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その瞳が迷わぬように
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(1)
「綺麗だね」
美希はそう言って写真をたくさん撮ってる。
今日は12月24日。
イルミネーションを観に街まで来ていた。
青い光が街を照らしている。
街全体がクリスマスのムードに包まれていた。
時間を見て夕食のお店に向かう。
美希と2人で決めた店。
綺麗な料理を食べる前に美希は写真を撮っている。
SNSにでもあげるのだろうか?
口コミ通りの味だった。
その味をデザートまで堪能すると店を出る。
もう一軒寄ろうか?
そんなセリフはまだ早い。
バスに乗って家に帰る。
「あら?今日は帰ってこないと思っていたのに」
親が言う発言じゃないと思うのは僕だけだろうか?
「恵美が”ホテルは用意しておいた”って言ってたのに」
美希からはそんな話聞いてない。
「少しは美希に配慮してあげなさい」
ちなみに翼は今日はお泊りらしい。
父さんは冬吾達と遊んでいた。
「その気になれば家に泊めればいいし」
「防音とはいえ隣に年頃の妹がいることを忘れてはいけませんよ」
母さんはそう言った。
風呂に入ると部屋に戻ってテレビを見る。
クリスマスの特番が終る頃僕はベッドに入る。
美希にメッセージでホテルの件を聞いてみた。
「私から言わなきゃ一緒に寝てくれないの?」
僕がその気になったら教えようと思っていたらしい。
「ごめん」
「まあ、ちょっと悔しいかな」
「どうして?」
「空は胸の小さな人が好きなのかな?って不安にはなる」
そういう問題じゃないよ。
でも美希を不安にさせてはいけないって母さんも言ってたな。
「学も水奈に同じような不安を相談されるそうなんだ」
「それで?」
「大小関係なく彼女の胸に変わりはないだろ?って答えるんだそうだ」
それは多分自分だけの物。
学はそう言ってるらしい。
「そうなんだ」
「うん、だからそんなに気にしなくていいよ」
「ありがとう……今年もあと少しだね」
「そうだね」
今年というものなのか今年度というものなのか分からないけどどっちにしろ一緒だ。
来年になれば1~3月なんてあっという間に駆け抜けてしまう。
高校生になって変わった事。
帰りに何か食べて帰るようになったこと。
通学の距離が遠くなったことくらい。
光太たちとは連絡がとれるけど福徳高校に行った山崎姉妹とはあまり連絡を取ってない。
部活で忙しいんだろう。
テニスで食べていくのだろうか?
大区に行った沢木兄弟は全日本に選ばれた。
今年の五輪には出れなかったけど次の五輪には出てくるだろう。
沢木兄弟を擁する大区工業高校は今年のインターハイの覇者となった。
きっと3連覇するだろう。
みんな頑張っているようだ。
だから応援してる。
頑張れって。
それぞれの道を進んでいく。
振り返ってはいけない、ただ前を見て進もう。
僕と翼も同じだ。
ただ道を進むだけ。
運命という名の道のりは自分で書いていく物だから。
美希におやすみというと僕も眠ることにした。
これからも同じ夜を過ごしていくんだろう。
そうやってクリスマスを迎えて、年を越していく。
何もない所に何かが始まる物語。
(2)
12月24日。
俺達は街にイルミネーションを観に来ていた。
「学も高校生なんだから水奈にそれらしいサプライズしてあげな」
高校生と言ってもまだ1年生なんだけどな。
母さんが言うから水奈を誘ってみたら喜んでいた。
青色の照明が街を飾っている。
それにどんな意味があるのか正直分からない。
母さんが臨時で小遣いを奮発してくれたのでちょっと高い店を予約しておいた。
水奈も自分の彼氏が高校生と意識しているのだろうか?
ちょっと大人っぽい格好をしていた。
水奈は年齢の割には背がたかくスタイルがいい。
だからそう言う格好でも違和感が全くなかった。
「どうした?私の事じろじろ見て。イルミ見なくていいのか?」
「いや、水奈がいつもと違って大人っぽく見えてな。思わず見とれてしまったよ」
「ついに学をその気にさせる事が出来たか。今日はイブだから特別だ。帰ってこなくても許すって言われてる」
水奈は喜んでいるようだ。
だけど、そこまでは考えていなかった。
「飯を食ったら帰るよ」
「……やっぱり私じゃ不満か?」
難しい質問を投げられた。
「そんなことないよ」
「ならいいんだけど……やっぱり学の周りには私よりずっと大人な女子高生がいるだろ。不安なんだ」
そんなことだろうと思ったよ。
俺はテーブルの上に細長い小箱を置く。
「俺からのクリスマスプレゼントだ。受け取ってくれ」
「開けてもいい?」
「ああ」
それは指輪を吊るしたネックレスだった。
「指輪だと目立つだろ?生徒会役員が堂々としてたらまずい。ネックレスなら目立たないと思ってな」
「ありがとう!」
水奈はそれを見ながら喜んでいる。
そして気づいたようだ。
自分のイニシャルが彫られている事に。
俺はもう一つのネックレスを見せた。
水奈とお揃いのネックレス。
「俺もまだ子供のようだ。このくらいの事しか思いつかなくてな」
「十分だよ」
水奈は早速ネックレスをつけていた。
「似合うかな?」
「似合ってるよ」
夕食を食べ終わるとバスに乗る。
バスを降りると水奈を家まで送る。
一応おばさんに一言挨拶しておくか。
22時を回っている。
おばさんに挨拶して帰る。
「待て!」
おばさんはそう言って俺を呼び止める。
「亜依とは話してある。今夜は泊まっていけ」
亜依とは俺の母さんの名前。
「しかし、着替えを用意してないので」
「それならさっき瑛大が届けてくれたよ」
おばさんがにやりと笑う。
瑛大とは俺の父さんの名前。
両親公認か。
これで断ったらまた水奈が傷つくな。
おばさんの好意に甘える事にした。
水奈と同じ部屋だったのは言うまでもない。
水奈が風呂に入ってる間おじさんと話をする。
「水奈は上手にやれてるか?」
こういう難しい質問をしてくるのがおじさんだ。
そしておばさんに小突かれる。
「気にしなくていいからな」
「神奈。お前水奈から何か聞いてるのか?」
「そりゃ女親だからな。色々相談も受けるよ」
「た、例えば!?」
「女同士の秘密だ馬鹿!」
水奈がリビングにやってきた。
「学に余計な事吹き込むな!」
水奈はそう言うと俺の腕を掴むと2階の自分の部屋に入る。
水奈の部屋に来たのは2度目だ。
その時はおじさんはいなかった。
「私達は1階にいるからゆっくり楽しめ」
その時おばさんに言われた事。
とりあえずテレビを見てるが時間は23時を回っていた。
さすがに面白い番組は無い。
すぐに消すとベッドに入る。
普段は強がっている水奈もさすがに緊張しているようだ。
微かに震えている。
優しく包んでやると体を預けてくる。
「俺、高校卒業したら一人暮らし始めようと思うんだ」
「そうなのか?じゃあ、会えなくなるな」
「逆だよ。いつでも遊びに来い」
誰にも気兼ねなく遊びに来れるだろ?
「わかった。ご飯とは作ってやるから」
「楽しみだな」
遊や恋、千帆や姫乃がいる。
増築したとはいえ母さん達の手間が省けるならその方がいいだろう。
俺が大学生になる頃には水奈も高校生だ。
水奈が高校卒業したら同棲を始めよう。
そんな夢物語を水奈に語った。
水奈は喜んでた。
「その続きも聞かせてくれないか?」
水奈が言う。
その必要はないだろう。もう分かってるんだろ?
「その時が来たらちゃんと話すよ」
「分かった」
「だからこんな状態がもうしばらく続くけど我慢して欲しい」
「我慢なんかしてねーよ」
水奈はそう言って俺にしがみ付く。
「今だって十分幸せなんだ」
「そうか……」
そのまま俺達は眠りについた。
そして朝になると起きる。
水奈はまだ眠そうだったが俺がベッドから出ると目が覚めたようだ。
朝食を頂くと俺は家に帰る。
「今日くらいゆっくりしていけばいいのに」
おばさんはそう言った
「お気持ちだけ受け取っておきます」
「じゃあまたな」
水奈が言う。
俺は手を振って返すと家に帰った。
帰ったらまず着替えを洗濯機に入れる。
部屋の掃除をしてから勉強を始める。
「お兄ちゃんお昼出来たよ」
恋に呼ばれるとダイニングに行き昼食を食べる。
遊は遊びに行ってるらしい。
「お兄ちゃん今日もデート?」
「いや、今日は家にいるよ。恋はデートなのか?」
「うん。要の家に夕食呼ばれてるから行ってこようと思って」
もう中学生だし問題ないだろ。
「気を付けて行って来い」
「うん、だから夕食何か適当に食べてて。あと、姫乃と千帆の世話いいかな」
「任せておけ」
遊は遊びに出掛けたまま帰ってこなかった。
恋も遅くに帰ってくる。
母さんは今日は日勤だったらしくて夕食前にケーキを買って帰って来た。
父さんも千帆と姫乃にプレゼントを買って帰って来た。
有言実行だろうか?
千帆と姫乃が家に来てからあまりライブに行かなくなった。
まあ、それでも恋が大体面倒見てるようだが。
「私がやるからお父さんはあっちいってて!」
恋にそう言われるらしい。
毎年必ず訪れるクリスマス。
だけど毎年何かが変わる。
1人暮らしの事は親の了解は得てある。
この家で過ごすクリスマスはあと2回だ。
どんなクリスマスになるのだろう?
そんな事を考えながら夜水奈と電話をしてそして眠りについた。
(3)
12月24日。
イルミネーションを見ていた。
青と白の照明に彩られた町並み。
デパートも建物が電飾で飾られてあった。
いつもと違う店で夕食を食べる。
最後にケーキが出てくる。
「とりあえず今日中に帰ってくればいい」
母さんはそう言っていた。
深夜を過ぎると電車もバスも無くなる。
そもそも駅から家まで遠い。
タクシーなんて高価な乗り物高校生が利用するものじゃない。
夕食を食べ終わった頃には飲食店と映画館、カラオケとネカフェくらいしか寄るところはない。
そんなに時間もないので帰る事にした。
バスは同じだった。
バスに乗ると彩られた町並みを眺めながら光太と話をする。
私の方が先に降りる。
「帰ったら電話する」
光太はそう言った。
私はバスを降りると家に帰る。
風呂に入ってしばらくすると光太から電話がかかってくる。
「あ、今大丈夫?」
「ちょうど風呂から戻ってきたところ」
「そうか。ならよかった」
それから少し光太と話をして電話を終える。
テレビも面白いものは何もやってない。
素直に寝る事にした。
翌朝父さんは平日だったので普通に仕事だった。
定時で上がってくるらしい。
今夜は一家そろってのクリスマスパーティだと思った。
「今夜は花と飯食ってくるから」
粋もそういう年頃らしい。
「麗華はよかったの?」
母さんが聞いてきた。
「昨日楽しんだからいい」
「それならいいんだけど」
瑞穂も家で過ごすそうだ。
その代わり日中デートをしてる。
その晩4人でパーティを開いて風呂に入って、そして部屋に戻ると光太からメッセージが。
「メリークリスマス」
光太に返事を返す。
いつも一緒だけど夕暮れはいつも違う色。
いつも一緒だから言葉なんて必要ない。動き始めたあなたの情熱。
いつも一緒だけど夕暮れはいつも違う色。
だからせめて今夜同じ月明かりの下で静かに眠る。
(4)
クリスマスイブ。
誰がいつから決めたのか知らないけど恋人の聖夜。
そして背伸びしても普通は届かないくらい高い所にあるホテルの最上階のレストランで僕と翼はディナーを楽しんでいた。
予約なんてする必要なかった。
普通に家に招待券が届いた。
「あなた達行ってきなさい」
母さんに言われてやって来た。
見るからに高そうな料理を次々と食べていく。
「量が足りない!」
ぶっちゃけて言うと僕もあんまり味が分からない。
だけど皆同じようなものじゃないんだろうか?
ただこのムードと静かに流れるBGMと大人びた雰囲気を楽しんでるだけ。
締めのコーヒーを飲み終える頃シェフが挨拶に来る。
「とても美味しかったです」
翼がそう答える。
一応この店ドレスコードあるからね。
いつもの恰好ってわけにはいかないんだ。
だから翼がいつもよりも大人びて見える。
料理を楽しんだ後は部屋でくつろぐ。
当然のように部屋まで用意されてあるよ。
普通に言うけど、僕達まだ高校生って事を忘れてないかい?
お互いにシャワーを浴びるとベッドに腰掛けてテレビを見る。
聖夜に合わない悲しいニュースが流れる。
こんな寒い夜に路上で寝る中高年。
ハローワークの前に群がる人々。
日雇い労働者の町。
悲しい現実を目の当たりにする。
この地元だって同じような事が起きている。
大体が母さんか美希の母さんが原因だけど。
「チャンネル変えない?」
翼が言った。
さすがに楽しい夜にそぐわない情報だと思ったのだろう。
だけどチャンネルを変えても、もうどのチャンネルもニュースしかない。
民放が3局しかない地元じゃ普通にあり得る事だ。
月9と呼ばれるドラマが月曜の25時からあったりするのが常識な地元だからね。
しょうがないから国営放送に変えてみた。
討論番組をやっていた。
テーマは「10代に我慢なんていらない」
今やりたい事をやり、今しか甘えらえれない親のスネをかじることがいけないことなの?という論争。
他にも他人より物の方が信じられる。物は裏切らないとか。
物とは服の事。一着5万から8万相当のものを着ているらしい。
地元じゃバイト代一月分に相当する額だよ。
同じ10代でも呆れたね。
しかし翼はそうは思わなかったようだ。
「私達がやってることは甘えなんでしょうか?」
やっぱり聖夜に見る内容じゃなかったようだね。
どうしてよりによってこんな時間にこんな放送やってるんだい。
受信料取る前にもっとまともな番組作っておくれ。
「そうかもしれないね、僕達は甘やかされてる」
「そうだよね」
「でもそれを意識することが大事なんじゃないのかい?」
「え?」
今は何もできない無力な子供だから今のうちに力をつけてちゃんと立派な人間になろう。
親の責任の下で自由に動けているのだから親に従おう。
責任の取れない行動はするべきじゃない。まだ自分は親の保護下にあると自覚する事。
それが大事なんじゃないのかい?
「今だからやれることがある。それもまた事実だよ」
僕は言う。
今だからやるべきことがある。やっておかなきゃいけない事がある。
それが分かってない人はきっと20台になっても親のスネをかじって生きているんじゃないのか?
こうして美希と一緒に聖夜を過ごすことも親が手配してくれたからこそ。
だからどんな時でも親には敬意を払わなければならない。
「少なくとも僕たちは親に恵まれてるよ。その事を忘れなければ大丈夫」
「……そうだよね」
翼に笑顔が戻った。
明日の生活が不安な人々がいて親のスネをかじるのが良くない事なのか?と疑問を投げる若者がいる。
戦争の下今日を生きれるかも分からない人がいる一方で「世界の事なんて考えても意味がない」と思考を放棄する若者がいる。
普通にこうして聖夜を楽しんでいることが当たり前のようで実は奇跡の積み重ねなんだ。
連日CMが流れている。
「毎月たった3000円の寄付金で子供が救われる」
たった3000円で何日生きていられるか?
3000円の価値は人様々。
親のスネをかじって何万円もする衣服を買う人にはそれっぽっちかもしれない。
若葉マークをつけてるうちから何千万もする外車を買う人にはどうでもいい額かもしれない。
だけど子供にとって3000円は貴重なお金。
格安の服やネットオークションで少しでも安い服で済ませようとする人には貴重なお金。
価値観は様々なんだ。
貧富の格差が激しいこの現実で一方的な価値観の押し付けは良くない。
そして日本という国に生まれたことに感謝する事と、同じ日本でも生活困窮者がいることを忘れては行けない。
僕はテレビを消した。
ろくな番組やってないしそれに何より……。
「そろそろ寝ませんか?明日の夜もパーティだ。少し休んでおいた方がいい」
若いとはいえ寝不足は肌に悪いと聞いたよ。
「善明は意地悪だね。折角のイブにもう寝ちゃうんですか?」
「せっかくのイブだから早くベッドに入りたいと思って言ったんだけどね」
「そういうことなら」
そして僕達は今日と言う日を感謝する。
明日を生きる権利を獲得したことを喜ぶ。
其れすらない人がこの世界に入るのだから。
「綺麗だね」
美希はそう言って写真をたくさん撮ってる。
今日は12月24日。
イルミネーションを観に街まで来ていた。
青い光が街を照らしている。
街全体がクリスマスのムードに包まれていた。
時間を見て夕食のお店に向かう。
美希と2人で決めた店。
綺麗な料理を食べる前に美希は写真を撮っている。
SNSにでもあげるのだろうか?
口コミ通りの味だった。
その味をデザートまで堪能すると店を出る。
もう一軒寄ろうか?
そんなセリフはまだ早い。
バスに乗って家に帰る。
「あら?今日は帰ってこないと思っていたのに」
親が言う発言じゃないと思うのは僕だけだろうか?
「恵美が”ホテルは用意しておいた”って言ってたのに」
美希からはそんな話聞いてない。
「少しは美希に配慮してあげなさい」
ちなみに翼は今日はお泊りらしい。
父さんは冬吾達と遊んでいた。
「その気になれば家に泊めればいいし」
「防音とはいえ隣に年頃の妹がいることを忘れてはいけませんよ」
母さんはそう言った。
風呂に入ると部屋に戻ってテレビを見る。
クリスマスの特番が終る頃僕はベッドに入る。
美希にメッセージでホテルの件を聞いてみた。
「私から言わなきゃ一緒に寝てくれないの?」
僕がその気になったら教えようと思っていたらしい。
「ごめん」
「まあ、ちょっと悔しいかな」
「どうして?」
「空は胸の小さな人が好きなのかな?って不安にはなる」
そういう問題じゃないよ。
でも美希を不安にさせてはいけないって母さんも言ってたな。
「学も水奈に同じような不安を相談されるそうなんだ」
「それで?」
「大小関係なく彼女の胸に変わりはないだろ?って答えるんだそうだ」
それは多分自分だけの物。
学はそう言ってるらしい。
「そうなんだ」
「うん、だからそんなに気にしなくていいよ」
「ありがとう……今年もあと少しだね」
「そうだね」
今年というものなのか今年度というものなのか分からないけどどっちにしろ一緒だ。
来年になれば1~3月なんてあっという間に駆け抜けてしまう。
高校生になって変わった事。
帰りに何か食べて帰るようになったこと。
通学の距離が遠くなったことくらい。
光太たちとは連絡がとれるけど福徳高校に行った山崎姉妹とはあまり連絡を取ってない。
部活で忙しいんだろう。
テニスで食べていくのだろうか?
大区に行った沢木兄弟は全日本に選ばれた。
今年の五輪には出れなかったけど次の五輪には出てくるだろう。
沢木兄弟を擁する大区工業高校は今年のインターハイの覇者となった。
きっと3連覇するだろう。
みんな頑張っているようだ。
だから応援してる。
頑張れって。
それぞれの道を進んでいく。
振り返ってはいけない、ただ前を見て進もう。
僕と翼も同じだ。
ただ道を進むだけ。
運命という名の道のりは自分で書いていく物だから。
美希におやすみというと僕も眠ることにした。
これからも同じ夜を過ごしていくんだろう。
そうやってクリスマスを迎えて、年を越していく。
何もない所に何かが始まる物語。
(2)
12月24日。
俺達は街にイルミネーションを観に来ていた。
「学も高校生なんだから水奈にそれらしいサプライズしてあげな」
高校生と言ってもまだ1年生なんだけどな。
母さんが言うから水奈を誘ってみたら喜んでいた。
青色の照明が街を飾っている。
それにどんな意味があるのか正直分からない。
母さんが臨時で小遣いを奮発してくれたのでちょっと高い店を予約しておいた。
水奈も自分の彼氏が高校生と意識しているのだろうか?
ちょっと大人っぽい格好をしていた。
水奈は年齢の割には背がたかくスタイルがいい。
だからそう言う格好でも違和感が全くなかった。
「どうした?私の事じろじろ見て。イルミ見なくていいのか?」
「いや、水奈がいつもと違って大人っぽく見えてな。思わず見とれてしまったよ」
「ついに学をその気にさせる事が出来たか。今日はイブだから特別だ。帰ってこなくても許すって言われてる」
水奈は喜んでいるようだ。
だけど、そこまでは考えていなかった。
「飯を食ったら帰るよ」
「……やっぱり私じゃ不満か?」
難しい質問を投げられた。
「そんなことないよ」
「ならいいんだけど……やっぱり学の周りには私よりずっと大人な女子高生がいるだろ。不安なんだ」
そんなことだろうと思ったよ。
俺はテーブルの上に細長い小箱を置く。
「俺からのクリスマスプレゼントだ。受け取ってくれ」
「開けてもいい?」
「ああ」
それは指輪を吊るしたネックレスだった。
「指輪だと目立つだろ?生徒会役員が堂々としてたらまずい。ネックレスなら目立たないと思ってな」
「ありがとう!」
水奈はそれを見ながら喜んでいる。
そして気づいたようだ。
自分のイニシャルが彫られている事に。
俺はもう一つのネックレスを見せた。
水奈とお揃いのネックレス。
「俺もまだ子供のようだ。このくらいの事しか思いつかなくてな」
「十分だよ」
水奈は早速ネックレスをつけていた。
「似合うかな?」
「似合ってるよ」
夕食を食べ終わるとバスに乗る。
バスを降りると水奈を家まで送る。
一応おばさんに一言挨拶しておくか。
22時を回っている。
おばさんに挨拶して帰る。
「待て!」
おばさんはそう言って俺を呼び止める。
「亜依とは話してある。今夜は泊まっていけ」
亜依とは俺の母さんの名前。
「しかし、着替えを用意してないので」
「それならさっき瑛大が届けてくれたよ」
おばさんがにやりと笑う。
瑛大とは俺の父さんの名前。
両親公認か。
これで断ったらまた水奈が傷つくな。
おばさんの好意に甘える事にした。
水奈と同じ部屋だったのは言うまでもない。
水奈が風呂に入ってる間おじさんと話をする。
「水奈は上手にやれてるか?」
こういう難しい質問をしてくるのがおじさんだ。
そしておばさんに小突かれる。
「気にしなくていいからな」
「神奈。お前水奈から何か聞いてるのか?」
「そりゃ女親だからな。色々相談も受けるよ」
「た、例えば!?」
「女同士の秘密だ馬鹿!」
水奈がリビングにやってきた。
「学に余計な事吹き込むな!」
水奈はそう言うと俺の腕を掴むと2階の自分の部屋に入る。
水奈の部屋に来たのは2度目だ。
その時はおじさんはいなかった。
「私達は1階にいるからゆっくり楽しめ」
その時おばさんに言われた事。
とりあえずテレビを見てるが時間は23時を回っていた。
さすがに面白い番組は無い。
すぐに消すとベッドに入る。
普段は強がっている水奈もさすがに緊張しているようだ。
微かに震えている。
優しく包んでやると体を預けてくる。
「俺、高校卒業したら一人暮らし始めようと思うんだ」
「そうなのか?じゃあ、会えなくなるな」
「逆だよ。いつでも遊びに来い」
誰にも気兼ねなく遊びに来れるだろ?
「わかった。ご飯とは作ってやるから」
「楽しみだな」
遊や恋、千帆や姫乃がいる。
増築したとはいえ母さん達の手間が省けるならその方がいいだろう。
俺が大学生になる頃には水奈も高校生だ。
水奈が高校卒業したら同棲を始めよう。
そんな夢物語を水奈に語った。
水奈は喜んでた。
「その続きも聞かせてくれないか?」
水奈が言う。
その必要はないだろう。もう分かってるんだろ?
「その時が来たらちゃんと話すよ」
「分かった」
「だからこんな状態がもうしばらく続くけど我慢して欲しい」
「我慢なんかしてねーよ」
水奈はそう言って俺にしがみ付く。
「今だって十分幸せなんだ」
「そうか……」
そのまま俺達は眠りについた。
そして朝になると起きる。
水奈はまだ眠そうだったが俺がベッドから出ると目が覚めたようだ。
朝食を頂くと俺は家に帰る。
「今日くらいゆっくりしていけばいいのに」
おばさんはそう言った
「お気持ちだけ受け取っておきます」
「じゃあまたな」
水奈が言う。
俺は手を振って返すと家に帰った。
帰ったらまず着替えを洗濯機に入れる。
部屋の掃除をしてから勉強を始める。
「お兄ちゃんお昼出来たよ」
恋に呼ばれるとダイニングに行き昼食を食べる。
遊は遊びに行ってるらしい。
「お兄ちゃん今日もデート?」
「いや、今日は家にいるよ。恋はデートなのか?」
「うん。要の家に夕食呼ばれてるから行ってこようと思って」
もう中学生だし問題ないだろ。
「気を付けて行って来い」
「うん、だから夕食何か適当に食べてて。あと、姫乃と千帆の世話いいかな」
「任せておけ」
遊は遊びに出掛けたまま帰ってこなかった。
恋も遅くに帰ってくる。
母さんは今日は日勤だったらしくて夕食前にケーキを買って帰って来た。
父さんも千帆と姫乃にプレゼントを買って帰って来た。
有言実行だろうか?
千帆と姫乃が家に来てからあまりライブに行かなくなった。
まあ、それでも恋が大体面倒見てるようだが。
「私がやるからお父さんはあっちいってて!」
恋にそう言われるらしい。
毎年必ず訪れるクリスマス。
だけど毎年何かが変わる。
1人暮らしの事は親の了解は得てある。
この家で過ごすクリスマスはあと2回だ。
どんなクリスマスになるのだろう?
そんな事を考えながら夜水奈と電話をしてそして眠りについた。
(3)
12月24日。
イルミネーションを見ていた。
青と白の照明に彩られた町並み。
デパートも建物が電飾で飾られてあった。
いつもと違う店で夕食を食べる。
最後にケーキが出てくる。
「とりあえず今日中に帰ってくればいい」
母さんはそう言っていた。
深夜を過ぎると電車もバスも無くなる。
そもそも駅から家まで遠い。
タクシーなんて高価な乗り物高校生が利用するものじゃない。
夕食を食べ終わった頃には飲食店と映画館、カラオケとネカフェくらいしか寄るところはない。
そんなに時間もないので帰る事にした。
バスは同じだった。
バスに乗ると彩られた町並みを眺めながら光太と話をする。
私の方が先に降りる。
「帰ったら電話する」
光太はそう言った。
私はバスを降りると家に帰る。
風呂に入ってしばらくすると光太から電話がかかってくる。
「あ、今大丈夫?」
「ちょうど風呂から戻ってきたところ」
「そうか。ならよかった」
それから少し光太と話をして電話を終える。
テレビも面白いものは何もやってない。
素直に寝る事にした。
翌朝父さんは平日だったので普通に仕事だった。
定時で上がってくるらしい。
今夜は一家そろってのクリスマスパーティだと思った。
「今夜は花と飯食ってくるから」
粋もそういう年頃らしい。
「麗華はよかったの?」
母さんが聞いてきた。
「昨日楽しんだからいい」
「それならいいんだけど」
瑞穂も家で過ごすそうだ。
その代わり日中デートをしてる。
その晩4人でパーティを開いて風呂に入って、そして部屋に戻ると光太からメッセージが。
「メリークリスマス」
光太に返事を返す。
いつも一緒だけど夕暮れはいつも違う色。
いつも一緒だから言葉なんて必要ない。動き始めたあなたの情熱。
いつも一緒だけど夕暮れはいつも違う色。
だからせめて今夜同じ月明かりの下で静かに眠る。
(4)
クリスマスイブ。
誰がいつから決めたのか知らないけど恋人の聖夜。
そして背伸びしても普通は届かないくらい高い所にあるホテルの最上階のレストランで僕と翼はディナーを楽しんでいた。
予約なんてする必要なかった。
普通に家に招待券が届いた。
「あなた達行ってきなさい」
母さんに言われてやって来た。
見るからに高そうな料理を次々と食べていく。
「量が足りない!」
ぶっちゃけて言うと僕もあんまり味が分からない。
だけど皆同じようなものじゃないんだろうか?
ただこのムードと静かに流れるBGMと大人びた雰囲気を楽しんでるだけ。
締めのコーヒーを飲み終える頃シェフが挨拶に来る。
「とても美味しかったです」
翼がそう答える。
一応この店ドレスコードあるからね。
いつもの恰好ってわけにはいかないんだ。
だから翼がいつもよりも大人びて見える。
料理を楽しんだ後は部屋でくつろぐ。
当然のように部屋まで用意されてあるよ。
普通に言うけど、僕達まだ高校生って事を忘れてないかい?
お互いにシャワーを浴びるとベッドに腰掛けてテレビを見る。
聖夜に合わない悲しいニュースが流れる。
こんな寒い夜に路上で寝る中高年。
ハローワークの前に群がる人々。
日雇い労働者の町。
悲しい現実を目の当たりにする。
この地元だって同じような事が起きている。
大体が母さんか美希の母さんが原因だけど。
「チャンネル変えない?」
翼が言った。
さすがに楽しい夜にそぐわない情報だと思ったのだろう。
だけどチャンネルを変えても、もうどのチャンネルもニュースしかない。
民放が3局しかない地元じゃ普通にあり得る事だ。
月9と呼ばれるドラマが月曜の25時からあったりするのが常識な地元だからね。
しょうがないから国営放送に変えてみた。
討論番組をやっていた。
テーマは「10代に我慢なんていらない」
今やりたい事をやり、今しか甘えらえれない親のスネをかじることがいけないことなの?という論争。
他にも他人より物の方が信じられる。物は裏切らないとか。
物とは服の事。一着5万から8万相当のものを着ているらしい。
地元じゃバイト代一月分に相当する額だよ。
同じ10代でも呆れたね。
しかし翼はそうは思わなかったようだ。
「私達がやってることは甘えなんでしょうか?」
やっぱり聖夜に見る内容じゃなかったようだね。
どうしてよりによってこんな時間にこんな放送やってるんだい。
受信料取る前にもっとまともな番組作っておくれ。
「そうかもしれないね、僕達は甘やかされてる」
「そうだよね」
「でもそれを意識することが大事なんじゃないのかい?」
「え?」
今は何もできない無力な子供だから今のうちに力をつけてちゃんと立派な人間になろう。
親の責任の下で自由に動けているのだから親に従おう。
責任の取れない行動はするべきじゃない。まだ自分は親の保護下にあると自覚する事。
それが大事なんじゃないのかい?
「今だからやれることがある。それもまた事実だよ」
僕は言う。
今だからやるべきことがある。やっておかなきゃいけない事がある。
それが分かってない人はきっと20台になっても親のスネをかじって生きているんじゃないのか?
こうして美希と一緒に聖夜を過ごすことも親が手配してくれたからこそ。
だからどんな時でも親には敬意を払わなければならない。
「少なくとも僕たちは親に恵まれてるよ。その事を忘れなければ大丈夫」
「……そうだよね」
翼に笑顔が戻った。
明日の生活が不安な人々がいて親のスネをかじるのが良くない事なのか?と疑問を投げる若者がいる。
戦争の下今日を生きれるかも分からない人がいる一方で「世界の事なんて考えても意味がない」と思考を放棄する若者がいる。
普通にこうして聖夜を楽しんでいることが当たり前のようで実は奇跡の積み重ねなんだ。
連日CMが流れている。
「毎月たった3000円の寄付金で子供が救われる」
たった3000円で何日生きていられるか?
3000円の価値は人様々。
親のスネをかじって何万円もする衣服を買う人にはそれっぽっちかもしれない。
若葉マークをつけてるうちから何千万もする外車を買う人にはどうでもいい額かもしれない。
だけど子供にとって3000円は貴重なお金。
格安の服やネットオークションで少しでも安い服で済ませようとする人には貴重なお金。
価値観は様々なんだ。
貧富の格差が激しいこの現実で一方的な価値観の押し付けは良くない。
そして日本という国に生まれたことに感謝する事と、同じ日本でも生活困窮者がいることを忘れては行けない。
僕はテレビを消した。
ろくな番組やってないしそれに何より……。
「そろそろ寝ませんか?明日の夜もパーティだ。少し休んでおいた方がいい」
若いとはいえ寝不足は肌に悪いと聞いたよ。
「善明は意地悪だね。折角のイブにもう寝ちゃうんですか?」
「せっかくのイブだから早くベッドに入りたいと思って言ったんだけどね」
「そういうことなら」
そして僕達は今日と言う日を感謝する。
明日を生きる権利を獲得したことを喜ぶ。
其れすらない人がこの世界に入るのだから。
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