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追いかけて塵になるまで
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(1)
「あら?天音おはよう。今日は早いわね。いつもお昼に起きて来るのに」
「……腹減った。何かない?」
「今から作るからちょっと待っててね」
そう言って愛莉がキッチンに立つ。
その間椅子に座って待っていた。
手にはスマホを持っている。
それに気づいた愛莉が言った。
「食事中はスマホは禁止って決めてるでしょ。ダメですよ」
そうだった。
うちはダイニングにスマホを持ち込むのは厳禁になってある。
食事に行ってる時も同じだ。
食事中のスマホは絶対にしてはいけない。
食事は料理を楽しみながらみんなとコミュニケーションをとる場所。
他の皆に失礼だ。
家族全員がスマホをしながら料理を黙々と食べるなんてあってはならない。
私は大人しく部屋にスマホを戻しに行く。
すると感づいたらしい愛莉が言った。
「まだ合格発表までは時間がありますよ」
今日は大地の、県立高校の合格発表日。
朝早くから目が覚めてそして眠れずにいた。
じっとスマホが鳴るのを待っていた。
大地が落ちるはずがない。
分かっているけど気が気でない。
自分の合格発表よりも落ち着かなかった。
朝食を食べると部屋に戻ってスマホを見る。
時間は9時50分。
もうそろそろ頃合いだ。
最初になんて声をかけてやろう。
「お疲れさん」「おめでとう、がんばったね」
落ちた場合の事は考えないことにした。
時計が10時を回る。
そろそろ分かる頃だ。
しかしメッセージは届かない。
電話もかかってこない。
まさかあいつ!?
いや、そんな事無いはずだ。
「どうだった?」って聞いた方がいいのだろうか?
でも「ダメだった」って返ってきたらどう答えたらいい?
30分ほどたってようやく電話がかかって来た。
「もしもし」
「天音?今家に帰ったところ」
「そうか……」
どう切り出せばいいか困っていた。
「皆合格したよ」
大地はそう言った。
「お前はどうなんだ?」
「ちゃんと合格通知書もらってきたよ」
だったら最初に言え!
「おめでとう!」
「ありがとう」
「大地なら大丈夫だって信じてたよ」
「張り出された時は緊張したけどね」
自分の番号を一度見過ごしてしまったらしい。
それを遊が見つけたそうだ。
「じゃあ、今週末は打ち上げだな!」
「そうだね」
皆で盛大に盛り上がろう。
大地と約束して電話を切った。
スマホのグループチャットを見ると中学3年生を中心に盛り上がっていた。
皆合格したそうだ。
スマホを机に置いて一回に降りると愛莉に伝える。
「大地合格したって!」
「よかったですね」
愛莉と一緒に喜ぶ。
学校は違うけどお互い自分の夢に一歩近づく事が出来た。
そして私達は高校生活という新たな舞台を手に入れた。
どんな出来事が待っているのだろう?
まずは週末に楽し無事に決めた。
(2)
私達はSAPに集まった。
朝から皆盛り上がっていた。
皆が集まると早速店に入る。
ボーリングをしてゲーセンで遊んで昼食を食べてカラオケに行く。
皆で絶唱していた。
死にはしないけど。
水奈は洋楽がやたらと上手い。
英語の点数も悪くない。
水奈の母さんも似たような特質を持っているらしい。
大地はぼそぼそと歌うので何を言ってるのか分からない。
「もっとしゃきっとうたえ」
そう言うと叫ぶように歌う。
ラブソングだった。
そういうのは2人の時に歌ってくれ。
心から愛してるなんて言われたら私でもドキッとするじゃないか。
私以外の誰かに向けて言ってるのならぶっ飛ばす。
遊と粋も歌っていた。
遊と粋はなずなや花を連れて一緒に良くいくらしい。
いつも点数を競っているんだそうだ。
そして採点機能に文句をつける。
なずなや花も歌う。
あらゆるジャンルを歌うらしい。
最近はまっているのはバンドに和楽器を織り込んだグループ。
とても綺麗な曲だった。
1人につき2曲か3曲歌った程度でもあっという間に時間は過ぎる。
時間になると店を出てファミレスに向かう。
周りの客の迷惑にならない程度に盛り上がっていた。
そして夕食が済むとみんな解散する。
家に帰ると風呂に入って部屋に戻る。
ゲームをしながら大地とチャットをしていた。
茜も来月からは中学生。
少々の夜更かしは認めてもらえていた。
勉強で徹夜は良くてもゲームやネットはだめ。
そんな矛盾は片桐家ではなかった。
ちゃんと学校に行って勉強してそれなりの成績を収めていたら文句は言いません。
愛莉はそう言った。
パパにも許可してもらえてた。
あとは自分の責任で行動しなさい。
そうつけ加えられるけど。
誰かに言われたとかじゃなくて自分の意思で行動しなさい。
そして決して誰かのせいにしてはいけません。
小学校を卒業する頃の片桐家の人間はそう言い聞かされる。
今年も純也と茜が言われていた。
冬吾達もいずれはそう言われるのだろう。
私達は自由という宝を得る代償に責任という重荷を背負うことになる。
(3)
卒業式。
6年間世話になった学び舎に別れを告げる。
5年生にみおくられ会場を後にすると教室に戻り先生の最後の挨拶を聞く。
通知表を受け取り終えると教室を出る。
玄関前では皆親と一緒にいた。
未来と言うものに絶望しかなかった俺達が今日新しい舞台へと向かう。
この6年間で得たものは多かった。
仲間、恋人、そして沢山の事を学んできた。
明日さえ見えない僕が10年後の将来を夢見る事を許された。
「皆で記念写真撮ろうよ」
梨々香が言うので茜と俺と梨々香と壱郎が並ぶと愛莉がシャッターを切る。
皆がそろうと5年生が作ったアーチをくぐって校門を出る。
梨々香たちと別れると家に帰る。
家に帰るとランドセルを仕舞う。
処分するか悩んだけど取っておくことにした。
俺が6年間小学校で過ごしてきた唯一の証。
夕食の時にりえちゃんとおじさんに礼を言う。
「今後の事は決めてるのかい?」
おじさんに聞かれた。
「はい、出来れば大学に行きたいです」
「その先も決めてるのかい?」
「おじさんのような警察官になりたい」
俺がそう言うとおじさんは黙ってしまった。
「大変な仕事だよ?」
「わかってます」
「……頑張りなさい」
「はい!」
夢は警察官。
ありきたりだけど、実現するのはものすごく大変な職。
なんせ100倍と言われる競争を勝ち抜かなくてはならないのだから。
俺はただの警察官になりたいんじゃない。
おじさんのような警察官になりたい。
人には乗り越えられない壁はない。
なぜなら神様は乗り越える事が出来る試練しか与えないから。
だから恐れず進もう。
道は必ずあるはずだから。
俺達もまた新しいステージへと上がる。
やがて幕が上がるだろう。
その瞬間からスポットライトは浴びている。
あとは自分次第。
(4)
空港に来ていた。
付き添いにUSE東京支社長の中村さんがいる。
そして見送りに父さんと恋人の多田安斗君が来ていた。
将門も両親と彼女を連れて来ている。
母さんは今日は仕事で地方にいる。
大きな荷物はすでに新しい住居に送ってある。
全てUSEが手配してくれた。
私と将門は地元を離れて東京で一人暮らしを始める。
高校も東京の高校に通うことになる。
私達のグループ・フレーズは飛ぶように売れていた。
だから拠点を東京に移して本格的に活動することになった。
専務の石原恵美さんは私達のような若いタレントのよき理解者。
私が多田君と一緒の高校に通いたいと言えば受け入れてくれただろう。
そういうタレントもいるだろうとUSEレコードの本社を地元に作ったのだから。
だけど多田君の夢もJリーグの選手。
ずっと地元にいるわけじゃない。
ずっと一緒にいられるわけじゃない。
なら少しそれが早まるくらい関係ない。
そんな僅か3年で関係が崩れるのなら私達は所詮その程度に作られていたんだろう。
多田君と相談した末の結果だ。
そう専務に話すと「サッカーだと夏休みや年末年始の休暇だけでは無理があるわね。スケジュール見て調整してあげる」と言ってくれた。
「そろそろ時間だ。行こうか」
中村さんが言うと「じゃあね」と多田君に別れを告げる。
振り向くな、涙をみせるな。
ゴングはすでに鳴っている。
「麻里!頑張れよ!」
多田君が言うと振り向いてしまった。
多田君は左手を上げて振っている。
その意味は私には分かる。
私も左手を振ってこたえた。
たとえ遠く離れていても心はいつでも一緒。
ずっと誓えるから。
私にはあなたしか見えない。
離れ離れになってから知る優しさの意味。
たとえ遠く離れていても2人の心は共にある。
いつでも見守ってください。
会える日を待ってるから。
薬指に嵌めたリングはあなたが慌てて買ってくれたもの。
今では大切なお守り。
写真立ての中の2人は慣れなくて表情が引きつっていた。
初めて撮ったから照れすぎた。
今度は笑顔で撮ろうね。
はるか遠い空の下のあなたの姿を思い浮かべる。
だからどんなつらい事があっても決して涙は見せない。
幾つか月日を重ねて出逢えたら時はきつく抱きしめて欲しい。
離れ離れになってから初めて知る優しさの意味。
その温かい温もりに触れていたかった。
どんなに離れていても2人の心は一緒だからいつも見守っていてね。
会える日を楽しみにしてる。
東京に着くと夕食をご馳走してもらいそして新居につく。
「何かあったらすぐ連絡して。SPもいるから」
羽田に着いた時に紹介してもらい、送迎してもらった人。
本名は明かしていない。
ただコードネームは教えてもらった。
サイレント。
私以外誰もいない。
テレビの音が空しく流れる。
そんな思いを詩に綴ってそしてメールで将門に送った。
五月の連休には作曲が完成してレコーディングに入る。
もちろん多田君は部活で会えなかったけど、それでも1日だけ会えた。
専務はちゃんと約束を守ってくれた。
私の新生活はそうして幕を開けた。
逢えない寂しさを。
出逢える喜びを。
愛し合う大切さを詩に綴っていた。
増渕君はそれを詩に込めた思いをちゃんと受け止めてくれて作曲してくれた。
それは同世代だけでなくて年上の女子大生にも共感を得たという。
きっと大学が離れていて会えない寂しさもあったんだろう。
春は出会いと別れの季節。
振り向けばいつもそこにあなたがいてくれる気がする。
まだ上手に笑えなかったけど、彼と会う時は笑顔でいよう。
大切な時間なのだから。
それは胸の奥にあるただ一つだけの記憶。
「あら?天音おはよう。今日は早いわね。いつもお昼に起きて来るのに」
「……腹減った。何かない?」
「今から作るからちょっと待っててね」
そう言って愛莉がキッチンに立つ。
その間椅子に座って待っていた。
手にはスマホを持っている。
それに気づいた愛莉が言った。
「食事中はスマホは禁止って決めてるでしょ。ダメですよ」
そうだった。
うちはダイニングにスマホを持ち込むのは厳禁になってある。
食事に行ってる時も同じだ。
食事中のスマホは絶対にしてはいけない。
食事は料理を楽しみながらみんなとコミュニケーションをとる場所。
他の皆に失礼だ。
家族全員がスマホをしながら料理を黙々と食べるなんてあってはならない。
私は大人しく部屋にスマホを戻しに行く。
すると感づいたらしい愛莉が言った。
「まだ合格発表までは時間がありますよ」
今日は大地の、県立高校の合格発表日。
朝早くから目が覚めてそして眠れずにいた。
じっとスマホが鳴るのを待っていた。
大地が落ちるはずがない。
分かっているけど気が気でない。
自分の合格発表よりも落ち着かなかった。
朝食を食べると部屋に戻ってスマホを見る。
時間は9時50分。
もうそろそろ頃合いだ。
最初になんて声をかけてやろう。
「お疲れさん」「おめでとう、がんばったね」
落ちた場合の事は考えないことにした。
時計が10時を回る。
そろそろ分かる頃だ。
しかしメッセージは届かない。
電話もかかってこない。
まさかあいつ!?
いや、そんな事無いはずだ。
「どうだった?」って聞いた方がいいのだろうか?
でも「ダメだった」って返ってきたらどう答えたらいい?
30分ほどたってようやく電話がかかって来た。
「もしもし」
「天音?今家に帰ったところ」
「そうか……」
どう切り出せばいいか困っていた。
「皆合格したよ」
大地はそう言った。
「お前はどうなんだ?」
「ちゃんと合格通知書もらってきたよ」
だったら最初に言え!
「おめでとう!」
「ありがとう」
「大地なら大丈夫だって信じてたよ」
「張り出された時は緊張したけどね」
自分の番号を一度見過ごしてしまったらしい。
それを遊が見つけたそうだ。
「じゃあ、今週末は打ち上げだな!」
「そうだね」
皆で盛大に盛り上がろう。
大地と約束して電話を切った。
スマホのグループチャットを見ると中学3年生を中心に盛り上がっていた。
皆合格したそうだ。
スマホを机に置いて一回に降りると愛莉に伝える。
「大地合格したって!」
「よかったですね」
愛莉と一緒に喜ぶ。
学校は違うけどお互い自分の夢に一歩近づく事が出来た。
そして私達は高校生活という新たな舞台を手に入れた。
どんな出来事が待っているのだろう?
まずは週末に楽し無事に決めた。
(2)
私達はSAPに集まった。
朝から皆盛り上がっていた。
皆が集まると早速店に入る。
ボーリングをしてゲーセンで遊んで昼食を食べてカラオケに行く。
皆で絶唱していた。
死にはしないけど。
水奈は洋楽がやたらと上手い。
英語の点数も悪くない。
水奈の母さんも似たような特質を持っているらしい。
大地はぼそぼそと歌うので何を言ってるのか分からない。
「もっとしゃきっとうたえ」
そう言うと叫ぶように歌う。
ラブソングだった。
そういうのは2人の時に歌ってくれ。
心から愛してるなんて言われたら私でもドキッとするじゃないか。
私以外の誰かに向けて言ってるのならぶっ飛ばす。
遊と粋も歌っていた。
遊と粋はなずなや花を連れて一緒に良くいくらしい。
いつも点数を競っているんだそうだ。
そして採点機能に文句をつける。
なずなや花も歌う。
あらゆるジャンルを歌うらしい。
最近はまっているのはバンドに和楽器を織り込んだグループ。
とても綺麗な曲だった。
1人につき2曲か3曲歌った程度でもあっという間に時間は過ぎる。
時間になると店を出てファミレスに向かう。
周りの客の迷惑にならない程度に盛り上がっていた。
そして夕食が済むとみんな解散する。
家に帰ると風呂に入って部屋に戻る。
ゲームをしながら大地とチャットをしていた。
茜も来月からは中学生。
少々の夜更かしは認めてもらえていた。
勉強で徹夜は良くてもゲームやネットはだめ。
そんな矛盾は片桐家ではなかった。
ちゃんと学校に行って勉強してそれなりの成績を収めていたら文句は言いません。
愛莉はそう言った。
パパにも許可してもらえてた。
あとは自分の責任で行動しなさい。
そうつけ加えられるけど。
誰かに言われたとかじゃなくて自分の意思で行動しなさい。
そして決して誰かのせいにしてはいけません。
小学校を卒業する頃の片桐家の人間はそう言い聞かされる。
今年も純也と茜が言われていた。
冬吾達もいずれはそう言われるのだろう。
私達は自由という宝を得る代償に責任という重荷を背負うことになる。
(3)
卒業式。
6年間世話になった学び舎に別れを告げる。
5年生にみおくられ会場を後にすると教室に戻り先生の最後の挨拶を聞く。
通知表を受け取り終えると教室を出る。
玄関前では皆親と一緒にいた。
未来と言うものに絶望しかなかった俺達が今日新しい舞台へと向かう。
この6年間で得たものは多かった。
仲間、恋人、そして沢山の事を学んできた。
明日さえ見えない僕が10年後の将来を夢見る事を許された。
「皆で記念写真撮ろうよ」
梨々香が言うので茜と俺と梨々香と壱郎が並ぶと愛莉がシャッターを切る。
皆がそろうと5年生が作ったアーチをくぐって校門を出る。
梨々香たちと別れると家に帰る。
家に帰るとランドセルを仕舞う。
処分するか悩んだけど取っておくことにした。
俺が6年間小学校で過ごしてきた唯一の証。
夕食の時にりえちゃんとおじさんに礼を言う。
「今後の事は決めてるのかい?」
おじさんに聞かれた。
「はい、出来れば大学に行きたいです」
「その先も決めてるのかい?」
「おじさんのような警察官になりたい」
俺がそう言うとおじさんは黙ってしまった。
「大変な仕事だよ?」
「わかってます」
「……頑張りなさい」
「はい!」
夢は警察官。
ありきたりだけど、実現するのはものすごく大変な職。
なんせ100倍と言われる競争を勝ち抜かなくてはならないのだから。
俺はただの警察官になりたいんじゃない。
おじさんのような警察官になりたい。
人には乗り越えられない壁はない。
なぜなら神様は乗り越える事が出来る試練しか与えないから。
だから恐れず進もう。
道は必ずあるはずだから。
俺達もまた新しいステージへと上がる。
やがて幕が上がるだろう。
その瞬間からスポットライトは浴びている。
あとは自分次第。
(4)
空港に来ていた。
付き添いにUSE東京支社長の中村さんがいる。
そして見送りに父さんと恋人の多田安斗君が来ていた。
将門も両親と彼女を連れて来ている。
母さんは今日は仕事で地方にいる。
大きな荷物はすでに新しい住居に送ってある。
全てUSEが手配してくれた。
私と将門は地元を離れて東京で一人暮らしを始める。
高校も東京の高校に通うことになる。
私達のグループ・フレーズは飛ぶように売れていた。
だから拠点を東京に移して本格的に活動することになった。
専務の石原恵美さんは私達のような若いタレントのよき理解者。
私が多田君と一緒の高校に通いたいと言えば受け入れてくれただろう。
そういうタレントもいるだろうとUSEレコードの本社を地元に作ったのだから。
だけど多田君の夢もJリーグの選手。
ずっと地元にいるわけじゃない。
ずっと一緒にいられるわけじゃない。
なら少しそれが早まるくらい関係ない。
そんな僅か3年で関係が崩れるのなら私達は所詮その程度に作られていたんだろう。
多田君と相談した末の結果だ。
そう専務に話すと「サッカーだと夏休みや年末年始の休暇だけでは無理があるわね。スケジュール見て調整してあげる」と言ってくれた。
「そろそろ時間だ。行こうか」
中村さんが言うと「じゃあね」と多田君に別れを告げる。
振り向くな、涙をみせるな。
ゴングはすでに鳴っている。
「麻里!頑張れよ!」
多田君が言うと振り向いてしまった。
多田君は左手を上げて振っている。
その意味は私には分かる。
私も左手を振ってこたえた。
たとえ遠く離れていても心はいつでも一緒。
ずっと誓えるから。
私にはあなたしか見えない。
離れ離れになってから知る優しさの意味。
たとえ遠く離れていても2人の心は共にある。
いつでも見守ってください。
会える日を待ってるから。
薬指に嵌めたリングはあなたが慌てて買ってくれたもの。
今では大切なお守り。
写真立ての中の2人は慣れなくて表情が引きつっていた。
初めて撮ったから照れすぎた。
今度は笑顔で撮ろうね。
はるか遠い空の下のあなたの姿を思い浮かべる。
だからどんなつらい事があっても決して涙は見せない。
幾つか月日を重ねて出逢えたら時はきつく抱きしめて欲しい。
離れ離れになってから初めて知る優しさの意味。
その温かい温もりに触れていたかった。
どんなに離れていても2人の心は一緒だからいつも見守っていてね。
会える日を楽しみにしてる。
東京に着くと夕食をご馳走してもらいそして新居につく。
「何かあったらすぐ連絡して。SPもいるから」
羽田に着いた時に紹介してもらい、送迎してもらった人。
本名は明かしていない。
ただコードネームは教えてもらった。
サイレント。
私以外誰もいない。
テレビの音が空しく流れる。
そんな思いを詩に綴ってそしてメールで将門に送った。
五月の連休には作曲が完成してレコーディングに入る。
もちろん多田君は部活で会えなかったけど、それでも1日だけ会えた。
専務はちゃんと約束を守ってくれた。
私の新生活はそうして幕を開けた。
逢えない寂しさを。
出逢える喜びを。
愛し合う大切さを詩に綴っていた。
増渕君はそれを詩に込めた思いをちゃんと受け止めてくれて作曲してくれた。
それは同世代だけでなくて年上の女子大生にも共感を得たという。
きっと大学が離れていて会えない寂しさもあったんだろう。
春は出会いと別れの季節。
振り向けばいつもそこにあなたがいてくれる気がする。
まだ上手に笑えなかったけど、彼と会う時は笑顔でいよう。
大切な時間なのだから。
それは胸の奥にあるただ一つだけの記憶。
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