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いつか重なる
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(1)
なんか凄い音がした。
廊下に出ると女子二人が倒れている。
見物していた生徒に事情を聴いてみた。
何を急いでいたのか分からないけど猛スピードで走っていた女子を避けきれずにぶつかったらしい。
まあ、世の中猪突猛進という言葉がある。
壁を砕いてでも突進するやつもいるらしい。
幸い相手は砕かれることは無かった。
眼鏡のレンズが割れたくらいだ。
それだけで話を済ませてしまったらさすがに色々まずい。
とりあえず眼鏡のレンズが割れた女子生徒に声をかける。
「立てるか?」
「うん」
女子はゆっくり立ち上がる。
眼鏡が片方だけレンズがないとくらくらする。
「多分、眼鏡外した方がいいぞ」
「そうだね」
女子は眼鏡を外した。
「見える?」
私は聞いていた。
教室の札がぼやけて見えないらしい。
結構視力悪いんだな。
教室どこ?
「調理科」
同じクラスなようだ。
誘導してやることにした。
「ちょっと待てよ!」
よく聞くセリフだな。
人気俳優が良く吐くセリフ。
何をやらせてもあまり上手じゃない俳優。
名前を出すと策者が刺される危険があるので伏せておく。
私は立ち止まるとぶつかって来た相手を見る。
「何も言わずに行くわけ?」
なるほど、それは確かに言えるな。
「危ないから廊下を走るな。小学生でも知ってるぜ」
「ぼーっとしてたそっちが悪いんでしょ?」
わざとぶつかって来たとでも主張したいんだろうか?
「本来なら割れた眼鏡代請求するところを見逃してやろうって事くらい気づけよ」
「さっきから、あんたばっかり喋ってるけどそいつからは何かないわけ!?」
それもそうだな。
「お前名前は?」
「森沢可絵」
「で、可絵。何言いたい事があるなら言えよ」
不満の一つくらいあるだろ?
「ご、ごめんなさい。今後気をつけます」
そうじゃないだろ!
「ほら、本人は謝ってるじゃない。部外者が口を挟まないで」
可絵は頭を下げると眼鏡を持って教室に向かった。
眼鏡は使えないので黒板の文字が見えないらしい。
最前列の加織と変わってもらったけど大して変わらなかったみたいだ。
加織がノートを取っていたのでそれを写させてもらう。
「じゃあ、今日中に眼鏡修理してもらえ」
「うん、今日はありがとう」
ふらふらと教室を出ていく可絵。
なんか嫌な予感がする。
そしてそれは的中した。
紗理奈達と合流して帰ろうとすると可絵は絡まれていた。
様子を見ていた生徒に聞くとふらふら歩いていて男子生徒にぶつかったらしい。
1人で帰らせるんじゃなかった。
男子生徒の手首には黒いリストバンドをしている。
県内最大の不良グループFGの証だ。
暴走族なんかも組織の中にいるらしい。
面倒な事になったなと思うと、そばで見ていた天音や紗理奈が近づいていく。
「森沢可絵ってお前?」
「そうですけど」
「連絡先交換しようぜ」
何の理由もなくいきなり連絡先交換を求める天音。
「おい、お前は関係ねーだろ!」
男が天音の肩を掴もうとすると紗理奈がその手を掴んだ。
「殺人事件を起こしたくないなら天音に触るな」
紗理奈がそう言う。
「心配するな。怪しい組織の勧誘じゃねーよ。ただ、茉里奈の知り合いなんだろ?理由なんてそれで十分だ」
知り合いってほどじゃないんだけどな。
可絵は少し考えて天音と連絡先を交換する。
そしてSHに入ったことを知らせる通知音が鳴った。
すると今度は天音は男たちを見る。
「1分やる。その鬱陶しい面が私が見えないところにまで立ち去れ。紗理奈、時間計って」
天音が言うと紗理奈は腕時計の秒針を見る。
「お前誰に向かって口聞いてるのかわかってるのか?」
男が天音を睨みつける。
「その言葉そっくり返すよ。お前らの事は知ってる。ボス猿の子分だろ?お前はあのお山の大将から何もきいてないのか?」
「はい、20秒経過」
紗理奈が時間を告げる。
「どうやら、この場で恥ずかしい目に合わないと気が済まない様だな」
男は手の指をぽきぽきと鳴らす。
天音と紗理奈は平然としている。
「本当に何も知らないんだな。私に手を出せば刈り取られるのは喜一の首だぞ?」
「何でその名前を知ってるんだよ?」
「私の標的だからな。私の目の前で鬱陶しい真似をしたら喜一を殺すルールになってる。喜一に確認してみろよ。”今から片桐天音と喧嘩します”って」
男はスマホで確認している。
そしてすぐに立ち去って行った。
どうなってるんだ?
「眼鏡屋行くんだろ?早く行こうぜ」
何事も無かったようにすました顔で天音が言うと私達は街の眼鏡屋に行った。
そのあと向かいにあるカレー屋に行く。
私達はサンドイッチで我慢しておいた。
「可絵は趣味とかあるの?」
天音が聞いていた。
彼氏は一つ年上で防府に通ってるそうだ。
大人しそうに見えて大胆な部分もある。
「どんな車に乗りたいんだ?」
MB社の四駆の車をあげた。
ラリーで有名な奴。
彼氏の影響なのかと聞いてみたけど、彼氏の方は普通のSUVに乗りたいんだそうだ。
キャンプとかが趣味だからまあそうなるんだろう。
家は天音達の近所みたいなので一緒にバスに乗って帰る。
家に帰ると着替えて夕食を食べて風呂に入る。
風呂上りに冷蔵庫に入ってる銀色の缶を手に取るとプシュッっと音を立てる。
母さんは何も言わない。
父さんは「親の前で堂々と飲むんじゃない」と笑っている。
「じゃあ、部屋で飲むよ」
「……一本だけにしておけ」
ちなみに喫煙は厳禁。
嗅覚も味覚も料理人にとっては命。
あまり興味もなかったからいいけど。
紗理奈と二人でテレビを見ながらスマホを弄って夜を過ごす。
そして時間になると寝る。
朝になると準備をしてから学校に行く。
学校で美衣たちと一緒に話をする。
そんな毎日を繰り返していた。
(2)
そいつは突然泣き出した。
女子が泣き出せば当然騒ぎになる。
「落ち着いて」
そう言って慰めようとする男子なんて1人もいない。
仕方ないから私が近づいて「どうした?」と話を聞く。
泣き出した女子の名前は水沢華月。
事の始まりは前の授業からだった。
華月が授業が終わって黒板を消しているととあるグループからクレームがつく。
「まだ書いてる途中だったのに!」
その授業の教師はどうでもいい事まで一々黒板に書いては消してを繰り返す忙しい野郎だった。
大抵の奴は要点だけ書くか、教科書にメモ書きするかのどちらかになる。
ぶっちゃけ授業の内容もしょうもない話が多くて、教科書を授業の範囲だけ丸写して覚えた方が速いほどだ。
要するにくそ真面目に黒板を写す奴なんていない。
ただの言いがかりだろう。
言いがかりだった。
次の授業の音楽で華月にティッシュのゴミを投げつけていた。
いい歳こいて下らねー真似してんな。
そんな風に私は見ていた。
だけど華月は気が弱い。
耐えられなかったのだろう。
様々な感情が押し寄せて耐えきれず泣き出してしまった。
2学期はどうしてこうもしょうもない事件が起こるのだろう?
まあ、そろそろ様々な派閥が出来て仲間外れになった奴が的になる時期だ。
とりあえず華月にハンカチを差し出す。
「自分で持ってるから大丈夫、迷惑かけてごめん」
そう言って自分のハンカチをポケットから取り出して涙を拭く。
SHは更に拡大するつもりらしい。
「華月、スマホ持ってる?」
「持ってる」
まあ、持ってない高校生を探す方がめんどくさいよな。
「連絡先交換しようぜ」
そう言って華月と連絡先を交換するとSHに招待する。
「単なる遊び友達のグループ」
顔を見たことがない奴もいるくらい市内では勢力が強いグループ。
市内だけに限るなら多分最強のグループだろう。
正体が終ると天音達に事情を説明する。
昼休みになると天音達がゴミ箱をもって1年の教室にやってくる。
そしてさっきのグループの奴等のもとにいくと奴等の頭上にゴミ箱の中味をかぶせる。
大体が紙くずだった。
「紗理奈どうだ?」
「うーん、いまいち面白みに欠けるな」
「だな、つまらん。帰ろうぜ」
好き勝手な事言って帰ろうとする天音達を無謀にもそいつらは呼び止めた。
「何するんだよ!」
「なんか文句あるの?あるなら聞いてやるけど?」
天音は立ち止まって振り返るとそう言った。
「これは何のつもり?」
奴等が答えると天音は当然のように答えた。
「いや、なんかゴミクズをぶつける遊びが流行ってるって聞いたから試しに来たんだけどあまりに下らねーから帰ろうと思っただけだ」
「ふざけんな!」
「お、やる気か?そっちがその気なら受けて立つぜ。下級生ぶっ飛ばしても面白くないけど喧嘩売ってくるなら話は別だ」
「何ならお前らをごみクズにしてやろうか?」
端からそのつもりで来たんだろう天音と紗理奈は身構える。
だけど奴らはじっとしている。
「どうしたんだ?むかついてるんだろ?かかってこいよ」
「やりっぱなしってのも悪いからな。後始末くらいしてやるぜ」
2人が挑発するけど奴等はただ震えているだけだった。
「そんな度胸もないやつが気の弱い奴いびって楽しんでるんじゃねーよ」
「ゴミは自分たちで片づけておけよ。茉里奈、また放課後な」
そう言って2人は自分の教室に帰って言った。
「華月!あんたの差し金!?」
奴等は華月を責める。
多分それを庇うのが私の仕事だろう。
「告げ口したのは私だけど。私でいいなら相手するよ?」
どうせ何も出来ないんだろ?
何もできなかった。
黙ってゴミを集める。
目を赤く腫らしていた。
私は華月に言って昼食を楽しんだ。
帰りに寄り道して帰る。
少し人見知りするところもあったけど、天音と紗理奈が積極的にからんでいると段々打ち解けていく。
帰りは天音達の近所だったので一緒に帰る。
掴んだ拳を使えずに言葉を失くしてる者がいた。
誰かが傷つけられたら私が代わりに牙をむいてあげよう。
そいつが自分を無くさないように。
生きることが哀しいかい?
信じる言葉も無いのかい?
だけどわずかな力が沈まない限り涙はいつも振り切れるから、今から一緒にこれから一緒にそいつを殴りに行こう。
病まない心で、消えない心で。
(3)
ある日の給食時間笑い声がした。
そいつらは大声で話していたので耳を澄ませなくても聞こえてきた。
中傷されてるのは河原梢。
特に問題もないけど個性もない。
普通の女子高生。
普通の女子高生ってだけで喜ぶおっさんもいるらしいけど。
そいつらは不満だったみたいだ。
名前ももらえない雑魚が何をほざいてるんだか。
「梢のような冗談が通じない人間なんて入れてくれるつまらないグループなんてない。ずっと一人でいればいい」
そんな戯言を言っていた。
それは、「押すな、絶対に押すなよ」と言われるようなもんだ。
私と美衣は互いの顔を見て頷くと梢のいる机に向かった。
そのグループは私達に気付いて私たちを見る。
「な、なんだよ。別にお前らの事なんか話してないぞ」
「いやあ、面白そうなことしてるからさ。梢もらっていいかな?」
「は?」
「どうも、つまらないグループでーす」
美衣が言う。
普通にただ絡みに来ただけ。
「こんなやつくれてやるよ。持っていきな!」
「いやあ、悪いね。じゃ、梢とりあえず連絡先交換しようか?」
「渡辺本気で言ってるのか……?」
「ああ、本気だよ。この冗談が通じない何の特徴もないただの女子高生を引き取りに来た」
スマホを操作しながら話をしている。
梢と連絡先を交換するとSHに招待する。
梢は状況が理解できてないようだ。
「これで梢は私達の仲間だ。こっちこいよ。皆に紹介してやるから」
そう言って私は梢の手を引っ張り美衣は梢の弁当を持つ。
そして立ち止まって言う。
「梢、彼氏も入ってるから心配しなくていいぞ」
石原大地、片桐天音、そして私の姉の紗理奈を通じて彼氏がいる事は把握していた。
「へ?」
梢と名無しグループが同時に言った。
どうせそんなこったろうと思った。
私は振り返って名無しグループを見る。
「そんなに驚く事か?お前らも自分で言ってたろ?梢は何の変哲もないただの女子高生だって」
普通の女子高生なら、当たり前に恋をする。
幼稚園児だって恋をする世界なのだから当然だ。
そして普通の女子高生なら当たり前に彼氏がいてやる事も済ませる。
夏休みという絶好の時間があったんだ。
無い方がおかしい。
少なくとも策者の脳内ではそうなってるようだ。
「まさか、あなた達彼氏いないの?」
美衣がわざとらしく驚いている。
SHのメンバーから声が聞こえてくる。
「今時乙女の純血なんて守ってるなんてすごいじゃない。天然記念物だよ」
なんせ小学生から盛りがついて中学生の時に済ませるやつが当たり前にいるからな。
エロゲーの世界では小学生でやってしまうらしいぞ。
「それとも単に相手がいないだけ?」
「駄目だよ加織。そういう事言ったら。乙女心を傷つけちゃう」
加織と利香が言うとSHの皆が笑っている。
「あんた達人の事言えるの!?見栄張ってるだけじゃないの!?」
名無しグループが反論する。
「え?普通に済ませたけど?」
SHの皆は口をそろえて言う。
大人しい伊東胡桃ですら済ませたらしい。
夏休みの間ずっと見舞いに来て部屋で話して親が留守の間にそういう雰囲気になったんだそうだ。
まあ、親がいてもするだろうな。
まあ、そういうわけで何も言い返せなくなってしまった名無しグループを後目に私達のグループに梢を招待する。
「話は朋也から聞いてたわけなんだね」
梢が聞いてくると私達は頷いた。
でもまだ浮かない顔をしている。
「私といてもつまんないよ?」
「それはねーよ」
私が即答した。
「本当に自分がつまらない人間だと思ってるなら今すぐ朋也に謝れ。そんな梢を愛してくれてる家族に謝れ」
少なくとも家族や恋人を引き寄せる何かをもっているから今の梢が居るんだ。
「そうだね。茉里奈の言う通りかもしれない」
「そんな辛気臭い面見たくて呼んだわけじゃねーよ」
「ごめん、私どうしてもだめみたいで」
「そんな時はあれしかないな。梢、どうせ放課後真っ直ぐ帰るつもりだっただろ?ちょっと付き合えよ」
まさか、調理科で塾通ってるなんて真似してねーよな?
放課後梢を連れて私達はゲーセンに言った。
面白くない奴なんていない。
それはそいつとの接し方を間違えている証拠。
そしてそいつと正しく接する奴を仲間と呼ぶ。
そうやって友達は増やしていく者なんだ。
形だけじゃなくて言葉だけじゃなくて。
ありのままのそいつに認めてやる事が大切なんだろう。
(4)
クラスは朝から騒然としていた。
桑野季咲。
クラスでは目立たないタイプ。
模範生の一人。
別にボッチだったわけじゃない。
グループにも所属していた。
そのグループが季咲に相応しいグループだったかは別だけど。
その季咲が突然変貌を遂げた。
長くて綺麗だった髪を切りベリーショートにまで短くした上金髪に染めていた。
夏休みの間に何かあったのか?
始業式からそれの髪形ならそうなんだろうけどもう1週間は過ぎてる。
彼氏と上手くいかなかったか?
そんな話もSHでは聞いていない。
季咲の彼氏の丸岡光則はSHに所属している防府高校の2年生。
事情を確認する為に写真を撮って送ったら驚いていた。
そういや、昨日季咲のグループ遅かったな。
色々考えるより本人に問い詰めた方が早い。
私達は昼休み季咲を呼び出していた。
「何があったか正直に話せ」
「ただのイメチェンだよ……に、似合わないかな?」
笑って誤魔化す。
怒鳴りつけても逆効果だ。
「お前の彼氏も心配している。私達を信用してもらえないか?」
そう言うと、季咲は泣き出した。
このグループにいたら自分はダメになってしまう。
そう思った季咲はグループを抜けると告げた。
するとグループの連中は季咲を押さえつけてバリカンで髪を刈り取りそして髪を無理矢理脱色したらしい。
「次またふざけたこと言ったら丸刈りだからな」
グループの連中はそう言って帰ったらしい。
ふざけてるのはどっちだ。
まずは季咲からだな。
「季咲近所だよね?私良い美容室しってるから今日帰りに寄ろう?」
睦月が言う。
季咲の事は睦月に任せるとしてグループの連中はただで置くわけにはいかない。
天音が預かってるって言ったな。
スマホでメッセージを送って事情を説明する。
その間に睦月が季咲をグループに入れる。
「皆を巻き込むわけにはいかない」
最初はそう言って抵抗していた季咲だったが睦月が優しく説明する。
「倍返しって知ってる?私達に任せて」
倍どころか100倍くらいにして仇はとってやる。
髪を伸ばすのにどれだけ時間かかかるか。
手入れにどれだけ手間をかけるか。
男子なら想像がつかないだろうけど、同じ女子がやるなんて悪意以外の何物でもない。
そういう奴には手加減する必要はないと母さんから教えられている。
放課後睦月と一緒に帰ろうとする季咲の腕をグループの連中が掴む。
その肩を私が抑えた。
「お前ら先に帰れ。後は私が話をつけておく」
そう言って季咲の腕を掴む手を無理矢理はがすと2人は帰っていった。
「なんの真似だ?渡辺」
そいつは私を睨む。
「季咲は私達が預かった。お前らのグループからは抜ける」
「……ただで抜けられると思ってるのか?」
「思ってない。ただで済ます気もない。話は季咲から聞いてる」
「だったら、季咲をここに呼び戻せ!」
「その必要はないな」
教室にやってきたのは紗理奈と天音だった。
「話は聞いてる。次ふざけたことを言ったら丸刈りだったな。ほら、茉里奈持って来たぞ」
そう言って天音がバリカンを差し出すとそれを受け取る。
「ああ、お前が代わりに丸刈りになるってならそれで許してやる」
どこまでも間抜けな奴だ。
美衣と加織がリーダーの体を押さえつける。
そのリーダーの前に私は立つと見下ろす。
「次ふざけた真似をしたら丸刈りだったな?」
「て、てめえ。ふざけんな」
「ふざけてなんかいねーよ。やられたらやり返すのが私らのやり方だ」
加勢しようと仲間が近づいてくるとその間に天音と紗理奈が立つ。
「リーダー1人で勘弁してやろうと思ったが、加わりたいなら手助けしてやるぞ?」
天音がいうと仲間は後ずさる。
「さて、どういう髪形がお好みだ?」
「頼む、あいつには金輪際手を出さない。見逃してくれ」
みっともなく泣きわめいて謝罪するリーダー。
そんなの無視して天音達に助言を求めた。
皆で相談する。
女性で丸刈りは意外と有名人に多い。
だからつまらない。
そういや中国で髪の毛を刈り取って後頭部にアートを作るのが流行ってると聞いたな。
難しいのは無理だから日の丸にしとくか。
ヘアスタイルが決まると早速駆り出す。
上手く丸が作れない。
段々イライラしてきたので全部刈り取った。
結局坊主になる。
まあ、眉毛も沿ってるしちょうどいいだろう。
リーダーは泣いている。
同情するSHのメンバーはいなかった。
自業自得だ。
翌日からリーダーは学校を休んだ。
まあ、ベリーショートになるくらいになるまでは出てこないつもりだろう。
こっちは刈り取った髪の毛の処理に苦労したのでその代償を払わせなければならないのに。
一方季咲は黒色に戻して髪の毛もカットしてもらったようだ。
とても似合ってた。
彼氏にも写真を送ったらしい。
彼氏に褒めてもらえたらしくて、とてもうれしそうにしていた。
なんか凄い音がした。
廊下に出ると女子二人が倒れている。
見物していた生徒に事情を聴いてみた。
何を急いでいたのか分からないけど猛スピードで走っていた女子を避けきれずにぶつかったらしい。
まあ、世の中猪突猛進という言葉がある。
壁を砕いてでも突進するやつもいるらしい。
幸い相手は砕かれることは無かった。
眼鏡のレンズが割れたくらいだ。
それだけで話を済ませてしまったらさすがに色々まずい。
とりあえず眼鏡のレンズが割れた女子生徒に声をかける。
「立てるか?」
「うん」
女子はゆっくり立ち上がる。
眼鏡が片方だけレンズがないとくらくらする。
「多分、眼鏡外した方がいいぞ」
「そうだね」
女子は眼鏡を外した。
「見える?」
私は聞いていた。
教室の札がぼやけて見えないらしい。
結構視力悪いんだな。
教室どこ?
「調理科」
同じクラスなようだ。
誘導してやることにした。
「ちょっと待てよ!」
よく聞くセリフだな。
人気俳優が良く吐くセリフ。
何をやらせてもあまり上手じゃない俳優。
名前を出すと策者が刺される危険があるので伏せておく。
私は立ち止まるとぶつかって来た相手を見る。
「何も言わずに行くわけ?」
なるほど、それは確かに言えるな。
「危ないから廊下を走るな。小学生でも知ってるぜ」
「ぼーっとしてたそっちが悪いんでしょ?」
わざとぶつかって来たとでも主張したいんだろうか?
「本来なら割れた眼鏡代請求するところを見逃してやろうって事くらい気づけよ」
「さっきから、あんたばっかり喋ってるけどそいつからは何かないわけ!?」
それもそうだな。
「お前名前は?」
「森沢可絵」
「で、可絵。何言いたい事があるなら言えよ」
不満の一つくらいあるだろ?
「ご、ごめんなさい。今後気をつけます」
そうじゃないだろ!
「ほら、本人は謝ってるじゃない。部外者が口を挟まないで」
可絵は頭を下げると眼鏡を持って教室に向かった。
眼鏡は使えないので黒板の文字が見えないらしい。
最前列の加織と変わってもらったけど大して変わらなかったみたいだ。
加織がノートを取っていたのでそれを写させてもらう。
「じゃあ、今日中に眼鏡修理してもらえ」
「うん、今日はありがとう」
ふらふらと教室を出ていく可絵。
なんか嫌な予感がする。
そしてそれは的中した。
紗理奈達と合流して帰ろうとすると可絵は絡まれていた。
様子を見ていた生徒に聞くとふらふら歩いていて男子生徒にぶつかったらしい。
1人で帰らせるんじゃなかった。
男子生徒の手首には黒いリストバンドをしている。
県内最大の不良グループFGの証だ。
暴走族なんかも組織の中にいるらしい。
面倒な事になったなと思うと、そばで見ていた天音や紗理奈が近づいていく。
「森沢可絵ってお前?」
「そうですけど」
「連絡先交換しようぜ」
何の理由もなくいきなり連絡先交換を求める天音。
「おい、お前は関係ねーだろ!」
男が天音の肩を掴もうとすると紗理奈がその手を掴んだ。
「殺人事件を起こしたくないなら天音に触るな」
紗理奈がそう言う。
「心配するな。怪しい組織の勧誘じゃねーよ。ただ、茉里奈の知り合いなんだろ?理由なんてそれで十分だ」
知り合いってほどじゃないんだけどな。
可絵は少し考えて天音と連絡先を交換する。
そしてSHに入ったことを知らせる通知音が鳴った。
すると今度は天音は男たちを見る。
「1分やる。その鬱陶しい面が私が見えないところにまで立ち去れ。紗理奈、時間計って」
天音が言うと紗理奈は腕時計の秒針を見る。
「お前誰に向かって口聞いてるのかわかってるのか?」
男が天音を睨みつける。
「その言葉そっくり返すよ。お前らの事は知ってる。ボス猿の子分だろ?お前はあのお山の大将から何もきいてないのか?」
「はい、20秒経過」
紗理奈が時間を告げる。
「どうやら、この場で恥ずかしい目に合わないと気が済まない様だな」
男は手の指をぽきぽきと鳴らす。
天音と紗理奈は平然としている。
「本当に何も知らないんだな。私に手を出せば刈り取られるのは喜一の首だぞ?」
「何でその名前を知ってるんだよ?」
「私の標的だからな。私の目の前で鬱陶しい真似をしたら喜一を殺すルールになってる。喜一に確認してみろよ。”今から片桐天音と喧嘩します”って」
男はスマホで確認している。
そしてすぐに立ち去って行った。
どうなってるんだ?
「眼鏡屋行くんだろ?早く行こうぜ」
何事も無かったようにすました顔で天音が言うと私達は街の眼鏡屋に行った。
そのあと向かいにあるカレー屋に行く。
私達はサンドイッチで我慢しておいた。
「可絵は趣味とかあるの?」
天音が聞いていた。
彼氏は一つ年上で防府に通ってるそうだ。
大人しそうに見えて大胆な部分もある。
「どんな車に乗りたいんだ?」
MB社の四駆の車をあげた。
ラリーで有名な奴。
彼氏の影響なのかと聞いてみたけど、彼氏の方は普通のSUVに乗りたいんだそうだ。
キャンプとかが趣味だからまあそうなるんだろう。
家は天音達の近所みたいなので一緒にバスに乗って帰る。
家に帰ると着替えて夕食を食べて風呂に入る。
風呂上りに冷蔵庫に入ってる銀色の缶を手に取るとプシュッっと音を立てる。
母さんは何も言わない。
父さんは「親の前で堂々と飲むんじゃない」と笑っている。
「じゃあ、部屋で飲むよ」
「……一本だけにしておけ」
ちなみに喫煙は厳禁。
嗅覚も味覚も料理人にとっては命。
あまり興味もなかったからいいけど。
紗理奈と二人でテレビを見ながらスマホを弄って夜を過ごす。
そして時間になると寝る。
朝になると準備をしてから学校に行く。
学校で美衣たちと一緒に話をする。
そんな毎日を繰り返していた。
(2)
そいつは突然泣き出した。
女子が泣き出せば当然騒ぎになる。
「落ち着いて」
そう言って慰めようとする男子なんて1人もいない。
仕方ないから私が近づいて「どうした?」と話を聞く。
泣き出した女子の名前は水沢華月。
事の始まりは前の授業からだった。
華月が授業が終わって黒板を消しているととあるグループからクレームがつく。
「まだ書いてる途中だったのに!」
その授業の教師はどうでもいい事まで一々黒板に書いては消してを繰り返す忙しい野郎だった。
大抵の奴は要点だけ書くか、教科書にメモ書きするかのどちらかになる。
ぶっちゃけ授業の内容もしょうもない話が多くて、教科書を授業の範囲だけ丸写して覚えた方が速いほどだ。
要するにくそ真面目に黒板を写す奴なんていない。
ただの言いがかりだろう。
言いがかりだった。
次の授業の音楽で華月にティッシュのゴミを投げつけていた。
いい歳こいて下らねー真似してんな。
そんな風に私は見ていた。
だけど華月は気が弱い。
耐えられなかったのだろう。
様々な感情が押し寄せて耐えきれず泣き出してしまった。
2学期はどうしてこうもしょうもない事件が起こるのだろう?
まあ、そろそろ様々な派閥が出来て仲間外れになった奴が的になる時期だ。
とりあえず華月にハンカチを差し出す。
「自分で持ってるから大丈夫、迷惑かけてごめん」
そう言って自分のハンカチをポケットから取り出して涙を拭く。
SHは更に拡大するつもりらしい。
「華月、スマホ持ってる?」
「持ってる」
まあ、持ってない高校生を探す方がめんどくさいよな。
「連絡先交換しようぜ」
そう言って華月と連絡先を交換するとSHに招待する。
「単なる遊び友達のグループ」
顔を見たことがない奴もいるくらい市内では勢力が強いグループ。
市内だけに限るなら多分最強のグループだろう。
正体が終ると天音達に事情を説明する。
昼休みになると天音達がゴミ箱をもって1年の教室にやってくる。
そしてさっきのグループの奴等のもとにいくと奴等の頭上にゴミ箱の中味をかぶせる。
大体が紙くずだった。
「紗理奈どうだ?」
「うーん、いまいち面白みに欠けるな」
「だな、つまらん。帰ろうぜ」
好き勝手な事言って帰ろうとする天音達を無謀にもそいつらは呼び止めた。
「何するんだよ!」
「なんか文句あるの?あるなら聞いてやるけど?」
天音は立ち止まって振り返るとそう言った。
「これは何のつもり?」
奴等が答えると天音は当然のように答えた。
「いや、なんかゴミクズをぶつける遊びが流行ってるって聞いたから試しに来たんだけどあまりに下らねーから帰ろうと思っただけだ」
「ふざけんな!」
「お、やる気か?そっちがその気なら受けて立つぜ。下級生ぶっ飛ばしても面白くないけど喧嘩売ってくるなら話は別だ」
「何ならお前らをごみクズにしてやろうか?」
端からそのつもりで来たんだろう天音と紗理奈は身構える。
だけど奴らはじっとしている。
「どうしたんだ?むかついてるんだろ?かかってこいよ」
「やりっぱなしってのも悪いからな。後始末くらいしてやるぜ」
2人が挑発するけど奴等はただ震えているだけだった。
「そんな度胸もないやつが気の弱い奴いびって楽しんでるんじゃねーよ」
「ゴミは自分たちで片づけておけよ。茉里奈、また放課後な」
そう言って2人は自分の教室に帰って言った。
「華月!あんたの差し金!?」
奴等は華月を責める。
多分それを庇うのが私の仕事だろう。
「告げ口したのは私だけど。私でいいなら相手するよ?」
どうせ何も出来ないんだろ?
何もできなかった。
黙ってゴミを集める。
目を赤く腫らしていた。
私は華月に言って昼食を楽しんだ。
帰りに寄り道して帰る。
少し人見知りするところもあったけど、天音と紗理奈が積極的にからんでいると段々打ち解けていく。
帰りは天音達の近所だったので一緒に帰る。
掴んだ拳を使えずに言葉を失くしてる者がいた。
誰かが傷つけられたら私が代わりに牙をむいてあげよう。
そいつが自分を無くさないように。
生きることが哀しいかい?
信じる言葉も無いのかい?
だけどわずかな力が沈まない限り涙はいつも振り切れるから、今から一緒にこれから一緒にそいつを殴りに行こう。
病まない心で、消えない心で。
(3)
ある日の給食時間笑い声がした。
そいつらは大声で話していたので耳を澄ませなくても聞こえてきた。
中傷されてるのは河原梢。
特に問題もないけど個性もない。
普通の女子高生。
普通の女子高生ってだけで喜ぶおっさんもいるらしいけど。
そいつらは不満だったみたいだ。
名前ももらえない雑魚が何をほざいてるんだか。
「梢のような冗談が通じない人間なんて入れてくれるつまらないグループなんてない。ずっと一人でいればいい」
そんな戯言を言っていた。
それは、「押すな、絶対に押すなよ」と言われるようなもんだ。
私と美衣は互いの顔を見て頷くと梢のいる机に向かった。
そのグループは私達に気付いて私たちを見る。
「な、なんだよ。別にお前らの事なんか話してないぞ」
「いやあ、面白そうなことしてるからさ。梢もらっていいかな?」
「は?」
「どうも、つまらないグループでーす」
美衣が言う。
普通にただ絡みに来ただけ。
「こんなやつくれてやるよ。持っていきな!」
「いやあ、悪いね。じゃ、梢とりあえず連絡先交換しようか?」
「渡辺本気で言ってるのか……?」
「ああ、本気だよ。この冗談が通じない何の特徴もないただの女子高生を引き取りに来た」
スマホを操作しながら話をしている。
梢と連絡先を交換するとSHに招待する。
梢は状況が理解できてないようだ。
「これで梢は私達の仲間だ。こっちこいよ。皆に紹介してやるから」
そう言って私は梢の手を引っ張り美衣は梢の弁当を持つ。
そして立ち止まって言う。
「梢、彼氏も入ってるから心配しなくていいぞ」
石原大地、片桐天音、そして私の姉の紗理奈を通じて彼氏がいる事は把握していた。
「へ?」
梢と名無しグループが同時に言った。
どうせそんなこったろうと思った。
私は振り返って名無しグループを見る。
「そんなに驚く事か?お前らも自分で言ってたろ?梢は何の変哲もないただの女子高生だって」
普通の女子高生なら、当たり前に恋をする。
幼稚園児だって恋をする世界なのだから当然だ。
そして普通の女子高生なら当たり前に彼氏がいてやる事も済ませる。
夏休みという絶好の時間があったんだ。
無い方がおかしい。
少なくとも策者の脳内ではそうなってるようだ。
「まさか、あなた達彼氏いないの?」
美衣がわざとらしく驚いている。
SHのメンバーから声が聞こえてくる。
「今時乙女の純血なんて守ってるなんてすごいじゃない。天然記念物だよ」
なんせ小学生から盛りがついて中学生の時に済ませるやつが当たり前にいるからな。
エロゲーの世界では小学生でやってしまうらしいぞ。
「それとも単に相手がいないだけ?」
「駄目だよ加織。そういう事言ったら。乙女心を傷つけちゃう」
加織と利香が言うとSHの皆が笑っている。
「あんた達人の事言えるの!?見栄張ってるだけじゃないの!?」
名無しグループが反論する。
「え?普通に済ませたけど?」
SHの皆は口をそろえて言う。
大人しい伊東胡桃ですら済ませたらしい。
夏休みの間ずっと見舞いに来て部屋で話して親が留守の間にそういう雰囲気になったんだそうだ。
まあ、親がいてもするだろうな。
まあ、そういうわけで何も言い返せなくなってしまった名無しグループを後目に私達のグループに梢を招待する。
「話は朋也から聞いてたわけなんだね」
梢が聞いてくると私達は頷いた。
でもまだ浮かない顔をしている。
「私といてもつまんないよ?」
「それはねーよ」
私が即答した。
「本当に自分がつまらない人間だと思ってるなら今すぐ朋也に謝れ。そんな梢を愛してくれてる家族に謝れ」
少なくとも家族や恋人を引き寄せる何かをもっているから今の梢が居るんだ。
「そうだね。茉里奈の言う通りかもしれない」
「そんな辛気臭い面見たくて呼んだわけじゃねーよ」
「ごめん、私どうしてもだめみたいで」
「そんな時はあれしかないな。梢、どうせ放課後真っ直ぐ帰るつもりだっただろ?ちょっと付き合えよ」
まさか、調理科で塾通ってるなんて真似してねーよな?
放課後梢を連れて私達はゲーセンに言った。
面白くない奴なんていない。
それはそいつとの接し方を間違えている証拠。
そしてそいつと正しく接する奴を仲間と呼ぶ。
そうやって友達は増やしていく者なんだ。
形だけじゃなくて言葉だけじゃなくて。
ありのままのそいつに認めてやる事が大切なんだろう。
(4)
クラスは朝から騒然としていた。
桑野季咲。
クラスでは目立たないタイプ。
模範生の一人。
別にボッチだったわけじゃない。
グループにも所属していた。
そのグループが季咲に相応しいグループだったかは別だけど。
その季咲が突然変貌を遂げた。
長くて綺麗だった髪を切りベリーショートにまで短くした上金髪に染めていた。
夏休みの間に何かあったのか?
始業式からそれの髪形ならそうなんだろうけどもう1週間は過ぎてる。
彼氏と上手くいかなかったか?
そんな話もSHでは聞いていない。
季咲の彼氏の丸岡光則はSHに所属している防府高校の2年生。
事情を確認する為に写真を撮って送ったら驚いていた。
そういや、昨日季咲のグループ遅かったな。
色々考えるより本人に問い詰めた方が早い。
私達は昼休み季咲を呼び出していた。
「何があったか正直に話せ」
「ただのイメチェンだよ……に、似合わないかな?」
笑って誤魔化す。
怒鳴りつけても逆効果だ。
「お前の彼氏も心配している。私達を信用してもらえないか?」
そう言うと、季咲は泣き出した。
このグループにいたら自分はダメになってしまう。
そう思った季咲はグループを抜けると告げた。
するとグループの連中は季咲を押さえつけてバリカンで髪を刈り取りそして髪を無理矢理脱色したらしい。
「次またふざけたこと言ったら丸刈りだからな」
グループの連中はそう言って帰ったらしい。
ふざけてるのはどっちだ。
まずは季咲からだな。
「季咲近所だよね?私良い美容室しってるから今日帰りに寄ろう?」
睦月が言う。
季咲の事は睦月に任せるとしてグループの連中はただで置くわけにはいかない。
天音が預かってるって言ったな。
スマホでメッセージを送って事情を説明する。
その間に睦月が季咲をグループに入れる。
「皆を巻き込むわけにはいかない」
最初はそう言って抵抗していた季咲だったが睦月が優しく説明する。
「倍返しって知ってる?私達に任せて」
倍どころか100倍くらいにして仇はとってやる。
髪を伸ばすのにどれだけ時間かかかるか。
手入れにどれだけ手間をかけるか。
男子なら想像がつかないだろうけど、同じ女子がやるなんて悪意以外の何物でもない。
そういう奴には手加減する必要はないと母さんから教えられている。
放課後睦月と一緒に帰ろうとする季咲の腕をグループの連中が掴む。
その肩を私が抑えた。
「お前ら先に帰れ。後は私が話をつけておく」
そう言って季咲の腕を掴む手を無理矢理はがすと2人は帰っていった。
「なんの真似だ?渡辺」
そいつは私を睨む。
「季咲は私達が預かった。お前らのグループからは抜ける」
「……ただで抜けられると思ってるのか?」
「思ってない。ただで済ます気もない。話は季咲から聞いてる」
「だったら、季咲をここに呼び戻せ!」
「その必要はないな」
教室にやってきたのは紗理奈と天音だった。
「話は聞いてる。次ふざけたことを言ったら丸刈りだったな。ほら、茉里奈持って来たぞ」
そう言って天音がバリカンを差し出すとそれを受け取る。
「ああ、お前が代わりに丸刈りになるってならそれで許してやる」
どこまでも間抜けな奴だ。
美衣と加織がリーダーの体を押さえつける。
そのリーダーの前に私は立つと見下ろす。
「次ふざけた真似をしたら丸刈りだったな?」
「て、てめえ。ふざけんな」
「ふざけてなんかいねーよ。やられたらやり返すのが私らのやり方だ」
加勢しようと仲間が近づいてくるとその間に天音と紗理奈が立つ。
「リーダー1人で勘弁してやろうと思ったが、加わりたいなら手助けしてやるぞ?」
天音がいうと仲間は後ずさる。
「さて、どういう髪形がお好みだ?」
「頼む、あいつには金輪際手を出さない。見逃してくれ」
みっともなく泣きわめいて謝罪するリーダー。
そんなの無視して天音達に助言を求めた。
皆で相談する。
女性で丸刈りは意外と有名人に多い。
だからつまらない。
そういや中国で髪の毛を刈り取って後頭部にアートを作るのが流行ってると聞いたな。
難しいのは無理だから日の丸にしとくか。
ヘアスタイルが決まると早速駆り出す。
上手く丸が作れない。
段々イライラしてきたので全部刈り取った。
結局坊主になる。
まあ、眉毛も沿ってるしちょうどいいだろう。
リーダーは泣いている。
同情するSHのメンバーはいなかった。
自業自得だ。
翌日からリーダーは学校を休んだ。
まあ、ベリーショートになるくらいになるまでは出てこないつもりだろう。
こっちは刈り取った髪の毛の処理に苦労したのでその代償を払わせなければならないのに。
一方季咲は黒色に戻して髪の毛もカットしてもらったようだ。
とても似合ってた。
彼氏にも写真を送ったらしい。
彼氏に褒めてもらえたらしくて、とてもうれしそうにしていた。
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