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深化する夢
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(1)
鞄にペンケースと受験票と上履きと弁当だけを入れる。
生徒手帳と一緒に神社で買った御守りも忘れずに持って行く。
昨日の夕食はカツ丼だった。
愛莉なりの心遣いなのかもしれない。
部屋を出ると皆と朝食をとる。
心なしか重苦しい雰囲気が漂う。
「どうしたんだ?皆お腹の調子でも悪いのか?」
私が聞いてみた。
「天音、リラックスだよ」
茜が言うと皆が次々と声をかけてくれた。
普段通りの私なら絶対大丈夫。
今は皆の方が固くなってる。
「心配いらねーって、ちょっとテストを受けて来るだけだ」
面接とかあるわけでもないし問題ない。
「天音、テストが終わったら頭は次の教科に切り替えるんだよ。過ぎたことを心配しても時間の無駄だから」
翼が言う。
そんな事産まれて一度もしたことねーよ。
朝食が終ると準備をする。
受験を受けるのに一々リップしていく必要もない。
簡単に済ませると水奈が来る。
高校までは自転車で行く。
「事故だけはしないようにね」
父さんが言う。
そうして水奈と二人で受験会場の桜丘高校に向かった。
朝の通勤ラッシュで混んでる交差点をいくつか抜けてトンネルをくぐって道を抜ける。
通学の時はバスにしよう。
水奈と決めていた。
学校に着くと何人かのクラスメートと会う。
大体の連中は滑り止めには伊田高を、自信のある奴は藤明を選ぶ。
私のクラスも例外ではなかった。
だけど中には調理師や医療事務、CGや機械加工など福祉など専門分野を学ぶ為にこの学校を選ぶものもいる。
そんな中でも原口星香は特殊だった。
「絶対に片桐さんに勝つ。片桐さんが調理師の道を選ぶなら私はそれを越えてみせる」
原口は成績がいい。
私がいなければ1番だっただろう。
自分の将来をそんな理由で決めて良いのかと思ったが人それぞれだしいいだろう。
大地達は伊田高を受けている。
そして同じ時間に最初の科目が始まった。
鉛筆の音と時計の針を刻む音だけが聞こえる。
中には15分ほどして寝るやつもいた。
それが悪いとは思わない。
ケアレスミスがないかどうかチェックするのも大事だけどそうやって思考のドツボに嵌ってしまう奴もいる。
どっちが正しいのか正常な判断が出来なくなってしまう。
そういう時に限って大抵最初の解答が正しい。
だったら無駄な足掻きはしない。
ただしそういうのが通用しない教科もある。
英語なんかは試験開始後終盤になってヒアリングテストが始まることがある。
それをただじっと待つしかない。
1教科が終ると次の教科までに休憩時間がある。
私は水筒の飲み物を飲み、水奈とおしゃべりしてた。
最後の悪あがきを試みる者もいる。
午前中の科目が終ると昼食の時間になる。
水奈と昼食を食べていると渡辺紗理奈が来た。
「やっぱり天音達も同じ高校だったか」
紗理奈と3人で昼食を食べながら昼休憩を過ごす。
昼休憩が終ると残りの教科の試験を受ける。
全部終わると皆帰りに着いた。
水奈は少し不安気だった。
「心配いらねーよ。桜丘がだめなら公立受ければいいじゃねーか」
願書の受付期間はある。
「桜丘がだめなら公立校なんて絶対無理だろ?」
まあ、すっごいド田舎の高校とか行けば受かるかもしれない。
「水奈だって普通くらいの成績取ってたんだし大丈夫だって。落ちろと言われても難しい高校なんだぜ」
それに公立入試の結果後の繰り上がり合格だってある。
心配する事無い。
私達みたいに桜丘高校一本に絞る方が珍しいんだから。
普通は教師や親が反対する。
そして家に帰るとスマホを見る。
大地達も無事済んだようだ。
「お疲れ様。本番もがんばれよ」
そうメッセージを送ってやる。
「天音もお疲れ。天音なら大丈夫。自信もって」
返事が返って来た。
そうして私の高校入試は終わった。
あとは結果をまつだけ。
じたばたしてもしょうがない。
TVゲームをして時間を潰していた。
(2)
翌週末。
入試の結果発表があった。
「天音、ICカード持った?」
「大丈夫」
どうせ入学したらバス通学なんだ。
今のうちに慣れておこうぜ。
私は水奈にそう言ってバスで結果を見に行くことを勧めた。
ルートは街まで出て駅裏の通りを真っ直ぐ行くだけ。
帰りに街に寄って遊びに行く。
そんな夢のような話が待っている。
翼たちには出来ない事。
「帰りに遊び放題だな!何して遊ぼうか?」
そんな話を水奈としながら高校に向く。
ゆっくり歩いても15分もかからない。
そして高校に着いたら既に発表がされていた。
歓喜する者、落胆する者。様々いた。
私達も自分の受験番号を探す。
水奈は見つけたようだ。
喜んで私に抱き着いている。
水奈にどの辺にあったか聞いた。
水奈が指差す。
その近辺を探すと私の番号もあった。
「天音達どうだった?」
私達を見つけた渡辺紗理奈が聞いてきた。
紗理奈も合格したらしい。
「カラオケで打ち上げしねえ?」
紗理奈もバスで来たらしい。
高校にもなって自転車通学なんてめんどくさい事したくないと言ったそうだ。
バス停から歩くのも結構面倒だけどな。
私達は断った。
学校に報告に行かないといけない。
後から考えたら来週頭に職員室に行けばいいだけの話だったんだけどな。
大地達に報告する。
大地達も合格していたらしい。
だが、大地達には県立高の入試がある。
県立入試終わったら打ち上げしような。
そんな約束をしていた。
家に帰ると「おめでとう」とお祝いしてくれた。
ありがとうといってご馳走にありつく。
ご飯を食べると部屋でゲームして遊んでる。
私と水奈はこれで受験という呪縛から解放された。
残り中学校生活を満喫することにした。
(3)
卒業式。
卒業証書を渡され皆がそれぞれの道に巣立つ時。
ここからは自分で歩む道を選ぶ時。
そしてその最初の難関に挑むものが大半だった。
道は自由だと言うけど大抵のものはまだ自由ではない。
自由だけど皆決まっている。
それを通過しないと先が無いのは皆一緒だから。
卒業式の余韻に浸る間も惜しんで家に帰って勉強するものもいた。
私も大地の事を案じて遊ぶのは県立入試の後にした。
遊達ですら必死に勉強をしている。
さすがに邪魔をするような気にならなかった。
卒業式が終ると真っ直ぐ家に帰る。
家には冬眞と莉子がいるだけ。
冬吾と冬莉もまだ小学校みたいだ。
部屋で着替える。
もう着る事のない制服。
水奈と二人で「高く買ってくれる人いるらしいぜ!」とはしゃいでいたが愛莉にばれた。
「思い出にとっておきなさい!」
そう言われた。
水奈は水奈の父さんに「いらないならくれ!」と言われたそうだ。
水奈の母さんに着てもらうつもりだったそうだ。
当然水奈の母さんに叱られていたらしい。
たかだか制服にそこまでこだわる男の心理が分からなかった。
まあ、名前を刺繍しているわけでもないし茜や冬莉、莉子が着れるかもしれないし良いか。
その日もご馳走だった。
「天音にも高校卒業したらプレゼントあげるから。とりあえず天音の高校入学のお祝い」
そう言って愛莉から差し出されたのは定期券付ICカードだった。
フルにチャージしてるらしい。
お小遣いもアップしてくれるそうだ。
私のことだから大方街で遊んで帰ってくるつもりだろうからとパパは笑っていた。
そして私にも翼や空と同じようにこれから3年間試験をするという。
ちゃんと大人しくしていたら高校卒業した時にプレゼントがあるという。
それが何なのかは2年後に分かるだろう。
翼と空が高校卒業するから。
両親は不公平な真似はしない。
皆平等に扱ってくれる。
せいぜい年齢によってお小遣いの額が変わるくらいだ。
もっとも茜は遠坂のお爺さんに色々もらってるみたいだけど。
食事が終ると、風呂に入る。
部屋に戻るとゲームをする。
大地は勉強に頑張っている事だろう。
寝る前だけおやすみのメッセージを送る。
私が足を引っ張るわけにはいかないから。
そうして他の人よりちょっとだけ長い春休みを楽しんでいた。
(4)
伊田高に合格した。
推薦入試を受けたものも含めて伊田高を受けた者は皆合格したそうだ。
伊田高が目的だったものもいる。
多田兄弟や佐倉姉弟、サンターナやピエールは高校サッカーに切り替えるらしい。
来年からの高校サッカーは伊田高が支配することになるんだろうな。
天音に合格の知らせを送る。
天音と水奈も合格したそうだ。
うちのクラスは皆私立高校は合格したみたいだ。
残るは公立のみ。
僕達はまだ受験戦争は終わっていない。
天音達にもその事を分かってもらえてるらしく遊びの誘いとかは全くなかった。
メッセージも不要なメッセージは送ってこない。
「おやすみ」とか「無理して体壊すなよ」とかそれくらい。
天音の優しさなのだろう。
卒業式の日も打ち上げはしなかった。
僕達の入試が終って合格が決まったらお祝いしよう。
天音がそう言ってくれた。
卒業後は授業がない。
だからといって遊んでる場合じゃない。
入試はすぐそこに迫ってる。
色んな過去問を解いていく。
母さんが夜食を作ってくれた。
そして試験当日になる。
防府高校に自転車で向かうと遊や粋と会う。
気を紛らわすには丁度良かった。
そして試験が始まる。
5教科を一日で済ませる。
伊田高の試験と何も変わりがない。
違うのは問題とそして皆の必死さ。
私立高校はあくまでも滑り止め。
本命はこっちだ。
それは僕だって同じ。
落ち着いて慎重に問題を解いていく。
1科目が終ると遊と粋は「あの問題どうだった?」って聞いてる。
結構危なっかしい所があるようだ。
そして次の科目にとりかかる。
昼休憩の時間にスマホを見る。
「大丈夫そうか?」
天音からメッセージが来てた。
「大丈夫、落ち着けてる」
「お前なら大丈夫だから頑張れ」
天音という幸運の女神がいるんだ。
きっと大丈夫。
午後の残りの教科が終ると僕は家に帰る。
「終わって今帰ったよ」
「お疲れ様。結果が楽しみだな」
「発表終わった後で打ち上げするんだよね?」
「どうせなら皆笑って終わりたいよな!」
母さん達からも労いの言葉をもらった。
それから数日間ゆっくりと過ごした。
天音と電話をしたりもした。
そして結果発表の時が来た。
遊や粋も学校にやって来た。
2人とも表情が硬い。
「今更びびってんじゃねーよ。やることやったんだ。大丈夫だって」
祈がそう言っている。
係員が来た。
紙を掲示板に張っている。
僕達は一斉に番号を見る。
遊と粋が喜んでいる。
祈も胸をなでおろしている。
落ち着いて一つずつ番号を確認していく。
そして自分の番号を確認した時、深いため息をついた。
どうやら人生最初の難関はクリアできたみたいだ。
皆とハイタッチする。
僕達SHのメンバーは皆合格したみたいだった。
鞄にペンケースと受験票と上履きと弁当だけを入れる。
生徒手帳と一緒に神社で買った御守りも忘れずに持って行く。
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愛莉なりの心遣いなのかもしれない。
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心なしか重苦しい雰囲気が漂う。
「どうしたんだ?皆お腹の調子でも悪いのか?」
私が聞いてみた。
「天音、リラックスだよ」
茜が言うと皆が次々と声をかけてくれた。
普段通りの私なら絶対大丈夫。
今は皆の方が固くなってる。
「心配いらねーって、ちょっとテストを受けて来るだけだ」
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「天音、テストが終わったら頭は次の教科に切り替えるんだよ。過ぎたことを心配しても時間の無駄だから」
翼が言う。
そんな事産まれて一度もしたことねーよ。
朝食が終ると準備をする。
受験を受けるのに一々リップしていく必要もない。
簡単に済ませると水奈が来る。
高校までは自転車で行く。
「事故だけはしないようにね」
父さんが言う。
そうして水奈と二人で受験会場の桜丘高校に向かった。
朝の通勤ラッシュで混んでる交差点をいくつか抜けてトンネルをくぐって道を抜ける。
通学の時はバスにしよう。
水奈と決めていた。
学校に着くと何人かのクラスメートと会う。
大体の連中は滑り止めには伊田高を、自信のある奴は藤明を選ぶ。
私のクラスも例外ではなかった。
だけど中には調理師や医療事務、CGや機械加工など福祉など専門分野を学ぶ為にこの学校を選ぶものもいる。
そんな中でも原口星香は特殊だった。
「絶対に片桐さんに勝つ。片桐さんが調理師の道を選ぶなら私はそれを越えてみせる」
原口は成績がいい。
私がいなければ1番だっただろう。
自分の将来をそんな理由で決めて良いのかと思ったが人それぞれだしいいだろう。
大地達は伊田高を受けている。
そして同じ時間に最初の科目が始まった。
鉛筆の音と時計の針を刻む音だけが聞こえる。
中には15分ほどして寝るやつもいた。
それが悪いとは思わない。
ケアレスミスがないかどうかチェックするのも大事だけどそうやって思考のドツボに嵌ってしまう奴もいる。
どっちが正しいのか正常な判断が出来なくなってしまう。
そういう時に限って大抵最初の解答が正しい。
だったら無駄な足掻きはしない。
ただしそういうのが通用しない教科もある。
英語なんかは試験開始後終盤になってヒアリングテストが始まることがある。
それをただじっと待つしかない。
1教科が終ると次の教科までに休憩時間がある。
私は水筒の飲み物を飲み、水奈とおしゃべりしてた。
最後の悪あがきを試みる者もいる。
午前中の科目が終ると昼食の時間になる。
水奈と昼食を食べていると渡辺紗理奈が来た。
「やっぱり天音達も同じ高校だったか」
紗理奈と3人で昼食を食べながら昼休憩を過ごす。
昼休憩が終ると残りの教科の試験を受ける。
全部終わると皆帰りに着いた。
水奈は少し不安気だった。
「心配いらねーよ。桜丘がだめなら公立受ければいいじゃねーか」
願書の受付期間はある。
「桜丘がだめなら公立校なんて絶対無理だろ?」
まあ、すっごいド田舎の高校とか行けば受かるかもしれない。
「水奈だって普通くらいの成績取ってたんだし大丈夫だって。落ちろと言われても難しい高校なんだぜ」
それに公立入試の結果後の繰り上がり合格だってある。
心配する事無い。
私達みたいに桜丘高校一本に絞る方が珍しいんだから。
普通は教師や親が反対する。
そして家に帰るとスマホを見る。
大地達も無事済んだようだ。
「お疲れ様。本番もがんばれよ」
そうメッセージを送ってやる。
「天音もお疲れ。天音なら大丈夫。自信もって」
返事が返って来た。
そうして私の高校入試は終わった。
あとは結果をまつだけ。
じたばたしてもしょうがない。
TVゲームをして時間を潰していた。
(2)
翌週末。
入試の結果発表があった。
「天音、ICカード持った?」
「大丈夫」
どうせ入学したらバス通学なんだ。
今のうちに慣れておこうぜ。
私は水奈にそう言ってバスで結果を見に行くことを勧めた。
ルートは街まで出て駅裏の通りを真っ直ぐ行くだけ。
帰りに街に寄って遊びに行く。
そんな夢のような話が待っている。
翼たちには出来ない事。
「帰りに遊び放題だな!何して遊ぼうか?」
そんな話を水奈としながら高校に向く。
ゆっくり歩いても15分もかからない。
そして高校に着いたら既に発表がされていた。
歓喜する者、落胆する者。様々いた。
私達も自分の受験番号を探す。
水奈は見つけたようだ。
喜んで私に抱き着いている。
水奈にどの辺にあったか聞いた。
水奈が指差す。
その近辺を探すと私の番号もあった。
「天音達どうだった?」
私達を見つけた渡辺紗理奈が聞いてきた。
紗理奈も合格したらしい。
「カラオケで打ち上げしねえ?」
紗理奈もバスで来たらしい。
高校にもなって自転車通学なんてめんどくさい事したくないと言ったそうだ。
バス停から歩くのも結構面倒だけどな。
私達は断った。
学校に報告に行かないといけない。
後から考えたら来週頭に職員室に行けばいいだけの話だったんだけどな。
大地達に報告する。
大地達も合格していたらしい。
だが、大地達には県立高の入試がある。
県立入試終わったら打ち上げしような。
そんな約束をしていた。
家に帰ると「おめでとう」とお祝いしてくれた。
ありがとうといってご馳走にありつく。
ご飯を食べると部屋でゲームして遊んでる。
私と水奈はこれで受験という呪縛から解放された。
残り中学校生活を満喫することにした。
(3)
卒業式。
卒業証書を渡され皆がそれぞれの道に巣立つ時。
ここからは自分で歩む道を選ぶ時。
そしてその最初の難関に挑むものが大半だった。
道は自由だと言うけど大抵のものはまだ自由ではない。
自由だけど皆決まっている。
それを通過しないと先が無いのは皆一緒だから。
卒業式の余韻に浸る間も惜しんで家に帰って勉強するものもいた。
私も大地の事を案じて遊ぶのは県立入試の後にした。
遊達ですら必死に勉強をしている。
さすがに邪魔をするような気にならなかった。
卒業式が終ると真っ直ぐ家に帰る。
家には冬眞と莉子がいるだけ。
冬吾と冬莉もまだ小学校みたいだ。
部屋で着替える。
もう着る事のない制服。
水奈と二人で「高く買ってくれる人いるらしいぜ!」とはしゃいでいたが愛莉にばれた。
「思い出にとっておきなさい!」
そう言われた。
水奈は水奈の父さんに「いらないならくれ!」と言われたそうだ。
水奈の母さんに着てもらうつもりだったそうだ。
当然水奈の母さんに叱られていたらしい。
たかだか制服にそこまでこだわる男の心理が分からなかった。
まあ、名前を刺繍しているわけでもないし茜や冬莉、莉子が着れるかもしれないし良いか。
その日もご馳走だった。
「天音にも高校卒業したらプレゼントあげるから。とりあえず天音の高校入学のお祝い」
そう言って愛莉から差し出されたのは定期券付ICカードだった。
フルにチャージしてるらしい。
お小遣いもアップしてくれるそうだ。
私のことだから大方街で遊んで帰ってくるつもりだろうからとパパは笑っていた。
そして私にも翼や空と同じようにこれから3年間試験をするという。
ちゃんと大人しくしていたら高校卒業した時にプレゼントがあるという。
それが何なのかは2年後に分かるだろう。
翼と空が高校卒業するから。
両親は不公平な真似はしない。
皆平等に扱ってくれる。
せいぜい年齢によってお小遣いの額が変わるくらいだ。
もっとも茜は遠坂のお爺さんに色々もらってるみたいだけど。
食事が終ると、風呂に入る。
部屋に戻るとゲームをする。
大地は勉強に頑張っている事だろう。
寝る前だけおやすみのメッセージを送る。
私が足を引っ張るわけにはいかないから。
そうして他の人よりちょっとだけ長い春休みを楽しんでいた。
(4)
伊田高に合格した。
推薦入試を受けたものも含めて伊田高を受けた者は皆合格したそうだ。
伊田高が目的だったものもいる。
多田兄弟や佐倉姉弟、サンターナやピエールは高校サッカーに切り替えるらしい。
来年からの高校サッカーは伊田高が支配することになるんだろうな。
天音に合格の知らせを送る。
天音と水奈も合格したそうだ。
うちのクラスは皆私立高校は合格したみたいだ。
残るは公立のみ。
僕達はまだ受験戦争は終わっていない。
天音達にもその事を分かってもらえてるらしく遊びの誘いとかは全くなかった。
メッセージも不要なメッセージは送ってこない。
「おやすみ」とか「無理して体壊すなよ」とかそれくらい。
天音の優しさなのだろう。
卒業式の日も打ち上げはしなかった。
僕達の入試が終って合格が決まったらお祝いしよう。
天音がそう言ってくれた。
卒業後は授業がない。
だからといって遊んでる場合じゃない。
入試はすぐそこに迫ってる。
色んな過去問を解いていく。
母さんが夜食を作ってくれた。
そして試験当日になる。
防府高校に自転車で向かうと遊や粋と会う。
気を紛らわすには丁度良かった。
そして試験が始まる。
5教科を一日で済ませる。
伊田高の試験と何も変わりがない。
違うのは問題とそして皆の必死さ。
私立高校はあくまでも滑り止め。
本命はこっちだ。
それは僕だって同じ。
落ち着いて慎重に問題を解いていく。
1科目が終ると遊と粋は「あの問題どうだった?」って聞いてる。
結構危なっかしい所があるようだ。
そして次の科目にとりかかる。
昼休憩の時間にスマホを見る。
「大丈夫そうか?」
天音からメッセージが来てた。
「大丈夫、落ち着けてる」
「お前なら大丈夫だから頑張れ」
天音という幸運の女神がいるんだ。
きっと大丈夫。
午後の残りの教科が終ると僕は家に帰る。
「終わって今帰ったよ」
「お疲れ様。結果が楽しみだな」
「発表終わった後で打ち上げするんだよね?」
「どうせなら皆笑って終わりたいよな!」
母さん達からも労いの言葉をもらった。
それから数日間ゆっくりと過ごした。
天音と電話をしたりもした。
そして結果発表の時が来た。
遊や粋も学校にやって来た。
2人とも表情が硬い。
「今更びびってんじゃねーよ。やることやったんだ。大丈夫だって」
祈がそう言っている。
係員が来た。
紙を掲示板に張っている。
僕達は一斉に番号を見る。
遊と粋が喜んでいる。
祈も胸をなでおろしている。
落ち着いて一つずつ番号を確認していく。
そして自分の番号を確認した時、深いため息をついた。
どうやら人生最初の難関はクリアできたみたいだ。
皆とハイタッチする。
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