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その向こう側
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(1)
薄明りの部屋の中俺と水奈はベッドの中で裸で抱きあってた。
終わった後なのでさっさと寝たいのだけどそれがNGだって事くらい承知している。
水奈も俺に抱き着いて余韻に浸っている。
しかし無言のままでいるのは気まずい。
タバコを一服するという行為が許される歳ではないし興味もなかった。
「水奈、ちょっとジュースを取ってきてもいいか?」
「あ、ごめん。邪魔だったか?」
「そんなことはない。ただ喉が渇いただけだ」
そう言ってベッドから出るとコンビニで買っておいたジュースを取る。
水奈にも渡す。
服は着ずに裸のままベッドに入る。
水奈の事だ。
もう一回って言いだしかねない。
俺も別に水奈とそういう行為をするのが嫌なわけじゃない。
好きな女性とそういう行為に至るのはごく自然な事だ。
ましてや俺と水奈は他の皆と同じようにいつも一緒に居られるわけじゃない。
若いんだしそういう盛りがついて当然だろう。
まあ、難しい理屈を並べてもしょうがない。
俺が男で水奈が女。
ただそれだけだ。
ジュースを一口飲むと水奈を抱いてやる。
水奈は嬉しそうにくっついてくる。
「高校生活は楽しいか?」
「いつも聞いてないか、その質問」
「そうだな、でも偶には水奈の話聞いてみたいんだ」
「いつも話してるじゃないか」
「それは天音の友達の話だろ?水奈のクラスにはいないのか?友達」
「そうだな、まったくいないわけじゃないんだけど……あ!」
水奈は何か思い出したようだ。
「どうした?」
「いい話を思い出した。3学期始まってすぐくらいの頃だったかな」
水奈は話を始めた。
その日も水奈は天音達とバスに乗り込んだらしい。
水奈達がバスに乗るともう満席になる。
それでも一応気を使う。
今時地元でバスを利用するのは学生かお年寄り。
社会人は皆車を持って言て当然の社会になっている。
だからお年寄りが乗ってきたら席を譲る。
当たり前のルールだった。
都会のバスのように通路が広いわけでもなく吊革が沢山あるわけじゃない。
そこそこ余裕がある状態でも吊革を持てないことがある。
それに吊革を持つよりバーを持っていた方が安定する。
路線に急カーブがあるわけじゃないんだが交差点がやたらと多い。
バスが狭い交差点を周る際には一度反対側にハンドルを切って内輪差の幅を取る。
すると当然車内は大きく揺れる。
その時に事件が起こった。
1人の女子生徒が派手に転んだ。
中には無謀な奴がいる。
何にも捕まらずにバランスを取ればうまくいくと思ってる奴がいる。
そして失敗した。
皆で笑う中その女子は起き上がった。
水奈はその子を知っていた。
「あ、お前確か律子」
「水奈?」
同じクラスの子らしい。
住所でクラス編成してるんじゃないかと思うような状態なんだそうだ。
「怪我無いか?ちゃんと捕まってないと駄目だろ」
「ちょっとミスしただけよ。どうってことない」
「今は空いてるからいいけど混んでる時だとほかの人にぶつかって迷惑になるからやめとけ」
「水奈に言われる筋合いはない」
「水奈、そいつ誰?」
天音が聞いた。
「ああ、同じクラスの高山律子」
「へえ~」
天音は律子をしばらく見ていた。
「決めた。お前も私達の仲間だ!」
天音は誰でも仲間に入れたがる性質らしい。
「冗談じゃない!水奈達のグループの噂くらい私だって聞いてる」
恐喝、パシリ、飲酒に喫煙、シンナーやドラッグもやってる。
グループから抜けようとすれば厳しい制裁が待っている。
その勢力は県内を網羅して逃げ場所は何処にもない。
暴走族やギャングも配下に置く警察からも目をつけられている集団。
桜丘高校最恐のグループ。
グラウンドには葬った人間の死体が埋められている。
黒いリストバンドをした集団と間違えてるんじゃないか?それ。
「よく知ってるんだな。だがちょっと違うな」
天音が指摘した。
「正確には”そんなバカも手が出せないグループ”だ」
「よ、余計達が悪いじゃない!」
「でもお前は運が悪い。今このバスに乗っている桜丘高生はみんな仲間だ」
天音はそう言って笑う。
律子が周りを見ると皆桜丘高生だった。
観念した律子はスマホを出してSHに入る。
だが天音はいたずら心を見せたらしい。
「入ったからにはノルマを課すからな」
「ノルマ!?」
律子は驚いていた。
「ねずみ講って知ってるか?」
1人に付き2人以上のノルマを課す無限連鎖講と呼ばれる行為。
配当を上位の人間に与えるという違法行為。
もちろん配当なんてものは要らない。
単純に3人連れてこいというノルマを天音は律子に課した。
「初めてだから律子も難しいだろうから水奈も手伝ってやれ。クラスメートなんだろ?」
3人という数字を聞いて水奈もピンと来たらしい。
水奈はそれを引き受けた。
バス停で降りて駅をくぐりながら学校へ向かう。
教室に入ると水奈は言った。
「律子彼氏いるだろ?」
「そ、それがどうかしたの?」
「その彼氏って防府じゃね?」
「何で知ってるのよ?」
「まあ、そういう奴この学校多いからさ」
そいつを入れたらまず1人確保だという。
律子は彼氏の工藤頼人に連絡をする。
頼人はすぐに入ったそうだ。
「残りの2人はどうするの?」
「今日中に片付くよ」
席に戻るように指示をした。
律子が自分の席に戻ると水奈は律子を観察していた。
友達が1人いるらしい。
それをみて水奈はにやりと笑う。
終業式が終るとHRをして帰る。
「由香!ちょっと話があるんだけど」
斎藤由香というらしい。
由香は立ち止まって水奈を見る。
「何か用?」
「由香は律子と友達なんだろ?」
「そうだけど、それが何か関係あるの?」
「律子、説明してやれ」
「由香を巻き込むつもり!?」
律子が聞くと水奈は頷いた。
律子は由香に事情を説明する。
「それって完全に違法行為なんだけど」
由香が言う。
「いいんだぜ?由香が入らないなら律子が酷い目にあうだけだ」
「……わかったわ。でも私には律子の他に友達なんていないよ?」
どこかのグループに属してるわけでもないと由香は言う。
だけど水奈はちゃんと天音の言葉の意味を理解していた。
「断言してもいいけど由香も彼氏いるだろ?防府高校に」
「康陽まで巻き込めというの!?」
加沢康陽。
防府高校1年生。
水奈は朝律子と由香が接触した時からメッセージを通して大地に確認してあった。
「多分大丈夫だから。招待しろよ。それで律子のノルマは終わりだ」
由香はメッセージを送って相談して康陽を招待する。
「この後私達はどうすればいいわけ?」
「とりあえず帰ろうぜ」
水奈はそう言って校門の前で待っている皆の下に向かう。
「天音、ノルマ終わり。こいつ、斎藤由香」
「おう、やっぱり早かったな」
「こんな真似して何を企んでるの?」
「そうだな、とりあえず帰りにゲーセン寄ってくか?って相談してたくらいだ」
「は?」
由香が言うとみんな笑ってたそうだ。
「本当に真面目な奴なんだな!天音のいう事信じてたのか?」
「どういう事?」
私や康陽にもノルマが発生するんじゃないの?
誰もがそう思うだろう。
だが、天音は言う。
「私は律子にはノルマを課したが由香や康陽に課すなんて一言も言ってないぞ?」
「どうして律子にはノルマを課したの?」
「律子一人で他知らない奴だと可哀そうだろ?」
だから律子の友達1人+律子と律子の友人の彼氏2人で3人。
「じゃあ、私が入らないと律子が酷い目にあうっていうのは……」
「律子が1人で寂しい目にあうぞ?って意味だ」
律子が馬鹿げた噂を信じていたから揶揄ってみただけ。
「彼氏に聞いてみろよ。防府にもSHの仲間いるからさ」
2人はメッセージを送る。そして同じリアクションをする。
「なんで、こんな真似をしたの?」
由香が聞いていた。
「律子が一人寂しくバスに乗っていたのが気になったから。言葉で噂を否定しても信じられないだろ?」
ついでだから楽しませてもらった。
「ま、そう言うわけだからよろしくな。とりあえずなんか食おうぜ、どうせみんな食いたい物違うだろうからファミレスに寄ろう」
そうしてSHにまた新しい仲間が加わった。
「あの反応は写真撮っとけばよかったって思ったくらい笑えた」
そう言って水奈はおれの胸に頭を乗せて笑っている。
「そういう悪ふざけはこれっきりにしとけ?またSHの悪評が広まるぞ」
「分かってるって」
「……俺だって水奈に騙されたんだからな」
「え?」
水奈がそう言うと水奈の胸を触ってみた。
十分成長している水奈の柔らかい胸。
「水奈は”期待はするな”と言っていたのにこの成長ぶりはどういう事だ?」
俺はそう言って笑顔を見せた。
「学は小さい方が好きか?」
「相手が水奈ならどっちでもいいよ」
「……その気にさせてこのまま寝るって事はないよな?」
「水奈が寝不足にならない程度に付き合うよ」
次の日俺達は寝不足で朝食を食い逃した。
(2)
なぜか学と水奈は朝食には来なかった。
せっかく食えるのにもったいない。
腹の調子でも悪いんだろうか?
「学達だって恋人同士だから色々あるの」
美希がそう言うからまあいいや。
二日目は観光地を巡る。
首里城や平和祈念公園、海中道路なんか。
真っ直ぐにどこまでも伸びる海中道路はレンタカーを借りて通った。
皆思いっきり飛ばしてた。
こんなにいい景色なんだから飛ばしたくもなるのは分かる。
午後からは水族館なんかを見て回った。
女子って本当に水族館好きだな。
沖縄の海を再現したその水族館は地元では見れない魚が沢山いた。
水族館を見て公園を周って、公園を出るとまた観光地を見て回る。
多分光太が企んだ事だろう。
ビール工場なんてところも入った。
「卒業取り消しになったらどうするの!」
麗華に怒られていた。
一通り回るとホテルに戻る。
明日はアメリカンビレッジに行って沖縄を発つ予定だ。
面白い所が沢山あったけど、未成年ではまだ楽しめない事が沢山あった。
それは北海道も一緒だけど。
「サッポロビールは美味いよ」
父さんが言うくらいだからさぞ美味しいんだろう。
「まだ未成年なのに何を吹き込んでるんですか!」
母さんに叱られてた。
「で、でもジンギスカンとビールの組み合わせは本当に良かったんだよ、愛莉」
「冬夜さんはジンギスカンでも焼肉でも関係ないじゃないですか!」
2人とも本気で言い争ってるんじゃない事くらい僕でも分かる。
そんな風に言いあえる仲に僕と美希もなりたいなと思った。
「また大人になったら来ようね」
美希が言う。
「そうだね。行ってみたいところは沢山あるんだ」
「例えば?」
「光太が言ってた”今度皆で夜の別府を楽しもうぜ”って」
「それは却下かな」
「……どうして?」
「空はどこに行くのか分かってるの?」
「地獄めぐりとかじゃないの?」
「夜行く必要ないでしょ」
「ほら、リゾートホテルで食い放題もまた行ってみたいな」
「……光太達の言っている意味理解してる?」
違うの?
「理解してないならそれでいい。空は私にだけ興味を持ってくれたらいいから」
「わかってるよ」
「そうだよね」
でも別府で後楽しむといったら焼肉と関アジ関サバと後何があるんだろう?
どれも別府である必要はまったくないんだけど。
むしろ臼杵のフグとか杵築の城下カレイの方が魅力的だな。
杵築と言えば美味しい焼肉屋さんがあるって言ってたな。
今度美希と行こうかな。
「明日も早いんだし早く寝よう?」
「早すぎると思うんだけど?」
「少しは私に興味を持ってっていったでしょ?」
なるほどね。
僕達はベッドに入ると照明を落とす。
沖縄最後の夜を楽しんだ。
(3)
朝食を食べると皆部屋で寛いでいる。
女子は色々準備が大変だったみたいだけど。
僕だって顔洗ったりくらいはするよ。
ただ女子の洗顔はただ洗顔するんじゃない。
色々大変みたいだ。
その間のんびりとテレビを見ていた。
「お待たせ」
美希が後ろから抱き着いてくる。
「まだ時間あるからのんびりしてよう」
「うん!」
それから美希と二人でテレビを見ていた。
時間になると荷物を持って部屋を出る。
荷物を空港のロッカーに預けてアメリカンビレッジに向かった。
美希と相談していた。
アメリカン風お好み焼きと本場のインドカレー。
どっちを食べるかについて。
翼と二人なら両方食べるで事は済む。
だけど美希が相手じゃ無理だ。
どちらかに絞らなければいけない。
ちなみに皆は「どっちでもいい」だった。
「とりあえずヴィレッジ内なら各自自由行動にしないか?」
学が提案した。
反対する者は特にいなかった。
そうなると僕達はまずお好み焼きを食べに行く。
もんじゃもあるそうなので食べる。
その後インドカレーを食べる。
ついでにタイ料理にも興味があったのでそこにもいく。
最後だからと沖縄そばも食べる。
フィリーチーズステーキも食べた。
自慢のラーメンとやらがあるのでそれも食べる。
買い物は特にしなかった。
とりあえず食べて時間を過ごした。
「あ、美希買い物とかしなくてよかった?」
「それはいいんだけど……空、一つだけお願いしてもいいかな?」
美希が言うので聞いてみた。
観覧車に乗りたいらしい。
断る理由が無かったので2人で観覧車に乗った。
時間がギリギリになってしまった。
皆揃ったところで空港に向かう。
そして飛行機に乗って沖縄に別れを告げる。
福岡空港に到着すると博多駅へ向かう。
そして特急に乗って地元へ戻る。
光太達は歩いて帰る。
善明たちはバスが無いので仕方ないからタクシーで帰る。
19時台までしかバスがない所に良く住む気になったな。
学も乗るバスが違うのでバスターミナルで別れる。
他の皆も電車で帰るようだ。
僕と美希も時刻表を確認する。
まだ時間はあるみたいだ。
夕食にラーメンを食べた。
店を出るとちょうどいい時間になった。
バスに乗り込む時に美希の荷物を持ってやる。
バス停を降りるとゆっくり歩いて帰る。
いくつもの朝を迎える。
いくつもの夜を越える。
その向こう側に何も無くてもいい。
かけがえのない美希の優しい笑顔を信じている。
その向こう側に悲しみが待っていたとしても信じてる。
だけど本当は誰も向こう側に何があるのかわからないんだ。
その向こう側に何も無くてもいい、いくつもの朝を迎えようといつかきっと掴んでみせる。
いくつもの夜を越えて掴んでみせる。
例え悲しみが待っていたとしても信じて欲しい、美希の涙を見たくないから。
薄明りの部屋の中俺と水奈はベッドの中で裸で抱きあってた。
終わった後なのでさっさと寝たいのだけどそれがNGだって事くらい承知している。
水奈も俺に抱き着いて余韻に浸っている。
しかし無言のままでいるのは気まずい。
タバコを一服するという行為が許される歳ではないし興味もなかった。
「水奈、ちょっとジュースを取ってきてもいいか?」
「あ、ごめん。邪魔だったか?」
「そんなことはない。ただ喉が渇いただけだ」
そう言ってベッドから出るとコンビニで買っておいたジュースを取る。
水奈にも渡す。
服は着ずに裸のままベッドに入る。
水奈の事だ。
もう一回って言いだしかねない。
俺も別に水奈とそういう行為をするのが嫌なわけじゃない。
好きな女性とそういう行為に至るのはごく自然な事だ。
ましてや俺と水奈は他の皆と同じようにいつも一緒に居られるわけじゃない。
若いんだしそういう盛りがついて当然だろう。
まあ、難しい理屈を並べてもしょうがない。
俺が男で水奈が女。
ただそれだけだ。
ジュースを一口飲むと水奈を抱いてやる。
水奈は嬉しそうにくっついてくる。
「高校生活は楽しいか?」
「いつも聞いてないか、その質問」
「そうだな、でも偶には水奈の話聞いてみたいんだ」
「いつも話してるじゃないか」
「それは天音の友達の話だろ?水奈のクラスにはいないのか?友達」
「そうだな、まったくいないわけじゃないんだけど……あ!」
水奈は何か思い出したようだ。
「どうした?」
「いい話を思い出した。3学期始まってすぐくらいの頃だったかな」
水奈は話を始めた。
その日も水奈は天音達とバスに乗り込んだらしい。
水奈達がバスに乗るともう満席になる。
それでも一応気を使う。
今時地元でバスを利用するのは学生かお年寄り。
社会人は皆車を持って言て当然の社会になっている。
だからお年寄りが乗ってきたら席を譲る。
当たり前のルールだった。
都会のバスのように通路が広いわけでもなく吊革が沢山あるわけじゃない。
そこそこ余裕がある状態でも吊革を持てないことがある。
それに吊革を持つよりバーを持っていた方が安定する。
路線に急カーブがあるわけじゃないんだが交差点がやたらと多い。
バスが狭い交差点を周る際には一度反対側にハンドルを切って内輪差の幅を取る。
すると当然車内は大きく揺れる。
その時に事件が起こった。
1人の女子生徒が派手に転んだ。
中には無謀な奴がいる。
何にも捕まらずにバランスを取ればうまくいくと思ってる奴がいる。
そして失敗した。
皆で笑う中その女子は起き上がった。
水奈はその子を知っていた。
「あ、お前確か律子」
「水奈?」
同じクラスの子らしい。
住所でクラス編成してるんじゃないかと思うような状態なんだそうだ。
「怪我無いか?ちゃんと捕まってないと駄目だろ」
「ちょっとミスしただけよ。どうってことない」
「今は空いてるからいいけど混んでる時だとほかの人にぶつかって迷惑になるからやめとけ」
「水奈に言われる筋合いはない」
「水奈、そいつ誰?」
天音が聞いた。
「ああ、同じクラスの高山律子」
「へえ~」
天音は律子をしばらく見ていた。
「決めた。お前も私達の仲間だ!」
天音は誰でも仲間に入れたがる性質らしい。
「冗談じゃない!水奈達のグループの噂くらい私だって聞いてる」
恐喝、パシリ、飲酒に喫煙、シンナーやドラッグもやってる。
グループから抜けようとすれば厳しい制裁が待っている。
その勢力は県内を網羅して逃げ場所は何処にもない。
暴走族やギャングも配下に置く警察からも目をつけられている集団。
桜丘高校最恐のグループ。
グラウンドには葬った人間の死体が埋められている。
黒いリストバンドをした集団と間違えてるんじゃないか?それ。
「よく知ってるんだな。だがちょっと違うな」
天音が指摘した。
「正確には”そんなバカも手が出せないグループ”だ」
「よ、余計達が悪いじゃない!」
「でもお前は運が悪い。今このバスに乗っている桜丘高生はみんな仲間だ」
天音はそう言って笑う。
律子が周りを見ると皆桜丘高生だった。
観念した律子はスマホを出してSHに入る。
だが天音はいたずら心を見せたらしい。
「入ったからにはノルマを課すからな」
「ノルマ!?」
律子は驚いていた。
「ねずみ講って知ってるか?」
1人に付き2人以上のノルマを課す無限連鎖講と呼ばれる行為。
配当を上位の人間に与えるという違法行為。
もちろん配当なんてものは要らない。
単純に3人連れてこいというノルマを天音は律子に課した。
「初めてだから律子も難しいだろうから水奈も手伝ってやれ。クラスメートなんだろ?」
3人という数字を聞いて水奈もピンと来たらしい。
水奈はそれを引き受けた。
バス停で降りて駅をくぐりながら学校へ向かう。
教室に入ると水奈は言った。
「律子彼氏いるだろ?」
「そ、それがどうかしたの?」
「その彼氏って防府じゃね?」
「何で知ってるのよ?」
「まあ、そういう奴この学校多いからさ」
そいつを入れたらまず1人確保だという。
律子は彼氏の工藤頼人に連絡をする。
頼人はすぐに入ったそうだ。
「残りの2人はどうするの?」
「今日中に片付くよ」
席に戻るように指示をした。
律子が自分の席に戻ると水奈は律子を観察していた。
友達が1人いるらしい。
それをみて水奈はにやりと笑う。
終業式が終るとHRをして帰る。
「由香!ちょっと話があるんだけど」
斎藤由香というらしい。
由香は立ち止まって水奈を見る。
「何か用?」
「由香は律子と友達なんだろ?」
「そうだけど、それが何か関係あるの?」
「律子、説明してやれ」
「由香を巻き込むつもり!?」
律子が聞くと水奈は頷いた。
律子は由香に事情を説明する。
「それって完全に違法行為なんだけど」
由香が言う。
「いいんだぜ?由香が入らないなら律子が酷い目にあうだけだ」
「……わかったわ。でも私には律子の他に友達なんていないよ?」
どこかのグループに属してるわけでもないと由香は言う。
だけど水奈はちゃんと天音の言葉の意味を理解していた。
「断言してもいいけど由香も彼氏いるだろ?防府高校に」
「康陽まで巻き込めというの!?」
加沢康陽。
防府高校1年生。
水奈は朝律子と由香が接触した時からメッセージを通して大地に確認してあった。
「多分大丈夫だから。招待しろよ。それで律子のノルマは終わりだ」
由香はメッセージを送って相談して康陽を招待する。
「この後私達はどうすればいいわけ?」
「とりあえず帰ろうぜ」
水奈はそう言って校門の前で待っている皆の下に向かう。
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「おう、やっぱり早かったな」
「こんな真似して何を企んでるの?」
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由香が言うとみんな笑ってたそうだ。
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誰もがそう思うだろう。
だが、天音は言う。
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「律子一人で他知らない奴だと可哀そうだろ?」
だから律子の友達1人+律子と律子の友人の彼氏2人で3人。
「じゃあ、私が入らないと律子が酷い目にあうっていうのは……」
「律子が1人で寂しい目にあうぞ?って意味だ」
律子が馬鹿げた噂を信じていたから揶揄ってみただけ。
「彼氏に聞いてみろよ。防府にもSHの仲間いるからさ」
2人はメッセージを送る。そして同じリアクションをする。
「なんで、こんな真似をしたの?」
由香が聞いていた。
「律子が一人寂しくバスに乗っていたのが気になったから。言葉で噂を否定しても信じられないだろ?」
ついでだから楽しませてもらった。
「ま、そう言うわけだからよろしくな。とりあえずなんか食おうぜ、どうせみんな食いたい物違うだろうからファミレスに寄ろう」
そうしてSHにまた新しい仲間が加わった。
「あの反応は写真撮っとけばよかったって思ったくらい笑えた」
そう言って水奈はおれの胸に頭を乗せて笑っている。
「そういう悪ふざけはこれっきりにしとけ?またSHの悪評が広まるぞ」
「分かってるって」
「……俺だって水奈に騙されたんだからな」
「え?」
水奈がそう言うと水奈の胸を触ってみた。
十分成長している水奈の柔らかい胸。
「水奈は”期待はするな”と言っていたのにこの成長ぶりはどういう事だ?」
俺はそう言って笑顔を見せた。
「学は小さい方が好きか?」
「相手が水奈ならどっちでもいいよ」
「……その気にさせてこのまま寝るって事はないよな?」
「水奈が寝不足にならない程度に付き合うよ」
次の日俺達は寝不足で朝食を食い逃した。
(2)
なぜか学と水奈は朝食には来なかった。
せっかく食えるのにもったいない。
腹の調子でも悪いんだろうか?
「学達だって恋人同士だから色々あるの」
美希がそう言うからまあいいや。
二日目は観光地を巡る。
首里城や平和祈念公園、海中道路なんか。
真っ直ぐにどこまでも伸びる海中道路はレンタカーを借りて通った。
皆思いっきり飛ばしてた。
こんなにいい景色なんだから飛ばしたくもなるのは分かる。
午後からは水族館なんかを見て回った。
女子って本当に水族館好きだな。
沖縄の海を再現したその水族館は地元では見れない魚が沢山いた。
水族館を見て公園を周って、公園を出るとまた観光地を見て回る。
多分光太が企んだ事だろう。
ビール工場なんてところも入った。
「卒業取り消しになったらどうするの!」
麗華に怒られていた。
一通り回るとホテルに戻る。
明日はアメリカンビレッジに行って沖縄を発つ予定だ。
面白い所が沢山あったけど、未成年ではまだ楽しめない事が沢山あった。
それは北海道も一緒だけど。
「サッポロビールは美味いよ」
父さんが言うくらいだからさぞ美味しいんだろう。
「まだ未成年なのに何を吹き込んでるんですか!」
母さんに叱られてた。
「で、でもジンギスカンとビールの組み合わせは本当に良かったんだよ、愛莉」
「冬夜さんはジンギスカンでも焼肉でも関係ないじゃないですか!」
2人とも本気で言い争ってるんじゃない事くらい僕でも分かる。
そんな風に言いあえる仲に僕と美希もなりたいなと思った。
「また大人になったら来ようね」
美希が言う。
「そうだね。行ってみたいところは沢山あるんだ」
「例えば?」
「光太が言ってた”今度皆で夜の別府を楽しもうぜ”って」
「それは却下かな」
「……どうして?」
「空はどこに行くのか分かってるの?」
「地獄めぐりとかじゃないの?」
「夜行く必要ないでしょ」
「ほら、リゾートホテルで食い放題もまた行ってみたいな」
「……光太達の言っている意味理解してる?」
違うの?
「理解してないならそれでいい。空は私にだけ興味を持ってくれたらいいから」
「わかってるよ」
「そうだよね」
でも別府で後楽しむといったら焼肉と関アジ関サバと後何があるんだろう?
どれも別府である必要はまったくないんだけど。
むしろ臼杵のフグとか杵築の城下カレイの方が魅力的だな。
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今度美希と行こうかな。
「明日も早いんだし早く寝よう?」
「早すぎると思うんだけど?」
「少しは私に興味を持ってっていったでしょ?」
なるほどね。
僕達はベッドに入ると照明を落とす。
沖縄最後の夜を楽しんだ。
(3)
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僕だって顔洗ったりくらいはするよ。
ただ女子の洗顔はただ洗顔するんじゃない。
色々大変みたいだ。
その間のんびりとテレビを見ていた。
「お待たせ」
美希が後ろから抱き着いてくる。
「まだ時間あるからのんびりしてよう」
「うん!」
それから美希と二人でテレビを見ていた。
時間になると荷物を持って部屋を出る。
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美希と相談していた。
アメリカン風お好み焼きと本場のインドカレー。
どっちを食べるかについて。
翼と二人なら両方食べるで事は済む。
だけど美希が相手じゃ無理だ。
どちらかに絞らなければいけない。
ちなみに皆は「どっちでもいい」だった。
「とりあえずヴィレッジ内なら各自自由行動にしないか?」
学が提案した。
反対する者は特にいなかった。
そうなると僕達はまずお好み焼きを食べに行く。
もんじゃもあるそうなので食べる。
その後インドカレーを食べる。
ついでにタイ料理にも興味があったのでそこにもいく。
最後だからと沖縄そばも食べる。
フィリーチーズステーキも食べた。
自慢のラーメンとやらがあるのでそれも食べる。
買い物は特にしなかった。
とりあえず食べて時間を過ごした。
「あ、美希買い物とかしなくてよかった?」
「それはいいんだけど……空、一つだけお願いしてもいいかな?」
美希が言うので聞いてみた。
観覧車に乗りたいらしい。
断る理由が無かったので2人で観覧車に乗った。
時間がギリギリになってしまった。
皆揃ったところで空港に向かう。
そして飛行機に乗って沖縄に別れを告げる。
福岡空港に到着すると博多駅へ向かう。
そして特急に乗って地元へ戻る。
光太達は歩いて帰る。
善明たちはバスが無いので仕方ないからタクシーで帰る。
19時台までしかバスがない所に良く住む気になったな。
学も乗るバスが違うのでバスターミナルで別れる。
他の皆も電車で帰るようだ。
僕と美希も時刻表を確認する。
まだ時間はあるみたいだ。
夕食にラーメンを食べた。
店を出るとちょうどいい時間になった。
バスに乗り込む時に美希の荷物を持ってやる。
バス停を降りるとゆっくり歩いて帰る。
いくつもの朝を迎える。
いくつもの夜を越える。
その向こう側に何も無くてもいい。
かけがえのない美希の優しい笑顔を信じている。
その向こう側に悲しみが待っていたとしても信じてる。
だけど本当は誰も向こう側に何があるのかわからないんだ。
その向こう側に何も無くてもいい、いくつもの朝を迎えようといつかきっと掴んでみせる。
いくつもの夜を越えて掴んでみせる。
例え悲しみが待っていたとしても信じて欲しい、美希の涙を見たくないから。
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彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
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