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夏の嵐
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(1)
「あなたが赤松景太郎?」
ドアを開けると同い年くらいの活発そうな女の子がそう聞いてきた。
もちろん僕はその女子が誰なのか知らない。
しかしその女子は僕の事を知っているみたいだ。
そしてあまりよく思われていないらしいのは僕を睨む女子の顔を見ればわかる。
「そうだけど君は?」
「私は成瀬川白梅。由衣姉の妹」
由衣の妹か。
「由衣は用事があって出かけてるけど?」
「知ってる、呼び出したのはキリクだから」
ってことは、魅惑の魔眼絡みの話か。
じゃあ、この子はどうして家に来たのだろう?
「白梅さんは僕に用があるの?」
「そうだよ。単刀直入に言う。私達の事は一切忘れて平穏無事な生活に戻りなさい」
「どうして?」
「景太郎は利用されているだけだから」
創世神が僕を利用している?
その意図は?
僕をリーダーに据えるメリットは?
「……とりあえず上がりなよ。あまり他の人に聞かれたくないだろ」
そう言って白梅さんをリビングに案内する。
ジュースと菓子を用意して僕もリビングの席に着く。
「で、理由を詳しく聞かせてほしいんだけど」
僕がそう言うと白梅さんはジュースを一口飲んでから話した。
「創世神と魅惑の魔眼の関係はどこまで由衣姉から聞いたの?」
創世神のメンバーは魅惑の魔眼を裏切った者たちの集まりだという事は聞いていた。
その理由はイーリス。
そのイーリスの詳細は聞いていない。
ただ人が手にしていいものではないブラックボックスみたいな物だとは聞いていた。
それを武内翔和が手に入れて何の得があるのかは聞いていない。
僕が由衣から聞いたことを白梅さんにすべて話した。
その間白梅さんは静かに僕の話を聞いていた。
「わかった。……で、景太郎はどうしようと思うの?」
「創世神の活動を止めさせようと思う」
出来れば和解させたい。
そんな僕の考えを白梅さんは真っ向から否定した。
「そんな甘い考えだったんだね。やっぱり手を引くべきよ」
「甘い考えでもきっと叶うと僕は思ってる」
「……キリクも同じだった」
え?
「イーリスを外敵から守る。そう提案したのは翔和の方だった」
どういうことだ?
白梅さんの話を聞くことにした。
イーリスを外敵が狙っている。
イーリス自体にも防壁がいくつもある。
だけど、何もしないでいたら、いつかイーリスを奪われるかもしれない。
イーリスを手に入れたら地元を支配できる。
そんな噂がネットに流れ始めた。
だから守らなければならない。
翔和とキリクは相談して魅惑の魔眼を結成した。
しかしそれは翔和の計画通りだった。
噂を流したのは翔和だった。
イーリスの防壁は固い。
だから人海戦術で無理矢理突破しようとした。
翔和の目的はそれだけじゃない。
イーリスの正体を知っているキリクが、今の場所では危険だと判断すれば当然どこかへ持ち出すはず。
そして翔和の狙い通りになった。
キリクがイーリスに接触しようとした時を狙って翔和はキリクを襲った。
しかし最悪の事態は免れた。
キリクは翔和からイーリスを守り抜いた。
そして翔和は創世神を作った。
創世神だけじゃない。
いくつものギャングがイーリスを狙っている。
「わかった?翔和は絶対に何か企んでる。景太郎の手におえる相手じゃない」
確かに何か裏がありそうな気がしてきた。
だけど……
「僕に何もできなかったとしても、創世神の動きを由衣に伝える事くらいは出来るよ」
「あんた馬鹿?それを利用するとか考えないの?」
「どっちにしろ何も分からない状態なのは魅惑の魔眼にとって不利じゃないの?」
防御に徹すれば固いかもしれないけど、持久戦になれば不利に転じる。
「……私が説得しても無理みたいね」
「うん、無理。私が説得しても駄目だったんだから」
振り返ると由衣が帰ってきていた。
「キリクから話は聞いた。その上でどうしても説得したいならキリクが直接説得するしかないって話になった」
由衣が言うと白梅さんはため息を吐いた。
「由衣姉が言うならしょうがないわね。近いうちにキリクに会ってもらう」
「ありがとう」
「後悔してもしらないからね。ただのギャングの抗争じゃ済まないわよ」
そう言って白梅さんは帰っていった。
その晩僕はネットを使ってある人物に接触しようと試みた。
その人物の名前は”スカーレット”
地元最強のホワイトハッカー。
SHの一員らしい。
話の流れからしてネット上に存在する何かなんじゃないかと思ったから。
それならスカーレットに聞くのが早い。
だけど、SHのグループチャットにスカーレットの言葉を出すと誰も知らないという。
噂だけだったのか。
諦めて寝ようとすると、スマホが鳴った。
「この連絡先を辿っても私にはたどり着けない。用件だけ聞く」
この人物がスカーレットなのか?
「ある物を探している。イーリスという名の物」
「それはネット上には存在しない。他の手掛かりはないの?」
僕は考えて何かヒントのような物が無いか考えた。
あるじゃないか。
「魅惑の魔眼、創世神……」
「……分かった。分かったらこちらから知らせる」
余計な詮索はするな。
そう言ってスカーレットとの接触は終った。
SHに情報をリークしてしまった。
でも相手が巨大な組織なら最後の切り札はSHしかない。
あとはキリクからどんな情報を引き出せるのか。
それだけが気になった。
(2)
「美穂おめでとう!……ってふざけんな!このくそ暑いときに熱々っぷりを見せつけやがって!」
「天音、めでたい席なんだから」
「大丈夫、いつも通りで安心した。ありがとうね」
今日は天音の友達の大垣美穂の誕生日だった。
式場は僕の母さんに手配してもらった。
美穂さんの相手の朝倉瑛一さんはとは10くらい離れた歳の差婚。
それでも美穂さんと真面目に交際を3年続けてのゴールイン。
卒業する時にプロポーズされたらしい。
披露宴が終ると、今回はさすがにSHのメンバーだけでというわけには行かない。
2次会には朝倉さんの友人等も来ていた。
「くそ、高校教師にこんな裏技があったなんて。羨ましいぞ!」
朝倉さんの友人たちも祝っているみたいだ。
僕は天音が暴走しないようにブレーキをかける役目。
しかしその必要ももうあまりなくなっていた。
天音は高校を卒業して明らかに変わった。
TPOというものを弁えるようになっていた。
僕の嫁という立場が天音をそうさせているのだろうか。
それとも天音の祖母の事を考えてそんな気分になれないのだろうか。
実際今日まで天音は沈んでいた。
いいタイミングで美穂さんの結婚式が行われた。
だからちょっとくらいなら天音の横暴も許してあげようと思ったけど、やはり大人しい。
友達の紗理奈さんや水奈が声をかけてもやはりどこか遠慮している様だ。
「私、明日バイトあるから帰るわ」
天音はそう言って2次会が終ると帰ろうとする。
「天音なら徹夜くらい余裕だろ」
水奈が言うけど、その水奈も明日バイトだからと水奈の夫の学が迎えに来て強制連行された。
「天音こないんだったら俺らも帰るか」
遊が言うとなずなが頷く。
「お、お前らは楽しんで来いよ。美穂に悪いし」
「あ、私達も旦那が仕事だから……」
美穂さんが言うと結局2次会でお開きとなった。
2次会の場所から家までは歩いて帰れる距離。
「じゃ、帰ろうか。大地」
「……もう一軒だけいいかな?」
「どうしたんだ?珍しいな」
「そういう気分だから」
「変な店連れて行ったら絞めるからな」
「天音がいるのにそんな馬鹿な真似しないよ」
そう言って連れて行ったのは繁華街の外れのウィスキーバー。
僕はストレート、天音は水割りを頼んだ。
「で、何があったんだ?」
天音が一口飲んでから言った。
「天音さ、無理してない?」
「無理?」
天音が聞き返すと僕はうなずいた。
「いつもの天音じゃない。なんか無理している。僕ってそんなに信頼ない?」
「信用してない奴と結婚する馬鹿いないだろ」
「じゃあ、もっと僕を頼って欲しい」
「どうしてそう思ったんだ?」
「天音、お祖母ちゃんの事があってから明らかに変わった」
「……大地に隠し事は出来ないな」
天音はそう言って笑う。
そしてウィスキーを飲み干してお代わりを頼むと話し出した。
「正直自分でも分からないんだ。私のしている事が正しいのか」
天音のお祖母さんを喜ばせる為に結婚したって僕の気持ちを無視してないか。
天音はそう考えたみたいだ。
「僕からプロポーズしたんだから天音が負い目を感じる事無いよ」
「大地はいつもそうやって私のお願いを聞き入れてくれてる。だけど私は大地に何をしてやれる?」
結婚式を無理に9月にしたのも単に天音の我儘なんじゃないか。
天音はそう捉えたらしい。
天音が僕にしてやれることか。
僕が父さんに聞いた話があった。
「……いつか帰る場所」
僕がそう言うと天音は僕の顔を見た。
「天音が笑って僕に”ただいま”って言ってくれる。居心地のいい居場所を用意してくれてる。僕はそれだけで十分だよ」
明日を生きる糧になる。
母さんも言っていた。
「家に帰りたくなる場所を用意することが妻の務めなの」
安心して休める場所を用意してくれることが大事なんだって。
すると天音が笑い出した。
「それ愛莉も言ってた」
「なら、悩む必要は無いよね?」
「……そうだな」
じゃあ、話は終わりだ。
だと、思ってたけど違うみたいだ。
「なあ、大地」
「どうしたの?」
「ありがとうな。大地は私がいるから安心して帰ってこれるっていうけど、私も同じなんだ」
僕が元気に帰ってくるのを心待ちにしているらしい。
僕がいることが天音の幸せなんだ。
「ちょっと酔いがまわったみたいだ。忘れてくれ」
「忘れないよ」
「そう言う時だけしっかりしてんだな」
久しぶりに見た天音の笑顔。
店を出ると天音が言った。
「やっぱり締めはラーメンだろ!」
僕は家でお茶漬けでもいいんだけどな。
まあ、天音の自由にさせてやろう。
ラーメン屋でラーメンを食べると、家に帰って来た時には日付が変わっていた。
それから二人シャワーを浴びてベッドに入る。
天音が抱き着いてきた。
「大地……人が死ぬってどういうことなのかな?」
「ごめん、僕にも分からない」
あんなに元気そうだった天音のお祖母さんがもう年を越せない。
「嘘だ!!」
なんかのアニメの様に叫びたいのを必死に堪えているんだろう。
でもそんな残酷な物語は決して曲がらない。
だから少しでもいい思い出を。
生きる喜びを。
明日への糧を。
天音はそんな思いでいっぱいなんだろう。
「まだ時間はあるよ。もっと楽しい思い出作ってあげよう」
「……そうだな」
僕はまだ肉親がそうなったことがないから天音の気持ちを全部わかることはできない。
出来るだけの事をしてやるしかない。
「……一つだけ我儘を言ってもいいか?」
「いくらでも言いなよ」
「私をおいて逝くなんてことはやめてくれ」
「わかったよ。僕が天音を最後まで見てるから」
「ありがとう」
そういうと天音は眠ったようだ。
朝までそんなに時間がないけど僕も少しだけでも睡眠をとることにした。
そして朝天音が元気に起こしてくれる。
「夏休みだからってだらけた生活はだめだぞ!」
「わかってるよ」
ベッドから出ると、天音が作った朝食を食べる。
そして片づけは僕がするからとバイトに行く天音を見送る。
「変な事するんじゃねーぞ。するなら私を相手にしろ」
そんな冗談を言いながら天音はバイト先に出かけた。
あの笑顔をあとどれだけ守ることが出来るのだろうか。
(3)
僕は今公園に向かう小道で、無数のバイクの前に立ちふさがっている。
隣には美希が立っている。
2体多数。
あまりにも無謀だけどSH全員が動けば混乱が起きてライブが中止になりかねない。
他にも善明と翼や天音と大地が別の道で同じように暴徒の侵入を防いでいる。
今日はただの抗争じゃない。
そんなことしている場合じゃないくらい分かってる。
天音も「こんなくそ暑い中暑苦しい真似やってられるか!」と嫌がったくらいだ。
じゃあ、どうしてこんな真似をしているかというと、美希の母親の依頼だった。
若草公園でUSE主催のライブをやる。
きっと暴走族が妨害をしてくるだろうから警備をお願いしたい。
美希の家が雇っている傭兵ではやはり混乱が生じてしまう。
遊や粋も関わってるらしいので放っておくことは出来なかった。
「このくそ暑い中余計な仕事増やしやがって、勝次はこのまま火葬してやる」
天音がそう言っていたけど多分大地から天音の近況は聞いていたし、大地もいるから暴走はしないだろう。
とりあえずは天音の心配より僕の心配をした方がよさそうだ。
「ちいとどいてくんねえかな?兄ちゃん。綺麗な彼女の顔を傷つけたくないだろ?」
綺麗な彼女というのに異論はない。
ただ美希の顔に傷をつけるなんて絶対無理だろう。
今はそんな事は関係ない。
こっちの要件を手短に伝えた。
「この道は通行止めだ。他をあたれ」
「はぁ?」
予想通りの回答が返ってきて、暴徒は笑っていた。
「”はいそうですか”と引き下がるとでも思ってんのか!」
そう言って僕の肩を掴もうとする暴徒の手は、僕に届くことなく僕の拳が暴徒を捉え殴り飛ばす。
大げさなくらいに男は吹き飛んだ。
奥歯どころか顎を吹き飛ばすくらいの勢いで殴り飛ばした。
「もう一度言う。この道は通行止めだ。他をあたれ」
暴徒たちは激高するが、僕の威嚇が効いたのか引き下がっていった。
「大事故にならなくてよかったね」
美希がそう言ってハンカチを貸してくれた。
「あとでかき氷でも食べて帰ろうか?」
「かき氷じゃお腹膨れないよ?」
「ラーメンとかき氷どっちが先がいい?」
「うーん、ラーメンかな」
そんなやりとりをしながらライブが終るまでの間警備をしていた。
ライブは遊や粋が所属する暴走族”雪華団”の亡くなった人の追悼ライブなんだそうだ。
会場の確保とかを大地に相談したところ、大地の母さんが取引をもちかけた。
「ライブ会場は手配してあげる。費用は当社で負担します。その代わり条件があります」
「条件?」
「まだ中学生なんだけど有望なバンドをいくつか抱えてるの。そのバンドをデビューさせたい」
そういう条件で今日ライブが行われた。
ライブは大盛況で終わり、僕達も引き上げラーメンを食べていた。
するとSHのグループチャットが盛り上がっていた。
間の悪い事に勝次の集団が天音と遭遇したらしい。
「お前の葬式もこのくらい派手にしてやろうか?」
天音がそう言うと勝次たちは逃げるように帰っていったそうだ。
何はともあれ僕達は一仕事を終えた。
ちゃんと報酬もくれるらしい。
「もうすぐ夏が終わるね」
美希がそう言った。
「そうだね。夏休みはまだ終わらないけど」
「来月には天音の結婚式だよね……」
その話を聞いた時には驚いた。
いくらなんでも早すぎるだろ。
理由はお祖母ちゃんが来年まで持つか分からないから少しでも夢を見させてやりたい。
天音なりの優しさなのだろう。
美希からの告白があってもう10年か。
変らない事、変わってしまった事。
いろいろな事があった。
僕はあることを思いついた。
「ねえ美希。僕達も約束しない?」
「約束?」
「10年後もずっと一緒にいるって約束しようよ」
「え?」
「だめ?」
「そんなわけない……でも」
「美希が望むなら僕の人生を全て翼に預けるよ」
「空、10年とかけち臭い事言わないでよ」
ずっと一緒にいるから。
(4)
天草時春が死んだ。
その話を聞いた時は寝耳に水だった。
別府のSAで猫を庇ってトラックにはねられたらしい。
若草公園のライブでは観客全員を虜にしたギタリスト。
伝説の男にしてはあまりにも呆気ない死にざまだった。
信じたくない話。
だが、ニュースや新聞などを見ていると彼の死が報じられている。
テレビやPCを消して呆然としていると家に誰か来たらしい。
母さんが僕を呼ぶので玄関に向かう。
すると一人の年老いた男性が立っていた。
暑い夏だというのに黒い燕尾服を来て立っている。
「あなたが浅井徹様で間違いありませんか?」
僕の事を知っている様だ。
僕が頷くと老人はにこりと笑った。
「私は天草時春様の使いの者です」
天草君の?
何の用事だろう?
「少し時晴様の家までご同行願えませんか?」
天草君の?
僕は出かける準備をすると家を出る。
家の前には黒いリムジンが止まっていた。
天草君の家はお金持ちだった?
車の中で話を聞いた。
天草君の家は武器商人をやっているらしい。
だから両親共に海外に出向いて一人でいる時が多いらしい。
天草君の家は田後にあった。
大きな屋敷だ。
使いの人が電話をすると門が開く。
初めてくる天草君の家。
僕はガレージに連れていかれた。
そこには彼の遺品であるバイクがおいてあった。
バイクに乗ってはねられたわけではないらしくバイクは無傷だった。
「これを浅井様に。……時晴様の遺言でございます」
このバイクを?
僕が聞くと使いの人は話をつづけた。
このバイクについてある魔人の鉄槌というパーツを僕に預けるように言われたらしい。
それをどうして僕に渡そうとしたのかは今は知るすべもない。
だけど彼の形見として僕は受け取ることにした。
淳二君の家に電話してバイクを持っていくとすぐに部品の交換をお願いした。
部品の交換自体はすぐに済んだ。
だけど淳二君は言った。
「この部品は通常時では使えない」
かなりの速度を出さないと真価を発揮しないらしい。
「使う時はかなり危険だと覚悟しとけ」
僕は頷くと家に帰る。
確かに普通に走った感じ別に違和感を感じない。
これは眠れる獅子。
恐らく使う事は無いだろう。
天草君が僕に託した意味を考えながらその日は過ごしていた。
「あなたが赤松景太郎?」
ドアを開けると同い年くらいの活発そうな女の子がそう聞いてきた。
もちろん僕はその女子が誰なのか知らない。
しかしその女子は僕の事を知っているみたいだ。
そしてあまりよく思われていないらしいのは僕を睨む女子の顔を見ればわかる。
「そうだけど君は?」
「私は成瀬川白梅。由衣姉の妹」
由衣の妹か。
「由衣は用事があって出かけてるけど?」
「知ってる、呼び出したのはキリクだから」
ってことは、魅惑の魔眼絡みの話か。
じゃあ、この子はどうして家に来たのだろう?
「白梅さんは僕に用があるの?」
「そうだよ。単刀直入に言う。私達の事は一切忘れて平穏無事な生活に戻りなさい」
「どうして?」
「景太郎は利用されているだけだから」
創世神が僕を利用している?
その意図は?
僕をリーダーに据えるメリットは?
「……とりあえず上がりなよ。あまり他の人に聞かれたくないだろ」
そう言って白梅さんをリビングに案内する。
ジュースと菓子を用意して僕もリビングの席に着く。
「で、理由を詳しく聞かせてほしいんだけど」
僕がそう言うと白梅さんはジュースを一口飲んでから話した。
「創世神と魅惑の魔眼の関係はどこまで由衣姉から聞いたの?」
創世神のメンバーは魅惑の魔眼を裏切った者たちの集まりだという事は聞いていた。
その理由はイーリス。
そのイーリスの詳細は聞いていない。
ただ人が手にしていいものではないブラックボックスみたいな物だとは聞いていた。
それを武内翔和が手に入れて何の得があるのかは聞いていない。
僕が由衣から聞いたことを白梅さんにすべて話した。
その間白梅さんは静かに僕の話を聞いていた。
「わかった。……で、景太郎はどうしようと思うの?」
「創世神の活動を止めさせようと思う」
出来れば和解させたい。
そんな僕の考えを白梅さんは真っ向から否定した。
「そんな甘い考えだったんだね。やっぱり手を引くべきよ」
「甘い考えでもきっと叶うと僕は思ってる」
「……キリクも同じだった」
え?
「イーリスを外敵から守る。そう提案したのは翔和の方だった」
どういうことだ?
白梅さんの話を聞くことにした。
イーリスを外敵が狙っている。
イーリス自体にも防壁がいくつもある。
だけど、何もしないでいたら、いつかイーリスを奪われるかもしれない。
イーリスを手に入れたら地元を支配できる。
そんな噂がネットに流れ始めた。
だから守らなければならない。
翔和とキリクは相談して魅惑の魔眼を結成した。
しかしそれは翔和の計画通りだった。
噂を流したのは翔和だった。
イーリスの防壁は固い。
だから人海戦術で無理矢理突破しようとした。
翔和の目的はそれだけじゃない。
イーリスの正体を知っているキリクが、今の場所では危険だと判断すれば当然どこかへ持ち出すはず。
そして翔和の狙い通りになった。
キリクがイーリスに接触しようとした時を狙って翔和はキリクを襲った。
しかし最悪の事態は免れた。
キリクは翔和からイーリスを守り抜いた。
そして翔和は創世神を作った。
創世神だけじゃない。
いくつものギャングがイーリスを狙っている。
「わかった?翔和は絶対に何か企んでる。景太郎の手におえる相手じゃない」
確かに何か裏がありそうな気がしてきた。
だけど……
「僕に何もできなかったとしても、創世神の動きを由衣に伝える事くらいは出来るよ」
「あんた馬鹿?それを利用するとか考えないの?」
「どっちにしろ何も分からない状態なのは魅惑の魔眼にとって不利じゃないの?」
防御に徹すれば固いかもしれないけど、持久戦になれば不利に転じる。
「……私が説得しても無理みたいね」
「うん、無理。私が説得しても駄目だったんだから」
振り返ると由衣が帰ってきていた。
「キリクから話は聞いた。その上でどうしても説得したいならキリクが直接説得するしかないって話になった」
由衣が言うと白梅さんはため息を吐いた。
「由衣姉が言うならしょうがないわね。近いうちにキリクに会ってもらう」
「ありがとう」
「後悔してもしらないからね。ただのギャングの抗争じゃ済まないわよ」
そう言って白梅さんは帰っていった。
その晩僕はネットを使ってある人物に接触しようと試みた。
その人物の名前は”スカーレット”
地元最強のホワイトハッカー。
SHの一員らしい。
話の流れからしてネット上に存在する何かなんじゃないかと思ったから。
それならスカーレットに聞くのが早い。
だけど、SHのグループチャットにスカーレットの言葉を出すと誰も知らないという。
噂だけだったのか。
諦めて寝ようとすると、スマホが鳴った。
「この連絡先を辿っても私にはたどり着けない。用件だけ聞く」
この人物がスカーレットなのか?
「ある物を探している。イーリスという名の物」
「それはネット上には存在しない。他の手掛かりはないの?」
僕は考えて何かヒントのような物が無いか考えた。
あるじゃないか。
「魅惑の魔眼、創世神……」
「……分かった。分かったらこちらから知らせる」
余計な詮索はするな。
そう言ってスカーレットとの接触は終った。
SHに情報をリークしてしまった。
でも相手が巨大な組織なら最後の切り札はSHしかない。
あとはキリクからどんな情報を引き出せるのか。
それだけが気になった。
(2)
「美穂おめでとう!……ってふざけんな!このくそ暑いときに熱々っぷりを見せつけやがって!」
「天音、めでたい席なんだから」
「大丈夫、いつも通りで安心した。ありがとうね」
今日は天音の友達の大垣美穂の誕生日だった。
式場は僕の母さんに手配してもらった。
美穂さんの相手の朝倉瑛一さんはとは10くらい離れた歳の差婚。
それでも美穂さんと真面目に交際を3年続けてのゴールイン。
卒業する時にプロポーズされたらしい。
披露宴が終ると、今回はさすがにSHのメンバーだけでというわけには行かない。
2次会には朝倉さんの友人等も来ていた。
「くそ、高校教師にこんな裏技があったなんて。羨ましいぞ!」
朝倉さんの友人たちも祝っているみたいだ。
僕は天音が暴走しないようにブレーキをかける役目。
しかしその必要ももうあまりなくなっていた。
天音は高校を卒業して明らかに変わった。
TPOというものを弁えるようになっていた。
僕の嫁という立場が天音をそうさせているのだろうか。
それとも天音の祖母の事を考えてそんな気分になれないのだろうか。
実際今日まで天音は沈んでいた。
いいタイミングで美穂さんの結婚式が行われた。
だからちょっとくらいなら天音の横暴も許してあげようと思ったけど、やはり大人しい。
友達の紗理奈さんや水奈が声をかけてもやはりどこか遠慮している様だ。
「私、明日バイトあるから帰るわ」
天音はそう言って2次会が終ると帰ろうとする。
「天音なら徹夜くらい余裕だろ」
水奈が言うけど、その水奈も明日バイトだからと水奈の夫の学が迎えに来て強制連行された。
「天音こないんだったら俺らも帰るか」
遊が言うとなずなが頷く。
「お、お前らは楽しんで来いよ。美穂に悪いし」
「あ、私達も旦那が仕事だから……」
美穂さんが言うと結局2次会でお開きとなった。
2次会の場所から家までは歩いて帰れる距離。
「じゃ、帰ろうか。大地」
「……もう一軒だけいいかな?」
「どうしたんだ?珍しいな」
「そういう気分だから」
「変な店連れて行ったら絞めるからな」
「天音がいるのにそんな馬鹿な真似しないよ」
そう言って連れて行ったのは繁華街の外れのウィスキーバー。
僕はストレート、天音は水割りを頼んだ。
「で、何があったんだ?」
天音が一口飲んでから言った。
「天音さ、無理してない?」
「無理?」
天音が聞き返すと僕はうなずいた。
「いつもの天音じゃない。なんか無理している。僕ってそんなに信頼ない?」
「信用してない奴と結婚する馬鹿いないだろ」
「じゃあ、もっと僕を頼って欲しい」
「どうしてそう思ったんだ?」
「天音、お祖母ちゃんの事があってから明らかに変わった」
「……大地に隠し事は出来ないな」
天音はそう言って笑う。
そしてウィスキーを飲み干してお代わりを頼むと話し出した。
「正直自分でも分からないんだ。私のしている事が正しいのか」
天音のお祖母さんを喜ばせる為に結婚したって僕の気持ちを無視してないか。
天音はそう考えたみたいだ。
「僕からプロポーズしたんだから天音が負い目を感じる事無いよ」
「大地はいつもそうやって私のお願いを聞き入れてくれてる。だけど私は大地に何をしてやれる?」
結婚式を無理に9月にしたのも単に天音の我儘なんじゃないか。
天音はそう捉えたらしい。
天音が僕にしてやれることか。
僕が父さんに聞いた話があった。
「……いつか帰る場所」
僕がそう言うと天音は僕の顔を見た。
「天音が笑って僕に”ただいま”って言ってくれる。居心地のいい居場所を用意してくれてる。僕はそれだけで十分だよ」
明日を生きる糧になる。
母さんも言っていた。
「家に帰りたくなる場所を用意することが妻の務めなの」
安心して休める場所を用意してくれることが大事なんだって。
すると天音が笑い出した。
「それ愛莉も言ってた」
「なら、悩む必要は無いよね?」
「……そうだな」
じゃあ、話は終わりだ。
だと、思ってたけど違うみたいだ。
「なあ、大地」
「どうしたの?」
「ありがとうな。大地は私がいるから安心して帰ってこれるっていうけど、私も同じなんだ」
僕が元気に帰ってくるのを心待ちにしているらしい。
僕がいることが天音の幸せなんだ。
「ちょっと酔いがまわったみたいだ。忘れてくれ」
「忘れないよ」
「そう言う時だけしっかりしてんだな」
久しぶりに見た天音の笑顔。
店を出ると天音が言った。
「やっぱり締めはラーメンだろ!」
僕は家でお茶漬けでもいいんだけどな。
まあ、天音の自由にさせてやろう。
ラーメン屋でラーメンを食べると、家に帰って来た時には日付が変わっていた。
それから二人シャワーを浴びてベッドに入る。
天音が抱き着いてきた。
「大地……人が死ぬってどういうことなのかな?」
「ごめん、僕にも分からない」
あんなに元気そうだった天音のお祖母さんがもう年を越せない。
「嘘だ!!」
なんかのアニメの様に叫びたいのを必死に堪えているんだろう。
でもそんな残酷な物語は決して曲がらない。
だから少しでもいい思い出を。
生きる喜びを。
明日への糧を。
天音はそんな思いでいっぱいなんだろう。
「まだ時間はあるよ。もっと楽しい思い出作ってあげよう」
「……そうだな」
僕はまだ肉親がそうなったことがないから天音の気持ちを全部わかることはできない。
出来るだけの事をしてやるしかない。
「……一つだけ我儘を言ってもいいか?」
「いくらでも言いなよ」
「私をおいて逝くなんてことはやめてくれ」
「わかったよ。僕が天音を最後まで見てるから」
「ありがとう」
そういうと天音は眠ったようだ。
朝までそんなに時間がないけど僕も少しだけでも睡眠をとることにした。
そして朝天音が元気に起こしてくれる。
「夏休みだからってだらけた生活はだめだぞ!」
「わかってるよ」
ベッドから出ると、天音が作った朝食を食べる。
そして片づけは僕がするからとバイトに行く天音を見送る。
「変な事するんじゃねーぞ。するなら私を相手にしろ」
そんな冗談を言いながら天音はバイト先に出かけた。
あの笑顔をあとどれだけ守ることが出来るのだろうか。
(3)
僕は今公園に向かう小道で、無数のバイクの前に立ちふさがっている。
隣には美希が立っている。
2体多数。
あまりにも無謀だけどSH全員が動けば混乱が起きてライブが中止になりかねない。
他にも善明と翼や天音と大地が別の道で同じように暴徒の侵入を防いでいる。
今日はただの抗争じゃない。
そんなことしている場合じゃないくらい分かってる。
天音も「こんなくそ暑い中暑苦しい真似やってられるか!」と嫌がったくらいだ。
じゃあ、どうしてこんな真似をしているかというと、美希の母親の依頼だった。
若草公園でUSE主催のライブをやる。
きっと暴走族が妨害をしてくるだろうから警備をお願いしたい。
美希の家が雇っている傭兵ではやはり混乱が生じてしまう。
遊や粋も関わってるらしいので放っておくことは出来なかった。
「このくそ暑い中余計な仕事増やしやがって、勝次はこのまま火葬してやる」
天音がそう言っていたけど多分大地から天音の近況は聞いていたし、大地もいるから暴走はしないだろう。
とりあえずは天音の心配より僕の心配をした方がよさそうだ。
「ちいとどいてくんねえかな?兄ちゃん。綺麗な彼女の顔を傷つけたくないだろ?」
綺麗な彼女というのに異論はない。
ただ美希の顔に傷をつけるなんて絶対無理だろう。
今はそんな事は関係ない。
こっちの要件を手短に伝えた。
「この道は通行止めだ。他をあたれ」
「はぁ?」
予想通りの回答が返ってきて、暴徒は笑っていた。
「”はいそうですか”と引き下がるとでも思ってんのか!」
そう言って僕の肩を掴もうとする暴徒の手は、僕に届くことなく僕の拳が暴徒を捉え殴り飛ばす。
大げさなくらいに男は吹き飛んだ。
奥歯どころか顎を吹き飛ばすくらいの勢いで殴り飛ばした。
「もう一度言う。この道は通行止めだ。他をあたれ」
暴徒たちは激高するが、僕の威嚇が効いたのか引き下がっていった。
「大事故にならなくてよかったね」
美希がそう言ってハンカチを貸してくれた。
「あとでかき氷でも食べて帰ろうか?」
「かき氷じゃお腹膨れないよ?」
「ラーメンとかき氷どっちが先がいい?」
「うーん、ラーメンかな」
そんなやりとりをしながらライブが終るまでの間警備をしていた。
ライブは遊や粋が所属する暴走族”雪華団”の亡くなった人の追悼ライブなんだそうだ。
会場の確保とかを大地に相談したところ、大地の母さんが取引をもちかけた。
「ライブ会場は手配してあげる。費用は当社で負担します。その代わり条件があります」
「条件?」
「まだ中学生なんだけど有望なバンドをいくつか抱えてるの。そのバンドをデビューさせたい」
そういう条件で今日ライブが行われた。
ライブは大盛況で終わり、僕達も引き上げラーメンを食べていた。
するとSHのグループチャットが盛り上がっていた。
間の悪い事に勝次の集団が天音と遭遇したらしい。
「お前の葬式もこのくらい派手にしてやろうか?」
天音がそう言うと勝次たちは逃げるように帰っていったそうだ。
何はともあれ僕達は一仕事を終えた。
ちゃんと報酬もくれるらしい。
「もうすぐ夏が終わるね」
美希がそう言った。
「そうだね。夏休みはまだ終わらないけど」
「来月には天音の結婚式だよね……」
その話を聞いた時には驚いた。
いくらなんでも早すぎるだろ。
理由はお祖母ちゃんが来年まで持つか分からないから少しでも夢を見させてやりたい。
天音なりの優しさなのだろう。
美希からの告白があってもう10年か。
変らない事、変わってしまった事。
いろいろな事があった。
僕はあることを思いついた。
「ねえ美希。僕達も約束しない?」
「約束?」
「10年後もずっと一緒にいるって約束しようよ」
「え?」
「だめ?」
「そんなわけない……でも」
「美希が望むなら僕の人生を全て翼に預けるよ」
「空、10年とかけち臭い事言わないでよ」
ずっと一緒にいるから。
(4)
天草時春が死んだ。
その話を聞いた時は寝耳に水だった。
別府のSAで猫を庇ってトラックにはねられたらしい。
若草公園のライブでは観客全員を虜にしたギタリスト。
伝説の男にしてはあまりにも呆気ない死にざまだった。
信じたくない話。
だが、ニュースや新聞などを見ていると彼の死が報じられている。
テレビやPCを消して呆然としていると家に誰か来たらしい。
母さんが僕を呼ぶので玄関に向かう。
すると一人の年老いた男性が立っていた。
暑い夏だというのに黒い燕尾服を来て立っている。
「あなたが浅井徹様で間違いありませんか?」
僕の事を知っている様だ。
僕が頷くと老人はにこりと笑った。
「私は天草時春様の使いの者です」
天草君の?
何の用事だろう?
「少し時晴様の家までご同行願えませんか?」
天草君の?
僕は出かける準備をすると家を出る。
家の前には黒いリムジンが止まっていた。
天草君の家はお金持ちだった?
車の中で話を聞いた。
天草君の家は武器商人をやっているらしい。
だから両親共に海外に出向いて一人でいる時が多いらしい。
天草君の家は田後にあった。
大きな屋敷だ。
使いの人が電話をすると門が開く。
初めてくる天草君の家。
僕はガレージに連れていかれた。
そこには彼の遺品であるバイクがおいてあった。
バイクに乗ってはねられたわけではないらしくバイクは無傷だった。
「これを浅井様に。……時晴様の遺言でございます」
このバイクを?
僕が聞くと使いの人は話をつづけた。
このバイクについてある魔人の鉄槌というパーツを僕に預けるように言われたらしい。
それをどうして僕に渡そうとしたのかは今は知るすべもない。
だけど彼の形見として僕は受け取ることにした。
淳二君の家に電話してバイクを持っていくとすぐに部品の交換をお願いした。
部品の交換自体はすぐに済んだ。
だけど淳二君は言った。
「この部品は通常時では使えない」
かなりの速度を出さないと真価を発揮しないらしい。
「使う時はかなり危険だと覚悟しとけ」
僕は頷くと家に帰る。
確かに普通に走った感じ別に違和感を感じない。
これは眠れる獅子。
恐らく使う事は無いだろう。
天草君が僕に託した意味を考えながらその日は過ごしていた。
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