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(1)
「つまり彼女が欲しいわけ?」
僕はクラスメートの山本浩暉の相談を受けていた。
僕の質問に彼は「うん」とうなずいた。
彼の話を詳しく聞いてみた。
出身中学は僕達と一緒だったそうだ。
それで交際歴0って言うんだからある意味凄い。
真面目に受験勉強をしていたらしい。
高校になってもそれは変わらなかった。
大学受験に備えて勉強をしているそうだ。
でも気付いたら勉強以外に取り柄がない自分に嫌気がさしたらしい。
でもどうしたらいいか自分でも分からない。
だから僕に相談した。
話はわかったけど僕にもどうアドバイスしたらいいか分からないよ。
とりあえずは、彼女候補を探してやる事か。
策者の事だ。上手い事縁を結んでくれるだろう。
と、言っても僕にあてがあるわけじゃない。
この高校にも女性友達くらいはいる。
酒井祈をはじめとする同じ中学の友人達。
だけど彼女達には彼氏がいる。
彼氏のいない女子の友達なんて新規で作ったら大変だ。
天音に殺される。
だから天音に頼るとしよう。
天音が駄目なら水奈でもいい。
桜丘高校は女子で溢れているそうだから一人くらいいるだろ?
「天音、女子を紹介してくれないかな」
メッセージを送る。
「は?お前何言ってるか分かってんの?」
へ?
「彼女に浮気相手を探せって言うのかお前は!」
ちょっと言葉が足りなかったようだ。
「もう私に飽きたのか!?私でも泣くぞ!」
「ご、誤解だよ!?」
その後誤解を解くのに一苦労した。
祈たちの口添えもあってなんとか説明することが出来た。
「で、その山本ってやつの相手を探せばいいんだな?」
「うん、天音で無理なら水奈に頼むけど」
「どっちでも変わらねーよ。ちょっと待ってろ」
何か手立てがあるみたいだ。
その間に山本君をSHに招待する。
それと同時に天音も女子を一人招待していた。
北原黎彩。
とりあえず、週末に会うことになった。
それじゃあ、土曜日でいいかな……。
「ダメだよ!」
「ダメ!」
「ダメだろ?」
竹本花と三沢なずなと酒井祈からダメ出し食らった。
「この時期に学ランの下にカッターシャツ着てくる高校生だぞ!一度チェックしておく必要があるよ」
花が言う。
校則だとそうなってるから正しいと思うんだけど。
まあ、この時期だと皆トレーナーとか着るよね。あとはパーカーとか。
「だから土曜日はチェックと準備に一日費やす!勝負は日曜日よ!」
なずなが言うのでそう手配する。
「山本君、小遣いはあるよね」
「それは大丈夫。滅多に使わないから」
「ちなみに普段着どうしてるの?」
花が聞いていた。
親が適当に買ってくるらしい。
「ほら、絶対やっぱりチェックしてよかったじゃない」
なずなが言ってる。
「で、山本は予算どれくらい準備出来るんだ?」
結構な額をもってるそうだ。
それなら靴まで買えるだろう?
高校生だ。ただブランド物で固めたらいいって物でもない。
「じゃあ、土曜日の10時にショッピングモールに集合ね」
なずなが言うと皆うなずいた。
ちなみに桐谷遊と栗林粋も強制参加らしい。
「粋もお金すぐにゲームに使っちゃうから偶にはいいでしょ!」
花が言う。
そして土曜日になると皆集まった。
今日は天音は来ていなかった。
天音の方も色々準備するんだという。
山本君がやって来た。
「……あんたそれで明日行くつもりだったの?」
なずなが呆れた口調で山本君を指差した。
全身真っ黒。それが第一印象だった。
そしてだぼだぼのズボンに汚れた靴。
黒いナイロン系のダウンジャケットの下からタートルネックが顎の部分まで立っている。
そして多分山本君が身に着けている中で一番高かったスニーカーもダメ出しされた。
昔は大人気だったんだけど今じゃただのヲタなアイテムなんだそうだ。
そういえば僕も天音に「今度靴選びに行こうか?」と言われていた。
「どうせプライベートで履くだけだからいいよ」
「お前は彼女に恥かかせる気か!?ふざけんな!」
後は無駄に財布につけてる鎖とか。も駄目だしされていた。
頭から足まで余すところなくダメ出しをされていた。
すっかり意気消沈する山本君。
「だからこれからばっちり決めてやるんだ。大船に乗ったつもりでいろ」
祈が言うと僕達は服を選びに行った。
そんなに高いものは買わなかった。
チェスターコートが多少割高だったくらいか。
この際だからと粋と遊の分も買わされていた。
しかし、事件は会計をするときに起こった。
山本君が財布と取り出すと女子達は目を疑っていた。
山本君の財布はマジックテープ式だった。
「支払いは任せろー」バリバリって言えばわかりやすいだろうか?
「お前は小学生か!?」
女子から総ツッコミが入る。
そのまま財布を買いに行った。
長財布がポケットからはみ出してるのはみっともないという意見もあり二つ折りの財布にした。
「これで全部かな?」
女子は納得したようだ。
その後昼食を食べながら「見栄張って女子の分奢るとかしなくていい」とか「基本的な流れは大地と天音に任せて少しでも相手とのコミュニケーションを努力しろ」とかアドバイスをしてた。
山本君はそれを真剣に聞いていた。
昼食を食べると僕達は家に帰る。
そして日曜日。
僕達はSAPに集まった。
天音に山本君を紹介する。
天音も連れて来た女子を紹介する。
北原黎彩。
派手でも地味でもなく普通の女子高生。
いつも通りボウリング、ゲーセン、カラオケと遊んでいく。
天音は目的を忘れたのか、カラオケでひたすら食ってる。
案の定山本君は緊張している。
まずは何か話題を作らないと。
「山本君はどんな歌手が好きなの?」
「俺は、あまり音楽に興味なくて……ラジオで流れてる曲を聞きながら勉強してるくらいで」
その言葉に北原さんは食いついてきた。
「ラジオはどんなの聞くの?」
「FMが多いですね。あとは深夜のAMラジオを聞くくらいで」
「あ!それ、私も聞いてる!木曜日が面白いよね!?」
共通の話題があったようだ。
その後も趣味とか色々引き出そうとしたが何せ勉強一筋で生きて来た人間。
なかなか盛り上がる話題が見つからない。
天音は全く構うことなく一人で歌って食ってる。
「すいません、やっぱり自分なんかじゃダメですよね」
その一言は絶対ダメだと思うよ。
「つまんねー奴だなお前」
天音は何しに来たの?
だけどそんな山本君を見て北原さんは笑う。
「本当に真面目な人なんですね。でも心配しなくていいんですよ」
高校生デビューでもいいじゃないですか。
高校生になって少しだけ大人の仲間入りをして遊ぶ範囲も広がって。
これまで勉強に明け暮れていたのをもっと視野を持ちたいと思う事が悪い事だとは思いません。
私がそんな山本君のお役に立てるのなら、私は喜んで引き受けます。
北原さんは笑顔でそう答えた。
「まず私は何をすればいいですか?」
北原さんが聞いていた。
「俺とつ、付き合ってください」
「二つだけ条件をつけてもいいですか?」
「条件?」
「まず一つは私を好きになって下さい。もう一つは私以外の誰かを好きになったりしないで下さい」
「も、もちろん!」
「じゃあ、とりあえず連絡先交換しよう?」
そう言って山本君と北原さんは連絡先を交換する。
とりあえずは上手く言ったようだ。
カラオケを終えるとファミレスで夕食をする。
2人は上手く会話が出来ていたようだ。
北原さんが上手く話題を引き出している。
山本君は勉強をしてきただけあって、流行りの物とかは知らないものの時事関係の事とかは詳しいみたいだ。
優しく丁寧に解説していた。
夕食を終えると僕達は家に帰る。
天音に聞いてみた。
「ひょっとして最初から天音の思惑通りだった?」
「そりゃ、私だって選ぶよ。黎彩も写真見た時から興味あったみたいだしな」
「なるほどね」
「しかしまあ、次から次へと来るよな。私達もパパ達と同じなんだろうか?」
父さん達のグループも次から次へとカップルを成立させたらしい。
天音と別れると家にかえる。
「今日は上手く言ったかい?」
父さんが聞いてくる。
父さんと話をしていた。
(2)
慌てていたのだろう。
この時期だ。水たまりが凍結していたんだろう。
そして彼女は派手に転んだ。
皆が注目する。
本人は平然として立ち上がっていた。
「あ、李子じゃん!?大丈夫?」
采咲の知り合いらしい。
前沢李子というそうだ。
「ああ、采咲。大丈夫。このくらいなんともない」
「何をそんなに急いでいたの?」
「采咲は聞いてないの?」
李子達の彼氏と放課後会う事になってるらしい。
采咲の彼氏・山沢哲人も今鶴高校のバスケ部なんだそうだ。
今鶴高校はバスケの強豪校。
私立高校と張り合ってインターハイに出場している公立高校。
そんな強豪校の中で山沢と李子の彼氏の都賀克斗はレギュラーになれたらしい。
そのお祝いと自分の彼女を紹介したいからと駅ビルで待ち合わせしてるんだそうだ。
「あ、本当だ」
采咲がスマホで確認している。
「面白そうだから私達も行こうよ」
美穂が言う。
采咲の彼氏か。どんな奴なんだろうな。
私達も許可をもらって同行することにした。
駅の改札前に行くと男子が何人か集まっていた。
「お待たせ」
李子が声をかける。
あの集団がそうらしい。
「おせーぞ!」
偉そうな態度をしているのが李子の彼氏だそうだ。
背が高い。流石バスケの選手と言ったところか。
一方采咲の彼氏の山沢哲人は本当に同い年かと思うような風格の持ち主だった。
坊主頭にして無精ひげを生やしている。
来てるのは全部で6人。
うち3人か桜丘高校に彼女がいるんだそうだ。
そして彼女がいないのが2人。
霧山高人なんかはすごいイケメンなのにどうして彼女がいないのかは喋っていてすぐにわかった。
物凄く口が悪い。
態度もでかい。
これじゃいくらカッコよくても願い下げだ。
フードコートで話をしていた。
そして1時間くらいして私達は解散した。
李子も采咲も由衣も春海もそれぞれの彼氏と上に上がっていった。
残りの2人はさっさと帰ってしまった。
あまり感じのいい奴じゃなかった。
「今度練習試合あるから見においでよ」
屋代由衣の彼氏北條克斗が言うので見に行った。
一方的な公開処刑だった。
相手は福岡の私立の強豪校。
弱い相手ではない。
口の悪い二人も口先だけの男じゃなかった。
霧山高人はディフェンスに徹底して相手のエースを押さえ込む。
槻山彪斗は控えだったけど出番はあった。
戦術の確認の為みたいだ。
彪斗も口だけではなかった。
精度の高い3Pを打って徹底的に点差を突き放す。
今鶴高校の圧勝だった。
練習試合の後体育館の外で待っていると男バスの連中が出てくる。
「観に来てくれたんだね。ありがとう」
そう言うのは北條克斗。
「どうせダンクや3Pみたいな派手なプレイにはしゃいでただけだろうが」
「そういうな、都賀。お前も3P覚えたらいいではないか。ダンクは出来るんだし」
「黙れ山沢。俺はレイアップにこだわり持ってるんだよ!」
「切れたらすぐダンクする癖に」
「霧山!お前だってディフェンス以外何もしてねーじゃねーか!?」
醜い言い争いを始める男子達。
でもここで褒めたら李子に誤解されるかもと思ったから言わなかったけど、都賀のレイアップは見事だった。
ゴール下に切り込んだら確実に決めてくるのは水島と一緒だけど地味なプレイだけど魅力的だった。
しばらく話をして帰る私達。
帰りに私の事を神田春海が紹介した。
私のパパが片桐冬夜だと知ると皆が騒ぎ出す。
「けっ、あんな適当なプレイしてるチビなんてすぐやめて正解だったんだよ」
そう言いながらも興奮を隠せない都賀だった。
家に帰ると夕食の時にバスケの話をした。
「じゃあ、来年度のインターハイが楽しみだね」
パパがそう言う。
まあ、私の高校じゃないから関係ないんだけど。
そしてここからはいつものパパになる。
「あの近くにお弁当屋さんがあってね。ご飯を凄く大盛りにしてくれるんだ」
「そのお弁当屋なら家の近くにも出来てるよ」
翼が言う。
「そうなんだ。一度ヨタ盛りってのを食べてみたいんだよね」
「私も食べてみたい」
「翼は女の子なんだから少し控えなさい!」
愛莉が怒る。
だけど翼は動じない。
「周りにどう思われたっていいもん。善明がいるから」
「善明だって太ってる翼を見たら幻滅しますよ!」
「平気だよ、前に言ったじゃん”美味しそうに食べてる翼が可愛い”って言ってたって」
「冬夜さんも何か言ってください」
「翼が残しても善明が食べてくれるよ」
「そう言う問題じゃありません!」
パパに頼るのが間違ってると思うぞ愛莉。
(3)
初めから、私は疎まれていたんだろう。
昼休みに同じグループにいた子と些細な事で口論になった。
グループ全員が敵に回った。
そして私はグループを追い出されて1人で弁当を食べようとすると誰かが私の肩を叩いた。
片桐天音。
クラスで彼女に逆らう者はいない。
やりたい放題の問題にならないのが不思議に思う女子。
「一人で食ってたってつまんねーだろ?こっち来いよ」
そうして私を自分のグループの所に呼ぶ。
この教室がどういう風になっているのか不思議なのだけどそのグループに加わった。
グループの名前はセイクリッドハート。
市内では敵なしのグループ。
私に度胸試しでもさせるつもりか?
「で、何やったんだお前?」
天音が聞いてきた。
やり取り自体は観てなかったらしい。
ただ私がグループからハブられるのを見て誘っただけ。
私は説明した。
「昨日さ~また告られちゃった」
グループの一人がそう言ったのがきっかけだった。
そう言うと次々と告られ自慢が始まる。
それを鬱陶しく思った私は言った。
「そんなに告られるのにどうして彼氏いないの?」
するとその一人が激怒した。
「ちょっと!自分に彼氏がいるからって調子にのってるんじゃない?」
別に自慢した覚えがない。
「その彼氏ってのも怪しくない。高校が違うってのも嘘だったりして」
「うわ、それ最悪だわ。そう言えば写真も見せてくれないよね。写真くらい撮ってるはずなのに」
見せたら見せたで彼氏自慢うざいって言うんでしょ?
「100歩譲っていたとしてもすごいキモオタだったりして」
「やだ、そんな奴と尽きたいたくないわ。そこまで堕ちたくはないね」
私の彼は真面目で面白みにかけるけど、優しい所だってある。
そこまでコケ下ろされる筋合いはない。
「私がどこまで堕ちてるか知らないけど、山賊の手柄自慢みたいな真似してるあなた達よりはましだと思うけど」
それが決定打となった。
散々罵倒されてグループから追い出された。
できるだけグループの皆の前では彼にメッセージをしないように気を使っていたけど、偶になるバイブ音すら勘に触ったらしい。
そんな私の話を天音達はじっと聞いてた。
「要するに”お前彼氏いて偉そうだから出ていけ”って事か?」
渡辺紗理奈が言う。
「まあ、そうなるかな」
私がそう言うと皆爆笑しだした。
天音はジュースを吹いていた。
「天音汚ねーぞ」
「いや、悪い悪い。そうか!このクラスでまだ彼氏もいない女がいたのか。マジ笑えるわ」
「情けないを通り越して憐れだね。天音、男紹介してやれよ」
「あ、無理。そんな根性のねじ曲がった不細工紹介される男が可哀そうだ」
天音達は大声で喋っている。
当然私が元いたグループの連中も聞いていた。
「ちょっと!誰が不細工だって!」
「化粧すらしてない色気の無い女に言われたくない!」
連中は激怒していた。
「ああ、学校にわざわざ化粧してくる意味分かんねーからしてないだけ。保湿くらいはしてるけど、お前らみたいに化粧で心の醜さを隠さなきゃならない連中には理解できないか」
「私、他の男にどう思われても彼氏に”綺麗だよ”って言ってもらえるだけで十分だから~」
美穂も煽っている。
「喧嘩売ってるの?」
「ああ、偶には喧嘩売るのもいいかもしれねーな。化粧しても取り返しがつかないくらい酷い面にしてやろうか?」
天音が言うと、連中は黙って席に着いた。
「その気がないなら粉かけて来るんじゃねーよ」
紗理奈がそう言ってこの場は収まった。
その時、スマホのバイブが鳴る。
私は無視していた。
すると天音が言う。
「メッセージ見てやれよ。貴重な時間割いてるんだろ?昼休みくらい自由にやれよ」
私はスマホを見る。
「取り込み中だったらごめん。昼休みだから大丈夫かなと思って。今何してる?」
私は返信した。
「素敵な友達に巡り合えました」
「つまり彼女が欲しいわけ?」
僕はクラスメートの山本浩暉の相談を受けていた。
僕の質問に彼は「うん」とうなずいた。
彼の話を詳しく聞いてみた。
出身中学は僕達と一緒だったそうだ。
それで交際歴0って言うんだからある意味凄い。
真面目に受験勉強をしていたらしい。
高校になってもそれは変わらなかった。
大学受験に備えて勉強をしているそうだ。
でも気付いたら勉強以外に取り柄がない自分に嫌気がさしたらしい。
でもどうしたらいいか自分でも分からない。
だから僕に相談した。
話はわかったけど僕にもどうアドバイスしたらいいか分からないよ。
とりあえずは、彼女候補を探してやる事か。
策者の事だ。上手い事縁を結んでくれるだろう。
と、言っても僕にあてがあるわけじゃない。
この高校にも女性友達くらいはいる。
酒井祈をはじめとする同じ中学の友人達。
だけど彼女達には彼氏がいる。
彼氏のいない女子の友達なんて新規で作ったら大変だ。
天音に殺される。
だから天音に頼るとしよう。
天音が駄目なら水奈でもいい。
桜丘高校は女子で溢れているそうだから一人くらいいるだろ?
「天音、女子を紹介してくれないかな」
メッセージを送る。
「は?お前何言ってるか分かってんの?」
へ?
「彼女に浮気相手を探せって言うのかお前は!」
ちょっと言葉が足りなかったようだ。
「もう私に飽きたのか!?私でも泣くぞ!」
「ご、誤解だよ!?」
その後誤解を解くのに一苦労した。
祈たちの口添えもあってなんとか説明することが出来た。
「で、その山本ってやつの相手を探せばいいんだな?」
「うん、天音で無理なら水奈に頼むけど」
「どっちでも変わらねーよ。ちょっと待ってろ」
何か手立てがあるみたいだ。
その間に山本君をSHに招待する。
それと同時に天音も女子を一人招待していた。
北原黎彩。
とりあえず、週末に会うことになった。
それじゃあ、土曜日でいいかな……。
「ダメだよ!」
「ダメ!」
「ダメだろ?」
竹本花と三沢なずなと酒井祈からダメ出し食らった。
「この時期に学ランの下にカッターシャツ着てくる高校生だぞ!一度チェックしておく必要があるよ」
花が言う。
校則だとそうなってるから正しいと思うんだけど。
まあ、この時期だと皆トレーナーとか着るよね。あとはパーカーとか。
「だから土曜日はチェックと準備に一日費やす!勝負は日曜日よ!」
なずなが言うのでそう手配する。
「山本君、小遣いはあるよね」
「それは大丈夫。滅多に使わないから」
「ちなみに普段着どうしてるの?」
花が聞いていた。
親が適当に買ってくるらしい。
「ほら、絶対やっぱりチェックしてよかったじゃない」
なずなが言ってる。
「で、山本は予算どれくらい準備出来るんだ?」
結構な額をもってるそうだ。
それなら靴まで買えるだろう?
高校生だ。ただブランド物で固めたらいいって物でもない。
「じゃあ、土曜日の10時にショッピングモールに集合ね」
なずなが言うと皆うなずいた。
ちなみに桐谷遊と栗林粋も強制参加らしい。
「粋もお金すぐにゲームに使っちゃうから偶にはいいでしょ!」
花が言う。
そして土曜日になると皆集まった。
今日は天音は来ていなかった。
天音の方も色々準備するんだという。
山本君がやって来た。
「……あんたそれで明日行くつもりだったの?」
なずなが呆れた口調で山本君を指差した。
全身真っ黒。それが第一印象だった。
そしてだぼだぼのズボンに汚れた靴。
黒いナイロン系のダウンジャケットの下からタートルネックが顎の部分まで立っている。
そして多分山本君が身に着けている中で一番高かったスニーカーもダメ出しされた。
昔は大人気だったんだけど今じゃただのヲタなアイテムなんだそうだ。
そういえば僕も天音に「今度靴選びに行こうか?」と言われていた。
「どうせプライベートで履くだけだからいいよ」
「お前は彼女に恥かかせる気か!?ふざけんな!」
後は無駄に財布につけてる鎖とか。も駄目だしされていた。
頭から足まで余すところなくダメ出しをされていた。
すっかり意気消沈する山本君。
「だからこれからばっちり決めてやるんだ。大船に乗ったつもりでいろ」
祈が言うと僕達は服を選びに行った。
そんなに高いものは買わなかった。
チェスターコートが多少割高だったくらいか。
この際だからと粋と遊の分も買わされていた。
しかし、事件は会計をするときに起こった。
山本君が財布と取り出すと女子達は目を疑っていた。
山本君の財布はマジックテープ式だった。
「支払いは任せろー」バリバリって言えばわかりやすいだろうか?
「お前は小学生か!?」
女子から総ツッコミが入る。
そのまま財布を買いに行った。
長財布がポケットからはみ出してるのはみっともないという意見もあり二つ折りの財布にした。
「これで全部かな?」
女子は納得したようだ。
その後昼食を食べながら「見栄張って女子の分奢るとかしなくていい」とか「基本的な流れは大地と天音に任せて少しでも相手とのコミュニケーションを努力しろ」とかアドバイスをしてた。
山本君はそれを真剣に聞いていた。
昼食を食べると僕達は家に帰る。
そして日曜日。
僕達はSAPに集まった。
天音に山本君を紹介する。
天音も連れて来た女子を紹介する。
北原黎彩。
派手でも地味でもなく普通の女子高生。
いつも通りボウリング、ゲーセン、カラオケと遊んでいく。
天音は目的を忘れたのか、カラオケでひたすら食ってる。
案の定山本君は緊張している。
まずは何か話題を作らないと。
「山本君はどんな歌手が好きなの?」
「俺は、あまり音楽に興味なくて……ラジオで流れてる曲を聞きながら勉強してるくらいで」
その言葉に北原さんは食いついてきた。
「ラジオはどんなの聞くの?」
「FMが多いですね。あとは深夜のAMラジオを聞くくらいで」
「あ!それ、私も聞いてる!木曜日が面白いよね!?」
共通の話題があったようだ。
その後も趣味とか色々引き出そうとしたが何せ勉強一筋で生きて来た人間。
なかなか盛り上がる話題が見つからない。
天音は全く構うことなく一人で歌って食ってる。
「すいません、やっぱり自分なんかじゃダメですよね」
その一言は絶対ダメだと思うよ。
「つまんねー奴だなお前」
天音は何しに来たの?
だけどそんな山本君を見て北原さんは笑う。
「本当に真面目な人なんですね。でも心配しなくていいんですよ」
高校生デビューでもいいじゃないですか。
高校生になって少しだけ大人の仲間入りをして遊ぶ範囲も広がって。
これまで勉強に明け暮れていたのをもっと視野を持ちたいと思う事が悪い事だとは思いません。
私がそんな山本君のお役に立てるのなら、私は喜んで引き受けます。
北原さんは笑顔でそう答えた。
「まず私は何をすればいいですか?」
北原さんが聞いていた。
「俺とつ、付き合ってください」
「二つだけ条件をつけてもいいですか?」
「条件?」
「まず一つは私を好きになって下さい。もう一つは私以外の誰かを好きになったりしないで下さい」
「も、もちろん!」
「じゃあ、とりあえず連絡先交換しよう?」
そう言って山本君と北原さんは連絡先を交換する。
とりあえずは上手く言ったようだ。
カラオケを終えるとファミレスで夕食をする。
2人は上手く会話が出来ていたようだ。
北原さんが上手く話題を引き出している。
山本君は勉強をしてきただけあって、流行りの物とかは知らないものの時事関係の事とかは詳しいみたいだ。
優しく丁寧に解説していた。
夕食を終えると僕達は家に帰る。
天音に聞いてみた。
「ひょっとして最初から天音の思惑通りだった?」
「そりゃ、私だって選ぶよ。黎彩も写真見た時から興味あったみたいだしな」
「なるほどね」
「しかしまあ、次から次へと来るよな。私達もパパ達と同じなんだろうか?」
父さん達のグループも次から次へとカップルを成立させたらしい。
天音と別れると家にかえる。
「今日は上手く言ったかい?」
父さんが聞いてくる。
父さんと話をしていた。
(2)
慌てていたのだろう。
この時期だ。水たまりが凍結していたんだろう。
そして彼女は派手に転んだ。
皆が注目する。
本人は平然として立ち上がっていた。
「あ、李子じゃん!?大丈夫?」
采咲の知り合いらしい。
前沢李子というそうだ。
「ああ、采咲。大丈夫。このくらいなんともない」
「何をそんなに急いでいたの?」
「采咲は聞いてないの?」
李子達の彼氏と放課後会う事になってるらしい。
采咲の彼氏・山沢哲人も今鶴高校のバスケ部なんだそうだ。
今鶴高校はバスケの強豪校。
私立高校と張り合ってインターハイに出場している公立高校。
そんな強豪校の中で山沢と李子の彼氏の都賀克斗はレギュラーになれたらしい。
そのお祝いと自分の彼女を紹介したいからと駅ビルで待ち合わせしてるんだそうだ。
「あ、本当だ」
采咲がスマホで確認している。
「面白そうだから私達も行こうよ」
美穂が言う。
采咲の彼氏か。どんな奴なんだろうな。
私達も許可をもらって同行することにした。
駅の改札前に行くと男子が何人か集まっていた。
「お待たせ」
李子が声をかける。
あの集団がそうらしい。
「おせーぞ!」
偉そうな態度をしているのが李子の彼氏だそうだ。
背が高い。流石バスケの選手と言ったところか。
一方采咲の彼氏の山沢哲人は本当に同い年かと思うような風格の持ち主だった。
坊主頭にして無精ひげを生やしている。
来てるのは全部で6人。
うち3人か桜丘高校に彼女がいるんだそうだ。
そして彼女がいないのが2人。
霧山高人なんかはすごいイケメンなのにどうして彼女がいないのかは喋っていてすぐにわかった。
物凄く口が悪い。
態度もでかい。
これじゃいくらカッコよくても願い下げだ。
フードコートで話をしていた。
そして1時間くらいして私達は解散した。
李子も采咲も由衣も春海もそれぞれの彼氏と上に上がっていった。
残りの2人はさっさと帰ってしまった。
あまり感じのいい奴じゃなかった。
「今度練習試合あるから見においでよ」
屋代由衣の彼氏北條克斗が言うので見に行った。
一方的な公開処刑だった。
相手は福岡の私立の強豪校。
弱い相手ではない。
口の悪い二人も口先だけの男じゃなかった。
霧山高人はディフェンスに徹底して相手のエースを押さえ込む。
槻山彪斗は控えだったけど出番はあった。
戦術の確認の為みたいだ。
彪斗も口だけではなかった。
精度の高い3Pを打って徹底的に点差を突き放す。
今鶴高校の圧勝だった。
練習試合の後体育館の外で待っていると男バスの連中が出てくる。
「観に来てくれたんだね。ありがとう」
そう言うのは北條克斗。
「どうせダンクや3Pみたいな派手なプレイにはしゃいでただけだろうが」
「そういうな、都賀。お前も3P覚えたらいいではないか。ダンクは出来るんだし」
「黙れ山沢。俺はレイアップにこだわり持ってるんだよ!」
「切れたらすぐダンクする癖に」
「霧山!お前だってディフェンス以外何もしてねーじゃねーか!?」
醜い言い争いを始める男子達。
でもここで褒めたら李子に誤解されるかもと思ったから言わなかったけど、都賀のレイアップは見事だった。
ゴール下に切り込んだら確実に決めてくるのは水島と一緒だけど地味なプレイだけど魅力的だった。
しばらく話をして帰る私達。
帰りに私の事を神田春海が紹介した。
私のパパが片桐冬夜だと知ると皆が騒ぎ出す。
「けっ、あんな適当なプレイしてるチビなんてすぐやめて正解だったんだよ」
そう言いながらも興奮を隠せない都賀だった。
家に帰ると夕食の時にバスケの話をした。
「じゃあ、来年度のインターハイが楽しみだね」
パパがそう言う。
まあ、私の高校じゃないから関係ないんだけど。
そしてここからはいつものパパになる。
「あの近くにお弁当屋さんがあってね。ご飯を凄く大盛りにしてくれるんだ」
「そのお弁当屋なら家の近くにも出来てるよ」
翼が言う。
「そうなんだ。一度ヨタ盛りってのを食べてみたいんだよね」
「私も食べてみたい」
「翼は女の子なんだから少し控えなさい!」
愛莉が怒る。
だけど翼は動じない。
「周りにどう思われたっていいもん。善明がいるから」
「善明だって太ってる翼を見たら幻滅しますよ!」
「平気だよ、前に言ったじゃん”美味しそうに食べてる翼が可愛い”って言ってたって」
「冬夜さんも何か言ってください」
「翼が残しても善明が食べてくれるよ」
「そう言う問題じゃありません!」
パパに頼るのが間違ってると思うぞ愛莉。
(3)
初めから、私は疎まれていたんだろう。
昼休みに同じグループにいた子と些細な事で口論になった。
グループ全員が敵に回った。
そして私はグループを追い出されて1人で弁当を食べようとすると誰かが私の肩を叩いた。
片桐天音。
クラスで彼女に逆らう者はいない。
やりたい放題の問題にならないのが不思議に思う女子。
「一人で食ってたってつまんねーだろ?こっち来いよ」
そうして私を自分のグループの所に呼ぶ。
この教室がどういう風になっているのか不思議なのだけどそのグループに加わった。
グループの名前はセイクリッドハート。
市内では敵なしのグループ。
私に度胸試しでもさせるつもりか?
「で、何やったんだお前?」
天音が聞いてきた。
やり取り自体は観てなかったらしい。
ただ私がグループからハブられるのを見て誘っただけ。
私は説明した。
「昨日さ~また告られちゃった」
グループの一人がそう言ったのがきっかけだった。
そう言うと次々と告られ自慢が始まる。
それを鬱陶しく思った私は言った。
「そんなに告られるのにどうして彼氏いないの?」
するとその一人が激怒した。
「ちょっと!自分に彼氏がいるからって調子にのってるんじゃない?」
別に自慢した覚えがない。
「その彼氏ってのも怪しくない。高校が違うってのも嘘だったりして」
「うわ、それ最悪だわ。そう言えば写真も見せてくれないよね。写真くらい撮ってるはずなのに」
見せたら見せたで彼氏自慢うざいって言うんでしょ?
「100歩譲っていたとしてもすごいキモオタだったりして」
「やだ、そんな奴と尽きたいたくないわ。そこまで堕ちたくはないね」
私の彼は真面目で面白みにかけるけど、優しい所だってある。
そこまでコケ下ろされる筋合いはない。
「私がどこまで堕ちてるか知らないけど、山賊の手柄自慢みたいな真似してるあなた達よりはましだと思うけど」
それが決定打となった。
散々罵倒されてグループから追い出された。
できるだけグループの皆の前では彼にメッセージをしないように気を使っていたけど、偶になるバイブ音すら勘に触ったらしい。
そんな私の話を天音達はじっと聞いてた。
「要するに”お前彼氏いて偉そうだから出ていけ”って事か?」
渡辺紗理奈が言う。
「まあ、そうなるかな」
私がそう言うと皆爆笑しだした。
天音はジュースを吹いていた。
「天音汚ねーぞ」
「いや、悪い悪い。そうか!このクラスでまだ彼氏もいない女がいたのか。マジ笑えるわ」
「情けないを通り越して憐れだね。天音、男紹介してやれよ」
「あ、無理。そんな根性のねじ曲がった不細工紹介される男が可哀そうだ」
天音達は大声で喋っている。
当然私が元いたグループの連中も聞いていた。
「ちょっと!誰が不細工だって!」
「化粧すらしてない色気の無い女に言われたくない!」
連中は激怒していた。
「ああ、学校にわざわざ化粧してくる意味分かんねーからしてないだけ。保湿くらいはしてるけど、お前らみたいに化粧で心の醜さを隠さなきゃならない連中には理解できないか」
「私、他の男にどう思われても彼氏に”綺麗だよ”って言ってもらえるだけで十分だから~」
美穂も煽っている。
「喧嘩売ってるの?」
「ああ、偶には喧嘩売るのもいいかもしれねーな。化粧しても取り返しがつかないくらい酷い面にしてやろうか?」
天音が言うと、連中は黙って席に着いた。
「その気がないなら粉かけて来るんじゃねーよ」
紗理奈がそう言ってこの場は収まった。
その時、スマホのバイブが鳴る。
私は無視していた。
すると天音が言う。
「メッセージ見てやれよ。貴重な時間割いてるんだろ?昼休みくらい自由にやれよ」
私はスマホを見る。
「取り込み中だったらごめん。昼休みだから大丈夫かなと思って。今何してる?」
私は返信した。
「素敵な友達に巡り合えました」
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