ってください!」
気が付いたら私が名乗り上げていた。
「私が二人の面倒を責任もって見ます」
「し、しかし亜依さんのところはすでに3人も子供がいてそれどころではないのでは?」
「うちには学というしっかりした子供がいます。ちょっと負担をかけるけど妹の面倒は慣れているはずです」
その恋だって来年には中学生だ。妹の面倒くらい見れるだろう。
昼間は来年から幼稚園に入れられる。
あとは済む家を変えるだけだ。
最低もう一部屋欲しい。
無理でも女の子3人部屋にすればすむだけ。
子供の未来を考えたらどんな苦労って背負ってみせる。
あの子達の未来を大人のエゴで潰してなるものか。
「そんなえらそうなこと言ってどうせ賠償金目当て何だろう」
「そんなに賠償金がほしいならあなたが面倒見ればよろしいのでは?」
「自分の子供で手一杯なんだよこっちは。あんたは無責任にぽんぽん子供を産んで育てて偉そうにしてるが、子供は一人ずつしっかり育てるべきだ。大家族だとえらそうにテレビに出ているが、ただの無責任な両親が自分のエゴで産んでるだけじゃないか」
我慢の限界だった。
「ふざけんなくそ爺!人の嫁に無責任だの賠償金目当てだの好き勝手言いやがって!」
単に酒を楽しみに来ていたと思っていた瑛大が立ち上がると爺の胸ぐらを掴み上げる。
「ぶっ飛ばされたくなかったら今すぐ亜依に謝れ!」
「こんな両親に育てられたら子供の将来もしれてるな」
「てめぇ、マジでぶっ飛ばされたいのか?」
「止めろ瑛大!こんな醜い騒ぎ子供に見せたくない」
私は今にも殴りかかろうとする瑛大を止める。
「あの二人を立派に育てて見返してやればいい。この言い訳しか出来ない無能にはその方が早い」
「若造が、目上に対する敬意ってものを知らんのか?」
「敬意を払うべき人間になら歳に関係なく払います。ですがあなたにその価値があるとは思えない」
「なんだと!?貴様の人生台無しにするくらい容易い事だぞ」
「やれるものならどうぞご勝手に。でも生憎と私達にその手の喧嘩を売って無傷で済んだ人間はいませんよ」
大人同士で喧嘩がしたいならいくらでも買ってやる。
私は瑛大の父さんに挨拶すると恋と二人を連れて帰る。
瑛大は飲んでいるから私が運転した。
「ごめん、あいつらが好き勝手言いやがるからついかっとなって」
「心配するな。別に怒ってないよ」
むしろよくやったと褒めてやりたいくらいだ。
「亜依、大丈夫なの?病院もあるのに」
「ちょっとの辛抱だ。少しの間だけ託児所に預けるよ」
さすがに2歳児を家に放置はできない。
「俺達も冬夜見習って増築するかな」
「そうだな、姫乃と千帆の部屋くらいは確保してやりたいな」
明日にでも晶に相談してみるよ。
「俺ももっと頑張らないとダメになったな」
「お前に苦労かけるな」
「亜依ほどじゃないよ」
「そう思うならもう少し育児に協力してくれ」
「恋の二の舞はしないって決めてるんだ。休みの日くらい相手してやろうと思ってる」
「恋と喧嘩するなよ」
「父さんは余計な事しなくていい!二人は私がちゃんと見てるから!」
恋が言う。
恋も妹が出来たことが嬉しいのだろう。
家に帰ると学と遊に説明する。
2人とも納得してくれたようだ。
私は準備すると、深夜勤に出る。
後日早速圧力をかけて来たらしい。
深雪先生に呼び出される。
「こんな礼儀知らずの看護師がいる病院の世話になんてなりたくない!転院させてくれ!」
偶にこういう理不尽な言いがかりをつけてくる患者がいる。
そしてそういう輩の扱い方を深雪先生はよく知っている。
「何のことか分かりませんが、彼女は実績も腕も十分ある優秀なスタッフです。転院先にあてがあるなら紹介状は書きますが」
「身内を庇って患者の意見を蔑ろにするのがこの病院のやり方か!?」
「蔑ろにしてるつもりはありません。あなたが転院したいとおっしゃるので尊重してるだけですが。それが身内びいきとは心外ですね」
ちなみにうちから紹介されたと言って引き受ける病院はほとんどない。
どんな難病も治療すると評判の病院が手放した。
それがどういう意味をもつかどこも知ってるから。
だいたいが、お手上げだと勘違いするのだろう。
結局この患者もうちでの治療を続けることになった。
瑛大の所にも圧力をかけようとしたらしい。
馬鹿な事を……。
ETC……江口グループにたてついてただで済むと思ってる奴がまだ地元にいたんだな。
逆にあの爺は50歳という若さで「希望退職」させられたらしい。
まだ家のローンやらあるだろうにご愁傷様。
そして私と瑛大はこの歳で千帆と姫乃という若い未来を背負うことになった。
どうやら、定年まで休む事は許されることは無さそうだ。
(2)
「ただいま」
母さんが帰って来た。
知らない子供をまた連れて来た。
母さんの親戚はよく不幸に会う。
そして子供を母さんに託してこの世を去る。
今回も同じケースだと思った。
でも少し違うらしい。
今回は父さんの親戚らしい。
父さんの親戚の中では父さんが一番資産もあるし地位も安定している。
だから父さんが引き受けることになった。
私達に異論はなかった。
新しい、家族の一員を歓迎した。
「お名前は?」
私はその子に聞いてみた。
見た感じ自分の名前くらいは言えそうな年頃だと思ったけど違ったらしい。
緊張してるのかな?
それも違うんだ。
母さんはその事新條さんに預けると言った。
「あの子ショックで喋れなくなったの」
「どういうこと?」
母さんは説明を始めた。
あの子の名前は石原杏采。
先日飲酒運転をしていた車が歩道に突っ込んだ。
母親は咄嗟に子供を庇ってそして自分は命を落とした。
目の前で自分の母親が死んで行くのを目の当たりにした杏采はショックのあまり感情を閉ざしてしまった。
通夜の席で親族が会議した。
喋る事すらできない幼子。
そんな面倒な子を誰が引き取るか。
父さんが引き取ることにした。
彼女は自分を表現できないでいるだけ。
何が起こってるのかくらいは把握できてる。
杏采のまえで醜い争いは見せたくない。
父さんはそう判断したらしい。
うちには同い年の子がいる。
だから構わないと思ったのだろう。
困ってる子供を放っておけないという父さんの性格もあったのだろうが。
普段は母さんの言いなりになってるけど、いざという時はきちんと言うべきことをいう父さんが私の自慢だった。
それから家に帰ると杏采と岳也の面倒を見る。
受験勉強?
翼が言ってた。
「私達は良くも悪くも運命のレールをなぞっているだけ。決して外れることは無い」
だからしてもしなくても結果は同じだ。
作品としても「ずっと勉強してました」じゃ話にならない。
ある日杏采が部屋を訪ねて来た。
そしてある物を見つける。
それは穴の開いた使い古した靴下。
もう捨てようと思ってたものだ。
杏采はそれを見ると自分の部屋に戻って裁縫道具を持ってきた。
そして穴を繕う。
可愛い刺繍をおまけに入れて。
見事な腕前だった。
彼女とコミュニケーションをとるのは簡単だった。
イエスかノーかの二択の質問をする。
まだ字がかけないので紙に選択肢を書いて示す。
例えば「今夜は何が食べたい?」と聞いて肉と魚の二択を用意してやる。
すると杏采は指差して意思を表示する。
杏采は明るい子だ。
今はちょっと自分の気持ちに整理ができなくて感情を表せないでいるだけ。
いつかきっと喋れるようになる。
西松医院で言われたのだから間違いないだろう。
夕食の時に靴下の件を母さんに話す。
母さんなりに思うところがあったのだろう。
翌日ファッション雑誌を買ってくる。
キッズ用の奴だ。
杏采は興味津々に見ていた。
杏采は私の部屋で過ごすことが多かった。
母さんが買って来た布切れを使ってハンカチなんかを作ったりしてる。
私の着なくなった服を引っ張り出して自分様に補正したりしている。
2歳の子がやる業じゃない。
杏采の部屋にやがてミシンが置かれた。
新條さんや私が手伝ってやって服や小物を作ってる。
その作品を見て母さんはにこりと笑った。
「この子の将来は決まりね」
杏采の将来が決まった瞬間だった。
秋。
別れの季節。
悲しみの冬を越えて新しい出会いの春が訪れる。
今はじっとしていればいい。
いつかきっと杏采を導いてくれる人が現れるから。
(3)
「大勢の人が死んでるだぞ!ふざけるな!!きちんと説明しろ」
だいたいこの手の雑魚は端した賠償金目当てで騒ぎ立てているだけ。
私と亜依は航空会社の遺族への説明会に出席していた。
偶然とは怖い物。
私と亜依が引き受けた子供たちの親は同じ旅客機に乗っていた。
飛行機は滅多な事じゃ墜落しない。
その代わり墜落したらまず助からない。
今回も生存者0だった。
子供が乗っていなかったことが奇跡だ。
状況はただのヒューマンエラー。
インドの空港に着陸アプローチ中に自動操縦の降下モードの設定を誤り、降下率を設定しようとして降下率設定ノブの隣にある高度設定ノブを回して着陸する滑走路よりも低い高度を入力した。
その上外部監視を疎かにして着陸進入の異常に気付かなかった。
結果降下率の修正は行われず空港手前で墜落した。
飛行機は空を飛んでいてとんでもない速さで進んでいる。
高度、地表との関係、航路、ありとあらゆる機器が搭載され一目で状況が全てわかるように設計されている。
安全に対する対策も幾重にも施され何があってもすぐに警告が出される。
飛行機事故のほぼすべてはヒューマンエラーだ。
パイロットだけが原因じゃない、管制塔とのコミュニケーション不足もある。
ヒューマンエラーと整備不良が原因だ。
安全だと言われている旅客機も人が扱い方を間違えたら鉄の棺桶になる。
そして責任を取るべきパイロットは自身も命を落とす。
何百名という命を抱えて飛んでる事を忘れてフライト時間だけを根拠に傲慢な操縦をする。
飲酒して操縦などもってのほかだ。
やり場のない怒りを航空会社の責任者にぶつける。
私達はそれを静かに見ていた。
責任者を問い詰めたところで事態が好転するはずがない。
亡くなった人達は戻ってこないのだから。
精々補償額が上がる程度だ。
だからといって責任者を庇う気も無かった。
こういう時に責任をとるから責任者なんだ。
怒り狂う遺族を宥めながら淡々と説明がされていた。
1人あたり8000万円。
それが亡くなった者たちの単価だった。
説明会を終えると私達は青い鳥に向かっていた。
これからどうするかだ。
補償額に不満を言っても話は進まない。
とりあえず子供の養育費には困らない。
必要なのはこれからのあの子たちの未来とそして心のケア。
私が預かった善久はとりあえずは落ち着いている。
善斗と仲良く遊んでいる。
それは亜依の所も同じらしい。
小さいのに可哀そうに。
小さいからよかったのか?
それはこれからの私達の行動で決まる。
亜依はとりあえずは子供たちの行動を見守るという。
やりたい事が見つかるまでじっくり考える時間を与えてやろうという。
まだ2歳。
まだ自分の身の振り方を考えるには早いくらいだ。
「晶はどうするの?」
亜依が聞いていた。
「とりあえず残してやるものは準備しておいてあげるつもり」
別の道を歩むならそれもいいだろう。
運命の女神はあの子達の味方をしてくれるだろう。
両親の死という過酷な運命をのりこえようとしているのだから。
(4)
なんだこの飯は!
美味ければいいってもんじゃないぞ!
私達は育ち盛りだぞ!
もっとこう、蟹とか出さないのか!
神戸牛が食いたい!
どこのホテルでも食えるような飯をなんで食わなきゃならないんだ。
せっかく旅に出たのだからそこの名産を食べる。
それが片桐家のルール。
今日は修学旅行初日。
なずなと花ははしゃいでいた。
京都のパワースポットや渡月橋などを巡り、京都を堪能してた。
私は抹茶パフェを食ったくらいだ。
遊達男子は舞妓に見とれてるし。
私はわざわざスイーツを食べに京都に来たのか!?
「まあまあ、明日はテーマパークだしいいじゃねーか」
水奈がそう言う。
水奈が言うならしょうがない。
私達はカップルでも水奈は学がいないのだから。
機嫌を直すと風呂を出て部屋に帰る。
この時とばかりに女子を呼び出し告白する男子共がいる。
部屋に入るとスマホを弄りながらテレビを見て適当に雑談をしていた。
粋と遊は何のために買ったのか分からない新選組の法被をきて木刀を振り回してチャンバラをやってたらしい。
そしてふすまを破って大目玉を食らったそうだ。
木刀なんてどこでも売ってるだろうに。
男子のすることはたまによく分からない。
そんな話を朝食を食べる時に大地から聞いていた。
ホテルを出るとテーマパークに向かう。
ゲートの前で諸注意を受けると自由行動になった。
「せっかくだから別行動しない?集合場所と時間だけ決めてさ」
なずなが言う。
「なずなと花は遊と粋と一緒に遊んで来いよ。私達は3人で行動する」
私が言った。
「私に気を使う事ねーって。2人で楽しんで来いよ」
「逆だよ水奈」
私が言うと皆「えっ?」という顔をしている。
「私達は中学を卒業したらそれぞれの学校に行く。まだ中学生だ。卒業旅行なんてするわけがない」
こうして皆と旅に来るのはこれが最後かもしれないだろ?
高校が違うんだ。ずっと一緒って保証はない。
だから、今できることを楽しもう。
「大地と関西に来るなんてこれから先いくらでもチャンスがある。それに初めての関西デートがあんなしょぼい料理なんて納得いかない」
大地と来るときはもっと食べまくる。
そう言って私は笑った。
「まあ、天音がそれでいいなら私は助かるけど」
水奈が言う。
「天音の言う通りかもしれないね。粋、私達も一緒に行動しようか?」
「そうだな」
花と粋が言う。
それからみんなで同じアトラクションで遊んだ。
待ち時間が長かったけど皆で並べばどうって事無かった。
昼飯は目一杯食った。
昼飯まで待ち時間があるとは思わなかったけど。
午後もアトラクションを楽しんだ。
「もう一回乗ろう?」
そう言って同じアトラクションを何度も乗った。
お土産屋さんに行く時間もちゃんと考えていた。
遊と粋は魔法使いの杖なんかを買っていた。
だからそんなもん何に使うんだ?
まあテーマパークまで来てカップラーメンをお土産に買って帰る私も人の事言えないけど。
時間を間違えたらしくて集合時間より早く集合場所についてしまった。
やり残したことは無いか?
私はこのテーマパークに来たのは2度目だ。
それにこれが最後ってわけじゃない。
何度でも来ればいい。
次は大地と2人で来れると良いな。
皆揃うとホテルに戻って夕食を食べる。
相変わらずさえないメニューだ。
せめてバイキング形式にして欲しかった。
夕食を食べると風呂に入って部屋で夜を過ごす。
女子の部屋に忍び込もうとした男子がいるらしい。
通路に正座させられていた。
そして修学旅行最終日を迎えた。
最後は水族館に行く。
ここでもみんなで行動した。
と、言って魚を見て回っただけだけど。
ぶっちゃけわざわざ大阪まで来てみる意味が分からない。
海鮮丼でも食わせてくれるなら話は別だが。
それでも花となずなははしゃいでいる。
写真を撮りまくっていた。
2周くらいすると私達は水族館を出る。
広場では大道芸人が芸をしていた。
それを眺めながらベンチに腰かけて休んでいると大地がジュースを買ってきてくれた。
「お疲れ様」
「ありがとう、大地こそつまらなかったんじゃないのか?」
男子はこういうところが苦手だと聞いた。
「そうだね、でも皆と一緒だからそんなことないよ」
ちゃんと思い出に残ったと大地は言う。
「大地はまた大阪に来たらどこに行きたい?」
「どこでもいいかな?」
大地は京都や奈良の方が好きらしい。
でも大地も同じだった。
私と一緒ならきっと素敵な想い出が残せる。
そう思っているらしい。
ならどこでもいい、どこにでも行って思い出をたくさん作ろう。
それが大地の考えだった。
「そろそろ時間だよ」
大地が言うと私はジュースを飲み干して集合場所に集まる。
駅までバスで行って新幹線に乗って小倉まで向かう。
大地もやはり疲れていたんだろう。
大地は眠っていた。
あとは帰るだけだという安心感があったのだろう?
油断しすぎだぞ。
だけど今は大地を休ませてやる。
関門トンネルに入る頃大地を起こす。
小倉で新幹線を降りて特急で地元に帰る。
地元に帰るとバスで中学校に向かう。
そして解散。
家に帰ると着替えて夕食を食べる。
食べながらパパ達に土産話を聞かせる。
夕食を食べると風呂に入って部屋に戻る。
「旅行はどうだった?」
茜が聞いてくる。
スマホでメッセージをしながら茜と話をする。
遊と粋は案の定親に怒られたらしい。
木刀とか買ってきて何に使うつもりだ!
置き場に困たらしくてベッドに置いてるそうだ。
茜が寝ると私もベッドに入る。
スマホを弄りながらいつの間にか眠っていた。
(5)
中学校で解散すると私は寄り道をする。
学の家に行く。
呼び鈴を鳴らすと学が出てくる。
「あ、今日帰って来たんだな。どうだった?」
「楽しかったよ。これお土産」
学に八つ橋を渡す。
「ありがとう。少し上がって話でもしていくか?」
「いや、夕食もまだだから」
「そうか、じゃあ送るよ」
「学も夕食の準備とかあるんじゃないのか?」
「家事は全部恋に奪われたよ」
俺のやる事がない。
学はそう言って笑っていた。
学と一緒に家に帰る。
旅行であったことを学に伝える。
学は静かに聞いていた。
家に着く。
「じゃあ、また」
「イブくらい一緒にいてくれるんだろ?」
私が聞いていた。
「そうだな、イルミネーションでも見に行くか?」
「わかった」
学が帰ると私は家に入る。
両親や誠司達に話をしながら夕食を食べる。
風呂に入って部屋に戻るとスマホを弄る。
いつも通りの時間にいつも通りに寝る。
あっというまの3日間だったけど、大切な想い出になることだろう。
思い出は優しいから甘えたらダメ。
私達はまだ思い出に甘えるような年頃じゃない。
これからまだまだ思い出は増え続ける。
楽しい事も辛い事も増えつづける。
まだ夢の途中。
辿り着く場所さえわからない想いだけど届くと信じて今飛ばす。
過ちも切なさも超える時、光を抱きしめる願が未来を呼び覚ます。
今日は瑛大の実家に親戚が集まっていた。
宴とは程遠い世界。
「恋は千帆ちゃんと姫乃ちゃんの面倒見ててくれないかな」
「分かった」
恋はそう言って千帆ちゃんと姫乃ちゃんと遊んでいる。
あの子にとって妹という存在は初めてなんだろう。
嬉しそうに話していた。
千帆ちゃん達の寂しさを紛らわす相手としても最適だったんだろう。
「千帆ちゃん達向こうにいってよ?」
恋が部屋の外に連れ出す。
今大人が話していることは千帆に聞かせることじゃない。
恋なりの配慮だろ。
あの子もそう言う気配りが出来るようになったんだな。
我が子ながら立派に育った。
学といい、私は子供にめぐまれているのかもしれない。
3人が出ていくのを見届けると私は大人の輪の中に入る。
みんな私より年上だ。
それなりに役職のある年配。
そんな立派な大人が口をそろえて言う。
「うちにそんな余裕はない!」
瑛大は無関心なのか一言も喋らないままただ酒を飲んでいる。
この馬鹿は……
話題はさっき部屋を出て行った千帆達についてだった。
彼女の後見人に誰がなるか?
誰も血のつながっていない子供の世話などしたがらない。
たまに遊びに来る程度と面倒を見るのは別の話だ。
やっと自分の子供が独り立ちしてほっとしてるときに手のかかる2歳児の面倒なんて見たくない。
私だって同じだ。
学がいたから奇跡的に恋が育った。
それでもこれから3人の子供の学費を考えるととてもじゃないけど専業主婦なんて無理だ。
しかし悩んでいた。
しかしこのまま行けば彼女達は施設送り。
ちなみに2人の両親は飛行機の墜落事故で亡くなった。
多額の賠償金が入ってくる。
4人失ったのだから億を超える額が入ってくる。
子供の養育費としては十分すぎる額だ。
だから余裕はないというのは金銭的余裕じゃない。
単純に面倒だなだけだ。
それだけじゃない。
良くも悪くも彼女達には億を超える付加価値がついてくる。
下手に面倒を見るといえば「どうせ財産目当てだろ」とめんどくさい言いがかりをつけられる。
大人の価値観なんてそんなもんだ。
子供に見せられる程立派なものなんてない。
「子供を返せ!」
医療ミスで子供を失うと親はそう泣き叫ぶ。
大抵の親は多額の賠償金を払うと訴えを取り下げる。
「それじゃまだ足りない」とごねる親もいるが。
「しょうがない、施設に入れるか……」
「待ってください!」
気が付いたら私が名乗り上げていた。
「私が二人の面倒を責任もって見ます」
「し、しかし亜依さんのところはすでに3人も子供がいてそれどころではないのでは?」
「うちには学というしっかりした子供がいます。ちょっと負担をかけるけど妹の面倒は慣れているはずです」
その恋だって来年には中学生だ。妹の面倒くらい見れるだろう。
昼間は来年から幼稚園に入れられる。
あとは済む家を変えるだけだ。
最低もう一部屋欲しい。
無理でも女の子3人部屋にすればすむだけ。
子供の未来を考えたらどんな苦労って背負ってみせる。
あの子達の未来を大人のエゴで潰してなるものか。
「そんなえらそうなこと言ってどうせ賠償金目当て何だろう」
「そんなに賠償金がほしいならあなたが面倒見ればよろしいのでは?」
「自分の子供で手一杯なんだよこっちは。あんたは無責任にぽんぽん子供を産んで育てて偉そうにしてるが、子供は一人ずつしっかり育てるべきだ。大家族だとえらそうにテレビに出ているが、ただの無責任な両親が自分のエゴで産んでるだけじゃないか」
我慢の限界だった。
「ふざけんなくそ爺!人の嫁に無責任だの賠償金目当てだの好き勝手言いやがって!」
単に酒を楽しみに来ていたと思っていた瑛大が立ち上がると爺の胸ぐらを掴み上げる。
「ぶっ飛ばされたくなかったら今すぐ亜依に謝れ!」
「こんな両親に育てられたら子供の将来もしれてるな」
「てめぇ、マジでぶっ飛ばされたいのか?」
「止めろ瑛大!こんな醜い騒ぎ子供に見せたくない」
私は今にも殴りかかろうとする瑛大を止める。
「あの二人を立派に育てて見返してやればいい。この言い訳しか出来ない無能にはその方が早い」
「若造が、目上に対する敬意ってものを知らんのか?」
「敬意を払うべき人間になら歳に関係なく払います。ですがあなたにその価値があるとは思えない」
「なんだと!?貴様の人生台無しにするくらい容易い事だぞ」
「やれるものならどうぞご勝手に。でも生憎と私達にその手の喧嘩を売って無傷で済んだ人間はいませんよ」
大人同士で喧嘩がしたいならいくらでも買ってやる。
私は瑛大の父さんに挨拶すると恋と二人を連れて帰る。
瑛大は飲んでいるから私が運転した。
「ごめん、あいつらが好き勝手言いやがるからついかっとなって」
「心配するな。別に怒ってないよ」
むしろよくやったと褒めてやりたいくらいだ。
「亜依、大丈夫なの?病院もあるのに」
「ちょっとの辛抱だ。少しの間だけ託児所に預けるよ」
さすがに2歳児を家に放置はできない。
「俺達も冬夜見習って増築するかな」
「そうだな、姫乃と千帆の部屋くらいは確保してやりたいな」
明日にでも晶に相談してみるよ。
「俺ももっと頑張らないとダメになったな」
「お前に苦労かけるな」
「亜依ほどじゃないよ」
「そう思うならもう少し育児に協力してくれ」
「恋の二の舞はしないって決めてるんだ。休みの日くらい相手してやろうと思ってる」
「恋と喧嘩するなよ」
「父さんは余計な事しなくていい!二人は私がちゃんと見てるから!」
恋が言う。
恋も妹が出来たことが嬉しいのだろう。
家に帰ると学と遊に説明する。
2人とも納得してくれたようだ。
私は準備すると、深夜勤に出る。
後日早速圧力をかけて来たらしい。
深雪先生に呼び出される。
「こんな礼儀知らずの看護師がいる病院の世話になんてなりたくない!転院させてくれ!」
偶にこういう理不尽な言いがかりをつけてくる患者がいる。
そしてそういう輩の扱い方を深雪先生はよく知っている。
「何のことか分かりませんが、彼女は実績も腕も十分ある優秀なスタッフです。転院先にあてがあるなら紹介状は書きますが」
「身内を庇って患者の意見を蔑ろにするのがこの病院のやり方か!?」
「蔑ろにしてるつもりはありません。あなたが転院したいとおっしゃるので尊重してるだけですが。それが身内びいきとは心外ですね」
ちなみにうちから紹介されたと言って引き受ける病院はほとんどない。
どんな難病も治療すると評判の病院が手放した。
それがどういう意味をもつかどこも知ってるから。
だいたいが、お手上げだと勘違いするのだろう。
結局この患者もうちでの治療を続けることになった。
瑛大の所にも圧力をかけようとしたらしい。
馬鹿な事を……。
ETC……江口グループにたてついてただで済むと思ってる奴がまだ地元にいたんだな。
逆にあの爺は50歳という若さで「希望退職」させられたらしい。
まだ家のローンやらあるだろうにご愁傷様。
そして私と瑛大はこの歳で千帆と姫乃という若い未来を背負うことになった。
どうやら、定年まで休む事は許されることは無さそうだ。
(2)
「ただいま」
母さんが帰って来た。
知らない子供をまた連れて来た。
母さんの親戚はよく不幸に会う。
そして子供を母さんに託してこの世を去る。
今回も同じケースだと思った。
でも少し違うらしい。
今回は父さんの親戚らしい。
父さんの親戚の中では父さんが一番資産もあるし地位も安定している。
だから父さんが引き受けることになった。
私達に異論はなかった。
新しい、家族の一員を歓迎した。
「お名前は?」
私はその子に聞いてみた。
見た感じ自分の名前くらいは言えそうな年頃だと思ったけど違ったらしい。
緊張してるのかな?
それも違うんだ。
母さんはその事新條さんに預けると言った。
「あの子ショックで喋れなくなったの」
「どういうこと?」
母さんは説明を始めた。
あの子の名前は石原杏采。
先日飲酒運転をしていた車が歩道に突っ込んだ。
母親は咄嗟に子供を庇ってそして自分は命を落とした。
目の前で自分の母親が死んで行くのを目の当たりにした杏采はショックのあまり感情を閉ざしてしまった。
通夜の席で親族が会議した。
喋る事すらできない幼子。
そんな面倒な子を誰が引き取るか。
父さんが引き取ることにした。
彼女は自分を表現できないでいるだけ。
何が起こってるのかくらいは把握できてる。
杏采のまえで醜い争いは見せたくない。
父さんはそう判断したらしい。
うちには同い年の子がいる。
だから構わないと思ったのだろう。
困ってる子供を放っておけないという父さんの性格もあったのだろうが。
普段は母さんの言いなりになってるけど、いざという時はきちんと言うべきことをいう父さんが私の自慢だった。
それから家に帰ると杏采と岳也の面倒を見る。
受験勉強?
翼が言ってた。
「私達は良くも悪くも運命のレールをなぞっているだけ。決して外れることは無い」
だからしてもしなくても結果は同じだ。
作品としても「ずっと勉強してました」じゃ話にならない。
ある日杏采が部屋を訪ねて来た。
そしてある物を見つける。
それは穴の開いた使い古した靴下。
もう捨てようと思ってたものだ。
杏采はそれを見ると自分の部屋に戻って裁縫道具を持ってきた。
そして穴を繕う。
可愛い刺繍をおまけに入れて。
見事な腕前だった。
彼女とコミュニケーションをとるのは簡単だった。
イエスかノーかの二択の質問をする。
まだ字がかけないので紙に選択肢を書いて示す。
例えば「今夜は何が食べたい?」と聞いて肉と魚の二択を用意してやる。
すると杏采は指差して意思を表示する。
杏采は明るい子だ。
今はちょっと自分の気持ちに整理ができなくて感情を表せないでいるだけ。
いつかきっと喋れるようになる。
西松医院で言われたのだから間違いないだろう。
夕食の時に靴下の件を母さんに話す。
母さんなりに思うところがあったのだろう。
翌日ファッション雑誌を買ってくる。
キッズ用の奴だ。
杏采は興味津々に見ていた。
杏采は私の部屋で過ごすことが多かった。
母さんが買って来た布切れを使ってハンカチなんかを作ったりしてる。
私の着なくなった服を引っ張り出して自分様に補正したりしている。
2歳の子がやる業じゃない。
杏采の部屋にやがてミシンが置かれた。
新條さんや私が手伝ってやって服や小物を作ってる。
その作品を見て母さんはにこりと笑った。
「この子の将来は決まりね」
杏采の将来が決まった瞬間だった。
秋。
別れの季節。
悲しみの冬を越えて新しい出会いの春が訪れる。
今はじっとしていればいい。
いつかきっと杏采を導いてくれる人が現れるから。
(3)
「大勢の人が死んでるだぞ!ふざけるな!!きちんと説明しろ」
だいたいこの手の雑魚は端した賠償金目当てで騒ぎ立てているだけ。
私と亜依は航空会社の遺族への説明会に出席していた。
偶然とは怖い物。
私と亜依が引き受けた子供たちの親は同じ旅客機に乗っていた。
飛行機は滅多な事じゃ墜落しない。
その代わり墜落したらまず助からない。
今回も生存者0だった。
子供が乗っていなかったことが奇跡だ。
状況はただのヒューマンエラー。
インドの空港に着陸アプローチ中に自動操縦の降下モードの設定を誤り、降下率を設定しようとして降下率設定ノブの隣にある高度設定ノブを回して着陸する滑走路よりも低い高度を入力した。
その上外部監視を疎かにして着陸進入の異常に気付かなかった。
結果降下率の修正は行われず空港手前で墜落した。
飛行機は空を飛んでいてとんでもない速さで進んでいる。
高度、地表との関係、航路、ありとあらゆる機器が搭載され一目で状況が全てわかるように設計されている。
安全に対する対策も幾重にも施され何があってもすぐに警告が出される。
飛行機事故のほぼすべてはヒューマンエラーだ。
パイロットだけが原因じゃない、管制塔とのコミュニケーション不足もある。
ヒューマンエラーと整備不良が原因だ。
安全だと言われている旅客機も人が扱い方を間違えたら鉄の棺桶になる。
そして責任を取るべきパイロットは自身も命を落とす。
何百名という命を抱えて飛んでる事を忘れてフライト時間だけを根拠に傲慢な操縦をする。
飲酒して操縦などもってのほかだ。
やり場のない怒りを航空会社の責任者にぶつける。
私達はそれを静かに見ていた。
責任者を問い詰めたところで事態が好転するはずがない。
亡くなった人達は戻ってこないのだから。
精々補償額が上がる程度だ。
だからといって責任者を庇う気も無かった。
こういう時に責任をとるから責任者なんだ。
怒り狂う遺族を宥めながら淡々と説明がされていた。
1人あたり8000万円。
それが亡くなった者たちの単価だった。
説明会を終えると私達は青い鳥に向かっていた。
これからどうするかだ。
補償額に不満を言っても話は進まない。
とりあえず子供の養育費には困らない。
必要なのはこれからのあの子たちの未来とそして心のケア。
私が預かった善久はとりあえずは落ち着いている。
善斗と仲良く遊んでいる。
それは亜依の所も同じらしい。
小さいのに可哀そうに。
小さいからよかったのか?
それはこれからの私達の行動で決まる。
亜依はとりあえずは子供たちの行動を見守るという。
やりたい事が見つかるまでじっくり考える時間を与えてやろうという。
まだ2歳。
まだ自分の身の振り方を考えるには早いくらいだ。
「晶はどうするの?」
亜依が聞いていた。
「とりあえず残してやるものは準備しておいてあげるつもり」
別の道を歩むならそれもいいだろう。
運命の女神はあの子達の味方をしてくれるだろう。
両親の死という過酷な運命をのりこえようとしているのだから。
(4)
なんだこの飯は!
美味ければいいってもんじゃないぞ!
私達は育ち盛りだぞ!
もっとこう、蟹とか出さないのか!
神戸牛が食いたい!
どこのホテルでも食えるような飯をなんで食わなきゃならないんだ。
せっかく旅に出たのだからそこの名産を食べる。
それが片桐家のルール。
今日は修学旅行初日。
なずなと花ははしゃいでいた。
京都のパワースポットや渡月橋などを巡り、京都を堪能してた。
私は抹茶パフェを食ったくらいだ。
遊達男子は舞妓に見とれてるし。
私はわざわざスイーツを食べに京都に来たのか!?
「まあまあ、明日はテーマパークだしいいじゃねーか」
水奈がそう言う。
水奈が言うならしょうがない。
私達はカップルでも水奈は学がいないのだから。
機嫌を直すと風呂を出て部屋に帰る。
この時とばかりに女子を呼び出し告白する男子共がいる。
部屋に入るとスマホを弄りながらテレビを見て適当に雑談をしていた。
粋と遊は何のために買ったのか分からない新選組の法被をきて木刀を振り回してチャンバラをやってたらしい。
そしてふすまを破って大目玉を食らったそうだ。
木刀なんてどこでも売ってるだろうに。
男子のすることはたまによく分からない。
そんな話を朝食を食べる時に大地から聞いていた。
ホテルを出るとテーマパークに向かう。
ゲートの前で諸注意を受けると自由行動になった。
「せっかくだから別行動しない?集合場所と時間だけ決めてさ」
なずなが言う。
「なずなと花は遊と粋と一緒に遊んで来いよ。私達は3人で行動する」
私が言った。
「私に気を使う事ねーって。2人で楽しんで来いよ」
「逆だよ水奈」
私が言うと皆「えっ?」という顔をしている。
「私達は中学を卒業したらそれぞれの学校に行く。まだ中学生だ。卒業旅行なんてするわけがない」
こうして皆と旅に来るのはこれが最後かもしれないだろ?
高校が違うんだ。ずっと一緒って保証はない。
だから、今できることを楽しもう。
「大地と関西に来るなんてこれから先いくらでもチャンスがある。それに初めての関西デートがあんなしょぼい料理なんて納得いかない」
大地と来るときはもっと食べまくる。
そう言って私は笑った。
「まあ、天音がそれでいいなら私は助かるけど」
水奈が言う。
「天音の言う通りかもしれないね。粋、私達も一緒に行動しようか?」
「そうだな」
花と粋が言う。
それからみんなで同じアトラクションで遊んだ。
待ち時間が長かったけど皆で並べばどうって事無かった。
昼飯は目一杯食った。
昼飯まで待ち時間があるとは思わなかったけど。
午後もアトラクションを楽しんだ。
「もう一回乗ろう?」
そう言って同じアトラクションを何度も乗った。
お土産屋さんに行く時間もちゃんと考えていた。
遊と粋は魔法使いの杖なんかを買っていた。
だからそんなもん何に使うんだ?
まあテーマパークまで来てカップラーメンをお土産に買って帰る私も人の事言えないけど。
時間を間違えたらしくて集合時間より早く集合場所についてしまった。
やり残したことは無いか?
私はこのテーマパークに来たのは2度目だ。
それにこれが最後ってわけじゃない。
何度でも来ればいい。
次は大地と2人で来れると良いな。
皆揃うとホテルに戻って夕食を食べる。
相変わらずさえないメニューだ。
せめてバイキング形式にして欲しかった。
夕食を食べると風呂に入って部屋で夜を過ごす。
女子の部屋に忍び込もうとした男子がいるらしい。
通路に正座させられていた。
そして修学旅行最終日を迎えた。
最後は水族館に行く。
ここでもみんなで行動した。
と、言って魚を見て回っただけだけど。
ぶっちゃけわざわざ大阪まで来てみる意味が分からない。
海鮮丼でも食わせてくれるなら話は別だが。
それでも花となずなははしゃいでいる。
写真を撮りまくっていた。
2周くらいすると私達は水族館を出る。
広場では大道芸人が芸をしていた。
それを眺めながらベンチに腰かけて休んでいると大地がジュースを買ってきてくれた。
「お疲れ様」
「ありがとう、大地こそつまらなかったんじゃないのか?」
男子はこういうところが苦手だと聞いた。
「そうだね、でも皆と一緒だからそんなことないよ」
ちゃんと思い出に残ったと大地は言う。
「大地はまた大阪に来たらどこに行きたい?」
「どこでもいいかな?」
大地は京都や奈良の方が好きらしい。
でも大地も同じだった。
私と一緒ならきっと素敵な想い出が残せる。
そう思っているらしい。
ならどこでもいい、どこにでも行って思い出をたくさん作ろう。
それが大地の考えだった。
「そろそろ時間だよ」
大地が言うと私はジュースを飲み干して集合場所に集まる。
駅までバスで行って新幹線に乗って小倉まで向かう。
大地もやはり疲れていたんだろう。
大地は眠っていた。
あとは帰るだけだという安心感があったのだろう?
油断しすぎだぞ。
だけど今は大地を休ませてやる。
関門トンネルに入る頃大地を起こす。
小倉で新幹線を降りて特急で地元に帰る。
地元に帰るとバスで中学校に向かう。
そして解散。
家に帰ると着替えて夕食を食べる。
食べながらパパ達に土産話を聞かせる。
夕食を食べると風呂に入って部屋に戻る。
「旅行はどうだった?」
茜が聞いてくる。
スマホでメッセージをしながら茜と話をする。
遊と粋は案の定親に怒られたらしい。
木刀とか買ってきて何に使うつもりだ!
置き場に困たらしくてベッドに置いてるそうだ。
茜が寝ると私もベッドに入る。
スマホを弄りながらいつの間にか眠っていた。
(5)
中学校で解散すると私は寄り道をする。
学の家に行く。
呼び鈴を鳴らすと学が出てくる。
「あ、今日帰って来たんだな。どうだった?」
「楽しかったよ。これお土産」
学に八つ橋を渡す。
「ありがとう。少し上がって話でもしていくか?」
「いや、夕食もまだだから」
「そうか、じゃあ送るよ」
「学も夕食の準備とかあるんじゃないのか?」
「家事は全部恋に奪われたよ」
俺のやる事がない。
学はそう言って笑っていた。
学と一緒に家に帰る。
旅行であったことを学に伝える。
学は静かに聞いていた。
家に着く。
「じゃあ、また」
「イブくらい一緒にいてくれるんだろ?」
私が聞いていた。
「そうだな、イルミネーションでも見に行くか?」
「わかった」
学が帰ると私は家に入る。
両親や誠司達に話をしながら夕食を食べる。
風呂に入って部屋に戻るとスマホを弄る。
いつも通りの時間にいつも通りに寝る。
あっというまの3日間だったけど、大切な想い出になることだろう。
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私達はまだ思い出に甘えるような年頃じゃない。
これからまだまだ思い出は増え続ける。
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