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輝きが思い出に変わる前に
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(1)
修学旅行も終わり終業式を終え冬休みに入った。
「もう中学3年生なんだからディナーくらい楽しんでらっしゃい」
母さんがそういうので府内町のイタリア料理のレストランに行った。
いつも母さん達と行くレストラン。
クリスマスコースというのを用意されてあったのでそれにした。
ちなみに予約でいっぱいなのを親のツテを使って無理矢理入れてもらえた。
シェフの相羽陽介さんは善明の姉岬さんの旦那さんだ。
「今夜はゆっくり楽しんでね」
相羽さんがそう挨拶すると次々と料理が運ばれてくる。
価格的にはファストフードでハンバーガー食べまくってフライドチキンを買って食った方がいいんじゃないか?と思える値段。
でも、美希が少しお洒落して内装も綺麗な店で雰囲気を楽しむ。
きっと料理の中にはこの雰囲気の値段も含まれているんだ。
そう思うことにした。
最後のデザートを食べると美希とプレゼント交換をする。
ディナーを楽しむと家に帰る。
家に帰ったら、風呂に入ってケーキを食べる。
ちなみに明日もケーキだ。
クリスマスと冬吾と冬莉の誕生日。
ケーキを食べ終わるとテレビを見る。
歌番組の特番をやっていた。
あまり興味はなかったけどただのBGMとしてなら優秀だった。
少なくとも二人っきりの密室という空気を和ませるくらいはしていた。
歌番組が終る頃ベッドに入る。
今日は天音も大地と出かけている。
如月リゾートホテルで一泊してくるらしい。
美希とチャットをしていた。
「冬休みが終ったらいよいよだね」
美希が言う。
私立の推薦入試を皮切りに受験シーズンに入る。
授業も早々に教科書の分を終え入試対策に入っていた。
僕達も伊田高の入試を受ける。
受ける理由がわからないけど。
「まあ、場に慣れるって割り切って受けておきなさい」
父さんがそう言ってた。
翼は最後の最後まで藤明の特特進の願書を持った担任の説得があったが翼は首を縦には振らなかった。
伊田高にこだわる理由も特になかった。
藤明はバス通学が出来る。
伊田高もできないことは無いけど街に出て乗り継ぎしないといけない。
それに坂道が多くて自転車では面倒だ。
普通に考えたら藤明なんだけど藤明は若干難関だ。
滑り止めで受けられるようなところじゃない。
地元では藤明=頭が良いというイメージがあるほどだ。
僕達は将来が決まっている。
子供が増えた両親に負担をかけたくない。
だから公立校を選ぶ。
そして難関大学に行くつもりはさらさらない。
在学中に税理士の受験資格をとれる国公立大学。
それが地元大学経済学部だったというだけの話。
夢が決まっている。
ゴールから逆算すれば道は自ずと見えてくる。
だけどそんな先を考えていても仕方ない。
まずは高校入試。
最初の難関が目前に迫っていた。
(2)
「メリークリスマス」
聖夜を勝手に恋人のイベントにしてしまったのはどこのどいつだ。
パワースポットと称して神社や寺を見て回った奴等ですら今夜はお祝いする。
そして記念の夜にするらしい。
今日と明日はクリスマス価格とよばれるくらい色々なものが値上がりする。
安くなるのはクリスマスケーキくらいのもんだ。
文句を言いながらも私も大地と誰かが作ったイベントに乗っかっていた。
みんなやってるなら自分もいいや。
そんな自我というものがない行動をとっている。
どんな屁理屈を並べてみたところで恋人とのイベントに胸を弾ませない者などいない。
「もう中学生なんだから」
そんな理由で、大地のお母さんはスウィートルームを用意してくれた。
そしてホテルのディナーを楽しんでイルミネーションを楽しんでいる。
「大地、写真撮って」
そういって写真を撮ってもらったりして聖夜を楽しんでいた。
今夜は若干緊張しているとはいえ、前の時ほどじゃないようだ。
今夜なら大丈夫だな。
私は確信していた。
部屋に戻るとベッドに座ってテレビを見る。
大地はテレビを見ていない。
じっと私を見てる。
大地にその意志はあるらしい。
私は大地を見る。
大地の手を握って言う。
「私なら大丈夫。それよりそんなに意気込んでいるとまた失敗するぞ」
「僕に二度目のチャンスをくれる?」
「何度でもやるよ」
時計は0時を回っていた。
「私ちょっとシャワー浴びてくる」
そう言ってシャワールームに入ろうとすると大地もついてきた。
「もう今さらだしここの風呂広いから……」
大地も変わったな。
大地には内緒にしてたけど本当は少しドキドキしてた。
シャワーを出ると私達は再びベッドに入る。
明日は少し早めにチェックアウトする予定。
大地が明日の夜のパーティのドレスをプレゼントしてくれるそうだ。
それを一緒に選んで、大地の家で着替えてそして江口家に向かう。
年末は色々と忙しい。
宿題は年を跨がせない。
片桐家のルールもある。
純也と茜も大慌てで宿題を片付けてるはず。
遠坂家は年末年始は滅多に国内にいない。
今年も例に漏れずハワイで年を越すらしい。
そんな行事も純也達が中学に上がるまで。
中学に上がったら純也は一人で遠坂家の留守を守る。
一人とも限らないか。
きっと梨々香でも呼ぶんだろうな。
石原さんとは話がついてるらしい。
この世界の親なんて皆同じようなもんだ。
何があってもそれは子供の意志。
放任主義とは違う。
しっかり責任は取らせる。
取れない行動は許さない。
ただ、価値観が世間一般とずれてるだけ。
普通は年頃の男女を一つ屋根の下に置いたりしない。
だけど親達は「思春期ってそういうものでしょ?やるべきことをやってるなら文句は言いません」という。
パパ達もそうやって青春時代を過ごしたらしい。
大地はもう寝てる。
彼女を放っておいて先に寝るとは良い度胸してる。
そんな大地を抱き枕にして私も眠ることにした。
その時異変に気付いた。
ずっとしていなかったから気づかなかった。
大地の体格は私が両手を回しても手が届かないくらいにまで成長していた。
私が小さいのか、大地が大きいのか分からないけど一つだけ言えるのは私よりも大地は大きい。
大地も立派になったんだな。
これなら大地に安心して身を預けていられる。
そんな成長した大地の胸板の上で私は眠りについた。
(3)
「乾杯」
グラスとちりんと鳴らす。
中味はジュースだよ。
立派なホテルの最上階のレストラン。
中学生の夜の過ごし方じゃない気がするのは僕だけなんだろうか?
今夜はクリスマスイブだから。
そんな建前を理由にしてやりたい放題な気がする。
あらゆる現実の障壁を乗り越えて幻想物語を織り成す。
まあ、そんなもの最初からなかった気がするけどね。
まあ世の中には拳銃を手にする学園ものとかもあるらしいから。
特殊能力と称して体に電磁波を帯びるとかそんな真似だけはやめてほしいけどね。
すでに炎を出したり、発火したりやりたい放題の片桐姉弟だけど。
「どうしたの?」
翼が聞いてきた。
「いや、世界の在り方について思うところがあってね」
「善明は難しい事を考えるの好きだね。でも駄目。彼女を置き去りにして自分の世界にはいるなんて」
「そうだね。ごめんよ」
最後のコーヒーまで出るとシェフが挨拶に来た。
「今日はご利用いただいてありがとうございます」
「こちらこそとても美味しい料理ありがとうございました。とても楽しめました」
翼が返事をする。
少し話をするとシェフが去っていく。
この後、カクテルを飲みながら夜景を楽しむなんて真似はしない。
人は死ぬけど未成年の飲酒は禁じられている。
そんなでたらめな世界。
伝票を手にするとレジに向かう。
翼も私も出すとか言わない。
どうせ親のカードで払うんだ。
会計を済ませると部屋に戻る。
お互いにシャワーを浴びると部屋にプレゼントされてあったケーキを切り分けて食べる。
飲み物くらい持ち込んでる。
シャンメリーも準備してあった。
テレビを見ながらケーキを食べる。
ケーキを食べ終わる頃特番が終る。
特番が終ると通常のニュースが始まる。
その頃には寝ることにした。
朝起きるとモーニングを食べに行く。
そして準備をして会計を済ませてチェックアウト。
お偉いさんがずらりと並んで「ありがとうございました」と頭を下げる。
まだ15歳の子供だけど酒井グループの跡取りというだけでこの待遇。
皆肩書に弱いんだね。
ホテルを出ると車が待機してある。
車は翼の家についた。
「素敵な夜をありがとう。ではまたあとで」
「善明もゆっくり休んでね」
そう言うと家に帰る。
「ただいま」
「ああ、兄貴お帰り」
「母さん達は?」
「父さんが仕事に行ったから怒って会社に怒鳴り込みに行った」
いつも通りだ。
「今日何時に出るって?」
「17時には出るから用意してなさいって言ってた」
「じゃあ、少し休むよ」
「……夜は眠れなかったんだな?」
祈はそう言ってにやりと笑う。
「ご想像にお任せするよ。おやすみ」
「おやすみ、私まだ叔母さんになるなんて嫌だからな」
そんな祈の言葉を背に受けながら部屋に戻ると荷物を整理してベッドに倒れ込む。
そのまま寝る。
そして時間になると冷蔵庫から適当に食べ物を出して食べると準備をする。
送迎の車が来る。
それに乗り込むと江口家の家に向かう。
クリスマスイブは恋人の夜だとするならクリスマスはホームパーティの夜。
ホームパーティの基準を知りたいところだけど。
酒井家は年末までしっかりと予定が組んであった。
招待した企業の社長が正当な理由なく欠席した。
それだけでつぶれた企業は数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらいある。
世界は光と闇のモザイク。
そんな世界に僕達は踏み入れていた。
もう子供だから。
そんな言い訳は通用しない世界。
15歳にしてそんな世界に馴染んでいた。
(4)
今日はクリスマスイブ。
折角だから一緒に食事を。
学に招待された。
学の母さんは今日は日勤だったらしく帰るなり食事を用意したらしい。
大半は出来合いの物。
あとは学と恋が作ったらしい。
テーブルを囲むと「乾杯」の合図とともにパーティが始まった。
遊もなずなを招待していた。
恋は要は兄弟がいるから遠慮したらしい。
食事が終ると片づけを手伝う。
片づけが終ると時計は22時前だった。
なずなと共に学のお母さんに送ってもらった。
「もうすぐ1年が終るね」
なずなが言う。
「そうだな」
「……ぶっちゃけ水奈は平気なの?」
「何が?」
「また違う学校に行っちゃうんだよ」
ああ、そういう事か。
「今更だよ、同じ高校を選んだところで今度はすぐに大学だ」
「でも中学生と高校生の差ってすごいらしいよ」
女子高生に学を取られる。
そんな心配は無いのか?となずなは聞く。
「ないね」
即答した。
「学が卒業したら真っ先にあいつの車の助手席に乗せてくれるらしい」
羨ましいだろ?
そう言って笑った。
「まあ、学に限って色気に惑わされるなんてことはないか」
なずなは納得していた。
「本当にあの堅物はどこから生まれたのかおばさんも不思議なのよ」
学の母さんはそう言って笑う。
車は私の家の前で止る。
母さんが外で待っていた。
「ただいま」
「おかえり、お風呂準備出来てる」
「わかった」
「神奈ごめんね、こんな時間まで連れまわして」
学の母さんが謝る。
「気にするな。私達だって朝まで遊んでたことあったろ?」
母さんはそう言って笑う。
「亜依こそいいのか?そろそろ帰って寝ないと明日も仕事なんだろ?」
「まあね、でも準夜勤だから。神奈は今度の忘年会は欠席?」
「まあな、流石に2歳の子を放って遊びにはいけない」
「お互い大変だね」
「そうだな、この歳でまだ育児に追われるかと思うとぞっとするぜ」
「じゃあ、私もう一人送らないといけないから。水奈ちゃん、あいつが浮気なんかしたら言ってね。私が容赦しないから」
そう言って学のお母さんは車に乗りなずなの家に向かった。
「まさか学の奴浮気したのか?」
「私を襲う度胸もない奴がどうして浮気するんだよ」
母さんが聞くと私はそう笑って答えた。
家に帰って風呂に入ると私は部屋でスマホを触る。
「学、聞きたい事があるんだけど」
「どうした?」
「お前どんな車に乗るつもりだ?」
「考えたことないな。水奈はどんなのに乗りたい?」
「私は自分で免許取って好きなの乗るからさ」
「助手席に乗るならどんなのがいい?」
水奈の事だからスポーツカーを買うんだろ?
だったら違う系統の方がいいだろ?
学がそう言う。
「痛車とかはとりあえずいやだ。あと下品な高級車とか」
タイヤがハの字になってる奴とかも趣味じゃない。
学と話をしていると結局SUV車になった。
「俺の趣味で選んでもいいか?」
「どんなのが趣味なんだ?」
SUV車だった。
あれならいいか?
「まず行ってみたいところとかないか?」
「それなんだけど本当に初めての助手席に乗せてくれるのか?」
「俺の運転が怖いか?」
「学の性格からしてそれはないよ」
「じゃあ、何を心配しているんだ?」
初めての運転はともかく卒業旅行とかどうするんだ?
「一週間くらいは春休みあるだろ?一緒に一泊くらいでどこか行かないか?」
「わかった」
「じゃあ、お休み」
「おやすみ」
電話を終えるとスマホを充電器にセットしてベッドに横になる。
休みが明ければ3学期。
3学期なんてあっという間だ。
学達は勝負の時だけど。
入学祝用意してやらないとな。
何が良いかな?
そんな事を考えながら聖夜を過ごす。
時間が二人を引き裂く前に。
時間が二人を連れ去る前に。
輝きが思い出に変わる前に。
永遠をかけてもう一度二人の糸を繋ごう。
私は学に辿り着けた。
修学旅行も終わり終業式を終え冬休みに入った。
「もう中学3年生なんだからディナーくらい楽しんでらっしゃい」
母さんがそういうので府内町のイタリア料理のレストランに行った。
いつも母さん達と行くレストラン。
クリスマスコースというのを用意されてあったのでそれにした。
ちなみに予約でいっぱいなのを親のツテを使って無理矢理入れてもらえた。
シェフの相羽陽介さんは善明の姉岬さんの旦那さんだ。
「今夜はゆっくり楽しんでね」
相羽さんがそう挨拶すると次々と料理が運ばれてくる。
価格的にはファストフードでハンバーガー食べまくってフライドチキンを買って食った方がいいんじゃないか?と思える値段。
でも、美希が少しお洒落して内装も綺麗な店で雰囲気を楽しむ。
きっと料理の中にはこの雰囲気の値段も含まれているんだ。
そう思うことにした。
最後のデザートを食べると美希とプレゼント交換をする。
ディナーを楽しむと家に帰る。
家に帰ったら、風呂に入ってケーキを食べる。
ちなみに明日もケーキだ。
クリスマスと冬吾と冬莉の誕生日。
ケーキを食べ終わるとテレビを見る。
歌番組の特番をやっていた。
あまり興味はなかったけどただのBGMとしてなら優秀だった。
少なくとも二人っきりの密室という空気を和ませるくらいはしていた。
歌番組が終る頃ベッドに入る。
今日は天音も大地と出かけている。
如月リゾートホテルで一泊してくるらしい。
美希とチャットをしていた。
「冬休みが終ったらいよいよだね」
美希が言う。
私立の推薦入試を皮切りに受験シーズンに入る。
授業も早々に教科書の分を終え入試対策に入っていた。
僕達も伊田高の入試を受ける。
受ける理由がわからないけど。
「まあ、場に慣れるって割り切って受けておきなさい」
父さんがそう言ってた。
翼は最後の最後まで藤明の特特進の願書を持った担任の説得があったが翼は首を縦には振らなかった。
伊田高にこだわる理由も特になかった。
藤明はバス通学が出来る。
伊田高もできないことは無いけど街に出て乗り継ぎしないといけない。
それに坂道が多くて自転車では面倒だ。
普通に考えたら藤明なんだけど藤明は若干難関だ。
滑り止めで受けられるようなところじゃない。
地元では藤明=頭が良いというイメージがあるほどだ。
僕達は将来が決まっている。
子供が増えた両親に負担をかけたくない。
だから公立校を選ぶ。
そして難関大学に行くつもりはさらさらない。
在学中に税理士の受験資格をとれる国公立大学。
それが地元大学経済学部だったというだけの話。
夢が決まっている。
ゴールから逆算すれば道は自ずと見えてくる。
だけどそんな先を考えていても仕方ない。
まずは高校入試。
最初の難関が目前に迫っていた。
(2)
「メリークリスマス」
聖夜を勝手に恋人のイベントにしてしまったのはどこのどいつだ。
パワースポットと称して神社や寺を見て回った奴等ですら今夜はお祝いする。
そして記念の夜にするらしい。
今日と明日はクリスマス価格とよばれるくらい色々なものが値上がりする。
安くなるのはクリスマスケーキくらいのもんだ。
文句を言いながらも私も大地と誰かが作ったイベントに乗っかっていた。
みんなやってるなら自分もいいや。
そんな自我というものがない行動をとっている。
どんな屁理屈を並べてみたところで恋人とのイベントに胸を弾ませない者などいない。
「もう中学生なんだから」
そんな理由で、大地のお母さんはスウィートルームを用意してくれた。
そしてホテルのディナーを楽しんでイルミネーションを楽しんでいる。
「大地、写真撮って」
そういって写真を撮ってもらったりして聖夜を楽しんでいた。
今夜は若干緊張しているとはいえ、前の時ほどじゃないようだ。
今夜なら大丈夫だな。
私は確信していた。
部屋に戻るとベッドに座ってテレビを見る。
大地はテレビを見ていない。
じっと私を見てる。
大地にその意志はあるらしい。
私は大地を見る。
大地の手を握って言う。
「私なら大丈夫。それよりそんなに意気込んでいるとまた失敗するぞ」
「僕に二度目のチャンスをくれる?」
「何度でもやるよ」
時計は0時を回っていた。
「私ちょっとシャワー浴びてくる」
そう言ってシャワールームに入ろうとすると大地もついてきた。
「もう今さらだしここの風呂広いから……」
大地も変わったな。
大地には内緒にしてたけど本当は少しドキドキしてた。
シャワーを出ると私達は再びベッドに入る。
明日は少し早めにチェックアウトする予定。
大地が明日の夜のパーティのドレスをプレゼントしてくれるそうだ。
それを一緒に選んで、大地の家で着替えてそして江口家に向かう。
年末は色々と忙しい。
宿題は年を跨がせない。
片桐家のルールもある。
純也と茜も大慌てで宿題を片付けてるはず。
遠坂家は年末年始は滅多に国内にいない。
今年も例に漏れずハワイで年を越すらしい。
そんな行事も純也達が中学に上がるまで。
中学に上がったら純也は一人で遠坂家の留守を守る。
一人とも限らないか。
きっと梨々香でも呼ぶんだろうな。
石原さんとは話がついてるらしい。
この世界の親なんて皆同じようなもんだ。
何があってもそれは子供の意志。
放任主義とは違う。
しっかり責任は取らせる。
取れない行動は許さない。
ただ、価値観が世間一般とずれてるだけ。
普通は年頃の男女を一つ屋根の下に置いたりしない。
だけど親達は「思春期ってそういうものでしょ?やるべきことをやってるなら文句は言いません」という。
パパ達もそうやって青春時代を過ごしたらしい。
大地はもう寝てる。
彼女を放っておいて先に寝るとは良い度胸してる。
そんな大地を抱き枕にして私も眠ることにした。
その時異変に気付いた。
ずっとしていなかったから気づかなかった。
大地の体格は私が両手を回しても手が届かないくらいにまで成長していた。
私が小さいのか、大地が大きいのか分からないけど一つだけ言えるのは私よりも大地は大きい。
大地も立派になったんだな。
これなら大地に安心して身を預けていられる。
そんな成長した大地の胸板の上で私は眠りについた。
(3)
「乾杯」
グラスとちりんと鳴らす。
中味はジュースだよ。
立派なホテルの最上階のレストラン。
中学生の夜の過ごし方じゃない気がするのは僕だけなんだろうか?
今夜はクリスマスイブだから。
そんな建前を理由にしてやりたい放題な気がする。
あらゆる現実の障壁を乗り越えて幻想物語を織り成す。
まあ、そんなもの最初からなかった気がするけどね。
まあ世の中には拳銃を手にする学園ものとかもあるらしいから。
特殊能力と称して体に電磁波を帯びるとかそんな真似だけはやめてほしいけどね。
すでに炎を出したり、発火したりやりたい放題の片桐姉弟だけど。
「どうしたの?」
翼が聞いてきた。
「いや、世界の在り方について思うところがあってね」
「善明は難しい事を考えるの好きだね。でも駄目。彼女を置き去りにして自分の世界にはいるなんて」
「そうだね。ごめんよ」
最後のコーヒーまで出るとシェフが挨拶に来た。
「今日はご利用いただいてありがとうございます」
「こちらこそとても美味しい料理ありがとうございました。とても楽しめました」
翼が返事をする。
少し話をするとシェフが去っていく。
この後、カクテルを飲みながら夜景を楽しむなんて真似はしない。
人は死ぬけど未成年の飲酒は禁じられている。
そんなでたらめな世界。
伝票を手にするとレジに向かう。
翼も私も出すとか言わない。
どうせ親のカードで払うんだ。
会計を済ませると部屋に戻る。
お互いにシャワーを浴びると部屋にプレゼントされてあったケーキを切り分けて食べる。
飲み物くらい持ち込んでる。
シャンメリーも準備してあった。
テレビを見ながらケーキを食べる。
ケーキを食べ終わる頃特番が終る。
特番が終ると通常のニュースが始まる。
その頃には寝ることにした。
朝起きるとモーニングを食べに行く。
そして準備をして会計を済ませてチェックアウト。
お偉いさんがずらりと並んで「ありがとうございました」と頭を下げる。
まだ15歳の子供だけど酒井グループの跡取りというだけでこの待遇。
皆肩書に弱いんだね。
ホテルを出ると車が待機してある。
車は翼の家についた。
「素敵な夜をありがとう。ではまたあとで」
「善明もゆっくり休んでね」
そう言うと家に帰る。
「ただいま」
「ああ、兄貴お帰り」
「母さん達は?」
「父さんが仕事に行ったから怒って会社に怒鳴り込みに行った」
いつも通りだ。
「今日何時に出るって?」
「17時には出るから用意してなさいって言ってた」
「じゃあ、少し休むよ」
「……夜は眠れなかったんだな?」
祈はそう言ってにやりと笑う。
「ご想像にお任せするよ。おやすみ」
「おやすみ、私まだ叔母さんになるなんて嫌だからな」
そんな祈の言葉を背に受けながら部屋に戻ると荷物を整理してベッドに倒れ込む。
そのまま寝る。
そして時間になると冷蔵庫から適当に食べ物を出して食べると準備をする。
送迎の車が来る。
それに乗り込むと江口家の家に向かう。
クリスマスイブは恋人の夜だとするならクリスマスはホームパーティの夜。
ホームパーティの基準を知りたいところだけど。
酒井家は年末までしっかりと予定が組んであった。
招待した企業の社長が正当な理由なく欠席した。
それだけでつぶれた企業は数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらいある。
世界は光と闇のモザイク。
そんな世界に僕達は踏み入れていた。
もう子供だから。
そんな言い訳は通用しない世界。
15歳にしてそんな世界に馴染んでいた。
(4)
今日はクリスマスイブ。
折角だから一緒に食事を。
学に招待された。
学の母さんは今日は日勤だったらしく帰るなり食事を用意したらしい。
大半は出来合いの物。
あとは学と恋が作ったらしい。
テーブルを囲むと「乾杯」の合図とともにパーティが始まった。
遊もなずなを招待していた。
恋は要は兄弟がいるから遠慮したらしい。
食事が終ると片づけを手伝う。
片づけが終ると時計は22時前だった。
なずなと共に学のお母さんに送ってもらった。
「もうすぐ1年が終るね」
なずなが言う。
「そうだな」
「……ぶっちゃけ水奈は平気なの?」
「何が?」
「また違う学校に行っちゃうんだよ」
ああ、そういう事か。
「今更だよ、同じ高校を選んだところで今度はすぐに大学だ」
「でも中学生と高校生の差ってすごいらしいよ」
女子高生に学を取られる。
そんな心配は無いのか?となずなは聞く。
「ないね」
即答した。
「学が卒業したら真っ先にあいつの車の助手席に乗せてくれるらしい」
羨ましいだろ?
そう言って笑った。
「まあ、学に限って色気に惑わされるなんてことはないか」
なずなは納得していた。
「本当にあの堅物はどこから生まれたのかおばさんも不思議なのよ」
学の母さんはそう言って笑う。
車は私の家の前で止る。
母さんが外で待っていた。
「ただいま」
「おかえり、お風呂準備出来てる」
「わかった」
「神奈ごめんね、こんな時間まで連れまわして」
学の母さんが謝る。
「気にするな。私達だって朝まで遊んでたことあったろ?」
母さんはそう言って笑う。
「亜依こそいいのか?そろそろ帰って寝ないと明日も仕事なんだろ?」
「まあね、でも準夜勤だから。神奈は今度の忘年会は欠席?」
「まあな、流石に2歳の子を放って遊びにはいけない」
「お互い大変だね」
「そうだな、この歳でまだ育児に追われるかと思うとぞっとするぜ」
「じゃあ、私もう一人送らないといけないから。水奈ちゃん、あいつが浮気なんかしたら言ってね。私が容赦しないから」
そう言って学のお母さんは車に乗りなずなの家に向かった。
「まさか学の奴浮気したのか?」
「私を襲う度胸もない奴がどうして浮気するんだよ」
母さんが聞くと私はそう笑って答えた。
家に帰って風呂に入ると私は部屋でスマホを触る。
「学、聞きたい事があるんだけど」
「どうした?」
「お前どんな車に乗るつもりだ?」
「考えたことないな。水奈はどんなのに乗りたい?」
「私は自分で免許取って好きなの乗るからさ」
「助手席に乗るならどんなのがいい?」
水奈の事だからスポーツカーを買うんだろ?
だったら違う系統の方がいいだろ?
学がそう言う。
「痛車とかはとりあえずいやだ。あと下品な高級車とか」
タイヤがハの字になってる奴とかも趣味じゃない。
学と話をしていると結局SUV車になった。
「俺の趣味で選んでもいいか?」
「どんなのが趣味なんだ?」
SUV車だった。
あれならいいか?
「まず行ってみたいところとかないか?」
「それなんだけど本当に初めての助手席に乗せてくれるのか?」
「俺の運転が怖いか?」
「学の性格からしてそれはないよ」
「じゃあ、何を心配しているんだ?」
初めての運転はともかく卒業旅行とかどうするんだ?
「一週間くらいは春休みあるだろ?一緒に一泊くらいでどこか行かないか?」
「わかった」
「じゃあ、お休み」
「おやすみ」
電話を終えるとスマホを充電器にセットしてベッドに横になる。
休みが明ければ3学期。
3学期なんてあっという間だ。
学達は勝負の時だけど。
入学祝用意してやらないとな。
何が良いかな?
そんな事を考えながら聖夜を過ごす。
時間が二人を引き裂く前に。
時間が二人を連れ去る前に。
輝きが思い出に変わる前に。
永遠をかけてもう一度二人の糸を繋ごう。
私は学に辿り着けた。
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